ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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ペ●ソナ作戦開幕編





phase47 おいでよ、女神の森③

『各員配置に着いたことを確認、各自健闘を祈ります』

 

 耳元から聞こえる無線通信、いつもと変わらぬオペレーターの声が響く。

 

 

『標的を視認した、このまま待機を続ける』

『いつでもいけるよ~~』

『潜入行動の準備は万端です』

『……俺は本当に出なくていいのか?』

『絶対に出るなCP。コレは命令だ』

『…………わ、分かった』

『ちょっと先輩~? 返事がないよー?』

「……」

『応答を! 大丈夫ですか生存報告を!』

「生きてるよ! けどさぁ……、……なぁ、コレ……本当にやるの?」

 

 

 

 

『フッ……今更何を』

『怖気づいたの~?』

『臆病風に吹かれたのですか?』

『自信ねぇならそのポジション変わってやってm……』

『お前はそこで待機してろ、行方不明者リストに名前を追加したくなかったらな』

『……冗談だ』

 

 

 

「…………マジデ……ヤルノ……?」

 

 

『ブラッドに二言はない』

『退路はない』

『もう逃げない』

『覚悟決めろ』

『No way ba●k流しておきますね』

 

 

 

 

 ブラッドのオペレーター……フランが悪ノリノリで面白半分ヤケ半分で流すBGMを聞き流しながら、ロミオはわずか数時間前の事を回想していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~~~アイマースムーヴオ~~~♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のポジションはこうなった」

 

 

 

 

 

 『女神の森』外周―ジュリウス:アラガミの殲減&極東神機使いの誘導

 

 『女神の森』内部潜入―ナナ、ロミオ、シエル:副隊長救出

 

 『女神の森』外(ベ●べットカー)-ギル:通信中継点兼臨時拠点

 

 

 

「わー……隊長大丈夫? 何かこれ見ただけで大変そうだよ~~?」

(おかしいよ……何で隊長潜入しないのかなー……? というかココで隊長が救出に来ないとか……唯ちゃん知ったら泣いちゃうね、きっと! 正気なら、の話だけど)

 

「俺、ナナ、シエルで潜入かぁ……」(ナナが絶対ロクでもないこと考えてる)

 

「隊長……このギルの中継点とは何なのでしょうか?」

 

 ナナの疑問はスルーし、比較的マトモだと思われたシエルの質問にのみジュリウスは応えることにした。

 

「……前から言っているが、今回の行動は本部、極東支部に知られるのはマズい。

 だか、通常回線で通信を行えば傍受される危険性がある……その為、フライアでの秘匿回線を使うことになった。だが、秘匿回線はひどく不安定な通信回路になる……したがって、だ」

 

 べ●ベットカーにはデカいアンテナがついていた。

 

 

 

 

 

 

 

「お前まさかハッキングでもしようって言うんじゃねぇだろうな」

「人聞きの悪いことを言うな……ただ『少し』電波塔を拝借するだけだ」

「成程~だからフランさんがなんか不機嫌なんだね~~!」

「……では、誰かが電波塔に入り込まねばならない……ということですか?」

「そんなのシエルちゃんでイイじゃない!」

「そうだな、シエルに任せるよ!」

「……任されました! 電波ジャックはお任せ下さい!!」

「ついでに~シエルちゃんなら~感応能力使ってチョチョチョイって、『女神の森』内部にある監視カメラとかも覗けるんじゃないかな~? だってイマドキの精密機器で~オラクル細胞使ってない奴なんかある訳ないでしょー」

「……やってみます!」

「知覚能力ってホントすげぇなー」(期待してねぇけど)

「頑張ってね! シエルちゃん!」(ダメ元~~)

「期待に応えます!!」

「……」

 

 シエルは生真面目に敬礼の動作を取った。

 

 

 

 

 

「他に質問事項がある者は居るか?」

「あっ、そうです! 潜入組……ナナさん、ロミオはこちらを」

 

 敬礼していたシエルが何か思いついたらしく、横に持っていたカバンをゴソゴソと漁る。どこにでもある、布製の鞄であり、可愛らしく旧世界の動物たちがデフォルメされている絵柄が印刷されていた。

 年頃の少女が持つにふさわしい代物だ、と思って思わずロミオはほっこりとする。

 

 その中からはバレッド――オラクル弾丸が現れた。

 

 ロミオの笑顔が消えた。

 やっぱりコイツら……人間として根本的な何かがズレている……と確信した。

 

 

「ついに完成しました! これが……これこそが……! ブラッドの切り札ともなり得る物体、名付けてブラッドバレット(以下BB弾)です!」

 

「びーびーだん?」

「ブラッドバレットな。……なぁシエル、ブラッドバレットって何? っていうか何時作った?」

 

 

「よくぞ聞いてくださいました! それは……それはっ……あの日、副隊長が私の下から姿を消した日……私は無力感に襲われ、やるせない思いで一杯になり……副隊長への憧れと、憧憬とそして……。で、何か色々溢れ出しそうだったので射撃訓練に打ち込んでいた時でした!

 私は……気づいたのです……!

 同じでもいいんだ、同じだって……くっつくコトができるんだ……と! そう、私は副隊長は同じ女性同士ですが愛し合う気持ちさえあれば大した問題はないのです!! まるで……まるで……この……BB弾の様に!!」

 

 

 

 

「……シエルが何を言っているのか分からない件について」

「シエルちゃん……」

「……このノリ……ケイトさんを思い出すな……。

 ……で、シエル、このBB弾とやらは何だ? お前や副隊長、隊長の使う『ブラッドアーツ』の銃版だと思えばいいのか?」

「大体そんな感じです! 発射されたオラクル弾を感応波を使って威力を増幅させたもの、と考えてくれれば良いかと思われます。詳しい事はかくかくしかじか」

「なるほど分からん」

 

 あまりの専門用語の多さに歴戦の神機使い達はひざを折った。

 

 シエルの手から潜入班へBB弾のバレットが配布される。

 ナナが食い入るかのように、その弾丸を見つめていた。

 

 

「……ナナ? どうかした?」

「ん? ……ううん、ロミオ先輩……。何でもないよ、ただ……ただ、ね」

 

