機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-15「Faith」

 

 

 

 

 

 

 

《まずはこちらの写真をご覧いただきたい。これは過日、我がオーブの領土を侵犯し、我が軍の手によって殲滅されたモビルスーツの残骸である。その後の追跡調査により、この機体は、現在、ザフト軍が前線への配備を進めている最新鋭モビルスーツ、アッシュである事が判明した。更に、パイロットを含む全ての者達が、訓練を受けたザフトの隊員であった事も判明している。プラント政府は、ただちにこの事実に対して、明確な回答を行う事を要求する》

 

記者会見時における、オーブ政府軍代表カガリ・ユラ・アスハ氏のコメント

 

 

 

《先日のオーブ政府軍代表の言葉は事実無根であり、証拠写真とやらも捏造に過ぎない。プラント政府としては、そのような要求を受け入れる事はできず、また長年の友人であったオーブ政府から、このように恥知らずな発言をされるのは大変遺憾である。直ちに撤回と謝罪を要求する》

 

数日後、プラント最高評議会議長付き広報官からの回答

 

 

 

 これから数日の後、オーブ政府軍はプラント政府との国交破棄を宣言。両国は事実上の開戦状態へと突入した

 

 

 

 

 

 オーブ沖海戦の後、地球軍の追撃を振り切る事に成功したミネルバは、ようやくの事で、カーペンタリアの友軍と合流する事ができた。

 

 積極的自衛権の行使を謳い発動された、ザフト軍による大規模地球降下作戦「スピア・オブ・トワイライト」の結果、カーペンタリアとジブラルタルを包囲していた地球連合軍は、利我に非ずとして撤退。ミネルバは、余計な交戦をする事無く、カーペンタリアへと入港する事ができた。

 

 その後、ミネルバはただちにドッグ入りして損傷個所の修理がおこなわれ、戦線復帰のための準備が進められていた。

 

 母艦が修理中と言う事で、クルー達には特にする事が無い。

 

 そこで、オーブ沖での奮闘のボーナスという意味合いを含め、クルー達には休暇が言い渡されていた。

 

「それにしても、アンタさ、そんなに買っていつ使うのよ?」

 

 ルナマリアは並んで歩くメイリンが、両手に抱えている荷物を見て呆れ気味に言った。

 

 休暇、と言っても今は有事である。いつ何時、何があるか判らない以上、あまり遠くまで行く事は許されない。

 

 そこで、アリス、メイリン、ルナマリアの3人は基地のPX(薬局の意。総じて雑貨関連を打っている軍施設)で買い物をしたのだ。

 

 アリスとルナマリアは、片手に提げられる程度の物しか買っていないのに対し、メイリンは1人、両手いっぱいの買い物をしていた。

 

「だって、もうすぐ出港なんだよ。やっぱ今の内に買っておかないと」

「あ、そう、まあ良いけど」

 

 妹の欲ばり癖に、ルナマリアはどうでも良いと言った感じに答える。確かに、そんなに買いこんで、いったいメイリンが何に使うつもりなのか気になる所ではあった。

 

 何かと流行に気を使う妹と、実利優先の姉と言う構図が、見ていて面白い。

 

「ま、ルナはもうちょっと女の子っぽくしたら良いんじゃない?」

 

 そんなホーク姉妹のやり取りを見比べて、アリスは面白そうに言う。

 

 だが、

 

「「いや、それ、アリスにだけは言われたくない」」

「はうッ!?」

 

 ホーク姉妹の息の合った連携に逆襲され、思わずのけぞるアリス。

 

 確かに、言動の男っぽさや立ち居振る舞いを見れば、一番「女の子っぽく」ないのがアリスである事は明明白白である。

 

 1人落ち込んでいるアリスの事は放っておいて、ホーク姉妹は談笑しながらミネルバが収まっているドッグの方へと歩いていく。

 

 そこでふと、ルナマリアが足を止めた。

 

「あれ?」

「どうしたの、お姉ちゃん?」

 

 怪訝な表情でルナマリアを見るメイリン。

 

 その視線を辿って見ると、今まさにミネルバの格納庫に搬入されようとしている機体がある事に気付いた。

 

「何、あの機体?」

 

 どうやら復活したらしいアリスが追いついて来て尋ねるが、メイリンもルナマリアも答える事ができない。2人にとっても、初めて見る機体だった。

 

 目にも鮮やかなオレンジ色をしたその機体は、全体的にザクに似ているが、細部はだいぶ違う。ザクがゴツゴツとした印象があるのに対し、あの機体は、全体的に滑らかな外見をしている。

