Chaos;an onion HEAD   作:変わり身
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エピローグ Chu☆りっぷ!

「…………」

 

ぎゃーぎゃー、と。周囲で誰かが騒ぐ声が聞こえる。

 

多分、電気が通っていないのにも関わらず、勝手に電子機器が暴走している事に混乱しているのだろう。

よくよく耳を澄ませばテレビの音や電子レンジが何かを温めた「チーン!」という音も聞こえてきたりして、まぁ中々のカオスっぷりだ。

 

しかもそれが複数、至る場所で聞こえてくるというのだから、もう街はお祭り状態。

人は走り、慌てふためき。怒鳴り声から笑い声までありとあらゆる感情が渦を巻き、夜とは思えない程に光と活気に満ちている。

 

……まさしく、私の狙った通りに。

 

「…………」

 

そうしてそんな過剰な光に照らされる街道を、アンナを背負った私がゆっくりと歩く。

 

流石に殺陣からの錯乱で心身ともに消耗しきったのか、アンナの足は生まれたての子鹿のように頼り無さ過ぎる状態となっていたからだ。

本人は「こんなの全然へっちゃらよ……!」と宣っておられたが、手を繋いで歩けば市中引き回しもかくやという無様な状態になった為、大人しくおんぶさせて貰った。

 

今では唇を尖らせながらも大人しく私に身体を預け、帰り道のナビをしてくれている。どんな方法で現在位置を把握しているのか……まぁ、聞くまい。

 

のたのた、てくてく。この慌ただしさの中では目立つ振る舞いではあるものの――しかし、街を駆けずり回る生徒達は、そんな私達には気づかないようだ。

混乱している事、慌てている事。それらも勿論あるのだろうが、その原因の殆どは、やはり私の背中で光を眺めるアンナの握る紅い双剣のおかげなのだろう。今だからこそ、素直にそう思えた。

 

「…………」

 

今の私は「ちう」では無く、制服姿の「長谷川千雨」である。

何をどうしたのか、再びアンナが剣を握った途端にいつの間にやら衣装が入れ替えられていたのだ。

 

……正直理解不能の極地ではあるが、助かったのは事実だ。流石に乳を放り出して街を歩くなんてコスプレどころの話じゃない。

改めて見ればアンナの服も吐瀉物の跡が消えていたり、道行く人も不自然にこちらを避けていたりしているようにも見える。……他にも何かしてるんだろうな、きっと。

 

――チラ、と自然に背後へ目が向いた。

 

「……な、なによ」

 

「いーや、別に」

 

するとアンナの視線とかち合い、見合う。

私の瞳から発せられる疑問光線を感じたのか、どこか落ち着かない様子だ。ある程度は状況も落ち着いたし、彼女も色々聞かれるのだろうと構えていたのかもしれない。

 

(……つか聞きてーよ。本当は)

 

アンナの持つ双剣、炎、私の鼠、視線、黒い男、今の状況、魔法陣、その他色々。

聞きたい事、問い詰めたい事はそれこそ山のようにある。おそらく一度封を破り詰問すれば、全てに納得がいくまで止まらないに違いない。

 

今だって平静を装っているが心の中は一杯一杯なんだ。一刻も早く何らかの結論を出したい――そうは思っているのだが。

 

(弱った子供に迫るとか、『普通』はしねーよな)

 

もう散々「異常」に染まりながら何を言っているんだという話だが、これが私なので仕方ない。

長年に渡り積み上げられた性分は、例え圧し折れようとも瓦礫となって残るのだ。そう簡単に何もかもが変わって堪るものか。

 

「……ねぇ、本当は沢山聞きたいんでしょ、チサメ」

 

「あ?」

 

――と、そう考えている内に、アンナの方からそんな言葉がかかった。

どこか弱々しく、不安げな声音だ。何を知っているのかは知らないが、そんな態度を取る程の都合の悪い情報があるとも受け取れる。

 

……嘘が吐けない奴だな、全く。私は軽く息を吐き、首を振った。

 

「……そりゃあるさ、むしろ聞きたい事ばっかりだよ」

 

「…………」

 

「でも、今は良いや。疲れそうな話は明日に回して、さっさと帰って寝ちまおう」

 

私もちょっと落ち着く時間が欲しいからな――――そう9割本音の混じった気遣い言葉を返すと、アンナは私の肩に頭を預けた。

もごもごと言いづらそうに何事かを呟き、猫のように髪の毛を擦りつけてくる。あざとい。

 

「……あの、ね。じゃあ一つだけ、言っとく」

 

「……何を」

 

「――チサメが前から感じてたっていう視線。それ、タクが……私の幼馴染がやってた事……なの」

 

 

――――…………。

 

 

ピタリ、と。一瞬歩みが止まりかけ、すぐに再開。何事も無かったかのように足を動かす。

同時に心の中に何かもう「わー」ってな感じに湧きだすものを感じたが、とりあえず抑えこみ。居心地悪そうに身じろぐアンナを努めて冷静に見返した。

 

