機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-27「死戦、クレタ沖海戦」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリスはブラストシルエット装備にインパルスを駆り、海上を疾走していた。

 

 フォースシルエットを装備しないとインパルスは飛行する事は出来ないが、ソードやブラスト装備の場合、ホバー推進を使用する事で海上を進む事ができるのだ。

 

 アリスは今回、対艦装備を使用してミネルバの火力支援を行う事になっている。

 

 とにかく、数は圧倒的に敵が勝っている。敵艦は1隻ずつ、確実に潰していく必要がある。

 

 既にミネルバも、主砲トリスタンによる射撃を開始している。

 

 海上を疾走して射撃位置に着いたアリス。背中に装備した2基のケルベロスを跳ね上げ、セイラン艦隊先頭を進む護衛艦に照準を合わせた。

 

 次の瞬間、

 

 突如、海面を割って、ネイビーブルーの機体が飛び出してきた。

 

「アビスッ!?」

 

 驚愕するアリスの目の前で、武装を展開するアビス。

 

「お前の相手は僕だよ!!」

 

 アウルの言葉と共に、アビスが胸部のカリドゥスを発射する。

 

 とっさに機体を翻すアリス。

 

 間一髪、閃光がインパルスを掠めていく。

 

「クッ!?」

 

 すぐさまケルベロスをアビスに向けるが、その時には既に、アビスの機体は海面下に消え去っていた。

 

 更にレールガンを放つインパルス。

 

 しかし、放った弾丸もアビスを捉えるには至らなかった。

 

「これは・・・・・・まずい、かも」

 

 アリスはすぐに、自分が置かれた状況がいかに不利であるかを悟った。

 

 インパルスには水中に対する索敵能力がない。水の中へ潜られたら、相手を探す事ができないのだ。

 

 加えて、今はブラスト装備である為、空戦能力は限定されているし水中へ潜ることもできない為、動きはほぼ二次元的になっている。対して水中を自在に動く事が出来るアビスは、三次元的な機動が可能となっていた。

 

 突如、インパルスの背後から飛び出すアビス。

 

 その手にはビームランスが握られている。

 

「そーら、喰らえェ!!」

 

 振りかざされるアビスのランス。

 

 それに対抗するように、インパルスもビームジャベリンを抜いて繰り出す。

 

 2本の槍がぶつかり合い、互いの機体を弾き飛した。

 

「キャァッ!?」

「クッ このッ!!」

 

 アリスとアウルは、すぐさま機体の立て直しを図る。

 

 ケルベロスを跳ね上げるインパルス。

 

 全砲門を展開するアビス。

 

 2機は互いに、閃光を解き放つ。

 

 しかし、当たらない。

 

 両者の砲撃は、相手を捉える事無く駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 上空では、セイバーとストームが高速ですれ違いながら砲火を交わしていた。

 

 セイバーが戦闘機形態で突撃すれば、ストームはそれを回避しレーヴァテインを発射する。

 

 しかし、放たれた閃光は、セイバーを捉えられない。その前に射程外までセイバーは逃れてしまったのだ。

 

 反転して人型に変形、同時にアムフォルタスを跳ね上げて発射するセイバー。

 

 その攻撃を回避すると、ストームはレーヴァテインを対艦刀モードにしてセイバーに追いすがる。

 

「これでェ!!」

 

 斬り込むストーム。

 

 その対艦刀の一撃を、セイバーはシールドで受け止める。

 

「この程度で!!」

 

 アスランが叫ぶと同時に、推力全開でストームを押し返すセイバー。

 

 同時にセイバーもビームサーベルを抜き放ち、ストームへ斬り掛かる。

 

 対してストームは左手のビームガンで、接近しようとするセイバーを牽制しようとする。

 

 しかし、アスランは巧みな操縦でストームの攻撃を回避し斬りこむ。

 

 斬り上げるような一閃。

 

 切っ先は、僅かにストームの装甲を掠める。

 

「やっぱり強い・・・・・・」

 

 剣を構えて対峙するストームを見据え、ラキヤはつぶやく。

 

 アーモリーワン以来、幾度となく戦った相手。その実力は、ラキヤ自身がよくわかっている。

 

 こうなると今回、カオスが出られないのが悔やまれた。

 

 出撃直前にベイルによってブロックワードを聞かされたスティングは、未だにメンテナンスベッドから出られない為、今回の出撃は見合わせている。

 

 戦力的に余裕があるとは言えない状況で、特機が1機欠けるのはかなりの痛手だった。

 

