「はぁ・・・」
病院の待合室に備えられているソファに座りながら、溜息をつき携帯を開いて時刻を確認する。
8時半ちょっきり。
「完璧に・・・遅刻だな」
まさか転校初日で遅刻とは、前代未聞の出来事だな。
だが今回ばかりは勘弁してほしい。こっちにも都合があってやったことなんだ。さすがにそのままスルーして・・・なんてのは人道的にもできなかった事だし・・・。
「えーと・・・鳴上さーん」
「あ、はい」
自分を呼ぶ看護婦の声が聞こえてきて、視線がそちらに向くソファから立ち上がって自分の荷物を手にとって看護婦の下へ走る。
「これから学校だというのに、遅刻させてしまってごめんなさいね?」
「いえ、今回は仕方ありませんから。それより・・・」
ガチャリ
「あ・・・・」
肝心の事を聞き出そうとしたところで、意外とすぐ近くにあった診察室の扉が開く。お大事にと言う医者の声が部屋から聞こえてくる。
「どうもすみません。失礼します」
と、次の瞬間に部屋から出てきた一人の人物が診察室の中にいる医者に一礼すると丁寧にお辞儀をしてドアを静かに閉める。それと同時に診察室から出てきた人物に向かってつかつかと近づく。
「あの・・・大丈夫でしたか?」
いきなり声をかけられたその人は一瞬びくり、となりながらもこちらに振り向く。
「あ・・・わざわざ待っていてくれたの?」
「さすがにあんなのを見た後じゃあ心配になっちゃって・・・」
「あははは・・・申し訳ない・・・」
赤い髪をがしがしかきながらバツの悪そうな顔をした。
時間は少し遡る
ただ今登校中。
「まだ・・・桜は咲いてないのか」
通学路を歩きながら、歩道の脇に植えられている桜の木を見ながらぼそりと呟く。ソメイヨシノだろうか?生憎野菜の飼育方法なら一通りの知識はあるのだがこのような植物に関しての知識は疎い、恥ずかしながら。案外雪子や完二や直斗なら知っているのかもしれない。
もし咲いているのを見かけたら、菜々子に写メで送ってやるのもいいな。
そう考えていると、すぐ近くを通学中であろう生徒の一団が通りかかる。同じ学年だろうか?それとも年下かな?黒のブレザーに少し模様の入った、少し紺が入った黒いネクタイを違和感なく締めている。紺色と模様がなければ、まるで喪服みたいだ。去年修学旅行で行った月光館学園と比べたらかなり地味な服装だな。
まぁもっとも、今自分も同じ格好をしているわけだが。
おもむろにネクタイをいじる。去年学ランだったせいかブレザーに違和感を感じてしまう。前の前の学校ではブレザーだったのにな・・・。
「はは、まだ未練があるんだな俺も・・・」
そう呟いた時だった。
後ろから誰かが俺の横を通り過ぎる。と、その人物に違和感を感じてその後姿を見る。
スーツを着ていることから、会社員か、それとも学校の教員だろうか?しかしそれ以上に目を引いたのは日本人離れした赤い頭髪だった。
あんな頭で仕事に出るつもりなのか?昨日のデパートといいこの街働く者のモラルが随分緩いんだな・・・。
「ハイカラな頭だな・・・」
そう思ってその人物の後姿を眺めていると・・・。
「うっ・・・」
突然、その人物が小さく呻き声をあげながら突然頭を抱え込む。
「!?」
「が・・・ぁ・・・」
激しい頭痛にでも冒されているのだろうか?とうとう堪えきれなくなったのか片手に持っていたブリーフケースを取り落としてその場に蹲る。
「だ、大丈夫ですか!?」
思わずその人物に駆け寄って正面に立ち、両肩を揺らす。通学中の生徒含む周りの通行人は何事かとこちらを遠巻きに眺めているのを見て舌打ちしたくなる。
『能力』が使えればな・・・。
「う・・・ううぅ・・・」
「そこのお前!何をぼさっとしている!救急車だ!」
「へ?お、俺!?」
適当に近くにいる男子生徒に声をかけ、思いがけず指名された相手はオタオタしながら情けない声を出す。・・・尻でも蹴飛ばさないと分からないのか!?
「俺?じゃないだろ!!さっさとしろ!!」
菜々子には絶対聞かせられないような大声を張り上げてしまう。
「わ、分かった・・!え、えーと・・・あ、あの」
「今度は何だ!?」
「きゅ、救急車って何番・・・」
「っっっ!!119番に決まっているだろう!!もういい!!!」
吐き捨てるようにいいながら自分の携帯を取り出す!!
