鯖の味噌煮はそんな好きじゃない(仮題) 作:Snowbird
俺の弟がこんなアホな訳がない
俺の視線の向こうには青空が広がっている。俺の一番好きな空だ。こう、些細な事さえ忘れさせてくれそうな、そんな青空だ。
「…今日は、空が青いな」
「「「ピクピクッ」」」
俺が言葉を発した瞬間、クラス全員が反応する
…いや、無理だ。現実逃避出来ん。むしろ現実に縛り付けるが如く、色んな視線が絡まってくる。
前を見れば、弟の一夏が顔を伏せている。良く見れば体の震えている事から、一夏も居心地が悪いのだろうと容易に想像出来た
何故居心地が悪いのかって?
それはな、
「あの二人が世界で初めてISを起動させた男子なんだって」
「すっごい、イケメンじゃない?」
「ふふふ、薄い本が厚くなるわ」
周りが女子だらけだから。それと最後の奴、薄い本を厚くするな。一夏はともかく俺はノーマルだ
「…はあ」
思わず溜め息が出る。一夏がISを動かさなければと
さっきの女子が言っていた通り俺達は世間では世界で初めてISを起動させた男子、と報道されている
『IS』
正式名称『インフィニット・ストラトス』
この世界で最も優れた兵器
この世界が女尊男卑になってしまった原因
篠ノ之束博士が制作した宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツ
しかし、その在り方は本来の役目から離れて、兵器として広く認知されてしまった
『とーくん、これがあれば大好きな空を自由にー』
「全員揃ってますねー。それじゃSHRを始めますよー」
ーっ
その声に思わずハッとする
気づいたら教壇の上で眼鏡を掛けた童顔の先生がSHRを始めようとしていた。
あの人は本当に先生なのか?と思ったが急いで姿勢を正す
「これから一年間皆さんの副担任を務める山田真耶です。一年間よろしくお願いしますね」
「………」
誰も反応しない。先生は少し涙目になっている
「…よろしくお願いします」
「あっ、よ、よろしくお願いしますね織斑君!!」
さすがに可哀想だと思ったので挨拶を返したら、山田先生は一瞬驚いた後、嬉しそうな顔で俺に挨拶してくれた
ちょっとドキッとした
「それじゃぁ、自己紹介を出席番号順でお願いしますね」
気を取り直した先生が、そう指示を出すと名前の順から自己紹介が始まった
俺は織斑で『お』だから結構速く回ってくるな。そういえば一夏はもう大丈夫か?
大分冷静になってきた頭で一夏の方を見てみると一夏はまだ顔を伏せていた。先程も反応してなかった所を見るとまだパニクっているのだろう
「お、織斑一夏君、織斑一夏君っ」
「は、はいっ!?」
俺が一夏に話し掛けようとした時、無常にも一夏の番が来てしまった。しかも、一夏もパニクったままだし
「あ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?でもね、あのね自己紹介『あ』から始まって『お』の織斑君の番なんだよ。だから、じ、自己紹介してくれるかな?」
何度も頭を下げる山田先生は、凄く幼く感じた。それと同時に男慣れしてないな、とも
急かされた一夏はやはり混乱したまま席を立つ
「お、織斑一夏です。よ、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる一夏だが、そこは十代女子。他に何かないのかと目を輝かせながらその先を急かす
『は、ハル兄!!他なに言えばいいの!?』
懇願するような弟の瞳。ったく、コイツは本当に俺に甘えっぱなしだな。そろそろ兄離れさせた方がいいかな?
『特技とか趣味を言えばいいんじゃないか?』
「と、特技は家事全般が出来ることです!!一年間よろしくお願いします!!」
そう言って勢い良く席に座る弟。その目はありがとう、ハル兄と言っている
思わず助け船を出してしまった自分に、俺も弟離れしないとなぁ、と考えながら席を立とうとして
「お前は兄に聞かんと満足に自己紹介も出来んのか」
目の前で豪快な音を出しながら出席簿で叩かれた弟を見て、目を丸くした
はて?この声、どこかで聞いた覚えがー
「げえっ、関羽!?」
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
またもや、豪快な音を響かせる出席簿、そしてこれだけの音を響かせられるのは一人しか知らない
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスの挨拶を押し付けてすまなかったな」
「い、いえっ。副担任ですから…」
「」
我等がお姉さまこと織斑千冬先生でした
ああ、山田先生が若干熱っぽいくらいの視線で織斑先生を見ている
ちなみに心の中でお姉さまと考えた瞬間睨まれた。あの人読心術でも使えんかな?未だに独身女子ではあるー
「グボォオ!?」
「今、失礼な事を考えただろ?」
出席簿で叩かれた。
「諸君、私が織斑千冬だ。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け、いいな?」
まるで、独裁者のような言い方。しかし、次の瞬間には黄色い歓声が教室に響き渡った
「きゃぁー!千冬様よぉー!!」
「ずっとファンでした!」
四方八方から飛び交う歓声に千冬様姉が鬱陶しそうに頭を抱える
「…毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?まあ、良い。おい、織斑兄、さっさと自己紹介しろ」
千冬姉の登場で更に熱を帯びた教室は二番目の男子である俺が立つと目を輝かせながらこちらを見てくる
女でしか起動させられないISを起動させてしまい、周りは女子だらけ。もう一人の男子である弟は出席簿で叩かれて頭から煙を出して、叩いた人物は月に数回しか帰らなかった唯我独尊を地で行く姉上で
はあっ、と気付かれないように溜め息を吐く
「織斑十春です。特技は家事全般が出来ることで、そこの織斑一夏の兄です。わからない事ばかりですが一年間よろしくお願いします」
一年間やっていけるか、心配だぁ