自分の心を覆っていた固い殻。
それを打ち破るのは……。
38話 護衛ミッション前編です。
今でも鮮やかな景色がある。
11月だった。
特筆して言うべきこともない、強いて挙げるとすれば……激しい吹雪が吹いていた時期。
後に与えられた情報によると、アラガミ出現以来、世界の気候は大幅に崩れ、本来ではたとえヨーロッパに当たる地域でも11月に吹雪というのは平和だった頃には有り得なかった現象――であるらしい。
ただ、当時の自分には恐らく知る余地も無かったのだろう。
生まれてこの方、異常気象に慣れた身には疑念すら抱くこともなかったのだろう。
ただ、幼かった身には分厚い雲により太陽光が遮られ――結果として黒に近い灰色に淀んだ空と叩き付ける白い雪。そして『連合軍』の紋章を背負った両親の姿だった。
親が『任務』に赴くのは義務、命令は何よりも果たすべき使命。
――――それがアランソン家の誇りと規律であった。
なのに、その日は。
両親が二度と帰ってこない気がして……ならなかった。
いつもだったら両親に習った敬礼の真似事をして送り出すのに、その日だけは……いやだ、と駄々をこねた。
いっちゃやだ、いかないで、いかないで……と。何度も何度も繰り返していた。
いかないで……と。
「シエル……。心配しないで……? ね? ……必ず……帰ってきますから」
母が屈み、小さかった私の身体をそっと抱きしめて……耳元で優しく、囁いたことを覚えている。
顔は見えなかった。
……今を思えば、あの時母は……どんな表情だったのだろう、と思える。
ただ一つだけ分かっているのは、もうその時私が『もし』孤児になった場合――私は児童養護施設マグノリア=コンパスに移籍することになっていた……ということだった。
一体母は、どんな顔で……私を抱きしめていたのだろう。
「帰ったらお誕生日を祝いましょうね。皆で、一緒に……だから、あなたは待っていて」
その時母は、消え入りそうな声でそれだけ残して去っていった。
あなたは待っていて、良い子で待っていて。
それが、両親から私への最後の『命令』。
2065年 11月 旧ロシア連邦東シベリアクラスノヤルスク地方 『ソーンツァ作戦』
連合軍による最後の反攻作戦。
その結果は多大な犠牲を払いつつも、成功を収めた――――と言われている。
▼▽▼
「で、では皆さん。何度めかにはなりますが……神機兵とアラガミが1対1で戦える状況にしたいので、周囲のアラガミの討伐をしてください」
「分かっているだろうなクジョウ君……今度という今度こそは失敗は許されんのだぞ」
「は、はい……ですが局長。何分初めての投入のものでどう動くかは全く分からな――」
「そんな御託は聞いておらん! とにかく成功させろ!! そうでなければフライアは……」
「だ、だから……善処は致しますが成功の確約はできかねますと……言ってるのにぃ……!」
「……ところで、クジョウ君」
「は、はい!」
「……何故此処……つまりフライア管制室に居る全員、俺以外の全員は……防護服を着こんでいるのかね?」
「……それは」
「何のことだか」
「サッパリ」
「分かりませんね」
「……何だか嫌な予感がしてきた……」
「気のせいッスよーグレム局長ー。んじゃあ、まず交戦中のαから計測始めまッスよー! 01状況報告ドウゾー」
▼▽▼
「こちらブラッドー04からCPへ。神機兵γ、ロールアウト完了。これより索敵に入ります」
『よし……いいぞ、いいぞ……!』
恐らくは独り言……九条博士の上ずった声を無線が拾う。
どうやらこの人は本当に神機兵の初陣を喜んでいるらしい、ということが伝わってくるような声色だった。
だが、そこはすかさず歴戦のオペレーターであるフランさんが見逃すハズもない。
『クジョウ博士、戦闘行動中です。混線の原因になりますので無線は必要な時以外は切っておいてください』
『あ……す、スミマセン……』
『ふふっ………初々しい……』
『え』
『無線通信……初めてなんですね』
『あ……あっ』
『……緊張してるんですか? クジョウ博士?』
『そ、その……』
「…………何この会話」
