Chaos;an onion HEAD   作:変わり身
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* 本編に絡まないけどフレーバー的別作品クロス注意。


第7章  帰還

———メルディアナ魔法学校。

 

そこは拓巳らの住む山間の村より離れたウェールズの街中にある、その名の通り魔法使いのための学校である。

 

木造の校舎と、石造りの廊下。そして入学式や卒業式の行われる大聖堂。

それぞれ学年別に分かれた教室のほか、図書館や運動場。更には寮施設まで揃い踏み。しかし校舎自体は然程大きくは無く、周囲に張られた認識阻害の結界と合わさりウェールズの街中にごく自然に馴染んでいる。

更に加えるならば、魔法の授業を行う際に起こるであろう不測の事態を予測して、内外からの衝撃・魔法による効果を無効化する結界も同時に張られているため、外に魔法関係の機密が漏れる可能性も限りなく低い。

おそらく、一般人でその場所を魔法学校……いや、何か特別な学校だとすら見破る者は皆無に等しいだろう。

 

しかし旧世界に住む魔法使い達……地球に住む魔法関係者にとってはこの学校ほど有名な魔法学校は存在せず、毎年多くの見習い魔法使い達がこの学校に入学しようと願書や紹介状を手に訪れているのである。

それにはやはり、この魔法学校に通っていた魔法使いの中に、【英雄】ナギ・スプリングフィールドの名があるという事が大きいのだろう。

 

……事実としては【通っていた】というだけで【卒業した】という訳ではないのだが……まぁ校長自体も【スプリングフィールド】の血族に連なる実力者であり、設備も教師の質も魔法学校としては結構な上位に位置している。

卒業生に実力が付くのは間違いが無いため、ミーハーな者達が興味本位で入学したとしても特に後悔はしないだろう。

学校側としても特に何か対策をする気も無いらしく、生徒が増えるのならばそれで良しと放置している状態だ。

 

さて、そんなメルディアナ魔法学校だが———その人気とは裏腹に倍率は低く、むしろどんな境遇にある者でもやる気さえあれば入学は可能である。

入試試験は基本的な学力と人間性を調べるのみ。点数による合否判定は無し。犯罪歴があろうとも【魔法を学びたい】という気持ちがあれば、色々と制約は付くものの十代後半の年齢でも原則OK。

さらに遠方からの生徒のための寮設備を始めとして、金銭に余裕の無い生徒に対しては奨学金制度や生活支援、教材の貸し出し。果てはバイト先の斡旋まで請け負っている。

 

———魔法とは、一歩間違えれば命に関わる技術である。

 

独り善がりな鍛錬を続けたところでそれが実を結ぶことは稀であり、最悪周りを巻き込んで暴走。甚大な被害を出してしまうかもしれない。

そのため魔法についての知識を請う事は、魔法を使うものにとって最早義務でもある。魔法を使う際の心得、制御技術、呪文……。

 

……良い所の名家などではその家独自の特殊な魔法体系を築き、一子相伝に近い事を行っている場合もあるが、多くの魔法使い達はそうではない。

 

個人の才能に左右される魔法という技術を、個人で完璧に制御できるまで修める事はほぼ不可能に近い。

だからこそ魔法学校という場所が存在し、暴走の危険を少しでも減らすために魔法を学ばせるのである。

そこに集う多種多様の魔法教師達が、同じく多種多様の生徒達に対応する。生徒達は自分にあった師を見つけ、自分に最適な魔法を学んで行く。

 

全ては「魔法」を正しく使用する人間を育てるため。「魔法」を正しく理解する人間を育てるため。

 

———魔法使いに「魔法」を教える。メルディアナ魔法学校は、その意識が他の魔法学校より少しだけ高いのだ。

どんな境遇の者でも、努力すれば皆等しく魔法についての知識を修めることが出来る学校———それが、メルディアナ魔法学校校長の目指す学校だった。

……その代わり、努力の足りない人間が授業についていくことが出来ずに中退。他の魔法学校へと転校して行くというケースがままあるのだが。それはさて置き。

 

そうして入学した魔法生徒達は、大まかに分けて三つのグループに区分けすることが出来る。

———【才能のある者】【普通に学校生活を楽しむ者】【サボり落ちぶれていく者】の三つだ。

 

そして、【才能のある者】の内、努力をする精神も兼ね備えて居るものは、より早く魔法社会に飛び込めるよう修学期間を縮めることが出来る。

 

———ネカネ・スプリングフィールドは、その【才能のある者】の内、努力をする精神も兼ね備えた少女であった。

 

ネカネは入学当初より優秀で、将来を有望視されており教師の信頼も厚かった。

その為以前から修学期間の短縮を勧められていたが、当時所属していたクラスの委員長であった為に、責任感の強い彼女はそれを辞退していたのである。

 

……しかし、弟に異変が起きた事を契機として彼女は修学期間の短縮を決意。

現在は普通のクラスとは別に学年や年齢を無視した特進クラスに纏められ、密度の濃い授業を受けていた。

 