・・・出せるものならコイツに『ご立派様』でもけしかけてやりたいと考えが浮かんだが、さすがに自重した。
そして時は戻り・・・
「本当に、申し訳ない・・・」
あれから病院を出てタクシーの中、赤髪の男性は深々と頭を下げる。
「いいですって、それよりも脳に異常とじゃなくて本当に良かったです」
手を左右に振ってなんでもないという風に示す。遅刻したという意味ではなんでもないわけでもなかったが、それを言うのは野暮だろう。やがて男性は頭を上げてこちらに向きかえる。
外見からして20代前半といったところだろうか?派手な髪の色とは裏腹に、落ち着きのある澄んだ薄い青色の瞳を持ったその風貌と顔立ちは、彼を異国の人だと思わせるのには十分だった。
「外国の方だったんですね。失礼ですけど、はじめて見た時は髪を染めているんじゃないかと思いました」
「はは・・・これは地毛だよ。そういう君も染めているんじゃないだろうね?」
「俺も地毛です」
二人そろってはははと笑い出す。こうしてみると先程まで蹲っていたとは信じられないほど元気に見える。さっきのは一体なんだったんだろう?
「実は、今日みたいな事はちょいちょい起きるんだよね。いつもは薬をもらって痛みが出たら飲んでいるんだけど、今回に限って忘れちゃってさ・・・」
と、ちょうどいいタイミングで俺の胸中の疑問に答える。
「ちょいちょい起きてって・・・それ本当に大丈夫なんですか!?別の病院で診てもらったほうが・・・!」
「ちゃんと精密検査でも異常なしって言われたから大丈夫だって。それに・・・」
「?」
暢気そうになんでもないといった束の間、すぐに気まずそうに口をつぐむ・・・。
「肉体的ではなく、精神的な物だって言ってたし・・・」
「・・・なんですか?すいません聞こえませんでした」
寂しそう笑みを浮かべて何かぼそぼそと言っていたようだが何を言ったか聞き取れなかった。しかしその様子からなにかただ事ではないような雰囲気を匂わせる。
が、それも一瞬の事・・・。
「いや、まあとにかく体は健康だって事!心配ないよ!!」
すぐに二カッと太陽のような爽やかな笑みを浮かべる。何処か釈然としないと感じつつも、体が大丈夫ならいいやと無理やり納得する事にして「はぁ」と一言だけ返答しておく。
「ところで、さっきから思ってたんだけどその制服・・・君ってナギミヤコーコウの生徒?」
「え、あー・・・はい。実は今日から転校という事になりまして・・・」
「ああ!奇遇だね!!それは丁度いい!!」
「へ?」
丁度いい?どういうことだ?
そんな疑問は数十分後、知る事になる。
少し時間が進んで、とある3年の教室
ざわざわと教室の中の生徒が戸惑ったように小声で騒いでいる。
「えー・・・この度は紹介が遅れる事になって誠に申し訳ありません。先程の副担任のほうで紹介があったかと思いますが・・・」
その原因のひとつ、今教壇にたっているこの赤髪の男性・・・。
「このクラスの担任を受け持つ事になった、レックスといいます。若輩者ですがこの一年間、君たちの力になれるよう頑張って生きたいと思います」
よろしくおねがいしますと、赤髪の担任―――レックス先生は爽やかな笑みを浮かべて一礼する。教室のざわめき(特に女子の声が)より一層強くなっていた。
・・・一部の男子からはジト目で見られているのは気のせいだろう。
「さて、突然ですが今日からこの学校に転校してきた新しい仲間を紹介します」
とレックス先生がこのクラスを騒ぎ立てるもう1つの原因にして隣に立つ生徒―――即ち俺に対して視線を送る。その視線に対して頷いてみせると後ろの黒板に自分のフルネームを書く。
書き終わったと同時にチョークを黒板の溝におき、粉がついた手を軽く払った後教室の生徒に向き直る。
「今日からこのクラスに転校しました鳴上悠です。趣味は釣りとプラモデル作りと雨の日のスペシャル肉丼完食とチェンジと合体。愛読書は漢シリーズと弱虫先生シリーズと
THE○道です」
ざわ・・・ざわ・・・ざわ(福本的な意味ではない)
(転校生だってよ・・こんな時期に)
(やだ、あの人ちょっといけてない?)
(趣味の下3つは何?肉丼はともかくチェンジと合体って・・・?)
簡潔な自己紹介が終わった後、教室内のざわめきがますます強くなってくる別の意味の戸惑いも混じっているようだが。そんな空気も読んでいるのかいないのか、先生は相変わらずニコニコと説明を続ける。
それにしてもこの人、ここの教員だったのか、しかも担任。さらに聞いた話では今年で初めて担任を受け持つ事になったとは言うが・・・大丈夫なんだろうか?