いっそのことこっちから通信を切ってやろうか……とも考えたが、情報的に盲目と化すか耳元で変なプレイを開始されるかだったら、まだ後者の方がマシだろうと考え直すことにした。
「すっごーい、ホントに無人で動いてるよー!」
「ジュリウスとシエルはコレに乗ったことがあるのかぁ! …………。
いいなぁー! 中どうなってんだろうなー!」
「ロミオ先輩何今の間~?」
「うっさいなぁもう……何でもねぇよ! ほらナナ、しっかりやるぞ!」
「はいはーい、わかってまーす」
突如として神機兵からの電子音、そののち、何かが切り替わるような――機械音とグッチャグチャとした肉と肉のこすれるような異音が響く。
そして、急に―――その空気抵抗を受けやすそーな体のどこに、推進力があるのか全く不明な神機兵は人間と大差ないスピード感で、走行を開始した。
つまり、コイツ、けっこう足早い。
「神機兵γ、シユウ発見! 交戦します!」
正面に立つのは人間とコウモリ、足して二で割ったような人型のアラガミ。
攻撃前の予備動作――もとい『挑発』をまさにやっている状態だ。
そして数分後。
そこには返り討ちにあって倒れ伏すゴリラ兵の姿が。
「「エェーーーー……」」
「02、03ガッカリしない! しても口にしない! クジョウ博士!」
『ど、どうゆうことだ……熱感知機能が正常に機能していないのか……? いや、直前のテストでは異常はなかったハズ……だとしたら……』
『熱感知センサー異常なし!』
『頭部人工制御指令核にも異常見られません!』
『あー……じゃ……やっべェ問題あるの接続だわ……。……ま、いっか……うん。CPよりγ護衛班! 唯ちゃん! 護衛頼むよー』
技術班からの報告が色々上がる。
恐らくは計測、制御を今この瞬間も行っているんだろう。クジョウ博士も大変だ。
……そして今、入った情報がひとつ。
「了解! ブラッド分隊、これより対アラガミ戦に入る! ナナちゃん、ロミオ先輩行きます!
「はーい! いっくよー!」
「ちょおい……ブラッドー03からCP、神機兵は大丈夫なんスか!?」
『神機兵自己修復機能は既に作動しています』
『回復時間さえあれば修復、再起動できます』
「はー……スゲー……」
「おりゃりゃりゃりゃぁー!」
ナナちゃんの神機から散弾が発射され、シユウを追う。
半分以上は外すが、一射が翼を掠り墜落。
2,3発が続けて入る。
「やったぁ! 特訓の成果かなー? シエルちゃーん、ありがとうーー!」
「ナナちゃんやったぁ!」
「オレもシエルに教わろっかなぁー」
ナナちゃんが近接形態に神機を戻して走り出す。
ロミオ先輩と私も近接形態を維持したままで走る、今のシユウは翼が結合崩壊し、さらに地面に叩き付けられた衝撃でのダメージが入っている。
動けない今、一気に叩くべきだ。
「よぉっし! ナナは右、オレ左腕な! 唯は顔面行ってくれー」
「分かりました!」
「任せて先輩!」
ナナちゃんがハンマーを点火させ、ついでにロミオ先輩がチャージクラッシュ。
左右からのタコ殴りにより両翼が折れたシユウの頭部を狙って跳躍。
空中で一回転し、神機の刃で斬りつける。
「うぅ……」
『シユウ沈黙しました』
……コレやったあとの頭に血が上った後グラぁっとくる頭痛はまだ慣れない……。
ひょっとしたら自分耐G能力が雑魚いのかも……と思う。
いや……この場合は三半規管が弱いのか? 前庭だか何だかが弱いのかもしれない。
一体他のロングブレード使いはどうやってこの逆流感に耐えているのか……今度隊長に聞いてみよう。
「こちらブラッドー05、悪い! コンゴウがそっち行った! 迎撃用意できてるか!?」
ここでコンゴウ誘導担当だったギルさんが戻ってくる……らしい。しかもコンゴウごと
戦況だけを見るならばこっちは今シユウを倒したばかりだから手は空いている。
……だが。
『神機兵再起動プログラムに入りました。第1フェイズクリア、完全起動まで残り30!』
「ギルさん来ちゃえ!!」
30秒位だったらどうにかなるでしょ多分おそらくきっと。
……という、根拠のない自信が湧いている。
ウェアラブル端末がアラガミとギルさんを拡大、そして投影。
