バトルスピリッツ激震の勇者   作:ブラスト

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第15話『刀の覇王出陣!猛攻のアシュライガー!』

「俺のスピリットと踊りな!皇牙獣キンタローグベアーでアタック!」

 

威風堂々とした少年の攻撃宣言、それを合図に斧を担ぎ鎧を取りつけた熊のようなスピリット、皇牙獣キンタローグベアーは肩に担いでいた斧を両手で構えて飛び上がると、その斧を軽々と振り回しまるで大槌のように振り下ろす。展開されるバリアでさえも勢いは殺せず、紙切れの如くバリアは簡単に破壊され、残り一つのライフが砕かれる。

 

 

 

*

 

 

 

 

対戦を終えた少年、テガマルに観客達の視線が一斉に向く。

2、3秒の沈黙後、バトルがよほどだったのか観客達は揃いも揃って一気に歓声を上げる。

 

 

「押忍!さっすがテガマル兄ぃ!今日も格好良かったぜ」

 

「お疲れ」

 

観客達の最前線にいるコブシとチヒロ。チヒロから投げ渡された牛乳パックを手に、勝利の記念とでも言ったように一気にそれを飲み干す。

 

 

 

 

「あれが棚志テガマル……かなりの実力者だぜ」

 

観客達に紛れ、試合を見学していた和人達はそのカードバトラーの実力に驚きつつも興奮していた。バーストの駆け引き、戦略、全てにおいてパーフェクトなテガマルのプレイに次第に惹きつけられ、次に行うバトルにも真剣に注目している。

 

 

「……すごい」

 

ふとボソッと呟く川村の声、隣を向けばキラキラと輝いた目で川村もバトルに注目していた。だが、注目しているのはテガマルではなく、その取り巻きであるチヒロと言う少年のバトルを。

 

「川村?」

 

「…………」

 

和人の呼びかけにも返事はない。それに対し和人は大きく息を吸って──。

 

「か・わ・む・ら!!!」

 

「!?、な、何!?どうしたの?」

 

「何って、さっきから何かボッーとしてるからさ」

 

「べ、別に何でもない!」

 

「そうは見えないけど、ってまぁいいや。それよりテガマル達のバトルは見ないのかよ?」

 

「ちゃ、ちゃんと見てるよ。誰のバトル見ても勉強になるからね」

 

「ふ~ん、まぁ確かにテガマルって人だけじゃなくあのコブシやチヒロって人も強そうだけどな。ぜひ俺もバトルしたいぜ」

 

 

 

「あぁ!テガマルは確かに強いぜ。俺も戦ったけど、一回負けちゃったしな」

 

その話を聞いていたのか、ハジメは過去に自分が戦いそして負けてしまったことを思い返していた。ハジメが負けるほどの相手と聞いて和人は尚更テガマルと戦いたいという思いを強くさせるのだった。

 

『今日は来客が多いみたいだな』

 

バトルを終えた様子のテガマル組三名は牛乳パックを呑みながら、こちらに歩み寄ってくる。

 

「おっす!テガマル!」

 

「ハチマキ」

 

「またその呼び名かよ……」

 

ハジメの挨拶にハチマキと返すテガマル。和人達から見ても、二人はある程度知り合いなのは理解できる。ハチマキと呼ばれ少し残念そうな顔をしているハジメを無視し、和人達の方を向く。

 

「見ない顔だが、ここに来るのは初めてか?」

 

そこへいつの間にか知恵が現れ、割って入るとテガマルに口添えをする。

 

『どうも初めまして、私、如月ミカの同級生村井知恵って言います。この子たちは若槻和人君に木野咲ちゃん、来道リクト君に川村劉君。今回私達はこの子たちの修行のためここに旅行って意味で来たの。本命はテガマル君のバトル見学って事で』

 

「なるほど、それなら見本になるよう戦いつくすのみです」

 

「ありがとうテガマル君」

 

一礼後、一休み終えたテガマル組三人はまたバトルに戻ろうとするが、その時「あのっ!」と川村が三人を引きとめ、三人ともピタリとその言葉に足を止まらせる。

 

「あ、あのもしかして……チヒロさんですよね?」

 

「?……そうだけど?」

 

「一度ここに来た事があるんですけど、チヒロさんのバトル見てずっと憧れてました。ぜひ一勝負お願いしてもいいですか?」

 

突然の勝負の申し込み。普段川村は挑むより挑まれる側の立場の筈。それなのに川村から勝負を挑む事は和人達を大いに動揺させたのだが、すぐに我に返り先を越されまいと和人も「それなら俺もバトルお願いします」と割って入る。

 

「なっ!和人はさっきバトルしただろ?」

 

「いいじゃねぇか、俺だってまだまだバトルしたいんだよ」

 

「一回バトルしたんだから少しぐらいは我慢してもらわないとね」

 

「嫌だ俺がバトル──」

 

瞬間、突然「ジャンケン」と口を開き、手を構える素振りを見せる。突然の事に和人はあたふたと動揺しながらも川村が手を出すタイミングに合わせて和人はグーを出す。

 

「はい、そっちグー。こっちパー、決まりだね」

 

「何でだぁ!?」

 

「男なら素直に負けを受け止めなよ。って事でチヒロさん、早速バトルお願いしま──」

 