 

「ちょっと行ってみよう!!」

「そうねッ」

「あ、待ってよ2人とも~!!」

 

 駆けだすアリスとルナマリア。それに続いて、メイリンも重い荷物を抱えて後に続いた。

 

 近付いて見れば、ザクとの違いがより顕著に判る。

 

 ショルダーアーマーはザクの物よりも大型で、大きな棘が左右に突き出している。更に背部には、固定装備と思われる飛行ユニットが装備されていた。

 

 全体的には確かにザクと同系統の機体であるが、より洗練されたイメージが強かった。

 

「ZGMF-2000、通称『グフ・イグナイテッド』。ザクシリーズに続く、ニューミレニアムシリーズの新型機だそうだ」

 

 突然の声に振り返ると、いつの間に来たのか、アスランが同じように見上げて立っていた。

 

「隊長、あの機体が何なのか判るんですか?」

「俺もつい先日、資料を見たばかりだけどな。何でも、どこの隊にも、まだ配備されていない、先行試作機だそうだ」

 

 アスランの説明を聞き、もう一度グフのオレンジ色の装甲を見上げる。

 

 何にしても、こうして新たに強力な機体が搬入される事は、とても頼もしい事だった。

 

 その時、整備員の服を着た人物が、足早に掛けて来るのが見えた。

 

「ザラ隊長、こちらでしたか。艦長がお呼びです。至急、艦長室においで下さい」

「艦長が? 判った」

 

 訝りながらも、アスランは艦内へと足を向ける。

 

 グフは既に、格納庫のメンテナンスベッドに安置され、整備の為にクルー達が取りついてた。

 

 それを見届けると、アリス達もまた艦内に入って行った。

 

「でもさ・・・・・・」

 

 廊下を歩きながら、ルナマリアが不満げに口を開いた。

 

「な~んかがっかりだよね、オーブにはさ」

 

 その発言で、ルナマリアが何を言いたいか判った。

 

 オーブは先日、政府軍と反政府軍に別れて内戦状態に突入した。政府軍を率いているのが代表首長カガリ・ユラ・アスハであり、反政府軍を率いているのは、宰相のウナト・エマ・セイランである。

 

 情報によれば、現在の所、4対6で反政府軍が優勢であるらしい。

 

 だが、問題なのは、政府軍と反政府軍双方が、プラントに対し国交断絶を通告してきた事だった。

 

 反政府軍の方はまだ判る。彼等は元々、大西洋連邦と同盟を結んでいた訳だし、不愉快ではあるがプラントとの国交断絶は自然な流れである。

 

 だが、政府軍は違う。彼等のリーダーは親プラント派のカガリであったから、てっきりオーブ政府軍とプラントとの同盟関係は維持される物だとばかり思っていた。

 

 だが、現実にはオーブ政府軍は、「捏造された情報」を理由に、一方的にプラントとの国交断絶を通告してきた。

 

 正直、アリスもショックだった。

 

「あたし、アスハ代表の事、結構好きだったんだけどな~ ほんと幻滅」

 

 ルナマリアがぼやくように言う。

 

 その意見には、アリスも同じである。

 

 あのカガリが、なぜ? とも思う。あの別れ際に交わし合った握手と笑顔は、いったい何だったのか?

 

 正直、裏切られたとさえ思っていた。

 

 だが、それをおおっぴらに口に出す者は、少なくともミネルバにはいなかった。

 

 この艦のクルーは皆、アスランとカガリの関係を知っている。

 

 一番つらいのは、間違いなくアスランである。彼の事を思えばこそ、誰もがオーブの事は口をつぐんで話そうとしなかった。

 

 

 

 

 

 アスランが艦長室に入ると、そこには既に先客がいた。

 

 タリアと何事か話しこんでいたらしいその男性は、アスランの入室を確認すると振り返ると視線を送ってきた。

 

「失礼します。アスラン・ザラ、入ります」

 

 敬礼して室内に入るアスランを、タリアは笑顔で迎える。

 

「すまないわね、忙しい所を呼び出したりして」

「いえ、ちょうど休憩中でしたので」

 

 そう言うと、アスランもまた、タリアの前に立っている男性に目をやった。

 

 年齢的にはアスランよりも2~3歳年上だろうか。鋭い目をした鮮烈な印象のある青年である。

 