通常種コンゴウを後退射撃しながら誘導中のギルさん……撃って、避けて、撃って走ってるみたいだ。
このままだと40から50秒ほどで合流するだろう。
『予測より早い……!? 神機兵再起動、同時にコンゴウを捕捉! 交戦を開始します!』
『副隊長、頭上に注意を!』
「はいぃ!?」
フランさんと技術班の計測員さんの叫ぶ声が混合する。
ナニヲ言っているんだろーなぁー……という薄ら寒い予感を感じつつ頭上を見上げると……。
……そこには元気よく頭上を跳躍していく神機兵君のお姿が。
「……げっほ……口の中じゃりじゃりする……」
『着地地点が頭上からズレただけでもマシです。真下に居れば肉片だったんですからね……生きてて良かったですね』
「……仰せの通りデス……」
何故かフランさんが不満そうだ。
着地地点位言ってくれてもいいじゃないの神機兵……。そんな神機兵ですが、コンゴウを見るや否や同族――いや、討伐対象と見抜いたらしく一直線に向かって走り出す。
相変わらず巨体に似合わぬ良く分からない速度で。
「ギルさん退避してくださいーー! 神機兵γ
状況はまさしくゴリラゴリラそしてゴリラ。
クジョウ博士の応援にも熱が入ってくる。
γ君は直進、だがコンゴウは何かデケェ息を吐いて反撃してくる。
人間だったらそこで装甲展開か回避行動に出るところだが……γ君は違った。
『コンゴウ沈黙しました』
『よし! よし! よし!! ぃやったぁ!』
『やった……! だが……今の動作はプログラムには……』
『至急、思考制御モジュールを確認します!』
CPでは冷静にオペレートを続けるフランさん。
歓喜を隠せないと言ったクジョウ博士をはじめとした研究員たち……。
「コンゴウを一撃かよ……!」
「すっごー……」
驚きを隠せない、と言った表情のロミオ先輩とナナちゃん。
……だけど、私には素直に喜ぶことができなかった。
今の神機兵の動作を見れば分かる。
……模倣した。
模倣、された……。
アレは今さっき正に、シユウの顔面斬りをやった時……私がやった動作だった。
多分神機兵は何らかのセンサー、もしくは受容器官で今の私の動きを見て……一瞬で、模倣してやってのけた。
……そう……私が……。
…………一週間ぐらいかけて……マスターした刀法を……一瞬で……模倣……。
……。
……神機兵の方が、私よりもカシコイんですかそうですかふーん……良かったね……。
こっちは未だに毎回アレやる度に軽い頭痛に襲われているのに、γ君は全然気にしてないっぽい。
オイルも生態部分を満たす疑似体液の逆流も気にしない。それが神機兵の様だ。
『続いて小型種討伐テストに入りたいと思います。えー……みなさん、この調子でどんどんテストを続けましょう!』
『神機兵α。対象を撃破……すまない、脚部に軽度損傷を受けた』
『えぇ!? ……そ、そんなぁ……』
『……ブラッドー01、軽度損傷について詳細の報告を。目視できる範囲で構いません』
『了解。……脚部関節部位の装甲が破損、その下の生体組織にまで裂傷が及んでいる。半分はダメージを負ったときに受けたものだが、装甲が喰い込んで裂けた部分もある。……コレはオイル……なのか? 恐らくオイルか疑似体液物質が漏れ出ている……こんな感じだが他に説明が必要ならば捕捉する』
『十分。損傷を確認しました。神機兵の自己修復は不可能と判断。αはフライアに帰還……で、どうッスかチーフ?』
『え……えぇ神威君そうしましょう……あぁ……やっぱり……やっぱり関節が……』
『関節かぁ……』
『関節ですね……』
『トゥルントゥルンにしすぎちゃったみたいだよねー! あっはははははー! ……いやー、面目ないっ!』
「お前の所為か……」
クソ兄貴 いつか殺そう 家族なら
身内の恥は この手で屠る
……と、うっすら心に誓った。
時だった。
「お、おい……なぁ唯」
「何ですか先輩」
「いや、まずさっきの神機兵の攻撃の巻き添えになったギルがコンゴウの下から這い出してきたぞー……ってこととな……」
「本当~~? じゃあすぐに
「ナナちゃん行かないで!」
「止めないで唯ちゃん!」
「おいナナやめろってば……あ、あとそれからさ……。