「おっと川村、一人だけ抜け駆けはずるいぜ?俺もバトルしたいんだからよ」

 

和人と同じく割って入るリクト。リクトまで割り込んできた事に川村はとても不満そうに表情を苦くさせている。

 

「何で君まで割って入るのさ?」

 

「いいじゃないか?俺もさっきバトル見させてもらったけど、どうやら白使うみたいだし白同士のバトルしたくてな。こいつを試すのにもいい機会だし」

 

手に持っているのは覇王Xレアである魁の覇王。リクトの試すカードと言うのは恐らくこれと見て間違いないだろう。それを見て和人は「Xレアじゃん!!」と目を輝かせながら、リクトの手にある魁の覇王を注目していた。

 

 

「チヒロ、随分人気みたいだな」

 

「別にどうでも……バトルならだれでも構わないけどやるなら早くな」

 

冷静な様子のチヒロだが、あまり長々と待たせる訳にはいかないと踏んだのか。川村はリクトに和人と同じくジャンケンで決めると主張。リクトもそれを承諾し、その後二人はジャンケンホイという合図で互いにグー、チョキ、パーのいずれかを出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁチヒロさんでしたよね。ぜひ俺とバトルお願いします」

 

「よろしく、確かリクトって人だよな?」

 

「はい、先行は俺からで!」

 

結局バトルする事となったのはリクト。お互い準備を進め、専用の台座でバトルを開始する。だがその片隅で川村は「あの時、チョキを出してれば……」と後悔の念に囚われながら暗そうに呟き、和人も咲もただドンマイと慰めるしかなかった。

 

「ふん、随分と落ち込んでるな」

 

「あっ、テガマルさん。別に落ち込んでなんか」

 

川村の様子に見かねたのか、テガマルも川村の方へ歩み寄り、それに慌て、すぐさま平気な様子を取り繕い立ち上がる。

 

「チヒロの代わりと言っては何だが、俺とバトルしてみるか?」

 

「兄ぃ!?いいんですか?」

 

「構わん。折角の来客だ。どれ程の実力なのか見てみたい」

 

本来、棚志テガマルとバトルすることは並みのカードバトラー等では永遠にできない。正式に彼とバトルするには、テガマル組取り巻きである日下チヒロ、仁霧コブシを倒す事でようやくテガマルとバトルが可能になる。これが本来の形。和人達はそのルールを知らないが、コブシと同じく川村もそのルールを知っている様子で、テガマルの発言にコブシと同じぐらい驚いた表情を浮かべていた。しかし、テガマルとバトルできるという事はカードバトラーにとって一つの名誉でもある。川村はチャンスと考えたのか、表情を落ち着かせると口を開く。

 

「分かりました。テガマルさんの相手になれるなら光栄です。ぜひバトルお願いします」

 

『そういう事なら、バトルフィールド空いてるよ?』

 

ミカの言葉に、二人の答えは決まっていた。互いに専用の舞台へと移動するとデッキを握り閉めながら対戦相手を見る。

 

「「ゲートオープン解放!!」」

 

試合開始の引き金となる合図と共にバトルフィールドへと舞台を移し、互いの衣装に5つの光を灯らせた鎧、バトルフォームを纏う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「川村さんとテガマルさんのバトルかぁ~、僕たちテガマルさんが強いのは分かるけど、川村さんっていったいどんな実力なんだろう?」

 

「だよな?和人達は知ってるのか?」

 

「川村、あいつは強いぜ?終盤に掛けてのデッキ破壊で一気に相手の戦況を覆す。俺や咲も戦ったけど、負けちゃったし」

 

コウタやハジメの質問に、和人も過去のバトルを振り返っていた。「へぇ~」と川村の事を聞いて納得する様子のコウタとハジメ、だがその横で世界征服を目論むキマリは「手下に使える」と呟き、笑い声を洩らすのであった。

 

「ほぉ~、お前等の言う川村は中々の実力者だそうだな」

 

「あっ!コブシ!!」

 

ハジメが振り返った先にはコブシの姿があり、先程からハジメ達の会話を聞いていた様子だった。

 

「だが川村って奴がどんな実力であれ、兄ぃには敵わないさ」

 

「勝負はやってみなければわからない!」

 

「ふん、お前等は兄ぃの実力を知らないからそう言える。どんなカードでもつか買いこなすゴッドハンドの持ち主、兄ぃに勝てる奴は早々に居ない」

 

自信満々なコブシの発言。テガマルがそれなりの実力者なのは和人達にも理解できているが、それでも川村もまた実力者。そう簡単に負けるわけがないと心に言い聞かせながら、二人の戦いを見守る。

 

 

 

 

 

「お前、スピリットに愛はあるか?」

 

「勿論。精いっぱい自分のスピリットとこのバトルを行うだけです。先行はテガマルさんからどうぞ」

 

「ふん、分かった。では先手を取らせてもらうぞ!」

 

────第1ターン。

 

テガマル先行で開始されるバトル。第1ターン目はカキューソーを二体それぞれLv.1、Lv.2で呼び出してバーストセット。

 

 

 

 

────第2ターン。

 

続く川村のターン。バーストセット後リペアリングセーラスをLv.2で召喚し、そのままアタックステップへ。

 

「アタックステップ!リペアリングセーラスでアタック!アタック時効果でデッキを一枚破棄。さらにバーストセット中のアタックでコアを1つ、このスピリットに追加」

 

フィールドを掛けながらテガマルへと向かうリペアリングセーラス。これに対しテガマルは「ライフで受ける」と宣言。リペアリングセーラスはフィールドで待機中のカキューソー二体を無視し、そのまま回転を始めた頭部のドリルを叩きつけ、展開されたバリアをガリガリと削り、破壊する。

 

“パリーンッ!”

