テレビ本編最終回以降の後日談です。
見ていらっしゃらない方はわかりづらいことがあるかもしれませんので、ご了承下さい。
気温30度を越える7月のある日、菊池啓太郎は自身の経営するクリーニング店の配達用のバンのハンドルを切り、アパートの前に駐車した。
銀色のアタッシュケースを大事そうに抱えた少女・園田真理はバンに乗り込むと、ムッとするような車内の熱気に顔をしかめた。
思い出した、啓太郎は冷房を使用しない主義の人間だったのだ。
真理がスイッチを入れようとしても、体に悪いからと言って止める。
そう、啓太郎はかなりの変わり者なのだ。純粋すぎるというか、真面目すぎるというか・・・。
真理は呆れ顔で助手席のシートベルトを装着した。
「久しぶりだね、真理ちゃん」
啓太郎が屈託のない笑顔で言った。
啓太郎には、誰もが必ず心の中に持っている闇を感じない。それはまるで、洗い立ての、汚れ一つない真っ白な洗濯物のようだと、真理は思った。
「うん、もう5ヶ月ぶり、かな」
真理が独り暮らしを始めてから、二人が会うことはなかった。
真理は見習いとはいえど、本格的に美容師としての仕事をスタートさせ、クリーニング店のアルバイトは辞めた。
それに第一、啓太郎と二人きりで一つ屋根の下ってのは、ちょっと・・・。
あの男がいなくなったせいで、真理は独り暮らしを始めたのだった。
「美容師の仕事はどうなの?順調?」
啓太郎が車を発進させながら尋ねた。
2年前はただの雑用係だった真理も、今では客の髪を触るようにまでなっていた。
髪は一度切ってしまえば最後、元に戻すことはできない。しかも人様のものを扱うのだ、失敗は許されない。
そんな重圧に時々押し潰されそうになることを、真理は話した。
「それでもね、辞めようと思ったことはないんだ。だって美容師になることは、私の子供の頃からの夢だったんだもん。それに・・・」
真理は膝の上のアタッシュケースを強く抱き締め、目を閉じた。
「巧が守ってくれた夢だもん」
「やっぱり持ってきてくれたんだ」
啓太郎がケースをチラッと見て言った。わき見運転はしない主義である。
ああの男・乾巧が使用していたケースの中身・ファイズギアを、二人は巧の形見のように扱っていた。巧が大切そうにしているものが他に見当たらなかったということもあるが、二人とも、ファイズギアには巧との深い思い入れがあった。
元々、孤児だった真理は里親に引き取られ、16歳のある日まで九州に住んでいた。
しかしある日、東京で大企業・スマートブレインを経営している、「お父さん」と慕う男・花形からこれが届いた。
説明書を読んだ真理はその内容を信じることはできなかったが、花形がファイズギアを自分に送った真意を知るべく、これを持って東京へと旅立ったのである。
旅の途中で、真理は巧と出会った。
真理がケースを入れていた鞄を、自分が紛失したものと勘違いし、巧の方から接触してきたのである。
そしてそのとき、初めてファイズギアを狙うオルフェノクに襲われたのだった。
真理は疑っていたファイズギアを咄嗟に装着し、変身を試みた。
しかし、説明書通りの手順をこなしたにも関わらず、ファイズドライバーは真理を拒絶するかのように弾き飛ばした。
激痛に襲われて頭でも狂ったのか、何故あのようなことをしたのか、真理は今でも当時の自分が理解できない。
「物は試しよ!」
たまたま居合わせた見ず知らずの青年・巧に、半ば強引に真理はファイズドライバーを装着させていた。
真理のときとは違ってファイズドライバーは巧のを受け入れ、巧の体を赤く光るライン・フォトンストリームが走り、彼は超戦士ファイズへと姿を変えたのだった。
その後すぐに啓太郎と出会い、巧と真理は東京にある啓太郎のクリーニング店兼自宅に居候することになったのである。
スマートブレインに返却したり、木場に預けたり、オルフェノクに強奪されたりと、ファイズギアは何度も巧の手を離れては、必ず戻ってきた。
まるで三人を引き寄せたようなファイズギアを、真理は今でも大切に保管していたのである。
「さぁ、着いたよ」
しばらくして、二人は車を降りた。
そこは啓太郎のクリーニング店の近所の公園、かつて最後の戦いを終えた巧が、初めて夢を語った場所である。
二人は公園の隅に設置されたベンチの前で立ち止まった。
ここが、巧の最期の場所だった。
「平成VS昭和」では巧は生きていたように描かれていたようですが、私はずっと死んだものと解釈していて、映画公開前に書いていたこの小説を投稿するか迷っていたのですが、思いきって投稿させていただきました。
ディケイドで語られた通り、無数に広がるパラレルワールドの一つと考えてください。
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