「まったく、本当に余計な事を・・・・・・」

 

 ラキヤは、この場にいないベイルに悪態をつく。

 

 理由もなく悪戯に、スティングのブロックワードを口にしたベイル。

 

 スティングを傷付けたというだけでも許し難いというのに、そのせいで味方が不利に陥っているとなれば、ラキヤでなくても相手を罵りたくなると言うものだ。

 

 だが、現状を嘆くばかりでは、戦局は聊かも好転する事はない。

 

 レーヴァテインを構え直すストーム。

 

 ほぼ同時に、ビームサーベルをかざして斬り込んでくるセイバー。

 

 互いの剣が、閃光を撒いて交錯した。

 

 

 

 

 

 必死に航行するミネルバに、セイラン艦隊から放たれた砲弾が、次々と着弾する。

 

 敵艦隊に左右を挟まれたミネルバには、直進する以外の選択肢はない。

 

 しかし、前方にはクレタ島が迫ろうとしている。このままでは海岸に座礁してしまう事もありうる。

 

「艦長ォ このままでは!?」

 

 アーサーの悲鳴に似た声を聴きながら、タリアは必死に状況を改善する策を考える。

 

 左右には回頭できず、勿論、後退もできない。

 

 となると、

 

「全速前進ッ 海岸線ギリギリの所をすり抜けて!!」

 

 下手をすると座礁するか、あるいはセイラン艦隊から集中砲火を食らう事も考えられるが、敵の砲撃をかわしつつ包囲網を破るにはそれが最適のように思えた。

 

 一方のセイラン艦隊も、時間が経つにつれて被害が蓄積し始めていた。

 

「ソコワタツミ、ミサイル発射口被弾!!」

「クラミツハ、前に出ます!!」

「目標、進路240に転進!!」

 

 セイラン艦隊のすさまじい砲撃で、ミネルバも無傷と言うわけではない。だがそれでも、粘り強く戦い、尚も戦況の逆転を狙ってきている。

 

 その様子を、信濃の司令官席に座るユウナは、苛立たしげに見つめる。

 

「ほら、第2戦闘群をもっと前に出して! どんどん追い込むんだよ!!」

「は、はいッ ただちに!!」

 

 慌ててユウナの命令を伝えるマカベ。

 

 だが、ミネルバは損傷を負っていると言っても、火器の大半は未だに健在である。距離を詰めれば、必然的にセイラン艦隊の方にも被害が出始める。

 

 前衛の護衛艦が、炎を上げて撃沈する。

 

 その様子を見て、ユウナは苛立たしげに叫ぶ。

 

「ムラサメ隊は何をやっているんだ!? もっと突っ込ませろ!!」

 

 その命令に、マカベは僅かに顔をしかめる。

 

 先のダーダネルス海峡海戦の結果、主力であるムラサメの数は不足気味となっている。その後で増援を受けたが、やはり数が足りているとは言えなかった。そのムラサメを無為に消耗するような命令には、いかにユウナの命令とはいえ承服しかねるものがある。

 

 しかし、マカベにとってユウナの命令は絶対である。

 

「ムラサメ隊、前進。ミネルバに波状攻撃をかけろ!!」

 

 僅かな苦痛を滲ませて、命令を発する。

 

 とにかく、ミネルバを所定のポイントまで誘い込む。そこまで行けば、勝ったも同然だった。

 

 命令に従い、先行するムラサメ隊はミネルバ上空に差し掛かろうとしていた。

 

 眼下には、損傷を負いながらも必死に対空砲を打ち上げるグレーの戦艦の姿がある。

 

 ここに至るまでに、ムラサメ隊の約半数が失われている。皆、本来ならオーブと言う国を守るため、誇りを持って戦う事を誓った仲間たちだったはずだ。

 

 それが、こんな遠い異郷の地で、他国の利益のための戦争に巻き込まれて死ぬ事になるとは思ってもみなかっただろう。

 

 これでは、軍人としての誇りも何もあったものではない。散って行った者達の無念を思えば、セイラン軍の誰もが胸が張り裂けそうだった。

 

 しかしだからこそ、ミネルバはここで沈めねばならない。

 

 所定のポイントまで、もう間もなく。そこまでミネルバを追い込むことができれば、こちらの勝ちだ。

 

 ミネルバに向けて、攻撃を開始しようとするムラサメ隊。

 

