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本格的な冬を迎えたユーラシア西部、北海沿岸は雪に閉ざされ、見渡す限りの銀世界が広がっていた。
雪嵐は風を受けて舞い上がり、視界は一面、白色のスクリーンと化す。
殆ど、何も見えないような猛吹雪。
寒風吹きすさぶ雪山の上空を、青いディンが音も無く飛行している。
背中に索敵用のセンサードームを背負っているのは、偵察機型AWACSディンである。
通常のディンよりも探知能力を強化した機体は、その眼下を航行する巨大な艦影をしっかりと捉え、自らの母艦へと転送していた。
「AWACS006より入電。セクションスリーポイント1836に敵艦発見。アークエンジェルです!!」
雪原の片隅に、1隻のコンプトン級地上戦艦が、吹雪のベールに覆われて身を潜めていた。
ザフト軍が戦線投入している地上戦艦で、同じ地上戦艦であるレセップス級がスケイルモーターを装備して機動性を高める設計をなされているのに対し、こちらは無限軌道を装備しているのが特徴である。機動力ではレセップス級に劣るが、荒れ地や雪原など、地形を選ばずに移動できる。
そのコンプトン級の艦橋で、隊長を務める男はAWACSからの報告を聞いていた。
「・・・・・・やはり、動いたか」
凄味のあるその声は、その顔を見れば更に印象を強める事だろう。
若手が多いザフト軍の中で、男は恐らくずば抜けて高齢であり、かつその容貌は魁偉と評して良かった。福々しく垂れた頬は一見すると柔和そうだが、目元が致命的に陰気であり、見る者を怯ませる外見をしている。
ザフト軍欧州方面軍隊長ウィラードは、ディンからの報告に満足そうに頷いた。
彼は今、特殊な任務を帯びて、北海沿岸の探索に当たっている。
その任務と言うのが、オーブ政府軍戦艦アークエンジェルの捜索だった。
任務は議長からの特命だった。
ダーダネルス、ディオキア、クレタと転戦したアークエンジェル。
そのアークエンジェルが、欧州における寄港地として使っていたのがスカンジナビア王国である事を事前情報として掴んでいた議長は、ウィラード隊に命じてスカンジナビアの対岸に当たる、西ユーラシアの哨戒に当たらせたのだ。
議長は語った。アークエンジェルは動く。それも、ごく近いうちに。
理由としては、彼らの主敵はザフトではなく、あくまでセイラン軍であるからだ。そのセイラン軍の地中海派遣艦隊が壊滅した今、彼等が欧州に留まる理由はなく、早晩オーブへと戻るはず、と言うのがデュランダルの読みだった。
そしてオーブに戻るのなら、最短コースを辿るはず。
それらの予想は全て的中し、今、ウィラード隊はアークエンジェルをその攻撃圏内に捕捉していた。
「司令部へ報告。それと、全隊に戦闘配備だ。指揮全部隊を持ってアークエンジェルを包囲、これを撃沈する」
低く唸るような声で命じるウィラード。
作戦名「エンジェルダウン」
今、天使の羽をもぎ取り、闇に葬る為の作戦が発動された。
北に進むにつれて、景色に白い物が混じるようになり、やがて視界全てが純白に染まるまでに、そう長い時間はかからなかった。
補修が完了したミネルバは、エーゲ海を発し直ちに北上。作戦任務に就いているウィラード隊を支援すべく急行していた。
目標は、オーブ政府軍所属、戦艦アークエンジェルの撃沈。
欧州における地球軍の戦力が衰退した今、アークエンジェルはザフトにとって最大の敵勢力と言っても過言ではない。
これを討つ事により、ザフトの勢力圏を確立するのだ。
とはいえ、先のクレタ沖海戦から、まだそれほど日が経っていない。
ミネルバの補修は完璧とは言えず、CIWS等一部の損傷した武装は、部品を取り外しただけで放置されている。
取り急ぎ、主砲等の主要火器の修理と装甲の補修は完了しているが、内部の区画では一部立ち入り禁止になっている個所もあった。
艦載機も充分とは言えない。
稼働可能な機動兵器は、セイバーと、辛うじて修理の完了したインパルスのみ。
果たして、この激減した戦力で、あのイリュージョンを擁するアークエンジェルを討てるかどうか。
だが、命令を受けた以上、赴かない訳にはいかなかった。
パイロット待機所で、アリスは膝の上にヘルメットを抱えたまま下を向いて俯いていた。
ついに、イリュージョンと直接対決する時が来た。
しかし、果たして勝てるか?
