次の日の昼休み 屋上
『マヨナカテレビ』が映っただとぉ!?』
「ああ。昨夜の0時、それも雨の日にだ」
その日の午前の授業を終わらせた俺はクラスメイトの昼食の誘いを断って、一人屋上へ向かい弁当箱を広げながら陽介に電話を掛けた。昨夜のことを報告すると、やはりというか、かなり驚いた様子で俺の報告を受けていた。無理も無い。当の本人である俺でさえ何がなんだか分らないのだから。
『驚きのあまり唐揚げを落っことしそうになっちまったぜ・・・こら里中!俺の唐揚げ取るな!!天城も笑ってないで止めろっつーの!!』
「そちらの方は、何も変わりは無いか?」
『ああ、俺とクマや里中や天城、それと完二も暇を見てはテレビの中に様子見に行ってるんだけど、なんにも変わったところは無いぜ。相変わらずシャドウがうじゃうじゃいて危ないけどな』
まったくお手上げだぜと陽介がうんざりした様子で言う。
「そちらの『マヨナカテレビ』はどんな様子なんだ?」
『それがよ、あれから俺らも雨の日のたびにチェックしてるんだけど、画面にノイズが走るだけで何にも映らねーんだ。ま、当然っちゃ当然何だが・・・』
いつもと変わりなしか・・・。
『にしても、まさか俺たちの町以外でも『マヨナカテレビ』って映るモンなんだな。てっきり稲羽だけだと思ったんだが・・・・』
「しかし、だとしたらなぜこの街では『マヨナカテレビ』の事が話題にも挙がらないんだ?誰か一人くらいは気づいてもおかしくは無いと思うんだが・・・」
そうじゃなくても、もし『マヨナカテレビ』が全国に放送されてるんだとしたら誰も気づかないのは絶対におかしい。自分は勿論、元都会人の陽介も『マヨナカテレビ』のことは八十稲羽に来てからはじめて知ったという。
『結局、『マヨナカテレビ』って一体なんなんだろうな・・・。事件は解決したものの、未だに俺たちその事について何にも突き止めてはいないんだからな・・・・』
「そうだな・・・」
去年八十稲羽を襲った連続殺人事件。当時離婚騒動で騒がれていた山野アナと陽介の想い人であった小西早紀、この二人が殺された事に始まり、そこで知った『テレビの中の世界』。それからテレビの中に突き落とされた人々を救出するために結成された俺たち『特別捜査隊』そして事件の真犯人が叔父さんの相棒である『足立透』である事を突き止め、黒幕であるアメノサギリを倒す事に成功する。そして事件を解決へと導く事が出来たのだが・・・。
『・・・話が逸れたな。そういえば、肝心の『マヨナカテレビ』には何が映っていたんだよ?』
憂鬱とした雰囲気を振り払うかのように陽介が話題を変える。大切なのはこれからどうするかだ。過ぎた事を悩んでいても仕方ない。
「ノイズが酷くて誰が映っていたのか分らなかったな。何か喋っていたみたいだが良く聞き取れなかった・・・反射的にテレビに腕を突っ込んでみたら、入ることは出来るみたいだ。テレビが小さかったから腕しか入らなかったけど」
『おいおい何処に通じているかどうか分らないのに危ない事すんなよ。ジュネスのテレビ以外は何処に通じているのか分らないんだぞ?それを知らないお前じゃないだろ』
昨夜の行動を窘められる。陽介の言うとおり、クマと出会ったジュネスのテレビ以外からは侵入する事を俺たちの中で厳禁としている。どこか危険なところに繋がってそのまま二重遭難どころか、下手をすれば次の日自分の死体が電線の上で見つかる事になるだろうからだ。あの事件で殺されたあの二人のように。
『今日の『マヨナカテレビ』でチェックすることは出来ないのか?』
「今日は雨が止むと予報で言っていた。今までの『マヨナカテレビ』のパターンを考えれば多分無理だろうと思う・・・」
『マジか・・・』
『マヨナカテレビ』は雨の夜、一人で画面の消えているテレビの画面を見ることで映るものだ。試してみないとなんともいえないが可能性は薄いと見るべきだろう。
