ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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シエル編完結です。

もとい、神機兵護衛任務編の完結です。






phase39 ドール・レスキュー

「副隊長!! 無茶だ危険すぎ――」

「気にすんな唯! ギルに余計な発言はさせねぇ!!」

「無茶って何かなー。あーあーあーわたし分かんないなー」

 

 

 神機兵の背部――搭乗口を神機を入れて切断。装甲を引きはがす。

 内部にあったコンソールが露出。それを操作し、搭乗口の開放を指示。

 ……え、パスワード入力!?

 …………ダメ元で女神の名前を入力……。

 

 

 

 

 ………………うわぁ、まさかの大ヒット……。

 

 これ設計した人絶対隊長の同志だ……。せめて有人型の設計者の方にしてあげなよ……と内心誰にも聞こえないツッコミを入れながらハッチが開くのを見守る。

 気圧が平衡化する時の音と共に軽く風を浴び、露わになった中を確認した。

 

「……行ける……」

 

 

 ……と思う……多分。

 

 破損部位はない、システムダウンをしている可能性も薄い。

 あとは、コレを再稼働に持っていくだけだ。

 それには操縦権をこちらのものにできるか、が問題。

 搭乗口に乗り込み、操縦席に座る。

 センサーでも搭載されているのか……私の体重を感知した神機兵の背部が、音を立てて閉まった。

 機械と生体組織、油と鉄の臭さが入り混じった妙な臭気が鼻につく。

 

 ……操縦の仕方、操作の仕方はぶっちゃけあまり自信が無い。

 だが、事前に渡された神機兵の資料はしっかり読み込んで来た……名残惜しそうにレア博士が追記していた有人用の項目も。

 一抹どころではない、心の大半を占める不安を残しながら……スピーカーに向かって声を張り上げる。

 

 

 

 

 ……虚勢がバレてなければ、いいんだけど。

 

 

 

 

 

「ブラッド-04から02,03,05へ! 各員、赤い雨を凌げる場所で待機! 雨が止み次第フライアへと帰還せよ!

 

 

 ブラッド-04、これより()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「02了解!」

「03了解、救援直ちに赤い雨を凌げる場所を探しまーす!」

「おい待て副――」

「ロミオ先輩ギルの口に何か突っ込んで!」

「任せろ!」

 

 

 

『04待て! 単騎での行動は危険過ぎる!』

「だからこそです、隊長。最悪の事態――ブラッド隊の全滅という状況を避けるため02,03,05はここに置いておきます! これならば、もし私とシエルちゃんが未帰還になったとしても……『ブラッド』は残ります!」

『……許可できない!』

 

 音声ログには問題になるような発言は残していない。それに、ビーコン反応を辿っただけでは私が神機兵の近くに残留しているようにしか見えないハズ。 

 隊長が事態を把握できないということは、他のみんなも同じなハズ。

 

 フランさんや技術員、そして上官全員を欺いていることに、ちくりと一瞬だけ心が痛む。

 

 ……けど、いいよね?

 うん、いいよね。悪いことに使う訳じゃないんだし。

 

 

 

 

「それに私は……赤い雨を食らうつもりも、アラガミに負けて死ぬつもりも毛頭ありません!」

 

 

 

 

 

『……副隊長……?』

『……おいまさか貴様また……』

『また髪の話してる……』

 

 

 

 通信をブチっと切る。

 うん、コレで大丈夫。ログには残らない、平気なハズ……。

 

 

 ……果たしてコレだけ訳の分からない機械を並べられて私が操縦できるのか、もう全然不安しかない状況だけどきっと何とかなるよね、という無理やり作ったポジティブシンキングで神機兵を起動。

 

 神機兵のシステムが次々に起動し――順調に各部が起き上がってくるような予感がする。

 ……操縦権をこちらのものに、という判断は一応間違っていなかった……だが油断も安心もまだ遠い。

 次々に立ち上がる計器は、神機兵がいつでも動けることを示していた。

 ……だが。

 

 肝心な操縦桿が、まるで凍り付いたかのように動かせない。

 

 

「ですよねー……はぁ……そうだよね……うん……そんな順調に上手く行くわけないって……」

 

 

 冷汗が吹き出す。

 パニック寸前になりそうな頭、振り切れそうな精神の針。大きく息を吐いて色んなものを宥める。

 

 時間はない。

 手段もない。

 

 ……でも、助けたい。

 

 絶対に……絶対に、見捨てたくはない。

 

 だがそんな思いとは裏腹に……神機兵の起動は止まったままだった。

 

 

 落ち着け、落ち着け私……。

 システムダウンはない、故障もない、起動はできてる……。

 あと一歩。あと一歩だから……。

 

 何とか脳裏に叩き込んだ神機兵の資料を思い出そうとする。

 

 

 

「副隊長、神機兵β作戦域に中型種侵入!……この経路、多分、さっきシエルちゃんが討ち漏らしたシユウが戻ってきちゃってる!」

「……分かった!」

 

 

 ナナちゃんの言葉は、一刻の猶予もないことを告げていた。

 ……頼むから動いて神機兵。状況的にはコレで起動できるハズなんだから……。

 

 

 と言っても微動だにしねぇ操縦桿。

 ……まさか……接触が……。

 

 

「お願い動いて……動いてよ……! じゃないと……!」

 

 

 恐らくシエルちゃんは命令を遂行しようとするだろう。

 何と変えても果たそうとするだろう。

 ……私が、そう言っちゃったんだから。

 

 ロミオ先輩に強いと評された様に。

 

 

 

 

 ……多少の犠牲にさえ目を瞑ってでも、未来の誰かを救う決断をしろ、と。

 

 

 

 

 ……その意味、全然分かっていなかった。

 

 多少の犠牲の意味を……全然。

 なのに、シエルちゃんは、その言葉を信じて。

 

 

 

 

 

 ……私を……信じて。

 

 

 

 

 

 

 

「動いて……動いて神機兵……!」

 

 

 

 

 

 今この瞬間も、神機兵を守り続けている――。

 

 

 

 

 

 

「神機……兵……」

 

 

 

 頭の中で一つの可能性が浮上する。

 そもそも……神機兵って何だっけ、と。

 