 

「…………」

 

リペアリングセーラスのアタックによりライフが砕け、テガマルのライフは残り4つとなる。本来ライフ減少は攻撃スピリットによって異なるもプレイヤーにとってそれ相応の苦痛が伴う。しかしテガマルはそれにも関わらず、まるで痛みその物がないかのように表情一つ変えず、ゲーム開始直後から腕を組んで仁王立ちの体制のままだった。和人達は後に知った事なのだが、ライフを砕けても吹っ飛ばされないそんな彼の事を仁王立ちのテガマルと呼んでいるらしい。

 

「さすが仁王立ちのテガマル、噂で聞いていたとおりです」

 

「ふん、続けるぞ」

 

 

 

 

────第3ターン。

 

スタートステップ後、コアステップ、ドローステップを行い、コアは6個。手札は3枚。そして続くメインステップ。

 

「俺のターン!ノデッポ来い!そしてカキューソーをLv.2にアップ。アタックステップ!カキューソー、行け!」

 

アタックステップと共に攻撃宣言、カキューソーは俊敏な動きで川村へと接近。背中の体毛に炎が上がったかと思うと、飛び上がり宙に浮いた状態で回転を開始し、そのまま川村を守る様に展開されるバリアに炎の駒がぶつかり、ライフを砕かれる。

 

「ッ!」

ライフ5→4。

 

ライフが減らされ、痛みに表情が歪む。しかしそれでもこのライフ減少は今の川村にとって臨むべきものであった。

 

「ライフ減少でバースト発動!マジック、雷神轟招来!バースト効果発揮によりコスト1を指定し、指定したコストのスピリットすべてを破壊!」

 

川村のバックを雷が雷、神、轟、招、来の一文字ずつ形成し現れたかと思うと、空に雷雲が突如として現れ、雷雲より降り注がれし落雷が二体のカーキューソーへと直撃し、避ける事もままならずそのまま爆発を起こす。

 

「ターンエンドだ」

 

 

 

 

────第4ターン。

 

川村のターン、コアステップ、ドローステップ後、手札は4枚。コアは8個。

 

「メインステップ!バーストセット!さらに柱岩の海上都市を配置して、ツンドッグゴレムを召喚!」

 

 

・ツンドッグゴレム

召喚時効果、このターンの間自分の【粉砕】、【大粉砕】を持つ自分のスピリットがBPを比べ破壊された時、疲労状態でフィールドに残す。

 

粉砕を持つツンドッグゴレム。召喚されると同時にネクサスの効果で自動的にテガマルのデッキを二枚破棄し、その後発動される召喚時効果。テガマルはその瞬間を見逃さず、ギラリと目を輝かせた。

 

「バースト貰った!」

 

「召喚時効果発揮後のバースト!?」

 

その宣言と共にオープンされるバーストカード。テガマルの手に収まったそのカードは爆裂十文字。

 

「マジック!爆裂十文字!!バースト効果発揮によりBP6000以下のスピリットと相手ネクサスを一つずつ破壊!即ち、リペアリングセーラスとそのネクサスを破壊する!」

 

オープンされた爆裂十文字の効果が発揮され、今度は炎が爆裂十文字の5字を形成。そして十字架の炎が出現し、リペアリングセーラスと柱岩の海上都市を貫き、破壊する。バーストによるカウンターはさすがに川村にとって痛手となり、悔しそうに拳を握りしめる。

 

「まだまだ!ロックゴレムをLv.2で召喚。そしてアタックステップ!ロックゴレム行け!」

 

攻撃宣言。それを聞いたロックゴレムは唸りと共に岩で構成された両腕を天に掲げ、大きく足音を鳴らしながらフィールドを掛けていく。

 

「粉砕の効果!相手デッキを二枚破棄!そしてメインアタック!」

 

「ライフだ」

 

展開されるバリア。しかし振り下ろされた両腕により、それはあえなく破壊され、テガマルのライフを砕き、残り3にまで追い詰める。

 

「ターンエンド」

 

 

 

 

────第5ターン。

 

テガマル、手札3枚。コア8個

 

「メインステップ!バーストセット!そしてヒノシシを召喚。召喚時効果発揮でトラッシュにあるカキューソーを手札に!」

 

赤いルビーが砕け、炎の渦を巻き上げながら出現する猪のようなスピリット、ヒノシシ。出現と共にその召喚時効果が発揮され、トラッシュに送られたカキューソーがテガマルの元へと舞い戻る。

 

「その召喚時効果貰います!相手のこのスピリット召喚時効果発揮後でバースト!」

 

オープンされ、川村の手に収まったバーストカードは、切り札的存在でもある鉄の覇王サイゴードゴレム。

 

「バースト効果発揮によりヒノシシのコスト分、よって3枚デッキを破棄!その中にバーストカードがあればこのスピリットを召喚!」

 

