P×S 凍結中   作:岳海

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番長、那岐宮を歩く

その日の夜、とある一軒家

 

一般家庭のレベルにしては広くて新築の雰囲気を漂わせる一階のリビング。普通の家庭ならばテレビでもつけて家族団欒の和気藹々ムードであふれかえるはずなのに、その場に響くのは携帯を耳に当てている俺一人の声だけ。無駄に広い分どことなく虚無感が感じられる。

『そっかー、今度は一人暮らしする羽目になったのかー』

電話の向こうの親友が心配するような口調で言う。バスの中のメールで家についたら話そうという約束をしたので簡単な夕食を済ませた後、早速電話をかけ新しい住居の報告をする。

『そんなことだったら、もう一年こっちで過ごせればよかったのになー』

「仕方ないさ、ウチの両親もこうなる事になるとは思ってもみなかっただろうしな。もっとも、もう慣れちゃったけどな」

『お前、話には聞いてたけどなかなか苦労してたんだな。菜々子ちゃんは堂島さんやお前がいたけど、おまえ自身に関しては・・・』

「それももう慣れたさ、今更親がいなくて寂しいっていう歳でもないしな・・・」

小学校高学年の時から両親からは誕生日を祝ってもらった事もないし、それからクリスマスイブなんて祝ったのも去年で久々の話だった。改めて考えるとひどい両親だな。仕方ない話だが。

『何て寂しい青春時代なんだ・・・。お前が抱えた苦労を考えると、俺の苦労なんか・・・』

「なんかなんて言うなよ。陽介だって、大切な先輩を亡くした悲しみは決して軽くはないだろ?むしろ、俺なんかより背負っている物が違うよ」

『・・・ワリ。気を遣うつもりが逆に遣わされみたいで』

「気にするな。空回りするのは陽介の得意技だからな・・・」

『ああ・・・っておい!お前今何気に失礼な事言っただろ!!この空気でそんな言葉放つかフツー!!』

「ハイカラだろ?」

暗い口調から一転、いつもの相棒―――陽介らしいツッコミが入る。

『はぁ・・・なんだか真面目な話してたのに馬鹿らしくなってきた・・・』

「え、真面目な空気だったのか?」

『気づけよ!』

「落ち着け」

『オメーのせいだっつうの!』

悲壮な空気は一変、いつもの俺たちらしい空気が流れた。そんなこんなでしばらく談笑を楽しんだ。

 

 

 

『そういえば、お前の方は決めたのか?』

「?」

『進路だよ進路。ホラ、俺たちもう3年生じゃん』

進路か・・・。そういえばもうそんな時期か・・・。

『お前はやっぱり、進学とか考えているわけ?学年成績トップだったし』

「そういう陽介はどうするんだ?」

『・・・・・・』

突然、電話の陽介の声が途切れる。もちろん電話の故障などではない。受話器の向こう側から返答に困っているという雰囲気が漂う。

数秒置いてからハァー・・・というため息が聞こえてくる。

「・・・まだ決めてないのか?」

『男には色々あるんですぅー・・・』

自ら地雷を踏んでしまったようだ、ジライヤだけに。

・・・そっとしておこう。

『俺全然決めてないんだよ!周りはどんどん決めてっているのに!』

悔しぃーー!!というように叫び声をあげる陽介。

『里中は堂島さんのように警察官目指すと言ってるし、天城は旅館継ぐとか言ってるし、一条や長瀬にしても・・・あぁーー!!』

「落ち着け」

すっかりヤケクソ気味になっている陽介。アムリタでも教えた方がよかったか?