ふと、昨日直斗から聞いた話を思い出す。
「そういえば、昨日直斗と電話したんだがこんな事を言っていたんだ」
『那岐宮(ナギミヤ)の神隠し伝説ぅぅ?』
「昔、そんなような事件があったらしいが、どう思う?」
「神隠しだってよ、3人ともどう思う?」
周りで昼食を取っている里中、天城、完二に話を振ってみる。本来ならばあともう2人面子がいるのだが、その2人は高校生活と平行してやっている、アイドルと探偵の仕事の関係で今はこっちにはいない。おかげでそのうちの一人が気になっている完二がどことなく元気がない様子だったが、ここ最近になってようやく、元気を取り戻していた。
その完二が大振りな弁当をかき込みながら答える。
「神隠しッスか?そりゃあれっスよね、神様の聖域に踏み込むと攫われるとかいう、先輩の住んでいるところにもそれがあるンスか?」
「そそそそそそそんなのあるわけないじゃん!どどどうせ誰かが面白半分で流したに決まってるし!!あっでも直斗君情報だから信憑性があるとか・・・・や、やっぱりないって!!」
緑の○ぬきを持ちながら明らかに動揺しているのは里中千枝。
「え、でも意外とそういう話よく聞くよ?かくいううちの旅館にも午前四時に四階のトイレに入った人は忽然と姿を消すとか・・・」
赤い○つねを持ちながら興味深そうに話すのは爆笑大魔王こと天城雪子。
「ちょ、ちょっとやめてよ雪子!そういうマジそうな話は!どうりであそこのトイレが使用禁止になっているのはそういう理由!?」
「つーかそれは『神隠し』というより『怪談』じゃないスか?」
呆れ顔で話す完二。
「あ、それもそうか。・・・フフフ・・・アッハッハッハッハ!!!」
また出たよ。天城の爆笑癖。周りの二人も呆れたように天城を見つめている。
「つーか、シャドウは平気なのにお化けは怖いって言うのかよ・・・」
「あ、あれは実体があってちゃんと見えるから大丈夫なのよ!いざとなったら蹴り飛ばすし!!」
顔を真っ赤にして蹴りを繰り出しながら叫ぶようにいう里中。
「や、意味分らない」
「先輩に一票」
笑いの収まった天城と完二がすかさず突っ込みを入れる。相変わらずお化けとかそういうのは怖いとか可愛いとこあるじゃないの?まあ肉好きで暴力魔なのが玉にき(ドゲシ!!)・・・・ぶほぉ!!??
「アンタ今失礼な事考えたでしょ!!なんとなくそんな予感した!!」
「心をよむなっつうの!!!ったく脳みそだけじゃなく第六感まで野生をはたらかせやが(どーん!)」ズシャァァァァァァァ!!!!
「・・・・こりねえなアンタも」
『えー・・・今の流れで判るかと思うが有用な情報は得られなかったであります相棒・・・』
「役に立つかどうかは別として、文字通り命がけの情報感謝するぞ相棒」
多分千枝にこっぴどくやられたに違いない。そっとしておこう。
「ともかく、もしかしたらその神隠しが関わっている可能性があると俺は見ている」
『ほう、その心は?』
「勘だ。去年培った・・・」
少なくとも、今は情報が少ない。とにかく可能性のあるものから片っ端から当たってみるべきだろう。たとえ徒労になろうとも、捜査とはそういうものだ。
『・・・信憑性はあると思うぜ。お前のその勘のおかげで助けられた事が何度もあったからな。だが気をつけろよ、なんであろうと『マヨナカテレビ』が関わっているとなりゃ碌な事件じゃないのは確かだ。無駄かもしんねーけど俺たちも定期的にテレビの中調べてくるから』
「助かるよ。またなにかわかったら連絡する」
『おう。っとちょっと待て電話変わる』
陽介の声から聞き覚えのある女子の声に変わる。
『もしもし鳴上君?とにかく肉だよ!肉を食べて頑張れば大抵何とかなるんだから!!あ、でも危ない事はやめてね!』