テガマルのデッキから3枚のカードがトラッシュに送られ、その内の一枚にはバーストの効果を持つカード、絶甲氷盾が……。

 

「バースト効果を持つカードの破棄によりこのスピリットを召喚!打ち砕け、ぶち壊せ!強靭な覇王(ヒーロー)よ!鉄の覇王サイゴードゴレム!爆砕召喚!」

 

維持コスト1をロックゴレムをLv.1にして確保し、サイゴードゴレムをフィールドに呼び出すと転送されるかのように光の中から姿を現し、目を輝かせながら強靭な腕を構える。

 

「覇王Xレアか」

 

「トリガーを引いて貰って礼を言いますよ」

 

「そうか。だがまだ俺のターンを続けさせてもらうぞ。アタックステップ!ノデッポ行け!さらにフラッシュタイミング!」

 

「!?」

 

「マジック、天翔龍刃覇を使用!BP6000以下のスピリット、即ちサイゴードゴレムだ!」

 

一旦フィールドの橋をよじ登り、飛び上がって風にその身を任せ、川村へと向かうノデッポ。そして発動された天翔龍刃覇により、フィールドから火柱が噴き上げ、噴き上げたそれはまるで蛇のような動きでサイゴードゴレムに向かい、ノデッポがサイゴードゴレムの頭上を越えた瞬間、火柱がサイゴードゴレムに直撃!マグマの様な炎が鉄の装甲を焼き尽くし、大爆発を起こす。

 

「そんな!!ぐっ……ノデッポはツンドッグゴレムでブロック!」

 

爆風の隣に待機するツンドッグゴレムは、爆風に吹き飛ばされる事無く上空にホバリングするノデッポを睨み、背中に装備されたレーザー砲の銃口を向けた瞬間、狙いを定めて放ち、ノデッポの銃口の様な尾が川村へと向けられる前に、そのレーザーの餌食となって破壊される。

 

「待ってたぜ、この瞬間を!!相手による自分のスピリットでバースト発動!」

 

「!」

 

「マジック、双光気弾!デッキから2枚のカードをドロー」

 

発動されたバーストカード、花火のような炎が双、光、気、弾の文字を浮かび上がらせ、マジックのバースト効果によりデッキから二枚のカードをドローする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「川村がここまで追い詰められるなんて……」

 

モニターを見ていた和人達は、バトルの様に唖然とするばかりだった。自分達の中で一番の実力者である川村。だが今の状況に関しては誰の目から見てもテガマルの優勢。これ程分かり易く実力の差が出るとは和人達にとって全く予想できないものだった。

 

「兄ぃがそう簡単に負ける訳がないのさ。なんたってゴッドハンドの持ち主だからな」

 

「勝負はまだまだだ。川村もそう簡単に負けるはずがない!」

 

和人にしてみれば自分を負かした相手が簡単に負けては、本人と同じ、嫌、それ以上に悔しい思いに駆られる。何が何でも川村に頑張れと応援しながら、勝利を願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────第6ターン。

 

「スタートステップ、コアステップ……ドローステップ!」

川村のターン、コア9個、手札2枚。

 

バトルの流れは完全にテガマルに向いている。この状況を打破するためにもドローするカードが重要となる。ドローステップを迎え、そのカードを見た瞬間、川村の表情が揺らいだ。

 

「?」

 

「(まさかこのカードが来てくれるなんてね……)」

 

表情を和らげながらじっとそのスピリットを見つめ、テガマルの方に向き直る。

 

「何が来たかは知らんが、この勝負の山は動きそうだな」

 

「行くよ、始まりのキーカード!毒牙強襲、戦慄の猛者!天蠍神騎スコルスピアを召喚!!」

 

川村が呼び出したるスピリットは、神の名を持つ12宮Xレアの内の一体、蠍座のスコルスピア。維持コストをスコルスピアの上に置くと、天空から降り注がれし流星が蠍座の形成していき、最後の流星が蠍座の最輝星に当たる個所に打ち込まれると、そこ罅が入ると、地面を突き破ってスコルスピアが出現する。

 

「スコルスピア……」

 

自分を睨みつけるスコルスピアに怯むことなく、自身もスコルスピアをじっと見つめる。だがスコルスピアの姿は脳裏に浮かぶ出来事を思い出させようとしていた。

 

「スコルスピア、久々に暴れるよ。アタックステップ!」

 

川村の言葉、それはスコルスピアも重々承知していた。これから来るであろう川村の攻撃宣言に、両爪の刃を構えながら。

 

 

 

 

 

 

 

「スコルスピアか……」

 

フィールドの外では、バトルで終えたであろうチヒロとリクト達は和人達に合流し、その最中、フィールドに映されるスコルスピアの姿にチヒロは小さく呟いた。

 

「あっ!リクト、勝負結果どうだったんだ?」

 

「俺の負けさ。魁の覇王を呼び出す前にやられたよ」

 

二人を見るなり和人の質問。苦笑するリクトの返答から勝負結果は、リクトの負けで決着したらしい。

 

「まっ、俺のバトルはともかく……川村もバトルしてるんだ」

 

「テガマルとバトルするなんて、中々面白そうな奴だな」

 