「大学に進学するという手もあるんじゃないのか?それじゃなくてもジュネスを継ぐとか」

『それもそうなんだけどさー、なんというかなー・・・俺のやりたい事ってなんなんだろうなって話さ』

「やりたいこと・・・」

『親父は雇われ店長だから、別に親父の物ってわけじゃないしな。そうじゃなくても、ジュネスを継ぎたいかって言われたらなんか違うような気がするしな・・・・かといって、ただ目的もないから進学って言うのもなー・・・いや、別に学力やばいからこう言っているわけじゃないからな!?』

「・・・・・・」

『おーい!?なんだその沈黙は!?少なくとも、完二やクマなんかよりは成績上ですぅー!』

失礼な言い方だが、完二はともかくクマと比べるのはどうなんだろう・・・?そもそも通学してないし・・・。

・・・そこもそっとしておこう。

「目的がないからこそ、大学行きながら見つけるという手もあるんじゃないか?」

『ま、そりゃそうなんだけどさ・・・俺ってお前と違って頭良くないし・・・なんか自分で言ってて悲しくなってきた・・・』

「とにかく、いきなり結論を出さないで色々考えてみるといいさ。時間が全くないって訳じゃないだろ?」

『・・・まあな。そうだよな!まだこれからだもんな!・・・おっと!なんかクマが呼んでいるから今日はこれで・・・ウルセーな!!クマ吉!!』

受話器の向こうから陽介の声に混ざってかすかにクマの声が聞こえる。余程大きな声で呼んでいるのだろう。

『話せたら少しは楽になったよ。またいつでも連絡くれよな!』

「そっちもな、俺でよければいつでも相談に乗るよ。あと、雪子はともかく千枝にも勉強頑張ってと伝えといてくれ」

『おう、またな相棒!!』

「ああ、相棒」

言い終わった瞬間、ぷつりと通話が切れる音がする。こんな陽介もクマも相変わらずだな。この分だと皆も元気そうだ。

名残惜しさを感じながらも折りたたみの携帯を畳んで充電コードに挿し、深く息を吐いて天井を仰ぎ。時計を見る。

堂島家は今なにやっているんだろうか?叔父さんはまた仕事だろうか?菜々子は今一人なんだろうか?俺がいなくなった後、またジュネスの弁当を食べているのだろうか?栄養が偏らないといいんだけれど・・・。

 

『お前はやっぱり、進学とか考えているわけ?学年成績トップだったし』

 

 

・・・進路か。

先程の陽介の言葉が頭の中にリフレインする。陽介に偉そうなことを言ったはいいが、自分も人のことは言えなかった。

その答えを探そうとも、まるでテレビの中の霧のように閉ざされて何も見えない。

「やりたいこと・・・・か」

誰もいないダンボールだらけのリビングで、小さな呟きに答えてくれるものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

その次の日

 

 

叔父の家から送られてきた多くもなく少なくもない荷物を片付けるのに、午前を丸々使った。

本来なら八十稲羽を出てからこの町で両親と暮す予定だったのだが、またいつもの急な海外転勤で高校最後の一年間をここで過ごす羽目になってしまった。一軒家の一人暮らしと言うわけだ。

昨晩陽介にも言ったが、そういうことは日常茶飯事だし、いまさらとやかく言うつもりもなかったし仕方がなかったから。ただもっと早く言ってくれれば、もしかしたらもう一年あの八十稲羽暮せたかもしれないのに・・・。急だったから仕方がなかったが。

小休止をしてから、昼食を買いに行くがてら、この町の探索へ行くために外へ出る。いい天気だけれども、まだ寒さが残る。

 

「・・・いつからだろう、何かあるごとに仕方がないとこぼすようになったのは・・・」

口にしたとたん、襲ってきた空しい気持ちを振り払うように首を振り、歩を進ませる。

 

 

「デパートか・・・」

なんとなく道を歩いていると、デパートがあったので何か惣菜を買ってこようと入ってみる。

大きさだけならジュネスにも負けていないだろう。だが製品の陳列具合にはなんとなくだらしなさが見えるのは気のせいだろうか。

 

『こんな散らかして商売が出来るか!もっと整頓するようにしてくれ!やり直し!あと、こっちの棚の品だしも頼む!』

陽介が見たら、こんな風に注意するに違いない。そう思うということは、きっとそういうことなのだろう。店員は何をやっているのだろうか?よくこんなんで商売しようとか考えられるな・・・。

 

 

「・・・でさーそういうことで大変だったんだよねー・・・」

「へー・・・そんなことがあったんだー」

製品棚を見ていると、男女の会話が耳に入ってきてふとそちらに視線が行く。

同い年か一つ下くらいだろうか、二人の男女が話しているのが見える。しかも少女の方は格好からしてここの従業員・・・年齢からしてバイトかな?

