必死にドリブルしながら考えを巡らす。
すごいなこの人・・・。
見たところバスケをやる者にしては、決して恵まれた体格ではないがそれを補うにしても余りあるその身体能力・・・。
足の速さと敏捷性、そしてもっと驚くべきは見掛けとは裏腹のその筋力・・・。さっきはなんとかボールをカットするものの、実をいうと危うく押し返されそうになった。まるで完二みたいだ・・。
こうやって逃げている間にも、少し隙を見せればすぐに飛び掛って来そうだ、油断ならない・・。
この人・・・何者だ!?
さっきから全力で走っているのに全然差が縮まらないなぁ・・・。これも身体差って訳か・・・?うう・・言ってて悲しくなってきた。
いや、それでも『向こう』では本物の騎士やら暗殺者や『召喚獣』を相手にしてきたんだ。そりゃあみんなの助けがあったとはいえ、それでもでかいだけの高校生には負けるつもりはないんだけどなぁ・・・。しかも身体能力だけでも厄介だけだというのに驚くほどの判断力や大胆さまで持ち合わせているときた・・・バノッサとは意味で厄介だな・・・。
(しかし・・・それでも)
(だけれども・・まぁ・・・)
((そう簡単に勝ちを譲ってやるつもりはないんだけどな!!))
「ひえー・・・さすが勇人先輩。相変わらず猛獣みてーな身体能力だなあの人」
「いや、その猛獣と渡り合っているあの転校生もスゲーよ・・・奇○の世○?」
多くのギャラリーが目の前で展開されている全国レベル・・・下手したら某希望の学園に招待されるレベルに至っているんじゃないかと疑うぐらいの熱いバトルに温度差を感じながら、それから30分間遠くから眺めていた・・・。
「ところで、俺達何の勝負していたんだっけ?」
「バスケの勝負・・・だった気がする・・・」
「だよな・・・ははは・・・」
文字通り精も根も尽き果てた俺達は仰向けに倒れたり、座り込みながらへばっていた。
今の状態では『虚言のアブルリー』ですら負ける自信がある・・・。
最初は、バスケの戦いをしていた記憶はあったのだ。しかしいつのまにか何処かにボールを投げ捨てて短距離みたいなスピードで鬼ごっこ対決にすり替わってしまった・・・。そのせいもあってアバラもずきずき痛む・・・。
「2人とも、完全燃焼お疲れ様。ほら」
突然、横から声をかけられて振り向くと、制服姿の男子生徒が俺たち二人にペットボトルのスポーツドリンクを差し出してきた。・・・はて、どこかで見覚えがあるような・・・?
「ああ、サンキュ克哉」
疑問にふける俺を他所に茶髪の男子が礼を言いながらドリンクを受け取り、キャップを外す。疑問はあるけど、俺も早く水分を補給したいという欲求に従い、差し出した男子にありがとうと礼を言ってペットボトルの中の水分を口に流し込む。疲れ果てて乾いたスポンジみたいになった体に深く染み込んでくるようだ・・・一口で中身を8割ほど飲み干してしまった。
「・・・あれ、お前もしかして昨日デパートにいた」
と、ペットボトルを差し出した男子が何かに気づいたかのようにこちらを見る。・・デパート?
ピコン!と頭に電球が光った。さっきの違和感の正体が分かり・・・いや、思い出した!