 ギルさんも、兄も……言っていた。

 ()()()()()()()()()()()()()C()N()S()()使()()()()()()()――と。

 

 ……つまり、ソレは……。

 

 

 ソレは……。

 

 

 

 

「……絶対に……動いてよ……!」

 

 

 

 動かないなら……力ずくでも動かすしかない。

 一瞬だけ迷いが生じたが……思考を続けることを放棄した。

 考えたって判断材料が足りなすぎた。納得がいくまで悠長に思考している時間が勿体ない。ならここはイチかバチかの賭けに出よう――と思った。

 今まで色々な不運をブッ被ってきたんだから……こうゆう時だけでも幸運の女神様は微笑んでくれても良いハズだ。

 

 反省の止まらない中で、感情だけが収束しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やっぱり私は強くはなれない。

 

 

 自分で言った『強さ』の意味が。

 

 何と引き換えてでも、何かを犠牲にしてでも……ここで、目の前の救える仲間を犠牲にしてでも。

 

 

 

 未来の誰かを救う事…………なのだとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――それが、強さだと言うのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……だったら。

 

 

 

 

 

 

 

 だったら、私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動きなさい……!」

 

 

 

 理屈の上では――神機兵はデカくて自分で動く……神機。

 だからコレなら通るハズ――だと思う。

 確証も根拠も殆どない……ただ、本能だけで判断した。

 

 

 正面に配置された操縦桿を力任せに引き抜く。

 

 配線にされていたのは、電線に使用される金属コイルではなく……オラクル由来の生態部品。

 

 

 

 

 

 

「根性見せなさい! このっ……短足鉄屑スクラップゴリラぁ!!」

 

 

 

 

 

 ぼっかりと開いた空洞に、腕輪を入れる。

 

 ……何かが伸びて、腕輪に接続がされるような――よく知った感覚が腕の表面を伝う。

 不幸中の幸いというか……覚悟していた痛みはなかった。

 

 その代わりに、手の表面がまるで延長したかのような錯覚。

 

 ものすごい一体感を感じる……。

 

 

 そして何かが動く音。足元を揺らすかなりの振動。ゆっくり上がっていくような感覚。

 

 ……やった。

 ……来た、動いた……動かせたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………そう安堵した私の目に、

 

 神機兵のコクピットについた画面が点灯して起動と『あること』告知する。

 

 

 

 

 

 

 

 

『制御機構変更:成功:無人モード→有人モード

 カドゥケウスシステム:自動起動:成功

 

 

 

 

 

 リモートコントロールを開始します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「一体何が起こっている!?」

「さ、さっぱりです! 分かりません……!」

「使えんクジョウだな貴様ぁ!」

「ひぃい!」

 

 司令室は半ば混乱状態に陥っていた。

 ただ、ジュリウスをはじめとした……各員、程度の差はあれども、何かうすら寒い嫌な予感だけは確かに感じ取っている。

 そして、大抵の場合、それは予感ではなく……予知、もしくは予報と化す。

 

 

「フラン、ブラッドに通信を繋げられるか? ……副隊長がまた単独行動に走った……恐らくロクなことが起っていない!」

「駄目です……全員着信拒否。ついでに05、通信機断絶、恐らくは破壊されています」

「マクレイン隊員に何が起こっているのだね!?」

「黙って下さい局長。そんなことより問題は唯とシエルの方だ!」

 

 ブラッド隊長である青年はビックリするほど即答だった。

 

「マクレイン隊員に何が起こったんだね!?!? 無視していいのかジュリウス君!? それでいいのか君は隊長だろうジュリウス君!?」

 

 極めて常識的な局長の言葉をガン無視スルーすることに決め込んだジュリウスは画面に目を凝らす。

 そして、気づく。

 

「フラン……神機兵γに……異変があるぞ……何故勝手に起動している……?」

「この軌道ですと神機兵γ、神機兵βに向かっていますね。接触は300秒後です」

 

 軌道の予測、計算を叩きだすフランが予想進路を見せた。

 だが、この状況でもまだ事態が飲み込めない。

 ……当然、真っ先に『ソレ』に気付いたのは……開発チーフである、クジョウ博士だった。

 

 

 

 頭の薄い中年男は両手で少ない髪を抱えてシャウト。

 

「えぇ……エェーー!? 何かもうエェー!? 何故ですか!? な、何故!? 何故勝手にぃ!? うわぁぁああああああ!」

「クジョウ君! クジョウくーーーーん!? 落ち着き給え!! 頭を毟るんじゃない!!」

「ま、まさかまさかそんなそんな……あ、あっ……あぁあああああっ! あぁあああああああああ!!」

「クジョウ博士?」

「……ついに狂いましたね。イワン先生。一名様、ご案内です」

『ヨロコンデー』

「あああああああ――――ッ!!! やめてくれッ! そんな! 乱暴にしたらあああッ!!」

「クジョウ君! クジョウくーん!!」

 

 荒れ狂うクジョウ博士、止めるグレム局長。

 中年男二人の絡みという誰も望まなかった光景を目にしたジュリウスは凍り付いた。

 だがフランは極めて冷静だった。流石優良オペレーターのだけはある。

 

「……」

「●REC」

「らめぇ! らめぇええええ!! らめなのぉおおお! そんな乱暴にしたら……乱暴にしたらぁ! こわれちゃうのぉおおおおお! 大事な神機兵壊れちゃうのぉおおおおお!!」

 

 

「……クジョウ博士……貴方のそうゆう所は嫌いじゃないが……今は空気を読んで頂きたい!!」

「毟るなヴィスコンティ大尉!」

「……あぁ無様……」

「なんでぇ……ど、どうしてこんなことが……!? は、はははっ……有り得ない、有り得ない……こんなことは有り得ない……! 無人制御を有人制御に書き換える? 戦闘員の神機使いが……? 有り得ない……。

 こんなこと……こんなこと……! 技官じゃないとこんな芸当は出来ない……。

 そ、そう……技術官じゃなけば……技術……官……じゃ…………なけ……れ……ば……」

 

 

「……技術官」

「……じゃ」

「なければ……か」

 

 

