P×S 凍結中   作:岳海

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かなり苦戦しました、まさにお手上げ侍。


絡み合い、衝撃

女性、先輩、俺の順に仲良く並ぶカウンター席、目の前にある、湯気が立ち上る丼に盛られた奇跡の一杯を、鷹が獲物を狙うかのごとく鋭く見下ろす。

箸がいくつも入れられているケースから割り箸を1つ取り出し、両の手のひらをゆっくり合わせて、取り出した割り箸を親指に挟むようにして引っ掛ける。いただきます。

これ以上無いほど綺麗に割り箸を二分割に割り、右手に持った後、左手で丼に引っ掛けられているレンゲを取り出し、丼の中のスープを掬い、慎重に口に含む。

口の中が芳醇な旨みで満たされ、「ほう・・・」と満足げに息をつく。

そして次にいよいよ右手の箸を丼の中に突っ込み、中の麺を掬って勢いよく口に含み、啜る!!

 

ずるずるずるずる!

 

掬った麺を全て口の中に含んで、噛み締め、そして飲み込む!

ゴクン・・・。

 

 

「・・・どうよ!?」

「・・・混ざり合った具材を受け入れる“寛容さ”正しくたれ、しょうゆ、麺を配分する“知識”失敗を恐れず試行錯誤する“勇気”何時間もスープを煮込み続ける“根気”それら全てを満たす事で口の中で広がるドラマ・・・」

ゴクリ、と唾を飲む先輩。丼と箸を持ちながら真剣な表情で俺の次の言葉を待つ・・・。

それを見て、下す言葉は・・・。

 

 

 

 

 

 

「ブリリアント!!美味い!!」

「だっろー!?」

「でも、作ったのはハヤトではないですよね・・・」

「それは言わない約束だろー?」

ガシッとつかみ合う右手と右手!!その様子を先輩の隣からつるつるとゆっくり麺をすすりながら冷静に突っ込みを入れる女性。どうでもいいけど箸使うの上手だなぁ。

しかし冗談抜きで本当に美味しい。去年修学旅行で行った巌戸台で食べた『はがくれ』のラーメンも美味かったけれどここも負けてないな。

「しかし、それにしても驚いたなぁ。彼女から話は聞いたけど、昨日絡まれていたところを助けてくれたのがまさか、えーと・・・」

先輩が食べる手を止めて、俺の事をどう呼ぼうか迷っていた。そういえばまだ自己紹介してなかったっけ。

「鳴上悠といいます。3日前からこの街にやってきたばかりです。昨日昼食を買いに帰ろうとしてたところをそちらの方に偶然会いました。あと、決してナリアガリではありません・・・」

「なるかみゆう・・・ね。格好いい名前だな。ところで、ナリアガリって・・・?」

「そっとしておいてください・・」

「?」

「ナリアガリ・・・成り上がり・・・?」

事情をよく知らず首を傾げる先輩と、ナリアガリという言葉に何か引っかかるものがあるのか?難しい顔で眉をしかめる女性。

「・・・?クラレット、どうかした?」

「・・・え?あ、いいえ、すいません。なんかぼーっとしちゃって」

不審に思って先輩が声を掛けると、女性がなんでもないという風に手を振る。首を傾げつつもこちらに向き直る先輩。

「こっちも自己紹介が遅れたな。俺はハヤト。新堂勇人だ。さっきも言ったけれどただ今もう一度3年生を満喫中です。で、こっちがクラレットだ」

「クラレットといいます。クラレット・セル・・いえ、クラレット・新堂です。改めて昨日はありがとうございました」

笑顔で自己紹介する先輩―――新堂先輩と丁寧に挨拶する女性――クラレットさん。ファミリーネームを言い直したのが少し気になるけど、まあそっとしておこう。

「こっちも礼を言うよ、クラレットを助けてくれてありがとう。聞いたよ、絡んできた奴をぶん投げたんだって?やるじゃないか」

「まあ、一応・・・今の時代の男は、自分の身を守る術と料理の1つでも出来なければいけませんから。特に後者は、菜々子の健康や成長にも関わる大事な要素ですから!!!」

「菜々子?妹の名前かい?」

「正確には従妹ですが妹も同然です!!あの子は・・・・!」

 