故郷の村の外れにある離れにて、一人で引き篭もっている弟に出来る限り寂しい思いをさせたくないから。

追い詰められた様子の彼の傍に居てやりたいと思っているから。

……そして何より、自分自身が弟と一緒に居たいと強く思っているから。

 

———勉強して、勉強して、勉強して。

 

一分一秒でも早く卒業し、弟と一緒に過ごすため。

一分一秒でも長く休暇を取り、弟の傍に行きたいとの思いで。

 

———勉強して、勉強して、偶にネギ分を取り、また勉強。

 

そう———全ては彼女の愛する弟のため。だからこそ、彼女は才能に胡坐をかく事無く努力し続けられるのだ。

 

……まぁ、【才能のある者】には癖のある者が多い。

教師すらをも凌駕する才を持つ代わり、良識と言う物をどこかに投げ捨てているような連中ばかりなのだが……そんな中でやっていけるのも、弟への想いの深さ故なのだろう。

 

科目は医療魔法や付与魔法といったサポート中心の物に絞り、魔道具の製作や錬金術についても学び。

卒業後は修行を経て弟と二人暮し、医療魔法使いとして村で活動しながら、自作した魔道具や錬金アイテムを商人に売却しつつ穏やかに暮らしていく事が当面の彼女の夢である。

 

未だ十代の前半である少女の思考としては似つかわしくないのかもしれないが、それだけ弟の事を———ネギの事を想っているという証左であろう。

 

…………

……………………

………………………………まぁ、ちょっと度が過ぎている感じもしなくは無いが。

 

———嗚呼、早くネギに会いたい。

 

———早くネギの顔を見たい……!

 

 

彼女の頭を覗き見る機会があるならば、中身はおそらくこんなもの。

 

以前ならば、ネギがネカネを完膚なきまでに避けていたために(断腸の思いで)自重していたのだが、最近は彼が歩み寄りの姿勢を見せているような気がするため、彼女のボルテージは天井知らず。

勉強にもより一層の力が入るというものである。

 

と、言うか。このブーストの所為で彼女の実力は既にどえらい領域にまで至っていたりなんかして。

既に錬金魔法と医療魔法の系統においてはネカネに適う者など学校内所か世界中の魔法使いを含めても存在しないレベルにまでその年にして既に達している始末。

その為ネカネは学校が認める限度を越えたより一層の修学期間の短縮を希望しており、さっさと見習いの修行に行かせろと実の祖父をせっついていたのであった。

 

——————ネカネ・スプリングフィールド。

 

とどのつまり、一言で言えば。筋金入りのブラコンなのだった。

 

 

 

……ちなみに。

同じくアーニャもネカネを見習い頑張っては居るのだが……如何せん入学して未だ一年目。

その頭角を現すには、もう少しの時間がかかるのかもしれない……。

 

 

 

*********************

 

 

 

———冬も終わりに近づいた2月の半ば。ウェールズの町には未だ寒さが残っていた。

 

街道には雪が溶けずに残ったまま。街中を歩く人々は皆がコートやマフラーなどの防寒具を身に付け、歩道に積もった雪を踏みしめ歩いていく。

建物の隙間を縫う風も冷たさを含み、首筋を撫でるそれらに人々は襟元を正さずにいられない。

 

……おそらく昨夜にでも雪が降っていたのだろう、ふと見上げれば街灯の上にも雪が積もっており、照明部分を覆い隠していた。

そして日差しに炙られ柔らかくなったのか、積もった雪がずるりと滑り下に落ち。街道の雪と混ざって僅かにその総量を増していく———

 

———そうした冬の残滓が強い時期にあって、メルディアナ魔法学院はそれとは逆に浮かれた空気に包まれていた。

 

2限目の終盤、あと何分もしないうちに正午の鐘が鳴るだろうという時間帯。

生徒達は皆が皆、大なり小なりそわそわと身じろぎを繰り返し、落ち着き無く過ごしていた。

教室にある丸時計に注視して、午前中最後の授業が終わるのを今か今かと待ちわびているのだ。

 

ある者は机に向かいながらも目線だけは時計に注ぎ。

ある者はさり気なさを装いつつも、チラチラと目線を時計に彷徨わせ。

そしてまたある者は、未だ授業中にも拘らず既に勉強道具を仕舞いつつ、強い視線を時計に向かって照射中。

 

それには授業を行っている魔法教師も微笑ましげに苦笑を零し、中には少し早めに授業を切り上げる者も居た。

 

カチ、カチ、カチ……

 

時計の長針がゆっくりと時間を刻み、短針がそれに輪をかけた速度で12の数字に向かっていく。

生徒達はそれを目を皿にして見守り、教師達はそれをみて呆れたように肩をすくめて。

そして———

 

カーン……カーン……カーン……!

