ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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phase08 初陣(後編)

  ◇◆◇

 

 

 

 耳元に響いてきたのは悲鳴のようなオペレーターからの通信だった。

 

『緊急事態! 想定外のアラガミが作戦区域に乱入! 小型……いや、中型!? ものすごい速度でそちらに接近中! 注意してください!』

 

「帰投前に何か来ちゃったぁああーーーーっ!」

「どうしますー? 隊長ー」

 

 私たちはジュリウス隊長に指示を仰ぐ。冷静に見えるナナちゃんだが、内心の動揺をどうにか抑え込んでいる、といった感じであり……私と同じく一杯一杯。

 

「ブラッドー01了解、迎撃する。ナナは下がって神機のクールダウン。唯は援護射撃体勢!」

「ブ、ブラッドー03了解! もう来ないでよ……!」

 

 無線の先でオペレーターのフランさんが信じられない、有り得ない、と繰り返している。その件に関しては本当全く同感だ。

 

『あと200メートル……来ますっ!』

 

 唾液腺から湧き上がってきた固唾を飲み込む。

 自分の呼吸音と拍動ばかりが妙に大きく聞こえ、神機にかけた指が小さく震えた。

 

 その時――。

 

 岩の影から何か・・が動いた。

 脊髄反射で、弾かれたように指に力がかかり、セットしていた強襲系で一番威力の低い弾丸――通常連射弾が放たれる。

 

「ダメ!」

「うわぁっ!」

 

 咄嗟にナナちゃんが槌型神機を横薙ぎに振るい銃口へと当てる。ギリギリで狙いからズレた弾道は少しだけ狙った射線を外れていった。結果あらぬ方向に飛んで行ったがそれが正解だった。

 

 標準の先に居たのは人、どうみても子供だった。

 

「な……!」

 

 何だってこんなところに人間がいるのか。

 怒りとも焦りともつかない疑問がせり上がる。ナナちゃんのお蔭で命中こそしなかったものの、衝撃を受けて子供は倒れ込んだ。纏っていたボロ布が地面に広がる。

 

「ブラッドー01からフライアへ! 要救助者一名! 繰り返す、要救助者子供一名! ナナ確保に行け!」

「04了解! 香月ナナ行きますっ!」

 

 クールダウンを一時的に中止した少女が走り出す。

 先ほどのコトで混乱気味の私だが、それでも体は勝手に動いた。ほぼ直感的に燃焼系のバレッドチップをセットする。

 今、もしナナちゃんの機転が無かったら……人を撃ち殺していた。

 その現実にぞっとする。しかし、ひとまずは放置。後で死ぬほど自己嫌悪するとしよう。

 

 目の前の岩や鉄骨が弾け飛び、大量の砂塵が中空を覆う。そこから先ほどのオウガテイルなんぞよりも大きい……下手すれば4,5メートルくらいありそうな『人型』のアラガミが姿を現す。

 

「04からフライアへ! 標的、目視5メートル! シユウ骨格系アラガミですっ! ノルンの照合を願います!」

『フライア了解』

 

 すぐにフライアからフェンリル社のデータベース『ノルン』内にある、シユウ骨格系アラガミの情報が送信。そのまま網膜上に映し出される。

 データ照合と状況報告は後衛の役割、というのは叩き込まれた教本戦術通り。

 片っ端から照合していく。通常種、堕天種は外れ。

 

 だとすると……、あまり考えたくはないが第二種接触禁忌種セクメトか感応種か。そう思いひたすら照合作業を続けていく。

 

「……全部、ちがう……」

 

 もたらされたのは最悪の結果。

 頭の上から冷や水を浴びせられ、血液がサーッと下がっていくのが良く分かる。

 

「し、新種です! データベース外! も、もぅ……ダメだぁあぁーー!」

「黙れ! 俺がこいつを抑え込む! 援護しろ!」

「はいぃっ!」

 

 確かに言われてみるとシユウっぽくない。

 よく確認されるシユウは下半身が甲殻で覆われており、金属質めいた硬さを持っているはず――だが、そいつは見たところ、そうではなかった。

 

 配色は全体的に黒。そして『お肉』っぽかった。姿かたちはどこか蝙蝠を思わせ様な人型のフォルム。ただし、シユウ種の特徴である大きな翼手が左右で異なっており、左翼は通用種と同じ様に長くて金属っぽいものになっている。

 問題は、右側。白い骨片に赤黒い肉がごべりついているような……出来損ないめいた翼。

 

 言っては何だが、この神様には綺麗さもなければ優美さもない。ただ、醜悪でおぞましいだけだった。

 

「落ち着け。対シユウ戦マニュアル通りでいい! とにかく動くぞ!」

 

 隊長の腕輪から作戦指示が送信され、そのまま網膜上に投影が来る。

 多分、予め用意されていた対シユウ用の作戦だったのだろう、しかしこの状況でないよりはマシ、と判断されたものだと読み取ることができる。その理由はわりと簡単。

 味方を表すフラッグに『ロミオ』の名前が入っていたからだ。

 

「ここにロミオ先輩居ないのにっ……!」

 

 居てくれればどれほど良いだろう。

 