 言葉にしている内に気づいてしまったのだろう。

 部外者である三人、直属の上司であるクジョウ博士。合計8つの瞳が……先ほどから驚くほど沈黙を保っていた彼らへと注がれる。

 

 

 ……観測班として今回の作戦のモニターをしていた、技術員たちに。

 

 

「こんなことも、あろうかと」

 

「か、神威君……? 嘘ですよね……じょ、冗談なのですよね……?」

 

 

 クジョウ博士の震えるような声を。

 

 

 

 神機兵兵装開発チーム所属の青年技官、神威ヒロキは真正面から受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神機兵γには……! 我が家の至宝……神が遣わしたマイエンジェルたる唯ちゃんの身体情報全部をインストール済みになってんだよぉぉおあぁああああああああ!!」

 

 

「うわぁああああああああ!! あ゙ぁ゙あああああああああああああッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジか」

「……マジですか」

「……」

 

 叫ぶクジョウ、無言のグレム。辛うじて事実を受け入れることに成功したジュリウス。

 そしてドン引きするフラン。

 

 

 

 

 

「フライアって凄いねー! 何だってデータ採取もバイタルチェックも事細かくやってるじゃーん! そう、神機兵には! ……この世界に現存する愛する妹の全てのデータをつぎ込んでいる……! あの子の年齢、身長、体重、肺活量、血液型、血圧、血糖値、白血球数、赤血球数、血色素量、平均赤血球容積etc,etc。爪の形からDNAの塩基配列まで……ッ! テスト中の神機兵は全機唯ちゃん専用機になったと言っても過言じゃない!」

 

 

 

「かかかかかかか神威くぅん……! 君というニンゲンは……! 君というニンゲンは!」

「……おい、まさかソレが原因で止まったんじゃないだろうな?」「ナンノコトダカサッパリ分カリマセン」

 

 

 瞬時に返されたそれは、完全無欠たる棒読みであった。

 

「3日続けて完徹した甲斐があったァっ!! いやー、念には念を入れとくモノだよねー」

「髪の毛抜きますよ神威君!?」

「貴様等は兄妹揃いも揃いおってこの……!」

「時は来た! 全リモートコントロールシステム作動! これより神機兵有人型の遠隔操作性能実験を行う!」

「「了解!!」」

 

 ここぞとばかりに、端末をカタカタ言わせる技術員たち。

 先ほどの3倍のスピードでキーを打ち込んでいる。そう、彼らはやればできる研究員。略してYDK。

 

 

 

「生態認証作動、通りました!」

「コネクト完了。制御機構変わります」

「コンフリクト解除、同時に遠隔操作支援プログラム『カドゥケウス』の正常起動を確認しました!」

「カドゥケウスとの連結問題ナシ、リモートモード、システム作動!」

 

 

「「いつでも行けます、お兄様!!」」

 

 

 

「おっしゃ行くぜぇええええ!!」

 

 

 

 

「何してんだこのシスコンがぁあああああ!! 私の無人機を返せぇえーー!!」

「……うっわ……。

 

 

 …………うわぁ」

 

「おい、ブラッドー06につなげ! 神機兵βに乗り込め! そうすればブラッドも神機兵も犠牲に出なくて済む!」

「残念ですが最愛の唯ちゃんの分しか間に合いませんデシタ、アシカラズ(棒)」

「こらぁあああああ!!」

 

 

「しかし、神威技官……コレは作動するのは良いのですが……中のパイロット……つまり妹さんには、通じないのでは? 何が起こっているのか分からないのでは?」

「通信自分から切っちゃいましたもんね妹さん……内部スピーカーを今入れましたが……コレでデータを取れるかどうか」

「ノープロブレム。問題なーし! 俺は唯ちゃんを信じてる!」

「……お気持ちは分かりますがヒロキさぁん……」

「俺は!! 唯ちゃんを!! 信じてる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『な、ななななななナニコレナニコレナニコレぇえええーーーー!? え、えぇえええ!? どうして勝手に動くのーー!? 怖ぁ! 怖ぁああああ!? い、今ぁ! ガタって言った……ガタって言ったぁ! 立った! 絶対立ったぁ! 立っちゃったの? ……何でぇええええ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 

「……流石、技術中尉の妹さんです!」

「頼んでもないのに実況するとは……中々の逸材ですね!! 何の才能かは分かりませんが!」

「超可愛いぜマイシスター!!」

「ブラッドー04、呼吸、心拍共に乱れてます……。……乱れてます」

「……副隊長……完全にパニくったか……」

「もうどうにでもなぁ~れ……」

 

 

 

『ま、待って下さいぃ! ご、ゴリラって言ったの怒ってる……? お、怒ってますかぁ!? そうですよね!?

うわぁぁぁごめんなさいごめんなさいぃー! 謝りますからぁ! ……ひどくしないでぇぇ……!』

 

 

 

 

 

「副隊長が錯乱してるように見えコンティ」

「遂に狂ったようですコーニュ」

「機械に話かけるとは末期だなこいつレムスロワ」

 

 

 

 

「おぉーっと、ここでアラガミ発見です! レッツ駆逐! ビバ抹殺! ハイ行っちゃおー!」

「「了解!!」」

「神機兵制御コア、コマンド入力完了!」

「戦闘モーション入ります。5,4,3……2,1……!」

「「「ぶっ殺せぇええええ!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

『ひぃいい!? う、動いたぁ!? ど、どどどどどうして武器じゃない方の手で握りつぶしてんですかぁ!?

握力!? 握力!? 何ねじ切ったの……!? っていうか……手の感触がリアルに伝わってきたぁぁぁ……やだ気持ち悪い……! な、何かベタベタするんですけどぉおおお! 何でこんなぁ!?

