「こちら回収班。目標を発見した。これより回収作業に入ります」
『フライア了解しました。作業時間はどの位かかりますか? 目安でいいので報告願います』
「アーティフィシャルCNSの完全沈黙を確認。また、神機の状態は悪くないので、恐らくは600秒ほどで終了するかと思います」
『了解しました、終了後にまた報告を――ブラッドに通達しておきます』
「お願いします」
回収班の技士は一通りの報告を終えると、思わず呼吸を意図的に止めた。
眼前に存在するそれから目を逸らす為に。
そこに在ったのは、人間一人分の腐乱死体だった。
だが、人間が腐っていく強烈な臭気に当てられ思わず胃液が口までせり上がっていく。
決して見ていて気持ちの良い代物ではない。
……かと言って目を逸らしたままでは仕事は出来ない。
コレは人なのだ、と言い聞かせてみても自分の同じ種の生物がその生を終え、さらには食い荒らされているという状況に生物的嫌悪感を抱きつつ――何か共感が欲しくて横に居る同輩へと視線を向けると。
何だか凄い速度で、携帯端末の操作をしていた。
「あの……神威さん……?」
「何スか?」
「え……何してんの……? 何やってん……ですか?」
「メール」
「はい?」
「知り合いにメール」
……今やることか!? と青年は思った。
空気が読めないとか、そうゆう次元を踏破している問題の事の様に思えた。
「……え、今? 今……やることですか?」
「はい、そうですが?」
「……」
「だって今しか出来ないじゃん。あとここなら極東の電波拾えるかなーと思いマシテ。だってフライア検閲厳しいし」
「…………ホトケさんの前で……っすかー……」
「あー、うん。凄い良い死体だよねこのお方」
「……お方……」
一応、人としてカウントしてはいるらしい。
だが敬意を払うつもりはあまりない様に見えた。
「今時蛆が集ってる死体なんか貴重ッスよね」
「……」
彼は割と現状を正しく認識している様であった。
「いやまぁ……貴重、ですけど……」
「『外』の死体に蛆が集っているとか中々見られねぇッスよ、今時!」
「…………まぁそうですけど……」
見たいものでもあるまい。
……しかし、生まれた時から内部居住区に住む青年、世に言う『内側生まれ、内側育ち』の人間、という生まれ落ちた場所に偶々恵まれていた青年には、逆に珍しいのかもしれない。
「……大体今時ウジムシなんか湧く訳ないんだ」
「……?」
「蛆が湧く……っていう言葉が極東には存在するらしいけど、そもそも『湧く』訳がない。何もないところから虫が発生するわけがネェっす。そんなもんはアラガミで十分。
コレは蠅の幼生さん達。この子たちは真っ白なおくるみに包まれ、やがてこの大空に向かって羽ばたいていく夢と希望に溢れた幼生さん達。お母さん蠅がこの絶望的な世界に次の命を託すために、と必死こいて命の育つ場所を探し回りやっと見つけたアジール……それこそが元神機使いな彼、もしくは彼女、という訳です」
「……何だか愛に溢れたモノみたいに見えてきた……」
「愛こそが、全てだ。
で、その愛しき蠅っ子ちゃんたちだけど……残念ながら今の世界は残酷なのでしぶとい昆虫類にも非常に生きにくくなっています。外界じゃ難しいだろうね、生存も……まぁ、何故かハエはアラガミの偏食にも引っかかりにくいらしいけど……オラクル細胞の方が早く捕食することによって発生する飯不足と、下手すれば食った後に残留オラクル細胞に体内から逆捕食されるという危険性あることからやっぱ生きにくい世界なんスよねー。
……だから有り得ない、とは言い切れないけど確率は低いんですよ、今のこの世界でアラガミよりも先に蠅に集られるという状況は。
可能性があるとすれば2つ。オラクル細胞の捕食作用が間に合わない程の腐敗物が大量に出る状況――つまり人間の『生存圏』が近くに存在するか、それとも……」
「……はぁ……」
まさかの虫から沸き出す推理に呆れ半分、と言った様子で適当に相槌を打つ。
最早虫も、腐乱死体もどうでもよくなってきた。
「コイツが虫愛好者で蠅を持ち歩いて居たか、のどっちかだ!!」
「……………………はぁ……そっすね……じゃ、仕事しましょうか。神威さん」
「ちょっとそんな目はやめて下さいッスよー。今流行ってるんスよマゴットセラピー! もしかしたらそっち系の『選ばれし者』だったのかもしれないじゃん!」
「はいはい。のこじん集めましょーのこじんを、一心不乱ののこじんを。腐乱なんかほっとこうー」
