機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-21「剣、交錯する戦場」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフト軍と、地球連合軍がにらみ合うダーダネルス海峡の戦場に今、第3の勢力として、オーブ政府軍所属のアークエンジェルが参戦しようとしていた。

 

「イリュージョン、交戦を開始しいたしました」

 

 オペレーター席に座ったラクスから報告を受け、マリューはひとまずほっと息を撫でおろした。

 

 今ここで、セイラン軍に壊滅的な打撃を受けてもらったら、自分達がここまで来た意味が無かった。

 

 セイラン軍が壊滅する事は、相対的にオーブの戦力が弱くなる事なのだから。

 

 それ故に、ミネルバがタンホイザー発射態勢に入ったのを確認した時、先行していたシン達にとっさに止めるように指示を出したのだ。

 

 セイラン軍がスエズ派遣艦隊を出撃させた事を知ったオーブ政府軍も、アークエンジェルを旗艦とした戦力を出撃させるに至った。

 

 アークエンジェルは元々宇宙戦艦ではあるが、戦後に行った改装作業によりバラストタンクが増設され、潜水艦としての機能が付加されるに至っている。その為、前大戦時に比べると、遥かに優れた隠密性を持つに至っていた。

 

 オーブを出たアークエンジェルは、一路太平洋を北上してベーリング海峡を抜け、北海を経由してスカンジナビア王国に寄港していた。

 

 一見すると戦場である地中海を臨むのに、かなりの遠回りであるように思えるが、単艦で身軽に鼓動できるアークエンジェルに対し、スエズ派遣艦隊は小規模とはいえ艦隊で行動せねばならず、その動きは機敏とは言えない。加えてセイラン軍のスエズ派遣艦隊も、最短コースのインド洋経由では無く南米ホーン岬沖を通過し、喜望峰からインド洋を北上してスエズを目指すと言う遠回りコースを使う為、相対的には大差が無いと思われた。更に幸運な事に、スエズ派遣艦隊は喜望峰沖で嵐に遭遇して足止めを食らった為、寧ろ戦場にはアークエンジェルの方が早く到着したくらいである。

 

 スカンジナビア王国は先の条約締結により地球連合に組み込まれてはいたが、内情的には今でも親オーブ国家である。分けても王室は未だにアスハ家と親密な関係を保っており、カガリがしたためた親書を手渡すと、補給面で密かに支援してくれることを約束してくれた。

 

 だが、

 

 マリューは視線を戦場へと向ける。

 

 向かって右側にザフト軍、左側には地球連合軍。

 

 そしてアークエンジェルと、見事なまでに三つ巴の様相になっている。

 

 初めの奇襲攻撃でミネルバの攻撃は阻止できたが、ここからが正念場であると言えた。

 

 

 

 

 

 その頃、イリュージョンの攻撃によってタンホイザーを破壊されたミネルバは、そのまま推力を維持できなくなり、巨大な水しぶきを上げて、マルマラ海の海面に着水していた。

 

「タンホイザー大破!! FCS、ダウンしました!!」

 

 悲鳴のような報告が入る。

 

 ミネルバは完全に、奇襲を食らった形である。

 

「消火急げ! FCS再起動、ダメージコントロール班待機!!」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、タリアは苦い表情を作る。

 

 やられた。

 

 勿論、オーブ政府軍はプラントとは国交を断絶している為、攻撃を仕掛けて来たとしても何も不思議はない。しかしそれにしても、今ここで彼等が出て来たのは完全に予想外だった。

 

 加えて、

 

 タリアは自分の艦を攻撃した機体に目をやる。

 

 まさかのイリュージョンと来たものだ。

 

 前大戦時ザフトが開発した物を、クライン派が強奪し、その後、大戦を終結させるほどの活躍をした事は、今やザフトの中では伝説のように語り継がれている。

 

 アスハ代表の結婚式に乱入して、カガリを連れ去った事も噂で聞いていたが、その姿を、この目で確認する事になろうとは。

 

「か、艦長、どうすれば・・・・・・」

「黙って、今本艦は、一番弱い立場なのよ」

 

 アーサーの弱気な発言を、タリアはピシャリと言って黙らせた。

 

 幸いな事は、セイラン艦隊も突然のイリュージョン参戦により虚を突かれ、行動を止めている事くらいだろう。どうにか、今の内に体勢を立て直す必要があった。

 

「格納庫に連絡。ハイネ、レイ、ルナマリア機を、準備でき次第発進させて」

「は、はいッ」

 

 慌てて命令を伝達するアーサーを横目に見ながら、タリアは崩壊した作戦の再構成を始める。

 

 予定は大幅にくるってしまったが、ここから総力戦に移行していくしか手は無いだろう。現状は三つ巴になっている。この状況をどうにか利用して立ち回る必要がありそうだった。

 

 

 

 

 

 一方の対峙していたセイラン軍側でも、突然の事態に、ほぼ思考停止に近い状態に陥っていた。

 

 ユウナも、マカベも、そしてその他の幕僚達や兵士達も、揃って、上空に佇むイリュージョンの姿を眺めている。

 

「な、なぜ、こんな所にイリュージョンが?」

 

 幕僚の1人が、呆然と呟く。

 

 確かに、「なぜ?」と言うべきだろう。

 

 イリュージョンは政府軍の切り札である。あれがあるから、政府軍はセイラン軍と互角以上に戦って来る事ができたのだ。にも拘らず、その切り札を本国から遠く離れた戦場に投入する事の意図が判らなかった。

 

 彼等の脳裏には「自分達を護る為にカガリがイリュージョンを遣わした」と言う発想は、微塵も無かった。

 

 その時だった。

 

《ユウナ・ロマ・セイラン》

 