テガマルの対戦相手である川村を見、口元を緩ませながら呟く。そんなチヒロにコブシは自信満々な様子で口を開く。

 

「な~に、兄ぃが負ける訳ないさ。この勝負、勝ちは貰ったぜ」

 

「勝負はまだまだ波乱になりそうだけど?」

 

チヒロの言葉に全員モニターに注目し、一方のバトルでは、川村の攻撃合図と共にスコルスピアはフィールドを掛け、鋭い尾を展開されるバリアに突き刺しライフを残り2に追い詰める。

 

「ターンエンド」

 

 

 

 

 

 

 

 

────第7ターン。

 

テガマルのターン。

コアは10個、手札は4枚となり、続くメインステップ。

 

「バーストセット。そしてカキューソーを二体Lv.1、Lv.2で召喚し、ヒノシシをLv.3にアップ。そしてマジック、双翼乱舞を使用、効果によりデッキから二枚ドロー。そしてアタックステップ!ヒノシシ、衝突猛進だ!」

 

「ライフで受ける!」

 

前足で地面を蹴り、駆け出す素振りを見せ、そして鳴き声を上げながら川村へと向かい、二本の牙をフィールドに叩きつけ川村のライフを砕く。

 

「ッ!」

残りライフ4→3。

 

「ターンエンドだ」

 

 

 

 

 

 

 

────第8ターン。

 

川村のターン。

コアは11個。手札は2枚。

 

「ここまで見る限り、お前中々やるな」

 

「お世辞でもうれしいです」

 

「俺は世辞は言わん。思ったことを正直に言うだけだ。さすがに実力者だけの事はある」

 

「そう言っていただけるのは嬉しいです。弱いままじゃいられない。早く強くならないといけませんから」

 

川村の言葉に不思議に思う和人達、だがそれに構わず目付きを変え、メインステップを迎える。

 

「ランマーゴレム召喚!そしてマジック!ハンドリバースを使用!」

 

前にリクトとのバトルでも使った一枚。手札0の現状からこのマジックの使用は川村にとって最善の一手となり、不足コスト確保により、ロックゴレムとツンドッグゴレムからコアを全て外し、維持コストを失くした二体は光となってその場から消滅する。

 

「マジックの効果により相手の同じ枚数。よって3枚ドロー!」

 

三枚のカードを手札に加え、チャンスを掴み、テガマル優勢の流れは徐々に変わりつつあった。

 

「まだまだ行きますよ!バーストセット!そしてレチクルアームズをスコルスピアに直接合体!」

 

手札から呼び出されしレチクルアームズは空中で出現すると共に、その形状を銃のスコープの様に変化させスコルスピアに装着し、合体(ブレイヴ)スピリットとなる。

 

「まずはレチクルアームズの召喚時効果で相手デッキを三枚破棄!」

 

「その効果貰うぞ!バースト発動!」

 

「!?」

 

レチクルアームズによりデッキから3枚のカードが吹き飛ぶが、その召喚時効果はまたしてもバーストのトリガーを引き、オープンされたバーストカードは爆覇炎神剣。そのバースト効果発揮によりデッキから1枚ドロー後、ランマーゴレムが地面から突き出た炎の刃によって破壊される。

 

「くっ!」

 

ただスピリットを破壊されただけでなくランマーゴレムも破壊され、レチクルアームズの召喚は敵に塩を送る形となってしまい、悔しそうに拳を握りしめるも、気合を入れ直し視界をフィールドに戻す。

 

「簡単に負けてられない!ランマーゴレムを再度召喚!そして合体スピリットをレベル2にアップ!そしてアタックステップ!合体スピリット、行け!そしてスコルスピアLv.2、3アタック時効果発揮、このスピリットのコスト以下の合体していない相手スピリットを一体破壊!破壊対象はヒノシシ!」

 

合体したレチクルアームズのスコープでヒノシシに狙いを定めたかと思うと、後方の尾をヒノシシに突き刺し、叫びを上げるヒノシシに構わず、そのまま空中に放り捨てヒノシシは消滅。さらにそれだけでなくレチクルアームズとの合体によって【粉砕】を得たスコルスピア。アタックによりテガマルのデッキを二枚破棄し、その後のメインアタックをテガマルはライフで受けると宣言し、ライフを残り1つにまで追い詰める。

 

「後一つ、必ずそれも貰いますよ。ターンエンド」

 

「ふん、やってみろ」

 

 

 

 

 

 

 

────第9ターン。

 

「メインステップ!」

 

テガマルのターン。

手札5枚。コア12個。

 

「バーストセット!そしてカキューソー一体をLv.2にして、行くぜ!」

 

テガマルが構える一枚、聞くまでもなく今までのヒノシシやカキューソー、ノデッポ等の小型スピリットと比較出来ないほどの大型スピリット。これから出るであろうそのスピリットは川村を警戒させた。

 

「牙を研げ、俺の覇王(ヒーロー)。皇牙獣キンタローグベアー!Lv.2でスタンバイ!」

 

一回り大きなルビーの出現。そしてそれは砕けると共に火柱を降り注ぎ、その炎の中から足音を鳴らしながらゆっくりと姿を現すスピリット、皇牙獣キンタローグベアー。背中の車輪を回転させながら雄叫びを上げ、身に纏う炎を振り払う。

 