 しかし、出し抜けに横合いから発射された光弾が、瞬く間に2機のムラサメをハチの巣にしてしまった。

 

 爆発して、墜落していくムラサメ。

 

 目を転じれば、光弾を放つオレンジ色の機体がムラサメ隊に接近してくるのが見える。

 

「やらせないぜ」

 

 ハイネのグフはドラウプニルを放ち、更に1機のムラサメを撃墜する。

 

 それでも尚、ムラサメ隊は仲間の死体を乗り越えるようにしてミネルバへと迫る。

 

 後が無いのは、セイラン軍も同じなのだ。

 

 だが更に1機のムラサメがグフに撃墜され、更にもう1機、ストームを振り切って追いついてきたアスランのセイバーによって撃墜された。

 

 だが、残りの機体がどうにか攻撃位置へと付いた。

 

 戦闘機形態から人型へと変形し、ビームライフルを構えるムラサメ隊。

 

 だが、その銃口が火を噴くことはなかった。

 

 ミネルバの甲板上から吹き上がる閃光。

 

 上甲板に布陣したルナマリアとレイのザクが、迎撃に加わったのだ。

 

 今にも砲門を開こうとしていたムラサメが片っ端から撃墜されていく。

 

 それだけではない。背後から近付いてきたセイバーとグフも、攻撃に加わる。

 

 攻撃位置につき、動きを止めていたムラサメ隊はひとたまりもない。

 

 ようやくラキヤのストームが追いついた、まさにその時、最後のムラサメが、セイバーのビームライフルでコックピットを撃ち抜かれて撃墜していった。

 

 ムラサメ隊、全滅。

 

 他国の群に属する兵士とは言え、その事実はラキヤの心にも重く伸しかかった。

 

「ごめん、みんな・・・・・・・・・・・・」

 

 散って行ったセイラン軍の兵士達に、苦しげに詫びを入れるラキヤ。

 

 このような戦いで命を落とす事になった彼らに対し、それが何の贖罪にもならないと知りながらも、ラキヤにはそうするしかなかった。

 

 だが、ラキヤ自身、感傷に浸っている暇はなかった。

 

 ムラサメ隊を全滅させたセイバーとグフが、ストームに向かってきているのだった。

 

「クッ!?」

 

 レーヴァテインをライフルモードにして、牽制の攻撃を放つストーム。

 

 その間にも、眼下ではミネルバが盛んに対空砲化を打ち上げながら、迫りくるセイラン艦隊の砲撃に対し、必死に回避運動を行っていた。

 

 

 

 

 

 ムラサメ隊全滅。

 

 その報告はすぐに、信濃のセイラン軍司令部にも届けられた。

 

 マカベ達幕僚の間にも、戦慄が走る。

 

 恐れていた事が起きてしまった。本国を出るとき、あれだけの精強を誇っていたムラサメ隊は、ついに1機もオーブに帰る事がなかったのだ。

 

「よ、よし、だが取りあえずは、ミネルバを追い込むことができたぞ」

 

 引き攣った笑みを浮かべながら、ユウナは言った。

 

 彼にとって、自軍の部隊が全滅したと言う事は、さほど重要な要素ではないらしい。それよりも、作戦の遂行の方が大事といった感じだ。

 

「作戦を第2段階に移す。待機中の部隊に指示を出せ」

「ハッ・・・・・・・・・・・・」

 

 恭しく頭を下げるマカベ。

 

 だが、彼の中では言いようのない喪失感が湧き上がるのを抑えられなかった。ここに来るまでに払った犠牲の大きさを思えば、戦慄の思いを禁じ得なかった。

 

 その頃ミネルバは、間もなくクレタ島の海岸線付近に達しようとしていた。

 

 陸地を背にすれば、それだけレーダーやセンサーの類は探知力が低下する。その性質を利用して、どうにか包囲網を破ろうというのがタリアの狙いだった。

 

 このまま敵艦隊の脇をすり抜ける。

 

 そう思って、更に艦をクレタ島に近づけた時だった。

 

「海岸線付近に、高熱源反応ッ これは、オーブ軍のアストレイです!!」

 

 バートの報告に、タリアは思わず目をむく。

 

 そこには、海岸線にずらりと並んだM1アストレイの姿がある。その全てが重武装の追加装備を施した、対空型のM1だった。

 

 ミネルバは、あまりにも不用意にクレタ島に近づきすぎたのだ。

 