 突然、スクリーンから冷たい声が響いて来た。

 

 振り返れば、あの異様な仮面を付けた地球連合軍大佐の顔が映っていた。

 

《どうやら、我々はあなた方を買い被り過ぎていたようですな》

 

 ネオは、交渉の時とは打って変わって冷淡な口調で告げる。

 

《それだけの大軍でありながら、ミネルバ1隻も撃沈できず、おまけに本国からあのような余計な物まで引き連れて来るとは》

「あ・・・う・・・・・・」

 

 追求するようなネオの口調に、ユウナは何も言い返す事ができない。

 

 普段から自慢にしている外交手腕も、必要以上によく回る口も、彼の意思に反して全く動いてくれなかった。

 

《どうなのです? オーブ軍は、これからも我々の良きパートナーとして戦ってくれるのですか? それとも・・・・・・》

 

 ユウナの顔が引きつる。

 

 このままではまずい。ただでさえセイランは同盟の一件で地球軍から不信感を持たれている。それを解消するためにわざわざここまで来たと言うのに、このままでは、「セイランは同盟関係者として不適切」と言う烙印まで押されかねない。

 

 ユウナは顔を上げると、なけなしの勇気を振り絞って叫んだ。

 

「あ、あんな物が何だと言うんだ!!」

 

 その大声に、居並ぶ幕僚達が思わずユウナの顔を見る。

 

「あ、あんな物、た、たかが1機のモビルスーツじゃないかッ あ、ああ、あんな物は恐れるに足らずだ!!」

 

 どもりながらも、どうにか言い終えたのは流石と言うべきかもしれなかった。

 

 その言葉を聞き、ネオは仮面の下でニヤリと笑みを浮かべる。

 

《その言葉が聞きたかった》

「え?」

 

 顔を上げるユウナに、ネオは元の低姿勢に戻って告げる。

 

《さあ、共に戦いましょう。及ばずながら、我等も援護しますぞ》

 

 そう言うと、ネオは一方的に通信を切ってしまった。

 

 

 

 

 

 通信の切れたモニターを眺め、ラキヤは深々と溜息をついた。

 

 状況が再び動き出しており、オーブ軍のムラサメ隊もまた陣形の組み直しをしているが、

 

「だから言ったじゃないですか」

 

 肩を竦めてネオに言う。

 

「あんな連中、信用できないって」

「何の、まだまだこれからさ」

 

 尚もネオは、不敵な態度を示さない。

 

 確かに戦況は不利だが、オーブ軍が壁役になってくれたおかげで地球軍は未だに無傷である。おまけにイリュージョンの介入により、陽電子砲の一射で壊滅と言う事態も免れた。

 

 ザフト軍の勢いは削がれた。今が反撃のチャンスだった。

 

「モビルスーツ隊は直ちに発進。ザフト軍、並びにオーブ政府軍に対して攻撃を開始せよ!!」

 

 指示を出してから、ラキヤに向き直る。

 

「さて、俺達も出ようか」

 

 意気揚々と告げると、立ち上がって艦橋を後にする。

 

 それに続くラキヤ。

 

 ちょうど良い。オーブ軍ばかりが戦う状況に飽きていたところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は再開された。

 

 地球軍はJ・P・ジョーンズを始め、後方で待機していた艦隊から次々と艦載機が発艦して行く。

 

 それに伴いセイラン軍も、予備隊として保持していたムラサメ隊を戦線へと投入する。

 

 対するミネルバもまた、待機していたハイネのグフが発進し、レイとルナマリアのザクも甲板に上がって天を睨む。

 

 正に、総力戦の構えであった。

 

 特にミネルバは、タンホイザーの喪失により攻撃力の低下を来たしている。何としても戦線を死守する必要があった。

 

「やらせるかァァァァァァ!!」

 

 アリスは叫ぶと同時に、インパルスのビームサーベルを抜いて斬り込んで行く。

 

 光刃を振るう度に、ムラサメは切り裂かれ、撃墜されて行く。

 

 だが、敵の数は多い。

 

 どうやら地球連合軍も総力戦体制に移行したらしい事は、アリスにもわかった。ムラサメのみならず、ダガーLやウィンダムの姿まで見える。

 

 それに対してザフト側は、空戦用であるインパルス、セイバー、グフを繰り出して阻止に当たる構えを見せている。

 

 だが、敵の数が多い。いかに一騎当千のアリス達でも、果たして3機で敵を止められるか?

 

 だが、逡巡する暇も無く、地球軍の中から飛び出して来る機体がある。

 

 緑色の機体。カオスだ。

 

 モビルアーマー形態のカオスは、勢いよく飛び出すと、そのままハイネのグフへと向かって行く。

 

 タンホイザーを破壊され、墜落に近い形で着水したミネルバも、トリスタン、イゾルデ、CIWSを駆使して、敵機の接近を阻んでいる。

 

 その時、インパルスの足元、海面下に不気味によぎる影があった。

 

「クッ!?」

 

 直感に従い、機体を翻すアリス。

 

 次の瞬間、海面を割ってアビスが飛び出してきた。

 

「そーら、食らえェ!!」

 

 肩のアーマーに装備した3連装砲を一斉発射するアビス。

 

 対してインパルスも、回避と同時に振り返ってライフルを放つ。

 

 しかし、

 

「クッ!?」

 

 舌打ちするアリス。

 

 ビームは空しく、海面を叩くにとどまった。着弾する直前、アビスは再び海中に潜ってしまったのだ。

 

 水中に対する攻撃手段の無いインパルスでは、アビスを捕捉する事ができない。言わば、海その物がアビスにとってカーテンの役割をしているような物だ。

 