 

———鐘が鳴り、教師からの号令を終えた瞬間、生徒達は歓声を上げたのだった。

 

 

 

時は2月の半ば、即ち———春季休暇の始まる月。

今日というこの日はメルディアナ魔法学校の終業日であり、夏休みと冬休みに続く記念すべき長期休暇の幕開けの日なのである。

 

終業式や卒業式などの学校行事があるため、春休み中でも何日かは登校が強制されるのだが休みは休みに変わりはない。

幾ら「立派な魔法使い」を目指すべく集まった者たちといえども、やはり学生。甘美なる長期休暇の前にはどうしても浮かれざるを得ないのだ。

 

遊びの予定、帰省の予定、魔法修行の予定、大掛かりな魔道具の製作への取り組み……。

生徒達は教師達の連絡事項や諸注意などを聞き流しつつ、休暇中の予定に思いを馳せて。

友人達と予定を話し合い、或いはスケジュールの書かれた手帳とにらめっこしつつ、思い思いの過ごし方を夢想する。

 

それは全ての学科、学年変わりなく。優等生も、落ちこぼれも。

 

———そして、ネカネやアーニャにとっても変わりないのであった。

 

 

 

「———ああ、ネカネ君。君は今日の放課後は開いているかな? 暇であるかな?」

 

「はい?」

 

 

特進クラスの教室内。

例に漏れず浮かれた雰囲気の充満した室内で帰宅の用意をしていたネカネは、クラスメイトの男子生徒にそう声をかけられた。

 

如何にも英国紳士といった風貌のその級友は、クラスの中でも比較的まともな部類に入る人間だ。

 

色々とおかしな生徒ばかりの特進クラスにおいて、彼は弟関連の事を除けば極めて常識人であるネカネとは相性の良い存在である。

年は少し離れている物の、彼自身は気さくで紳士的。

他の級友連中の濃いキャラクターに振り回されている彼女の中では、彼は仲の良い友人と位置づけられている生徒であった。

男子生徒は手に持ったステッキをくるりと回し、話を続ける。

 

 

「うむ、せっかく春休みに入ったことであるし、級友全員でどこかに遊びにでも出かけようとね。そう、皆で遊びに行こうかという計画があるのだよ。

 出来れば君にはその話し合いに参加して貰いたいと。加わって貰いたいと思ってね。」

 

 

もはや癖になっているのか、もってまわった言い回しで彼はネカネにそう提案する。

……クラスメイトの中には、今学期いっぱいで卒業してしまう者も居る。この計画はおそらく、そんな彼らへの思い出作りを目的としているのだろう。

彼女としても、その様な計画があるのならば喜んで力になりたいとは思うが———

 

 

「……ごめんなさい。私、今日中に実家に帰るってネギに———弟に言ってありまして。だから放課後に残るとなると、バスが……」

 

 

……そう、既に以前電話した時、今日この日にネギの下へと帰ると約束してしまったのだ。

ネカネの故郷は山中にあるため、帰るために出るバスの本数が少なく、一本逃せば最悪到着時間が深夜になってしまう。

 

確かに深夜であろうと「今日中」は「今日中」であろうが、時間が遅くなればそれだけ弟に心配をかけてしまうかもしれない。心配をかけてしまうかもしれない(二回目)。

最近は少しづつ態度が軟化してきた弟だが、そういう屁理屈を捏ねればまた硬化してしまうかもしれない。約束を破るなど勿論論外だ。

自他共に認めるブラザーコンプレックスであるネカネがそのような不手際を許せるだろうか否許せるわけが無い(一人反語)。

 

そのため大変申し訳ないとは思うが、長引く恐れのある話し合いに参加することは出来ないと答えた。

 

 

「……ふむ、そうかね。まぁそれならば仕方無し。ああ、仕方が無いとも。私としても無理強いはしたくは無いのでね」

 

 

まぁ出来れば、彼らを纏めるのを手伝ってもらいたかったのだが。

男子生徒はネカネに聞こえないようにそう呟いて、春休みに入った事で騒がしいクラスの中をぐるりと見回した。

ネカネもそれに釣られて、彼の目線を追いかける。

 

とある筋骨隆々の男子生徒は、小柄な男子生徒と殺し合いにも似た喧嘩を繰り広げ。

とある色黒の男子生徒は、腐乱死体の生徒と【あふあふ】。

とある四本腕の男子生徒は、それぞれの手に持ったジャパニーズ・ニホントウに打ち粉を塗し。

とある男子生徒は、小学生にしか見えない女子生徒にちょっかいをかけて吹き飛ばされ。

それらを戒めるはずの自称クラス委員長は、机の上をお立ち台としてエレキギターを掻き鳴らし、耳の長い女子生徒に引っぱたかれて先程の男子生徒と共に窓の外へと吹き飛んでいった。

 

惨状。

これで全員が全員成績優秀者であり、その能力においては教師すらをも上回っているというのだから救われない。

もう魔法使いの世界も長くないのでは無かろうか。

 

 

「…………ごめんなさい」

 

「……いや、なに。気にする事は無い。気にする事はないとも」

 

 

