機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-32「散る花の儚き詩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎が天をも焦がす勢いで燃え盛っている。

 

 逃げ惑う人々は炎に巻かれ、あるいは崩れた瓦礫に押しつぶされていく。

 

 ベルリン。

 

 旧世紀、ドイツと呼ばれた国の首都であり、幾度か現れた指導者の元で、大きな繁栄を経験すると同時に、彼の国が戦争に敗れ東西に分断されていた頃には、街の中心に「ベルリンの壁」と呼ばれる巨大な壁が存在し、長く紛争と悲劇の象徴でもあった。

 

 繁栄、破壊、困窮、復興。

 

 それらを等しく、平等に経験してきた事がある街。それがベルリンである。

 

 そのベルリンが今、再び理不尽な破壊に飲み込まれ、炎と瓦礫の中に崩れ去ろうとしていた。

 

 破壊の中で命を奪われていく者達には、何の罪もない。彼等はただ、普段と同じように普通の生活を営み、日々の暮らしを行っていたに過ぎない。

 

 人が人として、あるべき幸せを享受していたベルリン。

 

 そのベルリンが今、漆黒の巨大な悪魔によって蹂躙されようとしていた。

 

 地球連合軍が戦線投入した、超巨大機動兵器デストロイは、逃げ惑う人々を吹き飛ばし、踏み潰し、焼き尽くしていく。

 

 それに対して、人々はあまりにも無力だった。

 

 ただ炎と瓦礫の中を逃げ惑うしかできない。

 

 だが、逃げる事も無駄でしかない。

 

 逃げても逃げても、巨大な影はどこまでも彼らを追いかけてきた。

 

 駐留しているザフト軍も人々を守る為に出動したが、彼等の存在もまた、巨象に蹴散らされる虫ケラ程度でしかない。

 

 ザフト軍の攻撃は、デストロイに毛程の傷を付ける事は叶わず、逆に圧倒的な火力を叩き付けられて、炎の中へ沈んで行った。

 

 地獄。

 

 ベルリンはまさに、この世に現出した地獄と化そうとしていた。

 

 その様子をまるで映画のように、遠く離れた場所でモニター越しに眺め、嘲笑している男がいる。

 

 ブルーコスモスの盟主、ロード・ジブリールである。

 

「どうです!? 圧倒的じゃないですか、デストロイは!!」

 

 勝ち誇り、高らかに笑いを上げるジブリール。

 

 彼にとって、画面の中に現出した地獄の光景は、最高のショーだった。

 

 自分達を裏切り、ソラのバケモノどもと手を組もうとした裏切者達が住む町。

 

 その裏切者の街が、炎の中に沈もうとしているのだ。楽しくない訳がない。

 

 別のモニターでは、ロゴスを構成する幹部の1人が溜息交じりに呟いた。

 

《確かにのう・・・・・・全て焦土と化し、これでは何も残らんわ》

 

 上機嫌なジブリールとは対照的に、ロゴス幹部達は冷ややかな調子で言う。

 

《どこまで焼き払うつもりなんだ、これで?》

「そこにザフトがいる限りどこまでも、ですよ!!」

 

 モニターの中の地獄に向けてシャンパンを掲げ、ジブリールは一気に飲み干す。

 

「変に馴れ合う連中には、もう一度はっきり教えてやりませんとね。我等ナチュラルと、コーディネイターどもは違うのだと言う事を。それを裏切るような真似をすれば、地獄に堕ちるのだと言う事を!!」

 

 高らかに言い放ち、ジブリールは居並ぶお歴々に、冷ややかな目を向ける。そこには既に、かつて老人達に取っていた恭順の姿勢など一切見られなかった。

 

 とかくこの世は、強者が世界を創るようになっているのだ。当然、権力は力ある者の元へ集まる。

 

 お前等はただ黙って、幕の後ろに座り、金の勘定でもしていれば良いのだ。

 

 止めようのない陶酔感に身を浸して、ジブリールは存分に愉悦を噛みしめる。

 

 薄汚い裏切者や、獣にも劣るバケモノどもを一掃した世界で、美しい世界を創るのは、目の前の老人どもじゃない。

 

 この、ロード・ジブリールなのだ!!