 再び飛び出して来て、インパルスを攻撃するアビス。

 

 それに対してアリスは、回避行動を取る以外の事ができないでいた。

 

《クッ アリス!!》

 

 苦戦するインパルスを見かねたのか、アスランのセイバーが援護に入ろうとする。

 

 だがその時、強烈な砲撃の嵐がセイバーの進路を遮ってきた。

 

「なッ!?」

 

 驚くアスラン。

 

 振り返るとそこには、セイバーに向かって来る3機のモビルスーツの姿が見えた。

 

「あれはッ!?」

 

 呻くアスラン。

 

 黒、赤、水色に染まったそれらの機体のシルエットには、それぞれ見覚えがあった。

 

 それは、前大戦時、アスランが介入したオーブ防衛戦において地球連合軍が投入した機体。恐らくは、その発展型だ。

 

「貴様の相手は俺達がしてやる。ありがたくくたばれ、赤いの!!」

 

 漆黒の機体を駆るベイルは、コックピットの中で勝ち誇ったように叫び声を発する。

 

 彼の駆る機体はGAT-X131「カラミティ」の後継機で、オーガカラミティと言う。同機の特徴だった砲撃戦武装の大半をオミットし、代わりに対艦刀シュベルトゲベールを2本装備した姿は、派生機である「ソードカラミティ」に酷似しているが、両腕は異様に太く、より接近戦に適した機体である事が窺える。

 

 その後方を飛翔するラーナが駆る機体は、GAT-X370「レイダー」の後継機で、ドレイクレイダー。大型化したヒートクローを装備し、更にエンジン出力を強化、モビルアーマー形態時の機動性と格闘性能を飛躍的に強化している。

 

 海面を這うように飛翔するのはGAT-X252「フォビドゥン」の後継機でガイストフォビドゥン、ジャックの機体である。外見や武装はオリジナルのフォビドゥンと変わらないが、ミラージュコロイド兵装をより強化した機体である。

 

 それら3機が、一斉にセイバーに襲い掛かった。

 

「そーら、くたばれェェェ!!」

 

 ベイルの叫びと共に、両腕のシュベルトゲベールを振り翳してセイバーに斬りかかるカラミティ。

 

 その攻撃をアスランは、とっさにセイバーを戦闘機形態に変形させてその場から飛び退く事で回避する。

 

 そのまま急旋回してカラミティへ向かおうとするセイバー。

 

 しかし、その上空から覆いかぶさるように、ラーナのレイダーが迫ってきた。

 

「ははッ 遅いんだよ!!」

 

 ヒートクローを掲げ、一気に急降下するレイダー。

 

 そのまま、セイバーへ体当たりを掛ける。

 

「クゥッ!?」

 

 バランスを崩し、錐揉みするセイバー。

 

 しかし、辛うじて海面に叩きつけられる前にバランスを取り戻す。

 

 そこへ、ジャックのフォビドゥンが迫って来る。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ジャックは無言。

 

 一気にセイバーに接近すると、フォビドゥンが持つニーズヘグを振り翳す。

 

 刃が走る一閃。

 

 しかしその一撃を、セイバーは後退して回避すると同時に、ビームライフルを抜き放ってフォビドゥンへ撃ちかける。

 

 だが、命中前にフォビドゥンはゲシュマイディッヒパンツァーを展開し、セイバーの攻撃を屈曲して回避した。

 

「そうか、こいつはッ!!」

 

 かつて対峙した時の事を思い出し、アスランは顔を顰める。フォビドゥンにこの手のビーム攻撃は通用しないのだ。

 

 仕方なく、ビームサーベルを抜いて斬り込むセイバー。

 

 だが、光刃が振り下ろされる直前、フォビドゥンの姿が視界から消えさった。

 

「なッ!?」

 

 目を剥くアスラン。

 

 しかし次の瞬間、フォビドゥンはセイバーのすぐ目の前に現れた。

 

 消えていたのは一瞬。しかしその一瞬の間が、アスランの目測と間合いを大きく狂わせた。

 

 フレスベルク誘導プラズマ砲を放つフォビドゥン。

 

 屈曲して追尾して来るビームを、セイバーはシールドを掲げて防ぐ。

 

 しかし、動きを止めた所で、上空からレイダーが迫って来ていた。

 

「動きが止まってるよォ!!」

 

 機体両脇に備えたヒートクローを伸ばし、セイバーを殴りつけた。

 

「クッ!?」

 

 大きく吹き飛ばされ、バランスを崩すセイバー。

 

 そこへ、カラミティが再び斬り込んで来る。

 

「そォら、くたばれモルモットォ!!」

 

 ベイルは言い放ちながら、カラミティのシュベルトゲベールを振り下ろす。

 

 迫る大剣の刃。

 

 しかし、間一髪のところで、アスランはセイバーを後退させてカラミティの攻撃を回避した。

 

「逃げるなァ この、モルモット風情がァ!!」

 

 罵り声を上げながら、更に告げ気しようとするベイル。

 

 対抗するようにアスランも、セイバーのビームサーベルを構えて斬りかかった。

 

 

 

 

 

 インパルスはアビスに、グフはカオスと、そして後からやってきたガイアに、そしてセイバーはカラミティ、フォビドゥン、レイダーに拘束されてしまっている。

 

 空戦用の機体が、全て敵のエース機に捉まって身動きできなくなってしまっている為、一時的にミネルバの上空ががら空きになっている。

 

 そこへ、セイラン軍のムラサメ隊が殺到してきた。

 

 翼を閃かせて急降下しながら、ミサイルを放って行くムラサメ。

 

 それに対してミネルバの対空砲や、甲板上に陣取るレイやルナマリアのザクが必死に応戦する。

 

 しかし、数が多すぎる。

 

 四方からミネルバを包囲し、飽和攻撃を仕掛けて来るムラサメ隊に対し、あまりにも防御砲火の手が少なすぎる。

 

 次々と放たれるミサイル。

 

 ある物は撃ち落とされ、ある物はロックが外れて海面に落ちる。

 

 しかし中には、ミネルバに命中して爆炎を引き起こす物もある。

 

 勿論、その程度ではミネルバの装甲はびくともしないが、このまま被害が積み重なれば、その内重大な損害を引き起こしかねない。

 

 防ぎ切れないか?

