1
悪鬼の如く。
言葉にするならば、まさにそんな感じだ。
2本の剣を振りかざし、装甲を血の如く真っ赤に染めて迫るインパルスの姿は、まさに鬼と呼んで差支えが無いものである。
「はァァァァァァァァァァァァ!!」
アリスの叫びと共に、振り下ろされるエクスカリバーの刃。
その一撃が、イージス艦のブリッジを斬り潰す。
斬り潰す。
まさにその言の通り、大剣によって斬られたイージス艦は、炎を上げ、艦体を真っ二つにして沈んでいく。
それを確認したアリスは、更に次の目標を目指してインパルスを跳躍させた。
既に直掩に当たっていたM1Sの大半は撃墜されている。セイラン艦隊の抵抗は微々たるものであった。
それでも、どうにかインパルスの進撃を阻もうと、背後から3機のM1Sが迫ってくる。
しかし彼等は、ビームライフルを構えた瞬間、その背後から閃光が閃き、次々と吹き飛ばされた。
湧き上がる爆炎を突き、深紅の機体が駆け抜ける。
セイバーだ。
《背中は任せろアリス。お前は攻撃に集中するんだ!!》
「アスラン・・・・・・判った!!」
力強い援護を受け、更に跳躍するインパルス。
その向かう先には、尚もミネルバへ砲撃を続ける信濃の姿がある。
その信濃の艦橋からも、自艦に迫ってくるインパルスの姿は見えていた。
「た、対空攻撃ッ 奴を撃ち落とせ!!」
マカベが顔を引き攣らせて叫ぶ。
既に目の前で、3隻の護衛艦が血祭りに上げられている。
今また、インパルスに踏み台代りにされたイージス艦が、艦橋を踏みつぶされる。
大剣を構え、迫るインパルス。
信濃の命運も、旦夕に迫っていた。
吹き上げる対空砲火も、インパルスの進撃を止める事は出来ない。
「な、何をしているんだマカベ!!」
司令官席に座ったユウナが、狂ったように叫び声を上げる。
「は、早くッ 早く反転するんだ!!」
「は、はいッ 離水上昇ッ 反転急げ!!」
マカベの命令を受けて、水しぶきを上げて上昇を開始する信濃。そのまま反転して離脱するつもりなのだ。
そこへ、鋭い軌跡を描いて深紅の機体が上空から迫る。
「逃がさんッ!!」
アスランが駆るセイバーは、信濃上空で人型へ変形すると、腰のアムフォルタスを跳ね上げて斉射する。
太い閃光は、信濃の前部甲板に突き刺さり、艦首に装備していた第1砲塔を粉砕する。
巨大な砲台は、その一撃で完膚なきまでに破壊された。
しかも、被害はそれのみに留まらない。
更に、爆発の衝撃で艦首部分のカタパルトデッキもひしゃげている。主砲用のエネルギーがフィードバックした為、内部からの破損も激しい。応急修理でどうにかなるレベルではない。下手をすると艦首ブロックを丸々取り換えた方が早いレベルである。
オーブ軍が誇る最新鋭戦艦が無残な事になったものである。
泡を食ったのはユウナである。
衝撃で司令官席から転げ落ち、無様に床に這いつくばる。
「い、急げェッ な、なな、何をもたもたしているんだ!! 早くッ 早く逃げるんだ!!」
司令官席にしがみつきながら叫ぶユウナ。今まさに、ユウナが乗っている船が爆発炎上しているのだから慌てる気持ちは判らないでもなかったが、それにしても全軍を預かる「総司令官」としては、あまりにも見苦しい姿だった。
それでもどうにか、信濃は司令官の焦りが乗り移ったように、ノロノロと回頭を始めていた。
それに対してセイバーの追撃は、鈍らざるを得なかった。
ここまで補給無しで戦闘を続けてきたセイバーは、バッテリーが危険域に入りつつあったのだ。無理に深追いすれば、バッテリーが切れたところに袋叩きに合いかねない。
「クッ!?」
舌打ちするアスラン。