ふっ……と、ニヒルな笑みを浮かべ男子生徒はサムズアップ。

ネカネは心の底から申し訳なく思ったが、やはり弟の事が第一だ。

今日の話し合いは無理だが、それ以外の段取りは誠心誠意手伝わせてもらうと男子生徒に告げ、荷造りの終わったカバンを手に立ち上がる。

 

そして最後にもう一度謝罪の言葉をかけ、寮に帰省用の荷物を取り行くべく教室の出口へと向かい———

 

 

「———ああ、そうだ。少し待ちたまえ」

 

 

ふと、何かを思い出したかのように呼び止める男子生徒の声を受け、足を止める。

振り返ってみると、男子生徒は懐をごそごそとまさぐり、何かを取り出そうとしてるようだった。

 

 

「? なんですか?」

 

「うむ、以前に君が言っていた弟君の名前の事なのだが———」

 

「!!」

 

 

ネカネの顔つきが、真剣な物へと変わる。

 

そう。確かに以前、彼女はこの男子生徒に一つの頼み事をした。

これまでにあったネギとのあれやこれやですっかり記憶の彼方に置き去りにしていたが、彼の言葉でその事を思い出す。

 

ネカネ自身も書店や図書館等で調べてはいたのだが、アナログな方法では如何せん限界があった。

そのためクラスの中で一番親しく、よくPCゲームで遊んでおりネットに詳しそうなこの男子生徒に軽くでもいいから調べてもらうよう頼んだのである。

別に村人に頼んでも良かったのだが、滞在期間を考えると学校に居る人間の方が何かと都合が良かった、と言う事もあった。

 

完全に男子生徒の方角へと向き直り、その一挙手一投足をそわそわと見守るネカネ。

男子生徒はその光景に苦笑一つ漏らし、懐から紙の束を取り出し———彼女へと手渡した。

 

パソコンから印刷されたと思しきその書類の表紙には、題がしっかりと黒文字で表記されている。

 

 

「———此処と向こう、二つのネットで検索した物を纏めた物だ。せっかくだ、バスの中でゆっくりと。そう、ゆっくりと読み解くといい」

 

 

———その紙に書かれた題は、「ニシジョウタクミという名についての情報」

 

それは、彼女の愛する弟がある日を境に突然名乗り出した名前の調査書であった。

 

 

 

*********************

 

 

 

———故郷へと向かうバスの中。

その後部にある座席に、ネカネとアーニャは二人並んで腰掛けていた。

 

レトロな雰囲気を漂わせるバスは、山中にあるにしてはそれなりに舗装されている道路を進み。

時折石か何かを轢いているのか不規則に車内を揺らしながら、目的地へとひた走る。

窓の外に見えるのは、青の少ない枯れた木ばかり。よくよく見れば枝の先に芽が生えてきた事が分かるだろうが、その景色は結構なスピードで流れさって行き、それを確かめることは出来なかった。

 

バスの内部に居るのは、運転手とネカネたちを含めた三人だけだ。

流石に故郷がこんな辺鄙な山の中にある者は少ないらしく、また社会人にとっては今日が平日だった事も幸いしてかバスの中は寂しいものである。

 

 

「はてさて、タクの奴は元気にしてるかな〜」

 

 

バスの窓際の席に座るアーニャは、春休みに入った事と自分の家に帰れる事が嬉しいのか、上機嫌で窓の外を眺めつつ鼻歌を口ずさみ、タクミ———ネギの事に思いを馳せる。

彼女はまるで出来の悪い弟を案じる姉のような表情で、いつも彼に対して浮かべている怒りの表情はなりを潜めていた。

顔をあわせれば喧嘩ばかりのアーニャだが、それでも一応ネギの事は気にかけているらしい。

彼女は本当はクラス全体での予定があり、もう少し後の日にちに帰郷する筈だったのだが、それを蹴って帰郷を優先させた事からもその事が伺える。

 

……しかし幾ら窓の外を眺めていても、見える物は枯れ木ばかり。

アーニャはやがて飽きたのか、隣に座るネカネに何かお話をしてもらおうと考える……が、ネカネは何やら難しい顔で書類に目を通しており、我がままを言うのも気が引けた。

 

 

「……タクってば、どうせまたインターネットのゲームでオカマやってるんだろうな〜」

 

 

チラッ

 

……そう擬音が付きそうな素振りでもって、ネカネにとってちょっと看過できないであろう発言をするが———当の本人は男子生徒から預かった書類を読む事に夢中になっているらしく、何の反応も返ってはこない。

アーニャはその様子を構って欲しげな横目で見つめるものの、真剣に読み物をしているネカネの邪魔をするのも申し訳ないので、再び窓の外を眺める事にした。景色は、やっぱり木ばっかりでつまらない物だったけれど。

……時には我慢する事も、正しきツンデレに必要な事柄である。

 

 

 

———ニシジョウタクミ。

 

それはネギの様子がおかしくなったと同時、彼が名乗りだした正体不明の名前だ。

推測するに、日本風の名前。ネギの発音から「ニシジョウ」までが名前で、「タクミ」がその姓だと考えられ———いや、日本風だから逆の可能性のが高いか。

 