男子の方は暴漢にでも襲われたのだろうか?顔が絆創膏や包帯だらけだ。そのせいか大分やつれて見える。よほどひどい目にでもあったのだろうか?

「あの後30分ほど藤矢先輩に追い掛け回されてさー・・・その前には勇人先輩にも追い掛け回されたし・・・」

「あの時ビックリして腰抜かしちゃったわよ!いきなりアンタと目を血走らせている先輩の走る姿みてたらさ・・・アンタまた何かした訳?」

「俺は悪くない!とばっちりにあっただけだって!」

大げさそうに悲痛な叫び声を挙げる男子。会話はまだ続く・・・。

「大体綾先輩に告白しただけで襲ってくるとかどんだけだよ!そのたびに襲われてたら体が持たないって!」

「というか綾先輩と藤矢先輩って付き合っているの?」

「いいや、完璧藤矢先輩の片思い。自分も告白したんだけどばっさり断られたんだって。それで他に告白してきた奴を逆恨みと八つ当たりで辻斬りしているって訳さ」

「あの人も普段はそんな人じゃないんだけどなー・・・綾先輩が絡むと人が変わるんだから・・・完璧多重人格ね。本人があの様子じゃ、夏美先輩の想いも気づいていないんだろうなぁー」

「えっ!夏美先輩って藤矢先輩のことが・・・!?」

「そーなのよー!夏美先輩ってあれでもねー・・・」

・・・まだ会話が止む気配がない。

 

 

『さぼってんじゃねえぞクマ野郎!!給料減らされてえのか!?いいかげんにしねえとそのクマ皮ひっぺがして叩き売るからな!!!』

『ヨ、ヨースケシドイ!こんなか弱くてキュートなクマをこき使うなんて・・・!クマ虐待で訴えるクマ!!!』

 

 

ジュネスなら絶対こういうことになるだろう。というか普通そうだろう。随分緩いんだなこのデパート。いつまでたってもお喋りしてしている従業員を注意する様子もないし・・・。

散乱している商品棚に再び視線を戻す。このまま放っておいてもいいのだが、ジュネスでバイトしていた時の癖か、商品を勝手に並べなおすことにした。

八十稲羽を贔屓目に見るのも問題だろうか・・・?そう思うと苦笑が零れた。

 

「つーかお前、こんな所でいつまでもお喋りしていいわけ?怒られないの?」

「へーきへーき。どうせここの規則緩いし・・・・」

「あのなぁ・・・あれ、なんか客が勝手に整頓しているけど」

「へ?」

そこで初めて、女子の方がこちらに視線を向ける。

さすがにまずいと思ったのか、やばいといった表情で慌ててこちらに近づく。

「す、すいませーん!お手間をおかけしましたでしょうか?」

ぎこちない従業員スマイルでこちらに微笑む。それに対して無表情で返す俺。それを見た店員は『うっ』と声が出てきそうな顔で顔を引きつらせる。

「・・・友達が尋ねてきてお喋りに夢中になる気持ちは分らなくもないが、もっと仕事に真面目になった方がいい。俺の知っているバイト先なら真っ先に怒声が飛んでいたところだったぞ」

もっとも、大抵相手はサボっているクマだったり、試食コーナーのウインナーを食い尽くすたまに来る千枝だったりするのだが。そしてそれを見て雪子が爆笑するのが定番だった。

そんな事を考えている側で、従業員の女の子は怒られた子供のような顔で言い返せずに口をもごもごさせていた。正論を突きつけられて言い返せないという様子だ。だが俺は容赦はしない。

 

「そもそも、働くものの心構えというのはだな・・・」

 

 

30分経過

 

 

 