「……あー、と。じゃあまぁ、こっちも一つだけ言うが…………何で、今それ言うんだ?」

 

「だ、だってこれから私の家――じゃない、体育館まで送ってくれるんでしょ……?」

 

「そうだけど」

 

そりゃ当然だ。このまま一人で帰らせるとか、サディスティック鬼畜生の行いだ。

 

「じゃあ、その……会うでしょ? チサメも剣持ってるみたいだし、そうなると多分キュピーンて分かっちゃうと思うから……」

 

「…………」

 

剣やらキュピーンやらの意味は分からんが、様々な意味で覚悟しておけと。つまりはそういう事だろうか。

むっつりと黙りこむ私に不穏なものを感じたのか、アンナは慌てたように言葉を繋ぐ。

 

「え、えっと、違うのよ? アイツはチサメにエッチな気持ち持ってたとかじゃなくて、私が心配なだけだったみたいで!」

 

「…………」

 

「それにその事についてはちゃんと私が懲らしめてあげたから! あ、でもチサメの気がすまないんなら、5・6発しばいても――」

 

「――はぁぁぁぁ……」

 

「!」

 

心に蟠る何かを吐き出すように、一際大きな溜息を一つ。ビクリとアンナが身を震わせる感覚が背中に伝わる。

 

……どうやって見てたんだとか、じゃあ黒い男達は何だったんだとか。言いたい事は色々あるが、今問い詰めてもしょうがないんだろうな。

このままアンナを送り届ければ自動的にそのタクとやらとご対面するそうだし、全てはその時当人にぶつけてやろう。

 

私はとりあえずそう結論づけ、力を入れてアンナを背負い直す。「わひゃあ」と小さな悲鳴が首筋に当たった。

 

「別に、そんな物騒な事はしねーよ。拳骨の一発は落とすかもしれないけど」

 

「……怒ってないの?」

 

……いや、怒ってない奴は拳骨を落とさないと思うんだが、アンナの中でそれはまだ優しい方なんだろうか。まぁさておいて。

 

「……確かに結構――つーか、かなり嫌な思いはしたけどさ。でもそれはお前の為だったんだろ?」

 

「……ホントかどうかは分からないけど、そう言ってたわ」

 

「なら……正直あんま良い気分はしないが『普通』の事なんだよ。それは」

 

タクが幼馴染であるのなら、アンナが黒色恐怖症である事は絶対に把握している筈だ。

そして彼女の事を大切に思って居るとするならば――まぁ、私を見ていた理由も何となく察せられる。

 

あのクッソ気持ちわりー視線やらその手段やらは別にしても、行動理由だけを見れば至極「普通」の事と納得してしまうのだ。私は。

 

「多分、今回起きた一連の出来事は、誰が悪いとかじゃねー。単なるボタンの掛け違いってやつなんだろうな」

 

「……どういう事?」

 

「簡単にいえば、私もお前もタクってのも全員運と間が悪かったって事だよ」

 

詳しい事は全く把握出来ていない私であるが、そう感じる。もし悪い奴が居たとするならば、それは不特定多数の「ちう」アンチ達だろう。

 

あいつらが貞操の不安を煽るような下品なコメントを残さなければ、私も視線の事と絡めず平穏無事な日々を……。

……いや、それであの黒い男達が出なくなっていたのかは知らんが、少なくとも不安による幻覚や恐慌状態になる事だけは避けられた筈だ。そうに違いない、つかそう決めた。

 

私がきっぱりとそう言い切るとアンナはホッとしたように息を吐き、コテンと一層深く私にもたれかかる。眠いのか、ぐしぐしと目を擦っている気配が感じられた。

 

「何だよ。私が幼馴染に酷い事しないか、そんな不安だったのか?」

 

「ううん、チサメはそんな事しないと思ってたけど……」

 

「……けど?」

 

「……タクの知ってる剣持ってる人達って、殺し合いになった人が多かったって聞いてた、から……」

 

「…………」

 

……一体どういう奴なんだ、その幼馴染。

 

というか今更だけど、アンナの言う「剣」って火を吹いていた双剣とかあの鼠達の事で合ってるよな。

魔法かそれとも超能力か、良く分からん力を持った得体の知れない武器である。いや武器か? まぁ武器か、アンナのは切れ味は良かったみたいだし。瞼を軽く擦り、思う。

 

……それで殺し合い? まさか漫画によく出る選ばれし者の聖剣とかそんな感じで、バトルロワイヤルが云々って少年誌的なもんじゃねーだろな。だとしたらゴメンだぞ、そんなの。

急激に不安になった私は、もののついでと詳しく聞こうと首を捻った。のだが。

 

「……ん……ぅ」

 

「…………」

 

当のアンナがうとうとと船を漕いでいるのを見て、開きかけた口を閉じる。

 

目は半開き、時折ふらつく頭を起こしているので完全には眠って居ないのだろうが、おそらく直に夢の世界へ旅立つ事だろう。

流石にそんな彼女に物騒な話を持ちかけたくはない。私は渋々と捻った首を前へと戻し、黙って歩くこと事にする。あぁモヤモヤする……!