 だが、それでいて、決して剣呑さばかりが先行している訳ではない。口元に浮かべられた笑みからも、どこか鮮烈さと愛嬌を兼ね備えたような雰囲気を持っていた。

 

「紹介するわね、アスラン。彼はハイネ・ヴェステンフルス。本日付でミネルバの配属となったわ」

「では、あなたが・・・・・・」

 

 ハイネの名前は、アスランも聞き憶えがあった。

 

 前大戦から活躍しているエースの1人であり、そのカリスマ的な性格と言動から、ザフト軍内では信奉者が多い事で有名である。

 

 どうやら、先程のグフのパイロットは彼であるらしい。

 

「よろしく」

 

 ハイネは人好きしそうな笑みを浮かべると、アスランに向けて右手を差し出して来る

 

 こうして目の前に立って見ると、成程、確かに他の人間には無い、彼独自のキャラクター性のような物を感じる。

 

「ああ、こちらこそ」

 

 アスランもまた、ハイネの手を握り返す。

 

「アスラン・ザラ、だよな。噂は聞いているよ」

「どんな噂ですか?」

 

 アスランは苦笑する。

 

 何だか碌な噂じゃないような気がした。何しろ、戦果の多いアスランだが、同時に汚名もまた多い。特に前大戦の終盤、L4同盟軍に身を投じ、それが元で長らく降格処分を食らっていたのだから。

 

 だが、そんなアスランの懸念を察するように、ハイネは笑顔のまま言う。

 

「面白い奴だって事さ」

 

 そう言って、ハイネは気さくにアスランの肩を叩く。

 

 人心掌握の術を心得ており、更に厭味にならない態度。その上、卑屈になる訳でもなく、積極的に自分を押し出してくる性格。

 

 アスランは何となく、ハイネが皆から慕われる理由が判った気がした。

 

「今日来てもらったのは、預かって来た物があるからだ。お前と、艦長に」

 

 そう言うとハイネは、ポケットから掌よりも小さい小箱を2つ取り出して、机の上に置いた。

 

 ふたを開けると、それぞれに1個ずつ小さなバッジが収まっているのが見える。

 

「これは・・・・・・」

 

 声を上げるアスラン。羽根をあしらったような形の、そのバッジに見覚えがあったのだ。

 

 同様の物が、ハイネの軍服の胸にもつけられている。

 

「フェイス・バッジ。勿論、知ってるよな」

 

 そんなアスランの反応を可笑しがるように、ハイネは微笑しながら言った。

 

 Faith

 

 Fast Acting Integrate Tactical Headquartersの頭文字を繋いで付けられた名称であり、直訳の意味は「戦術統合即応本部」である。ザフト軍においては最高評議会議長直属の特務隊の事を指している。

 

 特務「隊」ではあるが、フェイスと認定された者が集まり、部隊を組んで行動する訳ではない。個人が高い技能を誇るザフトでは、そもそも集団での行動もさる事ながら、個人としての判断も重要視される。フェイスはその最たる存在であり、作戦行動時における独自の判断や行動、緊急時の指揮権掌握も許される。

 

 ただそれだけに、フェイスに任命される者には技術だけでなく、人格面においても高い信頼性を得る必要性があるのだが。

 

「1個は艦長の分、そしてもう1個はアスラン、お前のだ」

「え!?」

 

 その言葉に、アスランは驚きの声を上げる。

 

 アスランはかつて、フェイスだった事がある。前大戦の折、地球軍最強を誇ったシルフィードを撃墜した功績により、新型機動兵器ジャスティスと共に拝領した物だったのだが、その権限は降格時に剥奪されている。

 

 赤服には復帰したものの、フェイスに再認定される事は無いだろうと思っていたアスランだが、それだけにハイネの言葉は意外に思えたのだ。

 

「認められたって事だろ。気張れよ」

 

 そう言ってハイネ、笑みを浮かべながらアスランの背中を叩く。

 

 そこで、それまで黙って聞いていたタリアが口を開いた。

 

「でも、あなたと含めて、ミネルバ1隻に3人ものフェイスを置くなんて。議長は一体、何を考えているのかしら」

 

 確かにその通りだ、とアスランも思う。

 

 フェイスとはその特性上、独自の判断、行動も許されるとは先に書いたが、それは同時に独断先行の法的許容をも意味している。故に、フェイスが配属されるのは、1個部隊にせいぜい1人。その部隊の隊長が務める程度である。

 

 ミネルバ隊で言えば、モビルスーツ隊はアスランが指揮しているが、総隊長は艦長のタリアである。だからタリアがフェイス認定されるのは頷けるのだが、アスランや、ましてハイネまで配属される事の意味が分からなかった。