ここまで追い込んでおいて無念ではあるが、エネルギー切れでは如何ともし難い。
「すまないアリス、ここはいったん下がる!!」
アスランはそう言い置くと、セイバーを戦闘機形態に変形させて反転した。
それでオーブ軍は危機を脱した。
訳ではなかった。
護衛艦をあらかた潰したアリスが、次に獲物として選んだのは、旗艦に続いて退避しようとしている空母タヂカラオだった。
タケミカヅチ級空母であるタヂカラオは、多数の艦載機収容能力を有している反面、空母としては世界最大級の巨体を持ち、更に水上航行している関係から機動力は鈍い。回頭は遅々として進んでいなかった。
本来であるならば、タヂカラオの周りには護衛の機体や艦艇が多数、取り巻いているはずだが、今はその全てが撃沈、あるいは撃墜されて丸裸の状態になっている。
そして最も攻防性能に優れているはずの旗艦信濃は、全軍を預かる総司令官を乗せ、先頭切って退却中だった。
護る者のいなくなったタヂカラオ。
その飛行甲板へ、インパルスが剣を掲げて乗り込んできた。
両手に大剣を構え、1歩ずつ近付いて来るインパルス。
甲板で待機していた対空型のM1が焦って攻撃を仕掛けるが、インパルスを捉える攻撃は無い。逆に、近付いてきたインパルスに叩き斬られる機体ばかりである。
たちまちのうちに、タヂカラオの飛行甲板は破壊されたM1の残骸でいっぱいになり、その機能を喪失する。
そしてついに、インパルスはタヂカラオのブリッジ前に立った。
「ユウナ様、助けてください!! ユウナ様!!」
炎を背に立ち尽くすインパルスを見て、必死にマイクに向かって叫ぶタヂカラオ艦長。
しかし、その声が司令官に届くことはなかった。
振り下ろされる、対艦刀の一撃。
その強烈な一撃は、タヂカラオの艦体を真っ二つに切り裂いてしまった。
ティルフィングを振り翳して斬り掛かってくるイリュージョン。
それに対してネオは、2基のガンバレルを左右に展開して迎え撃とうとする。
「しつこいのは、女の子に嫌われるぞ!!」
ネオは軽口のように叫びながら左右に展開したガンバレル、そしてウィンダム本体から砲撃を加える。
しかし、イリュージョンの機影を捉えるには至らない。
その前にシンは、機体をより深く突っ込ませて、ウィンダムの攻撃を回避する。
「マユ、接近可能なルートを頼む!!」
「判った、お兄ちゃん!!」
マユが素早く、ウィンダムの機動予測データを算出。それを前席のシンへと転送する。
これまでのネオの操縦パターンをデュアル・リンクシステムが解析して導き出した機動データである
一気に上昇をかけ、急降下と同時にティルフィングを振りかざすイリュージョン。
対してネオは、仮面越しにイリュージョンを睨みつける事しかできない。
「チッ!?」
舌打ちするネオ。
イリュージョンの鋭いまでの機動を前に、もはや回避は間に合わない。
だが、まだ勝負を捨てる気もない。
とっさに、右のガンバレルを引き戻すネオ。
砲撃位置につけている余裕はない。
ネオは有線で繋がれた砲塔を、遠心力そのままに、イリュージョンへと叩き付けた。
当然、PS装甲にぶつかった瞬間、ガンバレルは衝撃に耐え切れず損壊する。
しかし、その衝撃によってイリュージョンはバランスを大きく崩した。
「ウワァッ!?」
「キャァァァァァァァァァァァァ!?」
悲鳴を上げるシンとマユ。
その隙を逃さず、ネオはウィンダムが腰に装備したスティレットを抜き放つと、それをイリュージョンへ向けて射出する。
「クッ!?」
自身に向かってくる対装甲貫入弾の存在に気づいて、シンはビームシールドを展開。