 両手で弾丸を胸の前でぎゅっと抱きしめた少女は、まるで……強い決意を込めるかのような強い口調で言った。

 

 

 

 

 

 

「コレを味方に撃つ……なんてことが起らないといいな、って思っただけ……」

 

「どうしてギルの方を向いてソレを言うんですか香月さん」

 

 

 

 

 

「えへへへへ~……んー? なんか目が勝手にギルを追っちゃったの~~。コレを抱きしめてるとね……なんだろう、胸がどきどきするんだ……」

「あ、それひょっとして殺意」

「こんな気持ち……私……はじめて……」

「紛らわしく言ったところで今までの言動は覆らねーよ!! もうバレバレなんだよ! やめなさい!! 特に今回はマジで!!」

「え~? だって撃ってみたいじゃない~?」

「味方に撃つのは回復弾だけだから!!」

 

 ぷくーっと頬を膨らませる似非猫耳少女。

 間違えなく美少女であるにも関わらず、その殺意は今日も高い。

 

「じゃあロミオ先輩! 私からもコレ~~プレゼント! 渡しておくからね~~!」

「要らねーよ……ん? 何だこれ……あぁ、いつもの精神破壊兵器(おでんパン)か。あとで捨てておくな」

「駄目だよー。コレはね~おでんパンだけど、ただのおでんパンじゃないんだからっ!」

 

 えへへ、と無邪気かつ快活な少女の笑顔。

 ソレを見たロミオは。

 

 

 ……背筋に悪寒が奔るのを覚えた。

 

 

「ナナ……何を……したんだ……?」

「え~? そんな……大声でなんて……恥ずかしいよぉ……?」

「言え……言いなさい……言うんだナナぁ!! 包み隠さず全部正直に言え!!」

「えぇー? そ、そんな声出さないでよー……ロミオ先輩……怖い顔してる……」

「1ミリも思ってねーこと口に出すな。後ろ暗いことがないなら言えるハズだろ!! つーか怒鳴られるのが嫌なら最初から余計なことすんな!!」

「ううん、後ろ暗いことなんか、なにもしてないんだから~~」

 

 

 その瞬間、ロミオ・レオーニは光の速度で理解する。

 

 あ、これ……絶対ヤバいモンだ、と。

 

 

「コレはね……おでんパンとおでんパンとおでんパン……その三体のおでんパンの融合の末に出現した『母印究極飯(アルティメットおでんパン)』……」

「お、おう……」

「その名も……『慈悲の一撃(ミセリコルデ)』……」

「名前からしてアウトーー!!」

「だって……だってね……!」

 

 ナナがそこでうっすら涙ぐむ。

 ほぼ確定事項で全然信用できない空涙であることが明白……なのだが、目の前で女の子に泣かれるとどうしてもたじろいでしまうのがロミオだった。

 

 

「唯ちゃんがね……もし、≪自主規制≫で≪自主規制≫な≪自主規制≫になっちゃってたら……可哀想なんだもん……」

「その時は私が副隊長を癒しで差し上げま」

「シエルちゃん、黙ってて」

「も……?」

 

 

「だって唯ちゃん……好きな人、居るんだよ? 絶対、はじめての≪自主規制≫だって≪極秘事項≫が良かったって思う……。分かるよ……だって……だって……っ……! 

 

 ……唯ちゃん、腐っても女の子だもん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、ヒデェ……何て言い草だ……!」

「ナナさん……地味に……今、副隊長の事を奈落の底に突き落としましたね……」

 

 

 

 ひどく冷静なツッコミ×2を無視し、ナナは(無理やり出した)涙で潤ませた瞳を、上目遣いにしながらロミオの顔を見上げ……。

 

 ……見るものが見たら抗えないであろう、悲し気な微笑みを作る。

 

 

 

 

 

「だからね……もし、そうなってたら……ロミオ先輩が……楽にしてあげて……?」

 

 

 

 

 

 

「嫌だよ!!!!」

「え~? なんでよーー? この人でなしー!」

「お前にだけは言われたくない!! お前にだけは!! 絶対に!! 言われたく!! ない!!」

「ドケチー」

「そうやって自分の手は汚さずに仲間を減らしてのし上がるつもりだろ!!」

「ちょっと~? おでんパンにそんな人間をコロコロするような物質は入ってません! 

 ただ、抗鬱と向精神作用と~……あとちょっと『幸せ』になれるだけなんだからね~~!」

「お前の幸せ怖いんだよ!!!!」

 

 ナナはかつて、おでんパンを喰わせて皆で突撃すれば怖くないとかいった内容の文書を書き残していたことがある。その内容を忘れるロミオじゃなかった。

 

「じゃあいいもん! 私持ってるから~~!」

「だ……! (おいやめろ冗談だろこんな奴にそんな劇物持たせておくとか……鬼に金棒どころか、核弾頭持たせるようなモノ! し、仕方ないここは……)

 わ、分かった!! お、オレが持っておく! 責任を持ってオレが使うよ!!」

 

 

 

「あっはーー☆ やったぁ~~! じゃあロミオ先輩イザって時はお願いね~~」

「…………分かった」

 

 

(……はぁ、どうしよう……こんな超兵器持たされても……唯にやる訳にはいかないし……けど、アイツ喰いかねないし……かといってアラガミに喰わせるわけにもいかないし……神機に喰処分させるわけにもいかないし……燃やしても有害物質出そうだし…………はぁ……)

 

 

 ヤバい所持品がドンドン増えていくことに頭を抱えるロミオだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~~~アブナァアアアアイ♪

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

『総員聞け!! コレは任務ではない――繰り返す、コレは任務ではない! 記録に残すことも、誰の目に触れることも許されない。

 だから――命令でもない、任務でもない。それでも守りたい大切な仲間を救い出す。

 たとえ神無き世界であろうとも――使命でなくとも、だ!』

 

『『『了解』』』

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『行くぞ、ブラッド隊――――第一回ピクニック、出動する!!』

 

『『『……』』』

 

「……締まらねぇ……ジュリウスェ……締まらねぇよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……じゃあ何と言えば良かったんだ』