 

 タリアを始め、多くの者達がそう思った瞬間、

 

 出し抜けに飛来した閃光が、ミネルバに接近を試みていたムラサメを数機、一瞬にして翼を打ち抜いて撃墜した。

 

 驚いて、振り仰ぐミネルバクルーの一同。

 

 そこには、ビームライフルを構えてムラサメ隊を攻撃しているイリュージョンの姿があった。

 

「艦長ッ あれ!!」

「先にこっちのタンホイザーを撃っておいて・・・・・・」

 

 アーサーの慌てた言葉に、タリアは舌打ちする。

 

 どうやら「敵の敵は味方」と言う訳でもないらしい。

 

 だが、この状況はミネルバにとってはむしろ好都合ではある。この三つ巴の状況をうまく利用できれば、これ以上大きな損害を食らう事無く退避できるかもしれない。

 

 その頃、イリュージョンを駆るシンとマユは、機体をセイラン軍のまっただ中へと飛びこませていた。

 

「マユ、攻撃機動データを!!」

「そっちに転送したよ、お兄ちゃん!!」

 

 マユのオペレートが、シンのディスプレイに映し出される。

 

 攻撃予測は、正面のムラサメ3機を最優先にすべきとある。

 

 一気に加速。同時に、ティルフィングを抜き放つ。

 

 旋回する大剣の攻撃。

 

 その一撃により、ムラサメは腕を斬り落とされ、更に別の一機は首を飛ばされる。

 

 シンは更に、イリュージョンをムラサメ隊のただ中に突っ込ませると、片っぱしから叩き斬っていく。

 

 やはり、大破した機体は1機も無い。全てが、戦闘力を奪う攻撃に終始している。

 

 シンはこの段になっても、なるべく不殺を貫く事に心がけていた。

 

 それには、後席に乗っているマユの存在が大きい。

 

 マユに、できるだけ人殺しの手伝いはさせたくない。

 

 本来ならマユを今すぐにでもイリュージョンから降ろすべきなのは、シンにもわかっている。だが、仮に説得したとしてもまず、マユの方が聞き入れないだろう。加えて、イリュージョンが、と言うよりもシンがこれだけの戦闘力を発揮できるのはやはり、阿吽の呼吸を心得ているマユがいるからこそであると言える。

 

 それ故に、シンはあくまで不殺を貫く道を選んでいた。

 

 それがいかに困難で、そして欺瞞に満ちているかを知っていながら。

 

 しかし、その鮮やかな機体さばきなどは、タリアなどから見れば小憎らしいくらいである。

 

 あらゆる攻撃がイリュージョンを避けるように通過し、逆にイリュージョンは誰にも真似できないような機動で、片っぱしからムラサメを戦闘不能にして行く。

 

 その様子は、海底から戦況を覗っていたアビスからも確認できた。

 

「ヘヘ、面白そうなのがいるじゃん!!」

 

 アウルはイリュージョンを見据えると、良いオモチャを見付けたとばかりに笑みを浮かべる。同時に海中でアビスを加速。一気に海面に躍り出る。

 

 肩の3連装ビーム砲を展開し、6門一斉発射を掛けるアビス

 

 その奔流のような一撃は、間一髪で回避したイリュージョンを掠めて去っていく。

 

 対してイリュージョンも、反転しながらビームライフルを放つ。

 

 が、放たれたビームは、一瞬早く海面に飛び込んだアビスを捕捉するには至らない。

 

「へへーン、当たんないよ!!」

 

 アウルはせせら笑いながら、アビスを加速させる。

 

 相手がどんなに強かろうが、海中にいる限りアビスに手出しはできない。このままヒットアンドアウェイに徹して、背後から強襲してやるのだ。

 

 最強の機体を討ち取る。その昂揚感に、アウルのテンションは最高潮に達する。

 

 海中から、高速で飛び出すアビス。

 

 同時に、再び肩のビーム砲を展開し、攻撃態勢に移行する。

 

「そーら、くたばれェッ!! ・・・・・・・・・・・・あれ?」

 

 訝るアウル。

 

 彼の予定では、イリュージョンは海底から飛び出した彼の目の前に、間抜けな背中を晒している筈だった。

 

 だが今、彼の前の前にイリュージョンの姿は無い。

 

 イリュージョンがいるのは、アビスの・・・・・・

 

「うし・・・ろッ!?」

 

 気付いた瞬間、

 

 イリュージョンは構えたティルフィングを、フルスイングするように一閃、アビスの両脚を叩き斬ってしまった。

 

「ウワァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 完璧な奇襲を、完全にやり返されたアビス。

 

 マユがデュアルリンクシステムでアビスの出現位置を先読みし、シンはそこへ先回りして待ち伏せていたのだ。

 

 成す術も無く、水しぶきを上げて海面に落下するアビス。アビスの脚部は、モビルアーマー形態時の推進機の役割もある為、これでアビスの機動力は完全に封じられた事になる。

 

 アビスを戦闘不能に追い込んだシンとマユは、そのまま機体を反転させて、今度はアビスと対峙していたインパルスへと向かう。

 