 

 

 

 

30分後

 

 

 

「で、菜々子にちょっかいをかけた同級生の男子を、近くの川まで連れて行き・・・・!」

「わ、わかった!わかったら・・・!その菜々子という子がいい子なのかは十分わかったから・・・・!!!」

「・・・そうですか」

あと3時間は語るべき量があるのだが仕方ない・・・。新堂さんとクラレットさんがそれぞれ引き攣ったような笑みと痛いものでも見るかのような視線で見ていたのは気のせいだろうか?そんなはずないか。あんな天使のような菜々子の話を聞いて不快になるはずがないもんな。万が一・・・いや京に一いたらブレイブ・ザッパーだけど。

「ほ、ほら!ラーメンもこれ以上冷めちゃったり伸びたりしたりしたらいけないから早く食おうぜ!」

「そ、そうですね!早く食べましょう!!」

「そう・・ですね」

必死にラーメンに手をつけようとする、なぜか不自然な態度の二人に習って、俺も食べてる途中のラーメンに箸をつける。・・・食べている最中、店員含む周りの客から、なんともいえないような視線を受けたような気がするのは気のせいだろうか?

・・・しばらくおいしい?時間が流れた。

 

 

 

 

「「「ご馳走様でしたー!」」」

「ありがとうございましたー!!!」

店から元気な返答を背中から受けながら、三人仲良く暖簾をくぐって外に出る。

「はぁー、今日も美味しかったぁ・・・」

幸せそうな顔しながら爪楊枝をと咥える新堂さん。クラレットさんも、満足そうに「ふう」と一息ついてる。

「どうだい?なかなか良かっただろ?」

「美味しかったです。さっそくこの街のお気に入りスポットが出来ました。今度、また行ってみようかな」

「その時は誘ってくれよ。都合がよければ、俺も行くから」

悪戯っぽい笑みをこちらに向ける。・・・まさか今度は俺に奢らせるつもりじゃないだろうな?

「誰かみたいに、急に誘うのでなければ私もいいですよ」

「・・・だから悪かったってー・・・」

一転、げんなりしたような顔でクラレットさんに向き直る新堂さん。なんだか見てて和むな。まるで陽介と千枝のやり取りを見ているようだ・・・。

そういえば去年も転校して次の日に、ポリバケツに頭から突っ込んだ陽介を助けてそのお礼にと、たこ焼き奢ってもらったっけ。

その時の様子を思い出し、ふっと笑みを浮かべる。なんだかその時の事が大分昔に感じられるな・・・まだ一年しか経っていないというのに・・・。

「あー・・・何笑ってるんだよー?」

こちらの笑みに気づいた新堂さんが、俺の浮かべた笑み誤解して受け取ったのか、ジト目でこちらを見てくる。

「いえ、去年似たようなやり取りがありましてね、それを思い出してました。あの時も、こうやってお近づきのしるしにたこ焼き奢ってもらったんですよ」

「へー、そいつは奇遇だな。でも今回はラーメンに格上げされたな。俺の勝ち!」

「はははは・・・」

両腕を組んでドヤ顔を決める新堂さん。・・・もし千枝が付いてこなかったら、ビフテキになっていた事は黙っておこう。

 

 

ラーメン屋を出てから、新堂さんに世間話がてら、この街の案内をしてもらう。あてもなくぶらぶらと三人で道を歩きながらお互いのことを話したり、逆にこちらの事を話したりして時間を潰す。

「そういえばさ、鳴上はバスケ部入るのか?」

途中の自販機で買った飲み物を飲みながら新堂さんがこちらを見る。新堂さんがコーヒー、クラレットさんが後光の紅茶、俺は胡椒博士NEOをそれぞれ飲んでいる(新堂さんに、よくそんな胡椒味のゲテモノ飲めるな、と顔をしかめられた)。