『もっと他に言い方があったと思います』

『任務でなく、かつ神機の持ち出し申請が通るのはコレしかなかった』

『もっとさぁ……何というかさぁ~……』

『…………ハイキングの方が良かったか?』

『もういい隊長黙ってろ』

 

 

 

 

 

 

『ジュリウス隊長のせいで出鼻が挫かれました。ペナルティとして一定時間通信断絶です』

『ちょ、フランm……』ブチッ

『少し頭冷やしましょうか……見た目だけなら王子様なのにとても勿体ないですね。

 では、ギルさんCPO(コマンド・ポスト・オフィサー)として、何かありますか?』

 

 

 

『……え? 俺か……?』

『ねぇねぇフランさん! この場合のペナルティーは何~~!?』

『ギル! ここはビシっとお願いします!』

「……」

 

 

『分かった。CPから各員に告ぐ。

 死ぬな、死は最悪の選択だ。切り抜けろ、生き延びろ。そして……運が良ければ隙をついてぶっ殺せ』

 

 

 

 

「ソレ違う!! 似てるけど違う!!」

『ペナルティです。報酬から10パーセント削れます』

『やったーー!』

『お気の毒ですもwww』

 

 

 

 ロミオ・レオーニは悟りつつあった。

 

 本当の敵―――それはアラガミでもなく、『女神の森』でもなく……それは、背中を狙ってくる猫耳と、

 業務外のコトを突貫で覚えさせられ、寝不足でイライラしているオペレーターなのである――と。

 

 

 

『先鋒は私が!! 我に……続けぇええええええ!!』

 

 

「シエル気をつけろよー……」

『シエルちゃん先鋒だなんてカッコいい~~!』

 

 

 

 

 こうして、ジュリウス発案の副隊長救出作戦は――。

 

 

 ……幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ロミオは痛くなってくる胃を抑えながら不安と戦っていた。

 

 だが、この少年の様な青年はまだ知らない。

 

 

 

 

 ……本当の悪夢は、この先に待ち受けている――ということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   □■□

 

 

 

 

 

 

 

 『女神の森』には警報が響き渡っていた。

 

 燃え盛る炎。

 逃げ惑う人々。

 子供の泣き声、それを宥める声。燃え盛る自らの家を見つめながらも走っていく者。

 真面目で義務に忠実なのか、消火活動にいそしむ者。

 被害を少しでも少なくしようと、誰もが必死だった。

 

 

 

 

 

 

 その中を行く、なんやかんやで上手く立ち回るシエルの姿があった。

 

 

 炎と煙に塗れた街の中。

 

 頭部に見方によってはゴリラっぽく見えるゴツいマスクを被ったどこか貴族めいた服装の少女が全力疾走する様は嫌でも目立つハズなのに、非常事態故に誰も気にしてなかった。

 

 

 また、シエルも養護施設で教育された軍事教育の賜物か、隠密行動に秀でたシエルは特に怪しまれることなく、ある時は群衆の間を縫って、ある時は建物に隠れ、ある時は匍匐前進をしつつ巧みにすり抜けていく。

 

 やがてシエルは管制塔に辿り着いた。

 人は何故か居ない。

 おそらくこの騒ぎでこの拠点を置いて逃げていったのだろう。

 もしくは、別の緊急指令室へと移動したのかもしれない、どの道人がいないということは僥倖だった。

 

 シエルは素早く端末を操作する。

 

 設置されている監視カメラは全部で30台程あった。

 画像に素早く目を通し、目的のカメラを探す。

 

 

 そして。

 

 

 

 シエルは……見つけ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最愛の――『彼女』の姿を。

 

 

 

 

「……あ、あぁっ……!」

 

 

 

 

 

 まるで……何年も離れていたかの様な、錯覚。

 

 

 

 

 

「たい……ちょ……! ふく……隊長……っ!」

 

 

 

 少女は……指の先で、届くハズのない姿をなぞる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嗚呼副隊長……私……待っていたんですも……?

 

 副隊長……あっ、移動するのですか? 

 待って下さい……。ふぅ、よし、こっちのカメラで、……と。

 

 嗚呼副隊長! 行かないで下さい! 行かないで下さい! 私を置いて行かないで下さい……!」

 

 

 

 

 無意識に心から呟きが漏れていた。

 

 だが、それをおかしいこととは思えない。

 

 今、シエルの胸の内は……とても、温かいものでいっぱいだった。

 

 

 そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……愛おしいという、確かな気持ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嗚呼副隊長……ごめんなさい、貴女を守るって……局長と薄い髪の眼鏡から守るって決めたのに……!」

 

 

 

 副隊長、ともういちどだけ囁いて、シエルは液晶越しに唯の姿に触れた。

 

 

 

「今だって……すぐそこに……居るのに……。

 

 ……会いたい……

 

 

 でも……届かない…………っ! こんなに近くにあなたがっ! 貴女が……いらっしゃるのにぃ!!

 …………ふぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで、シエルは正気に戻った。

 

 

 

 

 

「……と、いう訳で、副隊長の居場所は確認しましたとも!

 さて、肝心な通信の方ですが。そうですね、大型の拡声器がふたつあります、か……。

 ……もー……」

 

 

 乙女チックモードから頭が冷えたシエルの脳はやっと通常速度で回転を始める。

 やっと当初の目的を思い出したらしく、彼女は自らの視覚能力をフル操作して通信機を探る。

 ナナの言った通りに……結局は今の時代オラクル細胞が使われていない機械はほとんどない。

 ならば、その活動が活発な場所を探ればいい――通常では、集中力と精神力を削る難易度マックスの困難な作業。

 

 

 最愛の副隊長を取り戻したいという『強い意志』を持った今のシエルは困難ですら――可能にするッ!