 

 最悪ミネルバは「船頭多くして船、山に登る」の典型的見本、というか実物大見本になりかねない。

 

「それについては、俺も何も聞いてないんですがね。ただまあ、あの議長殿の考えている事が分かる奴なんて、そう何人もいないでしょう」

 

 冗談めかして言うハイネの言葉に、タリアもアスランも苦笑して応じる。その意見に関しては、まったくの同意だったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステラ・ルーシェは海を見るのが好きである。

 

 日がな一日、海岸に座って海を眺めていれば、それで幸せだった。

 

 何とも安上がりな少女である。宇宙にいる間は、大好きな海を見る事ができなかったが、小さな魚を瓶に入れて眺めることで満足していた。

 

 ステラは今、空母ジョン・P・ジョーンズの甲板に座って、海を眺めていた。

 

 アメリカ独立戦争時代の私椋海賊船船長の名前から名付けられたこの空母は、現在、インド洋を南下するようにして航行していた。

 

 何でも、南の方にある「悪い奴ら」の基地を攻撃するんだとか。ステラはよく知らないけど。

 

 ステラにとって、目的はどうでも良いのだ。ただ、いっぱい悪い奴らを倒せばネオやラキヤが褒めてくれるし、スティングやアウルが喜ぶ。だからステラは頑張るだけだった。

 

 その時、

 

「おい、お譲ちゃん、こんなところで何してるんだい?」

 

 不意に、背後から見慣れない男性兵士から声をかけられた。たぶん、この艦のクルーか何かなのだろう。ステラは知らないが。

 

 どうやら、珍しく女性兵士が乗っているのを見た為、声をかけたらしい。

 

「海・・・・・・」

「あん?」

「見てたの。好きだから」

 

 素っ気ない感じで答えるステラ。

 

 そんなステラの態度に訝るが、兵士はすぐに気を取り直して、ステラの腕を掴んできた。

 

「まあ、良いや、ちょっと来いよ」

 

 見た目、10代中盤のステラを誘うあたり、この兵士は相当な好き物である事が伺える。

 

 一方、彼の連れの兵士は、相棒の様子をハラハラして眺めている。

 

「お、おい、よせ、そいつは・・・・・・」

 

 言いかけた時、

 

 背後から駆ける足音が近づき、いきなり、ステラの腕を掴んでいる兵士に肩車するように飛び乗る影があった。

 

「うわっ!?」

 

 とっさにステラの腕を放し、よろける兵士。

 

 その兵士のこめかみに、堅い銃口が押しつけられた。

 

「やめときなよォ 言っとくけど俺等、第81独立機動群だぜ」

 

 アウルは不敵な笑みと共に言った部隊名は、兵士たちを震え上がらせるのに十分だった。

 

「そいつもボーッとしてるみたいだけど、キレたら凄いぜェ」

「ファントムペイン!?」

 

 第81独立機動群ファントムペイン。その悪名は、地球軍内でも知れ渡っている。勝利の為ならば味方の犠牲もいとわず、どんな理不尽な命令をも許容される。彼らが通った後には、文字通り草木の1本も残らないとか。

 

 泡を食って駆け去っていく兵士たちを見送り、アウルはステラに歩み寄った。

 

「まだここにいんの?」

 

 少し、呆れ気味にアウルは尋ねる。

 

 ステラの海好きは知っているが、放っておくと本当に1日中動かない事もあるのだ。

 

「お呼びがかかったぜ、ネオから」

「えッ!?」

 

 嬉しそうに振り向くステラ。

 

 ネオが自分を呼んでいる。それはステラにとって何よりもうれしい事だった。

 

 跳ね起きると、今にも飛び出していきそうな勢いで歩き出すステラに、アウルも並んで一緒になって歩く。

 

「てことは、また戦争だねー。ま、俺等はそれが仕事だし」

「うんッ」

「今度は何機落とせるかなー?」

「うんッ」

 

 談笑しながら歩いていく、ステラとアウル。

 

 言っている事はこの上なく物騒であるが、2人の顔はとても楽しそうである。自分たちの会話がいかに違和感に満ち溢れてるかすら、彼らは気づいていない。

 

 それがエクステンデット。

 

 戦争をする為に作りだされた子供たちの、悲しき性であった。

 

 もっとも彼等は、自分たちが悲しいなどとは微塵も思ってはいないだろうが。

 

 

 

 

 