 腰のビーム砲を使い、一斉砲撃を開始するM1。対空型のM1は単体では燃費の問題を抱えている為連続斉射はできないが、それでも数発発射するくらいは単体でも可能だった。

 

 たちまち、ミネルバの左舷側に着弾の閃光が走り、巨艦は大きく揺れる。

 

「左舷、着弾を確認!!」

「ランチャー2、4に被弾!!」

「左舷センサー、使用不能!!」

「トリスタン2番、沈黙!!」

 

 攻撃を食らった左舷に、被害が集中している。火器はほぼ全滅に近く、装甲も一部がめくれあがって、内部の区画が剥き出しになっている個所まであった。。

 

 直ちにダメージコントロール班が急行するが、すぐにシステム復旧は難しい事は火を見るよりも明らかだった。

 

 しかも、攻撃はそれのみにとどまらない。

 

「右舷、水中を高速で接近する機影があります、数、複数!!」

「機種照合、アストレイです!!」

 

 セイラン軍の攻撃は、まだ終わらない。

 

 浅海面に潜んでいたM1Mが、水中からミネルバに近づいていたのだ。

 

 その存在に気付いた瞬間、タリアは素早く決断した。

 

「離水上昇ッ 急いで!!」

 

 敵が水中から攻めてくるなら、水上航行をしているのは危険だ。万が一、魚雷攻撃を集中されたら、ミネルバでも危ないかもしれない。

 

 エンジン音が唸りを上げ、ミネルバの巨体を持ち上げる。

 

 これで、敵の魚雷攻撃は回避できるはず。

 

 そう思った瞬間、太い閃光がミネルバを掠めるようにして飛び去って行った。

 

 直撃の衝撃により、ミネルバの船体は大いに揺さぶられる。

 

 艦橋にも悲鳴がこだまする中、状況の報告がなされる。

 

「敵戦艦からの砲撃ですッ」

 

 目を転じれば、セイラン軍旗艦信濃が、ミネルバに対して前部主砲6門による砲撃を開始していた。

 

 先のダーダネルス海峡海戦では、練度不足からさしたる戦果を上げられなかった信濃だが、あれから待機中に各種訓練を行い、どうにかクルー達は平均レベル程度には感を操れるようになっていた。

 

 放たれる信濃の砲撃。

 

 そのうちの一撃が、ミネルバの右舷に突き刺さる。

 

 再び、激震がミネルバを襲う。

 

 交錯する悲鳴。

 

 地球圏最強の戦艦による主砲射撃を食らっては、さしものミネルバも無事では済まない。

 

 左舷に続いて右舷の装甲も抉られ、被害は内部にまで及ぶ。

 

「よし、良いぞッ 今だ、集中攻撃を掛けろ!!」

 

 ユウナが嬉々として叫ぶ中、信濃は更に猛るように砲撃を行う。

 

 甲板上で対空射撃をしていたレイとルナマリアも、無事ではなかった。

 

 レイの白いザクは、左腕を失った状態で、それでも尚、残った右手に突撃銃を持って反撃している。

 

 しかし、問題はルナマリア機の方だった。

 

 今の信濃の砲撃で、至近弾を食らったルナマリアのザクは、四肢を吹き飛ばされて甲板に転がっていた。

 

《ルナマリア、しっかりしろッ ルナマリア!!》

 

 突撃銃を放ちながらレイが必死に叫ぶが、返事が返る事はない。少女の安否は不明のままだった。

 

 同時に、ミネルバは空中での姿勢が維持できず、バランスを崩して再び海面への落下を余儀なくされた。

 

 海面に落下したミネルバを見て、手を叩いてはやし立てるユウナ。

 

 信濃後方に待機していた空母タヂカラオからは、第2次攻撃隊として待機していた機体も、次々と発艦していく。

 

 M1S。空専用のM1である。

 

 セイラン軍は、地中海派遣軍への増援に当たり、ムラサメではなくM1を中心に行ったのだ。

 

 発艦したM1は、次々とミネルバに群がっていく。

 

 更に、それだけではない。

 

 クレタ島を挟んで、南側から戦場に接近する一団があった。

 

 先頭を進むのは、赤紫色のウィンダム。ネオ直属の地球連合軍部隊である。

 

「よし、全軍攻撃開始。今度こそ奴を沈めるぞ!!」

 

 士気を鼓舞するように、ネオが叫ぶ。

 

 ネオの作戦は完璧だった。

 

 ミネルバをクレタ島の浅海面に引きずり込んで包囲、全部隊で陸海空全方位から集中攻撃を仕掛けるのだ。

 