「クッ この、そうそう好き勝手になんてやらせない!!」

 

 アリスは叫びながら、インパルスのビームライフルを撃ち、イリュージョンを迎え撃とうとする。

 

 しかし、当たらない。

 

 イリュージョンは巧みに海面付近を機動し、一気に間合いに入り込むと、腰のラケルタを抜き放つ。

 

《アリス、ごめん!!》

「えッ!?」

 

 一閃される刃。

 

 次の瞬間、インパルスの右腕は、保持したライフルごと斬り飛ばされてしまった。

 

 そのまま、背を向けて飛び去るイリュージョン。

 

「・・・・・・今の、もしかして、シン?」

 

 片腕を失ったインパルスの中で、イリュージョンの背中を呆然と見送る事しかできないアリス。

 

 だが、確かに聞いたあの声は、オーブでできた友達の声であったように思えた。

 

 

 

 

 

 J・P・ジョーンズを発艦したラキヤの目に飛び込んで来たのは、混沌とした戦場だった。

 

 目に付くのは殆どが、地球軍かセイラン軍の機体。

 

 しかし、戦況は必ずしも優勢とは言えない。

 

「どうにも、攻め手に誤ったんじゃないですか?」

《確かに、こいつは俺のミスかもな》

 

 呆れ気味に呟くラキヤの声に、おどけた調子のネオの声が返る。

 

 海峡上空と言う狭い空域に、100機以上の機体を展開してしまった為、数に置いて圧倒的に勝っている筈の味方の方が、却って身動きが取れなくなってしまっているのだ。

 

「これと言うのも・・・・・・」

 

 ラキヤのサングラス越しの目は、若干の苛立ちを込めて信濃へと向けられる。

 

 大軍を一度に投入すれば、こうなる事は判っていた筈だ。にも拘らず、あのセイラン軍の司令官殿は、「大軍を投入して一気にケリを付ける」と安直に考えて、手持ちの全部隊を投入してしまったのだろう。その結果、現出したのが、この混沌たる戦場である。

 

 だから、素人に出しゃばられたくなかったのだ。

 

 ネオの決定だったとはいえ、ラキヤはセイラン軍の不甲斐なさは、ハッキリ言って苛立たしいものであった。

 

 そのラキヤの目に、華麗に戦場を舞うように飛ぶイリュージョンの姿が見えた。

 

 強い。

 

 数機のウィンダムが、あっという間に戦闘力を失って海面に落下していくのが見えた。

 

 政府軍の機動戦力としては、事実上イリュージョン1機のみであると言うのに、大軍である地球軍の方がむしろ圧倒されている。

 

 もし、あれを止めるとすれば。

 

 ラキヤの目が、後方でオーブ艦隊に砲撃を仕掛けているアークエンジェルに向けられた。

 

 元を断つ。それに限るだろう。

 

「大佐、僕はあの艦をやります!!」

《おう、任せた!!》

 

 ラキヤが言い放つと、フルスロットルでアークエンジェルへと向かうストーム。

 

 その様子は、ウィンダム隊と対峙しているイリュージョンからも確認できた。

 

「アークエンジェルが!!」

 

 叫ぶシン。

 

 応援に向かおうにも、今、イリュージョンは10機以上のウィンダムに囲まれて、すぐには動ける状態にない。

 

 そんな中で、マユは通信回線を素早く操作して、待機している味方に呼びかけた。

 

「リリアさん、バルトフェルドさん、エストさん、敵がそっちに行きました。お願いします!!」

 

 マユからの通信を受け、アークエンジェル艦内でも動きが生じる。

 

 左右両舷のカタパルトデッキが開き、3機の機体が飛び出してきた。

 

 ムラサメとよく似たシルエットを持つ機体は、リリアが設計を担当したライキリである。

 

 操縦者はエスト、バルトフェルド、そして設計者であるリリア本人。それぞれ青紫、黄色、水色に機体を塗装している。

 

《良いか、極力、アークエンジェルに向かって来る敵だけを排除しろッ こっちは数が少ないって事を忘れるな!!》

「了解です」

 

 バルトフェルドの声に、エストは静かな口調で応じた。

 

 ライキリは元々ムラサメをベースに開発した機体だが、大出力のスラスターとインパルス砲、対艦刀など強力な装備を施した結果、予定よりも高コストの機体となってしまった。

 

 本来なら量産は先送りとなる筈だったが、カガリはアークエンジェルを派遣するに当たり、艦載機の質を向上させる為にライキリを量産するように命じたのだ。

 

 向かって来るウィンダムを、エストはインパルス砲の一射で撃墜する。

 

 確かに、数は多い。

 

 だが、これだけ狭い空域に、大軍がひしめき合っているおかげで、却って地球軍は身動きができなくなっている感がある。

 

 これなら、少数精鋭の方が却って戦いやすいだろう。

 

 期せずしてラキヤとエストは、ほぼ同じように戦況を分析して、互いの戦術を組みたてようとしていた。

 

 後方ではバルトフェルドのライキリが対艦刀ムラマサを抜いて、向かって来るダガーLを斬り伏せているのが見える。

 

 更にその後方では、リリアの水色のライキリがビームライフルを放ちながら、接近を試みるセイラン軍のムラサメを迎撃している。

 

 元々ザフト軍のエースパイロットだったバルトフェルドはともかく、リリアの操縦技術はお世辞にも傑出しているとは言い難い。せいぜい、一般兵士と同レベルと言ったところだ。

 

 それ故、リリアのライキリはできる限りアークエンジェルの近くに布陣してビームライフルやインパルス砲で支援砲撃を担当し、前線に立って向かって来る敵機を排除する役割は、エストとバルトフェルドが担当するように役割分担が成されていた。

