機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-26「決戦へのカウントダウン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うように、まあ、策としては至ってシンプルです」

 

 今回も作戦会議の開催に当たり、ネオは再びセイラン艦隊旗艦信濃を訪れていた。

 

 既に出撃の機運も高まり、エーゲ海の拠点に駐留する地球軍艦隊では緊張した日々が送られていた。

 

 ネオの集めた情報では、近日中にミネルバが出航する兆しがあるとの事であり、スパイを通じて、その航路の割り出しにも成功していた。

 

 ネオが説明した作戦も、その情報に基づくものである。

 

「しかし、その情報の信頼度はどれくらいですか? もし間違っていたりしたら、作戦そのものが覆る事にも・・・・・・」

 

 控えめに言ったのは信濃艦長のマカベである。

 

 あまり戦略、戦術面には疎いマカベだが、それでも現段階で待ち伏せポイントまで策定してしまうのは性急にすぎる気がしたのだ。

 

 そんなマカベを制したのは、当のネオではなく、マカベの上司である最高司令官だった。

 

「おいおい、ここまで来てそんなこと言われても困るなぁ。当てずっぽうで軍を動かすような真似をしているわけじゃないんだ。ミネルバは絶対に、このルートを通ってジブラルタルに向かうさ。出航も、もう間もなくだよ」

 

 まるで、自分がすべてをお膳立てしたかのように、ユウナは自慢げに言う。

 

「そういう事は、大佐と僕とで、もうちゃんと確認済みなんだから、君たちはここから先の事を考えてくれればいいんだよ」

「ハッ・・・・・・・・・・・・」

 

 ユウナにそう言われては、マカベとしても引き下がらざるを得なかった。

 

 その様子を見て、ネオは満足そうに笑う。

 

「ユウナ様は的確ですな。決断もお早い。オーブはこのような指揮官を持たれて、いや、実に幸いだ」

「いえいえ、これくらいの事」

 

 必要以上におだててみせるネオに対し、ユウナは照れたように頭をかく。

 

 ネオの目的は前回と同じ、セイラン艦隊に先陣を切らせ自身の戦力を温存する事だが、相変わらずユウナはその事に気づいていなかった。

 

 そしてマカベ達幕僚は、全員ユウナの言いなりとなっている。この場の作戦会議にあって、ネオの作戦案に対し反対意見が出る事はなかった。

 

「厳しい作戦ではありますが・・・・・・だが、やらねばならない」

 

 重々しい雰囲気で言うネオに、ユウナは高らかに唱和する。

 

「そして、我がオーブ軍ならできる!!」

 

 言ってから、ユウナはマカベに目をやった。

 

「ここでミネルバを討てば、我が国の力をしっかり世界中に示せる。できるだろう?」

「・・・・・・もちろんです。ユウナ様」

 

 やや緊張気味に、マカベは答えた。

 

 マカベにとって、ユウナは上官であり、仕える勢力であるセイラン派のナンバー2でもある。やれと言われた以上、万難を排してやらねばならなかった。

 

 だが、彼の胸には一抹の不安がある。

 

 確かに、ミネルバを撃沈できれば、オーブの力を世界に示せるだろう。

 

 だが、その為に味方が壊滅に近い損害を受け、多くの若者たちの命が失われてしまったら、たとえ力を示したとしても何の意味もないのではないだろうか?

 

 国を動かすべき人材が全て失われた後で、荒野となった「土地」だけを守って、いったい、そこにどんな意味があるというのだろう?