 

「……あ、てか道案内……」

 

ふと気づくが、既にアンナの指先は垂れ下がり、地面を指さしている。

 

……彼女のナビに頼らず、私は目的地に辿り着けるのだろうか。雰囲気的には中等部近くに居るっぽいのだが、夜と街の混乱の件が合わさってまだよく場所を把握出来ていない。

案内図がどっかにあれば助かるんだけどな。私はキョロキョロと辺りを見回し、大型の看板が無いか捜索した。

 

――その、瞬間。

 

「――んむ」

 

「ん? っと」

 

ちゅ、と。頬の辺りで何か柔らかいものを感じた。

 

ぷにぷにとした、瑞々しい感覚だ。何だ何だと該当箇所に視線をやれば、そこにはアンナの気の抜けた舟漕ぎ顔があった。

どうやらアンナの顔と私の頬とがタイミングよく重なったらしい。所謂ほっぺにキスという奴だ。いやんラキスケ。

 

……まぁ実際はさっきの吐瀉物の匂いが微かに漂って来るので、そんなに可愛らしいものでもないのだが――と。

 

「…………」

 

……ああ、何だろう。凄く下らない事を思いついた。

 

アンナの持っていたあの双剣、最初それを見た時私は何と表現したっけ。

彼女の赤毛と、刃の曲線と花弁に当たる部分と、炎。そう、全て合わせたそれらはまるで――――。

 

 

 

「……チューリップの、ちゅうリップ。なんつって」

 

 

 

――…………………………………………………………………………、

 

 

……ひゅうと一陣の風が吹き、辺りの気温を1・2℃下げた。つま先から髪の先まで寒気が登る。

 

いやー、こんなにつまんねー事が言えるとは自分でもビックリだ。どうも私には噺家の才能は無いようだな。いや別に欲しかねーけど。

誰も聞いては居なかったとはいえ、みっともない恥を晒した事に顔から火が出る。一先ずこの場から離れとこうと、スタコラサッサと歩き去った。

 

「……いや、でもそう考えると、あながち占いは間違ってなかったんだよな……」

 

そうして、チラリと微睡むアンナを見る。

 

私がアンナと出会ってまだ間もない時、彼女は私に魔除けとしてチューリップを勧めてきていた筈だ。

その時は単なるおまじないだと思っていたが、中々どうして。全てが終わった後に見てみれば、何とも的を射た結果と言わざるを得ない。

 

まぁわざわざ買った鉢の方は正直役に立ったとは到底言えないが。しかし。

 

「……こっちのチューリップには、まぁ助けられたかな」

 

くしゃり。アンナの髪に頬を擦り、呟いた。

 

……さて、そうなるとさっきのキスも何かの加護があるように思えてくるから不思議だ。

交通安全か、危険回避か。幾分か心が軽くなった気がして、我ながら現金なもんだと呆れるね。基本的にそういうのは信じてない……つっても全体的に今更か。

 

無意識の内に苦笑が漏れ、意図せず肺が震えた。「……ぅあ」その際眠りかけのアンナが声を上げてずり落ち、慌てて背負い直してバランスをとる。

 

「……とりあえず、早く送ってってやるか」

 

最後にそう呟いて、夜闇を照らす街の中をより進む。

 

相も変わらず喧騒は消えず、人の声が耳を突く。アンナはよくこんな中で眠れるなとある種感心するが、逆に明るく騒がしいからこそ安心しているのだろう。

……私の背中だから、とは思い上がり過ぎかね。流石に。

 

「まぁ、だからさ――」

 

そうして最後に振り返り、さっきから視線を向ける誰かへと言葉を紡ぐ。

 

道行き慌てふためく生徒達は誰も私達を見ていない。しかし色々と「自覚」した所為なのか、奇妙な確信を持っていた。そして私の後頭部に例の感覚が無いとすると、その対象はつまり――。

 

「……へ」私は軽く鼻を鳴らし、生ぬるい温度を視線に乗せて。一言。

 

 

 

――心配しないで待ってろよ、と。

陰鬱気に舌打ちを鳴らすクソガキに、からかうようにそう告げた。

 

 

 

 









【挿絵表示】




おしまい!
ここまで来るのにずいぶん長くかかったものだと戦慄を禁じ得ない。
でも挿絵付きというやってみたいことは出来たので、俺的には大満足です。

とりあえずまたカオスヘッド関係で何かあってテンション上がれば続き書くかもしれないので、完結とはしないでおこうかな。気持ち的には。
「魔法先生ネカね!~白薔薇男爵京都事変~」とか。いやまぁ思いつきですけど。

ともあれ、ここまで読んで頂きありがとうございました。
これからも某か書いた時はよろしくお願いします。

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