相手は、あのシンだ。同い年ではありながらアリスとは隔絶した技量を持つ少年。
アリスは未だ、シンと戦って勝てた事はない。ダーダネルスの時は圧倒的な力の差を見せつけられ、クレタの時は途中まで互角に戦ったが、結局、一瞬で逆転されてしまった。
改めてシンの強さ、恐ろしさが湧いてきた。
「・・・・・・・・・・・・」
とっさに、両肩を抱くようにするアリス。
腕の中から落ちたヘルメットが、音を立てて床に転がった。
恐怖が、否応なく少女の心と体を縛り上げる。
今度の戦い、全てはアリスに掛かっていると言っていい。今までは、ハイネや、レイや、ルナマリアがいてくれたが、今回、アリスを支援できるのはアスラン1人。アリスの肩に掛かった重責は、想像を絶している。
否、それだけではない。
相手はシン。一時とは言え、心を通わせた友達だ。
その友達を撃つ事には、躊躇いを覚えざるを得なかった。
その時、扉が開く音がして、パイロットスーツを着たアスランが入ってきた。
「アリス?」
入ってすぐに、アリスの状態が普通ではない事に気付いたのだろう。ゆっくり歩み寄ると、その横に腰を下ろした。
「怖いか?」
「・・・・・・・・・・・・」
静かに語りかけるアスラン。
対してアリスは、俯いたまま答えようとしない。エースパイロットとしての矜持が、辛うじて彼女の首が縦に振られるのを躊躇わせている。そんな感じだ。
その様子を優しく見つめながら、アスランは続けて言う。
「怖いなら、君は出なくていい。俺が1人で行くよ」
「・・・・・・・・・・・・」
今度は、明確な意思表示をするアリス。首を横に振って、アスランの言葉を拒否する。
色々な意味で怖い。それは事実だ。
しかしだからと言って、自分が負うべき責任を誰かに押し付けたくはなかった。
そんなアリスの頭を、アスランは優しく撫でる。
「大丈夫だ、俺もついている。君は1人じゃない」
「・・・・・・・・・・・・アスラン」
震えるような声を出すアリス。
ニッコリ優しく微笑みかけてくるアスラン。
そんなアスランに、アリスは躊躇いがちに尋ねた。
「アスランは・・・・・・その、辛くないの? だって、アークエンジェルは・・・・・・」
アークエンジェルはアスランにとって、かつて共に戦った仲間の艦だ。因縁と言う意味ではアリスよりもずっと深い物があるのだろう。
その艦を撃つ事に、アスランは躊躇いを覚えないのだろうか?
対してアスランは、自嘲気味に返事を返す。
「辛いのは、俺も同じだ。シンとは知らない仲じゃないし、アークエンジェルには縁も深い」
だがな、とアスランは続ける。
「今の俺はザフトの軍人だ。軍人なら、命令に従って敵を倒さなきゃならない」
「それが、納得のいかない命令だったら?」
アリスの質問に対し、アスランは苦笑する。
かつて「命令に従って敵を倒すだけの自分」を否定してザフト軍を抜けた身としては、耳の痛い話ではある。
「その時は・・・・・・」
「その時は?」
「きっと、すごく悩むんだろうな。悩んで悩んで、悩み抜いて、そして自分だけの答えを見つけようとすると思う」
つまりアスランにとって、今「ザフトの軍人として戦う自分」こそが、悩んだ末に得た答えなのだろう。
そんなアスランを、アリスは眩しく見つめる。
自分には見えない答えが、アスランには見えている。その事がこの上なく、アリスには羨ましく思えたのだ。
「悩んで、答を探す・・・・・・か」
「人から与えられただけの答や、悩まずに得た答なんかに価値は薄いと俺は思う。自分の頭で考え、悩み、そして自分はどうしたいのか、それを成すにはどうすれば良いのかを見つけ出す。そうしてこそ、答には大きな価値が出るんじゃないか?」
悩んだ果てに得られた答えは、必ずや自分にとって最良の物となるだろう。
アスランは、アリスに道を示そうとしているのだ。ただし、その道を歩くかどうかは、アリスの意志である。
顔を上げるアリス。
答えは、まだ出ない。アスランが言うとおり、簡単に出して良い答えではないのだろう。
だが、差し当たり今は、自分に与えられた役割をこなす。そうする事が第一であるように思えた。
そんなアリスを見て、アスランは微笑みを浮かべる。
吹っ切れた、訳ではないだろうが、今のアリスには、自分の足で歩こうとする意志が見受けられたのだ。
「行けるか?」
「うん」
アスランをまっすぐに見据えて、頷くアリス。
そこには、迷いの色は見られなかった。
2
四方から降り注ぐ砲弾やミサイルの嵐を、アークエンジェルは必死に回避しながら航行している。
「取り舵10、台地の陰に回り込んで!!」
マリューの指示に従い、舵輪を握るアーノルド・ノイマンが必死に舵を切って回避に専念する。