気のせいだといいんだけさ……。
……なぁ、あの雲……なんか…………
▼▼▼
「ブラッドはまだ現場か!?」
管制室へブラッド隊長――ジュリウス・ヴィスコンティが帰投したまま、と言った風情で駆け込んでくる。
「はい、神機兵βおよびγはまだテストを実行中ですが……」
『こちら06! 神機兵β背部大きく損傷! フライア判断願います!』
「背部だと!?」
戦況を画面で眺めていた九条博士が息を呑む。
同じく研究側であろう、モニターをしていた観測員たちが焦りを浮かべた口調で追随した。
「背部損傷具合は!?」
「まずいですよ……背中には……!」
マイクの近く――――モニターの近くに立っていた研究員、神威ヒロキが通信機のスイッチを入れる。
シエル・アランソンに通信が繋がった。
「CPからブラッドー06。アランソンさん、君の主観でいい……損傷度合の詳細を報告してくれ」
『はい……。神機兵の背中が……エンブレムより下から腰にかけての部分が……何と言っていいのか……まるで、結合崩壊したかの様になっています!』
恐らくかなり動揺しているのだろう、常に冷静であるシエルの声は、狼狽を隠しきれていないようだった。
「β応答ありません!」
「外部入力……駄目だ、人工コア応えません。起動不能」
「……お、おいどうゆうことだ!? 説明しろ!!」
技術的な話が理解できない……が、研究員たちのただならぬ様子を見たグレムが焦り出す。
ヒロキは表情に焦りを浮かべつつ、上官へと向かい直る。
「背中がアラガミの攻撃……多分反撃により結合崩壊を起こした様です」
「あぁ、だろうな。だがそれが何だ!?」
「……局長、アレだけ巨大なモノを動かしているんです。――――こう考えて下さい。神機の制御はアーティフィシャルCNS1個で事足ります。ですが神機兵はいわば『超巨大神機』……。よって、1台につき人工コアを3個使用しています……その埋入箇所は頭部、左腕……そして背部」
「……まさか」
「結合崩壊が再生しない、つまり自己修復が不可能な状態……恐らくは背部コア損傷の可能性があると予測できます」
「何だと……!? ……だが待て、たかがコア1つだろうが!? 動かそうと思えば動かせるんだろうな!?」
「……無理です」
「他のコアがまだ生きているんだろうが!?」
グレムの口調に必死さが滲み始める。
「3つのコアはお互いが連携しあって動いている。現段階では1つ制御不能になったところで他2つで代替できるほどの開発は進んでいない」
「……ということは、神機兵はまるで動かん、ということか!?」
「……残念ながら……!」
ガン、とグレムが机を蹴とばす音が響いた。
「アレほど巨大なモノがいつまでも動かないだと!? ……小一時間も経ってみろ、あっという間にアラガミ共の餌だろうが!?!?」
「神機兵β活動を停止!」
「駄目です、どうやっても動かせない!!」
技術員たちの悲鳴のような声が上がる。
「……聞こえた通りですシエルさん。アラガミを撃退し、神機兵の護衛に回って下さい」
「待てフラン!!」
ジュリウスの切羽詰まったような怒声が響き、フランは顔をしかめた。
……どうしたのだろう、一体。
女神だ何だ言っている時以外は……極めて冷静なこの青年が声を荒げている。
それが、既に何か尋常ならざる事態を予感させる。
「帰投途中で『赤い雲』を見かけた! ……アレはおそらく……」
「……まさか……」
フランが地上気象観測データの検索を始める。
そして見つける。
試験場に選んだ地形。
一帯を覆う分厚い雲。
よく目を凝らして気づく。
その積乱雲の層の奥に――赤い雲が隠れていた……ことに。
「ブラッド聞こえるか!?」
『何ですかフランさーん……どうせまたダメ出しか悪口でしょ……もう聞きたくないんですけど……って、アレ!? 隊長!? 何でそこから連絡……』
「ブラッド総員即時退避! 一刻を争うぞ!」
『や、やっぱあの赤い雲ヤバい奴ですよねー……そ、そうですよね……はぁ……デスヨネー……どうしていつもこんなことに……』
『ほらな! やっぱ幻覚じゃなかったじゃん!! だから言ったじゃんオレ!!』
