現在通っている大学からバスで20分位の6部屋のアパート、それが私の今の住まいだ。
出来てから比較的新しく、防音対策もバッチリなのにそれに見合わないほどの低価格。風の噂では失恋した女が昔、ここで首をつって自殺したと言う過去があったらしい。それが原因でアパートを貸りる人がめっきりいなくなったらしい。事実、このアパートに住んでいる人は私のほかに1人いるかどうかだ。
だが私にとってはまさに渡りに船といった話だった。幽霊なんかよりもよっぽど恐ろしいものと戦い続けてきた私たちだ(もっとも、私は後方支援だったけど)、幽霊なんかでたとしてもどうと言う事は無い・・・多分。
食材の入ったエコバッグを右手に持ちながら階段をあがる。カン、カン、という金属音を鳴らせるたびにエコバッグのなかの食材がこぼれそうだ。さっき高校生とぶつかって床にぶちまけてしまったが、食材に被害が及ばなかったのは幸いだった・・・私の洋服は少し黒い色がついちゃったけど、グスン。
私の現在の住まいの玄関の前に立ち、鍵を取り出してあける。比較的新築のせいか、音も無くドアは私の為に開いてくれた。
部屋に入り、居間のテーブルに食材を置く。使わない食材は冷蔵庫の中にしまってしまう。今日はオムライスにでも挑戦してみよう。
「うーん・・・どうしてだろう?」
バターを引いて中の具を入れてご飯を投入。それからケチャップを丸ごと一本と甘みを出すために砂糖おおさじ五杯に料理酒をカップ五杯と日本人なら醤油etc・・・・
自分が知っているオムライスならケチャップの赤がついているはずなんだけど・・・。
「なんで・・・ちょっとした虹色になっているんだろ?」
自分で作っておきながらどうかと思うが、まったく食欲が沸きそうに無い。むしろ、100人中100人がこれは食べ物ではなくて何かの危険物ではないのかと思うのだろう。人によっては『シャドウ』か、もしくは『タルタロス』の中で発掘した正体不明の何かだと思われていてもおかしくは無い。
「どこで・・・間違えたんだろう・・・」
こういうときに料理に詳しい人か、毒見役(あれ、自分で言ってて悲しくなってきた・・・)もとい味見役がいてくれればいいのだろうけど。
3年前のあの時は友達や先輩ととある事情で一つ屋根の下で暮していた事もあったが、誰も両方の役目を果たしてくれる人はいなかった・・・一人を除いては・・。
「・・・もう3年もたっているというのに、いまだ忘れられないなんて・・・」
しかし改めて考えてみても、あの時ほど一番充実していた時期なんてあっただろうか。何度も死に掛けて・・・仲間とぶつかったりすることもあって・・・世界が滅びかけた事もあって・・・我ながらすごい体験しているものだ。こんな事他の人に話しても信じはしないだろうけど・・・。
けれどあれほど、充実した日々は無かっただろう。高校を卒業して・・・あの街を離れて・・・それからなんとなく暮している自分は一体何なのだろう・・・。もしかしたら私の時間は、この料理の腕のように止まったままじゃないのか・・・。フライパンの中の具を無意識にかき混ぜながらふと思う。
pipipipipipipipipipi!