その間にも、飛んでくるミサイルや砲弾はイーゲルシュテルンの弾幕に絡め捕られ、直撃する物はない。
クレタ沖海戦の後、アークエンジェルはいったんスカンジナビアの泊地に寄港したものの、その後の協議で、オーブへ帰還するという方向で話はまとまった。
今回の遠征自体セイラン軍に対する攻勢が目的だったが、そのセイラン軍も壊滅した今、これ以上アークエンジェルが欧州に留まっている理由はない。それどころか、本国での戦況が気になる今、なるべく急いで帰国したいところである。
その為、航路は来る時に利用した北極海航路ではなく、最短コースの大西洋ルートを使うと言う事になった。
しかし、その事が仇となった。
ザフト軍はアークエンジェルが帰還の為に動く事を予測し、網を張って待ち構えていたのだ。
視界一面が純白のスクリーンと化した雪原地帯で、アークエンジェルは突如、ザフト軍の猛攻撃を受ける事となった。
直ちにイリュージョンを発進させて迎撃に当たらせると同時に、アークエンジェルも進路を変更する。
幸いにして、この場所は海岸線からさほど離れてはいない。しばらく敵の攻撃を持ちこたえ海に出る事ができれば、潜航して逃げる事も可能だった。
「バリアント、撃てェ!!」
マリューの命令に従い、後部のレールガン・バリアントを発射するアークエンジェル。
その一撃が、雪原を疾走してくるバクゥの進路を阻んで炸裂する。
地上にはバクゥが、そして上空にはディンとバビが迫る。
複数の火線が同時に交錯する白い空を、幻想の戦天使は双翼を閃かせて舞い踊る。
「3時方向、バビとディンの混成部隊、急速接近。アークエンジェルが危ないよ!!」
「やらせるかよ!!」
天空を疾走するシン。
イリュージョンの手にあるティルフィングを振るい、ザフト軍の空専用モビルスーツを片っ端から斬り飛ばしていく。
更に低空に舞い降りると、ビームガトリングやビームライフルで、高速で迫ってくるバクゥを片っ端から撃ち抜き、戦闘力を奪っていく。
爆散した機体はない。
しかしイリュージョンが駆け抜けるたび、確実にザフト軍の陣容は削られていく。
「まずいです。奴らの良いように追い込まれていますよ!!」
「判ってるわ!!」
ロメロの言葉に、マリューも焦燥感を募らせて叫び返す。
予想はしていた。地球軍の勢力が後退したのだから、次は自分達の番だと。だからこそ、包囲網が完成する前に欧州を抜けようと思い最短コースを選んだのだが、今やその決断が完全に裏目に出ていた。
モニターの中で、上空を華麗に舞いながら敵機を落としていくイリュージョンの姿が見える。
見事なものだ。
シンとマユは、今や完全にあの機体を自分達の物にして使いこなしている。かつてのパイロットであったキラ・エストコンビでも、あそこまで華麗にイリュージョンを扱えたかどうか。
そこへ、更にアークエンジェルを狙ったミサイルが飛来する。
対空砲がその大半を叩き落とすが、そのうち1発が、防ぎきれずに装甲に命中した。
振動するアークエンジェル。
「どうやら、完全に包囲されているみたいです!!」
ノイマンが悲鳴に似た声を発する。
どの方向に逃げても、どれだけの敵を撃退しても、ザフト軍は次々と湧いてくる。
それも当然である。現在、アークエンジェルの上空にはAWACSディンが占位し、その動きをトレースして味方に通報、誘導しているのだ。
つまり、アークエンジェルはどの方向に逃げても、即座にウィラード隊は包囲網を再編して先回りする事ができるのである。
「右舷後方より、再びバクゥ8!!」
「更に10時方向より、バビ9!!」
そして、即座に包囲網を狭めてくる。先ほどから、その繰り返しだった。
追い込まれている。
マリューは漠然とだが、そう感じていた。
アークエンジェルを襲撃するザフト軍の動きには、何らかの意図のようなものが見え隠れしている。あるいはもしかしたら、精鋭部隊が待機している場所へこちらを追い込もうとしているのかもしれない。
そう考えているうちにも、ザフト軍の攻撃は激しさを増す。
一斉には放たれるミサイル。
その全てを、デュアルリンクシステムを用いて先回りしたイリュージョンが、ビームガトリングで叩き落としていく。
アークエンジェルを直撃するミサイルは、一発も存在しない。
更にイリュージョンは狙撃砲を展開、雪原を疾走するバクゥを高空から狙い撃ちし、頭部や脚部、武装を破壊して戦闘不能にしていく。
そうして開いた道を、アークエンジェルは通り抜けていく。
とにかく海へ。
そこまで行けば、アークエンジェルの勝ちである。
「目標、尚も西へ10!!」