 さしものミネルバも、これだけの大軍に包囲されてはひとたまりもないはず。

 

 ネオの脳裏には、成す術もなく炎を上げて沈むミネルバの姿が映し出されていた。

 

 包囲され、集中砲火を受けるミネルバ。

 

 その様子は、アビスと交戦中のインパルスからも確認する事ができた。

 

「ミネルバが・・・・・・みんながッ!!」

 

 アリスは、悲鳴に近い声を上げる。

 

 既にミネルバは、殆どの火器を沈黙させている。

 

 このままでは、ミネルバが・・・・・・

 

 みんなが・・・・・・

 

「そんな事・・・・・・」

 

 呟くアリスの中で、

 

「やらせない、絶対に!!」

 

 SEEDが弾けた。

 

 跳ね上げられるケルベロス。さらに肩のレールガン、右腕のビームライフルを展開。

 

 全火力を一斉発射する。

 

 嵐のような砲撃が、今にもミネルバに襲いかかろうとしていたM1S部隊を薙ぎ払った。

 

 それはまさに、一瞬の出来事。

 

 驚き、散会しようとするM1S部隊。

 

 しかし、

 

「逃がすかァァァァァァ!!」

 

 叫びながら、再び斉射。

 

 その射撃は正確にして激烈。

 

 一度の斉射で、複数のM1Sが撃墜、あるいは爆散していく。

 

 またたく間に、殆どのM1Sはインパルスの砲撃によって、叩き落とされていた。

 

 インパルスは更に、ケルベロスを海面付近に打ち込む。

 

 勿論、ビーム兵器であるケルベロスには、水中に対する攻撃能力はない。

 

 しかし、閃光が海面に当たった瞬間、強烈な水蒸気爆発が起こり、そこにいたM1M部隊を巻き込み、いっしょくたに吹き飛ばしてしまった。

 

 今にもミネルバを攻撃すべく、浅海面で攻撃位置についていたM1M部隊は、ひとたまりもなかった。

 

 ある物は爆発に巻き込まれて破砕し、ある物は水流に押し流されて四肢をもぎ取られる。

 

 誰もが唖然とする中、更に砲撃を加えようとするインパルス。

 

 だが、それを阻止しようと、海面を割ってアビスが立ちはだかった。

 

「それ以上、やらせないよ!!」

 

 飛び上がると同時に、胸部のカリドゥスと両肩の3連装砲を一斉発射するアビス。

 

 その一撃は、まっすぐにインパルスを捉えた。

 

 沸き起こる爆発。

 

 閃光がインパルスを包みこんだ。

 

「よっしゃ!!」

 

 インパルスの爆発を見て、喝采を上げるアウル。

 

 しかし次の瞬間、

 

 まさに、アウルの眼前に、

 

 撃墜したと思ったインパルスの姿が現れた。

 

「なッ!?」

 

 驚愕するアウル。

 

 アビスの攻撃は、とっさにインパルスがパージしたブラストシルエットを破壊するにとどまったのだ。

 

「邪ッ魔ァァァァァァ!!」

 

 雄叫びを上げるアリス。

 

 動きを止めたアビス。

 

 そこへ、インパルスは、容赦なくジャベリンを突き込んだ。

 

「あ・・・・・・・・・・・・」

 

 短く、声を漏らすアウル。

 

 その脳裏に、最後に浮かんだのは、研究所で自分が強く慕っていた女性。

 

 あの過酷な研究所の中で、自分に優しくしてくれた人。

 

「・・・・・・・・・・・・母さん」

 

 小さく、呼びかける声。

 

 次の瞬間、アウルの意識は閃光にのまれて消えていった。

 

 爆発に包まれるアビス。

 

 それを確認したアリスは、損傷しながらも応戦を続けるミネルバへと機体を向けた。

 

「ミネルバッ デュートリオンビーム、ソードシルエットをお願い!!」

 

 ミネルバに向かうインパルス。その姿は、ストームからも確認できた。

 

 すぐに武装を換装するつもりだと考えたラキヤは、それを阻止すべく動く。

 

 その眼下では、沈んだアビスの爆炎が映っている。

 

「アウル・・・・・・・・・・・・」

 

 いつも皮肉げな笑みを浮かべていた少年は、もう帰らない。あの憎まれ口も、もう聞くことはない。

 

 だが、感傷も全て一瞬だ。

 

 アウルに関わる全ての事は過去へと流れ去ってしまった。

 