 艦長室を出た後、アスランはハイネを連れて艦内を巡っていた。

 

 戦艦であるミネルバは区画も複雑な構造をしている為、知らない人間が普通に歩いていたら迷ってしまう程だ。もし万が一、戦闘になった際に迷ってしまい、自分の部署に辿りつけなかったら笑い話にもならない。そこで、早く艦に慣れてもらう為に、ハイネを案内しているのだ。

 

「いろいろと大変だったんだってな、前の戦争が終わってから」

 

 並んで歩いていると、ハイネがそんな風に話しかけて来た。

 

 成程、と思う事がある。

 

 こうして話していると、ハイネは実に気さくであり、更に会話の内容も話題性に富んでいる。一緒にいて、とても楽しくなるのだ。

 

「ええ、まあ」

 

 アスランは曖昧に頷く。

 

 確かに、閑職で飼い殺しに近い扱いを受けていた為、それなりにきつい時期ではあったと思う。

 

 だが、今こうして、フェイス・バッジを再び胸に付けて歩いていると、逆に自分がこのような優遇を受けて良い物なのか、と悩んでしまう事もあった。

 

 閑職巡りから、一転しての赤服復帰、フェイス就任と、エリートコース街道。自分の人生はどれだけ極端なんだろう、と自問してしまう。

 

「ま、人生なんて物はそんなもんだろ。俺だって、今までいろいろあったし」

 

 その言葉を聞き、アスランは意外な顔付きになる。

 

 ハイネのように、傍から見れば開けっぴろげで、どこか達観しているような印象の人間でも挫折を経験した事がある、と言うのが、どうにも想像できなかったのだ。

 

 と、そこでハイネが声音を切り替えて口を開いた。

 

「聞いてるよ、オーブのお姫様との事」

「ッ!?」

 

 その言葉に、アスランは一瞬息を飲んだ。

 

 カガリが率いるオーブ政府軍が、プラントに対して宣戦布告を行った事は、無論、アスランも知っている。

 

 カガリの事だ。決して軽はずみな理由で決断した訳ではないだろうとは思っているが、それだけに、なぜこのような事態になってしまったのか、アスランにも測りかねているところであった。

 

「辛いよな」

 

 そんなアスランに、ハイネは諭すように話しかける。

 

「何にしても、あんまり溜め込むなよ。これからは一緒に戦って行くんだ。愚痴の聞き役くらいにはなってやれるからさ」

「はい、ありがとうございます」

 

 ハイネの気遣いに、笑顔で答えるアスラン。

 

 何だか少しだけ、気分が軽くなった気がした。

 

 そうしている内に、2人はレクレーションルームへと入った。中では何人かのクルーがくつろいでいるのが見える。

 

 入ってきた2人の存在に、すぐに気付いたのはレイだった。

 

 立ち上がって駆け寄ると、踵を揃えて敬礼する。

 

「レイ・ザ・バレルであります」

 

 すぐに他の者も、ハイネの存在に気付いて敬礼して来る。

 

 中にはアリスとルナマリアの姿もあった。どうやら荷物を部屋に置いて、寛いでいたらしい。

 

「ああ、『ブレイズザクファントム』か。宜しく、ハイネ・ヴェステンフルスだ」

 

 そう言うと、ハイネも敬礼を返す。

 

 どうやらハイネは、パイロットと機体名をセットにして憶えようとしているらしい。パイロットらしい記憶法だった。

 

「しかし、さすが最新鋭艦だけの事はあるな、ミネルバは。施設だけ見ても、ナスカ級とはえらい違いだ」

 

 周囲を見回しながら、ハイネは感心したように言う。

 

 ハイネの言いたい事は、アスランもすぐに理解できた。

 

 ナスカ級戦艦は先の大戦時に設計された事もあり、居住性やレクレーションルームと言ったメンタルケアの部分よりも、攻撃力や速力にと言った実利面に重点を置かれた設計が成されている。それらは戦後になって改善されつつある傾向にあるが、それでも居住性の悪さは否めなかった。

 

 それに対してミネルバは、平時の設計と言う事もあり、居住スペースは充分に取られ、クルーのメンタルケアにも配慮が成されていた。

 

「ヴェステンフルス隊長って、今までナスカ級にいたんですか?」

 

 興味を引かれたように尋ねたアリスだが、それに対してハイネは少し意外そうな顔をして返事を返した。

 