「イールー隊、バビ、全機被弾、帰投します!!」
次々ともたらされる報告に、ウィラードは苦虫を噛み潰すような表情を作る。
「流石は、音に聞こえたイリュージョンとアークエンジェルだな。これほどの大軍で包囲しても怯まんとは」
敵の支援機動兵器はイリュージョン1機のみ。にもかかわらず、大軍で包囲したウィラード隊の方が圧倒され、足止めすらできないでいる。
「モビルスーツ隊に熱くなるなと言ってやれ。これではミネルバが来るまで持たんぞ」
既に今回の「主役」となるべき部隊は、こちらに向かって急行している。もう間もなく攻撃可能圏内にアークエンジェルを捉えるはずだ。
それまでアークエンジェルを逃がさないようにしておくのが、ウィラードに課せられた任務だった。
「追い込みなどと言う悠長な事をやっているから、逆にこちらが追い込まれるのです。ミネルバを待たずとも、全軍で掛かれば・・・・・・」
そう言い募る若い副官の目には、ウィラードの戦術はまどろっこしいように映るのかもしれない。
だが、
「貴様は知らんのだろう。アラスカも、ヤキン・ドゥーエも」
「はあ?」
嘲るようなウィラードの言葉に、副官は不満そうに顔をしかめる。
だが、先の大戦において粘り強く戦い、ついには不沈艦とまで言われるに至ったアークエンジェル。そしてその守護神の如く、常に傍らにあり続けた機体がイリュージョンである。
数に恃んで力攻めをすれば勝てる、と言う相手ではないのだ。
「功を焦って逃がしたら、それこそ取り返しがつかんぞ。今後の事もある。ケツはきっちりミネルバに持ってもらえ。命令通り『我が軍のエース』にな」
これは新しき英雄が、古き英雄を淘汰する為の戦いでもある。
今後もミネルバが、ひいてはザフトが「英雄」であり続けるために、自分達以外の英雄には消えてもらわなくてはならないのだ。
吹雪を突いて航行するミネルバにも、戦場の様子が伝わってくるようになった。
どうやら作戦通り、ウィラード隊はアークエンジェルを引き付ける事に成功しているらしい。
しかし、状況は芳しいとは言えない。
戦況だけを見ても、少数のアークエンジェルが大軍であるウィラード隊を圧倒しているのが分かる。
なるべく早急に、ミネルバが戦線加入する必要がある。
既にアリスとアスランは、それぞれの搭乗機で待機していた。
「ポイントまで20。間もなく会敵します!!」
バートの報告に、タリアは目元を引き締める。
自軍の2人のパイロットの事は信頼しているが、それでも相手があのイリュージョンでは、簡単には勝たせてくれないだろう。
この戦い、ミネルバが勝利を得るには高度な連携が必要不可欠となる。
上空に占位しているAWACSディンからは、戦況が刻々と伝えられてくる。
ウィラード隊はアークエンジェルを遠巻きに包囲しながら、適度な距離を保っているのが分かる。
余りの損害に耐えかねたのか、それとも時間を稼ぐつもりなのか。恐らく両方だろう。
エンジェルダウン作戦。ここからが本番である。
やがて、雪原の向こうから爆炎が聞こえるようになってきた。ミネルバも交戦域に突入したのだ。
眦を上げるタリア。
「ジャミング弾発射、インパルス、セイバー発進!!」
この戦いで、戦争の帰趨が決まる。
タリアは確信に近い想いと共に、号砲の狼煙を上げた。
突如、アークエンジェルのセンサーが真っ白になった。
それまで接近するザフト軍機の様子を克明に映しだしていたディスプレイが、前方で砲弾が炸裂したのを探知した途端、全く映らなくなってしまったのだ。
「これは・・・・・・ジャミング弾です!!」
チャンドラが息を呑んで叫ぶ。
Nジャマーの影響下では電波発信型のレーダーは役に立たず、熱紋センサーは戦艦にとって最も重要な「目」となっている。
しかし、ザフト軍が放った砲弾は、炸裂と同時に大量の熱源を周囲にばらまき、一時的に熱紋センサーを不能にしたのだ。言わば目潰しを食らわされたようなものだ。
周囲は山脈が連なり、視界は猛吹雪で殆ど効かない中、アークエンジェルは暗闇の中に放り出されたに等しい。
「取り舵10、降下!!」
とっさに、マリューは命じた。
敵がジャミング弾を使ったと言う事は、奇襲を狙っての事だ。と言う事は恐らく当初の予想通り、ここで敵の襲撃があると見て間違いないだろう。
高度を落とすアークエンジェル。
そこへ、山脈の向こうから次々とミサイルが飛来する。
アークエンジェルを掠めて着弾するミサイル。舵を握るノイマンは、艦体を山肌にぶつけないように、必死に操艦している。
ミサイルの一部はイリュージョンの周りにも落下しているが、向こうは大した障害でもないようで、稜線を飛び越えながら全弾余裕で回避しているのが見えた。