瞬間、突然鳴り出された音によって意識が覚醒する。音の出所はさっきのかばんの中だ。
かき混ぜるのに使ったおたまをすぐ側に置き、かばんの中に手を突っ込む。今のは携帯の着信音だ。見てみると見覚えのありすぎる名前が表示されていた。疑問に思いながらも、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『もしもし、私だ。急な電話で悪かったな山岸。元気だったか?」
「は、はい、お久しぶりです先輩!」
懐かしい声・・・元特別課外活動部の先輩、桐条美鶴さんからの声が聞こえてきた。
『ゆかりから聞いたのだが、確か、今は港区を離れて別の街にいるんだったな』
「はい、今更両親の元に帰るのもあれですし・・・なによりあの街にいるのは少し辛いと言うか・・・今は大学に通いながら一人暮らしです」
『そうか・・・君の気持ちは分かる。少し思い出が・・・多すぎるからな」
「はい・・・」
成績だけしか見てくれない両親、当時のSEESのメンバーもバラバラ、もうあの街にはいる理由もなく逃げるようにして港区を去った。上位の大学に入ることで両親もなんとか納得して・・・と今に至るわけだった。もうあの街には『彼』の墓参り以外行く理由も無いかもしれない・・・。
「そ、そういえば皆は元気ですか?真田先輩やアイギスもそちらにいると聞いたのですが・・・」
湿っぽい話を変えるために話題を変える。
「ああ・・・アイギスは現在私の片腕として私が現在所属する組織・・・通称『シャドウワーカー』に所属している。明彦もそれに所属しているのだが・・・あの馬鹿者、今武者修行と称して全国を渡り歩いて連絡がなかなかとれない・・・・・・見つけ次第処刑だな」
「しょ、処刑ですか・・・」
3年前のあの風呂場の出来事を思い出す。先輩の怒号、いつの間にか変化した『アルテミシア』、飛び交う氷、氷漬けの男性四人・・・お、思い出すのはやめよう。見てる側としてもあまり思い出したくないものだったから・・・。
「このまま思い出話に花を咲かせたいところなんだが、それは時間のある時にでもしたい。実は山岸、突然なんだが君に協力してほしい事があってな・・・・」
「協力・・・ですか?」
電話の向こうの先輩の雰囲気が変わり、思わず息を呑む。
「確か君は今、那岐宮(ナギミヤ)という街にいると聞いたのだが・・・」
「はい、そうですが・・・」
「実は・・・」
火にかけたフライパンが焦げ付くのに気づいたのはそれから30分に及ぶ電話が落ち着いてからだった。
その日の夜、鳴上家
『深夜から次の日にかけて雨が降る模様。朝から傘の用意が・・・』
「雨・・・・か」
簡単な夕食を終えて次の日の天気予報をに確認する。
去年から天気の入念のチェックが必要事項となっていたので癖というか・・・つい確認をしてしまう。もうここは別の町で事件は解決したというのに・・・癖というのはなかなか抜けてくれないものだ。
そういえば、バスケ部、どうしようか・・・。
なぜか逃げるようにして去っていった新堂先輩から持ちかけられた入部の話、本人は入部の意思は俺に任せるとは言ったものの、やはり入ってくれたら嬉しいみたいな気持ちは隠せなかったな。
しかし、今年は受験という大事な時期だ。あまり学業も疎かに出来ないだろう、成績は去年の積み立てが効いて自信がないわけではないけれども、だからと言って疎かにできない・・・就職すると言う選択肢を取るならば話は別だろうけれども・・・。
「何に・・だ?」
口に出して自分に問いかけてみる。・・・当然答えは返ってこない・・・代わりに出てくるのはため息だけだった・・・。まあいい、答えはいずれ出てくるだろう、焦る事はない・・・。
その・・・はず・・・・。
・・・・・・。
「そうだ、バイトも探さないとな・・・」
ついでにバイトも探さなければならない。親から仕送りは貰っているものの、念のために資金も増やしておきたかった。また家庭教師のバイトでもはじめようかな?丁度受験生だし、もしかしたら復習にもなるから一石二鳥かもしれない・・・あるいは、八十稲羽にはなかったバイトにでもチャレンジしてみようかな・・・。
・・・なんか、考えてみたらやることがいっぱいあるなぁ、ますます部活なんかやる暇ないのかもしれない・・・。
・・・どうしよう。
PIPIPIPIPIPIPI!!
突然自分の携帯が鳴り出す。
相手の名前を確認して、意外な相手に目を見開く・・・が、それも一瞬の事。次の瞬間には思わず笑みがこぼれる。やはり『仲間』からの連絡は嬉しいものだ、空いている手で着信ボタンを押して携帯を耳に当てる。
「もしもし」
『もしもし、お久しぶり・・・というのも変でしょうか先輩』
「微妙なところだが、また話せて嬉しいよ直斗」
『僕も・・・嬉しいです先輩』
俺の知る、歳不相応な知的で落ち着いた佇まいを纏うその声が、言葉通りの声色で耳に響く。
電話の向こうから話し掛けてくるのは、かつての特別捜査隊の一人、探偵王子こと白鐘直斗からの電話だった。
「元気だったか?」
「ええ。もっとも、探偵という身分上、いつまでも稲羽に留まっていられるというわけにはいきませんが・・・・」
「大変だな。体壊すなよ」
「先輩こそ、お体のほうは大丈夫ですか?新しい土地での生活というのもなかなか体にこたえるものではないでしょうか?」
「これでも転校を何度も経験した身だ、この位大丈夫さ。・・・。それに、早速面白い出会いを果たしたところだ」
「本当ですか?まあもっとも、先輩程の魅力があると否が応でも人を惹きつけてしまうのでしょうが・・・それだけに悪い虫がつかないか心配ですが・・・」
「ん?すまない、最後のほう聞こえなかったんだがなんて言ったんだ?」
「いえ・・・なんでもありません」
「?」
しばらく世間話に花を咲かせる。
「ところで先輩、そろそろ本題に入りたいのですが・・・」
急に真剣な様子を見せる直斗。その様子から何かただ事ではない雰囲気を纏わせていた。
「先輩は今、那岐宮(ナギミヤ)という街にいるのでしたよね?」
「ああ、今は一軒家で一人暮らしなんだが・・・」
「・・・・・・」
「直斗?」
「・・・・・・」
「・・・・・?」
急に会話が途切れる。まるでどう切り出そうか迷っている様子が感じられる。直斗にしては珍しい反応ではないか?