と、里中の激励受けた次の瞬間、
『先輩!!負けんじゃ『鳴上君!なにかあったらいつでも呼んでね!すぐに駆けつけるから!!あと、体調には気をつけて!』
と完二の声を遮り雪子の声が聞こえる。かすかに『割り込まないで下さいよ!!先輩!!』と聞こえたような気がした。かつて物体Xで殺しかけておいてなんだかなぁ・・・。
『ま、まぁそんな感じで気を付けろよ!!相棒!!』
『ああ、そうするよ』
そう一言だけ告げて電話を切る。
「さてと・・・」
学校が終わってからのプランを考えながら一人、昼食の続きを再開する。
「それでは、これでHRを終わります。起立、礼」
レックス先生の号令とともに帰りのHRを終わらせる。さて、これからどうするか・・・。
「あ、鳴上ー?ちょっといいか?」
帰り支度を始めていたところを数人のクラスメイトから声を掛けられる。昨日バスケ部に誘ってくれた奴だ。
「部活決めたか?もしよかったらまたバスケ部どうだ?お前なら速攻レギュラー取れるって。見てたぜハヤト先輩との1ON1」
「他の奴もお前なら大歓迎だってさ。どうだ?」
どうやら昨日のことが高く評価されているようだ。とはいってもこれから用事あるしな・・・。
「新堂さんにも言ったけど、悪いけど保留という事でいいか?入るかどうかは別としてどんな部活があるかもみてみたいし・・・それに、ちょっとこれから用事もあるんだ・・・」
「そ、そっか。もしその気になったらいつでも言ってくれよ」
少し残念そうにじゃあなと去っていくクラスメイト達。それらを見届けてから帰り支度を終わらせ教室を出ようとする。
「鳴上君・・だったよね」
横からの声に振り向くと数人の女子に話しかけられる。なにやら顔を赤くしてこちらを見ている。
「どうかしたか?」
「これから、おいしいスイーツのお店に行くんだけど、よかったら鳴上君もどう?」
言っちゃった言っちゃったと他の女子が騒いでいる。だがこんなところで油を売っている場合じゃない。
「すまないが、これから用事があるんだ。悪いけどまたの機会に」
そういってまた捕まる前にすばやく教室から出る。
ドアの向こうでは「断られたー!」「もう次こそはー!」「鳴上爆発しろー!!」とか聞こえる。そもそも、何でよく知りもしない俺なんかを誘ったりするんだ?第一、さっきの会話を聞いてなかったのかな?
「早速馴染んでいる様だね、安心したよ」
声がするほうに顔を向けると担任――レックス先生がいつものような微笑を浮かべながらこちらを見ている。
「先日は、本当にどうもありがとう」
「いえ、もういいですよ。あれから体調のほうはどうですか?」
「平気平気、言っただろ?心配ないって」
親指を立てながらサムズアップ。僅かに覗く白い歯がきらりと光っている。あー・・・俺今急いでいるのにな・・・ある意味厄介な人に捕まってしまった。さすがにこの人の前ではそれじゃあと、話をばっさり中断しにくい・・・。悪気がないのが余計に性質が悪い・・・仕方ない、なるべく早く切り上げよう。
「それよりどうだい?この街にはもう慣れたかい?知らない土地で一人暮らしというのは色々大変でしょ?ご両親が海外へ行ってらっしゃるんだっけ?」
「ええ・・まあ・・・」
「転校生というのはなんだかんだで目立っちゃうからね。ま、生徒の事を把握するというのも先生の役目というものさ。そして何より、君には助けてもらった恩があるからね」
目を瞑りながら誇らしげに言っている。うーん・・・真剣に俺のことを考えてくれるのはありがたいのだけれども今は一秒でも早くこの場を去りたい・・・。
「時にナリアガリ君は、部活には入らないのかい?」
またこの話題か・・・いい加減飽き飽きしてきたな・・・。つーかまた苗字間違ってるし・・・。学校側から何にも言われないのかな?