 

 だが、彼は何も言う事が出来なかった。

 

 所詮、彼はセイラン子飼いの一将官に過ぎないのだから。

 

 

 

 

 

 報告を受けたデュランダルは珍しく、内心で臍を噛む思いだった。

 

 ディオキア基地がオーブ政府軍の襲撃を受け、基地施設と所属モビルスーツ、更に哨戒任務中だったナスカ級戦艦に損害が出たという。

 

 中で気になる報告は「偽ラクスを名乗る一味が、発進予定だったシャトルを奪い、宇宙に逃走した」との事だった。

 

 事情聴取によれば、「偽ラクス」は、声も容姿も、ついでに言えば書かれたサインまで全くそっくりで、本物と見分けが付けられなかったという。

 

 笑うしかない。

 

 見分けがつかないのは当たり前だ。何しろ報告に上がった「偽ラクス」。彼女こそが「本物のラクス・クライン」なのだから。

 

 「偽ラクスを仕立てて影響力を強める」と言う、デュランダルの政略が裏目に出た感がある。

 

 すぐに追撃の為の部隊が差し向けられたが、発見できたのは空のシャトルと、拘束された正規クルーだけだった。恐らく、そこで別のシャトルに乗り換えたと思われた。

 

「事情は分かった。とにかく、早く見つけ出してくれたまえ。連合の仕業かどうかはまだ判らんが、どこの誰だろうが、そんな事をする理由は一つだろう。彼女の姿を使ってのプラント国内の混乱だ。そんなふうに利用されては、あの優しいラクスがどれほど悲しむか」

《はい》

「連中が行動を起こす前・・・・・・変な騒ぎになる前に取り押さえたい。頼むぞ」

《ハッ 心得ました》

 

 通信が切れると、デュランダルは1人の思案に入った。

 

 ラクスが宇宙に上がったのは痛かった。恐らく目的は、潜伏中のクライン派と接触する事だろう。

 

 オーブで潜伏中だったラクスを暗殺し損ねたことが、ここにきてジワジワと効き始めていた。

 

 クライン派とオーブ政府軍。この2つに接触されると、デュランダルにとってはいろいろと厄介なことになりかねない。

 

 何しろ、片やプラントではカリスマ的な歌姫であり、政治的能力も高いラクスと、まだまだ粗削りだが、強い信念を持ち、己の理想を実現する為ならばどんな困難も厭わないカガリ。この2人に本格的に手を組まれれば、デュランダルの進む道に必ずや障害になる事は間違いなかった。

 

 だが、この状況を逆用する事もできる。

 

 ラクスはアークエンジェル、そしてイリュージョンから離れた。ならば、補足する事さえできれば、抹殺する事も可能となる。そしてラクスは今、宇宙にいる。宇宙がザフト軍の庭である事を考えれば、時間を掛ければ発見する事は難しくないように思えた。

 

 ラクスの行動は先の予測が難しい。だが、状況はいまだデュランダルの手の内にあった。

 

 机の上のチェス盤に目を落とすデュランダル。

 

 今は一人で差す事が多いデュランダルだが、かつては対面に友が座っていた。

 

『全ての物は生まれ、やがて死んでいく。ただ、それだけのことだ』

 

 その友人が、よく好んで使っていた言葉だ。

 

 世界を憎み、人類を憎み、そして己すら憎んでいた友人。

 

 そんな彼ですら、生きる事を望んでいたことを、デュランダルは知っている。

 

 それにタリア。

 

 デュランダルとタリアは、かつて恋人同士の関係にあった。しかし、逃れられぬ運命の末に、最後には別れの道を選ばざるを得なかった。

 

 人は、生まれ落ちた瞬間から、己の運命から逃れる事が出来ない。

 

 ならば、初めから間違う事のない道を選ばなくてはならない。

 

 デュランダルは、硬くそう信じていた。

 

 

 

 

 

 デブリ帯の中に、1隻の戦艦が身を潜めていた。

 

 後部両翼に張り出した翼と、大出力を生み出す多数のエンジンが特徴の戦艦は、淡紅色の艦体をデブリに偽装して潜んでいる。

 

 高速戦艦エターナル。

 

 かつてザフト軍が、フリーダムとジャスティスの専用運用艦として建造し、L4同盟軍旗艦として大戦を戦い抜いた歴戦の戦艦である。

 

 そのエターナルに、ラクス達が乗ったシャトルが到着していた。

 

「ラクス様ッ 隊長ッ」

 

 シャトルから降りてきたラクス達に、赤い髪をした青年が駆け寄ってきた。

 