 

 接近してビームサーベルを振るうウィンダム。

 

 しかしエストは一瞬早く戦闘機形態にライキリを変形させると、その場から高速で飛び去る。

 

 間合いから出ると同時に、再び人型に変形してビームライフルを構える。

 

 一撃。

 

 狙われたウィンダムは回避する事もできず、頭部を撃ち抜かれて海へと叩きつけられる。

 

 かつて、最高のコーディネイターである少年が、唯一、自身の相棒と認めた少女は、その圧倒的な戦闘力を見せつけて他の追随を許さなかった。

 

 

 

 

 

 その頃、シンとマユが駆るイリュージョンは、更に敵陣深くへと斬り込んでいた。

 

 ここへ来るまでに戦闘不能にした敵機は、既に20機近くに達している。勿論、大破させた機体は1機も無い。

 

 そんなシンとマユの視線の先に、3機の連合軍機相手に苦戦するセイバーの姿が見えた。

 

「お兄ちゃん、あれ!!」

「ああ、行くぞ、マユ!!」

 

 ティルフィングを構えて増速するイリュージョン。

 

 その姿は、ベイル達からも確認できた。

 

《ベイル、あいつが来たよ!!》

「ああ、どうやら、俺達を御指名らしいな!!」

 

 セイバーの攻撃を回避しながら、ベイルは吐き捨てるように答える。

 

 悠長に遊んでいる場合でもないらしい。

 

「ラーナ、ジャック、3機で迎え撃つぞッ 奴を丸焼のローストにしてやれ!!」

 

 言いながらベイルは、尚も向かって来るセイバーに向けて、牽制のための胸部のスキュラを放つ。

 

 自身に向かって来る閃光に対して、とっさにシールドを掲げて防御するセイバー。

 

 早めの防御が功を奏し、スキュラの一撃はセイバーのシールドに防がれる。

 

 しかし勢いまでは殺す事ができず、セイバーは大きく吹き飛ばされると、バランスを崩して海面へと落下した。

 

「貴様の相手は後回しだ、モルモット!! せいぜい首でも洗ってるんだな!!」

 

 捨て台詞と共に、ベイルはカラミティを反転させる。

 

 その視線の先には、ムラサメの戦闘力を奪いながら迫って来るイリュージョンの姿があった。

 

「ハッ イリュージョンだかなんだか知らんが、所詮はモルモット共の作品だ。純粋な人間である俺達に敵う筈が無い!!」

 

 ベイルの言葉と共に、ラーナのレイダーと、ジャックのフォビドゥンが先行するような形でイリュージョンへと向かって行く。

 

 それに対してイリュージョンは、290ミリ狙撃砲を展開。向かって来るレイダーに向けて発射する。

 

 しかし、命中の直前、フォビドゥンが射線上に割り込んでゲシュマイディッヒパンツァーを展開、ビームを強引に捻じ曲げてしまう。

 

 そして、一瞬の隙を突き、レイダーがフォビドゥンの影から飛び出すと、ヒートクローを伸長してイリュージョンに掴みかかった。

 

「そォら、こいつでどうだいッ!?」

 

 高速で接近するレイダー。

 

 鉤爪はイリュージョンに掴みかかる。

 

 しかし、それよりも一瞬早く、イリュージョンは急上昇して掴みかかってきたレイダーを回避した。

 

 そこへ、

 

「もらったァァァァァァ!!」

 

 シュベルトゲベールを振り翳したカラミティが迫る。

 

 タイミングは完璧。回避行動の為に体勢を崩したイリュージョンに、カラミティの攻撃をかわす手段は無い。

 

 刃はそのままイリュージョンを切り裂くかと思った瞬間、

 

 イリュージョンは向かって来たカラミティに急接近すると、勢いそのままに蹴り飛ばしてしまった。

 

「何ィィィィィィ!?」

 

 蹴り飛ばされた衝撃で、バランスを崩して落下していくカラミティ。

 

「ベイルッ!! こいつ、よくも!!」

 

 激情と共に、イリュージョンへ突撃するレイダー。その翼の先には、ビームソードを発振して斬りかかる。

 

 しかしそれに対して、イリュージョンは突っ込んで来るレイダーの攻撃を、アッサリと回避する。

 

「時間が勿体ない。マユ、一気に決めるぞ!!」

「うん、判った!!」

 

 頷くマユ。

 

 次の瞬間、シンの中でSEEDが発動した。

 

 反転しようとするレイダーに、一瞬で追いつくイリュージョン。

 

 すれ違いざまに大剣を一閃。

 

 それだけでレイダーは、片翼を失い海面へと突っ込んだ。

 

「ッ!!」

 

 その様子を見たジャックが、ニーズヘグを振り翳してイリュージョンへと向かって来る。

 

 それを迎え撃つように、ビームガトリングを放つイリュージョン。

 

 しかし、放たれる光弾は全て、ゲシュマイディッヒパンツァーによって逸らされてしまう。

 

 そのまま間合いに入った瞬間、イリュージョンへと斬りかかるフォビドゥン。

 

 しかし、それよりも一瞬早く、イリュージョンは下方へ滑り込むようにしてフォビドゥンの攻撃を回避、そのままティルフィングを振り上げるようにして斬り込む。

 

「ッ!?」

 

 ジャックはとっさにミラージュコロイドを使用して視覚を撹乱。同時に機体を後退させて、イリュージョンの攻撃を回避した。

 

 ミラージュコロイドを、潜入などの戦略目的に使うのではなく、視覚攪乱の為の戦術武器として使う。それが、ガイストフォビドゥンのコンセプトである。

 