「昨日、デパートの店員をナンパしてた・・・」
「ナンパじゃねーよ!知り合いに話しかけてて・・・」
思わずポン!と手を叩く。直後に男子生徒――克哉と呼ばれた男子生徒は、オイっ!!と言わんばかりの表情で、陽介に勝るとも劣らない切れ味鋭いツッコミを返してきた。
「お前・・・樋口に告白していながら・・・見境ねーのな」
「そうなのか。陽介以上のガッカリ具合だな」
ペットボトルの飲み口から口を離した茶髪の男子が驚愕とも、呆れともとれる表情で男子を見、ついでに俺も乗っかる。
「だから違うって!!誰だ陽介って!!」
一方八十稲羽
「ぶえっくしょい!!」
「やだー花村汚い」
「風邪?」
盛大にくしゃみをした花村陽介に対して、難色を示す里中千枝と心配そうに話しかける天城雪子。
「・・・知らない遠い誰かと、悠が俺の話をしていたような・・・」
「「え?」」
陽介に対して引きつった顔を見せる二人。
「な、なんだよ二人とも、汚物でも見るようなその顔は・・・」
「アンタ・・・完二君にはそっち系とか馬鹿にしておきながら、実は自分も何じゃ・・・」
「ちげーっつの!なんでそんな発想に至ってんだよ!!」
「花村君、そんな趣味があったなんて・・・ブフッ・・グフッ・・ア、アッハハハハハハハハ!!!」
「・・・頑張れ!」
「何をだよ!」
漫才みたいにビシッ!と突っ込みを入れる。
「第一俺ナンパしてないからね!!綾先輩一筋・・」
「でも、振られたんだろ?」
とどめ、といわんばかりに茶髪の男子がびしりとチャージからの『イノセントタック』級の一言を放つ。
ザワザワ・・・
「おいおい・・・マジかよ・・・」
「よりによって綾先輩かよ・・・」
「それじゃあこの間の怪我って藤矢先輩に・・・・」
「ご愁傷様・・・」
すぐさま周りの生徒が同情と哀れみが込められた視線が、男子―――克哉に向かって一斉に放たれる。
クリティカル食らってDOWN状態から、周りの総攻撃によるダメージで克哉のハートがボカスカされ、それが致命傷になったらしい。『食いしばり』や『不屈の闘志』も発動することなく、彼はがっくりとうなだれる・・・。
「そこまで・・・そこまで言わなくても・・・」
『マハムドオン』より黒いものを背中に背負い、体育座りしながら指で地面をなぞりながらぶつぶつ呟くその様は嫌がおうにも哀愁を感じさせる。
「・・彼、案外繊細なんだな」ぼそぼそ
「ああみえてメンタルが豆腐みたいな所があるんだよ・・・あんまり苛めないであげて・・・」ぼそぼそ
「なるほど・・」ぼそぼそ
「聞こえてますよ!!トラウマ抉った張本人が何言ってるんですかぁぁぁぁ!!!」
『闇からの大生還』を果たした彼が半ばキレ気味にこちらに指差しながら叫んだ瞬間、その場で大勢が笑いに満ちた。
「何笑ってんだチクショーーー!!!!」
しばらく、そんな感じで楽しいひと時を過ごした。
「おーーーーい!!」
きりのいいところで身支度を済ませて体育館を後にして学校の校門をくぐると、後ろから大声が響く。振り返ると例の茶髪の男子がこちらに向かって手を振りながら駆け寄ってきた。
「ハァハァ・・間に合った」
どうやら全力疾走で走ってきたらしく、俺の元に辿り着いた途端に両手で膝をつきながら呼吸を整える。
「あれ、部活はいいのか?」
「はぁ・・はぁ・・いや、今は俺、部活はやってないんだ。去年で引退したから・・・」
「へ?」
去年で・・引退?あれ、でも今は三年だから・・え?
俺の疑問を他所に彼は顔を上げると・・・
「なぁ、よかったら一緒にラーメンでも食わないか?うまい店知ってるんだ。よかったらお近づきの印に奢るよ」
にこっと、親指立てながらサムズアップしてきた。
「先輩だったんですか!?」
「まあ・・・色々な事情があってね・・・決して学力が悪いとかじゃないからな!!」
世間話を例のラーメン屋へと歩を進ませながら、彼の話に耳を傾ける。
「確かに同学年と比べれば学力は劣っていただろうさ!!それは認める!!渋々だけどさ!!夏美を除けばだけれども!!」
「はぁ・・・」
誤解すんなよ!!といわんばかりに後半部分をビシリと強く強調するのを、とりあえず同意しておく。
なんだか実際の年齢とは裏腹に、意地の張り方とかがなんか子供っぽいなぁ・・・良く言えば純粋というか。まぁ、低身長と童顔な顔という見てくれであれば見た目どおりなのかもしれないけれど・・・。
「・・・お前、なんか失礼な事考えてない?」
「い、いえ、そんなことは・・・」
「ふーん」
と、こちらの考えを呼んだかのように訝しげに見ている。どうやらこういうことに関しては勘が働くらしい・・・気をつけておこう。
しかし成程・・・先程の体育館でもなんか周りから畏敬の目で見られているというか、一目置かれたように扱われているなとは思ったけれどもそういう事情だったのか・・・。