まぁとにかくその名前はある日突然何の脈絡も現れ、ネギは何処からその名前を仕入れてきたのかが全くもって分からないのである。

 

家に置いてある本の中で日本を取り扱った物はないはずだし、animeもmangaも家には置いてない。

ラジオで日本関係の特集をやっていたのかとも思ったけれど、ネギは基本ラジオを聞かないのでその可能性もゼロに近い。

テレビはまだ家には無いし、村の中に日本人や日本かぶれの住人が居るわけでもない。

 

———本当に、何も無い場所から突如現れたその名前。

何故かそれが今のネギにとって大切な物になっているのだ。

 

ネギに直接聞いても「……ぼ、僕の、なま、名前だよ、……そそ、それ以上でも以下でも、ない」としか返ってこず、要領を得ない。

 

アーニャにそれとなく聞いても「えーと、何だっけ……確か【僕は彼じゃないけど、僕はにしじょうたくみなんだよ】とか言って泣いてたような……わかんない」と曖昧で。

 

スタンに聞いても「【聞けばどうせアンタも僕を狂人扱いするだろうから言いたくない】……だそうじゃ」とお手上げ侍。

 

 

「……………………うーん」

 

 

最初は、ネギが考えた創作の登場人物か何かの名前かもしれないと思った。

何かの影響で自分がその人物だと思い込んでいるのだ、とも。

 

しかし、それにしたって疑問が残る。

 

昔のネギは活発で、明るくて、英雄に憧れていたヒーロー願望のある子供だった『筈』なのだ。

そんな子供が、今のネギのような暗くて引き篭もりがちの人物を夢想するだろうか?

勿論憧れが原因ではなく、何かの事件により負の感情が大きくなりネガティブな人物に自分を重ね合わせた。という可能性もある。

しかし、その場合はどんな事件が起きたのかという疑問が生まれる。

 

昔のネギが今のネギになったとき、それには何の兆候も無かった『筈』だ。

彼の遊び友達や面倒を見てくれていた村の人たちもそう言っているし、何より自分の記憶にも思い当たる節は無い。

 

……無い、『筈』だ。

 

 

「……いたたた」

 

 

貧血の予兆か、ズキズキと痛みを発し始めたこめかみに指を当て、ネカネは嘆息。

 

—八方塞、理由が全く見当たらない。

書店で日本関係の本を立ち読みし(お小遣いが足りなかった)、町の図書館で調べてみたりもしたが、結果は芳しくなく。

結局、日本で使われているあまりメジャーでは無い人名という事以上は分からなかったのだ。

……そして、男子生徒から渡された旧世界編の書類にもそれ以上深い情報は無かった。

 

 

「…………はぁ」

 

 

書類に書かれているのは、ニシジョウタクミという名の著名人のデータだけ。

やれ音楽家だ、やれ漫画家だ、やれ芸能人だ、犯罪者だ……。

 

それぞれ名前の漢字表記は違っているが同じ読みを持つ人物がずらりと並ぶ。

並ぶ、とは言っても実際の数はそれ程多くなく、精精十数人程度であり———その中にネギと関連付けられる物は無かった。

 

……しかしそれでも無駄に細かくデータが記載されており、男子生徒の細やかな配慮が書類の端々に垣間見える。

 

これは後で何かお礼をしなければなるまい。

ありがたいやら申し訳ないやらで何とも言えない気持ちになりつつ、ネカネは表紙に「旧世界編」と書かれたその書類をそっと閉じた。

そして足元においてある鞄にそれを仕舞いこみ———そして、もう一方の書類を取り出した。

 

表紙に書いてある文字は「新世界編」。

「新世界」とは男子生徒の言う「向こう側」の別称———所謂、魔法世界の事だ。

 

……実はネカネは、この書類にこそ期待していた。

旧世界の事は散々調べつくした感のあるネカネだったが、まだ魔法世界の事に関しては少しも調べては居なかったのだ。

 

いや、一応は魔法世界に居た事のある村の人や魔法学校関係者にそれとなく聞いた事はあったが、結果は芳しくなかったのである。

渡界に制限があり、こまめに行き来して調べられない、という事や雑誌や本の類をこの旧世界に持ち込む事が禁止されている、という事も調べ難い理由として挙げられた。

 

……ネカネが【まほネット】という魔法使い専用の魔法世界インターネットを使えないほどの機械オンチだった事が最たる理由だったというのは、此処だけの秘密。

 

まぁとにかく。

 

 

「……さてと」

 

 

溜息一つ。

ネカネは気分を入れ替えて、書類を開き目を通し始めた——————

 

 

 

*****************************

 

 

 

「———よーっし! やっとついたーーーっ!!」

 

 

曲がり角の多い細い道を抜け、幾つもの山を乗り越える事数時間。ようやくもってバスが辿り着いた先。

アーニャとネカネの生まれ故郷である、山間に存在する小さな村。その地に二人は降り立つ。

 