「さっき1ON1で直接実力を見て思ったけれども、大したもんだよ。現にウチの部の後輩達を軽くあしらってたしさ、お前なら即レギュラー狙えるって!どう?」

どう?という言葉と同時に、グッ!と拳を握ってみせる。笑みを浮かべるその瞳には明らかに期待がこもった視線を送っている。バスケか・・・うーん。

「失礼とは思いながらも一応聞きますけど、新堂さんは今は部活は・・・」

「さっきも言ったけれど俺、今留年している身でさ、バイトはともかくさすがに部活動は無理だ。在校生でありながら、バスケ部OBみたいなもんなんだよ・・・」

「そうでしたか・・・」

自らのこめかみを人差し指でぽりぽりかきながら、はははと小さく笑う。・・・気のせいか何処か寂しさする感じさせるその笑顔だった。

しかし、期待をかけてもらいながら悪いのだが、まだ他にどんな部活があるのか、そもそも部活をするかどうかも決めてないのでまだ安易には答えを出したくない。

「・・・期待をしているところを悪いんですけれども、まだ部活をやるかも考えている最中なので保留という事にさせていただけませんか?」

申し訳ない気持ちになりながらも自分の考えを伝える。、残念そうな笑顔を浮かべた後「そっか」と小さくこぼし、持っていた缶コーヒーをゴクリと呷る。

「その・・・すいません」

「いや、気にしなくていいよ。そうだな、ほかにやりたい部活があるかもしれないし、そうじゃなくても俺達ももう3年生・・・受験生だもんな。ま、気が向いたらまた声をかけてくれよ」

「はい。イザという時は助っ人ぐらいなら助けになれますから・・・」

「ああ、それでもいいよ。ま、誘った手前こんな事言うのも変だけどほどほどにな」

苦し紛れの妥協案みたいなものでも、少しほっとしたようなたような表情だった。この人、本当にバスケが好きで、あの部活に思い入れが強いんだな。先程の後輩たちとのやり取りといい、さっき知り合ったばかりの俺にここまでしてくれるくらいだ、面倒見の良い人なんだな。

「クラレットさんは、部活には入ってないんですか?」

「・・・へ?わ、私ですか!?」

黙って俺たちのやり取りを紅茶に口をつけながら黙って聞いていたクラレットさんが、ビクッと体を震わせる。まさかこのタイミングで話しかけられることに予想がつかなかったとはいっても、そんな心臓が止まるほど驚かなくてもいいだろうに・・・。同じ事を思ったのか、横で新堂さんが声を殺して笑い、驚きすぎだろと呟く。それを見たクラレットさんが何笑ってるんですかと小さくむくれる。

「わ、私はその・・・ハヤトみたいに部活というのはあんまり・・・ハヤトと同じくバイトと、料理以外の家の手伝いで忙しいもので・・・」

「そうなんですか・・・偉いですね」

「い、いえ、そんなことないです!」

大したことはしていない!と手を振りながら否定するも、満更でもないような表情を浮かべている。

「それに、居候みたいな身ですから、ハヤトの両親にそこまで迷惑をかけるわけにもいきませんし・・・」

「居候?」

「まーたそんなこと考えて。少しくらい羽目を外したって誰も文句は言わないって、もう少し肩の力を抜いたほうがいいんじゃない?」

「ハヤトがお気楽すぎるんですよ!!貴方こそもう少し気を張ったほうがいいんです!!」

ぐしゃり、と勢いあまって紅茶の缶を思い切り握りつぶすクラレットさん。「おおっ!?」と俺と新堂さんの声がハモる。

「ちょ、こんなところで説教始めなくても・・・!」

「大体貴方は何でもかんでも後先考えずに行動したり、相談もなしに急にずいずい話を進めて周りを振り回したり、毎回毎回振り回されるこちらの身にもなってください!!『あの時』の花見の事だって・・・」

うわ、また始まったよ、と言わんばかりの嫌そうな顔を隠すことなくクラレットさんに向ける。か細い声で「あの時はガゼルが・・・」とか何とか言っているが、そんなことはお構い無しに彼女は往来でガミガミ言い始める。新堂さんこういう話苦手そうだな、付け加えるなら、将来クラレットさんに家庭の主導権取られそうだ。家でゴロゴロしていたら、掃除機をかけているクラレットさんに邪魔だからこんな所で寝転がらないで!!とか言われてそうな。