「・・・折角の新しい土地に慣れようとしているときにこういうことをいうのも気を引けるんですが・・・気を悪くしないで聞きたいのですが・・・」
「珍しく歯切れの悪い言い方じゃないか?この街がどうかしたのか?」
うー・・・と言い方を選んでいるような、戸惑っているような
「・・・先輩の周りで何か妙な噂か事件があったりしませんか?」
「事件だと?」
いきなり物騒な質問だな。よくわからないが聞いたことも無いと直斗に伝える。
「そうですか、まあ当然なんですが・・・」
どこかホッとした様子の直斗。
「一体どうしたんだ?なんなんだ急に」
どうやら直斗はこの話が本命で俺に電話をかけてきたらしい。この街では八十稲羽で起きたように人の死体が電線にぶら下がっていたなんて事も、死体が見つかったなんて事もニュースには流れてなんかいない。なんだってこんな不安をあおるような話を持ってきたんだ?
「・・・なにか、あるのか?この街に」
「い、いえ、もうだいぶ前の話ですし考えすぎなんじゃないかと思うのですし・・・何より話の内容からしてただの都市伝説みたいなものですから・・・ただ、僕もそうですが堂島さんも少し気にしていたようで・・・」
「叔父さんが?」
どういうことだ?昨日の電話では何も言ってなかったぞ?
『・・・お前、確か今ナギミヤ市にいると言っていたな・・・お前に限ってそんな事はないと思いたいが・・・』
・・・いや言われてみれば、なんとなく俺の安全を気にするかのような様子だったが・・・直斗と同じように那岐宮に住んでいると聞いてきたが・・・。もしかしてそれに関係ある事かな?
「以前、那岐宮であった噂なんですが・・・」
回想を打ち消すかのように直斗が意を決するように話しかけてきた。
「・・・その街には、『神隠し』の噂が流れていたんです」
・・・・・・なんだって?
「神隠し・・・って突然人が失踪したりするあれか?」
「そうです。元々は神の神域に入り込んだ者に対して起きる祟りのようなものなんですが・・・」
随分勿体つけたと思いきや、神隠し・・・だって?
「はは、直斗もこういう都市伝説に興味があったりするんだな・・・」
「こういう都市伝説の影には実際に起きた事件が関わっていたりする事もありますからね。この『神隠し』も実際そうだったんですから」
「だった・・・?」
要約するとこうだ。
この那岐宮は最初は『何かが無くなる』ことが多いということで一部の人からは有名だったそうだ。
最初は売り物の果物だったり、何かの置物だったりそんな気にも留めないような物がなくなっていることが多いのだが、それがいつの間にか街の銅像が無くなっていたり、大きな岩が無くなっていたり、動物園の猛獣すらもいなくなってしまっているという事があったそうだ。
ただ事ではない出来事に警察の方でも大規模な捜査が行われたという事なのだが、一向に解決の目処が立たないまま時間だけが流れていった。当時の住民の中には税金の無駄遣いと非難の声をあげる者もいたそうだ。
「そしてとうとう皆が懸念していた事が起こったのですよ・・・それが」
「人間の消失・・・というわけか」
「そうです。ある日突然、人間が消えてしまうという事態が発生してしまったんですよ・・・」
突然何の前触れも無く発生した人間の消失。親族にも何の連絡も無く、また身代金の要求もないから誘拐の関連性も低い。警察もどうしてよいか分からず頭を悩ませるばかり。そうこうしているうちに、住民の間ではある噂が立ち上り始めた。
大昔にこの街に祀られていた神様が、人々が信心の心を忘れていた事に怒り『神隠し』を引き起こしたのではないか。一部ではその話を本気で信じて大規模なお払いをしたこともあったらしい・・・・効果はあったかどうかは別だが。
「実は僕も、探偵の仕事でこの事件を捜査していた事があるんですよ。藁にもすがる思いで警察から協力を求められたのですが・・・結局少ない何も分からぬまま・・・」
「直斗でも解決できなかったのか?」
「はい・・・」
明らかに落ち込んだ様子で返答する直斗。
「聞き込みをするために親族の元へ訪れた事があるのですが、そこでの彼らの様子を見て当時の僕もいたたまれない気持ちになりました。『いなくなった親族を探し出して欲しい、せめてあの人が生きているかどうかだけでも』・・・あの時の必死な願いに答えてやれなかったのが今でも無念に思います・・・」
事件の解決の為に邁進、自身の身をも投げ出す直斗のことだ、その時の様子が今でも忘れられないのだろう。いや、普通はそうだ。なんとしても人としてその願いに応えたかったに違いない。多分自分でもそう思うだろう。