担任といえば、癖の強いあの二人が思いうかぶけれど少なくともこの人はそんなことはないよな?なんか頭痛癖があるみたいだけれども・・・。
「えー、彼は家庭の都合によりこの春からこの学校に転校する事になりました。彼もまだこの地域には慣れていないと思うので皆さんのほうでも力になってあげてください。もちろん、自分も助力は惜しみません」
はーいと、それぞれのテンションで返答する生徒達。流石に転校初日から落ち武者だの腐ったミカン帳だの言われる事もないか。今となっては懐かしい思い出だけども。
「えーと、それじゃあ空いてる席はと・・・あ、ソコ空いてる?」
「あ、はい空いてます」
一人の女子が隣の誰もいない席を指差す。そういえば去年は自己紹介のとき、モロ金に絡まれている時に千枝に助け舟を出してもらい、席が隣同士になったっけ・・・懐かしいな。
「よーしそれじゃあ・・・・」
まぁ、今回はそんなハプニングもなくあっさりと終わるだろ・・・
「ナリアガリ君はそこに座って!」
ドターン!!!
「うおお!?」
「きゃあああ!」
「だ、大丈夫か!?転校生」
「大変だー!!ナリア・・・じゃない鳴上がこけて大の字になって転んだぞー!!」
・・・・・・・・・・・・・・・。
流石に今回は、そんなこと想像してなかったぞ・・・。
まさか、初っ端から苗字間違えられるなんて・・・。
「だ、大丈夫!?どうしたんだい、ナリアガリ君!?」
貴方のせいですよ・・・・!!!
怒るべきなのか、呆れるべきなのか、オカン級の寛容さで許すべきなのか・・・ただひとつはっきりしているのは・・・。
ぶつけた額と鼻が痛い・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
さらに時間が流れ
今日は午前授業なので、HRを終わらせ体育館で校長の長い話を聞いた後、下校という形になった。
あの後、あの担任の先生―――レックス先生には何度も俺の名前は『鳴上悠』だと何度も釘をさして精一杯の謝罪をしてもらった。ついでに朝の件の改めてのお礼も。後者はともかく、名前に関しては間違えては色々とアウトだろう。名前を間違えられる俺も嫌だし・・・まともな名前を呼んでもらえないせいでPTAに訴えられる・・・なんて笑い話にもなりやしない。今後は気をつけてもらいたい。本当に。
さて、思考を切り替えてと今日は帰って昼食をとってからこの町の探索の続きだな。そう思ったとき。
「おーい、ナリアガ・・・」
「・・・・・・」
「鳴上君だったよな?ごめんなさい謝りますからその視線はやめてくださいマジで」
帰り支度を済ませて、席を立とうとしたところをクラスの一人に声を掛けられた。いかにも体育会系的なテンションと顔つきだった。
先程の名前を呼ぼうとしたので目で殺す的な視線(比喩的にも物理的にも)を送りつけると命乞いをするように謝って来た。
「で・・・なにか用か?」
「あ、ああ・・・実は、ちょっと早いけど部活動の募集をしているんだ。良かったら見ていか無いか?バスケ部なんだけど未経験者歓迎だぜ・・・?」
先程の事がまだ応えているのか、恐る恐るといった感じで勧誘してくる。例えるなら危険生物に餌を与えている飼育員か。
まあそれはおいといてだ・・・。
「バスケ部か・・・」
実をいうと、バスケに関しては実は未経験者ではない。八十稲羽でもバスケ部と演劇部を兼任していた。他にもサッカー部や吹奏楽部もたまに活動していたりしていた。われながらよくやっていたものだ。
まあ、特に予定もないし探索もいつでもできるしな・・・。
「見てみるだけなら・・・」
そう伝えると、クラスメートは少し嬉しそう体育館に案内しだした。
一方、隣の教室
「おーい、入部候補者一人見つけたってよ!!
「マジで!?早速見に行ってみようぜ!!」
今や同じ学年となった後輩たちが入り口で騒いでいる。
「入部希望者って?」
「あっ、センパイ!!なんでも隣のクラスに転校生がやってきて見学してもらう事になったんですよ!」
「へー・・・」
転校生・・ね。
数十分後 体育館にて
「す、すげー・・・」
何人ものバスケ部員が次々とダンクを決める自分に対してそう漏らしていた。
なぜこうなってしまったんだろう。
目の前で見事なレーンアップの練習を見せてもらったら、いてもたってもいられなくなり、自分にもボールを触らせてくれと頼んだ。
シュートしたり、ドリブルしているうちに1ON1をする流れになってしまい、なぜか今のような状況になってしまった。何を間違えたんだろう?