 

 

 

 シエルは携帯端末から、場所の情報を入力する。

 CPを経由し、フライアのオペレーターへと情報が届いた。

 数十秒後、フランからの返答が来る。

 

 

『場所情報把握。

 これよりハッキングを行います。

 ですが、ハッキング出来るのはどちらか一つです。

 もう片方の方はシエルさんの方で停止願います』

 

 

 簡素な内容。

 ハッキング出来るのは一つだけ。

 元々、通常のオペレーターにここまで求めるのも困難だろうに、フランも睡眠時間を削り、徹夜で作業をしてくれていたのだ。

 皆最善をつくしている。

 

 シエルは自分の携帯端末を掴み、ケーブルで接続し、ハッキングを開始しようと試みる。

 確かに難しいかもしれないが……大型スピーカーは真上にある。つまり、シエルが此処でハッキングを行い拡声器を停止されること――これこそが、『模範解答』とも言うべき行動だった。

 いくらか時間があれば自分にだって……。

 

 そこまでシエルは考えて、はっと気づいた。

 

 

 

 

 

 ――――『模範的』じゃなくっても……いいのだ……と。

 

 

 

 

 

 

 思い出すのは――あの赤い雨の記憶。

 

 あの時副隊長は、無茶をしてでも……自分を助けてくれた。

 あの行動は『模範』とは言い難い――最低、自分も副隊長も両方死んでいた可能性さえあるのだから。

 でも……あの時……。

 

 ……嬉しかった。

 

 

 ……とても……。

 

 

 

 ……暖かかった。

 

 

 

 

 そう…….

 

 

 ……今度は、自分が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シエルの中に、今、強い決意が宿る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   □■□

 

 

 

 

 

 

 

 

『わが生涯に一片の悔いなしィイイイーーーーーー!』

 

 

 

 

 

 という叫び声と共に、爆炎。

 潜入したブラッドの各員は、なんとなく何があったのかを……察した。

 

 

 

 

 

『シエル……逝っちまったか……』

「シエルちゃんリタイア~~!」

『……えー……装置を止めて下さい、と私は申し上げたのに…………どうしてこんなことになるのでしょうか、私が悪かったのでしょうか期待した私が馬鹿でした……畜生が』

『フ……フランちゃんは悪くないよ……』

『あ?』

『……フランさんには何の落ち度もないと思います』

『当然です。じゃあもう切りますよ、忙しいので』

「ちょ、ちょっと待ってーー! ロミオ先輩駄目ー! まだ肝心な情報を何も貰ってないよ!!」

『そ、そうだよオペレーター! まだ唯の居場所聞いてないよ! オレ達!』

 

 

 

 慌てるロミオ&ナナの通信に対し、オペレーターは。

 

 (見えないけど)にっこり、と満面の笑顔を浮かべて歯切れのよい声で、答えた。

 

 

 

 

 

 

 

『……昨今の神機使いは言葉遣いが大変荒れている様で……。

 口の利き方を……ラケル博士は……〝教育”し忘れていらっしゃる様で…………。

 ……そうですね、『次』のブラッド隊になる……ゴッドイーター達には……きちんと伝えておきましょうか……言葉遣いには、注意する様に――――と。』

 

 

 

 

 

 

 

「『ま、待ってぇええええええ!!』」

 

 

『何でしょう?』

 

 

『待って! じゃない……お、お待ちください!』

「先輩ー先輩ー!」

『あぁああ! もう! 分かってるよぉ! ……」

 

 フランは超不機嫌であった。

 突貫ハッキングの真っ最中であるにも関わらず、同時進行でオペレートまでこなさせられている――という激務に対し、クリティカルにキレているのが分かってくる。

 

 神機使い達は理解した。

 

 

 このオペレーターに逆らってはいけない――と。

 そう……力ある者には……ひたすら追従するべきなのだ――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………フラン様』

「嗚呼、フラン様!」

『……何でしょう? 私、忙しいのですが?』

 

 

 

 オペレーターの声は、まるでこれから屠殺させるであろう家畜に向けたそれと酷似していた。

 だが、末期の声に耳を傾けてはくれるらしい。

 そのスキを逃さずロミオは懇願に入る。

 そんな彼は、最早何と戦うべきで、何を守るべきなのかを見失いつつあった。

 

 

 

『フライアの誇る超オペレーターフラン様! どうかお慈悲を!! 我ら神機使い達が任……じゃないピクニックをこなせるように情報を!!』

「お願いします慈悲深く聡明なフラン様! この末端ソルジャーに一瞬で良いので耳を傾けて下さいませ!!」

『嫌だなぁナナぁ! め、滅多な事言うんじゃねーよ馬鹿ぁ! 完璧な超オペレーターなフラン様がオレ達現場の神機使いの声を聞き逃されるハズがある訳がないだろ!? で、ですよねフラン様!?』

「あ、あははははーろ、ロミオ先輩そうだよね~~! だ、だってフラン様は完璧で完全極まりない超絶オペレーター様なんだよね!?!?」

 

 縋るように紡がれる、神機使い達の渾身のおべんちゃらを聞きつつ、フランはいくらか気を良くしたらしく、返答に応じることにした。

 

 

『……仕方ないゴッドイーターですねぇ……』

 

 

 

 

 

『お慈悲に感謝いたしますフラン様!!!!』(もうやだ胃が限界)

「フラン様ありがとうございます!!!!」(帰ったらおでんパン、かなー……)

 

 

 

 

 

『副隊長の居る場所は地下の様です。具体的に言いますとこの辺です』

「地下だったってー! はいロミオ先輩ビンゴ~!」

『オレか……。

 

 

 ……オレかぁ…………

 分かったよ……行くよ……』

 

 

『ジュリウス隊長からの通達です。各員、プランBに変更。全員注意して任務に当たって下さい』

『え』

「りょーかーいっ!」

 

 

 プランB、と聞いた後のナナとロミオの反応は真逆のものだった。

 

 

 

 

『え……ちょ……プランBて……プランBって……』

『私はフランです』

『フラン様……あのラケコンはマジでプランBをやると言っているのですか!?』

「おっけー!プランBに移行しまーーっす!」

『……マジ……かよ……?』

『中央コンピューターのハッキングに成功。以降、通信を解除します。

 これより秘匿回線から通常回線に通信を戻します、各員コードネーム使用に注意してください!!』

『コードネーム……』

「あっはははは……ロミオ先輩……でもここは空気読んでね~~!」

『分かってるよぉ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……お返事は?』

 

 

 

 

 

 

『「完璧なピクニックを実行してご覧に入れましょう、フラン様!!」』

 

 

 

 

『よろしい。ならばピクニックだ。

 

 では、通信切り替わります5秒前、4,3,2……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(フランさん不機嫌だけど仕事はちゃんとこなすあたり流石~~! あとはロミオ先輩次第って感じだねー……。

 ……じゃー私もちゃんと任務……じゃなかった、ピクニックしないと!!)