『ねぇ隊長……やっぱりさー……アレ、赤乱雲、ってやつなの?』
『……痛ぇ……』
「見え……ているのか!?」
目視が可能な距離にブラッド隊員が存在する……。
その事実に、ジュリウスの焦りが増す。
「まだ間に合う! 赤い雨が来るぞ! 退避し――」
『――既に赤い雨が降り始めました。ここからの移動は困難です』
「なっ……」
シエル居る場所では、既に雨が降り始めている。
……その雨は、死をもたらす病の水源。
「何故言わなかった……!」
『申し訳ありません……空は赤かったのですが……』
「シエル……!!」
『テッキリ……コレが……噂に聞く……夕焼けなのかと……』
「それ違う!!」
シエル・アランソン16歳。
軍事訓練は積んだけど、生まれてこの方名家の令嬢。正真正銘の箱入り娘であった。
『ちょ、え……えぇ!? シエルちゃん!? マジデスカ!?』
『マジ……かよ……?』
『……』
『待ってろ! オペレーター、すぐに位置情報送信してくれ! 救援に行く!』
『おい、待てよギル! 勝手に――』
「フラン、輸送部隊の状況は!?」
「……輸送部隊……」
「……駄目です。周囲にアラガミの反応が多数あります、単体での救出は不可能です!」
「こちらジュリウス。ブラッド各員着用、及び携行しシエルの救出に向かってくれ!!」
眼前で取り交わされる戦闘員たちの通信の連打。
ソレに、一時的に計器をチェックすることに気を取られていた観測員たちが反応する。
「お待ちください大尉! 現状の防護服は戦闘を想定して制作されていない! 破損の恐れがあります!」
「……聞いた通りだ、だからなるべくアラガミとの交戦は避けるように心がけろ、シエルはその場で雨を凌ぎつつ待機、救援を待て!!」
「おい、勝手な命令を出すな!!」
横からの一喝。
グレム局長――フライアの最高責任者がジュリウスの言を遮る怒声を張り上げた。
「神機兵が最優先だろう! おい、アラガミに傷つけられないように守り続けろ!」
「馬鹿な、赤い雨の中では戦い様がない!」
「俺がここの最高責任者だ!! いいから守れ!! 神機兵を守れ!!」
「人命軽視も甚だしい! あの雨の恐ろしさはあなたもよく知っているハズだ!!」
「……!」
「じ、自分も局長と同意見です!!」
グレムとジュリウス――――フライア最高権力を握る男と世界最高峰の実力を持つ神機使い。
それぞれ異なってはいる者の、威圧感を纏う二名の言い争いに、口を挟む者が居た。
先ほどから、データ観測を行っている技術員だった。
視線だけで人を殺せそうな程睨み付けてくるジュリウス相手に、技術員は竦みそうになりながら反論をぶつける。
「大尉の提示した救援案では神機兵βを見捨てることになる!! 神機兵のデータは全部揃っていなければ意味がない!! このままではブラックボックスの回収もままならずアラガミの餌になる……!
分かっているんでしょう!? そうすればフライアは何の成果も出せなかったことになる!
そうなればブラッドも――」
「や、やめなさい……! 上官同士の会話に口を挟むなんて……!」
「ここにはブラッドに本当の家族が居る人がいるんだ!! 神機兵を見捨てるということは『そうゆう』ことだ!
シエルさんには申し訳ない……でも……! ブラッド全員を、フライアのことを……考えるのならば……神機兵を見捨ててはいけないということ位……」
「……」
「あ、あなただって理解しているハズでしょう!! どうか……どうか……! より多くを救う選択をして下さい!!」
「……言いたいことはそれだけか?」
「っ……」
「それでも俺は――――」
『隊長……隊長の命令には従えません』
「……シエル……?」
『救援は……不要です……。
不十分な装備での救援活動は高確率で『赤い雨』の二次被害を招きます。よって、局長の命令を優先し……各部隊は現場で待機すべきだと考えます』
淡々と紡がれ続ける声。
その背景には既に、雨が地面を叩く音、水が空から降り注ぐ音が奏でられている。
「シエル……!」
『副隊長、聞こえていますか……? 貴女が任務の前に言ってくれたこと……覚えていますか?