 マーチン・ダコスタ。かつてアフリカ戦線においてバルトフェルドの副官を務め、負傷した彼を救出し、ザフトを離脱した後もバルトフェルドに仕え続けている。

 

「おう、ダコスタ君、久しぶりだな」

 

 陽気に手を上げて、忠実な副官であり得難き友でもある青年に挨拶するバルトフェルド。

 

 久しぶりに見るバルトフェルドの姿に、ダコスタもうれしそうな笑顔を向ける。

 

「相変わらずだな、ダコスタ!! そうそう、例の『奥の手』、役に立ったぞ」

「ええッ 本当ですか!?」

 

 驚くダコスタ。

 

 バルトフェルドの言う「奥の手」とは、彼がラクス暗殺未遂の際に使った、ショットガン仕込みの義手の事である。

 

 バルトフェルドが義手の種類の中からあれを選んだ時、「また酔狂なオモチャを」と呆れたものである。ダコスタとしては、あれが使われる機会など永久に無いと思っていたのだが。

 

「まあ、その話は、また今度だ」

 

 そう言うと、バルトフェルドは背後のラクスに目をやった。

 

「皆さんと、またご一緒で来て嬉しいですわ。また以前のように、よろしくお願いいたします」

 

 そう言って笑顔を浮かべるラクスに、居並ぶ兵士たちは揃って敬礼を返す。

 

 彼らクライン派にとって、ラクスこそが唯一絶対の存在であるのだ。

 

「ラクス様、例の1号機の事ですが」

 

 ダコスタが、早速といった感じに報告を始める。

 

「ご要望があった通り、アカツキ島のオーブ政府軍に渡るように、手配いたしました」

「そうですか、ありがとうございます」

 

 ラクスは今でこそ、戦場に立つ事を自重しているが、いずれは自分自身も打って出る心算でいる。その為に、自分専用の機体をクライン派に所属するファクトリーに発注していた。

 

 残念ながら、ラクス専用の機体はまだ完成していない。今回完成したのは別系統の機体である。だが、いずれ必ず必要になると思い、カガリの元へと送ったのだ。

 

「それから、これはオーブ政府軍からオーダーを受けたのですが・・・・・・」

「オーブ政府・・・・・・カガリさんから?」

 

 訝るようにラクスは、ダコスタが差し出した端末を覗き込む。

 

 そこに映っているのは機体のデータ、ではなく、それに付随する武装のデータだった。

 

 訝るラクス。

 

 大出力のエンジンとスラスター。更に、他に類を見ない武装。完成すればかなり強力な兵器となるだろうが、これ単体では戦力に数える事は出来ない。

 

 なぜ、カガリはこんな物を発注したのだろう?

 

「これを、カガリさんが?」

「いえ、それが・・・・・・」

 

 ダコスタはそっと、ラクスに耳打ちする。

 

 その言葉を聞いて、ラクスはハッと目を見開いた。

 

 同時に、作業中のエストの方を見る。

 

「・・・・・・判りました。オーダーの通りにしてください」

 

 どうやら、ラクスですら与り知らなかった事が起こっていたらしい。

 

 状況は、確実に動き始めている。カガリもまたそれを感じているからこそ、できる事をしようと思ったのだろう。

 

 ならばラクス自身も、動かなければならない時が近付いているのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバ動く。

 

 その報告を聞き、地球連合軍も行動を開始していた。

 

 エーゲ海の拠点を発した地球軍艦隊は、一路、舵を西に取っている。

 

 決戦の地はクレタ島沖。

 

 セイラン軍と合同した地球軍は大艦隊を編成して、ミネルバを迎え撃つべく布陣を急いでいる。

 

 だが、所属する将兵の中には、悲壮感が漂いつつあるのは避けられなかった。

 

 各戦線の戦いで戦力を消耗した地球軍には、もはや後はない。今度こそミネルバを沈め、ザフト軍の士気をくじく必要があった。

 

 もし、ここで負けたら、地球軍の巻き返しはますます難しくなる事だろう。

 