しかし、ビームの表面に命中した瞬間、スティレットは炸裂し、イリュージョンを大きく吹き飛ばす事に成功した。
その様子を確認してから、ネオは機体を翻した。
「とんだ時間を食っちまったな」
焦る想いを口にしながら、戦場となっているクレタ北側へと向かおうとする。
とにかく、ラキヤやステラ、アウル達が心配だった。
しかし、
戦いはまだ終わっていなかった。
爆炎を突いて、飛び出してくるイリュージョン。
手にしたティルフィングを振りかざすと、一気に振り下ろした。
その一閃が、ウィンダムの右足と右腕、右翼を一撃の元へと斬り飛ばした。
「クッ!?」
コックピットも煙に包まれ、ネオの視界を塞ぐ。
ウィンダムは、そのまま真っ逆さまにクレタ島の南海岸線へと落下していった。
「リリア、こっちを頼む!!」
後方で待機しているリリアのライキリに指示を飛ばすと、シンは返事を待たずに機体を翻す。
あの赤紫色のウィンダムは、恐らく敵の隊長機だ。爆散はしていないようだし、うまく捕獲できれば、何か情報が掴めるかもしれなかった。
そのまま機体を加速させるシン。
北では、まだ熾烈な戦いが続けられていた。
2
自身に向かってくるカラミティを、ラキヤはサングラス越しに睨みつける。
ガーリアン隊の裏切り。
否、恐らくベイルには「裏切った」と言う認識すらないのだろう。
ただラキヤの存在がムカつく。気に入らない。
だから殺す。戦場の混乱に紛れて抹殺する。
あの男の頭にあるのは、その程度の認識でしかない。戦いの帰趨や戦局の打開などは、端から頭の中にないのだ。
求めるのは、ただ己のはけ口だけ。その為なら、味方を撃とうが部隊を全滅させようが知ったことではない。
「そんな、奴が・・・・・・」
そんな奴が同じファントムペイン所属かと思うと、ラキヤにとっては許しがたい事だった。
《死ねェ ラキヤ・シュナイゼル!!》
2本のシュベルトゲベールを振り翳して、斬り掛かってくるカラミティ。
それを冷静に見据えるラキヤ。
同時に、ラキヤの中でSEEDが発動した。
ラキヤはストームのレーヴァテインをライフルモードにし、更に左腕のビームガンを構えて一斉発射する。
「何ッ!?」
その思わぬ反撃に虚を突かれるベイル。
カラミティは左手からシュベルトゲベールを弾かれ、更に右足にも損傷を負う。
その間に体勢を立て直すストーム。
「これで!!」
ダメ押しとばかりに、レーヴァテインを放つラキヤ。
だが、その前にジャックがフォビドゥンを駆って立ちふさがった。
展開されたゲシュマイディッヒパンツァーが、レーヴァテインの砲撃を明後日の方向へと逸らす。
更にそこへ、フォビドゥンの陰からレイダーが飛び出してきて、突撃しながら口部のツォーンで砲撃を仕掛けてくる。
「そら、喰らいな!!」
距離を詰めると同時に両翼のビームブレードを展開、ストームへと斬り掛かるレイダー。
その刃がストームを切り裂こうとした瞬間、
ラキヤは機体を飛び上がらせた。
レイダーの背を踏み台代わりにして更に跳躍。同時に、レーヴァテインを対艦刀モードにして、背後で立ち尽くしているカラミティへと斬り込む。
「これで!!」
自身へ迫るストーム。
その機影を、ベイルは憎々しげに睨みつける。
「おのれェェェェェェェェェェェェ!!」
脚部が損傷しているカラミティには、回避の手段はない。
振り下ろされるレーヴァテイン。
しかし次の瞬間、その刃の下にフォビドゥンが機体を滑り込ませた。
刃はフォビドゥンの左肩に食い込み、装甲を斬り裂き内部へと進入する。
対艦刀の一撃をまともに受け、一気にエンジン部分まで切り下げられるフォビドゥン。