もう一ヶ月近くは帰って来ていないはずなのに、バス停のある場所から眺める景色は二人の目には何ら変わっていない様に見えた。

しんしんと空を覆う雪の欠片も、それが降り積もり真っ白に染まっている地面も、同じく白く化粧をした森の木々達も。

記憶にある景色と一つも変わり無い。

 

ふと見ると、アーニャは余程バスの中が退屈だったのか雪の結晶が舞い降りる空の下を走り回り、地面に積もった雪に足跡をつけて遊んでいる。

……この光景も、昔に見た記憶がある。

何時もは大人ぶっているけれど、こういう所を見るとまだまだ小さな子供なのだなぁ。……ネカネは懐かしさと共に、そう思う。

 

 

「———ほら、アーニャ。遊んでないで早く行きましょう?」

 

「あ、はーいっ」

 

 

ネカネのやんわりとした諌め言に帰ってくるのは元気な返事。

自分の物と、アーニャの分。二つの鞄を持って歩き出したネカネの背を追いかけて、アーニャがとてとてと可愛らしい足音を立てて追い縋って来る。

そしてアーニャがちゃんと自分の隣に追いついた事を確認した後で———ネカネは、どんよりとした厚い雲が覆う空を見上げた。

 

———ニシジョウタクミ。

 

……ネカネは空を見上げたまま、バスの中で読んだ書類の情報を思い出す。

 

 

(———確かに、それならネギが名乗ってもおかしくはないと思うけれど……)

 

 

もしあの書類に書かれていた事が事実ならば、確かに「ニシジョウタクミ」という名をネギが名乗る事に一応の説明をつけることが出来る。

子供が思いつきそうな妄想を予測し、本末転倒ではあるが【今の】ネギの言動を無視すれば、結論にこじつける事が出来る。

 

……だが、それでは「どうしてその名前を知っていたのか」という疑問がまた生まれる事になる。

書類に記載されている事を見る限り、どうやったってネギがその名前を知り得るはずがないのだ。結局頭の中の靄は晴れる事は無いだろう。

 

……彼女は、目の前に垂れる仮初の答えには飛びつかない事にした。

その理由としては、彼女の聡明な頭脳がまだ矛盾点があると判断した事。

且つ、自分達の側が納得できる理由付けだけで安易な答えを出す事を善しとしなかった事。

 

 

———そして何より、【昔】のネギの型に当てはめて【今】のネギの言動を全て無視する、という選択肢をネカネは取りたくなかった。という事があった

 

 

……昔のネギと、今のネギ———確かに別人と言えるほどに、その差異は非常に大きい。

村人は勿論、ネカネやスタンでさえ一時は何者かの変装であることを、何者かが魔法でネギに憑依、又は精神を攻撃した事を疑った程だ。

 

結果を言えば、前二つの疑念はネギが以前の記憶を持っている事と、ふとした瞬間に漏れ出る無意識の仕草にネカネとスタンが「ネギ」を見た事で払拭され。

もう一つ残った疑念は、その当時に村の中に不審な人物が存在した痕跡が無かった事。そもそも村を覆う結界を越える程に強力な精神攻撃魔法が存在しない事から、その可能性を却下された訳だが。

 

とにかく、そのような騒動が発狂しかけていた拓巳の知らない所で起っていた頃———彼女は、昔のネギに戻って欲しいと願っていた。

【今】の様な、暗くて引き篭もりがちなネギではなく、【昔】の明るくて元気だったネギに———「ニシジョウタクミ」ではなく、「ネギ・スプリングフィールド」に戻って欲しいと、切実に。

 

……拓巳は、ネカネが自分の事を必ず一回は「ネギ」と呼ぶ理由を彼女の天然から来たものだと思っている。

 

だが真実はそれとは違う。

彼女の望む「ネギ」ではなく「タクミ」として振舞う弟への、ネカネにとって精一杯の反抗であったのだ。

 

———今は頑なに「ネギ」を拒んでいる「タクミ」だが、「ネギ」の名を呼び続ければ何時かは「ネギ」に戻ってくれるかもしれない。

 

彼女はその想いを胸に、敢えて彼の事を「ネギ」と呼んでいる。

ネギとなった拓巳の惨状を知っているが為、その身を案じて自分の気持ちを抑えているだけで、本当は常に彼の事を「ネギ」と呼んでいたかった。

 

———「タクミ」という存在を認めたくなかった。

 

……そう、拓巳の側に立って見れば彼女もまた、持っている感情の種類は違えど村人と同じように拓巳に「ネギ」を押し付ける人間の一人だったのである。

 

だが今の彼女はその想いが薄れてきていた。

否、「ネギ」に戻ってきて欲しいと言う願い自体は変わらないのだが———ある時を境に、彼女にも「タクミ」を見る余裕が生まれたのだ。

 