 

 

 

 

 

 デストロイが10メートル進むたびに、最低100人の人間がこの世から消えている。

 

 表現としてはそんな感じだろう。

 

 100人は多少大げさかもしれないが、しかしデストロイが進むたびに屍血山河が築かれているのは確かである。

 

 ベルリンの中心で、全火力を開放するデストロイ。

 

 ありとあらゆる閃光が降り注ぎ、街を文字通り「薙ぎ払った」。

 

 その様子を、カラミティに乗ったベイルは高笑いをしながら眺めている。

 

「ハ~ハッハッハッハッハッハッ!! 良いぞ良いぞ、デストロイ!! 我らに逆らう豚共を、地獄の底へと叩き込んでやるんだ!!」

 

 自身もシュベルトゲベールを振るい、立ち並ぶ建物を次々と斬り飛ばし、逃げ惑う人々をがれきの下敷きにしていく。

 

 目を転じればラーナのレイダーや、他の地球軍機も虐殺に加わっている。

 

 その様を見て、ベイルは哄笑を閃かせる。

 

「泣け!! 喚け!! 俺達を裏切り、モルモット共と手を組もうとするから、こんな事になるんだ!! その事を、地獄に落ちて後悔するんだなァ!!」

 

 言いながら、対艦刀で傍らのビルを斬り飛ばす。

 

 その一撃でビルは半ばから崩れた。

 

 瓦礫が落下する先、そこにはまだ、逃げ遅れた人々がいる。

 

 人々は、絶望感を持って崩れてくる瓦礫を見上げ、

 

 そして一瞬後には押しつぶされていた。

 

 湧き上がる悲鳴や嘆きの声。

 

 それらをシャワーのように浴びて、ベイルは恍惚とする。

 

「ああ、この感覚だ。やはり、戦いとはこうでなくてはな・・・・・・久しく忘れていたよ」

 

 抵抗できない相手を一方的に蹂躙する時の快感。湧き上がった悲鳴や怨嗟の叫びをBGMに、屍の山を築きあげるのは、この上ない至福だった。

 

「まだだ・・・・・・まだ足りん!!」

 

 言い放つと、尚もか細い抵抗をつづけるザフト軍に、容赦なく砲撃を浴びせているデストロイに目を向けた。

 

「さあ、デストロイ!! もっと暴れろ!! その名に刻まれた名前の如く、破壊と絶望を振り撒きつづけるのだ!!」

 

 ベイルの言葉を受けて、デストロイは動き出す。

 

 コックピットに座るステラは、既にベイルの命令を受けて動くように再調整されている。

 

 かつてあった、ネオに対する思慕や、ラキヤ、スティング、アウル達との友情は、少女の中から完全に消し去られ、破壊の権化であるデストロイを操る為の部品としてだけに、ステラは存在していた。

 

 アウフプラール・ドライツェーンを発射すべく、砲門を向けるデストロイ。

 

 その時だった。

 

 突如、閃光が黒煙を突いて飛来し、デストロイを直撃した。

 

 閃光は陽電子リフレクターに阻まれるが、突然の事で緊張が走ったのは言うまでもない。

 

「何だッ!?」

 

 とっさに顔を上げ、閃光が飛来した方向を見るステラ。

 

 そこにはX状のスラスターから噴射炎を発する、トリコロールの機体が接近してくるところだった。

 

「ステラ!!」

 

 ストームを駆り、デストロイへ接近するラキヤ。

 

 クラークからデストロイの事を聞いたラキヤは、自身の胸の内に生じた強迫観念に従い、ステラが収容された病院に連絡を取った。

 

 デストロイを動かすにはエクステンデットが必要だが、もしそのエクステンデットを手っ取り早く確保しようと考えるなら、ステラに目を付けるかもしれない。

 

 予感は的中した。

 

 ラキヤが連絡した時、ステラは既に連れ出された後だったのだ。

 

 それを受けてラキヤは、取り急ぎデストロイの行動計画を入手し、ここまでやってきたのである。

 

「ステラ、僕だ、ラキヤだ!!」

 