ミスコンについて語った時のように、言霊使い級の伝達力で熱く語ってみた。力説のあまり、伝達力が上がった・・・気がする。店員の女の子はあまりのことに呆気にとらわれた表情でこちらを見ていた。

「要するに・・・今度から気をつける事」

流石に言い過ぎたかなと思い気が引けて、慌てて一言言い残し、惣菜コーナーへ走る事にした。女子が何か言いたそうにするのをあえて無視するように・・・。

 

 

 

「話がなげえ・・・」

西郷克哉はそう思った。もっともなクレームをつけてきたかと思えば、質の悪い酔っ払いのように30分延々と話し続けた。

さすがにやりすぎだと思い、横から話しに入ろうとしたら「貴様は黙っていろ」と言わんばかりのすごい視線で睨まれてすごすごと引き下がってしまった。

「えーと・・・大丈夫か?え・・」

「なんて心に響く話なんでしょう!!私、今日から真面目に働くわ!」

落ち込むどころか、目をキラキラさせて頬を赤らめる幼馴染の姿を見て、本気でずっこけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

結局、ビフテキ弁当にしてしまった・・・。

どれを選ぼうか迷った結果、食べなれたビフテキ弁当を2つ買ってしまった。これで昼と晩のメニューが被ってしまった。

おまけに見ず知らずの人間にくどくどと説教まで食らわせてしまった。今頃落ち込んでいないだろうか。もしかしたら今頃心を入れ替えて・・。

いや、ないわー・・。

まぁ、それはともかくあとは野菜か果物が欲しいところだな・・・どこかにないかな。

というかさっきのデパートで買えばよかった。さっきのやり取りですっかり頭から吹っ飛んでってしまった。

「後悔、先にたたずだな・・・」

「なぁいいだろう!ちょっと遊びに行こうぜ!」

突然、大声が遠くから聞こえてきて自然とそちらに目を向ける。

見てみるとガラの悪い3人の男が一人の女性を囲むように並んでいる。明らかに逃げられないようにするためだ。

「そんな・・困ります。私はこれから・・・」

「お嬢さん綺麗ですねー!外国の人?ね?カラオケ分かる?カラオケ?」

「野郎3人だとむさくるしいところだったのさ。一緒に行こうよー!」

「いいじゃん絶対楽しいってー。行こう行こう!」

明らかに迷惑そうに断る女性に対して、男達は強引に誘おうとしている。チンピラの教科書があったら絶対に載っていそうな常套句だな。周りの人も、被害を恐れて見て見ぬ振りだ。薄情な人たちだ。それが普通なんだろうが。

と、そうこうしているうちに連中の一人が女性の手を強引に掴んだ。

「いいからホラ、行こうって・・・」

「は、放して下さい!!」

と、女性も男の手を強引に引き剥がす。それを見て明らかに男達の空気が変わった。

「んだぁ・・・?優しくすりゃあ付け上がりやがって・・・」

何処がだ。最初から強引だったろうが。

「テメエ・・いいからさっさと・・・」

「あのー・・そこまでにしといたほうが・・・」

 

さすがにこれ以上はヤバイと判断し、声をかける。

こちらに気がついた男達は怒気を纏った目で、女性は突然の事で驚いたような戸惑ったような目でこちらを見る。

「なんだテメー・・・いきなり割り込んでくるんじゃねえよ」

「その人、嫌がってるじゃないか?放してあげたほうが・・・」

「ウルセエっ!引っ込んでろ!」

逆上した男の一人がこちらに掴みかかる。

と、ほぼ反射的にその手を掴み、背負い投げの要領でその男を投げ飛ばす。男は背中から地面に強烈にたたきつけられ、小さく「グエッ」ともらしたのがかすかに聞こえた。

伊達に刑事をやっていた叔父の元にいたわけでもない。これくらいの護身術は身につけていたし、千枝に付き合って特訓していた事もあった。

もっとも、事件解決の為に何体ものシャドウと戦ったと思っているんだ。ただの一般人には遅れをとるつもりはない。

地面にたたきつけられた仲間を見て唖然としている残り二人に対して・・・拳を鳴らしながら・・・。

「さて、これからどうされたい?1キュッとシめられる。2顔面に靴跡付けられる。3顔面に靴跡付け・・・」

「「ひ、ひぃぃぃーーー!!」」

と、言い終わる前に、情けない声を挙げながら倒れた仲間を連れてチンパラ三人は去っていった。たったこれだけのことで逃げるんなら最初からあんな事しなければ良かったのに・・・。