大人ぶっているくせに、子供であるアーニャと本気の喧嘩をする「タクミ」。結局は肉体言語に屈し、悔しそうに負け惜しみを言う「タクミ」。

小さなことですぐに腹を立て、背伸びをした怒り方をする「タクミ」。酔っ払ったスタンに絡まれ、迷惑そうに嫌味を言う「タクミ」。

そして言い過ぎて拳骨を貰って、涙目で文句を言う「タクミ」。

……そして、ぎこちなくではあるが、自分と距離を詰めようしてくれている、「タクミ」。

 

……そのような姿を見るうちに、気付けばネカネは「タクミ」という「ネギ」を否定する事は無くなっていた。

その全ては、今隣を歩いている可愛い妹分———アーニャのおかげと言えるだろう。

触れれば壊れそうで、自分達では開ける事の出来なかった、弟の心を覆うボロボロの扉———それを問答無用に無理矢理蹴り壊し、自分達の居る場所へと繋げてくれた彼女のおかげ。

 

アーニャが居たからこそ、ネギは「タクミ」のまま僅かにではあるが「ネギ」を受け入れる余裕が出来た。

それは「タクミ」を消そうとしていた自分達には出来なかった事。「ネギ」しか望んでいなかった自分達には出来なかった事だった。

 

 

「? なに? ネカネお姉ちゃん」

 

「……ううん、なんでも」

 

 

……本当に、この子には感謝しても仕切れない。

弟と同じく、赤い色素を持った彼女の髪の毛を撫でながら、本当にそう思う。

 

もし彼女が居なければ、自分達は「タクミ」だけではなく「ネギ」すらをも殺していたかもしれない。

そしてその理由を理解しないまま、どうしてと泣き叫び、「ネギ」の事だけを後悔し続けていたかもしれない。

 

……ネカネは、アーニャと触れ合う「タクミ」の姿を見るうちにそう思い始め———そして自分へと歩み寄ってくれたあの些細な出来事を契機に悟ったのだった。

 

———【今】のネギは「ネギ」では無いけれど、「タクミ」は間違いなくネギで。

———【昔】のネギは「タクミ」では無いけれど、「ネギ」は今もネギなのだ。

 

だからこそ、思う。

答えを出すためには自分は彼の姉として、彼の家族として、もっとネギの事を———否、「タクミ」の事を理解しなければいけないのかもしれない……と。

 

……そんな訳で、「ニシジョウタクミ」についての答えを出すのは先送り。

男子生徒から齎されたその情報を結論にはせず、唯の一情報として扱おうと結論付ける事にする。

彼女の調査は、まだ終わらないと言う訳だ。

 

 

「……はぁ」

 

 

……というか、もう調べられる場所が残っていない気がするのですが。

流石に頑張ってこれだけ調べた甲斐あって「ニシジョウタクミ」の情報はそれなりに集まったが———何か、大事な部分がすっぽりと抜けている。

 

「ニシジョウタクミ」とは一体何者なのか、男性なのか、それとも男性っぽい名前の女性なのか、そもそも実在する人物なのかどうか。

何故「タクミ」は「ネギ」を嫌い、「ニシジョウタクミ」を名乗るのか。

そして「ネギ」がどうやって「ニシジョウタクミ」を知ったのか、どうして「ニシジョウタクミ」と言う名にあそこまで固執するのか。

……いや、そもそもネギの言う「ニシジョウタクミ」と、この書類に書かれた「ニシジョウタクミ」が同一人物である保証もないわけで。

 

———ふしぎ! 何か返って答えへの道のりが長くなった気がするわ!

やったねネカネちゃん、解かなきゃいけない謎が増えたよ! もうやめて!

 

 

「……あっ」

 

「ぁわっ!? わっ、わっ!?」

 

 

ふらり、と。

新たに襲い掛かる心労に軽い貧血を起こし、僅かにバランスを崩し。それを見たアーニャが慌てて手を突っ張ってネカネの身体を支える。

流石に軽いとはいえ二倍以上もある身長差は如何ともしがたいのか、アーニャは顔を真っ赤にして踏ん張る踏ん張る。

 

……もういいかなぁ。

このまま素直に「タクミ」と打ち解けていけば、その内教えてもらえるかなぁ。

アーニャに支えられたまま、そんな事を思うネカネだった。

 

 

「む、ぐ、ぐぐ……ぁーーーーーーっ、……あっ」

 

 

がっくん、と。

 

一方アーニャ

支える手の力を一瞬抜いてしまったのかネカネの頭が傾いてしまい、更に慌てて変な具合に力を入れてしまったらしく腕の筋肉からビキビキと不穏な音を立てていた。

真っ赤 → 真っ青 → 真っ緑と、女の子とは思えない表情をしたアーニャの顔色が面白いように変わっていく。それでもネカネを離さないアーニャの優しさに敬礼。

 

そんな、二人でのコント染みたやり取り。

ネカネは貧血により(アーニャにとって)絶望的な状況に気が付かず、虚ろな視線で空を見上げたままで———。

 

 

「…………?」

 