 周波数が分からないので、オープン回線で呼びかけるラキヤ。

 

 だが、

 

「何だ・・・・・・お前はァァァァァァ!!」

 

 ステラが叫ぶと同時に、デストロイは円盤状のユニットからネフェルタム503を全方位に向けて一斉発射する。

 

「クッ!?」

 

 その攻撃を、機体を翻す事で回避するラキヤ。

 

 反撃の為にレーヴァテインをライフルモードでを放つが、全てリフレクターに阻まれてデストロイには傷もつけられない。

 

「ステラ、僕が分からないのか!?」

 

 間断無くデストロイから放たれる攻撃を、ラキヤは全て紙一重で回避していく。

 

 周囲を見回せば、かつては美しい街並みがあったはずの風景が炎に焼かれ、一面、瓦礫の山と化していた。

 

 戦慄する。

 

 これを全て、ステラ1人でやったと言うのか?

 

 モビルスーツ100機を集中投入したとしても、これだけの大都市を短時間でここまで破壊しつくす事は出来ないだろう。

 

 それをデストロイは、僅かな時間でやってのけたのだ。

 

 その時、出し抜けに閃光がストームを掠めて行った。

 

「クッ!?」

 

 とっさに、機体を翻すラキヤ。

 

 そこへ、接近する機影がある事に気づいた。

 

《また貴様か、ラキヤ・シュナイゼル!! どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ!?》

 

 憎しみの籠った叫び。

 

 その声と、接近する機影にラキヤは覚えがあった。

 

「ベイル・ガーリアン!! あなたが!?」

 

 カラミティの対艦刀の攻撃を回避するラキヤ。

 

 ステラを連れ出したのが誰なのか、この地獄を嬉々として現出したのが誰なのか、ラキヤは瞬時に理解した。

 

 目の前の憎むべき男。こいつが、全ての元凶か。

 

《目障りなんだよ貴様はッ 今日こそ、ここで殺してやる!!》

 

 言いながら、カラミティ胸部のスキュラを発射するベイル。

 

 ストームに向かって飛んでくる太い閃光。

 

 その攻撃を回避して、ラキヤはカラミティへ接近する。

 

「僕も、あなたを許す気はない!!」

 

 言いながら、レーヴァテインを対艦刀モードに変形、カラミティに斬り掛かる。

 

「よくもステラに、こんな事をさせたな!!」

 

 振り下ろされる大剣の一撃。

 

 その攻撃を、カラミティは後退する事で回避する。

 

 ステラに対してした事もそうだが、このような無意味な虐殺をした事もまた、ラキヤは許せなかった。

 

「いったい、こんな事をして何の意味があるんだ!? 罪の無い人達をこんなに殺して!!」

《「罪が無い」だと?》

 

 8連装スティレットを一斉発射するカラミティ。

 

 その攻撃をラキヤは、ビームガンで撃ち落とし、残った物は回避する。

 

《馬鹿が。こいつらは俺達を裏切ったッ 人間である事の誇りを捨てて、コーディネイターのモルモット共と手を組もうとしたッ 充分、万死に値する理由だよ!!》

 

 体勢が崩れたストームに、斬り掛かるカラミティ。

 

 対してラキヤは、ストームを大きく後退させて回避した。

 

 馬鹿な、とラキヤは思う。

 

 確かに彼等は、地球連合を裏切ったのかもしれない。だが、相手は同じナチュラルなのだ。それをこうまで徹底的に虐殺するとは。

 

 裏切者には徹底的な殺戮を行い他者への見せしめとする、というのは確かに古来からある戦場の手法の1つである。ひどい虐殺をわざと見せつけ「裏切った者はこうなる」と言うのを具体的に見せつけ、恐怖によって他者を縛るのだ。

 

 しかし、それが完全に成功した例は、実は少ない。

 

 常軌を逸した虐殺は、逆に人々に対して窮鼠の蛮勇を与える事になり、それはやがて、大きな力となって帰ってくるのが常である。

 

 ベイルには、ひいては彼にこの虐殺を命じたジブリールには、そんな単純な計算もできていないのだ。

 

 そこへ、今度は別の方向から砲火が浴びせられる。

 