そのままスピードを落とさず、切り立った断崖を回り込むアークエンジェル。
次の瞬間、
突如、白いスクリーンを突いて、山脈の陰からグレーの巨艦が姿を現した。
「ミネルバ!?」
完全に虚を突かれた。
ミネルバはアークエンジェルを巧みに、自分達の正面に回り込むように誘導したのだ。
ミネルバ両舷のトリスタンが放たれる。
しかし次の瞬間、舵輪を握るノイマンは、間一髪、舵を思いっきり切った。
それによりアークエンジェルは、艦体をほぼ垂直に立てるような機動で、ミネルバのすぐ脇、激突寸前のところをすり抜ける。
先の大戦の折、アークエンジェルをバレルロールさせた事もあるノイマンの、神掛かった操艦の冴えが、如何無く発揮された。
失速寸前で姿勢を元に戻すアークエンジェル。
すれ違ったミネルバだが、やがて反転してアークエンジェルを追撃する態勢を取る。
「まさか、あの艦まで来るなんて」
マリューは唇を噛みながら、苦々しくつぶやく。
何かが待ち伏せている事は予想していたが、それがミネルバである事までは思いが至らなかった。
厄介な相手が来た。あの艦とは因縁が深い。それだけに、その実力の高さも承知していた。
3
アークエンジェルとミネルバが、並走するような形で互いに艦砲を放っている。
その様子は、戦闘中のイリュージョンからも確認できた。
「お兄ちゃん!!」
「クッ アークエンジェル!!」
直ちにシンは、機体を反転させる。
全開まで加速するイリュージョン。こうなると、一般機で追いつける機体は存在しない。
グングンと引き離されるバビやディン。
このまま艦の援護に入る。
そう思った瞬間、
出し抜けに降り注いだ閃光が、イリュージョンの行く手を遮った。
「ッ!?」
とっさに急ブレーキをかけ、機体を反転させるシン。
その時、上空を覆う雪雲を突いて、急降下してくる深紅の機体があった。
「セイバー、アスランか!?」
認識すると同時に、迎撃の為にビームライフルを放つシン。
だが、アスランもまた、セイバーを急反転させて回避する。
それを追撃しようとするイリュージョン。
だが、
「もう1機来るッ インパルスが!!」
マユの警告に従い、シンはとっさに、急速に高度を落とす。
間一髪、放たれた閃光が頭上を駆け去っていく。
目を転じれば、ビームライフルを構えて向かってくるインパルスの姿があった。
《シン、今日こそ君を倒すよ!!》
「アリス!!」
対抗するように、ビームライフルを放つシン。
イリュージョンとインパルスは、互いに閃光を放ちながらすれ違う。
そこへ、波状攻撃のように、セイバーがアムフォルタスを放った。
「ここで落ちてもらうぞ、シン!!」
太い閃光を放つセイバー。
その攻撃を、きりもみするように回避しながら、イリュージョンは右腕のビームガトリングを展開、セイバーに向けて発射する。
しかし、光弾が捉える前に、セイバーは戦闘機形態に変形して、その場から退避した。
動きを止めたイリュージョン。
そこへ、インパルスがライフルを撃ちながら迫ってくる。
「これで!!」
インパルスの攻撃を、ビームシールドで防ぐイリュージョン。
その様子を見ながら、アリスは出撃前にアスランからレクチャーされた事を思い出していた。
『いいか、アリス。イリュージョンは2人乗りだ。デュアルリンクシステムと言う戦術予測装置が搭載されていて、メインパイロットが操縦を担当し、サブパイロットオペレーターの役割を担っている』
『じゃあ、イリュージョンのあの強さも?』
『勿論、シン自身の強さもあるだろうが、そのシステムに拠るところが大きいだろう。つまりイリュージョンを相手に戦う場合、常に1対2の戦闘を強いられているようなものだ』
確かに、今までイリュージョンと戦っていて、何度か動きを読まれているのではないかと思う事があったが、あれはそう言うカラクリがあったのだ。
『でもそれじゃあ、どう戦っても、こっちが不利じゃない?』
『いや、そうでもない。ようはシステムの予想を上回るような行動をすれば良いんだから』
それが如何に難しい事であるか、想像に難くなかった。
『シンのパートナーが誰かは知らないけど、あれだけの戦い方ができるんだから、多分お互いをすごく信頼してるんだと思う。そんな相手を打ち破れるかな』
熟練したパイロットであればあるほど、自身の必勝パターンと言うものを持っている。それはアリスやアスランであっても例外ではない。だが、既にイリュージョンとの数度の戦いを経て、こちらのパターンはシン達に読まれている可能性が高い。その予想を上回る動きをするのは、ほとんど不可能であるに等しい。