「話が逸れてしまいましたね。まあそんなわけで解決の目処が立たないままただただ日々が過ぎて、捜査は迷宮入りになりかけた時です」
「迷宮入りか、ドラマみたいな言葉だな」
「茶化さないで下さい・・・とにかく去年、信じられないことが起きたんです・・・ある男子高校生の『神隠し』が起きたのを最後に、突然『神隠し』はおさまったんですよ」
「そうなのか?」
「それだけではありません、これまでに『神隠し』あった物や人が、当時のままで急に戻ってきたんです」
「なんだって!?」
直斗が聞いた情報によると、バラバラな位置で『神隠し』にあった物や人が全部ではないものの・・・突然戻ってきたのだ。
警察もこの事態にただ困惑するだけだった。当時いなくなった人に事情を聞いてみると、よく分からない、自分がいなくなったことすらも分らなかったというのだ。
「ただ一人だけ・・・事情聴取で妙な事を言っていたそうです・・・ただ・・・」
「ただ?」
「あまりにも非現実な事を口走っていたそうで、警察の方でもこの人物は事件のショックによる精神的に錯乱状態にあるせいと判断したのですが・・・」
「なんなんだ?」
「・・・・・・」
すぐには話さず、一呼吸おいてから直斗は語りだした。
「『・・・自分は、この世界とは『違う世界』に飛ばされてきた。そこでは自分は妙なローブを着た連中に人体実験されてきた・・・』と証言したそうです」
「違う世界?」
おいおい、神隠しの話からいつからオカルトちっくというか、ファンタジックというか・・・随分話が飛躍しているんじゃないか?
「先輩が戸惑うのも無理は無いと思います。僕自身だって半身半疑なんですから・・・ですが話はそこで終わりではありません。しばらくしてからある日、その人物は謎の死を遂げたんです」
「!?」
「その人物は先程も言っていた通りかなりの精神錯乱状態にあったわけで精神病院に入院していたのですが、ある時突然大声を発しながら苦しみだし、そのまま息絶えたんです。医師が解剖を施して死因の究明に及んだのですが・・・これもまた『わからなかった』」
「また分らないだって?」
神隠しの事件が解決したのも束の間、今度は原因不明の患者の死亡。原因が分らない、謎。・・・どれだけ分らないがでてくるんだ?
「ひとまず精神的なストレスによる心不全という事で何とか形にはしたようですが・・・未だに本当の『死因』については謎ですね」
「・・・この世界とは『違う世界』、そういったのか?」
普通の人間ならドラマや漫画の見すぎだと一笑に付す話だろう。俺だって訳が分らない話だと一言で終わらせる事件だ。・・・心当たりが全く無ければの話だが・・・。
「なんだか似ているな、・・・去年の事件に・・」
「・・・あの時は『神隠し』と『入れられて殺される』という違いはあれど、『違う世界』という点では似ていますね・・・『テレビの中の世界』と」
「今、『テレビの中の世界』はどうなっている?」
「僕も今、稲羽を離れているのでなんとも言えませんが・・・暇を見てクマ君と花村先輩が時々様子を見ているようですよ。流石に久慈川さんほどには探知は厳しいでしょうけど・・・」
「そうか・・・また陽介にでも状況を聞いてみるとするか」
「ですが先輩、先程も言いましたがそれももう昔の話です。先程の男子高校生が巻き込まれたのを最後に、『神隠し』はもう起こっていません。もちろんその男子高校生も無事に発見されたようですよ。しかもそれは去年の話です。確かにすっきりしない終わり方ですが事件は終わったと判断してもいいのでは?」
不安がこみ上げる自分を見透かしているのか、直斗がすぐさまフォローを入れる。しかし起こった原因も、なぜ急に『神隠し』がなくなったのかの原因も分らないままにそう楽観視してもいいのだろうか・・・。
「それより、先輩も今年で最後の高校生活じゃないですか。進学するか、就職するかは決めたんですか?先輩ほどの学力なら進学するのでしょうけど・・・」
無理やりこの話題を終わらせるかのように直斗が急に話題を変える。まるでこの話はしたくないというように。
「直斗、しかし・・・」
「堂島さんも言ってたんじゃないですか?余計な事には首を突っ込まないで目の前の事に集中しろと。僕のほうでも手が空いたらその事件も追ってみます。だから先輩はなるべく危険な事はしないで下さい・・・貴方になにかあったら僕は・・・」
受話器の向こうからもわかるような、何処と無く悲しそうな雰囲気がこちらにも伝わりそうな声を発する直斗。
「だが・・・」
「あっ、もうこんな時間なんですね。これ以上の夜更かしは身体に毒です。明日の学校にも差し支えあるといけないし、失礼します・・・」
「おっ、おい直斗」
ブツ!