《面白そうなことやってるじゃないのさッ あたしも混ぜなよベイル!!》

 

 言いながら、ツォーンを放ちレイダーが突っ込んでくる。

 

 そのヒートクローの一撃を、かろうじて回避するストーム。

 

《ジャックの仇だよッ 覚悟するんだね!!》

 

 反転すると同時に、両翼のビームブレードを展開して、再び斬り込んでくるレイダー。

 

 更にカラミティも2本の大剣を掲げて斬り掛かってくる。

 

《どうしたどうした!? 少しは反撃してくれんと、こっちは面白くないぞ!!》

 

 言いながら斬り掛かってくるカラミティ。

 

 それを回避すると今度は、レイダーが突っ込んでくる。

 

 クレタ沖でジャック・ランベルトを失ったとはいえ、ガーリアン隊の連携攻撃はいまだ健在だった。

 

 そしてその間にも、デストロイは破壊と殺戮を続けている。

 

「クッ ステラ!!」

 

 カラミティの攻撃を回避しながら、ラキヤは叫ぶ。

 

「やめるんだステラ!! こんな事しちゃいけない!!」

《フハハハハ、無駄だ、無駄無駄ァ!!》

 

 ベイルの耳障りな哄笑が響き渡る。

 

《ステラ・ルーシェには、もはや貴様の戯言など聞こえはしない!!》

「まさか・・・再調整したのか!?」

《当然だろうッ 面倒な話だが、これをやるためには、どうしてもあの人形の力が必要だったのだからな!! 無駄に馬鹿げた記憶は、全て削除させてもらった!!》

 

 憎しみが、ラキヤの中で募っていく。

 

 こんな男に、ステラが!!

 

 だがベイルは、そんなラキヤを嘲笑い叫ぶ。

 

《さあ、ステラ・ルーシェよ!! 奴はストーム、お前を殺しにやってきた憎き敵だ!! 奴にお前の力を見せつけてやれ!!》

 

 呪詛めいたベイルの声が、ステラの耳に届く。

 

「・・・・・・・・・・・・敵?」

 

 敵はダメ

 

 敵は怖い

 

 敵は・・・・・・倒さなきゃ

 

 ステラが操作を行うと、デストロイに変化が生じた。

 

 被っていた円盤ユニットが背部に回り、腰が180度回転する。

 

 腕と脚が伸び、頭部が出現した時、デストロイは完全な人型に変形を終えていた。

 

「これが・・・・・・X1、デストロイ・・・・・・」

 

 型としては、ストームやカラミティなどXナンバー系の機体と共通している物があるが、その巨体や、全身から突き出した砲門など、凶悪の一言に尽きた。

 

 デストロイは2本の腕を分離して、ストームへ飛ばしてくる。

 

 ドラグーンの技術を流用して作られたデストロイの武装で、腕部ビーム砲シュツルムファウストだ。

 

 5本の指からは次々とビームが発せられ、ストームを狙い撃つ。

 

 それに対してラキヤは、逃げ回る事しかできないでいる。

 

 そこへ、デストロイの胸部が発光を開始した。

 

「ッ!?」

 

 殆ど本能的に機体をターンさせ、回避行動をとるラキヤ。

 

 デストロイ胸部に備えられた1580ミリ複列位相砲スーパースキュラが発射された。

 

 太い閃光が、ストームがいた空間を薙ぎ払い、それのみにとどまらず、街の外縁部に着弾し、そこを炎の海へと沈める。

 

 恐るべき威力だ。

 

 戦慄するラキヤ。果たして今の一撃で、いったいどれだけの人間が死んだ事だろう。

 

 だが、感慨に耽る間もなく、シュツルムファウストが、更にカラミティとレイダーが攻撃してくる。

 

 そこへ更に、デストロイの本体も攻撃に加わる。口部のツォーンを放ち、ストームを攻撃してくる。

 

 対してラキヤは手を出す事も出来ず、ただ回避に専念するしかない。反撃しようにも、敵の連携攻撃を前に、機が掴めないのだ。

 

 その間にもベルリンの街並みは破壊され、人々は絶望の中に死に絶えていく。

 

 唇を噛むラキヤ。

 

 このまま、何もできないのか、自分は?

