冬のひまわり   作:渺奄

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第4話

 

 

 

店に入り予約していることを伝えるとスムーズに店内に誘導され、指定席なのか丸いアンティーク調の机上には『冬亥様』と書かれた名札が立っていた。

アイツ、やはり俺の名前で予約していたか。

店内も落ち着いた雰囲気で似合いのクラシック音楽が憩の場を引き立てんと流れている。

周りは大人、しかも外国人がちらほらと見られる。いそいそ中学生、ましてや小学生が来る所ではない。

こんなところに妹を呼ぶ出す男など、これは放っては置けない。

 

「なんだか、場違いなところに来た気分だね」

「あぁ、ここが求める年齢層からは俺たちはかなりかけ離れているみたいだな」

 

加賀美も周りの雰囲気に呑まれたのか、そわそわと落ち着きなくしている。

この状況なら仕方がない、誰しも不安になるだろう。

だが、大切な家族のためにも己がためにもここで諦めるわけにはいかない。

まずは、落ち着くために何か注文することだ。

 

「加賀美、メニューは決まったか?」

「あ、えと。なんか難しくて…」

「…難しい?」

 

先ほど店員から渡されたメニュー表を見ると、フランス語の下にカタカナと日本語訳が申し訳程度にあるのみで子供からしてみれば確かによく分からない。

誠のデザート集も写真とコメントで分かりやすく書いているだけで、そこまでは追及していないようだった。

さすが大人向け。アイツにも理解しにくかったのだろう。

そこでふと俺の目に入ったのは…―

 

「『soleiu hivernal ~冬のひまわり~』はどうだ?」

「何か素敵だね!真っ白な雪にひまわりって!」

 

彼女は頬を紅潮させながら賛同してくれた。

どうもメニューが詩人並みに凝っていて俺にもどんなものか想像つかないが、先ほど店先で感じたものを不意に頼んでみたくなった。

云わば、俺にもあった子供ながらの好奇心と云う奴だろう。

傍にいた店員に早速『冬のひまわり』を二つ注文をすると今一度辺りを見回す。

店内には俺たちと同様のテーブルがいくつもあり、店の一番奥の衝立の向こうはどうやらちょっとした個室になっているようだ。

良かったことに衝立に一番近い位置にいる俺たちは、上半分が擦りガラスになった衝立から向こう側の人影がぼんやりと見えた。

そこに妹は招かれたのだろう。そうでなければこんな狭い店内から簡単に妹の姿を見つけられるはずだ。

 

「冬亥くんって、甘いもの苦手って聞いたんだけど大丈夫だった?」

「誠から聞いたのか?」

「うん。去年、冬亥くんにチョコ渡そうとした女の子が藍田くんに聞いたみたいで…。結局、その子は勇気が出なくて藍田くんに預けたみたいだけど」

 

去年の今頃も周りの奴らは浮かれたいた。

それを全く視界に入れずに生活していた俺だったが、誠の奴は相も変わらずちょっかいを出してきた。

その時に誰からかは忘れたが綺麗にラッピングされた箱を誠から渡され、不躾に頭を叩かれた。

「女子からの好意は有難く受け取るのが男の筋だろう」とか「お前のせいで泣いてる女の子がいるんだぞ」とか。

お前は少しは男の味方にもなってみろ、と睨みつけて言ったような覚えがある。

 

「甘ったるいものは苦手だが、ここはそこまで嫌ではない」

「そ、そっか。私も甘いもの少し苦手だったから、良かった!」

「珍しいな」

「女子だからって偏見しないでよね」

「それは悪かった」

「ううん、ありがとう」

 

何故礼を言われたかは分からなかった。

しかし、不思議と居心地は悪くはなかった。

程無くして注文したものがテーブルに届く。

 

「うわぁー、綺麗!」

「なるほど、これは冬のひまわりだな」

 

目も前に置かれた真っ白な皿をウー・ア・ラ・ネージュ(卵の泡雪)が覆い、その中央にはひまわりを模したようにオランジェット(柑橘類の皮をチョコレートで包んだもの)があった。

周りにはそんな景色を包み込むように甘い蜂蜜が掛かっている。

これは誰が見ても『soleiu hivernal ~冬のひまわり~』だ。

 

「チョコレートの部分がひまわりの種みたいだね!」

「あぁ」

 

少し興奮気味な彼女の顔が少し”妹”のように映り、肩の力が抜ける。

どうやら俺も思っていた以上に緊張していたようだ。

あ、そういえば…―

早速、食べ始めた彼女を余所に俺は衝立の向こうに目を凝らした。

手前には黒い髪、向かい側にはオランジェットのひまわりより輝く金色の髪がぼんやりと見えた。

―…あいつだ。

何故それが妹の逢瀬の相手だと思ったかは分からないが、俺の長年の勘がそう告げていた。

今まで一度も勘になど頼ったことはなかったが、そう感じた。

人間たまには第六感を信用してもいいだろう。

 

「冬亥くん?どうかしたの?」

 

最早彼女の声すら入って来ない俺の視線の先にいたひまわりは、個室から出るのかゆっくりこちらにその姿を現そうとしていた。

だがそこで、俺を心配した彼女が傍に置いてあったコーヒーカップに手を当てそうになる。

あ、危ない!

直ぐに危険を察知した俺は彼女に手を伸ばす。

何せ中身はホットコーヒーだ。万一、火傷をしたら一生の傷跡になりかねない。それをましてや女の子に負わすのは…―

そこで俺の思考は一時停止してしまった。

 

「…―っ!」

 

不意に俺の耳に誰かの息を飲む声が聞こえた。

 

 

 

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