「何言ってるんですか! 極東地域に関する情報じゃないッスか! マゴッティストが進出してる可能性もあるし、自然発生型なら尚採取すべきです!」
「ええええ……コレ触るの……ええええー……」
「のこじんの為ですのこじんの! そう、のこじんの!」
「のこじん関係ないじゃないですかぁ~……」
「れっつごー」
「じ、自分でやって下さいよ! うわぁやだ触りたくない気持ち悪いよぉうぞうぞしてるよせめて手袋させて下さぎゃぁあぁあああああ!」
のこじん担当(だったばず)の青年研究員は悲鳴を上げた。
この間からやはりロクな目に遭ってはいないが、この後ブラッド隊員の女性、香月ナナによるおでんパンを食べればどうという事はないだろう。
なぜなら、アレを摂取することで悲しい事も辛いことも忘れられ、彼の思考は幸福に包まれるからである。
悲鳴を上げる同輩を横目で眺めつつ、色々なモノの元凶である青年、神威ヒロキは頭の中に浮かぶひとつのぼんやりとした思考を自覚した。
(……確認済みの人間の『生存圏』である極東支部までの距離は遠い。それこそフライアに神機回収を依頼するほどの距離があるハズ。自力での回収が不可能という訳ではないが出動は困難……って所だろう。
……だったら何でこんな場所に神機使いが居る? それも死体がアラガミ以外に食い荒らされるなんて状況が発生する?
支部近くで活動を行う防衛部隊や討伐の為の精鋭部隊であるとは考えにくい……が、残っている装備の充実加減からして中堅以上の実力者だった、とも考えられる。
……中堅以上の神機使いを各地に配置して回っていたのか、それとも……)
この近くに、未保護の壁外非保護民が住む区画があるのか――と。
▼▼▼
かつて、ローマを震撼させた一人の名将が居たという。
そいつはやたらめったら強く、山脈は越えて来るわ、北から進撃してくるわ挙句の果てには2倍近くあったハズの戦力で何故か敗走させられるわで、とにかく凄く強かった。マジで強かった。
そして英雄は死した後でもローマ人のトラウマと成り果て現在神々に世界を蹂躙された後でもイタリア系の人々の間では言う事を聞かない子供を怒るときに引用されたり、されなかったりするらしい。
……と、いう雑学を思い出した。
「極東のハンニバルって……デカいなぁ……」
「コレ包囲殲滅されますよ私たち……」
「唯ちゃん、弱音辞めてくれる? 私は退く気ないから……だよねー? ロミオ先輩ー?」
「あ……あ、当たり前だろ!」
いつも通りの雑談。基本的には自分たちの気を紛らわせるためのものにすぎないモノ。
緊張感に耐えられない私たち3人の出撃前のお約束っぽい何か……だとようやくシエルちゃんにも理解してもらえたらしく、減らず口を聞き流しながら軽く微笑して頂いている。
既にかなりの戦歴を積んでいるからか――余裕があるっぽいギルさんと隊長は加わってこない。
「……違う……ヤツだな……そんな簡単にはいかねぇか……」
「は? 何だよギル?」
「…………何でもない」
「……ギルさん?」
ギルさんの様子に一抹の不安を覚える――が、まぁ紫ゴリラのことだからどうでもいいや、と思考を切り替えた。
隊長の合図で一斉射撃を開始する。
……が、射撃による煙が晴れて――思わず戦慄した。
近接特化のナナちゃん以外の神機。ブラスト、アサルト、スナイパーの合計5種類の銃で撃ちまくっても、そのハンニバルに傷ひとつ負わせることができなかったから――だ。
「う……嘘だろぉ……!?」
「硬いか……!」
ブラッド歴(比較的)長めな隊長と先輩が驚きを隠せずに呟く。
あー……。
……薄々予感しては居たんだけどモシカシテ……やっぱりこれって……。
「……アラガミ……どんどん……強くなってません……?」
「だよね~私もそれ思った~」
「……」
無言のギルさん――は肯定という事にしておく。
私たちも……薄々……感じ取ってはいたのだ。
フライアは偶々偶然、世界基準で『東側』へと進んでいっている。途中までは偶然、今回からは極東支部に進路変更した為当たり前ではあるが。
その都度思っていたのだ。
……アラガミ様たち……どんどん、硬くなっておられませんか――と。
西側のアラガミが豆腐並の骨格なのだと言いたいわけではない。ただ、あっちでスパスパ切れたハズの神様の表面が、こっちでは何故かバリ硬装甲になっている、と皆確実に実戦で感じ取っているであろうということだけだ。
案の定、ハンニバルのような大型種に、今持ってる弾丸が効きやしない。
「総員、高威力バレット装填!! 持ってない奴は近接戦闘開始!!」