 もうやだぁ! ……やだこんなの……! ……助けてください……隊長……』

 

 

 

 

 

「呼んでますよ、ジュリウスさん」

「この状況で俺にどうしろと言うんだ副隊長……俺は何も出来ないだろ副隊長……」

「……正論ですね……」

 

 

 

 

「神威ぃいいいい! 貴様何ということをしてからに……! ああああ! もういい! 貴様の処分は後で言い渡す!!」

「どうぞ局長、何なりと! 妹の為なら、この命! 惜しくも痒くもありませんー!」

「今は全力で何とかしろ!! というか、してやれ!! 貴様の妹と現場のブラッドをな!!」

「了解局長、お任せください!」

「自信満々ですねお兄様!」

「流石ですお兄様!」

 

 

 モニターを見ると神機兵は、もう一体の神機兵に……仲間の元へと辿り着いていた。

 

「…………本部に何を言われるか……」

 

 頭を抱えるグレムに、青年の声は応える。

 

「んー……まぁー……そこは逆に考えればいいんじゃないッスかー? 局長。

 ……状況、記録映像、そして音声ログだけを見れば証拠としては十分であるハズです。ブラッド副隊長の神威唯は確かにこう言った『これよりシエル・アランソンの救援に向かう』――と」

「……」

「ソレですよ局長、神機兵βの回収でも、破損神機兵の護衛でもない。シエル・アランソンの救援に行くと言った。つまりそれは……神機使いが神機使いとして、命令でもない、任務でもない……自らの意志で『仲間』を救おうと……助けようとした、判断」

「…………」

 

 神機兵γは、屈みこみまるで、何かを雨から守るように空間を作る。

 何よりも守りたい……そう願うものを庇うかのように。

 

 

 

 

 

 

 

「今、戦っている()()()『神機使い』が仲間を救うために、とリスクを覚悟して神機兵に乗り込み『神機使い』を救いに行った。

 

 

 ――――果たしてこの事実を見ても……()()()退()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うぇえ……何か気持ち悪い……――――えー……ブラッドー04から本部……うぷっ……か、神機兵のすぴーかーって何処……あ、コレか……んぅっ…………うわぁ喉まで来たぁ……。

 ……シエルちゃん? 聞こえる? ……な、何とかなったねーあはは……うっ……。

 

 ……んく……。

 

 

 

 

 

 ……シエルちゃん……………………帰ろう……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▽▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「01からブラッド各員! 現時刻を以て神機兵運用テストの終了を通達する!」

 

 

『おい、隊長! 待てあいつらはどうなったんだ!? ソレを知らせ――』

『……もぅ……うるさいギルだな~~……。あーあーあー私何か急に素振りがしたくなっちゃったなー……

 そぉーれぇー! よっこいしょーー! えーいっ!!』

『ナナ、ナナ……ソレ流石にヤバいってナ……ナナぁああああ!? あ、あ―――ッ! 頭はヤバい! 頭はヤバいってナナやめてギル避けろぉおおおおお!』

 

 

「赤い雨は避けているか?」

 

 

『はーい、大丈夫でーす! あのねー隊長ー副隊長がねー……神機兵に乗っていっちゃったー』

「問題ない。その件は既に解決した……二人共無事だ」

『やったーっ! 先輩! ……唯ちゃん、ちゃんとシエルちゃん助けられたんだって……! 

 ……良かったぁ……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ギル……おい、息しろよ……ギル……! 何か耳からヤベェ汁出てるけど大丈夫だよな? なぁギル……何か言ってくれよ……? 頼むからさぁ……!』

『…………ケ』

『け?』

『…………ケ……イト……さ……ん……』

『誰!?』

『さぁ? 大方昔の女の名前じゃない? 死んでもどうでもいいことだから気にしないけど。それより~~戦場で恋人とかーお母さんとかー呼ぶのはもう駄目ってコトだよねっ!』

『ギル死ぬなぁあああ!!』

 

 

 

 

 

 

 

「ブラッド隊、全員無事を確認した!」

「良かった……本当に……良かった……。……皆さん……無事で何よりです」

「おいちょっと待てぇ!? 05に何をした03!? マクレイン隊員生きているのか!? コレ以上犠牲者増やしてどうするジュリウス君!!」

「戦闘不能ではありますが、死亡ではないかと…………多分」

「P-66適合者リスト、ピックアップしておきます」

「助かる、フラン」

「いえ、お気になさらず」

 

 

 

「やってる場合かね!?」

「ははっ……ハゲそうな奴、見ぃつけたぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、神機兵テストと聞いたのですが……。……色々問題があったようですね……。ジュリウス?」

 

 

 

 

 

 

 

「先生!! 先生!! 先生!!!!」

 

「よーしよしよしジュリウス……よーしよしよしよしよしよし……。……それで、ジュリウス……貴方の、家族……そして、私の大切な子供たちは、皆……無事ですか?」

「はい先生! 当然ですラケル先生!」

 

「あぁ……またヤヤコシイのが……! 状況を混乱させかねない奴が……!」

「ら、ららららららラケル博士ぇ!? こ、こんなところに居らっしゃるなんてーーっ! やった今日は厄日だと思っていたけどラケル博士に免じて帳消しですーー! 髪生える!! 髪生える!!」

「それが生えないんだよねーチーフ……はいはい皆ー。女神が降臨してきたよーヨカッタネー」

「フライアの女神様ぁ!」

「アワーゴッデスラケル先生!! これで勝つる!」

 

 

 

 

 

「どうなっとるんだフライアは……」

「恐れながら局長、コレが、貴方の部下達です」

「」

 

 

 

 

 

 

「あら……? 何ということでしょう……シエルとあの子に……小型種と中型種の群れが向かっているではありませんか……。……そして、今出撃できる神を喰らいし戦士は貴方しか居ない様ですよジュリウス? ……私のジュリウス?」

「分かっていますラケル先生!」

「それでこそ私の見込んだ『神の御子』……新たなる時代の創始者にして、やがて世界を統べる王となる『器』……さぁ、ジュリウス? 貴方の力で……貴方の家族を……守りなさい。……できるでしょう? だってあなたは……ジュリウスなのだから」

「はい先生! ラケル先生!」

 

 

 

「おい、何をする気だヴィスコンティ大尉」

「……何したってもう……どうでもいいですよ。マザコンティ大尉」

「お待ちください会長! 何を……何をするというのです?!」

「クジョウ博士、ラケル先生を頼む」

「会長……?!」

 

 

「……まさか、あの予備動作……!? まさか……! やばい皆伏せろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ……お征きなさい、ジュリウス。……君に決めたぁ!」

 

「はい先生!! 私は……俺は……!僕は……!! あなたの為なら……――飛べる!!」

 

 

 

 

 ガッシャァアアアアアン。

 

