Chaos;an onion HEAD   作:変わり身
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アフターストーリー的小話系なサムシングだも。
悪の組織とか、でないも。


Chaos;an onion HEAD Chu☆りっぷ!
怪奇! ぶつくさ少女現る現る 編


――私は、普通だ。

 

……私が自分にそう言い聞かせるようになったのは何時からだったろう。

少なくとも中学生になる前、小学校中学年の時には既に口癖となっていた気がする。

 

やたら自分を特別だと思いたがる子供が発するには、些かマセた言葉である事は否定しない。私自身もそう思うよ。

しかし、そう思わなければ当時の私は壊れてしまうかもしれなかったのだ。肉体的にでは無く、精神的に。

勘違いしないで欲しいが、別に虐待や虐めを苦にしての現実逃避を図っていた訳では無い。いや、むしろそうであったら逆に救われていただろう。

何故ならば、それは現実的な問題だからだ。この現代社会において当然のごとく唾棄される社会問題、万人が――私を含め皆が自然に認識できる、完膚なきまでの「異常」なのだから。

 

「…………」

 

……異常。そう、異常だ。

私という存在は、目の前に広がる「異常」という名の現実を他者と共感できない病に冒されているらしい。

簡単に言えば、皆が当然と思う事象を異常と感じ、無駄に大きく騒ぎ立ててしまうのだ。

まぁ、それだけならば単なるお騒がせと切り捨てる事ができるだろう。クラスに大抵一人は居るお調子者のポジションだ。

しかし私はそんな自分や理解を示さない周囲に憤り、酷く傷ついてしまう。こっちがズレていると表現するのは、とてもじゃないが納得できなかった。

何故私だけが気づく? 何故皆は分からない? 何故気にしない? 何故、何故、何故……。

 

そう落ち込み、悩んだ事は一回や二回では済まないと思う。それこそ小学生という身軽な立場でありながら、胃潰瘍で入院しかけた事もある程だ。

原因は勿論度を超えたストレス。レントゲンで写された胃には無数の黒い穴が開いていた……と言うのは流石に盛り過ぎであるが、血を吐いたのは確かである。

精神病、なのだろうか。そう思いたくはないけれど。

 

「……私は、普通だ」

 

で、まぁ。だからこその口癖って訳だ。

私は普通だ。おかしいのはお前らであって、決して私では無い――幼かった私はそう言い聞かせる事で精神の均衡を図ったのだ。

 

無論、口には出さない。出したとしても呟く程度に収め、人に聞かせるようにはしない。そうした所で無駄に突っかかられる事は、これまでの経験で容易く想像できていたから。

私は普通だ、私は普通だ、私は普通だ。何度も何度も呟き続ける内、私は自らの精神が平坦になっていく感覚に気がついた。

おそらくそれはある種の諦めであり、同時に驕りでもあったのだろう。周囲に理解を求めることを止め、ただ理解できない生物であると見下すようになったのだと思う。

 

まぁ、それが良くない事だというのは何となく分かってはいるよ。私が好きなマンガやアニメ作品でも、そんな奴は敵役として出てくるからな。

しかし、しょうがない。周囲に併合しようとした結果、体調を大きく崩すまでに至ったのだ。ならそれはもう無理って事だろう?

例え客観的にはこっちが間違っているのだとしても、それを私は認めない。多分、大人になっても、絶対に。

 

――私は普通なのだ、おかしいのは私じゃない。「異常」を「異常」として認識しないアホどもこそが本当の異常。

 

否、人だけじゃない。私が住む街も、国も、物理法則だって皆どこかが狂ってる。まともなのは私だけなんだ。そう、私だけ。

……もし私も――長谷川千雨も「異常」に染まれたのなら、どれ程気楽に生きられるだろう?

どこか。心の片隅でそう思いながら、私はゆっくりと窓の外を見る。

 

「…………」

 

私の住む街。そこに広がるモダンな町並み。その中央に鎮座する天を突く程に巨大な大樹――世界樹。

明らかに「異常」でありながら、世界から「普通」と目されている、それ。

 

……私の呟きは、今日も止まりそうになかった。

 

 

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■ ■ ■

 

 

「……あぁ、だっり」

 

冬の終わり、春の手前。

もう3月も近いというのに未だ寒さの残る街道を歩きながら、私は欠伸と共に呟いた。

涙に滲む視線の先には幾つもの大きな建物が聳え立ち、それぞれの目立つ場所に設置されている大時計が日光の光を反射し燦然と輝いている。

ヘタしたら県の五分の一程度を占めるほどに広大な敷地、その中における私の通う女子校エリアの校舎郡である。

 

――ここ、麻帆良学園都市はとてつもなく大きな街だ。

 