「さっきも聞かれましたけど、とりあえず色々回ってみてから考えようかと・・・というか鳴上ですって。ナ・ル・カ・ミ」
「・・・ああ!ゴメンゴメン」
罰が悪そうに後頭部に手を当てながらゴメンゴメンと謝る先生。やっぱりどこか抜けているなぁこの先生は。
「それでえーと・・・ああ部活の話だったね!それもいいかもね。確かに勉強も大事な時期だけど、そればかりが3年生というわけじゃないからね。進路にしても何にしても色々考えてみるといいさ。俺でよかったら協力するからさ」
それが担任の役目でもあるしねとまたにっこり笑いながら言う。子供のような純粋さをもった笑顔だ。モロキンと柏木はどうしてこうならなかったのだろうか。憂鬱な気分でいると先生がキョトンとした表情で「どうしたの?」と聞いてくる。どうやら表情に出ていたらしい。慌ててなんでもないとごまかす。
ふと、気になることがあるんだった。そういえば外国とかこの街で例の噂なんて流れたりしてないのかな?あまりこの話を広めるのもどうかと思うのだが・・・。
「話が変わりますが先生、『マヨナカテレビ』という噂を聞いたことがありますか?」
少し話の振り方が不自然なような気がするが、構わない。どうしてもこの街の人に確認しておきたかった。
「マヨナカ・・・テレビ?」
「雨の日の午前0時に消えたテレビを一人で見ていると運命の人が映るというのですが・・・聞いたことあります?」
「・・・・・・」
「先生?」
俺の質問に答えるでもなく突然暗い表情になる先生。何か、気に障るような質問をしたか?その様子からただならぬ気配を感じるが・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・あのさ」
言いにくい表情のままその重い口を動かし・・・言う。
「テレビって・・・四角くて人間とか色々映っているあれだよね?」
「・・・・・・へ?」
「ああいやいや!知っているよ知ってる!!マヨナカって真夜中のことだよね!?真夜中にテレビ・・・が映っているから『マヨナカテレビ』って言うんだよね!?うんうん!!」
「・・・・・・」
知っているよと言わんばかりに笑顔で冷や汗を流しながらうんうんと大袈裟に頷く。これで盛大な知ったかぶりだと気づかない人は目が見えない人か、余程の鈍感に違いない。というか俺の説明聞いてないだろ。
「先生・・・『マヨナカテレビ』っていう噂が、去年俺の住んでいた町に流れてたって話なんですけど・・・・」
「えっ」
「・・・話、聞いてました?」
盛大な勘違いにやっと気づいたのか、口を半開きにしながら恥ずかしさで若干顔を赤くしている。
「あのー・・・」
「あー・・・えっと・・・そ、そうだ!これから会議があるから失礼するね!!」
「え、ちょっと先生!?」
呼びかけの声が聞こえているのかいないのかUターンしてそのまま走り去る先生。別の方向から「先生が廊下走ってどうするんですか!」という声が聞こえてきた。
「・・・やっぱりよくわからない人だ」
その後も、何人かの生徒に『マヨナカテレビ』のことを聞いて回ったが誰も知らないという。やっぱりあれは稲羽だけに起こる現象なんだろうか。レックス先生が知らないという事は外国でも流れていないという事だし。
だとすれば、昨夜流れた『マヨナカテレビ』は一体なんだったのだろうか?ペルソナ使いだけにしか見えない現象だとか・・・いや、稲羽では一般の人たちでも普通に見ることが出来たというし、そうとは考えにくい。しかも、八十稲羽でも何も映らなかったという・・・。
『それがよ、あれから俺らも雨の日のたびにチェックしてるんだけど、画面にノイズが走るだけで何にも映らねーんだ。ま、当然っちゃ当然何だが・・・』
ふと、先ほどの陽介の言葉が頭に浮かぶ。
画面にノイズが走るだけで何にも映らない・・・当然っちゃ当然・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・!!
「誰かが、テレビの中に入れられた・・!?だから『マヨナカテレビ』が・・・!?」
当たり前すぎてその可能性を失念していた。なぜそれを真っ先に考えなかったんだ!?
去年の事件も、殺された二人や特捜隊のメンバーが入れられたからこそ『マヨナカテレビ』が映ったのだ。今回もそうとは考えられないだろうか?
『先輩が今住んでいる那岐宮(ナギミヤ)でかつて人や物がなくなるという『神隠し』の事件があって・・・』
昨夜の直斗の言葉が思い出される。
那岐宮(ナギミヤ)の『神隠し』・・・・テレビの中に人が入れられる事で雨の日の0時に流れる『マヨナカテレビ』・・・。
「この街でテレビの中に人が入れられて行方不明になったことで、それが『神隠し』になった・・・?」
自分の口で声に出してみる。そういうことなのか・・・?だがそう考えればなんとなく辻褄が合う気がする。なんとなくだが。
これまでにこの街で起きた『神隠し』は実は被害者が何らかの方法でテレビの中に入れられて起こった事件なのでは?この街にも八十稲羽のテレビの中のような世界があるのでは?そしてそれはこの街の人間が気づかなかっただけで何度も『マヨナカテレビ』として映っていたのでは?