「「「「「了解!!」」」」」
強い弾丸がない、強襲型のギルさんと私が神機を変形させて刃を出す。
何度か……例えるならばプラグを差し込んでも上手く嵌らないような違和感が起こり、神機の変形に数秒だけ手間取った。
どうやら……クソ兄貴の言う通りらしい。
神機のスペックは今かなり落ちている。
『シエルさんの感応能力によって周囲のアラガミ情報をキャッチ。皆さんに伝達されます』
「お任せください! 索敵漏らしはありませんとも!」
「シエルちゃんありがとうー!」
「ふ……副隊長……!」
何故か赤くなるシエルちゃん。
……最近のあの子のツボが良く分からない。
と、いうのはサテオキ。
実はシエルちゃんの能力が覚醒していた。
『血の力』とやらに目覚めたらしい。凄い。私だって未だに分からないと言うのに……。
やっぱマグノリアコンパスのエリートは違うんですね分かります。
シエルちゃんの『血の力』は『直覚』能力というものであるらしく、隊長のように分かり易く発現するものではない、その代り常時発動させることが可能。アラガミの数や状態を把握することができる――人間の感覚器、五感の超進化版だとかそんな感じの力らしい。
その情報が私たちに送信され、網膜上に投影。
アラガミがフリップとして振られていく。
誰よりも早く状況を把握した隊長が、指示を出した。
「02,03小型種の討伐を頼む! だが全て狩りつくそうと考えるな、目的はあくまで標的を拡散させることだ。残る人員でハンニバルを叩く!」
「りょーかーい! 行こうロミオ先輩!」
「よっしゃ雑魚は任せとけ! ……って言いたいけどコイツら結構硬いんだよな……」
「や……やっぱ……薄々分かってはいたけど……! あ、アラガミ強くなってるよね……!? うぅっ……」
「な、泣かないで下さい! 副隊長は……私が守ります!」
泣きたい。
ハンニバルの長い尻尾がスイングされ、地面を抉りながら攻撃をしてくる。
その風圧だけでもかなりヤバいことが察せられた。ギリギリで回避。
遠距離から撃っているのだろう、シエルちゃんのスナイパー弾がハンニバルを掠めた。
反転攻撃によって背中の突起部に直撃する。
その時、ハンニバルが雄たけびとも叫びともつかない声を上げた。
……これは……効いている……ということだろう。
「……」
狙うなら今しかない。
そう考えた私は長刀をゼロスタンスに構えて、殴りに行く。
踏み込んでから、斬る――特殊兵装ブラッドアーツを発動。
……したとき、に。
「……副隊長待――」
「……え?ちょ、うわぁあああああ?!」
ものすごい力で、
体を、
前に、
もっていかれた。
何を言っているのか自分でも分からないが、何が起こっているのかハッキリとは分からないのだから仕方がない! 例えるなら、神機がものすごい威力で前に吸引されていく様だ。
その間ブラッドアーツ全開状態で。
「ぎゃぁぁああああああああ!!」
と、いう訳で私は今ブラッドアーツをぶっ放したまま……ハンニバルに向かって、低空飛行をかましているという、地に足のつかない状態。
……はい、当然ですがこうなります。
「な、なんで喰いついてるんですかぁ!? どうして神機ぃいいいい!!??」
がりがりがりがり、と神機の(勝手に出やがった)捕食形態がハンニバルの背中の突起物を齧っている。
痛いのか、それとも自分の身体が削られていることを理解しているのかハンニバルは激しい抵抗をこころみているらしい。ちなみに、私はというと、今ライドオンザハンニバル。銀のハンニバルの背に乗って。
……だって仕方ないんだもん……。
……神機が、喰いついているんだもの……。
……へばりつくしか……ないじゃない……。
そんな状態で……私、また……振り回されている……。
「あ、あんま抵抗しないでぇぇぇ……! ひぃいいい!? ま、また気持ち悪くなってきた……」
「副隊長!!」
「……アイツ……まさか無限ループに持ち込む気じゃないよな……?」
「有り得る~唯ちゃんなら……やりかねない!!」
ナナちゃんもロミオ先輩も勝手な事ばかり言いやがる。
大方、ここでまた吐く→神機ブシャ―→神機によるハンガーストライキ→大型種討伐→吐く……の無限ループを狙っているのかアイツとでも言いたげな発言だった。実に汚い輪廻の輪であるとハッキリ言い切ることができない訳でもない。
……だが、ここまで来たら私にだって意地がある……。
……そう。
私にだって……私にだって……(なけなしの)意地がある!