一刻も早く神機兵を完成たい――と。その為には……多少の犠牲でさえも無視して進むのだと……。
ここでβのブラックボックスが回収できなければ……開発に遅れが出る、と、判断します……』
「……」
シエルの言葉は正論だった。
だが、ソレは正し過ぎる――何を犠牲にしてでも、前に進め、と言う。
……たとえ、それが自分の命だったとしても。
そんな固い『意志』すら感じさせるような言葉だった。
『だから私は……私は……絶対に、ここで神機兵を守り抜きます! ソレが果たすべき命令です!
だから……! ……だからっ!!』
そこで、シエルの感情の堰が切れたのだろう。
鏡面の様に静まり返っていた水面に、波紋が広がるように。
シエルの口調が……だんだんと、少女のそれへと変わっていく。
『……あぁ……そうだったんだ……』
軍律と規律、知識と知性。命令には絶対従順という固い決意。
ソレで鎧われた何かが、静かに瓦解していくようだった。
後に残ったのは。
まるで、幼い子供の声。
『だから私は……命令を守ろうとしていた……だから…………私は……』
「シエル、もういい……! それ以上話すな……」
『……私の意志は何処にあるのだろうって……。
でも……違いました……ずっと、ここに……あった。
望まれていたんじゃない……私が……私自身が、望んでいたことだった……!
規律正しくあることも、命令には従順であることも……全部自分の意志の形だった!
ようやく分かりました。
もしかしたら……そう在るべきだと、誘導された結果なのかもしれない。
もしかしたら、残された遺志を自分の意志と勘違いした結果なのかもしれない。
でも……それでも』
固い殻を割ったのは。
他の誰でもない――きっとソレは彼女の自身。
『ソレがどんな形をしていても……きっと『彼ら』へ、繋がってる!』
更新された任務を果たします。
その短い言葉と共に――――通信を切断する音がプツリと残った。
▼▽▼
……ド偉いことになってんじゃないですかぁ……。
「ゆぅーーいぃぃーーちゃぁああああん!!??」
「わ、私のせいですかぁ!? 私が悪いんですかぁ!? ご、ごめんなさぁぁああい!」
「シエルちゃんに! 出撃前に!! 何、言ったのーーーー!?!?」
「いやちょっと別にそんな変な事は言ってな」
「凄い思いつめてるよ!? 追い詰めるようなこと言ったんでしょー!? シエルちゃん最後悟ってたよ!? アレはいけない!! もの凄くいけないよ!!」
「おっしゃる通りだよぉ……! シエルちゃんもう何でそうなっちゃうのー……! もー! もーー!」
「やめろってナナ! コイツを責めるよっか先にやることがあるだろ!」
「ろ、ロミオ先輩ぃ……!」
「コイツを吊し上げるのはこの状況を何とかした後だ!!」
「結局吊るんですかぁ!? このヒトデナシー!」
「うるせぇ馬鹿ぁ! 関係修復の機会まで作ってやったのに裏目に出るなんて……そんな展開想像できるかー!」
「ぐうの音も出ない!!」
「あ、何か降ってきた」
「キタァアア! 遂に! 赤い! 雨が!! 降ってきたんですね!? うわぁぁぁぁ」
「だ、大丈夫だよ……よく見ろまだ水透明! これ普通の雨!」
「赤くなるのも時間の問題かな」
「ひぃい!」
「小言合戦は終わったか、終わったな。オペレーターから情報が来た。シエルを助けに行くぞ!」
「ギルさん!?」
マジ唐突すぎるわこの男……。
「ちょっと待って下さい死に急いでるんですか貴方はー!」
「行くなら今だ、隊長も言ってただろ、急行しろって」
「そう……ですけどちょっと待……」
「待てよギル!」
ロミオ先輩が珍しく、声を荒げて掴みかかりに行く。
「聞いてなかったのかよ!? この防護服は戦闘想定されてない……そしたら確実に赤い雨を浴びるってことだろ……!」
「だったら何だ、見捨てろって言うのか?」
「……そうは言ってない……」
「アイツの居る場所はもう赤い雨が降ってるんだ! 早くしねぇと手遅れになる!」
「ちょっと二人とも……」
物凄い剣幕で開始される男性陣の口撃合戦に……何とか間に入って止めようとしてみる。
「じゃあお前……アイツを助けに行くまでにアラガミと戦闘ないって言い切れんのかよ!? 」