「ていうかさ、だからといって別に気を使わなくてもいいんだぜ?」
「え?」
「いやほら、別に年上だからってそんなよそよそしく敬語使わなくてもタメ口でも別にいいよ?さっきみたいにさ。ちょっと前に年上年下関係なくタメで喋っていたせいか、あんまり慣れてないというか・・・もっとこう砕けた口調で言ってくれても・・・」
「遠慮しなくていいよ!」と困ったような笑顔で彼は言う。参ったな・・・気持ちは分かるのだけれども出会ったばかりの年上にタメ口というのも・・・うーん。
「いやー・・・さっきは同年代と思ったから相応の口調で言いましたけれどもいざ年上と知っちゃったらさすがに・・・」
俺も人見知り・・・ではないと思うけれど、去年八十稲羽にいた時も、親しんだ仲であっても中々タメ口で話すという事は抵抗があった。一年組みからも先輩口調で言われてた影響もあるのかもしれない・・・まあ、それも考えすぎなのかもしれないけれど。陽介や千枝ならすぐに打ち解けて同年代のように砕けた口調で話せるのかもしれないな・・・。
「なんだよー、さっきバスケでやりあった仲じゃないかー。そんなかしこまる事ないのに・・・」
つまらなそうに唇を尖らせる先輩。その顔を見て少し申し訳ない気分になる。けれどこればかりは。
・・・横から覗く先輩の顔がどことなく寂しそうに感じたのは俺の気のせいだろうか?なんとなくいたたまれない気持ちになって話題を変えようと口を開こうとした時・・・。
「ああ、もうすぐそこだから。そこの曲がり角」
と、目の前の曲がり角を指差す。先輩が歩くペースを上げて俺もその後に続いて曲がり角を曲がると、すぐそこに大きくもなく小さくもないラーメン屋が視界に映る。
「ここ・・・ですか?」
「ああ、この辺では滅茶苦茶うまいって評判なんだ。俺も去年まで部活帰りに後輩とよく通ってたんだよ。もちろん今もだけど」
「期待させてもらいます」
「おう!」
一生懸命作った秘密基地を自慢する子供のように楽しげに語る。その顔を見て少しほっとした。どことなく気まずい感じで食事をするのも嫌だし、失礼に当たるしな・・・。
そう思いながら店の暖簾を潜ろうとする・・・。
「あ、悪いんだけれどもう少し待ってくれないか?」
「え?」
暖簾に触れようとしたところで先輩から待ったをかけられ、首だけ先輩のほうに向く。
「勝手ながら申し訳ないんだけれど、さっきお前を追いかけていた時にもう一人誘ってさ・・・もう来てもいい頃合と思うんだけど・・・」
携帯電話を取り出し時刻を確認する先輩。
「えと・・・誰ですか?」
暖簾から手を放して体ごと向き直り、首をかしげる。んー・・・と言葉を濁しながら携帯をポケットに戻す。
「まぁ・・・今は身内というか・・・」
今は身内?どういう意味だ?
「え、兄弟がいるんですか?」
「いや、俺は一人っ子・・・いや、そうじゃなくてなんと言えばいいかな・・・?」
喉で唸りながら、説明に困ったように腕を組みながら考え込む先輩。いや、説明に困る身内ってどういう関係なんだ?従姉妹?いや、違うか・・・?
「あの・・その人って・・・」
「ハヤトーーー!!!」
声をかけようとしたところ、女子の声が響く。思わず振り返ると遠くから手を振りながら一人の女子が近づいてくる。隣で先輩が「来た」と呟く。
「ああ!急に誘ってゴメン!よく来てくれたね!」
「はぁ・・はぁ・・まったくいつもながら貴方の連絡は急すぎます!もうちょっと余裕をもたせてください!」
はぁ・・はぁ・・と胸に手を当てながら呼吸を落ち着かせる女性。
「ていうか、まだ私服に着替えてなかったのかい?」
「ガッコウから家に着いてすぐに、貴方から連絡が来たもんですから急いできたんできたんです!」
「そっかそっか・・・いや本当にゴメンよ・・・」
パン!と両手を合わせながら申し訳なさそうに頭を下げる先輩。それを見て全くもう・・・と両手を組みながら怒りと呆れが混ざった表情で腰が低くなった先輩を見下ろす女性。と、ようやくこちらの存在に気がつく。
「あれ・・・貴方は」
不機嫌顔が一転、キョトンとした顔でこちらを見る。ふと、俺も女性の顔を見て首をかしげる。日本人離れした色白の肌に、薄い紺色の髪を肩まで伸ばし、見るからにおしとやかそうな雰囲気・・・。
瞬間、ああ!!と思わず声をあげる。
「貴方、もしかして昨日の・・・!」
「あ、やっぱり!!」
ぱんっ!と女性も俺の疑問を肯定するかのようにかわいらしく両手を叩く。
「え、何々?どうなってんの?2人とも知り合い?」
一人会話に置いてけぼりの先輩は戸惑うように俺たちの顔を見比べていた。
元の文章からメッチャ変更しまくりです・・・しかも少し短かったかも・・・。