こちらのセリフを聞かずに突然通話が切られる・・・明らかに気分を害してしまったかな。
頭をかきながら携帯の通話状態を解除する。そして時計を確認する。11時55分。随分と長話をしてしまったようだ。そろそろ寝る準備をしなくては。
それにしても、気にするなといわれても気になってしまう。
突然始り、突然終わった『神隠し』・・・か。
そういえば、去年も千枝から『マヨナカテレビ』の噂話を聞いて、それを試したのがそもそものことの発端だったな。
しかし、あの事件があったこそ、あの仲間達と会えることが出来たし、今考えても不謹慎だが充実した一年だった。それが忘れられなくてこのような面白半分の噂話なんかに興味が引かれるのかもしれない・・・。
ふと、物音がして窓から外の様子を伺う。
雨だ、雨が降っている。そういえばさっきの予報でも深夜にかけて雨が降るとか言ってたっけ。
もう一度時計を確認する。11時58分。もう少しで0時だ。
別に何か目的があったわけじゃない。部屋を暗くしてカーテンを閉めてテレビの前のソファに腰掛ける。
もう一度時計を確認する。0時まであと数十秒。
・・・・何やっているのかな俺は。もう事件は終わったのだしこんなことして何になるというのだろう。
そもそも『マヨナカテレビ』の話があったのは稲羽での話であってこの街には全く関係ないじゃないか。結局去年の出来事が忘れられなくてこんな事をしているんだな。大人になれよ鳴上悠。
時計を確認する、あと数秒。
「まあ、どうせ何も起こらないんだろうけど・・・」
あと3秒。
「どうせこのまま時間が過ぎ去ってお休みなんだろうけど・・・」
あと2秒
「はは・・何やってんのかな・・・」
あと1秒
「まさか何か起こるわけが・・・」
0時。
・・・ジジジ
「・・・え?」
突然、テレビから音が走ったと思った瞬間・・・。
ジジジ・・・ジジジジ・・・
電源を入れていないはずのテレビにノイズが走り、画面に光が灯る。
「まさか・・・!」
紛れもなく『マヨナカテレビ』が映りだした。
テレビの画面がノイズが走っていて分りにくいが、なんとなく人の形を映しているような気がした。
何がなんだかよく分らない。事件はもう解決したはずだ。しかもここは稲羽じゃない。一体どうなって・・・。
訳が分らなくなりつつもテレビに向かって歩き始める。
ふと、テレビから声が聞こえてくる。
「・・・えて・・・の・・か」
「何だ?何を言っているんだ?」
「教・・・しい・・・か・・つ」
「だから何を言っているんだ!!」
大声を上げてテレビの画面に触れる。
と、思いきや画面に触れる事も無く、まるで液体に触れたかのように腕がテレビの中に入った。あのときと同じだ。
慌てて腕を引っこ抜きその拍子に後に転んでしまい、後頭部に頭をぶつける。痛い。
頭を抑えつつ痛みをこらえながら再びテレビに目を向ける。もうテレビは何も映していない。
「一体・・何が起こっているんだ?この街に、それにさっきの人影は・・・」
暗い部屋の中、応えてくれるものはいなかった。だが、『マヨナカテレビ』が映ったのであれば・・・。
明日、特捜隊の皆に電話をかけなければ
念のため、これは真END行ってません。ナミさん倒してません。