 

 

 と、物騒極まりないことを決意しながらガッツポーズをかます彼女の姿は。

 

 

 

 肌の露出の多い、ピンク色の服。

 手には大きなサンタクロースの様なズタ袋。

 そして頭には謎の仮面。

 

 

 

 と、まるで……どう好意的に見ても変態の一種であるかの様だった。

 

 

 

 そこに避難中なのか、手をとりつつ小走りで通り過ぎようとする親子の姿があった。好奇心に勝てなかったらしい、子供がナナの姿を指さす。

 

「おかあさーん! 仮面のおねえさん……? がいるーー!」

「み、見ちゃいけません!! は、早く中央シェルターまで逃げるわよっ!!」

「で、でもおかあさん……あのおねえさん?も早く逃げないと……アラガミが……」

「……。

 ど……どこのどなたか存じませんが早く貴女も逃げないと大変よっ!?」

 

 

 

 

(おぉーーてっきりスルーかと思ってたら意外といい人ーー?)

 

 

 

 

 こんな時代だからこそ――――人は、人に、親切にできるのかもしれない。

 

 こんな状況であったとしても――――人は、人として、無くしたくないものがあるのかもしれない。

 

 

 

 多少どころかかなり動揺しながら出来るだけ目線を合わせない様にしてくる母親とおぼしき中年女性に、ナナは(仮面越しに)話しかける。

 

 

 

「ご心配なーく! 私ならだいじょーぶっ! それよりそれより~中央シェルターってーどっち? あーそっちなんですかーー!(じゃあこの後もこの道、沢山人通るよね~)

 あとー! あとあと~~そこに大きいスピーカーがあったりしますよねー? え? この街で2番目に大きいスピーカーがある……」

 

 

「そんなことを聞いてどうするの? いいから早く逃げないと……」

 

 

「じゃあコレ持ってってくださーい!」

 

 

 ナナはその母親らしき女の子供の手を握ってない方、つまりは開いている方の手に強引に、ビラを押し付ける。

 そのビラにはハッキリと大きく文字が書かれていた。

 尚、使用言語は極東地域共通用語と英語の二か国語表記。

 

 

 

『ゴッドイーターはもう要らない! 集え!!

 

 神機兵搭乗志願者募集!!』

 

 

 

 

 

「え? えぇぇ……? な、なにこれ? 何か既視感が……」

 

 

 

「あと、こちら無料で配っております神機兵用携帯食料のサンプルの~~……『携行おでんパン』でーす!

 ミニチュアサイズのおでんパン! どうぞどうぞーー!」

 

「え……えぇー……? こんな配給食貰ったことないんですけれど……?」

 

「最新作です! 避難所でアラガミが怖くて眠れない夜はありませんか? または逃げなければならない状況なのに足がすくんでしまうことはありませんか? でもこれがあれば大丈夫!!

 不安や恐怖を勇気と幸福に変えてしまう最強の携帯食品~~! 今なら何と無料です!!」

 

「……」

 

 

 

「ちなみに使用されているコムギは有機栽培かつ本物なので成長期のお子様にも安」

「貰います」

「おかあさん……これ……ほんとうに大丈夫なの……? こ、このおねえさん……信じるのー?」

 

 あからさまに戸惑う親子にビラとおでんパンを渡したナナは、通信で連絡を入れる。

 そして、何か(ロクでもない)決意を秘めたような瞳で、スッカリ曇った空を見上げた。

 

 

 

「ロミオ先輩……あとは、頼むからね……!」

 

 

 こうして、少女は。

 

 

 

 その避難路でひたすら、一心不乱に、ビラとおでんパンを配り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 もう死んじゃおっかな。

 

 

 

 ……本気でそう思った。

 

 

 

 

 

 

「も、もうやだ……」

「あ?」

「も……もう無理……本当無理……コレ以上やったら私……死……」

「し?」

 

 

 

 

 

「もう鶏の餌やりは嫌なんですぅうううううう!!!!」

 

 

 私の格好はヤベェことになっていた。

 散々突っつき回されたせいで、所々破れた作業着は替えが無いとかいう理由で着替えさせてももらえない。

 しかもあのクソ……もとい、おにわとり様方は所かまわずに食べたら出す、という行為をなさるので、袖やズボンの裾はもう……もう……。

 おわかりいただけたでしょうか。

 

 

「頑張れ女の子」

「だ、大体皆さんは何処に行きやがったんですか!? 何でみんな居ないの……!?」

「そらさっきアラガミ警報鳴ったからだ」

「……は? 何それガチじゃん。……え? じゃ、じゃあ私どうなるんです……?」

「あんたゴッドイーターじゃん、どうにかならんの?」

「…………私は神機を今持っていませんよね……?」

「……うん、持ってないね」

「………………人工的に調整された生体兵器を操る兵士がゴッドイーターなんですよね……?」

「そうですね」

 

 

 

 

「……つまり……ゴッドイーターとは……神機なんです!!」

「…………」

 

 

 

 

 

「急なお話ですが味噌汁をご存知ですか、知らなきゃカレーでもいいです。思い浮かべなさい。

 アラガミを倒す手段とはすなわちコアと呼ばれる『指令細胞群』を抜くコト! もしくはぶっ壊すこと! それに通常攻撃は通用しませんつまり同じオラクル細胞性の武器でなければ通りません!

 そもそも神機とは毒を以て毒を制す理論でアラガミを以てアラガミを制するためのもんです!!

 そして現時点じゃ残念ながらアラガミのコアに対して一番有用な武器です!!

 

 

 いいですか……神機とはすなわちゴッドイーターの本質! ゴッドイーターこそが神機! 神機なしでゴッドイーターは有り得ないケド……ゴッドイーターは神機使いナシでも成り立ったりするんです!!