 そんな中で、ベイルは不機嫌の極みにあった。

 

 彼はつい先日、反乱が起きたロドニアのエクステンデット研究用ラボを破壊する任務をジブリールから受け、部下のラーナ、ジャックを引き連れて出撃した。

 

 ロドニアの施設はもともと地球軍の物であり、反乱が起きたと言っても、それほど大層な武装がある訳でもない。彼等の実力からすれば、欠伸が出るほど簡単な任務のはずだった。

 

 しかし、ベイル達は失敗した。彼らが行った時、ロドニアのラボは既にザフト軍に占拠されており、交戦したものの状況不利となり任務継続を断念、そのまま敗走する運びとなった。

 

 それだけでも屈辱だというのに、任務失敗して帰還したベイル達を待っていたのは、ジブリールからの叱責だった。

 

「『私は過ぎた事をネチネチと言う趣味はないがね。しかし無制限に寛大にもなれんのだよ。子供のお使いのような任務も果たせないとくれば猶更ね』と来たもんだッ」

 

 言いながらベイルは、苛立ちまぎれに壁を蹴りつけた。

 

「そういう事はテメェが一度でも前線に立ってから言ってみろ、インテリ気取りのモグラ野郎がッ 人の苦労も知らないで、勝手な事ばかり言いやがって!!」

 

 荒れているベイルの後ろから、ラーナとジャックがついてきているが、彼らはベイルに話しかけようとしない。こうなっている時に話しかけると、とばっちりが自分たちに来ることを普段の経験から知っていたのだ。

 

 もっとも、ジャックがしゃべらないのはいつもの事だが。

 

 と、その時、前から歩いてくる3人の存在に気付いた。

 

 スティング、アウル、ステラだ。

 

 出撃まで特にする事がない3人は、艦内での待機を命じられていた。今も何やら談笑しながら歩いて来るのが見える。

 

 それを見てベイルは、口元を歪めて笑みを浮かべた。新しいオモチャを見つけた、と言った顔だ。

 

 ジャックとラーナは、黙って状況を見守っている。ベイルが何をするのか、興味しんしんと言った様子だ。

 

 そして3人が自分の目の前に来た時、

 

「邪魔だァッ!!」

 

 前を歩いていたステラを、容赦なく蹴りつけた。

 

「あうッ!?」

 

 倒れこむステラ。

 

 そのステラに、ベイルは口汚い罵りを浴びせる。

 

「薄汚い人形の分際で、でかい顔して艦内を歩くんじゃないッ 目障りなんだよ!!」

 

 床に転がったステラを、蔑みのこもった眼で睨みつけるベイル。

 

「ステラッ!!」

「おい、大丈夫かよ!?」

 

 スティングとアウルが慌てて駆け寄り、金髪の少女を助け起こす。どうやらステラは転んだだけで、頭を打つようなことはなかったようだ。

 

 しかし、それで収まるはずもない

 

 3人の中で年長格のスティングは、憎しみの籠った瞳でベイルを睨んだ。

 

「テメェ、いきなり何しやがる!!」

 

 激昂するスティングに対し、ベイルは薄笑いを浮かべて肩を竦めてみせる。

 

「別に。お人形に過ぎない貴様らに、分と言うものを教えてやっただけさ」

「何ッ!?」

 

 憤るスティングに対し、ベイルはまるで当然の心理を聞かせるように語り始める。

 

「いいか、よく聞け。貴様等は俺達に飼われているただの人形なんだ。それをいい気になりやがってッ 人間様のおかげで生かされてるっていう身の程を思い知るんだな!!」

 

 ナチュラル優越主義とは、コーディネイターと言う存在があって初めて生まれたものであるが、ベイルはその最たる物であると言える。

 

 純然たるナチュラルを「人間」と規定し、それ以外を「人間以下」と決めつけて言動する。まさしく、ブルーコスモスの暗黒面を極限まで先鋭化したと言えるだろう。

 

 だが足蹴にされる側も、ただ黙っているわけではなかった。

 

「テメェッ!!」

 

