戦闘シーン中編です。
既存の神機では感応種と戦闘を行うことはできないとされている。
適合率の高い第二世代のゴッドイーターが神機を使用したケースが、イタリア支部で報告されているが、それ以外ではほとんど対処ができず、遭遇した際はスタングレネードなどで視覚および聴覚の遮断後、離脱することが推奨されている。
……というのが現在採用されているマニュアル戦術だった。
「……で、ターゲットは私ってことですかー……!」
オリガは目の前に降り立ったアラガミを凝視する。
オペレーターはシユウ種と言っていた……たしかにそうだろう、と思う。基本的な骨格、構造はシユウによく似ている様に見えた。
妖鳥と美姫。
その二つを組み合わせたような女神。
どこか余裕を見せるように妖女は蠱惑的に微笑う。
……だから、こちらも笑い返す。
「気に入らない……余裕ですかそうですか。ちょっと色っぽいからって調子乗らないで下さいね……オジ様フェチにはロリ属性で攻めるという手段もあるんですから……!」
神機が重かった。
動かなくなる……とは聞いていたが本当らしい。
元々それ程扱いは上手い方じゃなかったが……今は本当に鉄の塊になってしまったかのようだった。
コレ詰んだなぁ、とオリガは一瞬だけため息をつく。
「来なよ……おばさん? …………後悔させてあげる」
恐怖の淵。今にも決壊しそうなハリボテの勇気。
上等だ、と思った。
どうなるにしろ、最後の最後まで足掻き切ってみせる。
……それが……。
▼▼▼
『オリガさん、感応種と交戦中……!? ってどう考えても無茶です即退避してください!! ブラッド各員に通達、至急オリガさんと合流を! 撤退支援を!!』
「……あー……やっぱ……こうなっちゃったんだ……」
「ど、どどどどどうしましょう副隊長……!?」
「うん……本当ね……どうしようね……うん……」
本日の討伐対象:コンゴウ
実際:上記にプラス、無限湧き小型種、ヤクシャ、ヤクシャラージャ……そしてシユウ感応種。
フランさんから送られてきた情報によると、現在交戦中のシユウの感応種は、既に確認がされており『イェン・ツィー』であるらしい。
ハッキリ言って、今やっと色々なことが頭の中でつながった。
狂いまくるレーダーは故障していたわけではなかった。
『年代物』であることが災いし……結果、見事にイェン・ツィーの感応派にアテられて狂っていた、ということが真実。そう考えるとコンゴウ種を測定しただけでも大したものだろう。
そう……歴戦のレーダーは最期まで己の使命を全うしたのだ……。
じゃない。
こうなった状況下で、とても心配な人が居るのでそっちに周波数を合わせてみる。
『ちょ……アーサーさん駄目だってばー! 無理しちゃ駄目だよ! アーサーさんだって酷い怪我なんですよーー!』
『オリガ!! 待ってろ今行く!!!!』
『駄目ですっ!! …‥ハッキリ言うけどアーサーさん行っても何の役にも立たないよ!? 第一世代機は全部対感応種戦じゃ停止するんだよ!? それにここからじゃオリガちゃんのところまで行けないよ……』
『……っ! ……オリガ! 頼むから返事しろ……!』
ナナちゃんが上手く止めているらしい。
が、恐らく時間の問題だと思った。今はまだ冷静に他の助言を聴くだけの余裕があるっぽいアーサーさんだが……切羽詰まると人間どうなるか全然、全く、皆目見当がつかない。
特に、アーサーさんは出撃前から再三言っていた。二度と失いたくない、失う訳にはいかない――と。
生半可な決意ではない以上、どうゆう行動にでるか分からない。
『お、おい……感応種とは、確か皆マトモに戦えないんだろ……!?』
『……』
ロミオ先輩の張り詰めた口調とド正論。
ロミオ先輩がブラッド歴だけなら隊長に次いで長い、だからこそきっと分かっている。
今、感応種と戦える神機を持つゴッドイーターが……つまり、私たち『ブラッド』の誰かが救援に行くべきだ、と言いたいことも良く分かる。
だが、今戦力はかなりの広範囲で分散中。
つまり、今誰かが動けば、誰か一人が孤立することになる――と。
『……アーサーさん五月蠅いですー……聞こえてますそんな連呼しなくていいです…………。はぁ……ったい……こちらオリガ生きてますです………………けっこーギリギリで……』
「……オリガ……ちゃん……」
かなり苦しそうなオリガちゃんの声を通信機が拾う。
……神機の動かない状況であの子はどうにか戦っている。
『おいオリガ! さっさと逃げろ! 戦わなくていい!! 逃げて生き残ることだけ考えろ!!』
『いやそれ……本気ッスかアーサーさんー……ぐっ……!』
『おい!?』
血を吐くようなアーサーさんの叫びが鼓膜を叩く。
聞いてるこっちが……辛くなるような声だった。
『そんな奴放っておいて逃げろよ!! 逃げてくれよ……! 早く……!!』
『……いや、無理ですって。だ、だって……。
……ここで私が逃げちゃったら……誰がコイツと戦えばいいんですか……?』
『……』
『コイツを野放しにすれば、これから色々喰い漁りますよ……そしたらまた……折角作った装甲壁……無駄になっちゃいます……』
『……!』
『だから……一分でも一秒でもコイツを引きつけておきますから! だから――』