コレ以上、隊長の前で体液ぶっ放して堪るかという……最小限のプライドを保つだけの根性が!!
正直何と戦っているのかさえも良く分からないけど余りにも汚い姿をもうコレ以上見られたくなかった。
…………今更何言ってんだと思われるかもしれないが。
醜態も何もかも、もう晒すところまで晒したかもしれないが。
……って思ってたんだけど。
もう何回目かになるが、やっぱり体はとても正直だった。
思いで、どうにかなるほど……私の生体防御機能って、都合良く出来ていないみたい。
もういいんだよ、素直になっちゃいなよーとでも言う様に、胃や内臓が蠕動運動を繰り返し酸っぱい味と共に出撃前にちゃんとお腹に詰め込んで来たあんまり美味しくないレーションがお口の中へと逆流……うっぷ。
じゃない、そうじゃない。生態現象がどうだろうとここで口さえ閉じていれば問題ない!
幻滅されたくない……もうされてるけど、コレ以上汚い所は見せたくない……。
……そう。
……落ちるところまで、堕ちたんだから……あとはもう、加点のみ!
と、一時的に無理やり自分を納得させた超理論を展開し、コレ後で絶対思い出してそんな訳ねーよ、と後悔するハメになるだろう未来さえ予感しつつも今回こそはちゃんと苦しみを飲み下す。そう海じゃないんだ、飲み干せるはずだ。
と、私が自分の中の中途半端に消化された飯と戦っている間、神機はガリガリガリと実にアグレッシヴに背中からハンニバルを喰いついていた。とても己の欲望に忠実な神機で大変ウザいと思います。人の気も知らないでよくやりやがる。
こんな状況じゃなきゃ、殴ってやりたい。
「いや、副隊長……よくやった!!」
「はい!?」
まさかの隊長からのお褒めの言葉が降っ……いや、この場合は下から聞こえてきた。
「そのまま抑えてろ!」
「抑えろって……そんなこと言われてもぉ……! って神機!? なんであなたはそんな捕食欲に忠実なんですかぁ!? え? コア……!? コレってコア!? コア取ったの!? もう取ったの!?!?」
大音量で叫ぶハンニバル。恐らくはもう絶叫と捉えていいだろう。
人間で例えるなら背中から脊髄ぶっこ抜かれたようなもの。まだ悲鳴を上げられるだけの生命力があるあたり流石はアラガミだ。こんな奴ら相手に生存競争で勝てる気がしねぇ。
……と、力尽き倒れそうになるハンニバルだが、既に再生が開始されているらしくすぐに捕食部位の傷が癒えていく。
……しぶとい。
が、そこを逃す隊長ではなかった。
ハンニバルが体勢を崩した一瞬の隙にブラッドアーツを叩き込む。一瞬にして右半身が消失。地面に腕だったような挽肉が転がっていた。
支えがなくなったハンニバルが墜落。
その蜥蜴にも似た頭、正確には一番柔らかい感覚器官――眼窩へと。
……スタングレネードを突き刺した。
……刺さっちゃった……。
…………おメメの中に……。
「うわぁ……抉れてるよ…………」
「副隊長すぐにその場から離れろ!!」
「……」
「副隊長!」
「…………は、はいっ!!」
幾らアラガミ相手でも外道すぎないかしら、と自分のなかの倫理観氏が一瞬だけ苦言を呈したような気もするけど隊長の言っていることだから特に問題はないよねー、と自分を納得させた振りをしてみた。
これでいいのだ。きっと。多分……恐らく。
そして、スタングレネードが破裂し……ハンニバルが聞いているこっちが苦しく成る程の悲鳴を上げ……。
奴の頭は爆散したのだった。
……銀トカゲの魂に安息がありますように。
……と、思ったんだけど、しぶといハンニバルはその後。
まだ骨の見える、若干細くなった腕を突き出し。
両手をビクビクと震わせながら上体を起こし。
肉や骨の破片でグズグズになった断面図から体液をダラダラと吹き零しながらも。
起き上がってきたではありませんか。
中途半端に再生された頭部はまだ骨と筋肉が丸見えの構造であり、スタングレネードが突き刺さったままの場所はどうにもならないっぽいが、片方の金色の眼には純然とした怒りが見えた。
……キモ……じゃない、これは確実に……激おこモードでしょう……。