 唸るような声と共に、スティングは腕を一閃する。

 

 その手に輝く、銀色の光。

 

 次いで、ベイルの頬から、真っ赤な滴が滴った。

 

「なッ!?」

 

 驚くベイル。

 

 スティングの手には、ナイフが握られている。その刃がベイルの頬を切り裂いたのだ。

 

「ベイルッ!!」

「チッ!!」

 

 ラーナとジャックが、慌てて交戦姿勢を取る。

 

「テメェ、よくもベイルを!!」

「先にやったのは、そっちだろうが!!」

 

 食って掛かるラーナに対しスティングは、ステラやアウルを守るようにナイフを構えて対峙している。

 

 普段は3人の中で最も冷静沈着なスティングだが、ステラやアウルを守るためなら幾らでも凶暴になれるのだ。

 

 自分の頬に滴る血を拭うベイル。

 

 その瞳は、異様に鋭く細められ、スティングを見据えていた。

 

「・・・・・・・・・・・・フンッ」

 

 ラーナの肩を叩いて、ベイルは前に出る。

 

 尚もナイフを構えているスティングを人睨みすると、唇を歪めて見せる。

 

「そういえば、スティング・オークレー、こいつは聞いた話なんだがな?」

「何だ?」

 

 警戒するスティングに対し、ベイルはいやらしい笑みを浮かべ、囁くようにして言った。

 

「どうやら貴様、『夢』を見るのが怖いらしいじゃないか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、

 

「ッ!?」

 

 スティングの中で、封印されていたものが口を開けて飛び出した。

 

「グッ!? オォォォォォォォォォォォォ!?」

 

 ナイフを取り落とし、床に倒れこむスティング。

 

 そんなスティングの様子を、ベイルは下卑た目で見つめる。

 

「どうしたんだい? どんな『夢』を見るのかな? それはどれくらい怖い『夢』なのかな?」

 

 ベイルの言葉が吐かれるたびに、スティングは痙攣するように体をくねらせる。

 

 『夢』それが、スティングのブロックワードである。その言葉を聞いたため、スティングは封印されていた恐怖や、そこから生じるストレスが蘇ってしまっているのだ。

 

「ギャハハハハハハハハハハハハ、滑稽だな、人形風情が!! 人間様に逆らうから、そんな目に合うんだよ!!」

 

 哄笑するベイル。

 

 だが、そんな状態になりながらも、スティングは必死に顔を上げてベイルを睨んだ。

 

「テ、メェ・・・・・・」

 

 対してベイルは交渉をやめると、冷めた目でスティングを睨む。

 

「・・・・・・なんだ? その目は?」

 

 言い放つと、スティングの体を蹴りつける。

 

「グッ!?」

 

 激痛がスティングの体を貫く。

 

「貴様等!! 人形風情が!! 人間様の手で!! 生かされてる!! くせに!!」

 

 言葉ごとに、スティングを蹴りつけるベイル。

 

 その様子を、ラーナとジャックはニヤニヤと笑いながら見ている。

 

「スティング!!」

「テメェ、やめろよ!!」

 

 助けに入ろうとする、ステラとアウル。

 

 次の瞬間、

 

 ダァーン

 

 轟音と共に、ベイルのすぐ脇を、銃弾が駆け抜けていった。

 

 振り返る一同。

 

 そこには、拳銃を構えたラキヤの姿があった。

 

「次は、外さない」

 

 サングラス越しに冷たく言い放つと、ラキヤは油断なく銃口をベイルに向けたまま、倒れているスティングに歩み寄った。

 

「スティング、大丈夫? ごめんね、遅くなって」

「き、気にすんなよ。こんなもん、屁でもねえよ」

 

 そう言って、無理やり笑うスティング。

 

 大したものだ。ブロックワードを聞かされ、その上で暴行を加えられたにもかかわらず、まだ笑う余裕があるとは。

 

 これがアウルやステラだったら、とっくに昏倒していたかもしれない。

 

 スティングの中にある「長兄役」としての意地が、ギリギリで倒れるのを拒んでいた。

 