『ようは、オペレーターの方に多大な負荷をかけ続ければいいんだ。シン自身を攻撃するんじゃなく、彼の背後にいるオペレーターを攻めるつもりで戦えば、俺達にも勝機があるはずだ』
ビームサーベルを振り翳して、斬り込んでいくインパルス。
その動きを、マユは完全に把握し、攻撃パターンを予測する。
「振り下ろしで来るよッ 5秒後!!」
「了解!!」
妹の指示に答え、シンも迎え撃つべく、イリュージョンのビームサーベルを抜き放つ。
そのインパルスが目前に迫り、
突如、ガクッと失速するように目の前で急降下した。
「何ッ!?」
その急激な変化に、戸惑うシン。
そして失速したインパルスの陰からは、アムフォルタスを構えたセイバーの姿が現れる。
「クッ!?」
舌打ちしながら、とっさにビームシールドをかざすシン。
セイバーの攻撃は、回避する余裕もなく、ビーム表面に命中する。
防御が早かったおかげで直撃はなかったが、イリュージョンは大きく吹き飛ばされた。
そこへ、再びビームサーベルを構えたインパルスが迫ってくる。
「貰ったァ!!」
アリスが叫びながら、ビームサーベルを振りかざすインパルス。
だが、今度はイリュージョンが体勢を立て直す方が早かった。
イリュージョンが素早く後退して回避した事で、インパルスの剣は吹雪を撹拌するだけにとどまる。
「逃がさないよ!!」
叫びながらアリスは、更に斬り込むべくインパルスのビームサーベルを振りかざす。
しかし、それよりも一瞬早く動いたイリュージョンのビームサーベルが、インパルスの右腕を斬り飛ばす。
更にイリュージョンは左手でもビームサーベルを抜き放つと、閃光が2度、3度と瞬いた。
クレタでも見せた、二刀流による高速斬撃。
他の誰にも真似できない、シンだからこそできる必殺の攻撃である。
四肢をもがれ、頭部を斬り飛ばされ、雪原へと落下していくインパルス。
「これでまず・・・・・・1機!!」
これでインパルスの戦闘不能にした。あとはセイバーを倒せば、ミネルバと撃ちあっているアークエンジェルを支援しに行く事ができる。
シンがそう考えて、機体を反転させた時、
落下中のインパルスのコックピットで、アリスの目が鋭く光った。
「メイリン!! チェストフライヤー、レッグフライヤー、ブラストシルエットを!!」
鋭い指示を飛ばす。
次の瞬間、雪原からインパルスを構成する3つのパーツが飛び出してきた。
あまりに速い展開。
これもアリスの作戦である。
あらかじめパーツとシルエットフライヤーを機体に後続させる形で発進させて、低空に伏せておく。
そして撃墜された瞬間を逃さずに引き寄せ、瞬時に合体を完了させる。
これまでの戦闘データを解析して、シンがコックピットを狙わない事は知っていた為、この作戦を思いついたのだ。
合体と同時に、胸部装甲が黒緑に染まるインパルス。
イリュージョンはと言えば、セイバーに向かって斬り掛かろうとしているため、インパルスには背中を向けている。
「逃がさないよ、シン!!」
ケルベロスを構え、一斉発射するインパルス。
その瞬間、
「お兄ちゃん、後ろ!!」
「なッ!?」
間一髪で気付いたマユの警告に従い、機体を反転させるシン。
そこへ、2条の閃光がまっすぐに向かってくる。
閃光は、とっさに回避しようとするイリュージョンの左肩を掠めた。
「クッ!?」
「キャァッ!?」
シンが呻き声をもらし、マユが悲鳴を上げる。
回避が間に合ったおかげで、どうにか直撃は免れた。が、しかし被害ゼロとはならなかった。
ビームが掠めた左肩は、装甲が大きくえぐられ、内部の機構が剥き出しになっている。さらに着弾の衝撃でハードポイントのジョイントが外れ、左肩に装備していたバッセルも無くなっていた。
「左腕動作不良、ブーメランを1個喪失、あと左のクラウ・ソラスが使えなくなったよ!!」
マユの声に悲鳴が混じる。
シンも、内心で舌打ちしていた。
クラウ・ソラスやブーメランの損害は構わない。どのみち、ブーメランはもう1つあるし、この戦況ではクラウ・ソラスを使う事はないだろう。
だが、左腕の損傷は痛い。完全に動かない訳じゃないが、かなり動作が鈍くなっている。イリュージョンはシールドが左にある為、左腕がうまく動いてくれないと、白兵戦時の防御に支障が出てしまう。
だが、迷っている暇はなかった。
戦闘機形態で上空から急降下してきたセイバーが、直前で人型へと変形、同時にビームサーベルを抜いてイリュージョンへ斬り掛かる。
「クッ!?」
どうにかその攻撃を、後退する事で回避するイリュージョン。
だがそこへ、正面からインパルスが迫ってきた。
「メイリンッ レッグフライヤー、フォースシルエットを!!」