 

 ステラを助けられず、ベイル達の虐殺も止められず、多くの罪の無い人達を助ける事もできないのか!?

 

 絶望が、ラキヤを包み始めた、

 

 その時、

 

 出し抜けに飛来した閃光が、デストロイの円盤部分を直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出し抜けに飛来した閃光は、まさに破壊の限りを尽くしていたデストロイを押しとどめるように突き抜けた。

 

「あうッ!?」

 

 悲鳴を上げるステラ。

 

 円盤の一部が破壊される。

 

 予期しなかった攻撃を前に、リフレクターの展開が間に合わなかったのだ。

 

 同時に、シュツルムファウストの動きも停滞する。

 

「今だ!!」

 

 ラキヤはレーヴァテインを対艦刀モードにすると、目の前に浮かんでいたシュツルムファウストを斬り飛ばし、一瞬で包囲網を突破した。

 

 閃光が飛来した方向へと目を向ける。

 

 そこには、赤い翼を携えた見た事のない機体が、まっすぐにこちらへ向かってくるのが見えた。

 

「イリュージョン・・・・・・いや・・・・・・」

 

 姿は似ているが、形状がところどころ違う。全くの別の機体だった。

 

 ザフト軍が、その持てる技術の粋を結集して開発した最強の機体。

 

 ZGMF-X42S「デスティニー」

 

 運命の堕天使が、破滅の未来に抗うべく駆け付けたのだ。

 

 誰もが唖然とする中、デスティニーは背中から対艦刀アロンダイトを抜き放ち、破壊と絶望の権化たるデストロイへ斬り掛かった。

 

「よくも・・・・・・よくもこんな事をォォォォォォ!!」

 

 そのコックピットの中で、アリスは叫びを発する。

 

 突撃するデスティニー。

 

 その高速の動きに、デストロイは対応する事が出来ない。

 

 一閃。

 

 振り下ろされた大剣が、デストロイを斬り裂く。

 

 その一撃が、デストロイの腹部、コックピット付近を大きく斬り裂いた。

 

「アウゥッ!?」

 

 コックピットの中で悲鳴を上げるステラ。

 

 幸い、デストロイのコックピットは厚い装甲に覆われている為、ステラに怪我はない。

 

 しかしデスティニーの攻撃は、その厚い装甲を一撃の元に斬り裂き、内部をむき出しにしていた。

 

 周囲の状況を、改めて見回すアリス。

 

「こんな・・・・・・こんな事って・・・・・・」

 

 映像で見ていて、ある程度の覚悟はしていたが、実物は予想の遥か上を行っていた。

 

 瓦礫の山と化した、大都市ベルリン。

 

 不必要としか思えない徹底的な破壊は、ベルリンと言う街を、完全に地図の上から消し去っていた。

 

「何で・・・・・・何で、こんな事ができるの!?」

 

 目に涙を浮かべ、アリスが叫ぶ。

 

 なぜ、こんな事をしなくてはいけないのか?

 

 こんな事をする必要がどこにあるのか?

 

 アリスには、まったく理解できなかった。

 

「何だ貴様はァ!?」

 

 突如現れた謎の機体に怯みながらも、攻撃を開始するベイルとラーナ。

 

 だが、飛来する攻撃に対して、デスティニーは赤い翼を閃かせ、急速に機体をターンさせて回避する。

 

 その急激な動きに、誰もが対応する事が出来ない。

 

「な、何だこいつは!?」

 

 傍らのラーナが、驚いた声を発する。

 

 想像を絶するような機動力。あのイリュージョンをも凌駕するような速度。

 

 しかし、驚くのはそれだけではない。

 

 デスティニーが動くたびに、その機体がブレて見えるのだ。

 

 これが、デスティニーの主力武装の1つである。ミラージュコロイドの眩惑機能を利用し、空間に残像を残す事ができるのだ。

 

 これにより、対峙した相手は正確な照準が困難となる。

 

 カラミティやレイダーのみならず、他の地球軍機も攻撃に加わるが、デスティニーを捉える事ができた攻撃は1機も無い。

 