「召喚時効果発動!BP4000以下のスピリット、よってランマーゴレムを破壊!」

 

再び背中の車輪を回しながら咆哮を上げ、キンタローグから放たれた熱風に吹き飛ばされランマーゴレムは消滅する。

 

「こっちのフィールドをがら空きにするために、キンタローグを呼び出した訳か」

 

「ふっ……アタックステップ!皇牙獣キンタローグベアーでアタック!」

 

斧を構えフィールドを駆けていくキンタローグベアー。これで完全に流れを取り戻したかに見えたが、川村もまだ簡単に押し切られる訳にはいかなかった。

 

「相手のアタック後でバースト発動!」

 

発動されたバーストカード、コジロンドゴレムのカードを手に取る。

 

「バースト発動後、自分の場に【粉砕】、【大粉砕】を持つスピリットがいればこのスピリットを召喚!」

 

川村の場にはスコルスピアのみ。本来スコルスピアは粉砕を持たないスピリット、だがレチクルアームズとの合体によりこのスピリットは粉砕を得、これによりコジロンドゴレムが召喚可能となる。

 

「コジロンドゴレムをLv.3で召喚!そしてブロック!」

 

不足コストを合体スピリットをLv.1に下げて使用し、キンタローグベアーの頭上に出現するサファイア。そのサファイアに内側から一閃、さらに二度、三度と内側からの閃光にサファイアは砕け、そこからコジロンドゴレムが出現し、目を輝かせながらキンタローグの行く手に立ちふさがる。キンタローグベアーは目の前に立ちふさがる障害物(コジロンドゴレム)を叩き壊そうと斧を握りしめ、飛び掛って行くが、片手に持つ長刀で一閃。バットに打ち返されたボールの様に弾き飛ばされ、消滅してしまう。

 

「ターンエンドだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

────第10ターン。

 

「このターンで勝負を決めてみます」

 

「やれるものならやってみろ。だがこのターンがお前のラストターンになるだろう」

 

「分かってます。だから絶対このターンで勝利を収めて見せます」

 

川村のターン、コアは12個、手札は1枚。

 

 

 

 

「ふぅ~。絶対勝つ!メインステップ、バーストセット!そして合体スピリットをLv.3にアップして、アタックステップ!コジロンドゴレム行け!」

 

粉砕の効果でデッキから左舞のカードを破棄し、落ちたカードはレッサードラグサウルス、ヒノシシ、ノデッポの三枚のためLv.2、3の効果は不発に終わるがコジロンドゴレムのアタックは継続中。残り一つのライフを砕こうとテガマルに向かうも……。

 

「バースト貰ったぁ!!」

 

その宣言と共にオープンされるバーストカード。その発動されたバーストカードは、コジロンドゴレムと同じ発動条件を持ちながらにして、テガマルの切り札でもある刀の覇王、ムサシ―ドアシュライガー。

 

「しまった!」

 

「来たれ、研ぎ澄まされし刃と共に!刀の覇王ムサシードアシュライガー、Lv.2で剣参!」

 

突如炎の輪が出現したかとおもうと、そこからムサシードアシュライガーが姿を現し、地面に颯爽と舞い降りながら咆哮を上げる。

 

「このスピリットがバースト召喚されたターンの間、BP+3000。そしてブロックだ!」

 

Lv.2のBP8000から11000へと上昇し、二刀の刃を研ぎ澄ましながら向かってくる獲物を睨むムサシ―ド。コジロンドゴレムはそれに足を止めず、刃を構えながらなおもフィールドを駆け、行く手を遮るムサシードアシュライガーに長刀を横に振って一閃。だが瞬座に飛び上がったムサシードに、その攻撃は空を斬っただけに終わり、上空に飛び上がったムサシードは真下に居る獲物に二刀の刃を振い、それに気づいた頃には時既に遅く刃を振り下ろされ、コジロンドゴレムは爆発四散する。

 

「ムサシードアシュライガー!Lv.2、3バトル時効果発揮!このスピリットのバトル勝利時、相手ネクサス、又は相手の合体スピリットのブレイヴを一つ破壊。当然、お前のブレイヴだ!」

 

スコルスピアと合体しているレチクルアームズはスコルスピアから分離し、空中に上がるも次の瞬間、赤いオーラに包まれて大破し、レチクルアームズのパーツがばらばらと降り注いでくる。

 

「ぐっ!ターンエンド」

 

コジロンドゴレムの攻撃を阻まれた事によりこれ以上のアタックはもはや意味をなさない。やむを得ず、川村はこのターンをエンドするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────第11ターン。

 

テガマルの手札4枚、コア13個。

 

「お前のターンはもうない。これで決めて見せる」

 

「まだ諦めませんよ!最後まで!」

 

川村の言葉に口元を緩ませるも、テガマルはメインステップを進め、ムサシードアシュライガーをLv.3にし、アタックステップへ突入。

 

「ムサシードアシュライガーでアタック!そしてフラッシュタイミングで甲竜封絶波!ムサシードアシュライガーを回復!不足コストはカキューソー一体をレベルダウンして確保」

 

「ぐっ!攻撃はスコルスピアでブロック!」

 

「言った筈だ、お前のターンは来ないと!さらにフラッシュタイミングで爆覇炎神剣!不足コストは二体のカキューソーから確保、よってカキューソー一体を破壊」

 