 

 

 

「ジュリウスくぅううううううん!! 戻って来なさい!! ジュリウスくぅううううううん!!」

「素晴らしい跳躍力ですジュリウス……! あら、ガラスが粉々になってしまいましたね。これも王の為の尊き『犠牲』にして『生贄』……そう、全ては祭壇に祀られた『糧』となる――ということにしておきましょう」

「修理費……経費で落ちますかね……コレ……」

 

 

「あああああーーーーッ! ラケル先生にガラスの破片が降り注いでしまうーー! 何を棒立ちしているのです皆さん! 今こそファンクラブに意地を見せるときーーーーッ! ラケル先生の肉壁となるのです! 我らの女神に傷ひとつ負わせてはならないんだぁああああ!!」

「「「「「うぉおおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

「こんな狭い場所でスクラムを組むなぁ! 心意気だけで十分だろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっははは……隊長さんスゲー……足早ェエー……中型種もう全部倒しちゃったよ強いねこの人……うん、何かもう……はい撤収ーー! お疲れさまでした!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フライア聞こえますか!? こちらブラッドー06……赤い雨による脅威は去ったと判断……これより副隊長を神機兵から降ろします! 副隊長……大丈夫ですか副隊長!?』

 

「フライア了解しました。シエルさん、注意してください」

 

 

『こ……こちらブラッド-04……うっぷ……。生きてマース……し、シエルちゃんあんまりゆすらないでちょっと私今ヤバい状態だから……ひぅ……!』

 

『副隊長……し、しっかり! ……副……たい……ちょ……! 貴女という人は……本当に、本当に……! 

 ……君の行動は……理解に苦しみます……』

 

『気持ち悪い……ヤバいヤバい……』

 

『こんな……こんな……!』

 

『シエルちゃ……うっ……』

 

『……副隊長? ……か、顔色が!?』

 

『…………もう無理……どっかに袋……袋……アハっ……もぅぃぃゃ……これで……ぷれでたーふぉーむぅ……』

 

『副隊長何を!? そんな所に顔を突っ込んで……!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゔぉぉぉぉぉぉぉぉぇえええええ!! オ゙ェエエエエエエエ……』

 

『…………副、たい……ちょ……』

 

『ゲェログェゥグェァオェ……カヒッ……』

 

『副隊長!? 副隊ちょーーーーう!? 大丈夫ですか!? ソレは人間として吐いてはいけない色ですけども!? スゴイ色しています!! 何か出てます!! ……内臓!?』

 

『ケパケパケパケパ……ケパ…………――――』

 

『副隊長!! しっかり!! ……あ、あぁ!? し、白目を剥いてる!? い、いけませんそっち側に倒れたらちょっとイケナイものに塗れることにーーっ! ……きゃぁあああああああっ!!』

 

 

 

 

『アラガミの討伐は完了した! 退路はこっちだシエル、副隊長!! 

 

 

 

 

 

 

 …………副隊長……?』

 

 

 

『隊長! 副隊長が……副隊長がぁ……!』

 

『…………状況の説明をして貰おうか……?』

 

『よ、よく分かりませんが恐らくは車酔いならぬ神機兵酔いで……神機のプレデターフォームに思いっきり吐いた後そのまま倒れて気絶してしまい……!』

 

『……そうか、分かった……。……俺に任せろ……。

 ……コイツは家族コイツは家族コイツは家族コイツは家族コイツは家族コイツは家族コイツは家族コイツは家族コイツは家族コイツは家族血よりも濃い絆でつながった家族……どっせい!!』

 

『隊長……副隊長を担いで……! ……ですが……そんな持ち方はあんまりでは……』

 

『言うなシエル……コレが肉体接触が一番少ないんだ……こ、これより帰投する』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、グレゴリー・ド・グレムスロワは思った。

 

 

 

 命令違反に単独行動、さらには上官を欺こうとした罪……罰するべき点は多い。

 だから帰ってきたら懲罰房にぶち込んでやろうと考えていたが……。

 

 

 

 

 

 ……年頃の少女が、それも数ヶ月前までごく普通に学生生活をしていた少女が……人間としてヤバいものまで吐いてゲロ塗れになった挙句、人間扱いすらされていない酷い持ち方で引きずられて来るのであれば……もう十分な罰が降りたように思えるのだった。

 

 

 ……流石に、懲罰房は勘弁してやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、グレムはまだ幼い自らの愛娘を瞼の裏側に思い浮かべる。

 妻によく似た可愛らしい顔立ちのあどけない少女。

 

 

 

 どうか、娘が年頃へと成長した暁には……。

 

 

 

 

 

 

 絶っっっっっっっっ対に……コイツみたいに成って欲しくねぇなーー……と、グレゴリー・ド・グレムスロワは、祈らずには……いられなかった。

 

 

 

 

 たとえ、祈る神は既に無い世界だとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   □■□

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フライア……それは北ヨーロッパの神話で美と愛、豊饒と戦い……そして月の女神を表す名……その名にふさわしく優雅さを湛えつつも、この残酷なる世界を生きていくのに必要な無骨さ、そして強さ! 気高さを持った要塞ッ!

 僕は……! 嗚呼僕はッ……! あの神々しくも美しい! 巨大な鉄がまるでッ! この荒れ狂う大海に投げ出され……惑い、迷い、そして溺れながらもそれでも生き抜こうともがく人類をッ!! 救う為に叡智を結集して作り上げた『方舟』の様にも見えた……!」

 

 

 

「……フライアは巨大移動要塞……? 美観は損なわないにしても……そこそこ自衛能力があるっぽくってすごく頑丈――――だと思います」

 

 

 

「否、気高く強く、そして華麗なのはそこで命を晒して戦っているだろうゴッドイーター達にも同じことが言える。彼ら『ブラッド』こそ……『血の力』とその具現化された能力……そう、まるで神機に纏う神の力を制御し、統率し……そして意志のままにと斬りあげる『ブラッドアーツ』。その熱き思いは――共に戦った戦友、ロシア支部のゴッドイーター達にも通じるものが有ったのだと言えます! その結果、我々は悪の眷属――闇の化身とも言うべき強敵、感応種の討伐に成功した!! お互い助け合い、そして勝利を勝ち取るその姿! そう、それこそが……! それこそがッ……! 騎士の! 騎士達のたま」