 黒シユウ(仮)はマトモな方の翼を大きくしならせ、そこから大ぶり攻撃が来る。

 その範囲内に入っていたナナちゃんはあわてて装甲を展開、『壁』ともいわれる分厚いタワーシールドは重さの分、攻撃と衝撃をきっちり防いだ。

 一方、ジュリウス隊長の方はギリギリで攻撃の軌道を読み、紙一重で躱す。

 

「すごい……」

 

 そのまま地を蹴り、跳躍。

仮面で覆われたような鳥人の顔面めがけて大剣を空中で斬り上げ、そのまま全体重を乗せて振り下ろす。 その渾身の一撃は黒シユウの組んでいた腕をすっぱりと切断。

 隊長は着地途中で銃形態に神機を切り替えた。それを確認した私も続いて走りだす。あまり自信はないけど、もうやるしかない……!

 

 燃焼系の爆裂弾を選択。

 

「当たってっ!!」

「おぉぉおおっ!」

 

 神機内で弾が生成され、軽く熱を帯びる。左手でつかんだ取っ手に熱さを感じたが、手を離すわけにはいかない。

 私と隊長、二つの強襲銃が同時に掃射。

 

 連射弾とは比べ物にならないほどの大きな反動をうまく殺すことができず、肩から肘にかけて焼かれるような熱さと激痛が奔る。痛いの熱いの疲れたの三重苦で泣けてきた。できることなら泣きたい。

 もうやだ、はやく帰りたい……!

 

「どうだ……!」

 

 けど、その甲斐はあった。

黒シユウの撃たれまくった下半身は真っ赤な血……らしき液体がポンプを捻ったみたいにドッバドバと流れ出している。もし、人間ならばこのまま放っておけば失血死してくださることだろう。仮にも人型ならばアラガミもそうなればいいんじゃないかと願う。

 

 ――が、鳥人アラガミは反転していくと、そのまま傷を抱え、何ともあっけなく立ち去って行った。

 

 

「え? 逃げた?」

「……逃したか」

 

 柄にもなく、舌打ちまでかますうちの隊長さん。

その表情はどことなく剣が濃い。……子供が見たら泣きそうなレベル。

 

「……あ」

 

 子供、で思い出した。いや忘れていたわけではないが。急いでナナちゃんの居る方向へと向かう。

 

「大丈夫!?」

「まぁ……何とか平気みたい」

 

 見る限り、二人ともケガはなさそうだ。そのことに安堵する。

……そして、私の肩はまだ痛い。何だかさっきから鈍痛がずーっと続いているし、手の痺れはまだ取れない。バカスカ撃ちまくったせいで目にエンメルトの法則よろしく残像がこべりついているし、キンキンと耳鳴りまで鳴り出す始末。

一体私のなにが悪いんだろうね。戦い方でしょうかね。それとも皆毎回これくらいの思いをしてるのでしょうか。

 とりあえず、先ほど転ばせてしまった子供さんへの罪滅ぼしとして手を差し出す。子供はお膝を擦りむいてしまったらしく片方の膝を庇いながらしゃがみこんでいた。

 満身創痍は隊長以外みんなそうだよ。よし、お姉さんと一緒に回復錠飲もう。と、立たせてあげようとしたその時

 

「触んなっ!」

 

 激しい威嚇と怒声が響き、残酷なほど明確な拒絶を向けられた。

 一体私が何をしたというのか。

 

 そうか、この子を殺しかけたんだっけ。

 

「あ、さっきはごめんね~……だけど悪気があったわけじゃないんだよ信じてくださいぃ!」

 

 子供にまで頭を下げる、多分フライア一頭に価値のない女、それがこの私! 神威 唯! 

 ……ダメだ、開き直ったら死にたくなってきた。

 

 子供さんには完全にドン引きされて距離までとられる始末。自分の価値とはいったい何なのか改めて考えさせられるからそうゆうのはやめてほしい。

 

 本当冗談抜きで、心から。

 

「隊長……さっきの駄菓子もう一個持ってませんか!? アレを献上するんです! 賄賂を贈って気を引けば……!」

「私、それは人間としてどうかと思うけど?」

「ナナちゃんのおでんパンだって似たようなものじゃない!」

「もしかして……喧嘩売ってんの?」

 

 ヘソ出し猫娘の声は、氷を思わせる冷たさだった。

 隊長はあるかも、とか言ってゴソゴソと上着や薄手のトップスのポケット、ズボンとボトムスの間やポーチの中を捜索してくれている。前から思っていたのだが……隊長の無骨貴族服の構造は割と複雑怪奇。

 

「うっ……」

「うわぁ?!」

 

 子供氏、体幹バランスを崩し本日二度目の転倒。可愛らしいおでこを地面にたたきつけてしまったため良い音がした。軽い身体が傾いて、泥の中に埋もれる。

 そして、身にまとっていた毛布がはだけた。

 

 

「なっ……!」

「……」

 

 むき出しになった子供の細い足を見て二の句が継げなくなる。すぐに助け起こさないといけないのに、体がいう事をきいてくれなかった。

 

 

「この子……」

 

「……黒蜘病だ」

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