 逆にデスティニーはビームライフルを構え、呆然としているウィンダムを、次々と撃ち抜き、撃墜していく。

 

「この野郎!!」

 

 カラミティのシュベルトゲベールを振りかざし、デスティニーへと斬り掛かるベイル。

 

 砲撃が当たらないなら、接近して斬り刻んでやるまでだった。

 

 振り翳された2本の刃がデスティニーへと迫り、

 

 次の瞬間、デスティニーが振るったアロンダイトの一閃が、カラミティの左腕を斬り飛ばした。

 

「なっ!?」

 

 目を剥くベイル。

 

 速すぎる。

 

 ベイルの目は、その動きを追う事すらできなかった。気が付いたら、カラミティの腕は宙に舞っている状態だったのだ。

 

「クソッ 何なんだ、こいつは!?」

 

 ベイルは悪態をつきながら、後退するしかない。

 

 その隙に、デスティニーはデストロイへと向かう。

 

「はァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 振りかざされるアロンダイト。

 

 閃光の如き、一閃。

 

 その一撃が、右のアウフプラール・ドライツェーンを根元から斬り飛ばした。

 

 轟音を立てて地面に落下する砲身。

 

 アリスは更に斬り込もうと、アロンダイトを構え直した。

 

 その時、

 

《やめろォォォォォォォォォォォォ!!》

 

 レーヴァテインを振りかざし、ストームがデスティニーに斬り掛かってきた。

 

「クッ!?」

 

 とっさの事で、振り下ろされた大剣の一撃を、ビームシールドで防ぐデスティニー。

 

 激突するデスティニーとストーム。

 

 2機はそのままもつれ合いながら、錐揉みするように、黒煙に包まれたベルリンの街へ落下していった。

 

《悪いんだけど、これ以上はやらせないよ!!》

 

 叫ぶラキヤ。

 

 その声を聞き、

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 アリスは、動きを止めた。

 

 同時に、相手の機体にも見覚えがある事に気づく。

 

 それは、アーモリーワン以来、何度も対峙した機体。そしてクレタ戦の時、ラキヤが乗っていた機体だった。

 

「・・・・・・もしかして・・・・・・先輩?」

《・・・・・・・・・・・・え?》

 

 アリスの声を聞き、ラキヤも動きを止めた。

 

 聞き覚えのある、愛しくも懐かしい少女の声。

 

《アリス・・・・・・なの?》

「先輩・・・・・・・・・・・・」

 

 憧れの先輩との、三度目となる再会。

 

 しかし同時に、この顕現した地獄を前に、アリスの中では思慕よりも憎悪の方が急速に募っていく。

 

「何で・・・・・・なんですか・・・・・・」

 

 絞り出すような少女の声には、怨嗟が満ち溢れる。

 

 止めようと思っても止まらない。

 

 アリスは、自分の中でドス黒い感情が、急速に広がっていくのが分かった。

 

「・・・・・・どうして、こんな事するんですか?」

《アリス・・・・・・・・・・・・》

 

 激情が、アリスの中で爆発した。

 

「何でこんな事ができるんですか!? 自分達が何をしたのか、判っているんですか!?」

《・・・・・・・・・・・・》

「罪の無い人達をこんなに・・・こんなに殺してッ こんな事をして、いったい何になるんですか!?」

 

 アリスの糾弾に対して、ラキヤは何も答える事は出来ない。

 

 これをやったのは自分ではなくベイルだ。そう言うのは簡単だ。

 

 だが、不本意ではあるものの、ベイルはラキヤと同じ地球軍人だ。そのベイルがやった事を、ラキヤが他人の振りをして責任を押し付ける事は出来なかった。

 

「答えてください!!」

 

 涙交じりに、アリスは悲痛な叫びを発する。

 

 この地獄の現出にラキヤが関わっていた。そう思うだけで、アリスは胸が張り裂けそうだった。

 

「お願い・・・・・・答えて、先輩・・・・・・・・・・・・」

《アリス・・・・・・》

 

 ややあって、ラキヤが口を開いた。

 

《ごめん・・・・・・アリス・・・・・・》

「・・・・・・・・・・・・先輩」

 