背中からは何か円形のモノが浮き出ているし、心なしか何か若干パワーアップしているように見えなくもない。
「……あ……れ……?」
「ハンニバルが活性化したようです! 気を付けて!!」
「……や、やっぱり……?!」
ハンニバル、ガチギレの回。
背中から齧られて頭部爆散させられた不死のアラガミは怒り狂っていた。意外と人間臭いところもあるんだぁ、と変な風に関心しているとハンニバルが咆哮を上げる。コレはブチ切れてる。
「ブラッド総員傾注! 回収班の作業終了を確認! このまま撤退する!」
「た、退避ー! みんな退避ーー!」
「了解……って言いたい所だけどさ……どうすんだよコレ!? 逃げられる気がしねぇ!!」
「各自散開してバラバラになって逃げるって言うのは~?」
「ブラッド-03、ソレではダメです! その場合……激高したハンニバルが誰か一人を集中狙いにする可能性があります!」
「…………えっへへ~、別に私は誰かをヒトバシラにしてみんなで逃げよう~☆ なんて考えてる訳じゃないんだからねっ~! シエルちゃん勘違いしないでよね~~っ! ……チッ」
「悔いだらけの人生だった……! まだやり残したこともやりたいことも沢山ある……!」
「後悔すんな! まだ終わってねぇから! ジュリウスも何か言ってやれ!」
「そうだ諦めるな副隊長! 我々には……
「畜生死んでやるーー!」
「お前等に期待したオレが馬鹿だったわ……。ナナ! シエル! 射撃しながら後退すんぞ! ギル! その間にあの
「任せとけ」
ロミオ先輩やれば出来るじゃん。完璧な指揮だ。
シエルちゃん、先輩からの射撃がハンニバルへと降り注ぎ、半分程は弾かれ、あと半分は通りはするもののあまり効いてはいない。
威嚇の為に今度はちゃんと再生できたらしい頭部から咆哮が発せられる。
……と、そこに。
「行け!」
ギルさんからのスタングレネード投擲。
そうだ、ここで奴が目くらましをすれば、数秒スタン状態になったハンニバルとの距離が開く。
その隙に前衛として前に出ちゃった私たちが後退すれば問題ない。
そうと決まれば、と隊長と目で示した合わせた…
……のに。
「……あれぇ?」
そのスタングレネードは、綺麗な放物線を描いて。
ハンニバルの口の中へと入り込んで逝ったのでした。
「……」
「……」
「……」
余りのコトに、誰も口を開けなかった。
ただ確かに分かったことは……スタグレ不発、という事実だけであった。
これ一体どうなっちゃうのかな。
「何してんだよギル!!」
「悪い! しくった……もう一発!」
「そ、そうだまだ行ける!! ……っておいギル……お前……スタグレ何個持ってきたんだ……?」
「3個」
「そこにまだ3個スタングレネードがくっついてるよな……?」
「……あぁ、スタングレネードが3個付いてるな」
「…………今、お前……何……投げたの……?」
「…………スマン、レーション投げちまった」
「レー……ショ……ン……?」
「隣にあったからつい」
「もぉ~~! ギルったら~~! うっかりさん、なんだからーーっ! 『回復弾』撃ってあげよっかー?」
「うっかりゴリラですも?」
「落ち着けナナ。何でレーション投げるんだよ馬鹿じゃねーの本当に……何でレーション投げ……レーショ……ん?」
私たちは我が目を疑った。
なぜなら。そこには。
口から泡を吹き、肢体を激しく動かし、苦しみもがき……のたうち回る、ハンニバルの姿があったからだ。
奴は何度か大きくシタバタしたかと思うと、急に静かになり……やがて、時折びくん、びくんと痙攣するだけになり……そして、静かに沈黙した。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ギルバート君、先輩怒らないから言ってみなさい。君は何を投げたのだね?」
「だから悪かったと言ってるだろ。レーション投げちまったんだよ」
「…………もっと詳しく。そのレーション、何……?」
「何って、別に大したもんじゃない。普通のヤツだが?」
「いいから言え」