「むぅぁぁぁぁ……! お、おも……くないーっ。 ぜんっぜん……重くないったらーっ」

 

 

見ていた視線が、その一点で止まる。

どんよりとした厚い雲。チラチラと降り注ぐ雪の結晶。

———未だ止まぬその雪空の中を、幾百もの黒点が浮かんでいるのを発見したのだ。

 

 

———ネカネは、最初はそれを鳥だと思った。

 

———次に飛行機だと思った。

 

———そして最後に、魔法で飛んでいる人間だと思って。

 

 

「———ッ!?」

 

 

それらが視認できる距離にまで近づいた時。

そのどれもが見当外れだったという事を認識し———彼女の顔色は、貧血とは別の理由で真っ青になった。

 

 

「———アーニャ! ごめんなさいっ!!」

 

「え? あ、ちょっ、ちょっと!?」

 

 

空の向こうからやってくるその姿が何なのかを理解した瞬間、ネカネは貧血だった事も忘れて身体を起こし、自分の鞄だけを捨ててアーニャを抱え走り出した。

急に持ち上げられ、投げ捨てられるネカネの鞄を見たアーニャが声を上げるが———ネカネはそれを気にする事無く、懐から杖を取り出し呪文を呟く。

 

———肉体強化!!

 

踏み込んだ地面が、爆ぜる。

そして呟きと共に舞い散る光の粒子はネカネの身体を舞い流れ———端から見れば、彼女自身が発光しているようにも見える事だろう。

 

医療魔法を学び、魔法の制御法方精通し、人体構造への理解が深い彼女だからこそできる、これ以上無いほどに効率化された強化魔法。

筋肉の繊維と全身に張り巡らされている神経系、その一つ一つに微妙に異なるベクトルを持つ魔力を幾重にも流し、少女の身体で出せる極限の膂力とバネを彼女は纏う。

今の彼女は貧血気味の虚弱な身体を大きく超越し、その気になれば音速に近い速度で飛ぶ対艦ミサイルすら視認し、生身で殴り落とせる化物と化していた。

 

魔法完了までの時間は、瞬きするよりも速く。疾く。閃く。

これ程の短時間でここまで精巧な魔力制御を用いた魔法を完成させる者は、魔法学校の教師にも数人いるかどうかだろう。

 

その代わり攻撃系統の魔法は初歩の基本的なものしか使う事は出来ないが———それを補って余りある能力。

医療魔法と付与魔法、そしてそれに関連する系統においては他の追随を許さないを能力を、ネカネはその年にして既に会得しているのである。

 

———彼女は、紛れも無く天才だった。

 

勿論、腕の中に抱えるアーニャへ空気抵抗を軽減する魔法をかける事も忘れない。

そうしてアーニャと彼女の鞄を抱えたままネカネは獣もかくやというスピードで走り、村へと向かって全力疾走。

先程のバスなど目ではない速度。周りの景色が勢い良く流れ、閃き、後方へと消えていく。

 

 

「ね、ネカネおねぇちゃん……?」

 

 

抱えられているアーニャは事ここに至り、ようやく何かがおかしいと気付いた。

自分を抱えて走るネカネの顔はさっきまでの間の抜けた……もとい。穏やかな物とはかけ離れていて、彼女はその様子に恐怖を抱いたのだ。

 

……何を、見たのだろう?

疑問に思ったアーニャは、抱えられた体勢のまま首を捩り、ネカネが見上げていた空を視界に捉えて———

 

 

———目に映ったのは、黒。

 

黒。

 

黒。黒。

 

黒。黒。黒。

 

黒。黒。黒。黒。

 

黒。黒。黒。黒。黒。

 

黒。黒。黒。黒。黒。黒。

 

黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。

 

黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。

 

黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。

 

黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。

黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒——————

 

 

———黒。

 

 

それは角を生やし。

それは黒い翼を持ち。

それは黒い肌を持ち。

それは丸太のような腕を持ち。

それは鋭い牙を持ち。

それは大きな爪を持ち———

 

———そして、その者達の目には、何処までも深い凶気が宿っていて。

 

 

「———〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」

 

 

――自分達の後ろから、村の方角へと押し寄せる悪魔の大群。

その光景を目にしたアーニャは、本能の感じる恐怖のままに大きな金切り声を上げ。

……ぐるり、と。黒の視線が彼女達を捉えた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

……誰もいなくなったバス停。

投げ捨てられた時に留め金が外れたのか、持ち主のいなくなった鞄がその口を開けて中身を外気に晒す。

 

そして降り積もる白に徐々に覆われていく中———それから逃げ出すように、書類が一枚。

冷たい風に乗って、空高くへと飛んでいく———。

 

 

『———紅き翼リーダー、サウザンドマスターことナギ・スプリングフィールドが、大戦後から皇女処刑事件までの極めて短い期間にだけ「ニシジョウタクミ」なる人物の情報を求めていたという証言が———』

 




■ ■ ■

当時はね、スパロボUXにデモンベインが参戦したって浮かれてたの。てへっ。

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