「ジャック!!」
声を上げるベイル。
その声を聴いた瞬間、ジャックは、コックピットの中で血を吐き出しながら、最後の力を振り絞るように振り返る。
「・・・・・・逃げ、ろ・・・・・・ベイ・・・ル」
絞り出すような声。
誰もが、聞いた事の無い声が、ベイルの耳に聞こえてきた。
次の瞬間、フォビドゥンの機体は爆発、四散した。
その内部にいたジャックと共に。
「ジャック!? クソッ!!」
目の前で炎に包まれる部下を見ながら、歯噛みするベイル。
一方のストームは、あれだけ追い込んだにもかかわらず無傷。未だに戦闘力は保持している。
フォビドゥンは撃墜し、カラミティも損傷を負っている。これ以上の交戦は不利だった。
「おのれ・・・・・・ラキヤ・シュナイゼル!! この借りは必ず返すぞッ せいぜい首を洗って待っているがいい!!」
高らかに言い放つと、スラスターを全開にしてレイダーの背に飛び乗る。
そのまま、一散に飛び去って行ってしまった。
グフとガイアは、ほぼ伯仲と言ってもいい戦闘を繰り広げていた。
どちらも無傷ではない。
グフは左腕と、フライトユニットの右翼を失い、ガイアも右のグリフォンビームブレードと左腕を失っている。
「やるな、こいつ・・・・・・」
息も荒く、ガイアを睨みつけるハイネ。
このようなときでも、不敵な笑みを忘れる事はない。
一方のステラも、疲労の色が濃い。
互いに互角であるが故に、戦闘は消耗戦の様相を呈していた。
「こいつ、しつこい!!」
戦闘に特化したエクステンデットであるステラは、獰猛な目つきでオレンジのグフを睨みつける。
普段は茫洋としているステラだが、こと戦闘になった場合、驚くほどの戦闘センスと野獣の如き闘争心を発揮する。
それ故に、次の一手をどうするか、決めかねていた。
沈黙で過ぎる時間。
先に動いたのは、ハイネだった。
バランスが崩れるのも構わず、テンペストを振りかざして斬り込んでいくグフ。
「喰らいやがれ!!」
振りかざす光刃。
その一撃を、ステラはギリギリまで見極め、後方に飛んで回避。
同時にガイアを獣形態に変形させると、1基残ったグリフォンビームブレイドを展開する。
「もらったァァァァァァァァァァァァ!!」
突撃するガイア。
しかし次の瞬間、ハイネはグフの右手からテンペストを放す。
同時にスラスターを全開にして跳び上がると、スレイヤーウィップを展開、ガイアの首に鞭を巻きつけた。
「何ッ!?」
思わず、目を剥くステラ。同時に巻きついた鞭のせいで、グフを引っ張る形となったガイアは強制的に急ブレーキを掛けられる。
上空にあるグフの中で、ハイネは目を光らせた。
「これで終わりだ!!」
右腕のドラウプニルを斉射。
放たれた弾幕は、その殆どが眼下を疾走する漆黒の機体に背中から吸い込まれた。
装甲がぼろ屑となり、四肢が吹き飛ばされ、頭部が潰され、その場に倒れ伏すガイア。
「キャァァァァァァァァァァァァ!?」
コックピットに上がったスパークに、ステラは悲鳴を上げる。
次いで、走行する力を失ったガイアは、その場に倒れ伏し爆炎を上げた。
「よし・・・・・・」
強敵を撃墜し、息をつくハイネ。
先にアリスがアビスを撃墜するところを見たので、奪われたセカンドステージの機体は、残るはカオスのみと言う事になる。
「さて、それじゃあ・・・・・・」
機体の損耗も激しい。ミネルバの安否も気になるところなので、一旦艦に戻ろうか。
そう思った瞬間。
突如、背後からの砲撃によって、グフの頭部が吹き飛ばされた。
「何ッ!?」
突如モニターがブラックアウトし、目を剥くハイネ。