そして、足立や生田目のように実際にテレビに入れた『犯人』のようなものがこの街にいるのでは?しかし誰が?一体?何のために?
それに直斗の話だと、『神隠し』にあった人物全員が戻って来たわけではないらしい。・・・あまり考えたくは無いがそう考えると帰って来なかった人たちは、テレビの中で殺されてしまったと考えるのが妥当と見るべきだろう・・・・テレビの中の世界のシャドウに襲われて・・・・。
だがその場合、なぜ死体が現実世界に出てこない?少なくても八十稲羽では電線に逆さ吊りにされた状態で発見されるはず。むこうとではなにか勝手が違うのだろうか?
・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・。
頭の中で考えを巡らせてみても、情報が少なすぎる現状では判断のしようがなかった。これ以上考えてみても現状から物事が進むとは思えない。
「よう鳴上、これから帰るのか?よかったらうちの部を・・・っておい!?」
よこから先ほどのバスケ部とは別のクラスメートから話しかけられた気がするが、すぐに駆け出した俺の耳には内容が入ってこなかった。
考えるよりも、行動だ。
家に着いた俺は学生服から動きやすい私服に着替えて、八十稲羽から持ってきた荷物を物色する。何か役に立つものがあればよいのだが・・・。
ふと、荷物を物色していた俺の手が止まる。しばらく『それ』を見つめていたが手を伸ばして『それ』を眼前に持ってくる。
「はは、そういえば持ってきてたんだった・・・」
手に持った『それ』―――几帳面に畳まれた八十神高校の制服を見て苦笑を漏らす。もう持っていても仕方ないのにな・・・。
・・・・・・。
制服を丁寧に自分の真横に置き、荷物の物色を続ける。
・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・。
「ケブラーベストだけか・・・」
役に立ちそうなものをタフガイ級の根気で探してみたが見つけたのはこれだっった。そもそも必要だと思う事も無かったし必要な道具は全て特捜隊のみんなの為に八十稲羽に置いてきてしまった・・・。
何より武器が無いのは結構痛かった自分には『アレ』があるとしても流石に丸腰でうろつくのは避けたかったのだが。安易に持ち運ぶのも苦労するだろうが・・・。
武器は諦め、仕方なくケブラーを素肌の上につけてシャツや上着で目立たないようにする。散らばった荷物を簡単に片付け、八十神高校の制服をハンガーにかけてリビングに向かうため階段を降りる。
「このテレビからは無理か・・・」
一般家庭にしては小さいテレビを睨みながら腕を組む。
けちけちせずに大きなテレビでも買えばよかったのに・・・これでは腕や、菜々子ぐらいの子供なら頑張れば入るかもしれないが自分サイズの人間が入るには小さすぎる。もっと大きなテレビが必要だ。
ジュネス並みの大きなテレビがあるところといえば・・・。
「やっぱあそこかな・・・」
「このテレビならいいかな」
ジュネスのテレビと遜色ないサイズのテレビが自分の目の前にある。
2日前に訪れたデパートなら家電製品のコーナーがあるだろうしそこになら大きなテレビがあるだろうと考えてのことだった。そして目論見はバッチリ的中。幸運は俺に味方してくれた。
テレビの液晶画面に触れようとしてふと、その手を止める。
・・・特捜隊に連絡するべきだろうか?
クマなら、テレビの中の世界までのナビゲートをしてくれるだろうし、陽介達も喜んで手伝ってくるだろう。昼に無茶をするなと言われたばかりだし・・・。
ポケットから携帯を取り出し開いた後、電話帳を開いて陽介にコールしようとしてふと手が止まる。
・・・本当に、このテレビまで探してきてくれるだろうか?もしかしたら向こうの世界へと繋がっていないかもしれない。仮に繋がっていたとしてもそれは数時間で出来るようなものなのか?あるいは一日?二日?一週間?一ヶ月?この街でのタイムリミットが判らないのに?もし本当に人が入れられていたのだとしたらその人はどうなる?