再びミネルバへ指示を飛ばすアリス。
同時に、インパルスの下半身を分離、迎え撃とうと身構えていたイリュージョンへと飛ばした。
「何だと!?」
またも、予想できなかった攻撃に、シンの対応が遅れた。
左腕がうまく動かない為イリュージョンは防御が間に合わず、飛んできたレッグフライヤーを胴体部分で受けてしまう。
レッグフライヤーは推進力そのままに突進し、イリュージョンを雪原へ叩き付けた。
「キャァァァァァァ!?」
悲鳴を上げるマユ。
更にそこへ、ダメ押しとばかりに上半身だけになったインパルスが、ファイアフライ誘導ミサイルを一斉発射。雪原の上でどうにか体勢を立て直そうとしているイリュージョンに襲いかかった。
山そのものを吹き飛ばすかのような爆発が雪煙を引き起こし、視界は一気に白く染まる。
その間にインパルスは、新たに飛来したレッグフライヤーおよびフォースシルエットと合体し、再びインパルスを形成する。
ほぼ同時に、雪煙を割ってイリュージョンが飛び出した。
だが、最前までの動きの鋭さには、僅かな陰りが見え始めている。
「メインカメラ、機能低下。センサー、2番と5番停止ッ お兄ちゃん!!」
「クッ!!」
マユに言われるまでもなく、シンは異常に気付いていた。
ミサイルの集中砲火を食らったイリュージョン。
本来ならPS装甲がある為、物理攻撃はシャットアウトできるのだが、今回は当たり所が悪かった。ダメージの一部が頭部のメインカメラに入ってしまったのだ。
おかげでイリュージョンのモニター映像は、ところどころノイズが入るようになってしまった。
全く見えない訳ではないが、戦闘に集中しなくてはいけない状況で、視界を塞ぐように走るノイズには苛立ちを覚える。
だが、アリスもアスランも、待ってはくれない。
いよいよもって、2人の攻撃は激しさを増しつつあった。
作戦は最終段階に入りつつあった。
ミネルバのみではなく、ウィラード隊の残存モビルスーツもアークエンジェル攻撃に加わり、激しく攻め立てている。
それに対してアークエンジェルも、全ての火器を振りたてて応戦するが、恃みのイリュージョンがインパルスとセイバーに拘束されている為、徐々に攻撃を防げなくなりつつあった。
「海岸線まで、あと10!!」
「後方よりバビ6!!」
「ミサイル、来ます!!」
次々と飛来するミサイル。
イーゲルシュテルンが濃密な弾幕を形成し撃ち落としにかかるが、全てを防ぐ事が出来ず、いくつかがアークエンジェルの装甲を叩く。
更にミネルバからの砲撃も、的確にアークエンジェルを捉える。
《艦長!!》
モニターの端に、リリアの顔が映った。おそらく格納庫にいるのだろう。繋ぎを着ているのが見えるが、彼女の表情にも焦慮の色が見える。
《私が出ます。ライキリの発進許可を!!》
「駄目よッ 危険すぎるわ!!」
今回、リリアを出撃させなかったのは、彼女の技量では今回の戦況はきつすぎると判断したからだ。この包囲された状況下で、他に僚機もいないリリアを出撃させても、無駄に撃墜されてしまうのは明白だった。
《でもこのままじゃ、シン達も!!》
「・・・・・・・・・・・・」
判っている。
マリューも先ほどから、イリュージョンが置かれている状況は把握していた。
あのシンが、2機掛かりとはいえ、あそこまで苦戦させられるとは。
特に、あのインパルスの戦闘力は驚愕に値するだろう。
シンとマユの事は信頼しているが、このままでは危ない。
「とにかく、あと少しよ!!」
海岸線は、もう見え始めている。海に出て潜航する事が出来れば、振り切る事は充分に可能なはずだった。
「潜航用意、非常隔壁閉鎖!!」
マリューは鋭く命じる。
《艦長、ライキリをッ シンとマユちゃんを迎えに行きます!!》
「駄目よ!!」
リリアの再度の具申に対して、マリューは強い口調で却下する。
インパルスとセイバーの猛攻に晒されるイリュージョン。あの真っ只中にリリアが飛び込んで行ったりしたら、1分と持たずに撃墜されてしまう。
ここはシン達を信じて、自分達の身を守る事を最優先にするしかなかった。
着弾時の衝撃は、アークエンジェルの艦内にまで伝わってきた。
医務室で拘束されているネオも、ベッドから転げ落ちそうになり、慌てて縁に掴まる。
「おっとっと・・・・・・やれやれ、どうしていつも、ここはこう・・・・・・」
言いかけて、言葉を止める。
「いつも」、何なんだ?
まるで自分がこの艦の事を良く知っているかのような言葉が出た事に、当のネオ本人が訝る。
いったい何なんだ、この奇妙な感覚は?
そしてここの連中はなぜ、自分をおかしな物を見るような眼で見るのか?