 そして反撃を行うべく姿を現わしたフォビドゥン。

 

 次の瞬間、

 

 振り下ろしたイリュージョンのティルフィングが、フォビドゥンの左腕を、一刀の元に切断してしまった。

 

「ッ!?」

 

 バランスを崩しながら、後退していくフォビドゥン。

 

 フォビドゥンが姿を消したとき、マユは既にその出現位置まで予測して兄に伝えていたのだ。

 

 その為ジャックは、先制攻撃をかけるつもりが、逆に返り討ちにされてしまった形になった。

 

 あまりの戦闘力の差に、交戦を断念せざるを得ない。

 

 仲間2人があっさりやられたのを、ようやく水から上がってきたベイルは、苦々しく見詰める。

 

「おのれェェェッ よくもォォォ!!」

 

 スラスターを全開にして斬り込むカラミティ。

 

 同時に、肩の武装ラックを開き、内部に収めてあった8連装スティレットを発射した。

 

 これはウィンダムにも1発装備されている物で、対装甲貫入弾と呼ばれる楔形の大型弾である。この楔が敵機の装甲に食い込み、そこで爆発して対象を破壊するのだ。

 

 イリュージョンに向かって飛翔する16発のスティレット。

 

 その全てを、イリュージョンはビームガトリングで撃ち落としてしまう。

 

 だが、それくらいはベイルも予想済みである。

 

 振り翳すシュベルトゲベール。

 

 その2本の刃がイリュージョンへと迫り、

 

 次の瞬間、2本とも中途から斬り飛ばされて宙に舞った。

 

「なッ!?」

 

 ベイルは驚愕に目を見開く。今まさに、彼の攻撃が当たる直前に、その攻撃手段が失われたのだから当然だろう。

 

 鋭く一閃されたイリュージョンのティルフィング。

 

 その一撃が、カラミティのシュベルトゲベールを叩き折ったのだ。

 

 再び、イリュージョンの大剣が旋回する。

 

 その一撃で、カラミティは両脚を一緒くたに斬り飛ばされた。

 

「ぬおォォォォォォ!?」

 

 バランスを取り戻す事ができず、海面へと落ちて行くカラミティ。

 

 それを確認して、その場を飛び去るイリュージョン。

 

 まさに、圧倒的というべきだろう。カラミティ、フォビドゥン、レイダー、かつてオーブ軍を壊滅に追いやった3機で掛かったにもかかわらず、怯ませる事すらできなかったのだから。

 

 イリュージョンが次に向かったのは、グフ、カオス、ガイアが対峙する戦場である。

 

 2機のセカンドステージシリーズに囲まれたハイネだったが、持ち前の操縦技術を駆使して、辛うじて戦況を五分に保つことに成功していた。

 

 だがそこへ、海面すれすれを飛行して向かってくるイリュージョンの姿が映った。

 

「こいつ、来るか!?」

 

 今まさに、ガイアに斬りかかろうとしていたハイネは、とっさにグフを反転させると、左腕のドラウプニルを放ってイリュージョンの接近を阻もうとする。

 

 だが、イリュージョンは殆ど舞うような動きで全てを回避すると、ビームサーベルを抜き放ってグフへと迫る。

 

 飛び道具では埒が明かないと判断したハイネは、テンペストを抜いてイリュージョンを迎え撃つ。

 

 しかし、すれ違った瞬間。

 

 手にした剣と共に、グフの右腕が宙に舞った。

 

「な、何ぃ!?」

 

 驚愕するハイネ。

 

 まさか、この自分が手も足も出せずにやられてしまうとは・・・・・・

 

 だが、その一瞬の隙を突き、地上を疾走してくる影があった。

 

 ガイアだ。

 

 ステラは立ち尽くすグフを、恰好の獲物とばかりに見定めて、獣形態のまま斬りこんでくる。

 

 ハイネがその存在に気付いた時には既に手遅れ。

 

 漆黒の機体は、グフのすぐそばまで迫り。

 

 次の瞬間、ガイアの鼻先を閃光が掠め去り、ステラはとっさに急ブレーキをかけて突撃を停止した。

 

《ハイネ、大丈夫か!?》

 

 援護に入ったのは海面すれすれを飛翔してくる赤い機体、アスランのセイバーだった。

 

 カラミティ以下3機をイリュージョンが引き受けた事でどうにかフリーハンドを得たアスランは、苦戦するハイネの援護に入ったのだ。

 

《さがれ、ハイネ。その機体じゃ、どの道戦えないだろ?》

「ああ。すまん」

 

 言いながらハイネは、機体をミネルバへと向ける。確かにアスランの言うとおり、片腕の無い機体では、ここにいても敵機の良い的になるだけだった。

 

「それにしても・・・・・・」

 

 後退しながら、ハイネはつぶやく。

 

 なんて出鱈目な実力を持ったパイロットだ。今後、地球連合軍に加えて、あんな奴まで相手にしなくてはいけないのかと思うと、ますます厳しい戦いになることが予想された。

 

 ハイネがミネルバを目指して後退しているころ、イリュージョンは更にカオス、ガイアと交戦を開始していた。

 

 空からカオスが、陸からはガイアがイリュージョンへと迫る。

 

 対してイリュージョンは、迎え撃つようにビームライフルを一射。

 

 その一撃で、カオスの右腕を吹き飛ばした。

 

 更にイリュージョンは、肩からバッセル・ビームブーメランを抜き、疾走するガイアへ向けて投げつける。

 

 旋回して飛翔するブーメラン。

 

 しかし、その攻撃をガイアは、小石をよけるような軽い機動で回避するガイア。

 

「そんな物ォォォォォォ!!」

 