見方によっては微笑ましく、もしくはリア充爆発しろと言わんばかりの痴話喧嘩を少しの間見守っていたが、やがて新堂さんがこちらに助けを求めるように、ちらちらと視線を送る。そっとしておこう、といつもなら言うだろうけど仕方ない。

「・・・あのクラレットさん?」

彼女の言葉を遮るようにおそるおそる話しかける。割り込まれて不愉快に思ったのか眉を寄せ、こちらを射抜くような視線に僅かにたじろきそうになるが、そこは“豪傑”級の勇気で堪える。

「・・・なんでしょうか?」

「とりあえず手でも拭いたほうが・・・。ほら、紅茶で手が汚れちゃいましたし・・・」

学生服のポケットからハンカチを取り出して差し出す。すると彼女も我に返り、「わ、私としたことが・・・」と恥ずかしさのせいか、少し顔を赤く染めながら礼を言ってハンカチを受け取って手を拭く。さすがにベタ付きまでは取れないだろうけど気にならないのかな?クラレットさんからは見えない後ろで新堂さんがまるで九死に一生を得たような顔で「ナイスフォロー!」といわんばかりに親指を立ててる。

「ところで、花見とかガゼルがどうとか言ってましたけどどういうことでしょうか?」

瞬間、クラレットさんが「ん?」と言わんばかりに目を点にし、なぜか新堂さんが息を呑む。

「いや、あのそれは・・・」

「花見の最中にガゼルの群れにでも襲われましたか?大変でしたね」

想像しただけでもかなりシュールな画だな。体験している本人たちにとっては堪ったものではないだろうが・・・。

「あ、いえ、ガゼルって言う知り合いがいるんですけど・・・そこでそのガゼルとハヤトが、あろうことか金の・・・」

え、知り合いの名前!?うわ、俺すっごい失礼な事言っちゃったよ!と、間髪いれずにクラレットさんの後ろにいた新堂さんが文字通り回り込んで、俺と彼女の間に立ち、両手を広げながら何処か不自然な態度をとる。

「そ、その話はもう終わった事だろう!?確かにその時は俺“も”悪かったというか・・・だ、第一もう過去の話だし!!」

・・・そんな黒歴史な思い出だったのか?

「ゆ、友人の名前だったんですね、すいません、てっきり草食動物の方かと・・・前に『ジンガ』とかいう名前も出てきましたけれどクラレットさんの地元の友人ですか?」

「あ、そうです。『サイジェント』で知り合った・・・むぐっ!?」

「そうそう!“クラレットの故郷の地元”で出会った友達なんだよ!はははは!!」

喋っているクラレットさんの口を無理やり塞ぎ、冷や汗を浮かべながら明らかに不自然な笑いを浮かべる。なんかさっきから新堂さんの態度が変だ、そんな変な質問したかな?

「・・・そういえば、クラレットさんって、どこの国の人なんですか?」

「「!!」」

2人の目がほぼ同時に見開かれる。相変わらずクラレットさんは口を塞がれたままだが驚愕を顔に浮かべているのがはっきりと分かる。

「えと・・・失礼ですけど身体的特徴から日本人ではないみたいですし、その・・・『サイジェント』とかいう街の名前からして外国人っぽい・・・」

「あーーーー!!しまった忘れてた!俺たちこれから用事があるんだった!!」

「!!??」

またもや不自然全開で、会話を遮るように大声を出す。呆気にとられて数瞬固まっていると、持っていた缶コーヒーを目の前で飲み干し、クラレットさんの手を掴む。偶然近くにある空き缶のゴミ箱に空になった自分とクラレットさんの空き缶をキチンと投げる事も忘れない。

「急に誘っといて悪いけど、俺ら帰るわ!!ゴメンな鳴上!!」

「え、あの・・・」

「また学校でなーー!!!」

クラレットさんを半ば無理やり引っ張って、慌てて走り去る新堂さん。急に連れられ戸惑いながらも、クラレットさんも「さ、さようなら」と小さく手を振る。やがて2人の姿は遠くの雑踏に紛れて小さくなって見えなくなってしまった