ブツリ、とそこで断線した。
迷いが無かった、と言えば嘘になる。
……それどころか、直前まで私は迷いまくっていた。
オリガちゃんを現時点で距離的に救援に行けるのは……私か、シエルちゃんのどっちかだ。どっからアラガミが湧いてくるか全くわからない以上、誰かがこの戦闘ポイントに残留する必要がある。
神機の特性上、残るべきなのは遠距離狙撃やステルスモードを使用できるスナイパー型のシエルちゃんが残った方が良い。だから消去法で、私が彼女を助けに行くべきになる――。
……だけど、そこで一瞬迷いが生じた。
そこまでして、あの子を助けに行く必要があるのか……と。
確かに、オリガちゃんは良い子だと思う。優しいし、仲間思いで……オッサン好きな。ちょっと異性の趣味が変わっているだけの可愛い子だと思う。
でも……それは同じブラッドの仲間を危険に晒してまで助けるべき、なのかと。
個人的にはすぐにでも助けに行ってあげたかった。何もない状況なら、迷うことなく飛び出していったかもしれない。勇気だとかそんなものを考えている余裕さえなく……本当に脊髄反射レベルで。既に前科もある。
だけど、今は、副隊長として任命された事実が重くのしかかった。
副隊長という立場なら……考えるべきなのは、『他部隊』のオリガちゃんのことじゃない……。
……だけど……。
……そこまで考えて、私は気付いた。
そう、私はあくまで副隊長。
……『副』隊長。
……そう、私は副隊長だ。
「ブラッドー04からブラッドー01へ!! 許可を願います!」
『こちらブラッドー01』
コールサインブラッド‐01。接続先は、ジュリウス・ヴィスコンティ。
つまり、ブラッド隊長。
「これよりブラッドー04は、戦闘域で感応種と交戦中の現地の一般ゴッドイーターの撤退を支援してきます!
――許可を!」
『……ちょ……おい、待て唯!? そしたらシエルが……』
ロミオ先輩が慌てるように口を挟む。
そんなことは、百も承知だ。横でシエルちゃんが怯えたみたいに息を呑む。
「ですから隊長。戦力の再編成を進言します! 現時点で行動可能な特別編成δ班を分割、αと合流させて交戦範囲を拡大し、戦線の維持を」
言っていることはメチャクチャだと我ながら思う。
……驕ってるわけじゃない、むしろ逆だ。この状況下でシエルちゃんを守ることはできない。
だから、隊長とロミオ先輩に彼女を任せたい。
今のところコレが私のはじき出した一番それっぽい解答だった。
「自分はこの部隊の中で唯一『感応種』との交戦経験があります。またアラガミへの切り札、ブラッドアーツを習得しています……よって対感応種討伐部隊である特殊部隊『ブラッド』の有用性を一番証明できる確率が高いと思われます! だから……!」
……口から出た言葉は誰が喋っているのかと思う程、自信満々な論理を組み立てた。
全部出まかせのハッタリだ。
……確かに感応種との交戦経験はある。でも、『アレ』を交戦と捉えていいのか……自分でもあまり自信が無い。ブラッドアーツも習得はしているけど……未熟もいいところだし、毎回発動できる保証はない。
『血の力』はまだ不明。
本当にこんな状態で戦えるのか……自分でも分からない。自信なんてない……何より、私だって怖い。
「……信じて下さい……!」
それでも、ただひとつ。
諦めたくはない、意志だけはある。
――――死にたくはない、でも……死なせたくない。
『……ひとつだけ訂正する。感応種との交戦経験があるのはお前だけじゃない』
「……そ、ソウデシター」
今訂正するところですか、それ。
確かにあの時、隊長も居たような……でもってロミオ先輩も一撃与えてた様な。というかそう言えばブラッドの初期メンバーは全員マルドゥークと面識あるような……。
……緊張しきってたところにまさかの一撃。ぷつっと張り詰めていた何かが切れた。
通信機越しに隊長がいつもみたいに笑った……ような気がした。
『ブラッドー01了解。当該作戦域の離脱を許可する……派手にやって来い、唯』
「04了解。……期待に応えます」
「あ、あの副隊長……!」
シエルちゃんが不安げにこっちを見た。
……凄く怖いだろうな、と思う。ごめんなさい、と心の中で謝っとく。
「ブラッドー06はこのポイントを離脱。特別編成αと合流し、ブラッドー01の指揮下へ入って下さい。
……理論上、ステルスモードを多用すればアラガミに捕捉はされない……すごく怖いと思うけど、お願いします」
「……」
シエルちゃんは少しだけ迷ったようなそぶりを見せる。
よくよく考えてみたらシエルちゃん、ブラッドとしてはコレがまさかの初陣なんだ……。
……初陣で、ステルスモードでアラガミの中を単独突破せよとの上官命令……。
……私だったら間違えなく半べそになっているよな……と我ながら命令が鬼畜すぎることを再確認。
けど、シエルちゃんは強かった。
覚悟を決めたように頷く。
「……了解しました。……副隊長、ご武運を!」
……うん、カッコイイ……カッコイイよ、シエルちゃん……。
……是非見習いたい。
『オリガちゃん、聞こえますか!? 今行きます!』
すみません次回に続きます終わりませんでしたぁああああ!!(クリムゾンヘル土下座)