「……確証はない。だが戦闘を避けることはできるハズだ」
「そんな訳の分かんない予測に仲間の命まで賭けられるのかよ……! オレはそんな分の悪い賭けに乗るつもりはない!」
「なら……ここで仲間を見捨てるって言うのか!?」
「馬鹿言うな! オレだって……オレだってシエルを助けたいよ!! ……だけど……!」
「お前に目の前で仲間を失うことの意味が分かるのか!?」
「……っ!」
「……だったら、お前には分かるのかよ……!」
「……」
「目の前で仲間を失うってことが……分かるって言うんだったら……ちょっと考えれば分かるだろーが……。
今『ブラッド』で最悪のことは、全員全滅しちまうことで! ジュリウスだけ残してブラッドが全滅するってことで……! ゴリラでもちょっと考えりゃわかんだろ!? 過去に何があったか知らないけど、お前もブラッドのゴッドイーターだったら……過去ばっかに見てないで未来のことも考えろ大馬鹿野郎!!」
「俺は……!」
「黙って二人共」
白熱しかけた二人の口論を収めたのは……底冷えのするくらい、静かなナナちゃんの声だった。
「分かり切ったことばかり並べないで、そんなこと言われなくても分かってるから。……あと個人的な感情ばっかり吐き出すのもやめて。今そんなことやってる場合じゃないよね? 分かってるでしょ?
……音声記録は全部ログに残っちゃうんだよ?」
「……」
「……」
「もっと責任のある言動を心がけて……今、決定権を持っているのは、誰? ギル? ロミオ先輩? 私?
違うでしょ。現場の指揮権を持っているのは誰? ……更に今は司令部からの命令に『混乱』が発生している状況で……決定権を持っているのは、誰?」
湿る空気。
灰色の混じった赤い空。冷たい雨が降りしきる中で……3つの視線がゆっくりと私の方を向く。
沈黙を保ったままで。
「貴女だよ、副隊長」
「私……?」
「そう、今は隊長にも頼れない。……簡単じゃないけど、シンプルで分かり易いな選択。
……貴女が決めて、『命令』を出して……副隊長」
「……」
「どっちを選んでも――私たちは命令に従うから。そうだよね? ロミオ先輩、ギル?」
「……」
「……あぁ、そうだ」
まだ納得はしていない、でも反論もしない――という感じのロミオ先輩と、やり切れないものを抑え込んで頷くギルさん。ナナちゃんだけが、真っ直ぐな目で私に決断を求めてきている。
……多分コレが、私が副隊長としての初めての決断。
誰にも頼ることのない――隊長に頼ることのできない状況での……初めての裁量。
助けたいに、決まっている。
……でも現実問題として、ロミオ先輩が言うことが正しい――技術員の人も言っていた通り、防護服は戦闘を想定していない。ゴッドイーターの戦闘は苛烈を極める、服の破損を恐れて戦って倒せる程アラガミは甘い相手じゃない。
じゃあどうすればいい?
……赤い雨を浴びることが無く、アラガミとの戦闘を可能にして……シエルちゃんを救えるような方法が……何か……。
ふと上げた視線の先には、巨大な兵器――護衛対象だった神機兵が起立している。
最新鋭の兵器、人類の希望、人の命に頼らないアラガミへの対抗処置――――が、今は立ちはだかって、シエルちゃんを危機に追い詰めている――。
そんな複雑な感情が突沸した。
そして、気づく。
「……雨……弾いてる……?」
次こそシエル編ちゃんと終わらせます(土下座)
あと今回やっつけ仕事なので後日、加筆修正が確実に入ります。
↓↓↓以下宣伝↓↓↓
ついに、本日。
GEA『メテオライト編』最終回!
TOKYOMX:18時30分
BS11:19時00分から!!
何だかんだで半年間騒がせてくれたアニメGEに感謝!!
メテオライト編最高だった!!
どうか皆さんメテオライトの最後をしっかり目に焼き付けて下さい!
レンカ君の最期……最後の雄姿をしっかり見てください!
ダム住人の生死は如何に!?
特にアンプル子ちゃんの生死は如何に!?
レンカの運命は如何に!?
というか本当に終わるのか!?!?
GE2は放送できるのか!?!?
メテオライトに光あれぇーーー!(爆死)