「何で?」
「言うんだギル!!」
先輩の鬼気迫る様子が1ミリたりとも理解できなかったらしいクソゴリラが、キョトン、としたおおよそ成人男性の顔面とは思えない程、腹の立つ無垢な顔つきで答えやがった。
「マーマイト」
「マーマイト!?」
どうして あなたは そんな ものを。
「は、ハンニバル死んじゃった……ハンニバル死んじゃった!?」
「落ち着け副隊長、死んではいない。ただ……何か毒物のようなものに全身を冒された結果微動だにできなくなっているだけだろう……意識はある……ハズ……」
「余計タチ悪りぃよ……!? いっそのことコア抜いて慈悲の一撃を下してやりませんか……?」
「そんなことをやってもコイツはハンニバルだからすぐに再生して死ねないだろうがな……」
ジュリウス隊長の目は遠くを見ていた。
「あ、有りえねぇ……そんな劇物を……!? アラガミ死んでるじゃん……!?」
「は? 劇物……? マーマイトはレーションだろ。何言ってんだお前」
「お前が何言ってんだ。現実が見えてねぇのか」
「……故郷じゃ皆、普通に食ってたぞ?」
「お前の故郷人外魔境ーー!」
「アホか、これから行く場所が人外魔境だろ」
どの世界にアラガミ(大型種)ぶっ殺すレーションに普通に食べる人類が居ると言うのでしょうか。
どうなってんのこの人の世界観……。暗黒大陸の深き森の奥にでも生息してるの……?
「ともかく、動きが止まったんだ、良かったじゃねぇか。どうする隊長? 撤退か?」
「今考えているから黙っててくれないか」
「何で動きが止まったかの方が重要なんだよこの場合は!!」
「……多分喉にでもつまったんだろ、マーマイトが」
「喉に……詰まった……」
「呼吸も……止まった……」
「……も……」
「やっぱりコイツはここでMIAさせた方がいいのかもしれない」
「ナナちゃん……今そうゆうコト言わないで……抗えなくなりそうだから」
数分後、のこじんを回収したクソ兄貴と……いつか見た、第二世代型おでんパンのスケープゴ……被検体にされた……のこじんの人が、装甲車を駆りながら猛スピードで合流を果たす。
彼らは白い何かがびっしりと集った赤い腕輪を採取袋に突っ込んでいた。白い何かは見ない方が良いものだと咄嗟に判断を下し、皆で全力で目を逸らす。
「……マジでー!? アッハハハハ…………ハハハハハー! スゲぇーーー! 有り得ねぇーー! ギルさん……ちょっと後で面貸してくれるかな?」
「生憎検診が入ってる……悪い」
「ならいいッスよ。次の機会に殺るまでだ……っと。
んで、どうします隊長ー? ミゴトにスタンだな! もう全然動かない!!」
「いい機会じゃないですかー。この際ですから素材として使えそうなモノ全部剥ぎ取ってっちゃいましょーよー!専門の器具も揃ってますし。折角我々技官が居るんですし」
「いいねー! じゃーヤりますか! 隊長さん480秒下さい。大体ソレで終わりますわー」
「わ、分かった……ブラッド各員、哨戒に当たれ……」
「妹さーん。その辺にあるドリルストッパー取って下さーい」
「……どぞ」
と、言う感じですっかりハンニバルは解体された。
その間、ハンニバルは微動だにしなかった。
だが、黄金の目は怒りを通り越し最早絶望を映しているように見えたから……多分意識はあったと思う。
「じゃあどうするー? トドメいっちゃうー?」
「って言いますけどヒロキさん……ハンニバルって不死のアラガミじゃないっすか……」
「コアが再生しまくる以上我々では決定打を撃つことはできない……」
「じゃあ……コイツをこのまま放置するのか?」
「……それはどうかと思います……」
「……」
うーん、とブラッド全員で沈思。
このアラガミは大型種、放っておけばかなりの強敵になる。
今は完全に動かないでいるけど、いつ状態が回復するのか誰にも分からない。
まぁその頃には私たちフライアはトンズラしてるからいいけど……この後極東支部に行く、ということを考えればコイツと再戦する可能性もあるんだよなぁ、という懸念が振り払えなかった。