「・・・なんなんだ一体?」

唯一人残された俺は、2人が消え去った方角を見ながら、ポツリと一人呟く。

ヒュウウと一陣、風が舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「気をつけてくれよ・・・『向こう』に関係する言葉を軽々しく言ったら駄目だって・・・」

「だ、だからっていきなり引っ張って走らないで下さい!ハヤト力が強いんだから痛いんです!」

どれだけ走っただろうか・・・鳴上の姿が見えなくなるまで逃げるように走り、気がついたころには自宅の近くの住宅街にいた。クラレットはよほど握られた手が痛かったのか、顔を僅かに歪ませて何回も優しく腕をさする

「第一、『向こう』の世界の地名や『フラット』のみんなの名前を出したところで彼、ナルカミ君には分かりませよ・・・」

「へ・・・?」

「この世界“名もなき世界”ではそもそも『召喚術』という概念すら無いのでしょう?そこで『向こう』の単語を出したところで分かるはず無いと思うのですが・・」

「あ・・・・・・」

言われてみればそうか、『向こう』の事を言ったところで、クラレットの事をたぶんどこかヨーロッパあたりの単なる“外国人”としてしか見ていない鳴上がそこまで思うはずがない。

まさか、“異世界のからやってきた異邦人”なんて思うわけないだろう。もし、そんな事を本気で思う奴がいれば、空想と現実を区別できてない痛い人だと思われるのがオチだろう。というか鳴上じゃなくたってそう思う野が『普通』だろう。むしろ、挙動不審な態度に走っていた俺のほうが異常としてみるほうが正しい反応なのだろう・・・。

・・・思い出したら恥ずかしくなってきた、

「・・・ごめん」

「まったくもう・・・」

完全に俺のはやとちりだ・・・。クラレットも「やっとわかったか?」といわんばかりにジト目でむくれる。こうなると俺にはもう、頭を下げて許しを請うしか選択肢が無い・・・。

・・・鳴上にもまた改めて謝っておこう。

 

 

クラレットと歩調を合わせながら、実家に向かって歩く。

「ハヤトは、あのナルカミ君という人が気に入ったみたいですね」

「え?」

急にクラレットが鳴上について話題を振る。二回言うけど本当に急だ、思わず聞き返しちゃったし。

「だって、知り合ってからまだ何時間と経ってないんでしょう?それなのに、いきなりラーメンを奢ったり、まるで昔からの友達のように語り合ったり・・・」

「そうかなぁ・・・うーん」

まぁ、言われてみればそうかも。自分でもよく分からないうちに、アイツと会話弾ませたりしたなぁ。

・・・従妹の話にはドン引きしたけど。

「多分あれかな、一度拳をぶつけ合って手を取り合った相手とはもう、親友(マブダチ)だとか・・・そんなノリかな!!ぶつけたのは拳じゃなくてボールだけど!」

「・・・たったそれだけで?」

「漢にしか分からない世界なのだよ、クラレット君!」

理解できないような・・・もしくは呆れたような・・・あるいはそれらが混ざり合った表情、今クラレットが浮かべているのはそんなような表情。が、それも一瞬のうちで、すぐにため息が1つ。

「まあ、そうやって知らない相手ともすぐ打ち解けられるのが、ハヤトなんでしょうけど・・・単に相手の領地にずかずかとあがりこむタイプというか・・・まあ、彼に悪い印象がないのは認めます。確かに変なところはありますけど・・・」」

「後半については同意するよ。主に従妹の話とか・・・でも前半についてはさ・・・それ褒めてるの?なんだか呆れている風にしか聞こえないんだけどさ・・・」

「両方です」

激しい頭痛をでも堪えるように、片手で頭を押さえ、目を閉じながらクラレットは言う。絶対、呆れの感情の割合のほうが多いのだろう・・。

 

 

ドン!