「そんな!!」

 

二刀の刃を構えながら向かうアシュライガー、それに対しスコルスピアも両腕の刃を構えて迎え撃ち、刀と爪、二つの刃が“ガキイィィィィィン”とつばぜり合い、その後もガキィ、ガキィ、と何度も何度も刃がぶつかり合う。連続で木霊する斬撃音がフィールド全体に轟き、スコルスピアは一気に決めようと後方の尾をムサシードアシュライガーに突き刺す。だが、その尾は突き刺さる前に、牙によって喰いとめられ、アシュライガーは尾に牙を突き立てたままウィリーの様な体制となり、スコルスピアを持ち上げ、そのまま反回転で勢いを付けスコルスピアを投げ飛ばす。だが、ムサシードの猛攻はなおも止まらない。スコルスピアの落下地点へと一気に駆け抜け、スコルスピアが丁度落下してくるタイミングに合わせて二刀の刃を交差させて振い、スコルスピアを破壊する。

 

「スコルスピア!!」

 

「爆覇炎神剣の効果発揮、自分の覇王を持つスピリットが相手スピリットを破壊したので、そのスピリットのシンボル分、つまりお前のライフを一つ、リザーブに送る!」

 

傷心に浸る暇はない。爆風から飛び出したアシュライガーはそのまま炎を纏った刃を振い、展開されたバリアを叩き壊す。

 

「ぐあっ!」

 

ライフを減らされ、後ろに後ずさりしてしまう。だが、それでもなおムサシードの攻撃の手は終わっていなかった。

 

「アシュライガー、Lv.3の効果!このスピリットのアタックによって相手ライフを減らした時、さらにもう一つ相手ライフをリザーブに!」

 

残ったライフの内、一つが赤く変色したかと思うと、アシュライガーの効果によりそのライフが砕け、その衝撃に思わず後ろに弾き飛ばされる。しかしそれでもまだ川村は意地を見せ、ヨロヨロと立ち上がりライフ減少時による宣言をする。

 

「バースト発動!雷神轟招来!」

 

二枚目の雷神轟招来。そのバースト効果によりカキューソーが破壊されるも、もはや戦況を覆す事は出来なかった。

 

「嫌いじゃないぞ、最後の悪足掻き」

 

「ぐぅっ……ここまでですか、でも今度は絶対負けません」

 

「潔い覚悟だ。なら続けるぞ!ムサシードアシュライガー、斬れ!!」

 

“グオオオオオオォォォォォ────ッ!”

 

雄叫びをあげ、二刀の刃を掲げながら上空に飛び上がるアシュライガー。展開されるバリアに対しても、そのまま二刀の刃を交差させて切り裂く。

 

「うわああああああっ!!」

 

残り一つのライフが跡形もなく砕け散り、勝負は決着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっすが兄ぃ!!まさに敵なしの実力だ!」

 

「あぁ」

 

決着となり、祝杯と言った様に牛乳を飲み干す。

 

「さて対戦相手の川村ってやつだが、負けたのが悔しいのか何処かに行ったみたいです」

 

「そうか……チヒロもいないみたいだな」

 

「そう言えば!」

 

川村だけでなく先程までコブシの隣にいたはずのチヒロの姿もなく、あたふたと動揺しながら辺りを見回すコブシ。

 

「テガマルさんすごいバトルでした!俺、この街来てよかったです」

 

一方の和人達は、テガマルのバトルに感激したのか目をキラキラと輝かせていた。それいテガマルは口元を緩ませながら、口を開く。

 

「参考になったのなら何よりだ」

 

「俺、今度テガマルさんともバトルしてみたいです!」

 

その言葉に反応したコブシをテガマルは制止させ、和人と隣にいたハジメの方もちらりと向きながら視界を和人に戻す。

 

「時が来ればいつかバトルしてやる。その時まで成長し続けることだ」

 

行くぞ、という言葉と共にテガマルとコブシはその場から立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様、川村君」

 

知恵はベンチで休憩している川村に、水の入ったペットボトルを投げ渡しながら、自分も川村の隣に座る。

 

「知恵さん。ありがとうございます」

 

「どういたしまして、川村君。嫌、女の子だから川村ちゃんの方が良かったね」

 

「ち、知恵さん!!」

 

クスクス、と笑いながら川村の帽子を取り、川村は顔を赤くしながらも帽子をとり返し、深く被り直す。

 

「ごめんごめん。でも安心して、今はこの辺に誰もいないから」

 

「知りません!」

 

プイッ、と顔をそむけながら水を呑み、そんな川村の様子になおもクスクスと笑う知恵。

 

「さて、それはそうと川村君、一度ここに来た事あるって言ってたけど、あれってホント?」

 

「はい……私一度あの街に来た事あって、その時テガマルさん達のバトル拝見したんです。チヒロさんともその時にバトルしたんですけど、結局負けちゃいました。でもあの時のチヒロさんのプレイングがすごく良くて、バトルしているうちに私もこういう風に戦いたいって憧れてました」

 

「へぇ~、で?ちなみにその時の川村君の服装は男の子?女の子?」

 

「それ意地悪で聞いてます?」

 