 ならば、今は彼の仇を討って弔いとすべきだった。

 

 ストームを、後退しようとするインパルスへ向けるラキヤ。今なら奴は武装を消耗している。たやすく討ち取れるはずだ。

 

 そう思って機体を飛ばすラキヤ。

 

 その背後から、味方の反応が接近してくるのがセンサーで確認できた。

 

 数は3機。どうやら、後続の味方が追いついてきたらしい。多いとは言えないが、アウルが落とされ、あのインパルスの鬼神のような戦いぶりを見た後では、たった3機でも力強い援軍だった。

 

 間もなく、ネオの本隊も追いついて来る。それまで、どうにか戦線を支えないと。

 

 そう思った瞬間、

 

 突如、味方と思っていた背後の3機から、ストームに砲火を向けられた。

 

「なッ!?」

 

 とっさに機体を翻して回避するラキヤ。

 

 振り返れば、こちらに向かってくる機影が映る。

 

 オーガカラミティ、ドレイクレイダー、ガイストフォビドゥン。ガーリアン隊の3機。

 

 味方であるベイル達が、ストームへ攻撃を仕掛けてきていたのだ。

 

「どういうつもりだ、ガーリアン大尉!?」

 

 カラミティの攻撃を回避しながらラキヤが叫ぶ。突然の攻撃に、戸惑いを隠せなかった。

 

 一瞬、フレンドリー・ファイアかと思ったがそれも違う。3機の攻撃は更に激しくなりつつある。

 

 間違って誤射したわけではない。ベイル達は明確な意思を持って、ラキヤに砲火を浴びせてきていた。

 

《目障りなんだよ貴様はッ ラキヤ・シュナイゼル!!》

「何ッ!?」

《人の憂さ晴らしの邪魔をしやがって!! 貴様さえいなければなァ!!》

 

 ベイルが言っている事が、出撃前に起きた悶着の事だと、ラキヤはすぐに気付いた。

 

 ベイルは憂さ晴らしの為にステラに暴力を振るし、更に反抗したスティングにブロックワードを使い、その上暴行を加えた。それを見たラキヤがベイルに対し警告を含めて発砲。同時に利敵行為の指摘を行った。

 

 客観的に見て、ラキヤは自分が間違った行動をしたとは思っていない。勿論、発砲に関しては見様によっては行き過ぎかもしれないが、それでもあの場でベイル達を手っ取り早く止めるには、あれが最適だったと思う。いや、それを差し引いてもベイルの行為は、ラキヤにとって許しがたかった。

 

 だが、しかし、まさか戦闘中に、このような行為に走るとは思ってもみなかった。

 

「何を、こんな時にッ 僕は味方だぞ!!」

《関係ないなッ ムカつくんだよ貴様はッ だから、ここで死んでもらう!!》

 

 ベイルは言い放ち、スキュラを放つ。

 

 その攻撃を回避するストーム。

 

 そこへ、今度は横合いからレイダーが突っ込んでくる。

 

「悪いね、あたしはあんたに恨みなんかないんだけど、これも、うちのボスの命令さ!!」

 

 ヒートクローで掴み掛るレイダー。

 

 その攻撃も、かろうじて回避するストーム。

 

 だが次の瞬間、何もない空間から突如、フォビドゥンが姿を現した。ミラージュコロイドを用い、ラキヤがカラミティとレイダーに気を取られている隙に接近したのだ。

 

 放たれるフレスベルク誘導砲。

 

 ゲシュマイディッヒパンツァーによって、任意の方向に軌道変更できるフレスベルクは、回避が非常に困難である。

 

 事にストームはレイダーの攻撃を回避した直後で、体勢が良いとは言い難い。

 

 辛うじてシールドで受けるも、勢いまでは殺し切れず、そのまま真っ逆さまに落下していく。

 

「クッ!?」

 

 そのコックピット内で、どうにか体勢を立て直そうともがくラキヤ。

 

 そこへカラミティが、2本のシュベルトゲベールを振り翳して斬り掛かってくる。

 

《安心しろッ 貴様はザフト軍と戦い、勇戦の末に撃墜されたって大佐殿には言っといてやるからよ。だから・・・・・・》

 

 振りかざされる刃。

 

《安心して死ねェェェェェェ!!》

 

 成す術の無いラキヤ。

 

 そこへ、カラミティの刃は容赦なく振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハイネのグフは、クレタ島の海岸線に降り立つと同時に、居並ぶ対空型M1に対し、ドラウプニルを浴びせていく。