女子中等部だけではなく、幼稚園から大学まで。その生徒達を収める寮施設は勿論、数多くのグラウンドや商業施設等もあり、全て含めれば東京ドーム一個二個の面積では済まないだろう。

日本でも、いや、海外から見ても異常な程に広い世界最大級の学校施設。学生の学生による学生の為の街。そんな場所に私は居るのだ。

……何でだろう? まぁ家庭の事情としか言えんのだが、何となく憤りを感じざるを得ない。

 

「ふん……」

 

遠目に見える校舎の周囲には少なくない人影が集り始めており、皆一様にそれぞれの校舎へと向かっていた。

チラリと時刻を確認すれば投稿時間にはまだ余裕があったが、そろそろラッシュ組の第一陣が駅に乗り込んだ頃だろう。あの常軌を逸した混雑具合を思い出し、身震い一つ。自然と歩む速度が早くなる。

 

「もっと早く出らんねーのかね、あいつら」

 

自転車やバイクは勿論、スケボーやローラースケートを始め数多くの学生達がありとあらゆる移動手段を駆使する麻帆良名物「通学ラッシュ」。

果たしてその中にやむを得ない事情を持つ者は何人居るのだろう。お前らもう少し早起きしろよ。

「ふぃー」愚痴と一緒に口内で温まった吐息が吐出され、白い靄となり乾いた空へと立ち上る。その際眼鏡が曇り、逆に冷たい息で吹き冷やす。

ここ最近で随分と慣れた仕草だ。それだけ寒い日が多かったという事でもあろう。だから何だって話だが。

 

「さて、と」

 

まぁ、そんな事はどうでも良い。損を被るのは「普通」の私では無く「異常」なあいつらなのだから。

自分の通う女子中等部の校舎に到達し、ローファーから室内靴に履き替え思考も変える。ああ、思考に割いた脳細胞が無駄に疲弊したようだ。何と勿体無い事か。

 

「あ、おっはよー長谷川!」

 

「ん……ああ、おはよう」

 

そうして下駄箱を閉め終えた瞬間、肩口より喧しい声をかけられた。同じ2-Aに所属する明石裕奈だ。

明るく元気で気さくで活発。私の質とは正反対の大して親しくもない間柄だが、一年の時から同じクラスで過ごせば少しの馴染みにはなる。

個人的にも「普通」の範囲内に居る彼女は嫌いではない。ちらりと視線を向けた後、義務的に挨拶を返した。

 

「ふんふーん」

 

「…………」

 

……で、そのまま立ち去るつもりだったんだが、何故か明石は私の隣に付いて歩き始めた。まぁ向かう先は一緒な訳だから、人懐っこいコイツはそうするよな。

裕奈も特に要件のある様子でもないし、無言で居るのは(おそらく一方的に)何か気まずい。仕方なくこちらから適当な話題を振ってやる。

 

「あー、何かこの時間に一緒になるのって珍しいな。確かバスケ部だったよな、朝練あっただろうに」

 

「え? ああうん。今日もそうだったんだけどさ、何か早めに切り上げろってコーチから言われちゃって」

 

「ふぅん、何かやったのか?」

 

「や、今回は何もないって!」

 

裕奈の天真爛漫さならあり得ない話ではない。自然に喉から滑り出た言葉だったが、どうやら違ったようだ。

彼女は焦ったようにぶんぶか頭を振る。……今回は? いやまぁ、クラスメイトのよしみでスルーしてやろう。

 

「失敗とかじゃなくて、何かウチのクラスに重要な連絡行くから早めに戻っとけ、だってさ」

 

「重要な連絡?」

 

「私も知らないんだけど、何だろね。誰か賞とったとかかな」

 

そう言って裕奈は考えこむが、私としてはそんなポジティブな意味には捉える事は出来なかった。

 

確かに、私のクラスにはやたら優秀な奴らが多い。おそらく、クラスメイトの半数以上はどっかの大会で賞を取れる程の突出技能を持っていると思う。

……だが、それと同時に問題児集団でもある。むしろそちらの配分の方が大きく、教師からの説教や注意は褒められる事よりも多く日常茶飯事だ。

どうせ今回もその類だろうな。裕奈とは対照的に一層気分が重くなり、私は溜息を吐いた。

 

 

そうして辿り着いた教室。裕奈が率先して開いた扉をくぐれば、そこでは結構な数のクラスメイトが談笑していた。

バスケ部が早上がりならば、他の部活も同じという事だろう。何時もは遅刻ギリギリまで来ていない奴も居て、少し新鮮な気分だ。

私は裕奈に挨拶をして別れ、自分の机に着席。鞄からノートPCを取り出し日課である通販サイトやニュースサイト巡りを開始する。

本来ならば咎められるべき行動なのだろうが、この学校はパソコンの持込を禁止していない。ここだけは自由な校風(笑)に感謝である。

 