 

 

 

「っ~~! ……フライア所属の特殊部隊『ブラッド』は何か……血の力? と……ブラッドアーツ? とか言う技を使う神機使いで……それでロシア支部のゴッドイーターたちとの共闘を成功させ、感応種の討伐に成功した……かな?」

 

 

 

「感応種のコアは当然だがロシア支部の管轄に置かれたようです。彼らにとっては当然の報酬と言えるでしょう。またフライアが一時的に預かっていた人々はロシア支部のサテライト拠点を住処とし、苦しくとも、辛くとも、生きていくという道を選んだようです……そう、心に灯る一筋の光を目指して……皆自分の力でッ! 立って生きるという道を選んだのですッ!! 僕は感じました……あぁ、ここにもあったのだ、と。どんな苦境にも負けずに立ち向かって行く鋼の意志、それこそ……それこそッ! 騎士のたまし」

 

 

 

「えぇっと……ロシア支部は難民をサテライト拠点に受け入れて自治を許可した……みたいです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上、『エミール・フォン・シュトラスブルクのフライア遠征記』でした。ご静聴に感謝いたします」

 

 

 

「エミールからの報告を終わります…………。はぁ……。

 

 

 あぁああ! もう!! この馬鹿エミール!! ちゃんと喋れない訳!? なんで毎回毎回変な話し方するのよ馬鹿ぁ!! 回りくどいのよ!!」

 

 

 

「ふっ……エリナよ……! 回りくどいのもまた一興、なぜなら騎士には……聞いている人間がより状況を伝えやすくするために! 説明をするという必要があるからだ!」

 

 

 

「逆に分かりにくいの!! もっと短く! 簡潔に! 話せないの!? アホエミール!!」

 

 

 

「何と……!? 僕は……僕は……! 逆に分かりにくかったというのかッ!? エミール・ショーック!」

 

「勝手にショック受けてなさいよボケェ!」

 

 

 そこは雑多な部屋だった。

 一見研究用の機材が多く置いてある部屋に見える。だが、よく見れば極東がまだ日本国と呼ばれていた頃の文化――盆栽や掛け軸、さらには重箱という代物まで置いてある部屋だった。

 

 緑がかった髪の少女と、豪奢でかつ華麗なゆるくウェーブのかかった若干偏った髪型の煌びやかな青年が言い争い?を発生させていた。

 

 その口喧嘩とも、何とも言えないじゃれ付き合いを眺める――年齢不詳の男の姿があった。

 

 

「報告ありがとう、エミール君。エリナ君も……通訳、ご苦労だったね。戻っていいよ」

 

「……失礼します」

 

 エリナ、と呼ばれた少女が一礼して部屋を出ていく。

 

 残された金髪の騎士――エミール・フォン・シュトラスブルクが口を開いた。

 

 

 

「さて……と、お疲れさまエミール君。それで……もう一つの件の方はどうだったのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、可能な限り調査してみました支部長。…………やはり、溝は深そうです」

 

「そうか……やはり、な」

 

 年齢不詳な男は眼鏡の位置をずらす。

 逆光のせいで目元が隠れた。

 

 

「ロシア支部の極東支部に対しての心象はかなり悪いといっていいでしょう。……無理もない。なぜなら2年前の『大防衛戦』で彼らの殆どは、アラガミと戦って死んでいるというよりかは……餓死者か凍死者になります。

 アラガミに殺されたと言うよりも、エイジス計画に殺された、という方がより正しいのかもしれませんな」

 

「……」

 

「また本部の情報局がそのような思想を統制せずに、野放しにしていることも一枚噛んでいるでしょう。だとしたら成功ですな。本部は二度とロシア支部と極東支部が手を組み、何かを成そうとすることを……望むハズがありませんから」

 

 

「……だろうね」

 

 

 年齢がハッキリしない男は大きく息を吐く。

 

 他の場所から派遣されているゴッドイーターならともかく、生粋のロシア支部生まれ、ロシア支部育ちのゴッドイーターならば……極東を恨んでいても、おかしくはない。

 ひょっとしたら目の前で家族や友人の悲惨な最期を目の当たりにしたのかもしれない。

 

 エイジス計画さえ無ければ、と思っているような激しい憎悪が……ないとは言い切れなかった。

 

 だからこそ、エミールを送ったのだ。

 人種は殆ど関係なくなった現代だが、エミールの外見はゲルマン民族系である。

 極東人らしくない……それだけで、相手を刺激せずには済むだろう、と踏んでの派遣だった。

 

 

 

 

「フッ……だがしかァし!! 今回の件で僕は悟ったッ! そう、人間は――人間同士は……! 同じ志を持ち、同じ理想を持つならば!! 隣に居るのがたとえ生まれた環境が違う人間でも――分かり合うことができる!

 そう! 共に戦い! 理解しあうことができるのだという事を!! 誰もが皆胸の内に秘めているモノ……それこそが――騎士道精神! 騎士の魂!!」

 

 

「……え? あぁ、うん……あー、そうだねェー……うん」

 

 

「それさえ忘れなければ人類は負けない……己の弱さにも恐怖にも打ち勝つことができる! そう僕は信じている!! そうと分かればこれから訓練を入れたので……榊博士! これにて失礼仕るッ!!」

 

 

「お疲れさまだったね」

 

 

 

「そう、僕の……! このエミール・フォン・シュトラスブルクの……! 騎士道は……! これからだぁああああああ!!」

 

 

「いやちょっと待とうかエミール君、そこは壁……壁だよ?エミール君……? ま、まままま待ちたまえ待て待つんだそんな所に騎士道はないよ!? 物理的に道はない!! 何をするんだやめるんだエミールぅううううう!!」

 

 

 

 

「ちぇすとぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 響くコンクリートの破壊音。

 極東支部の日常の音。

 誰かの雄たけびと支部長の絶叫。

 

 

 

 今日も極東支部は平和だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   □■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛む頭を支えながら満身創痍なギルバートは震える下半身で全身を支えながら例の携帯端末を掴んだ。