瞬間、自分に何かぶつかったのを感じた。

突然の衝撃に目を向けると、一人の女性が尻餅をついて「イタタタタ・・・」と顔を歪ませている。その周辺にはエコバッグと色々な食材が散乱していた。どうやらクラレットに夢中で前方からの注意が疎かになってしまったらしい。

「ご、ごめんなさい!!」

あわてて散乱した食材を拾い集め、エコバッグに詰める。我に返ったクラレットも拾うのを手伝う。

『向こう』いた頃は一つの食べ物も無駄には出来ないような状況なので、もし駄目にしたりでもしたら大惨事といっても過言ではなかった。間違いなくリプレの雷が落ちてくるだろう。『晩御飯抜き!!!』の言葉が脳裏に蘇り、震えが止まらなくなった。

全て拾い集めて女性に返した後、改めて頭を下げて謝罪する。

「本当にごめんなさい!!俺、よそ見してて・・・」

「ううんいいの。私のほうこそごめんなさい。私もメモに気をとられて・・・・」

そう言いながら、あはははと苦笑する女性。右手には確かに買い物のメモらしきものが握られている。

「あの・・これも落ちてましたよ・・・」

クラレットが小さくて四角いものを女性に差し出す。目を向けるとそれは免許証だった。目の前の女性の顔と名前が記されていた。「ご、ごめんなさい!!」と女性は慌てて免許証を受け取り、財布の中にしまう。案外うっかり屋さんなのだろう。

「何から何までごめんなさい。あの、日本語が上手ですね」

「そ、そうですか?ありがとうございます」

自分のドジっぷりをごまかすように女性に言われ、クラレットもごまかすようにあははと苦笑する。

「わ、私もう行かないと!さようなら!!」

こちらに背を向けて女性は走り去ってしまった。しばらくその姿を眺めていたが、やがてその姿は雑踏にまぎれて見えなくなってしまった。

「なんだかモナティみたいな人だなぁ・・・『~~ですのー!』とか言えば完璧だな」

「色んな人がいるものですね。そういうところは、どこの世界も変わりませんね」

「だな」

今はいない自分を慕ってくれた亜人の少女の姿が脳裏に蘇る。あの後、恐らく彼女も自分の世界に帰ったのだろう。今はどうしてるのかな?幸せに暮しているのだろうか・・・。

 

 

 

「そ、そういえばハヤト・・・さっきの四角い紙なんですけど、あれはいったい何に使うんですか?」

「ああ、免許証のこと?さっきの奴を例に取ると、あれは車の運転許可証というのかな?あれがあれば車が運転できるんだ。それがそのまま身分証明になったりもするし・・」

「クルマって、ドウロを高速で走っているあの鉄の箱のことですよね?馬よりも早く走れるし・・・あんなの作れるのは『ロレイラル』の世界だけだと思いましたよ」

「ま、『向こうの世界』にはない代物だしな」

「すごいですね、この世界は」

感心した表情で何度も頷くクラレット。初めて『この世界』に来た時に初めて走っている自動車を見た時は面白かった。豆をぶつけられた鳩みたいな表情で何度も首を左右に忙しく動かしていたのだから。まあ、この世界に戻った時、俺も改めてこの世界の技術の凄さを思い知らされたっけなぁ。・・・文明の利器ってスゲー。

「あ、ただ、流石に『シルターン』の文字というか・・・ニホンゴの文字はうまく読めないんですけど・・・さっきの人の名前も読めませんでした・・・さっきの人の名前、なんて読むんですか?」

感心した表情から一転、少し落ち込んだ表情になるクラレット。なんかこの世界に来てから好奇心旺盛になったというか・・・精神年齢が低くなっているというか・・・しかも人の名前を勝手に読むというのもどうかと思うのだが・・・。

「俺も遠目で見ただけだからなんともいえないけど・・・・えーっと確かあの字は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山岸風花・・・ヤマギシフウカってよむんじゃないか?」

「ヤマギシフウカ・・・ヤマギシフウカ・・・なるほど!分かりました!」

また一つ言葉を覚えました!といわんばかりに自信げなクラレット。そんなの覚えてどうすんだよ・・・。

 

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