頭の中の仲間達は、しきりに無茶をするな、危ない事はやめてくれといっている・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・。
「・・・すまん、今回ばかりは無茶を許してくれ」
携帯を折りたたみ、ポケットの中に仕舞いこむ。2、3回深呼吸をして目を閉じて精神を集中する。
時間にして一分くらい経っただろうか
「・・・よし!」
周りに人がいないことを確認してからテレビの画面に向かって手を伸ばし、触れる。
!!。普通なら画面に触れて止まるであろう手のひらが、波紋を浮かべて画面に貫通する。どうやら入れるようだ。
「・・・行くぞ!」
自らを奮い立たせるようにテレビに向かって歩を進める。
数十分前
「これで、買い物は全部ですか?」
「ああ、そうみたいだ」
家のお使いのメモを見て確認する。クラレットと自分の片手には買い物品で一杯になったエコバッグがあり、もう片手でメモを確認しながらクラレットの問いに答える。
学校を終わらせて、本日バイトもない俺たちは日用品の買い物の為にデパートを訪れていた。
「そういえば、昨日ぶつかった人もこんな感じでしたっけ」
「ああ、メモを見ながらぶつかるような事はしないから安心してくれ」
「ふふふ、そうしてください」
笑いながら答えるクラレット。持っているエコバッグ重たそうだけど大丈夫かな?
「せーんぱーい!!」
突然呼びかけてくる聞き覚えのある声に視線を向ける。従業員の服装をした後輩―――日比野絵美がこちらに向かって走ってきた。
「やあ絵美、バイト頑張ってるか?」
片手を挙げて軽く挨拶する。
「はい!縦横無尽に動きまくって頑張っていますよ!!先輩はお買い物ですか?」
「ああ、日用品の買い物にな」
「そうなんですかー・・・ムムッ!」
愛想笑いから一転、クラレットの姿を確認すると明らかに不機嫌そうな表情を隠す事もなく向けてくる。
「こ、こんにちは・・・ヒビノ・・・さんでしたっけ?」
「・・・・どーもこんにちわ」
自分には明るい笑顔で挨拶をしてきたのには対照的に、クラレットに対しては不倶戴天の敵でも見るかのようで、交わした挨拶とは対照的に敵対心バリバリの視線をぶつけてくる。若干、クラレットが引き気味になっていた。
「先輩といつでも仲睦まじくそれはそれは大変よかったです。私それを見て心がほっこりしています。ええそうですとも癒されます癒されます・・・・」
表情と会話が一致していないんですけど・・・。絵美の体からなんか黒いもやもやが見えるような気がするのは気のせいか?
「あの・・・いつも思うんですが、私は貴方に対して何かしましたか?何か、気づかないうちに気に障るようなことでも・・・」
「いーえ!!全くそんな事はございませんよぉ・・・!!何か勘違いしてるんじゃありませんかぁ?私、全然怒ってませんからぁ・・・!!」
相手の機嫌を伺うような返答に対してますます低い声で答える絵美。いや、明らかに不機嫌そうだろ・・・。クラレット気圧されてるんですけど・・・・。
「と、ところでこんな所で話し込んでていいのか?バイト大丈夫なのか?」
「・・・ああ!いっけなーい!!」
助け舟を出そうと慌てて話題を変える。するとバイト中だったことを思い出し大声を上げる。
「こんな所でサボっている場合じゃなかった!!チーフにも言霊使いの王子様にも怒られちゃう!!」
「・・・言霊使いの王子様?」
「それじゃあそんなわけで私行きますね!!・・・覚えてろ」
最後にクラレットに向かってぼそっと何か言った後、大急ぎで絵美は戻っていった。
「・・・最後に絵美はなんていったんだ?」
「さあ?声が小さいのと周りが五月蝿いのでよく聞き取れませんでした・・・」
肩をすくませて答えるクラレット。
「というか、言霊使いの王子様とは一体・・・まさかこの世界にもそんな異名を持つ使い手が!?無色にも『赤き手袋』のようなそんな使い手は・・・」
「いや、ないから。そんな物騒な集団」
真剣な目つきになるクラレットに対して冷静なツッコミを入れる。この世界でも悪い奴は確かにいるけど・・・。なんだそのファンタジーな名前は。「そうですか」と安心するのと同時にどこかガッカリしたようなクラレット。なんでやねん。
と、クラレットが思いついたようにこちらを見る。
「そういえばハヤト!私、見に行きたいものがあるのですが」
「・・・あれかい?」
「ハイ!」
「で家電製品が見てみたいと」
「ハイ!向こうの世界では見られないものを見るだけでも楽しいので」
「本当に好きなんだな。まあ気持ちはわかるけど」
目の前にあるオーディオプレイヤーを見て子供のようにはしゃぐクラレット。こうやってデパートに来ては向こうの世界にないものを見たりするのが好きなのだ。その様子はまるでお出かけしてはしゃぐ子供のようでなかなか微笑ましい。
「時にヒビノさんは、なぜ私に会うたびに不機嫌な表情を向けてくるのでしょうか?私、何か嫌われるようなことをしたでしょうか?」