彼らが口にしていた「ムウ・ラ・フラガ少佐」と言う人物。
名前も知らないそのフラガ何某とやらに、ネオは思いを馳せずには至らなかった。
いったいどんな人物だったのか。彼等にとっては、どんな存在だったのか。
そして、
一度だけ顔を見せた、あの美人の艦長さん。
彼女にとって、そいつはどんな奴だったのか。
ネオはどうしても知りたいと思うようになり始めていた。
交差するような軌道を描き、イリュージョンへ迫ってくるインパルスとセイバー。
その動きを見据え、後退しながらライフルを放つイリュージョン。
狙ったのはインパルス。
伸びるビームの閃光がインパルスへと迫った次の瞬間、
インパルスは、再び上下のパーツを分離してイリュージョンの攻撃を回避した。
「そんなッ!?」
うめくマユ。
先程から、トリッキーな動きを繰り返すインパルスの機動に、マユは完全に翻弄されていた。
隙を突いてセイバーが迫る。
ビームライフルの一撃。
その閃光が、イリュージョンの手からビームライフルを弾き飛ばした。
「クッ!?」
シンはとっさにイリュージョンの右手でビームブーメランを引き抜くと、セイバーに向けて投げつけた。
その攻撃を、シールドで防ぐセイバー。しかし一瞬、動きが止まったのをシンは見逃さない。
「うおォォォォォォ!!」
イリュージョンの背からティルフィングを抜き放つと、右手と、動作不良の左手まで添えて構え、セイバーに斬りかかる。
対してアスランは、セイバーのシールドを掲げ、イリュージョンの大剣を防いだ。
ぶつかり合う両機。
大剣とシールドが激突し、スパークを起こす。
ティルフィングを振るうには、左腕の動作不良のせいでパワーが不足しているイリュージョンだが、シンは機体の推進力を全開にしてパワーを補い、セイバーを押し斬りにする。
ティルフィングの刃に、セイバーのシールドは両断され、機体も肩から斬り裂かれる。
「アスラン!!」
悲鳴に近い声を上げるアリス。
彼女が見ている目の前で、アスランを乗せたセイバーが雪原へと落下していく。
《俺にかまうなッ 行け、アリス!!》
言った瞬間、
セイバーは爆炎を上げて雪の上へと叩きつけられた。
アスランの生死は不明。
ただ、吹きあがる黒煙だけが、銀世界に一筋吹きあがっている。
「アスラン・・・・・・よくもッ!!」
イリュージョンを睨みつけるアリス。
そのまま推進力を全開にして、イリュージョンへと斬りかかる。
それに対してイリュージョンは、ビームガトリングを放って迎え撃つ。
飛んでくる光弾。
しかしアリスは、インパルスを高速で機動させてイリュージョンの攻撃を回避し、徐々に距離を詰めていく。
もっと・・・・・・もっと速く・・・・・もっと速く!! もっとだ!!
想えば想うほどに、自分の反応速度が上がっていくのが分かる。
インパルスのスピードですら、今のアリスにはもどかしいくらいに遅く感じる。
たまりかねたシンが、ティルフィングを振りかざして斬りかかる。
だが、
「遅いッ!!」
アリスの叫びと共に、ビームサーベルを振りかざすインパルス。
その一撃が、イリュージョンの手にあるティルフィングを、刀身の中途から叩き折った。
「クッ!?」
舌打ちしながら、柄だけになったティルフィングを投げ捨てるシン。
イリュージョンは腰からビームサーベルを抜き放つ。
「お、お兄ちゃん、このままじゃ・・・・・・」
マユが苦しそうに声を発する。
あまりの激しい戦闘の連続に、マユの疲労も際に達している。
「がんばれマユ、もう少しだから!!」
インパルスの猛攻を必死に回避しながら、シンは妹を叱咤してアークエンジェルとの合流を目指す。
この時アークエンジェルは、既に山脈を抜けて海上にあり、その身を海面下に沈めようとしていた。
だが、追ってきたミネルバもまた、そうはさせじとタンホイザーの発射シークエンスを進めていた。
「ミネルバ!! ソードシルエット!!」
ここで勝負を決める。
アリスはとどめを刺すべく、イリュージョンとの距離を詰めに掛る。
そこへ、ソードシルエットを持ったシルエットフライヤーが飛来する。
だがアリスはソードシルエットを装備するのではなく、そこからブーメランのみを抜きとると、イリュージョンめがけて投げつけた。
「クッ!?」
とっさにシールドを翳して、防ごうとするシン。
しかし動作不良の左腕は思うように動かない。
飛来したブーメランは、イリュージョンの左腕を肘から斬り飛ばしてしまった。
片腕となったイリュージョン。
アリスは更に、ソードシルエットからエクスカリバーを抜き放つ。
「これで・・・終わりだよ!!」
振り翳す大剣。
その時、海上で巨大な閃光が走った。
今まさに、潜水しようとしていたアークエンジェルを、ミネルバのタンホイザーが襲ったのだ。
「アークエンジェル!!」
シンの気が、一瞬逸れる。
その隙に、アリスは斬り込んだ。
「はァァァァァァァァァァァァ!!」
振り下ろされるインパルスの大剣。
対抗するように、イリュージョンも剣を突きだす。
交錯する両機。
次の瞬間、
イリュージョンの剣は、インパルスの頭部に突き刺さる。
対してインパルスの大剣は、
イリュージョンの肩に当たり、一気に斬り下げられる。
そして、
周囲は巨大な閃光に包まれた。
PHASE―30「幻想、堕天」 終わり