いつの間にか自分の位置からゴール前まで五人のマークが張っており、それらをすり抜けたり、あるいは遠くからシュートを放ったりしていた。しかも部のレギュラーまで混じっていたらしく、ギャラリーの何人かが肉食獣が獲物を狙うような目で自分を見ていた。
「アイツなら・・・全国目指せる・・・」「絶対他の部に渡すな・・・」「俺、あれならイケル・・・」
ギャラリーからそんな声が聞こえてきたような気がする。3番目は何だ。そっとしておいてくれ・・・。
「アイツが・・そうなのか?」
「そ、そうです。いやー・・まさかこんなすごい奴だったとは・・・もし勧誘に成功すれば全国だって」
学校が早く終わり、家に帰って休んでからバイトにでも向かおうと思ったのだが、なんとなくの気分で体育館へ向かった。
今は同学年となってしまった後輩達の練習内容を見てから、克哉でもからかおうかとそんな軽い気持ちだった。
そこで俺は見てしまった、見慣れない奴がレギュラーの後輩達を相手取り、華麗なプレイをしているのを。恐らくアイツが件の転校生だろうか?
ある時は見事なボール捌きでマークしていた奴を華麗に抜き去り、並みの高校生以上の跳躍力を見せてダンクを決めている姿を・・・。
ギャラリーを掻き分けて転校生の姿が確認できる位置まで近づく。
ネクタイとブレザーを脱いでシャツを捲くっている銀髪の大人しそうな男がシュートを決めていた。またギャラリーから歓声が上がる。なんだアイツ、完璧超人か?腕からマグネットパワー出せるんじゃないか?
「へえ・・・なかなかやるな」
そう漏らしながら男の身体を観察する。
服で隠れて分かりにくいがやけに肩幅ががっちりしているし、シャツから覗く二の腕も細いながらも意外と筋肉質だ。先ほどの跳躍力なら足も同じような感じなんだろう。なにか武道かなんかやっているのだろうか?
・・・バスケも、戦いも今ではもう遠ざかっていたとはいえ。
「こんなの見たら、はしゃぎたくなるよなぁ・・・」
「センパイ・・・?」
今の呟きが聞こえたのだろうか?隣の後輩がキョトンとこちらを見ている。
が、それには答えずに上のブレザーとネクタイをすばやく脱ぎ去り、乱暴に上に放り投げる!「うわっ!」と声が聞こえたような気がしたけど今の俺には遠くの世界の事のように聞こえる。
ブレザーやネクタイも汚れてしまうかもしれないけれど、今はしったことじゃない!!
そして次の瞬間、長らく感じなかった高揚感を胸に、未知の転校生へと走っていった!!
鳴上SIDE
「やりすぎたかな・・・」
後悔、先にたたず。
どんどん増えていくギャラリーとそれに比例して熱を帯びていくギャラリーの歓声。ついつい調子に乗って本気出してしまった。
こうなったら、何処か適当なところでやめにして帰ろう。このまま付き合っているときりがない。
最後の締めにと、シュートを放とうとして膝をかがんだその時だった。
「そこの銀髪ぅぅ!!俺と勝負だぁぁぁ!!!」
突然、横手から聞こえてきた声にギョッとなって固まり、声がした方向を向く。一人の若干茶髪の男子生徒がこちらに向かって突進してくる。なんだなんだなんだ!?
「隙ありだ!そのボールカッ」
トという言葉とともに取ろうとした手を反射的に裁いてしまった。そしてついダブドリ(ダブルドリブル)と分かっていてもドリブルしながら咄嗟にソイツから離れようとする。
「俺は負けない!!」
が、その男はなんか熱血的なことを叫びながら再び再加速してこちらに向かってくる!!格ゲーじゃないんだから次々の乱入はお断り願いたいんだが・・・。そんな事情は知らない!お構い無しだ!!といわんばかりに、いくら振り切ろうとしてもその男はいつまでもしつこくこちらを追い掛け回してくる!!
「クロックラビィィィィ!!!」
意味不明なことを叫びながら男は追いかけてくる!!
「ス、スクカジャァァァァァァ!!!!」
とりあえず、対抗する意味でこちらも叫んでみた。
鬼ごっこは、まだ終わらない。
なんか原作より暴走気味な誓約者ハヤト君でした。
余談ですが、この物語ではレックスの生徒になるという事は・・・。
3生徒「「「「後輩が出来るよ!」」」」
レックス、アティ「「やったね3生徒ちゃん!」」
こういうことでしょうか?