その時、背後から迫ったストームが対艦刀モードのレーヴァテインを翳して、ストームが迫っていた。
「ステラ!!」
破壊されたガイアを見て、ラキヤは叫ぶ。同時に、オレンジ色のグフに向けて斬りかかった。
振りかざす大剣の閃光。
奔る光は2条。
一撃でグフの右腕を斬り下げ、更に一撃で両足を一緒くたにして斬り飛ばしてしまった。
戦闘能力の全てを奪われ、砂浜に転がるグフ。
ハイネの安否は不明。グフからの一切のビーコンは失われていた。
グフを戦闘不能にしてラキヤは、すぐさま転がっているガイアへと向き直る。
「ステラ!!」
すぐに駆け寄ろうと、機体を向けるラキヤ。
機体を砂浜に下ろすと、急いでコックピットを下り、擱座してるガイアへと向かう。
損傷がひどいガイアだが、見たところ胴体部分とその周辺は損傷が少ないように見える。うまくすれば、中にいるステラは無事な可能性があった。
祈るような気持ちで、砂浜を駆けるラキヤ。
その時、轟音と共に頭上を駆ける2機の機影があり、とっさにその場に伏せてやり過ごす。
「・・・・・・あれは」
もつれ合うようにして、上空で斬り結ぶ機体。
1機はインパルス、
セイラン艦隊への攻撃を終えたアリスは、インパルスの武装をフォースシルエットに換装して更にエネルギーを補給し、再び戦場に戻ってきたのだ。
そしてもう1機は、ネオ率いる本隊を壊滅させて戦場に駆け付けたイリュージョンだった。
2機は空中で激しくぶつかり合い、振りかざした刃がスパークを放つ。
《そうそう何度も、好きなようにはやらせないよッ シン!!》
「アリスかッ!?」
インパルスのビームサーベルをシールドで弾きながら、シンはティルフィングを抜いて構える。
かつて互いに交し合った友情は、今尚、2人の胸の中に存在している。
しかしそれでも、シンとアリスは剣を交えなくてはならない。
それが、互いに異なる旗を仰いだ2人の運命だった。
ビームライフルに持ち替えて、攻撃してくるインパルス。
対してイリュージョンは、シールドでインパルスの攻撃を弾きながら接近、ティルフィングを横なぎに一閃する。
インパルスは、その攻撃を上昇して回避。
同時に自身も、ビームサーベルを抜き放つ。
「上方からインパルスッ 斬り込んでくるよ、お兄ちゃん!!」
「判ったッ!!」
マユのオペレートに従い、機体を後退させるシン。
インパルスの剣は、イリュージョンが後退した空間を薙ぎ払う。
後退すると同時に、イリュージョンはビームガトリングを構えてインパルスを攻撃する。
しかし、
「甘い!!」
アリスはその攻撃を見切り、機体を沈み込ませるようにターン。ビームサーベルを構えて、イリュージョンへ斬り込んでいく。
対抗するように、ティルフィングを振るうイリュージョン。
互いの剣は、相手を捉える事無く空を切る。
振り向く2機。
ほぼ同時に抜き放ったビームライフルが、同じタイミングで放たれる。
「クッ!?」
「あうッ!?」
「ッ!?」
閃光が互いを掠め、シン、マユ、アリスは三様の悲鳴を上げる。
距離を置く、インパルスとイリュージョン。
同時にイリュージョンは、肩のブーメラン2機を抜き放つと、インパルスに向けて同時に投げつけた。
旋回して飛翔するブーメラン。
対してアリスは、その軌道を見極めて、1機を回避、もう1機をビームサーベルで斬り飛ばした。
「ッ!?」
その様子に、シンは息をのむ。
対してアリスは、逸る気持ちが湧き上がっていた。
いける。
先のダーダネルス海峡海戦では、まったく歯が立たなかった。しかし今、アリスはシンと互角に戦っている。
このままなら、押し込む事もできるはず。