 

 ミネルバは尚も、黒煙を上げながらノロノロと回避運動を行っている。

 

 こいつらを放置しておくと、ミネルバはいつまでも海上と海岸から挟撃を受け続ける事になる。

 

 幸いにして、重武装を施した対空型M1は動きが非常に鈍い。

 

 軽快な機動力で斬り込んでくるハイネのグフの前に、次々と撃破されていく。

 

 中には武装をパージして身軽になり、立ち向かってくるM1もいるにはいるが、それらもハイネの敵ではない。例外なく攻撃を浴び、吹き飛ばされていく。

 

 クレタの海岸線には、瞬く間にM1の残骸が躯の如く並ぶ事となった。

 

 その時、海岸の丘を越えるように漆黒の機体が躍り出てきた。

 

 ガイアだ。

 

 恐らく、上陸するモビルスーツに備えて待機していたのだ。

 

 飛び出すと同時にステラは、M1部隊を攻撃しているグフの存在に気付いた。

 

「お前ェェェェェェ!!」

 

 ステラが叫ぶと同時に、獣形態のままグリフォンビームブレードを展開、グフへと斬り掛かるガイア。

 

 その姿は、ハイネからも見る事ができた。

 

「来るかッ!?」

 

 迎え撃つべく、ドラウプニルを放つグフ。

 

 しかしガイアは巧みに地面を蹴り、グフの照準を外しながら接近していく。

 

 そして、ガイアの間合いにグフが入り込んだ瞬間。

 

 グフから2本のスレイヤーウィップがガイアへ飛んだ。

 

「ッ!?」

 

 驚き、とっさに回避しようとするガイア。

 

 間一髪、後退が早かったため、グフの鞭はガイアを捉える事はない。

 

 しかし、ガイアが動きを止めるのを見計らったように、グフはテンペストを抜き放って斬り込んでくる。

 

「喰らえ!!」

 

 ハイネの叫びと共に、ガイアへ斬り掛かるグフ。

 

 対してステラもガイアを人型に変形させると、シールドをかざしてグフの斬撃を防ぐ。

 

「こんのォォォォォォ!!」

 

 そのままスラスターを全開まで吹かしグフを押し返すガイア。

 

 同時にガイアも、ビームサーベルを抜き放って構える。

 

 グフとガイア。

 

 オレンジと漆黒の機体は、互いの刃を掲げて相手に斬り掛かった。

 

 

 

 

 

 ネオは戦場への道を急いでいた。

 

 既にオーブ軍が放った第2次攻撃隊が壊滅的な打撃を受けた事は、報告で聞いていた。

 

 ネオとしては第1次攻撃隊でミネルバをクレタ島の海岸付近に追い込み、第2次攻撃隊で足止めし、ネオが直率する第3次攻撃隊でとどめを刺す予定だった。

 

 しかし、インパルスの予想を遥かに超えた反撃によって、第2次攻撃隊は予定よりも早く壊滅してしまった。その為、未だにミネルバは足を止めるには至っていない。

 

「だから、言わんこっちゃないんだ」

 

 ウィンダムを操縦しながら、ネオは1人毒づく。

 

 ネオの不満は、オーブ軍が増援としてよこしたM1にあった。

 

 M1にはいくつかの強化案が存在し、特定の戦況においては新型機に匹敵するほどの性能を発揮する事も知っている。

 

 しかし、基礎設計自体が既に旧式化している機体である。いくらカタログスペックが新鋭機と同等であると言っても、それはあくまで数値上の物に過ぎない。

 

 増援をよこすなら、新鋭機で機動性も信頼性も高いムラサメを、とユウナには頼んでおいたのだが、結局送られてきたのはM1だった。

 

 それでも、送られてきた戦力で全力を尽くすのが軍人の本分と言うものである。ネオとしてもM1の性能を考慮して作戦を立てたつもりだったのだが、それでも敵に押し切られつつある。

 

 既にアビス、ストームとは交信途絶、ガイアが交戦を開始した旨が報告として挙がっている。

 

 更に、包囲中のセイラン艦隊にも被害が出始めている。

 

 急ぐ必要があった。

 

 その時、

 

 後続するウィンダムが、突如、飛来した閃光に撃ち抜かれ火球へと変じた。

 

「何ッ!?」

 

 驚いて目を向けるネオ。

 