 その足取りはまるで生まれたてのゴリラの様に覚束ない。

 強打によって固定されていた頭のギプスがズレ、頭部からは出血が漏れる。

 

 だが、紅く染まっていく視界の中でも、その文章だけは決して見逃すことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 送り主も分からない、送信されたアドレスさえ辿れない、そのメッセージに目を通す。

 

 

 

 

 

 

 

『素敵な実験体生活を送っているだろう、貴様に朗報だ。

 

 極東支部で強力なアラガミの情報を得た。

 極めて交戦記録の少ない個体だ――恐らくは極東支部の上層部ですらまだ知らないだろう。

 

 

 

 

 

 

 発見されたアラガミは、ハンニバル変異種

 

 

 

 

 赤いカリギュラ――――だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤い……カリギュラ……」

 

 

 

 

 

 

 視界が赤く染まるのは、目に血が入っているせいか……精神のもたらす興奮作用によるものなのか、

 

 その判断がつかないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めるとそこは……いつか見た。

 

 綺麗な天井だった。

 

 

 赤い空なんかじゃない。神機兵のあのくっせーコクピットでもない。

 

 ……消毒液の匂いと、清潔な綺麗な天井だった。

 

 

 

 

 オボロげな記憶を辿っていく。

 

 確か……私は……シエルちゃんを助けたかったんだ……。

 赤い雨もアラガミも防ぐために、神機兵に乗った……とこまでは覚えている。

 そこから先がとても曖昧だ。

 

 操縦桿ぶっ壊したら……気がついたら勝手に動いていた。

 その動き方がヤバくてヤバくて……。

 

 ……気持ち悪くなっちゃって……。

 

 

 えっと……それから……?

 

 

 ……それから……。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

「うわぁああああああああああああっ!!!!」

 

 

 スゴーイ、記憶がアイマイダナー……。

 

 

 

 

 

 

 結局、何も解決していないけど、全てを忘れると決めた私は。取りあえず時計を覗く。

 

 現在深夜……まさかの夜1時。

 

 寝なおそうかな、と考えてベッドに潜りこ……もうとした時、白衣の男性がちょうど部屋に入ってくる瞬間だった。

 

 

 

「あー……先生……おはようございます」

 

「んー、唯ちゃんおはようございます。……どうかな気分は? バイタルチェックに来たんだけど……もう必要なさそうだねぇ……」

「はい……、あのー先生……私……どうして担ぎ込まれたんでしょーかー……?」

「脱水症状」

「聞きたくなかった!!」

 

 

 推測大当たりで泣きたくなる。

 こんなことで先生の手を煩わしてしまい……うん、まぁ申し訳ない。

 

「君の方はねー、僕でも大丈夫だってことで任されたよー……神機使い専門医は皆ギルさんにかかりっきりだからねー」

「ギルさん……一体何が……」

「大丈夫。一時は心肺停止状態まで行ったけど今は生きてるよ」

「ギルさんに一体何が!?」

 

 あの人毎回出撃する度に入院してないかな……?

 

 ……あまり人の事を言えた義理じゃないが。そろそろ彼の精神面が心配だ。

 でもまぁ……脳改造されてるし……意外と平気?なのかもしれない。

 

 ひとしきり仲間の心配をしたら、次は任務の結果が気になり始めた。

 話を振ってみる。

 

 

「あの先生……運用テストは……」

「神機兵のテスト、か……悪いけど僕にはよく分からないんだけどね。こっちは人間専門医だから管轄外だし……ただ、最善の結果とは……言えなかったみたいだよ」

「……」

「まぁ、成る様にしか成らないさ。今は早く体を治しなさい。まずはそこからだ」

「……はい」

 

 明日は大量の検査が待ってるからねー、とイワン先生は茶化して言った。

 決して多くは語らない人だけど……やはり神機兵の運用テストは、うまく行かなかったようだった。

 

 

 ブラッド隊としては多分コレが――初めての任務失敗、ということになるのだろう。

 

 

 

 

 ……ただ。

 

 ……この失敗は最悪じゃない、色々やらかしたけど、大切なものはちゃんと守れた。

 

 命令よりも、任務よりも……大切なものを。

 

 ……あとで死ぬほど怒られるだろうけど、私にしては上出来、落としどころとしてはマシな方。

 

 

 

 

 ――――そう思えば、恐らく明日以降来るであろうグレム局長の説教波も、耐えきれるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、あと……確かジュリウス君から預かりものをしてたんだよー。スッカリいい隊長になったねーあの子も。君のことを心配して来てたんだけど……全然目を覚まさなかったからね。目が覚めたら渡してくれって頼まれたんだよー」

 

「……まさか報告書……」

「違うから」

「じゃあ……反省文……!?」

「違うから、違うから大丈夫。そんな泣きそうな顔しないの。違うから、違うからね……」

 

 もう少しだけ良いモノだよ、とイワン先生は私を宥めつつ、何か袋みたいなものを取り出した。

 大きさ的に書類系ではないと思うけど、記録素子系である可能性が微レ存……。

 と、思いつつ恐怖半分、不安半分で開封すると。

 

 

 

 

 中には――――見覚えのあるヘアクリップが。

 

 

 

「……?」

「何かね、『あの時は悪かった。弁償した』とか言ってたよ?」

 

 

 

 忘れてたコトだったけど。

 

 

  ……マルドゥークとか名付けられたあの白いアラガミと対峙したときまで遡る……。

 アイツにボッコボコにされた時にヘアクリップが耳元で凄い音と共に爆ぜたことは覚えている。

 別に何処にでもあるような代物だからいつでも買い直せるからいいやーと思っていたけど。

 

 ……その後は積み込みによる物資不足でそんな贅沢言えなかったし、辿り着いたロシア支部はお察しの通り。

 

 だからずっと放置していた。というか、忘却の彼方へと飛ばしていた。

 

 

 

 

 ……けど。

 

 隊長は、忘れていなかったのだ。

 

 ……ずっと。

 

 

 

「弁償かぁ……」

「良かったねー。じゃあお休みなさい」

「はいどうもですー」

 

 イワン先生が電気を落とそうとする。

 

 その時……一瞬だけ視線が、カーテンで遮られているベッドを見たような気がした。

 

 

 

 

 

 ……そう言えば。

 

 結構な頻度で医務室のお世話になっている私だが……あのカーテンが開いている所を一度も見たことはない。

 

 誰かあのベッドで寝てるのだろうか?