 スティングをアウルとステラに任せると、ラキヤは銃口をまっすぐにベイルに向けた。

 

 対してベイルは、向けられる銃口に怯えたように後じさっている。

 

「こ、こんなことして、ただで済むと思うなよ!? 俺を撃てば、貴様も軍法会議は免れんぞ!!」

 

 震えながらも、ラキヤを睨みつけて言うベイル。

 

 対してラキヤは、淡々とした口調で返す。

 

「だから、何ですか? こっちには発砲するのに十分な理由がある」

「なに?」

 

 目をむくベイル。

 

 対してラキヤは、サングラス越しに冷たい目を向けて言う。

 

「『ザフトとの戦闘を前に、貴重な決戦兵力であるエクステンデットを無用な理由で傷付けた』。利敵行為が充分に成立するレベルです。この場で射殺されても文句は言えないでしょう?」

「貴様ッ!?」

 

 憎しみの籠った眼で、ラキヤを睨みつけるベイル。

 

 対してラキヤも、いつでも発砲できるように指に力を入れる。

 

 次の瞬間。

 

「そこまでだ」

 

 静かな、しかし威厳のある声が、場に鳴り響いた。

 

 見れば、仮面をつけた隊長が、こちらに歩いてくるところだった。

 

「隊長・・・・・・」

 

 ネオの姿を見て、銃を下すラキヤ。

 

 同時にベイルも、ばつが悪そうにそっぽを向いた。

 

「急いでスティングを、メンテナンスルームへ」

「ハッ」

 

 ネオの命令を受けて、見守っていた兵士たちは急いでスティングの体を担架に乗せて運んでいく。

 

 その様子を見送ってから、ネオはラキヤとベイルを見た。

 

「お前さん達も、それくらいにしとけよ。決戦前で気が立っているのは判らんでもないがね」

「ケッ」

 

 ベイルはネオの言葉に舌打ちすると、踵を返す。

 

「まぁ、ここは? 大佐殿の顔を立てておきましょう」

 

 そういうと、ジャックとラーナを引き連れて去って行った。

 

 その姿が見えなくなってから、ラキヤは銃をホルスターに戻し、ネオに振り返った。

 

「すみません、大佐。お手を煩わせてしまって」

「構わんさ」

 

 ネオは仮面の下で、ラキヤに笑みを向ける。

 

「それにしても驚いたよ。お前さんでも、あんな風にキレる事があるんだね」

「それは、まあ・・・・・・」

 

 あの時は何しろスティングを助けようと必死だったので、自分がキレているとか、そういう自覚はなかった。

 

 残ったアウルとステラを連れて、ラキヤは待機ルームへと向かう。

 

 ネオの言葉通り、確かにこれ以上のトラブルは、ラキヤとしてもごめんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに、決戦が始まろうとしていた。

 

 ザフト軍と地球連合軍。

 

 クレタ島沖にて対峙した両軍は、互いの力の全てを掛けて、最後の戦いに赴こうとしていた。

 

 ザフト軍の戦力はミネルバとその艦載機のみ。

 

 対して地球軍は、同盟軍であるセイラン軍を先鋒に、圧倒的な兵力を繰り出していた。

 

 兵力的にはザフト軍を凌駕している地球軍だが、必ずしも状況有利とは言えなかった。

 

 何しろ相手はあのミネルバ。数々の地球軍部隊を単艦で撃破したザフト最強戦艦だ。これだけの兵力を注ぎ込んだとしても勝てる保証はなかった。

 

 一方、ミネルバの方でも、接近する地球軍艦隊の存在に気づいていた。

 

「前方に、オーブ艦隊を確認!!」

「何だとォォォ!?」

 

 バートの報告に、アーサーは素っ頓狂な声を上げた。

 

 ロドニアラボの調査を終えたミネルバは、陸路南下してエーゲ海に出た後、地中海を西進してジブラルタルの艦隊司令部と合流しようとしていた。

 

 そして艦がクレタ沖に差し掛かった時、突如として前方を塞ぐようにオーブ艦隊が姿を現したのだ。

 