 今の私はーー! 今の私は――――!! 味噌の入っていない味噌汁! ルーの入っていないカレー!!

 

 そう、つまり――――ただの煮物です!!!!」

 

 

 

 

「……すごく……おいしそうです……」

 

「結論! 今アラガミに来られたら……闇の労働の鎖で繋がっているこの工場まで燃え尽きちゃう!」

「お願い死なないで神機使い! あんたが今ここで倒れたら総統や人民との約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、アラガミに勝てるんだから!」

「次回!私死す!!――そうゆうコトです!!」

「ドンマイ」

「こ、こんな場所でそんな情けない死に方嫌だぁああああ!! だ、大体……私死んだら大変ですよ!! 貴方確実に喰われますよ!? しなばもろともーー!!」

「そん時は一緒に死んでやる」

「何そのイケメン……ですが今はそんな要素いらねーよ!!」

「悪いな職業任務には忠実なんだ」(コイツが喰われている間に逃げる時間があると俺ワンチャン)

 

 

 その時、私は察した。

 あ、コイツ……ナナちゃんと同じタイプの人間だ――――って。

 

 

「このクソ野郎がぁあああああああ!!」

 

 目の前の警備兵その1のミゾオチを思いっきり蹴り上げるー!

 そう、始めからこうしておけばよかったんだ……。

 手錠はあるけど蹴れるじゃない。神機はないけど、オラクル細胞があるじゃない。

 そう……改造人間が……生身の人間に――負ける理由は何処にもない!!

 

 

「甘い」

「と、取られたぁ!?」

「そぉい!」

 

 相手の格闘技術は遥かに私より上だったようだ。

 

 ……ですよね……。

 

 いくら改造人間とはいえ……私……数か月前まで……。

 

 …………ただの学生だったんだから……。

 

 

 

 

 と、何もかも諦めかけたその時。

 

 

 

 

 急に警備兵その1さんがぶっ倒れた。

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 白目剥いて口から泡吹いているので、どう見ても気絶していることが分かる。

 まさかこのタイミングで運よく都合よく鉄骨が空から降ってきたのかな……? などとアホめいたことを考えるけど……まぁ当然そんな訳もなく。

 

 

 代わりに見えたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭部に、神機兵の頭がついていた。

 

 

 頭部に、神機兵の頭がひっついていた。

 

 

 

 

 半ば狂気じみたその武装――――。

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあああああああああああああ!?!?」

「お、おいコラ騒ぐなって! オレだよ!! オレ!!」

「だ、誰!? い、いきなり何ですかぁ!? 不審者氏ですか!?」

「違う!!」

「や、やだ……来ないでぇ……! それ以上こっち来たら通報します!!」

「何処にだよ……」

「うっ」

 

 ぐうの音も出ない。

 

 変態マスクマンはそうすると何か腕をこっちに向けて指さしている。

 ……よく見るとどっかで見覚えがあったようなシロモノでないこともない。

 

 

 

 

「ほらコレ! ブラッド特製! フライア印のP-66アームドインプラント!『P66偏食因子』を媒介とした、神機に対する神経信号の伝達と神機使いの神経に接続された神機の『オラクル細胞』の制御を担っているスグレモノだよ! 無くすと死ぬ超クソアイテムだこのボケェ!」

 

「あ、あれ? この会話どっかで……」

「だからオレだっつってんだろ!!」

「ま、まさかその鼻に突く声は……! マサカ……ロミオ先輩……?」

 

 

 言われてみれば……。

 

 このマスク野郎の身に着けているオレンジ色っぽい短めの上着は確かにロミオ先輩が着用していたソレとよく似ている。むき出しの神機はロミオ先輩の大剣に見える。

 うっかりいつものニット帽がないから分からなかったようだ。

 

 ロミオ先輩も改めて私の格好を眺めているんだろう。表情を感じさせないそのマスクがこっちをマジマジと眺めている。

 

 

 

 

 

「「……何、やってたの……?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まぁ無事だな!? 再会できて良かった! よっしゃ逃げんぞ!!」

「え、えぇ……? そんなことを言いましても……」

 

 困惑する私をよそに神機兵頭なロミオ先輩は通信機のスイッチを入れる。

 一体どうやって通信してるのかは不明かつ割愛。

 

 ロミオ先輩は神機兵マスクでも分かる程――ガックリと1,5秒ほど首を落とし、そして、何か決意をするかのように顔を上げた。

 これから通信するだけだってのに何でそんな儀式が必要なんだろう、という私の疑問は。

 

 

 ……この後、すぐに解かれることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ――こちらショタ枠!」

「ショタ枠!?!?」

 

 

 衝撃の発言。

 

 

「ショタ枠!!??」

「黙れ」

「……す、すみません……し、ショタ枠先輩……」

 

 ダメだ……堪えるんだ……!

 

 

 ここで笑ったら……ロミオ先輩は確実に私を放置して逃げるでしょうから……!

 

 

 

 そう、ロミオ先輩を傷付けちゃいけない、きっと今頃ヘルメットの下は真っ赤な顔&涙目なコンボを決めているハズなのだから。

 ロミオ先輩だって恥ずかしいんだから……!

 

 

 と、考えていた私は――――甘かった……。

 

 

 

 

 

 

 

『こちらシルバーバック。感度良好。どうぞショタ枠』

「シルバーバック………………!?」

 

 

 

 シルバーバックとは。

 

 成熟した雄のゴリラに見られる特徴の一つ。

 背中の毛が白くなる現象である。

 そこから転じてゴリラの群れのボスをつかさどる用語としても使われる。

 

 

 

 

 ……ブラッドのマスコット枠、ゴリさんは、シルバーバックとなったのだ……。

 

 

 

「し……しょ……ショタ枠からシルバーバックへ……。

 

 

 

 『防水チキン』を確保した! 繰り返す! 防水キチン確保!」

 

「!?!?」

 

『了解、ショタ枠よくやった。ピクニック会長とおでんPに通達しておく、通信終了』

「……頼んだ、通信終了」

 

 

 

 

 ピッ、と通信を切ったロミオ先輩は、おずおずと私の方を向く。

 

 

 

「……えー……副隊長……」

 

「…………防水……チキン……?」

 

 

 

 

 防水チキンて……。

 

 防水……チキンて……。

 

 

 

 

 

「あ、あのさ唯……コレな……。その……。

 通信をな……共有したから……潜入捜査員も傍受できるよーにって……。

 ……だけど盗聴の可能性も考えてさ……ほ、ほら、誰が誰だか分かったらダメじゃん……?」

 

 

「……防水……。鶏……」

 

 

「しょ、しょうがないだろぉ! 