「……特に、なんもねぇか」

 

通販サイトには目欲しい物は無く、ニュースサイトもまた同様。やれ何処其処で事故があった。それ何処其処で人が死んだ。有名会社の汚職発覚、国会議員応援会の賄賂が云々……。

画面には社会的に結構な重大事が連なっていたが、私の興味を引くようなものは無い。まぁそれらを知る事は情報強者である為に必要ではあると思うが、何が悲しくて朝っぱらから鬱にならなきゃいかんのか。

そうして一つ一つサムネイルの画像を指さしつつ、面白そうな記事を探している――と。

 

「ん……?」

 

――ふと、画面の隅で何かが蠢いた。ように見えた。

単なる見間違いだろうか。一瞬しか見えなかった為良くは分からなかったが、ネズミのような何かがこちらに向かって手を振っていたような――

 

「――よーし! これで完璧!」

 

「!」

 

それを確認しようと目を凝らした瞬間、甲高い大声が鼓膜を揺らし反射的に視線が向く。

するとそこではクラスの問題児として名高い鳴滝風香、史伽姉妹と春日美空が満足気に頷いている姿が目に映る。何やってんだあいつら。

疑問のまま彼女らの視線の先に目をやれば、そこには教室の扉の隙間に黒板消しを挟む超古典的なブービートラップから始まるえげつない罠の連鎖が仕掛けられていた。

「……?」いや、ますます分からん。ホント何やってんだ。

 

「……きっと、新任の先生をイタズラで迎えようとしてるんでしょう」

 

「え?」

 

そうして頭の中でクエスチョンマークを増やしていると、首を傾げる私を見かねたのか隣席で読書をしていた綾瀬がそう囁いて来た。

ちらり、と光の薄い瞳がこちらを向く。

 

「新任の……先生?」

 

「ええ、結構噂になってるですよ」

 

ほら、と綾瀬が促すままに周囲へ耳を傾ければ、確かにあちらこちらから「クラスに新任の先生が来るらしい」との言葉が聞き受けられる。

これがオチャラケた奴らでの間だけだったならともかく、クラス内では真面目で通っている奴も口にしているのでそれなりに信憑性はあるのだろう。

 

「私、初めて聞いたぞ。それ」

 

「まぁ今朝早く神楽坂さんが話してただけですからね。何でも昔からの知り合いだそうです」

 

「へぇ、神楽坂のねぇ……」

 

綾瀬はそのまま読書に戻り、話を続ける気は無さそうだ。私は軽く礼を言い、何となく件の神楽坂を見た。

彼女は何時もと違い落ち着きのない様子であり、それをクラス委員長の雪広に咎められ何やら言い合いを…………、

 

「……いや、ちげぇだろ」

 

「普通」はトラップ仕掛けてる鳴滝姉妹達を止めるもんなんじゃないのか。仮にもその新任教師と知り合いだって言うんなら尚更さ。

やっぱあいつもどっかおかしいのかもしれない。そう思いつつ、私はPCへと目を戻そうとした。のだが。

 

「、っと」丁度良く始業のベルが鳴り、手早くPCを折りたたみ机の中へと突っ込み始業の準備。

……それと新任教師とやらも少しは気になり、先の違和も後回しにしてぼんやり扉の方角へと意識を向ける。ミーハーだと笑うか? いや、これは「普通」なこったろーよ。

 

「……んー」

 

そして、そこに仕掛けられたトラップを解くか否か、少々思案。

 

先生が引っかかれば空気が悪くなるかもしれないし、もし厳しい人であったら連帯責任か何かでこちらに被害が及ぶ可能性もある。

しかし目立ってまで真面目ぶるのも私のキャラじゃないしなぁ。はてさてどうしたものやら。

八割方「気づかなかった振り」の側に触れている天秤をちょっぴりぐらつかせつつ、軽く眼鏡を押し上げた。

 

「……あ! 来たみたいだよ!」

 

そうして迷っている(自分を正当化する振りだったかもしれない、多分)内に誰かが声を上げた。残念、タイムリミットだ。

 

(ひひひ、スタート!)