カメラに目を向けながらクラレットが尋ねてくる。
「思えば初対面の時からあんな態度を取っているのだと思うのですが、どう思います?」
カメラから視線を外して不思議でしょうがないといった感じでこちらを見ている。
「うーん・・・どうなんだかなぁ・・・普段のあいつは誰とも気軽に付き合うようなタイプだからあんなふうに敵対心向ける奴じゃないんだけど・・・あ」
そういや今思い出した。他にもいたぞ、あんなふうな態度取った奴。
「そういえば、俺の昔の同級生で樋口綾って言うのがいたんだけどさ、彼女に対してもさっきのクラレットみたいな態度とってたな」
「ヒグチ・・アヤ?」
「うん、男女問わずのクラスの人気者でね、未だに好意持っている奴が他に告白してくる奴を辻斬りにするほどのモテモテの女子なんだ。俺の後輩も襲われたうちの一人ほら、カツヤっていただろ?覚えてる?」
「・・・ああ、そういえばそんな人いたかも・・・」
「そういえば樋口からよく休日の予定とか聞かれたり、わざわざ手作りのクッキー貰ったけっな。あれおいしかった・・・」
途端、なぜか背筋に寒いものを感じた。嫌な予感がしてクラレットを見た。
無表情だった。なんの感情も浮かんでなかった。そしてなぜかそれを見た瞬間俺の頭の中で警鐘がカンカンカンカン鳴っていた。
「・・・どういうことですか?」
「ク、クラレット?」
「随分、そのヒグチという人から慕われているようですね・・・」
能面のような表情のままこちらに近づくクラレット。なぜだろう、彼女の背後から猛吹雪のようなBGMがバックに流れてっているような来がするのは・・・・?ていうかやばいこわいこないで。クールになれクラレット。
「な、なんでそんな顔で俺に近づいて来るんだよクラレット!?俺と綾はただの同級生という間柄だよ!?クッキー貰ったりしただけの仲だよ?接点らしい接点は全くない・・・訳じゃないけど!?と、とりあえず落ち着け!?」
「わたしは落ち着いてますよハヤト。それはもう低温火傷しそうなくらいに」
そうだねそうだねかなり落ち着いているね!?それはもう羨ましい・・・くないか!俺も低温火傷しそうだよ?色々な意味で!?ふと、今のクラレットをみて雪の女王というフレーズが思いついた。どうでもいいわそんな事!!あれれーなぜだろう?なんだか青い部屋がちらちら見えてきたような・・・。
周りを見渡しても周りは見てみぬ振り、こちらに視線を合わせてくれようとはしない。この薄情者共!!!
ふと、テレビのコーナーを見てみるとなんだか見覚えのある人物の後姿が映った。
「ハヤト・・・黙ってないでなんとか・・・」
「ク、クラレット!!あれ、鳴上じゃないか!?」
必死の思いでテレビのコーナーの人物に向かって指を示す、クラレットが怪訝にその方向を見る。少しの間その状態が続いた後「ああ!」と気づいたように声をあげる。
「本当だ、ナルカミ君ですね・・・」
「あ、ああ!!だろ!?奇遇だよな!?」
わざとらしく大声をだして同意する。まだ油断は出来ないがクラレットの関心が向こうにいったようだ。
アイツには後で礼を言っておこう。何の事だか判らないだろうが。
「一体、何をしているんでしょうか?」
「そりゃあ、テレビを選んでるんじゃないか?」
なんとなく鳴上の背後の棚から様子を伺う。なんだかこうしていると不審者みたいだが。
「でも、なんだかあの大きい『てれび』の前で動こうとする様子がないのですが・・・それになんかキョロキョロしているのですが・・・周りを伺うみたいに」
クラレットの言うとおり、なんだかテレビを買いに来たというわりにはなんだか様子が変だった。さっきからじっと大きなテレビを見てばかりでその場から動こうとしない。と、そう思っているとポケットから携帯を取り出した。折りたたみ式の奴だ。
「・・・携帯でテレビの情報でも見ているのか?」
「え、あれってそんなこと出来るんですか?ただ連絡を取り合ったりするだけではなく?」
「ああ、クラレットには教えてなかったな。それも機会があれば・・・って駄目だ」
ネットが出来るプランを取ってないからあまりそういうのは使わせられない。特にそういうのをわかっていないクラレットは尚更だ。一ヶ月の支払いでン万円の請求なんて来たら洒落にもならない。
「何でですか?」
「お金的な問題で教えることは出来ません・・・・っと見終わったみたいだな」
後姿の鳴上は携帯をポケットにしまった後なぜか深呼吸をしてなぜかそのままそのままじっとしている。
「さっきからアイツは何をやっているんだ?」
「・・・なんだか、やけに緊張しているみたいですね。まるで覚悟を決めるように」
「覚悟?」
「気のせいでしょうか、何処と無く似ています。『あの世界』で魔王召喚の為の儀式を前にした私もあんな感じで心を落ち着けようとしていた・・・」
「・・・クラレット?」
いつの間に真剣な表情のクラレットが鳴上を見つめている。その様子はさっき俺に迫った時とは別の意味でただ事ではない様子を覗かせる。あの時のクラレットと鳴上が似ているだって?