もしこれが完二だったら、「テメエらシめんぞ!!キュっとシめんぞコラァァァ!!!!」と言って追い掛け回されていたに違いない。俺たちがそうだったから。

 

「あ、あの・・・」

 

先ほどの女性が戸惑うように声をかけて来た。

薄い紺色の髪を肩まで伸ばし、見るからにおしとやかそうな雰囲気を出している。知り合いで例えるならば多分、出会ったばかりの雪子が一番近いだろう。まさか爆笑癖があったりしないよな。

「大丈夫?」

「あっ、はい大丈夫です。ありがとうございました」

上品にこちらに礼をする。なかなか様になっているその姿は育ちのよさが伺えた。

「あと、思ったのですが・・・・」

「?」

「2と3が一緒でしたね」

クスリと笑いながらどきりとするような笑顔を見せる。確かにあいつらが思わず声をかけてしまうのも分かる気がする。もっとも、同じ事をしようとは思わないけれど。

「む、昔友達が言っていた事をそのまま使ってみた」

「それにすごく強かったですね。ジンガがみたら『戦ってみてえ!』とかいいそうです」

ジンガ?誰の事だ?故郷の知り合いだろうか?

「外国の人ですか?日本語うまいですね。異国で生まれ育ったというのならともかく、こんなに日本語を流暢に話せるのも珍しい・・・」

「そ、それは・・・」

「?」

褒めたはずなのに、なぜか困ったような笑顔を見せて言い淀む。そんな変な事を言っただろうか。

「あの・・・」

「あ、いけない!私これから用事あるんでした!失礼します!」

そう言うともう一度こちらに礼をした後、あわてて去っていく。やがて後姿が人ごみにまぎれて見えなくなっていった。

 

「ハイカラな人だったな」

 

また絡まれなければいいけどと思った瞬間、突然後から肩に手を置かれた。

「君、ちょっといいかね」

後を振り向くと二人組みの制服姿の警官がこちらを睨みつけていた。

「先ほど、女性が絡まれているという通報があってきたのだが、ちょっと詳しく話を聞かせてもらおうか」

「えっ・・・いやあの・・・」

「ちょっとついてきてもらおうか」

・・・有無を言わさず連行されてしまった。

 

 

 

その日の夜

 

 

『はっはっはそいつは大変だったな』

「大変な目に遭いました・・・」

今日2回目のビフテキ弁当の夕食を済ませ、八十稲羽の叔父さんに新しい住まいに到着したことを報告がてら、今日起きたこと話す。

『良い事をして、碌でもない目に遭うのはよくあることだが、お前の場合はとんだ災難だったな』

「巻き込まれる形で警察のお世話になったのはこれで2回目です」

『3回目だろう』

最初に天城を探しに行くときに陽介が刃物を振り回していたのが一回と、脅迫状が届いて菜々子が誘拐されたときのことを言っているのだろう。どちらにしろ、他者に巻き込まれる形になったのは気のせいだろうか・・・?