 そこには、双翼を羽ばたかせて飛翔してくる戦天使と、その後方から馬のような形をした白い巨艦が接近してくるのが見えた。

 

 イリュージョン、そしてアークエンジェルである。

 

「このッ 忙しい時に!!」

 

 言いながら、迎撃の支持を出そうとするネオ。

 

 しかし、その時には既に、イリュージョンはビームサーベル2本を構えてウィンダム隊に斬り込んできていた。

 

「遅くなったか」

 

 イリュージョンのコックピットで、シンは僅かに舌打ちした。

 

 ディオキア基地襲撃を行った直後、クライン派の情報収集組織「ターミナル」からミネルバと地球軍が動いたと報せを受けたアークエンジェルは、直ちに両軍の会敵予想地点であるクレタへと進路を向けたのだが、一歩遅く、両軍は既に戦端を開いた後だった。

 

 島を挟んだ北側でも、交戦を確認している。

 

 シン達が現れたのは、ちょうど地球軍が放った増援部隊の真ん前だった。

 

「リリア、アークエンジェルを頼むな!!」

《了解、任せて!!》

 

 ライキリを駆ってアークエンジェルの直掩任務に就いているリリアから返事が返る。

 

 ラクスが宇宙に上がる際、エストとバルトフェルドが護衛として同行した為、アークエンジェルで実働可能な艦載機動兵器はイリュージョンとライキリ1機のみとなる。

 

 その為、シンはリリアにアークエンジェルの直掩を頼み、敵部隊はイリュージョン1機で引き受ける事にした。

 

 イリュージョンを認識した瞬間、激しく攻撃してくる地球軍のウィンダム部隊。

 

 だが、マユの正確な予測とシンの鋭い操縦に、追随できるウィンダムは1機も無い。

 

 そして一瞬の隙を突き、斬り込んでくるイリュージョン。

 

 振るわれるビームサーベルが、ウィンダムを斬り裂く。

 

 鋭いまでにイリュージョンの機動力を前に、ウィンダム部隊は成す術もなく、片っ端から武装やメインカメラを破壊されて落下していく。

 

 瞬く間に、戦闘力を保持したウィンダムは数えるほどにまで低下してしまった。

 

「クッ これ以上好きにやらせるか!!」

 

 その状況を見て、ネオは舌打ちしながらイリュージョンへ襲い掛かる。

 

 両翼に装備したガンバレルを展開。同時に赤紫色のウィンダムもビームライフルを構え、3門の砲から一斉攻撃を開始する。

 

 その攻撃を、イリュージョンは巧みに回避しながら、ティルフィングを抜き放ち斬り込んでくる。

 

 鋭い斬り込み。

 

 しかし、大剣の一閃がウィンダムを捉える前に、ネオは機体を後退させて回避する。

 

 ネオのウィンダムは彼専用にカスタマイズされ、スラスターやエンジンも機動力が極限まで上がるようにチューンナップされている。その機動力とネオ自身の操縦技術のおかげで、辛うじてイリュージョンの機動力に追随していた。

 

 ビームガトリングを展開してウィンダムを攻撃するイリュージョン。

 

 対してウィンダムは、2機のガンバレルを引き戻すと、イリュージョンの弾幕をかわしながら、一斉攻撃で対応する。

 

「お兄ちゃん、12時、2時、10時から、一斉攻撃が来るよ。3秒後!!」

「判った!!」

 

 マユの警告に従い、機体を加速させるシン。

 

 一瞬早く、駆け抜けるイリュージョン。

 

 それより僅かに遅れて、ウィンダムの一斉攻撃が空間を薙ぎ払う。

 

「やっぱり、簡単にはいかないか!!」

 

 攻撃を回避するイリュージョンを見て、ネオも仮面の下で舌打ちする。

 

 伝説とまで言われるその戦闘力は、決して誇張ではない。イリュージョンは、ただ1機で一軍にすら匹敵する戦闘力を発揮しているのだ。

 

 ガンバレルを発射すると同時に、ビームサーベルを抜いて斬り掛かるネオのウィンダム。

 

 同時にシンも、イリュージョンのティルフィングを抜いて迎え撃った。

 

 ザフト軍、地球軍、オーブ政府軍、セイラン軍、ガーリアン隊。

 

 これだけ、思惑の違う勢力が入り乱れ、クレタ沖海戦は混沌とした状況に陥ろうとしていた。

 

 

 

 

 

PHASE-27「死戦、クレタ沖海戦」      終わり。

 

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