「クラレット、それは一体どういう・・・」
「・・よし、行くぞ!」
突然発した鳴上の声に俺とクラレットの視線が鳴上に向かう。何を思ったか、鳴上は右手をテレビの画面に向かって伸ばした。
「おいおい画面に触れてどうす・・え?」
次の瞬間、何が起こったのか理解するのに数秒は掛かったかと思う。
幻覚かと思った、何かの見間違いかと思った。だってそうだろう?普通は画面に手を触れても何も起こるはずなんて無いのだから。むしろ液晶部分が割れて店の商品として成り立たなくなる。どう弁償してくれんだとかそういう話になるはずだろう?
では、いったい目の前で起こっている現象はなんなんだ?俺の常識には無いぞ?勿論テレビにそんな機能があるなんて聞いたことも無い。だからありえるはずが無いはずなんだ。だがじゃああれはなんなんだ?
何で・・・“鳴上の体がテレビに吸い込まれるようにして消えていったんだ?”
「え、え!今、何が起こったんですか!?」
クラレットが訳も判らず興奮気味に騒いでいる。そして先ほどまで鳴上が立っていた場所まで走って駆け寄る。
「す、すごいですね!『てれび』というのは人間が中に入ってしまうことも出来るのですか!あ、こうやって『てれび』のなかに映っている人は私たちに色々なものを見せているんですね!?」
何か騒いでいるような気がするが、今のクラレットの声は遠くの世界の出来事のように遠く感じられた。それよりも目の前で起こったことを受け入れる事に精一杯だったから。
呆然とした足取りで鳴上が入ったテレビに向かって近づく。その途中でエコバッグの持ち手を握る力が無意識のうちに抜けてしまい、『ドサッ』という嫌な音が響く。
「ちょっ、ちょっとハヤト!?買い物したものが入ってるんですよ!?なにをやってるんですか!?」
クラレットが騒いでいるが俺の耳にはいってこない。
「これは・・・なんでテレビが・・・一体・・・?」
そのテレビの前に立ち、鳴上がしたように画面に向かって手を伸ばす。
「ハ、ハヤト?」
その様子になにか不吉なものを感じ取ったのだろうか。俺の元に近づきながらクラレットが心配そうな声で話しかけてくる。俺の手は今にも画面に触れ・・・
ることはなかった。
「!?」
「ハ、ハヤト!?」
俺の手が触れているところからはまるで波紋のように画面に広がり、指先が若干画面に“入り込んでいた”のだ。
「まさか、入れるのか?」
「あの、人が来たんですけど」
びくっとなって周りを見渡す。後ろから従業員がこちらに向かってきているのだ。こ、こんな状況見せられないよ!
「クラレット!!」
「え?」
とっさにクラレットの手を掴み、テレビの中に飛び込むようにダイブする。クラレットの身体も画面に突き刺さることなくテレビの中に吸い込まれるように入っていった。
それが、俺とクラレットの初めての『テレビの世界』突入だった。
選べハヤト。メギドラオンでございますか、シャドウ完二のステージに突・入か。
爆発しろ。