 いつものコールサイン使っちゃ駄目だったんだよ!!!!」

 

 

「………………ぼーすい……ちきんェ……」

 

 

 

 ……ひどい。

 

 ……こんなの……こんなのって―――ひどすぎるよ……フライア……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみにコールサイン命名したのジュリウスだから。お前のコールサインはジュリウスがつけた奴だから」

「……」

 

 ……え? なにそれ……。

 

 ロミオ先輩が何を言っているのか理解できない――思考が停止し、脳内の何もかもが真っ白になった。

 しばらくして(実質30秒後)、重なっていた思考が一つに収束を果たす。

 

 

 

 そんなのって……。

 

 

 

 ……そんなの、って…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長……隊長が……」

「うん……」

「隊長がそんなコトするなんて……!隊長……それって……。

 

 

 

 ……私のことちゃんと見ててくれた、ってことですよね…………!?」

 

「……は?」

 

「……ソレじゃあ……私隊長の視界には入っている、ってコトですよね!!」

 

「おい」

 

「良い人生だった……」

 

「しっかりしろ唯!!」

 

 そこでヒットするロミオ先輩の顔面ビンタ。

 

 

「い、痛い……」

「あ、ゴメン! ゴメンな……唯だって一応、女だったよな……」

「一応……一応って……一応……」

 

 物理より心に来るダメージ。

 

「だって……だってだってだってぇ……良いじゃないですか……全く無視のスルーされてるよかマシじゃないですか!!」

「いや……無視って訳じゃねーけど……この場合好感度マイナスだぞ。まだ視界に入ってないゼロ段階の方がマシじゃね?」

「黙れ自称ショタ枠!」

「自称じゃねーよ!! 好で言ってる訳ねーだろ!! この防水鳥女!」

「愛の反対は無関心ーー! だったらその辺のハーブだとか雷石だとかに思われていた方がまだいいんですぅ!!

私はココ来て悟ったんだ……人間、小さい所で、日々の暮らしの中で、何気ない幸せを見つけていくことが大切なんだって!!」

「正論の使い方間違ってるぞ」

「だからいいんですーー! 私……私はもう……!

 ここで、この地下で……この先もずっとずっとずっと……トウモロコシの皮剥いてコンベアに流して皮剥いてコンベアに流して鶏に餌付けして突っつかれて年喰って人生終わっていくんですぅううう!!」

「こんの馬鹿ぁあああああああ!!」

 

 ロミオ先輩が胸倉を掴みあげてきた。

 顔は相変わらず神機兵ヘルメット装着のままだ。

 だが、声は熱かった。

 

 

 

 

 

 

 

「お前は――お前は――――ッ!

 

 何のために……ゴッドイーターになったんだ!!??」

 

 

 

 

 

 

「そ、それは……」

 

 

 適合通知書が来たから……。

 

 と、答えようとしたが――――思わず口をつぐんだ。

 

 

 違う。

 そうじゃない。

 

 今、ロミオ先輩はそんなことを聞いているんじゃない……!

 

 

 

「お前は――アラガミを倒すために! ゴッドイーターに! なったんだ!」

「そんなコト一言も言ってな……」

「分かったら―――こんなクソみたいなドン詰まりの人類の状況――覆してやれ!!」

 

 

 それは、天啓のようだった。

 

 

「覆す……」

 

 そうだ。

 ……私も、そう思っていいんだ。

 

 ずっとずっと無理だと思ってた。

 不可能だって、思ってた。

 

 でも、違うんだ。

 

 

 出来るとか、出来ないとかじゃない。

 

 

 私だって……そう思ってよかったんだ。

 

 

 自信も根拠もなくていいし――未来の展望だってまるで見えなくても――。

 

 それでも。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――考えるだけなら、自由だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 なんで……きづかなかったんだろう……。

 ……今まで……ずっと……。

 

 

 

 

「分かりました……分かりましたよショタ枠先輩……! 私行きます! 皆の所に……帰るんだ!」

「お、おう……。じ、じゃあさっさと帰るぞ!」

「その為にはまず神機の奪還……でもソレが何処にあるのか分からない!!」

「うーん……ソレな。そっちの方はそっちの方でどうにかなる手はずはあるんだけど……」

 

 と、やっと前向きになっていたところに。

 

 

 強制的に通信がはいる。

 

 

 

 どうやらコレはネモス・ディアナの共同回線――つまり避難所にあるであろう、『この街で一番デカいスピーカー』から発せられた通信だという事が分かる。

 もしかしたらアラガミの動向か、極東支部からのゴッドイーターの派遣か……地上の情報を知らせているものかもしれない。

 と、思って注意深く聞いてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『立ち上がれ人民達よ!!!!』

 

 

 

 

 

「「は??」」

 

 

 

 

 何が始まったんだろーか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   □■□

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、避難所に集まった『女神の森』の人民達は公共放送にスイッチが入るのを見ていた。

 巨大スクリーンに何やら人影めいたものが写っている。

 幾度もアラガミの襲撃に耐えてきた為、傷んでおり、荒い画像ではあったが、人々はその姿を確実にとらえることが出来た。

 

 

 それは、見るモノたちに圧倒的なまでの違和感と、どこか冒涜的な錯覚さえも抱かせる――――

 

 

 

 

 変な仮面を被った男の姿だった。

 

 

 

「なんだ……アレ……?」

「あのマスクどっかで見覚えが……」

「おでんぱん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『立ち上がれ人民達よ!!!!』

 

 

「「「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」」」

 

 

 

 まさか喋ると思わなかった為、声を発しただけでこの騒ぎである。

 ちなみに、そこに居る殆どの人間がその声が青年期以降の男性の声だと気づいただろう。

 

 

 

『我々は実に多くモノを奪われてきた! 家を、家族を、平穏な日々を。

 そして武器を持つことを許された限られた者たちの救いの手が気まぐれに差し出されることをただ待つしかできなかった。

 そんな現状でいいのか? 満足か? 悔しくないのか? 