「ハイネで良いよ。そんな堅っ苦しい。ザフトのパイロットはそれが基本だろ? 君は、アリスだったな、インパルスの?」

「あ、はい・・・・・・そうですけど・・・・・・」

 

 答えながら、アリスは戸惑った視線をアスランに向けて来る。どう対応して良いのか測りかねている様子だ。

 

 無理も無い。いかに通常の軍隊のように所謂「階級」が存在しないザフト軍でも、部隊のリーダーの事は「隊長」、あるいは「艦長」などの役職で呼ぶ事が、なかば義務と化している。

 

 それ故に、アリス達もそれが常識だと思っていたのだ。だがハイネは、そんな堅苦しい事はいらないと言っている。彼女達が戸惑うのも無理は無かった。

 

 更にもう1つ問題がある。今まではアスランがモビルスーツ隊の隊長を務めて来たが、ハイネもまた隊長格として赴任している。今後は、どちらを隊長として呼べばいいのか判らなかった。

 

「あの、隊長・・・・・・」

「ヴェステンフルス隊長の方が先任だ、アリス」

 

 アリスの質問の意図を察したアスランは、先回りして答える。

 

 ハイネの方がアスランよりも年が上だし、降格処分を受けているアスランよりも先に隊長職に就任している。今後はハイネが指揮を取るべきだし、アスランにも、その事への不満は無かった。

 

 しかし、

 

「ハイネだ、アスラン」

「あ・・・・・・」

 

 笑顔で指摘されて、アスランはバツが悪そうにする。どうやらハイネは、本気でそのスタイルを貫くつもりらしい。

 

「あ、でも何? お前、隊長って呼ばれてんの?」

「まあ・・・・・・はい」

 

 正直、気まずかった。

 

 アスラン自身が、自分を隊長と呼ぶように命じた訳ではない。ただ、自然の流れでそう呼ばれるようになっただけなのだ。しかし、アスランとしても別に「隊長」と呼ばれる事に対して違和感は感じていなかっただけに、それを堅苦しいと言ったハイネの手前、どう応えるべきか迷ってしまった。

 

 そこへ、レイがさりげなくフォローに入った。

 

「戦闘指揮を取られますので、我々がそう・・・・・・」

「・・・・・・ふーん」

 

 ハイネは少し考えてから、口を開いた。

 

「いや、でもさ、それってどうよ? 俺達ザフトのモビルスーツパイロットは、戦場へ出ればみんな同じだろ? フェイスだろうが、赤服だろうが、緑服だろうが」

 

 ハイネの言葉は、居並ぶ皆に問い掛けるかのようだ。

 

 自分の意見を押しつけるのではなく、意見は意見として主張し、その上で皆の是非を聞いているのだ。

 

「命令通りにワァワァ群れなきゃ戦えない、地球軍の阿呆共とは違うだろ? だから、みんな同じで良いんだよ」

 

 成程、ハイネ・ヴェステンフルスと言う男は型破りな人物である事は間違いないらしい。

 

 しかし、決して束縛を嫌い、脊髄反射的な意味合いで反抗しようとしているのではない。その言動には、何処か彼独自の哲学めいた印象を受けた。

 

「あ、それとも何? 降格したからって、苛めてんのか?」

「い、いえ・・・・・・」

「そう言う訳じゃ・・・・・・」

 

 睨みつけるハイネに、ルナマリアとアリスが慌てて否定する。

 

「なら、隊長なんて呼ぶなよ。お前もお前だ、アスラン。何で名前で呼べって言わないの」

「は、はあ・・・・・・すみません」

 

 何でと言われても困るのだが。

 

 だが、言われてみれば確かに。個人の判断や行動が重要視されるザフト軍においては、隊長も部下も同列であるべきなのだ。

 

 だからこそ、通常の軍隊には無い柔軟な発想が可能となるの。ハイネは自らの経験を元に、その答に行きついたのだ。

 

 アスランは苦笑する。

 

 自分もあのようにやれたらいいのだが、気まじめ過ぎる性格ゆえか、どうにも上手くいかなかった。

 

「あの、隊長・・・・・・」

 

 話しかけようとするアリス。

 

 対して、アスランは苦笑し、

 

「『アスラン』だ。アリス」

 

 柔らかい口調で訂正する。

 

 呆気に取られるアリスに対し、微笑を向けるアスラン。

 

 すぐには無理かもしれない。しかし、少しずつでも変えていける物なら変えて行こう。

 

 そんな風に考え、先を歩くハイネを追い掛けて行った。

 

 

 

 

 

PHASE-15「Faith」     終わり

 

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