冬のひまわり   作:渺奄

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第3話

 

 

 

目的地である喫茶店『pierre precieuse ^ピエール・プレシューズ^』は最寄りの駅から二駅行ったところににあり、周辺には小奇麗な店が立ち並び隠れたデートスポットとして知られている。

きっと誠なら何度も足しげく通っているであろう。アイツは女に尽くすタイプだから、デートへの準備は抜かりないはずだ。

まったく、いい加減アイツの女好き男嫌いもいいとこだ。

俺も男だが、アイツの中では幼馴染み枠かは知らないが特に嫌われてはいない。むしろ、絡まれ過ぎてウザい域だ。

もう少し男仲間を増やす努力をしてくれ、俺のためにも。

 

「…ここか」

 

物思いに耽っているうちにどうやら例の喫茶店に着いたようだ。

しかし、ここに一人で入るのはさすがに躊躇われる。

…いや、かなり居心地が悪くなりそうだ。

だが、アイツと二人よりは幾分かはいいだろう。

 

「あの…、冬亥くん?」

 

そう思い、店に入ろうとしたところで誰かに声をかけられる。

まずい、ここに来て知り合いに会うのは何とも居た堪れない。何せこちらは一人だ。

色々考えたいがここは潔く諦め相手の確認は取るのが礼儀だ。

 

「…あぁ、そうだが」

「あ、良かった。人違いだったらどうしようかと」

 

安堵の顔でこちらを見たのは、俺より一回り小さい女子生徒と思しき人。

生徒のうちに数人はいるであろう、あまり目立たなく大人しいタイプの子に見受けられる。

同じ学校で…俺のクラスではなく、確かアイツと同じクラス…だった。

名前は…―

 

「…加賀美、だったか?」

「!?」

「…違ったか?」

「あ、はい!加賀美、加賀美由里菜です!」

 

加賀美は驚いた顔の後、至極嬉しそうに自己紹介をしてくれた。

そんなに驚くだろうか。これでも一応生徒会長だ。多少なりとも同学年の名前と顔は知っている。

しかし、こんな場所で会うとは。恋愛が苦手そうな彼女も隅に置けないということか。

 

「待ち合わせか?」

「へ!?…あ、あの、えと…」

「…?」

「藍田くんから、その…聞いて無い、かな?」

「…は?誠?」

 

いや、聞かれたには聞かれたが。今、何故アイツが出てくる。それに喫茶店と加賀美に何の関連性があるんだ。

LINEで既読した内容からは店の位置と集合時間と思しきこと、それと抜かりなくデザートについて長々と書かれてあった。

ただ本人が趣味を自慢したいがための嫌がらせにしか感じていなかったが、他に何か主旨でもあるのだろうか。

確かに、集合時間の14時30分まであと10分にはなるが。

 

「…その、冬亥くんと」

「…ん?俺と?」

「えっと…そのっ」

「…?」

 

彼女はどうやら詳細について知っているようだ。

しかし言い辛いのか中々口に出せないでいる。

仕方ない、ここは主犯である奴に聞くしか他にない。

…それより、俺は妹のためにここにいるのに何を女一人の対応に手間取っているのやら。

 

ん?アイツからメッセージが来ている。

書き込みはつい先ほどのようだ。

 

既読   『もう着いたか?喫茶店にはこの完ぺき主義の俺が予約しといたので、

14:15   勇気ある純白な由里菜ちゃんと紳士な対応で楽しんで下さいな!

      皐月ちゃんもその店にいるのは事実なんで頑張ってね、お兄ちゃん!』

 

…あぁ、なるほど。

…コイツ……覚えておけ。

赤点…いや、もう留年させてやろう。そうお望みのようだからな。

俺のスマートフォンからミシッという音が聞こえたがきっと気のせいだろう。

まずはこの状況を把握し打破するのが俺のなすべきことだ。

落ち着こう、俺。

紳士な対応だ。

 

「だ、大丈夫、冬亥くん?ごめんね、忙しいのに呼び立てたみたいで…」

「…あ、あぁ。いや、困らせて悪かったな」

「ううん!そんなことないから!いきなりで驚いたよね?」

「まぁ、唐突だったからな。でも加賀美は何も悪くないだろ」

「え?…あ、ありがとう。優しいんだね、冬亥くんって」

「そうか?」

 

事実を述べただけなのだが。

まあ、彼女から不安要素が抜けたようなので何よりだ。

…さて、考えたのだが。

既に予約済みな上、一人では入りにくかった状況から彼女を得たことでその難題から抜け出せたと考えれば、これも好機と捉えても良いだろう。

彼女の迷惑にならない程度に妹の密会(?)を偵察すればいい。

加賀美には少し申し訳ないが、始めから妹の彼氏疑惑を晴らせれば俺は十分だ。

 

「なら、入るか」

「あ、うん!」

 

俺は加賀美を連れ、なかなか越えられなかった店のドアを悠々と開いた。

 

 

――そこでふと、ひまわりの匂いを感じた。

 いや、この言い方はおかしいか。

 ひまわりの花は匂いをほぼ感じさせないはずだ。

 だが、ひまわりのハチミツがあるほどだから人間には感じられない甘い匂いが存在するのだろう。

 

 じゃあ、俺の感じたこの匂いは一体何なのだろうか。

 今は真冬、既に夏を感じたがっているのほど寒いのか俺は。

 それにしても、”ひまわり”か…―

 

”チリンチリン”

 

店の呼び鈴が俺の意識を戻す合図を鳴らした。

 

 

 

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