 

 

 ……。

 

 

 

 ……まぁ、きっと研究のし過ぎでぶっ倒れた研究員の緊急避難場所になってるんだろう、と予想。

 もしくは、よく死ぬ有人神機兵のテストパイロットさん達の回復用のベッド。

 

 

 当たってないにしろ、恐らくは見当外れでもないだろう、きっとそんな所だよねー、という方向で考えておくことにした。

 まさかおでんパンの被害者とか、ラケル先生のフルフェイスの被害者とか、レア博士のダイレクトアタックの被害者だとかそうゆう訳ではあるまい。

 ……って……100パーセント否定できないのが怖い……。

 

 

 

 

 

「弁償してもらっちゃったよ……」

 

 

 

 黒色のヘアクリップを指でなぞって、独り呟きを漏らす。

 ……安物じゃねぇぞ、コレ……。

 外見は以前していた物とよく似ているが……触れただけで、材質が違うことは十分理解できた。きっと隊長、フランさんに相談もしないで完全に直感だけで選んだんだろうなぁ……と想像してみる。

 まぁ……いつか……何かの伝導体にでもなってくれれば、と思っとく。

 

 そんなことよりコレ本当に弁償なのか、そこから議論したい。

 

 後で請求書を持ってこられたりはしないだろうか……だとしたら経費で落とせるのかコレ!?

 

 ……不安はつきない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……でも、嬉しい……」

 

 

 ……は?

 

 

 ……今何を口走った。私……?

 

 言った直後、反射的に口を手で覆った。

 そんなことをしても言わなかったことになどできはしないが。

 

 ……え? 何で?

 

 

 自分の懐が痛まなかったからーという思いは……ない訳じゃない……けど。

 自分の思考回路は無きゃないで、何とかなるから別に必要性はない、と判断して買い直そうともしていなかったはずだ。だから自腹云々というよりもそもそも買う予定も無かったんだから……。

 

 ……むしろ気にされちゃって悪いなーとか、わざわざ金出させて大変申し訳ない……という罪悪感のような気おくれのような感情が存在している。

 

 

 ……けど。

 

 

 ……嬉しいって、どうゆうことなの……。

 

 

 

「え……? え? 何……だとしたら……!?」

 

 

 私物を弁償して貰った事じゃない。ぶっ壊した髪飾りが戻ってきたことでもない。

 

 ……貰ったということが、純粋に嬉しいんだ。

 

 

 と、いう事はまさか、まさかのまさか……。

 

 

 消去法で思考がまとまっていく。

 そんなバカな、いや、そんなハズはないだろうと、頭の中で理性が必死こいて否定材料を探していた。

 ……が。

 

 脳内で直感がイエスと頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私……隊長が…………。

 

 

 

 ……好き……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









当初予定していたシエル編まで終了しました! 長かった!!(世迷言)
第三部! 完!!

これからもフライアとブラッドの戦いは続いていくことでしょう!応援ありがとうございました!!(白目)












次回からゴミの様な恋愛要素が入ってくる……かも…しれません。














↓↓↓以下アニメの感想。ネタバレ注意↓↓↓









良い最終回だった!
まさかスーパーサ●ヤ人と化すとは思わなかったよレンカ君!
でもレンコンは野菜だから問題ないよね!

ともあれ最高の最終回でした。
1話で「アラガミを倒すためにGEになったんだ!」と言ってた駆逐系男子が。
暁の戦場で言ってることとやってることが散々空回りし、
空で誰かを救おうと必死に戦う少女に強さを見出し
壁の内側と外側の世界の世界の残酷さと非常さに打ちひしがれ
帝王に抗う神機さえも折れてしまう……。

やがてポンコツと化したロシア娘と逃避行の末ポンチョを取られ。
難民ダムで蠍をアンプルだけで池ボチャさせ
死神と呼ばれた青年に叫ぶ――「アンタは死神じゃない!!」
アンタは母親が命をかけて、希望を託した存在だ、だから死神であるものか――と。



という所までが夏放送の第一クルー。

昨今の主人公にしては珍しい位のボコボコ蓮。
でも、この流れは当たり前と言えば当たり前だったんですよね。

アラガミを倒すためにGEになったんだ! と言いつつもこの時の彼のメンタルはボロボロだった。逃げろと叫ぶ家族を見捨て、最愛の姉と死に別れて、慟哭しながらフェンリルに来た。
 きっと何かを憎まないと生きていけなかったんだと思いますよ。
 じゃなきゃ飲み干せない悲しみに潰されてたんだと思いますよ。



 アラガミにより最愛の人を失った『彼』の様に。
 


 そうゆう憎しみを原動力にしている割には振り切れていなかったところがあったので、言ってることとやってることがチグハグ状態に……。

 そりゃリンドウさんも怒りますわ、と。

 アニメのリンドウさんは何かレンカにキツすぎないかなーこの人もっとテキトーな人間じゃなかったかなーと思っていたのですが。これなら納得。幼少期知ってたらね。怒りたくもなるよね。リンドウさんもレンカ程酷くはないとはいえ似た経験があるから(詳しくはドラマCD参照してください)

10話見た後にまた1話見たくなるアニメだった。




13話は熱かった。
BGMの『No Way Back-The Path of the Lotus-』が流れたシーンでは鳥肌が…!
直訳で『蓮華の進む道』でしょうかね?(エキサイト並感)


ピタータコ殴りシーンが一番好きです!


コア破壊までが最高だった!!
「ゴッドイーターだぁああ!」とタイトルコールしながら走り!!
ピタ―の反撃でポンチョ破れ!
姉の最期のナイフをぶん投げ!
ディアウス上田!でぶち殺す!!


生きろと母が最期に託したポンチョも、姉の最後の決断ともなったナイフもぶん投げ、ただ勝つために、守り抜く為に、と吶喊していくシーンが最高にレンカ君!だった!!



金髪レンカで一瞬神薙ユウを幻視したのはウンバボ族だけじゃないと信じてる。




お疲レンカ様でした!!




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