 聞こう人民たちよ……そんな世の中でいいのか!?』

 

 

 一部の少数の人間たちは、なんかどっかで聞いたことがある演説だなーと思ったが。

 殆どの人間は画面に釘付けになっていた。

 その圧倒的意味不明のカリスマ性に。

 

 

 

『否! 断じて否!!

 

 長きに渡った屈辱の日々は此処に今終焉を告げる!

 今こそ雪辱の時は来た! 団結せよ人民達!立ち上がれ!

 強い意志の前ではアラガミなど最早敵ではない!!

 己の力で自らの守るべきものを守れ! 人には皆その力が備わっている!! 

 

 人民達よ、武器を取れ!!

 今こそ人類の敵に立ち向かえ!!』

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『女神の森に――真の楽園に――――! 勝利をぉおおおおおおお!!』

 

 

 

 

「「「Ураааааааа!!」」」

 

 

 

 

 

 

 と、いう訳で何やかんやの末。

 

 『女神の森』に住まう人民たちは戦えと言う言葉に深く共感し、何故か『アラガミと戦わないといけない』という半ば強迫観念じみた狂気的闘争心に火が付いてしまった。

 ありとあらゆる武器庫を漁りだし、極東支部から自衛用に、と支給されていたスタングレネードや音響弾、ついでに足止めくらいの効果ならば多少ある偏食因子を練り込んだ弾丸入りの銃器などを勝手に、だが迅速かつ規律正しく配布し始めた。やればできる市民たちだった。

 

 

 

 

 という状況が起っていると恐らくは分かっていない、ブラッド仮拠点のベ●ベットカーを操縦する男が一人。

 

 

「シルバーバックから各員へ、内の人民達の誘導は大体終わった!」

『ショタ枠からシルバーバックへ。何してんだテメェエエエエエエエ!!』

『防水チキンからシルバーゴリラへ! 何したか分かってんですかあなたという人はーーー!』

「……っ! 無事だったか防水チキン。本当に……本当に……お前が無事で……良かった……っ!」

『人が好いのは分かりましたけど今! あなたは!! 取返しもつかないような大罪を犯したんですよこの……東ローランドゴリラ!!』

『耳元で怒鳴るなよ鶏汁女! だけど異論の余地もない! 何てことやらかしやがった大猩々!!』

 

「何って……『避難者たちがそこから動かない内に宣伝にやっとけ』って言われたからやった。それだけだ」

 

『馬鹿じゃねーの!? ねぇ馬鹿なの!?』

『宣伝? 大演説の間違いではないのですか同志!?』

「過大評価だろ」

『てゆうか……今のまさかアドリブかよ……』

『ゴリさん間違えなく才能の使い方間違えてますよ……?』

「何言ってんだ」

『駄目だコイツ……早く何とかしないと……』

『あなたが神か……!?』

 

「まぁいいだろ、何にせよ今ので人民は下手に動こうとはしないハズだ。つまり衆目のからは逃れたってことになる、お前らはさっさと例のブツを取って来い」

 

『『ねーよ!!』』

「何が」

『今ので下手に動こうとしない奴なんか居る訳ねぇよ!!むしろ殺る気に溢れるだろ常考』

『ショタ枠先輩コレってFのOさんに繋がりますか!?』

『CP経由じゃないと無理』

『シルバーバック! 早くコレをあの『無駄にデカくてやたらと動く船』に繋いでください!!』

「もうやってる、切るぞ」

 

 まだ回線外で何か言いたそうにしていた副隊長とロミオを無視して、ギルバートはさっさと通信を切り替えた。

 オペレーターはもはやゴニョゴニョと譫言を言っていた。

 

『今こそ革命の時来たれり……立てよ人民、武器を取れぇ~……』

「オペレーター、次の指示を頼む」

『了解しました我らが指導者マクレイン。……急きょ予定を変更しましてプランはΔに切り替わります』

「…………と、いう事は……出るのか、アレが」

『はい、お察しの通りです……出ます、アレが」

 

 

 分かった、通達しておく。

 

 というギルの返事には奇妙な緊張感が含まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 ネモス・ディアナ北門付近にて。

 

 

 小型が無数、中型のアラガミがそれでも数十体ほど集っていた。

 

 その上を、滑空してくるのはフェンリルの軍用ヘリ。

 

 

『聞こえますかパイロット、あと20秒後アラガミの真上に降下します!』

『了解! 計器チェック問題なーーし!』

『ご武運を!』

 

 

 ヘリの上空から見えるアラガミたちは壮観だ。

 

 ここから射出されれば、直線上にいるアラガミ達を一気に屠ることができる。

 そう考えると――思わず『食欲』をそそられるような光景であった。

 

 

『よーく聞いとけ……アラガミ共……アンタらに恨みはないが、今そこに居られるとクッソ邪魔だからブッ殺させてもらうが恨むんじゃないぜ?

 世の中には、舐めてかかると痛いものが二つある……』

 

 無理やりつけたターボジェットに火がともる。

 一度しか使えない射出機――――それが点火し、上から宙づりになっているがゆえに上空に浮かぶその巨人がもつ大剣が銃器へと姿を変えた。

 

『それはな……操縦もできるエンジニアと……』

 

 銃口が、真正面の中型種へと――向けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本気を出した……シスコンだよ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神機兵γ、クローン。

 

 

 ――――出撃。

 

 

 

 

 






あだ名で呼び合う仲良し部隊、ソレがブラッド隊。

今更ですが、コールサインです。


防水チキン:主人公
ピクニック会長:ジュリウス
ショタ枠:ロミオ
おでんP:ナナ
シルバーバック:ギル
もっさん:シエル





次回、『ペ●ソナ作戦壊滅編』

なるべく早く頑張って投稿します。


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