そこで、腐れクソ兄貴がハッと思いついた様な顔をする。
「そうだ、セメントで固めちゃおう」
「……は?」
「確か有りましたよねー? オラクルセメントー? 装甲壁とか組み立てるときに使うヤツ! あれならコア固められるからアラガミにも有効じゃね?」
「一理ありますねー。じゃーそーしましょーかー、今持ってきまーす」
「ついでに手足も切断しておきましょう。此れなら蘇生してもすぐには動けない」
「いいね隊長! じゃあ切断面もセメントで埋めて……」
何の話だよ……。
先輩助けて、倫理観が息してないの! とロミオ先輩を見つめると、彼の目は薄く濁り、青いところがひとつもないどこまでも続く灰色の曇天を見上げていた。
空にはヨルムンガンドが数匹うようよと飛んでいる。良いモノなんかひとつもない、ロクでもない空だった。
ロミオ先輩の目から、光が消えた。
兄とのこじんの人は、二人揃ってセメントを練り始めた。
戦闘員はやることがなく、ただ棒立ちをするだけとなる。
「はーい練って練って練ってー! ねるねるねるねるねってるかーいねるねるねるねるねるねってるよー」
「練れば練る程硬くなる……」
「ね~るねるねるねはヒッヒッヒヒ」
「テーレッテレー!」
研究員というのは、やっぱあたまのおかしいひとたちなのだなぁ、とわたしはおもいました。
こうして、四肢切断ハンニバルを
特に誰も欠けることなく、フライアへと帰って行ったのでした。
▼▽▼
ハンニバルは生きていた。
いや、その表現は正確ではない。正しく言うならば、死ぬことが出来なかったのだ。
なぜなら、体細胞を消費しコアが生成されていってしまうからである。
そう……巨大なハンニバルはその体を再生するオラクル細胞が尽きるまで、死ぬことはできないのだ。
だが、動けなくなったハンニバルの体に群がってくるもの達があった。
小型種――オウガテイルと呼ばれるアラガミたちである。
ヴァジュラなどの大型種ですら捕食する彼らにとっては捕食対象が生きていようが死んでいようがあまり関係はない、ただ本能のままに、自らの進化の為だけに、と喰らい続ける現象でしかないからだ。
数匹のオウガテイルたちがハンニバルの身体に食らいつく。
ハンニバルにはただ、自分の身体が引き裂かれていく音。肉が咀嚼される音、骨や外骨格は砕けていくような音を聞き続けることしかできなかった。
やがて、ハンニバルの身体を喰らっていたオウガテイル達に異変が訪れる。
急に彼らの口から泡が吹き出したかと思うと、そのまま地面へと倒れ込み、数度激しくのたうち……やがてはその力すらも尽き果て、動かなくなる。
小型種であるオウガテイル達はやがて地面へと飲み込まれていった。
だが、ハンニバルには其れは許されない。
オウガテイル達とは違い、ハンニバルは不死のアラガミ――その不死性により、コアを破壊されては何度も何度も再生を繰り返してしまうからだった。
何度も何度も何度も何度も。
数時間ほど経過すれば、また別の小型種がやってきて、ハンニバルの体を貪り食うのだろう。
そして、またコアを破壊されて地に帰ってゆくのだろう。
だが、ハンニバルは死ぬことはできない。
かといって、動くこともできない。
そして、その体に『ソレ』はいつまでもいつまでも残留し続けた。
おそらく、この呪われた円環と連鎖は続いていくだろう。
ハンニバルのコア再生ができなくなる――――その日まで。
活動報告にて行っております、キャラエピの募集についてですが。
今のところこのキャラが上がっております。
・ハルさん
・ゴリラ
・騎士道
・おでんパンの伝道師
・歌姫様
その中でもかなりのお方がハルさんのエピソードをご支持なさっている模様。
……皆ソンナニ変態ガ欲シイノカナぁ?
業の深いお方々が多くて何よりだとウンバボ族は思います。
キャラエピは特に締め切りもないので、お気楽にどうぞ皆さんのオコエを聞かせて頂ければ、と思います。
アニメが終わったので若干やる気を無くしたウンバボ族ですが、これからブラッドは極東編に入っていきますのでよろしければゆるーくお付き合い下さい。