「空母1、戦艦1、護衛艦3!!」

「例の地球軍空母は?」

 

 既に意識を切り替えたタリアが尋ねる。

 

 どうやら航路を読まれていたらしい。それが情報漏洩によるものか、それともスパイの手によるものかはわからないが。

 

 ただ言えるのは、敵がオーブ軍だけのはずはないと言う事だ。必ずどこかに、地球軍の艦隊も待ち伏せているはずだった。

 

「確認できません!!」

 

 バートの報告を聞き、タリアは決断する。

 

 既に対決は不可避だ。ならば、迎え撃つしかない。

 

「ブリッジ遮蔽。コンディションレッド発令!! インパルスとセイバーを出して!!」

 

 基本は、先のダーダネルス海峡海戦と同じだ。

 

 まずは途中で補給ができるセイバーとインパルスを出して防空に当たらせ、他の機体は適宜、戦線に加えていくのだ。

 

「面舵30、進路を東に取る!!」

 

 敵の数が多いなら、包囲される前に動かなくてはならない。

 

 その時、

 

「砲撃、来ます!!」

 

 既に布陣を完了していたオーブ艦隊が、先制攻撃により砲撃を開始したのだ。

 

 放物線を描いて飛んでくるミサイル群の姿が見える。

 

「モビルスーツ発進停止!! 回避しつつ迎撃!!」

 

 発進は間に合わないと考えたタリアが、とっさに命じる。

 

 回頭しつつCIWSでの迎撃を試みるミネルバ。

 

 しかし、ミネルバの上空に達したミサイルは、次々と炸裂した。

 

 虚を突かれる、タリアを始めミネルバクルー達。

 

 炸裂したミサイルは、無数の断片となって降り注ぎ、ミネルバの上面装甲に次々と大穴を開けていく。

 

 破片が装甲を叩く不快な音が、艦内にいても聞こえてくる事から、かなりの量の断片がミネルバに降り注いだようだ。

 

「上面装甲、第2層まで貫通されました!!」

 

 その報告に、タリアは僅かに顔を顰める。

 

 自己鍛造弾と呼ばれる兵器による攻撃だ。

 

 爆発成形弾とも呼ばれ、鋼鉄等のライナーに高性能爆薬を装着して起爆すると、爆発の衝撃波でライナーが弾丸状に成形されて高速度で発射され装甲を貫通する。1発の威力は低く、ミネルバのような巨艦を沈める力は無いがが、威力は広範囲に広がり甲板にはかなりのダメージをくらう事になる。

 

 オーブ軍では八式弾の名称で採用されている。

 

 今頃、上階の艦橋は穴だらけにされているだろう。幸い、この戦闘艦橋は装甲に覆われている為被害はない。

 

 しかし、艦体や露出しているセンサーには相当な被害が出たはずだ。

 

「ダメージコントロール、面舵、更に10!!」

 

 タリアがさらに命じた時だった。

 

「9時の方向に、更にオーブ艦隊!! 数、3!!」

「えええッ!?」

 

 アーサーが素っ頓狂の声を上げた。これではミネルバは左右を挟まれたに等しい。どちらかに回頭しようにも、敵の集中攻撃は免れなくなる。

 

 しかも、直進すれば前方にはクレタの島影がある。完全に囲まれた形だ。

 

「2時方向に、オーブ軍、ムラサメ!!」

「アリスとアスランを出して!! トリスタン、イゾルデ、照準、左舷、敵艦群!!」

 

 タリアは叫ぶように命じる。

 

 とにかく、一刻も早く、包囲網を破る必要があった。

 

 

 

 

 

 セイバーの赤い機影と、ブラストシルエットを装備したインパルスが出撃していく。

 

 そのインパルスのコックピットに坐したまま、アリスは向かってくるセイラン艦隊をまっすぐに見据えていた。

 

 その先に自分を待ち受けている、過酷な運命を、全く知らないままに。

 

 

 

 

 

PHASE-26「決戦へのカウントダウン」      終わり

 

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