ビームサーベルを振りかざし、斬り込むインパルス。
しかし次の瞬間、アリスの視界からイリュージョンの姿が消え去った。
「えッ!?」
驚くアリス。
次の瞬間、インパルスの右腕が斬り飛ばされた。
「あッ!?」
目の前には、両手にビームサーベルを構えたイリュージョンの姿がある。
アリスがそれを認識した瞬間、イリュージョンは目にも止まらぬほどの速さで連続攻撃を仕掛けた。
まるで舞い踊るかのように光刃を振るうイリュージョン。
その攻撃でインパルスは、頭部を、両腕を、両足を、翼を斬り飛ばされ、バラバラに落下していく。
インパルスの胴体部分も、揚力を失って落下する。
「クッ!?」
アリスはとっさに、合体解除操作を行う。
役に立たなくなったチェストフライヤーとレッグフライヤーをパージし、コアスプレンダーとなるインパルス。
しかし、それでも落下の衝撃を殺すには至らず、機首から砂浜に突っ込んでしまった。
ハッチを開き、転がるようにして外へと降りるとアリスは、ヘルメットを投げ出して、その場に座り込んだ。
「イタタタタ・・・・・・やっぱり、まだ駄目だったか」
今回は行けると思ったのだが、やはりまだ届かなかった。
シンは強い。
ダーダネルス戦の後、アスランがアリスに言ったように、まだアリス単独ではシンにはかなわなかった。
「でも、次の戦った時には、必ず・・・・・・・・・・・・」
決意を新たに、飛び去る双翼を見守るアリス。
足音がしたのは、その時だった。
振り返るアリス。
そこには、ありえない人物がアリスを見て立ち尽くしていた。
「・・・・・・・・・・・・え?」
2人揃って、呆然と見つめあう。
ややあって口を開いたのは、アリスが先だった。
「・・・・・・・・・・・・先輩?」
それは見間違いようもなく、彼女の幼馴染にして憧れの人物でもあるラキヤ・ホークだった。
そのラキヤは今、黒を基調とした地球連合軍の軍服に身を包んでいる。
そして、そのラキヤの腕には、ぐったりしているステラの姿もあった。
「アリス・・・・・・やっぱり、それのパイロットは君だったんだ」
予想していた訳ではない。
だが、予感はしていた。
あのポートタルキウスで再会した時、ラキヤはミネルバの情報を探っていた。そして現れたのがアリスである。
そこに、何か因縁めいたものを感じていたのだが、まさにそれが的中したと言える。
勿論、僅かな嬉しさも感じる事は出来ないが。
そんなラキヤに対して、アリスも硬い表情のまま口を開いた。
「・・・・・・先輩、やっぱり、地球軍にいるんですね」
「・・・・・・そうか、君たちはロドニアラボを占領したんだったね」
そこにはステラ達のデータもあったはず。それを見たアリスが、ラキヤとの関連性を推理したとしてもおかしくなかった。
となると、韜晦する事に意味はなかった。
「確かに、今の僕は、地球軍の士官だ」
サングラス越しの視線をアリスに向けて、ラキヤは言う。
「地球連合軍第81独立機動群ファントムペイン、ロアノーク隊副隊長、ラキヤ・シュナイゼル大尉。それが、今の僕だよ」
「そんな・・・・・・・・・・・・」
あの、ラキヤが、
憧れの先輩が、
まさか、地球軍に、敵の陣営にいるなんて・・・・・・
力が抜け、膝から崩れ落ちるアリス。
そんなアリスを憐れむように見ながら、ラキヤは気を失ているステラを抱えて踵を返す。
「いずれ、君とは決着をつける必要があるだろう・・・・・・その時まで、元気でね」
そういうと、ラキヤは駐機してあるストームに向かって歩き出す。
その姿を、アリスは涙に濡れた目で見つめていた。
PHASE-28「魔女の大釜」 終わり