『まあ今回は不幸だったと思って諦めるとしてだ・・・』

急に叔父さんが真面目な雰囲気をかもし出す。

『・・・お前、確か今ナギミヤ市にいると言っていたな』

「?はいそうですが」

受話器の向こうで戸惑うような、困ったような、そんな沈黙が流れてくる。

『・・・お前に限ってそんな事はないと思いたいが・・・』

「え?」

何か小声で言っているような気がしたが、よく聞き取れなかった。

『お前ももう高校3年生で今が一番大事な時期だ。頼むから今度は学生らしく勉学に励んでいてくれよ。今回みたいな警察沙汰は勿論、去年のような事はもってのほかだ』

先ほどの困ったような様子から一転、いつもの少し脅すような口調で注意してくる。しかし一年間一緒に住んでいて、それがどれだけ自分を心配しているのかがよく分かる。

「・・・はい。わかってます」

見えているはずはないが、頷きながら返答する。

それでいい、と安心したように言ってくる。

『話が変わるがお前、今度のGWにはこちらに帰ってくるんだろ?』

「!はい!勿論です」

『俺もそうだが、菜々子や、お前の友達も喜んでくれるだろう。その時を楽しみに待っているぞ』

「菜々子は、元気でやっていますか?」

一ヶ月ぐらいで元気でやっているもないが、やっぱり気になるからしょうがない。

『さすがにお前が帰って行っちまってからは少し落ち込み気味だったが、花村達が今でも菜々子を気にかけてくれてな、むしろ前よりは元気にやっている。今でもお前との話で盛り上がるからお前が来ればきっと喜ぶぞ。今はもう眠っているから声は聞かせてやれないが』

なにしろまだ小学二年生だからな。と付け加える。そうか、陽介達が。

 

『この間なんか熊田の奴が一日中菜々子に付き合ってくれてな、『クマさん大好き!』っていいながら喜んでいたぞ』

 

ミシリ・・と、耳に当てた受話器が軋み声をあげた気がした。

クマさん大好き・・・。

あのクマ、始末した方が・・・。

『ど、どうした、急に黙ったりして』

「何でもありません」

なるべく平静に答えたつもりだが叔父さんは何かを感じ取ったらしく、機嫌を伺うように様子を尋ねる。叔父さんでも知らなくてもいいことがあるんです。

「俺が来る事はなるべく、ギリギリまでみんなには内緒にしてもらえますか?変に気を遣わせる必要もないし、サプライズと言う事で」

『そ、そうか、分かったそういうことにしておく』

なるべく平静を装いながら叔父さんとの会話を続ける。

その後も世間話で盛り上がり、適当な時間で今度は菜々子と話をする約束を取り付け、電話を切った。

リビングの時計を確認する。23:25分。

明日から学校だ、これ以上遅くならないうちに寝よう。

 

 

手早くシャワーと歯磨きを済ませてベッドに潜る。

目を閉じていても、さっきの興奮がまだ身体のうちに残っているのかなかなか寝付けず、じっと暗くなった部屋で天井を見つめる。

ふと、昨日のあのバスの中での会話が思い出される。

『我々がこうして再び相見えるという事は、お客様の行く道に何らかの障害があるということの証拠に他なりませんでしょう』

『・・・『犬も歩けば棒に当たる』そんな諺がございますが、お客様は今までのこのベルベットルームの中でも棒どころか・・・そうですな『運命』・・・とでも申し上げましょうか。とにかくさまざまな因子を引き付けるようですな・・・』

「運命・・・」

また、八十稲羽みたいな事件が待ち受けているのだろうか。俺の持つ『能力』がそれを引き付けると・・・?

『・・・お前、確か今ナギミヤ市にいると言っていたな』

そういえば叔父さんは、俺が今いる町について何か言いたげだったな、一体何なんだろう?

『お前ももう高校3年生で今が一番大事な時期だ。頼むから今度は学生らしく勉学に励んでいてくれよ。今回みたいな警察沙汰は勿論、去年のような事はもってのほかだ』

叔父さんは、一体何が言いたかったのだろう。俺に何か隠していることでもあるのだろうか。

・・・考えすぎか?

「今度は、どんな出会いが待っているのだろうか・・・」

・・・・・・。

暗闇の天井を見つめながら考えても、答えは浮かんでこなかった。当然か。

・・・・もう寝よう。

心地よい夢を期待しながら、やっとの事で俺の意識は薄らいでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クマと見知らぬ赤毛の額当てをつけた少年に、チャージからの八艘飛びを仕掛ける夢を見た・・・気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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