 ステラは叫びながらブースターを全開。グリフォンビームブレードを展開して、突撃を開始する。

 

 視界の彼方には、立ちはだかるように滞空するイリュージョンの姿がある。

 

「死ねェェェェェェ!!」

 

 飛びかかろうとするガイア。

 

 しかし次の瞬間、

 

 突如、バランスを崩してその場に前のめりになり、地面へと突っ込んだ。

 

「あうッ!?」

 

 何が起きたのか分からず、つんのめる衝撃に息を詰まらせるステラ。

 

 モニターを見ると、ガイアの左後足、人型では左足となる部分がいつの間にか欠損しているのが判る。

 

 そして視界の彼方では、戻ってきたブーメランをキャッチするイリュージョンの姿がある。

 

 正体は、先ほどイリュージョンが放ったビームブーメラン。あれが反転して戻ってきて、ガイアの左足を斬り飛ばしたのだ。

 

「クッ よくも!?」

 

 歯ぎしりするステラ。

 

 しかしイリュージョンは、もうガイアには見向きすらしなかった。おそらく、今のでガイアは脅威とは言えなくなったと判断したのだろう。反転して次の戦場へと向かう。

 

 それに対して、ステラはイリュージョンをにらみつけながらも、去っていくその背中を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 その頃、ラキヤはストームを駆り、アークエンジェルへと迫っていた。

 

 チラリと、視線をイリュージョンへと送る。

 

 現状、最も脅威となるのはミネルバよりも、むしろアレの方だ。あいつに好き勝手に暴れられたのでは、戦線の構築もままならない。

 

 イリュージョンを引き付ける手段として、アークエンジェルを攻撃する。そうすればイリュージョンも、地球軍を攻撃するどころではなくなるだろう。

 

 その計算のもとに、ラキヤは行動していた。

 

 とにかく、一刻も早く、この乱痴気騒ぎを終わらせる必要があった。

 

 対して、接近するストームにいち早く気づいたのは、エストだった。

 

「あの機体の相手は私がします」

 

 手早くバルトフェルドに通信を入れ、前へと出るエスト。

 

 自信に向かってくる、青紫色のライキリの姿は、ストームからも確認できた。

 

「ムラサメ? いや、オーブの新型か!?」

 

 増速と同時に、レーヴァテインを構えるストーム。

 

 対してエストは、先制攻撃としてインパルス砲を放つ。

 

 その一撃をストームは上昇するようにして回避すると、ライフルモードのレーヴァテインを素早く2射する。

 

 迫る閃光。

 

 その攻撃をエストは辛うじて回避すると、ムラマサを抜いて迎え撃つ構えを見せる。

 

 向かってくるライキリ。

 

 それを見て、

 

「チッ!?」

 

 ラキヤは舌打ちしながら機体を後退させ、エストの攻撃を回避、同時にレーヴァテインを対艦刀モードにして対峙する。

 

 振るわれる互いの刃。

 

 その一撃を、ストームとライキリはシールドで防ぐ。

 

「「クッ!?」」

 

 すれ違う両者。

 

 同時にラキヤはストームを振りかえらせ、左腕のビームガンで牽制の攻撃を放つ。

 

 しかし、そのビームが命中する寸前、エストはライキリを戦闘機形態に変形させ、その場から飛び去って回避する。

 

「当たりません」

 

 静かに呟くように言うと、エストはそのまま機体を大きく旋回させると、機首をストームへと向けると突撃を開始した。

 

 インパルス砲を放ちながら突撃するエストのライキリ。

 

 対してラキヤは、最小限の動きでエストの攻撃を回避しつつ、レーヴァテインを構え直す。

 

動きを止めるストーム。

 

 そこへ、人型形態に変形したライキリが、突撃の勢いそのままに迫る。

 

「これでッ!!」

 

 エストの声と共に、ライキリはムラマサを抜き放つ。

 

 対抗して、レーヴァテインを斬り上げるストーム。

 

 交錯する一瞬。

 

 次の瞬間、ライキリの右腕が斬り飛ばされた。

 

「・・・・・・・・・・・・そんな」

 

 茫然とつぶやくエスト。

 

 完璧なタイミングでの攻撃。

 

 あの状態から反撃され、まさか自分が負けるとは思ってなかった。

 

 動きを止めたライキリに、ラキヤは背後から攻撃しようと接近する。

 

 だが、それは横合いから放たれた二条の閃光によって阻まれた。

 

《エスト、大丈夫!?》

《援護する、今のうちに下がれ!!》

 

 リリアとバルトフェルド。水色と黄色のライキリが、それぞれビームライフルを放ちながら、向かってくる姿が見えた。

 

 その姿を見て、ラキヤは素早く後退を決断する。さすがに1対3では分が悪かった。

 

 周囲を見回す。

 

 どうやら、ザフト軍も地球軍も、既に戦闘継続の意義を失い、徐々に後退しつつあるようだ。

 

 ならば、ラキヤとしても、この場にとどまって交戦することに意味は無かった。

 

「それにしても・・・・・・」

 

 ラキヤは、この場で混沌の戦場を演出した機体にもう一度目をやった。

 

 あれだけの戦闘力は、間違いなく今後、脅威となるだろう。

 

 イリュージョン。

 

 どうにかして、早期に排除する必要がありそうだった。

 

 

 

 

 

PHASE-21「剣、交錯する戦場」      終わり

 




やりすぎた(汗

なんとなく、チート主人公物を書く人の気持ちが分かった気がする。確かに、書いていて気持ちが良い物があったのは事実です。
とは言え、こんな事は悪役がやるならともかく、主人公がやる事じゃないですね。
個人的に思うことは、「やるなら1回で十分。むしろ1回でも多い」ですかね。
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