なおもクスクス、と笑っている知恵を一瞥しつつも、当時は女の子の服装でここに来たと顔を赤く染めながらも主張し、どこからか一枚の絵を取り出す。

 

「あれ?それ、スコルスピア?」

 

「はい、私が初めて出会ったカード。このスピリットが好きで最初の頃はデッキ破壊よりもこのスピリットを主体としたデッキを使ってました」

 

「そうだったんだ」

 

「バトル終わった後、チヒロさんがスコルスピアのこの絵を書いてくれて、この絵はいまだに私の宝物でもあります。まぁでも、チヒロさんは覚えてくれてるかどうか、それに覚えていたとしても私今は男の恰好ですし」

 

「ふ~ん、随分チヒロ君の事好きみたいだね?」

 

「なっ!私別にそういう訳じゃ……」

 

「いいじゃない。川村君は女の子、チヒロ君は男の子。だから川村ちゃんがチヒロ君の事、好きになっても全然おかしくないんじゃない?」

 

「だからそういうんじゃないんですってば!」

 

「素直になったらいいのに、それに顔は正直だよ?」

 

「か、からかわないでください!」

 

赤く染まる表情を隠しながらそっぽを向く川村。知恵に言われ、今まで意識してなかったのだが胸に手を置くとドクン、と心臓の鼓動が速くなっているのを感じる。だが今まで恋愛に無知識の川村にとって、まだこれが恋という感情なのか定かではなかった。

 

『バトルお疲れ様』

 

そこへ背後から聞こえる声。思わずビクッ、と肩を震わせながらも恐る恐る振り返り、そこには日下チヒロの姿が……。

 

「ち、ち、チヒロさん!?」

 

突然の事に動揺し、思わずベンチから立ち上がってしまう。「そんなに驚かなくても」というチヒロの言葉も、動揺が大きい川村の耳には入ってこない。まともにチヒロと目線を合わせられず、知恵に助けを求めようとするが、いつの間にか知恵の姿は近くになく、遠くにあった物陰から頑張ってとVサインを送り去って行く知恵の姿が……。

 

「緊張してるのか?」

 

「そ、そんな事無いですよ!」

 

「まぁいいから落ち着けよ。俺はただ、いいバトルだったって言いに来ただけだし」

 

「は、はい。すぅ~はぁ~」

 

深く息を吸っては吐き、呼吸を整えて自分を落ち着かせ、冷静な表情を取り戻しつつあった。

 

「話を戻すけど、中々いいバトルだったよ。お前がテガマル組に来たら、面白い事になりそうだな」

 

「テガマル組に入るなんてありえないですよ、絶対ご迷惑になるでしょうし」

 

「ふふっ、お前面白い奴だな」

 

「そ、そんな事……!」

 

「まぁともかく、いいバトルだったよ。それにあの時のスコルスピアの絵はまだ持ってるか?」

 

「それなら持ってます……って、チヒロさん!?今なんて!?」

 

「……又いつかお前とバトルできたらいいな」

 

去り際の言葉。悠々とその場から立ち去りただ川村は茫然としているしかなかったが、しばらくしてふと我に返り、チヒロの言葉を思い返していた。

 

「(チヒロさん、私の事……覚えててくれたんだ)」

 

「お~い!川村!!」

 

振り替えると和人の姿があり、川村は表情を正常に戻しながら和人に向き直る。

 

「どうしたの?」

 

「嫌、お前の姿がないから心配になってきたんだよ。もしかして迷子にでもなってるんじゃないかって」

 

「迷子になる訳ないでしょ。君じゃないんだから」

 

「はは、まぁそうだよな。それより咲達のもとへ戻ろうぜ」

 

「ちょっと待っ────!」

 

強引に和人に手を引かれる川村だが、いつもの調子の和人にふっと笑みを浮かべ、二人は咲達の元に戻って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁミカさん私達はそろそろ……今回の旅行、本当にあの子たちのためになった。ここにきて正解だった」

 

「ふふ、知恵ちゃん、また来てね。いつでも歓迎するから」

 

「えぇ。また来れる時は連絡するね」

 

夕日は既に沈みかけてくる時間帯、旅行の目的も果たした知恵達はそろそろ帰ろうとバトスピショップを後にしようとしていた。いい思い出ができた和人達にとって、まだまだこの街に居たいという思いがありながらも、いつまでも留まる訳にはいかない。またいつか来ようと心に強く思いながら、バトスピショップを後にするのであった。

 

「川村君どうだった?チヒロ君との会話」

 

帰る最中、和人達に聞こえないほどの音量で川村に話しかけ、先程の事を思い返しているのか知恵を一瞥しつつも、すぐに表情を和らげる。

 

「色々ありましたけど、この思いは知恵さんの言うとおりだったみたいです」

 

「おっ、随分素直になったじゃない?」

 

「からかわないでください。でも……またいつかこの街に来た時、その時は躊躇わずこの思いを打ち明けてみようと思ってます」

 

「ふふっ、頑張ってね。その時が来るまで胸を踊らしてね」

 

「だからからかわないでくださいって」

 

「知恵さんも川村もさっきから何話してんだ?」

 

クスクスと笑う川村と知恵、それに和人はクエスチョンマークを浮かべるも、二人は声を合わせて「秘密だよ」と返答し、そのまま和人達は自分達の街へと帰って行くのであった。

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