 

――ガラリ、と。鳴滝姉妹の小さな合図と共に、扉が滑り開く音を聞いた。

 

 

 

 

鳴滝姉妹のイタズラは、中学生の考えるものとは思えない程に狡猾である。

 

まず教室の扉を開くと黒板消しが落ちる。これは古今東西誰でも思いつくような使い古された案であるが、奴らはそこで思考を止めない。

むしろそのポピュラーさを利用し、相手を油断させ意識を逸らす為の布石として使用するのだ。

その本命は床近くに仕掛けられたロープであり、それに足を引っ掛ける事で転倒を誘い――追撃に水入りバケツと吸盤矢からなる悪辣なコンボを展開する。

……いや、どう考えてもイタズラの域を大きく越えてねぇ? やっぱ止めとくべきだったかな、これ。

 

(私は知らん、なーんも知らん)

 

逸らした目を閉じ、耳を塞ぎ。完全なる普通人である私には、せめて新任教師が穏やかな人であるよう祈りを捧げる事しか出来ず。

極めて健康に悪そうな早鐘の鼓動が、体の内側から鼓膜を揺らした。

 

「…………」

 

揺らして。

 

「…………」

 

揺らし……。

 

「…………?」

 

……しかし、待てども何も起きない。

罠に引っかかった教師の悲鳴も、それを見たクラスメイトの囃し立ても。何も聞こえず静かなものだ。

不発に終わったのだろうか? 私は恐る恐る目を開き、視線を元に戻した。

 

「…………」

 

――数瞬、目を奪われた。

 

理由は簡単。罠が仕掛けられた場所――開け放たれた扉の前に立っていたのは、世にも美しい女の人だったからだ。

多分他のクラスメイトも大なり小なり彼女に見惚れているんだろうな。何だ、キマシタワーの建築か?

 

「――ええと、その」

 

滑らかな金の髪に真っ白な肌、均整のとれたモデル体型。その容姿を見る限り明らかに日本人では無さそうだ。よく分からんがアメリカとかイギリスとかそっち系だろう。

彼女は扉の前で困ったような表情を浮かべながら、右手の黒板消しを掲げて私達と床のロープとで視線を往復させている。どうやら鳴滝姉妹の罠は敢え無く防がれ、その上看破されてしまったらしい。

 

「……まぁ、とりあえず入りましょうか。大丈夫?」

 

「え、えっと……はい。これくらいなら……」

 

女性はそのまま暫く迷った風だったが、その後ろに控えていたらしい指導教員のしずな先生の声を受け、ゆっくりと室内へと踏み込み――「……ん?」

 

(あれは……松葉杖、か?)

 

今気づいた。さっきは扉の影に隠れて見えなかったが、確かに機能的なデザインの松葉杖のようなものが左の肘に装着されている。

よくよく見ればロープを跨ぐ動きもどこかぎこちない気もするし、どうも女性は完全な健常者という訳では無いのかもしれない。……そんな人に罠を仕掛けた事に今更ながら気が咎めたのか、視界の端で鳴滝姉妹が青ざめているのが目についた。メシウマ。

そうして女性が教壇まで辿り着き「はい、注目」しずな先生が大きく手を打ち声を上げた。はた、と教室の空気が元に戻る。

 

「皆おはよう。もう知っている人も居るだろうけど、突然だけど今日からこのクラスを担当する先生が一人増える事になりました」

 

「あの! それって担任が変わるって事ですか!? 高畑先生は――」

 

「はいはい、その辺りも詳しく説明するから落ち着いて。……さ、どうぞ」

 

「は、はい」

 

途中上げられた生徒の声をいなしつつ、しずな先生はにこやかに女性を促した。

彼女は緊張した様子でかけている丸眼鏡を軽く押し上げ、一歩前進。私達『28人』を見渡し、流暢な日本語でこう告げた――――。

 

「――今日からこのクラスの副担任をさせて頂く事となりました、ネカネ・スプリングフィールドです。これからよろしくお願いします」

 

 

 






【本編では出ない変更点】

・紅き翼
ナギ、タカミチ、ゼクト生存。その他のメンバーはアリカ含め生死不明。ただ確実にガトウ含めた何名かは死亡済。

・完全なる世界
フェイト含め全滅。ナギが魔法世界を救うために頑張ってる模様。

・『28人』
まず超が居ないでしょ? よって茶々丸が居ないじゃない? エヴァンジェリンはナギについて回っている事にしよう。学園長の茶飲み友達? 出ないけどゼクトでも置いとこうぜ。

・ネカネ
流石に身体を酷使しすぎて傷害が残ってしまった模様。しかし魔法使えば普通に動く。黒薔薇男爵とか言って地元でブイブイいわせていたらしい。

・タカミチ
クッソ不味いラーメンを作ってはタクミとアーニャに振る舞うため二人からは蛇蝎の如く嫌われている。



申し訳ないのですが、こっちの方ではまたチョロっと描けたら上げるゆっくり投稿になると思います。
早く先読みたいって方がいらっしゃいましたら、お手数ですがArcadia様にある方をどうそ。
ゴメンネ!

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