 その言葉を聞き、アリスは悟った。

 

 ラキヤも決して、この状況を歓迎しているわけではないと。

 

《アリス、聞いてほしい。僕はこの殺戮を止めたい。君も力を貸してくれないか?》

「良いですけど、どうするんですか?」

 

 ラキヤはカメラの視線を、尚も破壊をつづけるデストロイへと向けた。

 

《あれに乗っているのは、ステラなんだ》

「え、ステラって・・・・・・」

 

 忘れるはずもない。あのポートタルキウスで会った、儚げな印象の少女だ。

 

 あのふわふわした印象の少女と、目の前で破壊を続ける巨大な悪魔。その双方にはあまりに差異がありすぎて、アリスにはどうしても結び付けられなかった。

 

《ステラは今、洗脳されて僕の事も分からなくなってしまっている。でも、僕はそれでもステラを助けたいんだ》

 

 それが偽善である事はラキヤにも分かっている。己の意志ではないとはいえ、これだけの破壊と殺戮を行ったステラ。たとえラキヤ達が許したとしても、世間の誰もがステラを許しはしないだろう。

 

 だがそれでも、偽善と知って尚、ラキヤはステラを救いたいと思った。

 

「判った」

 

 頷くアリス。

 

《ありがとう》

 

 頷くラキヤ。

 

 次の瞬間、デスティニーとストームは同時に黒煙を突いて飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛び出した2機のモビルスーツは、すぐにステラの目にも飛び込んできた。

 

「そこかァァァァァァ!!」

 

 雄叫びと共に、スーパースキュラを発射するデストロイ。

 

 駆け抜ける極太の閃光。

 

 だが、機動力に勝るストームとデスティニーは、余裕の動きで回避してデストロイへ迫る。

 

《アリス、まずはデストロイを戦闘不能にして動きを止めよう!!》

「はい、先輩!!」

 

 レーヴァテインを振りかざすストーム。

 

 アロンダイトを掲げるデスティニー。

 

 地球圏屈指の高機動型モビルスーツ2機が、巨大な悪魔へと迫る。

 

 閃光が2条、クロスして奔る。

 

 デストロイの装甲がX字状に斬り裂かれた。

 

「グゥッ!?」

 

 悲鳴を上げるステラ。

 

 倒れそうになった機体をどうにか堪え、1基残ったシュツルムファウストを分離して飛ばしてくる。

 

 だが、

 

「遅いよ!!」

 

 デスティニーは5本の指から放たれるビームを、残像を残してすり抜ける。

 

 同時にアロンダイトを一閃。

 

 シュツルムファウストは、中指から手首に掛けて真っ二つにされた。

 

 その間にストームは、低空から再度、デストロイへと斬り込む。

 

「はァァァァァァ!!」

 

 斬り上げる一閃。

 

 その一撃はデストロイが背負っている円盤ユニットを、半ば削り取るように斬り裂いた。

 

「クッ コノォ!!」

 

 ステラは焦ったようにデストロイの頭部を回し、口部のツォーンmkⅡを放とうとする。

 

 しかし、

 

「やらせな、い!!」

 

 横合いから駆け抜けたデスティニーが、フルスイングの要領でアロンダイトを振るい、デストロイの頭を斬り飛ばした。

 

 圧倒的な機動力を発揮して、徐々にデストロイの戦闘力を奪っていくデスティニーとストーム。

 

 このままいけば、ステラを助ける事ができるかもしれない。

 

 そう思い始めていた。

 

 その時、

 

《それ以上はやらせんぞ、貴様等!!》

 

 振り返ると、カラミティとレイダーが、デストロイを掩護するように向かってきていた。

 

 デスティニーに片腕を斬り落とされたカラミティだが、ベイルは隠し腕を展開し、3本の腕でもってストームへと斬り掛かる。

 

《貴様如き小僧が、よくも、この俺の邪魔をしてくれたなッ 絶対に許さんぞ!!》

 

 振り下ろされる斬撃。

 

 それを後退して回避するラキヤ。

 

「・・・・・・・・・・・・許さない、だって?」

 

 怒りの籠った瞳で、ラキヤはカラミティを睨みつける。

 

「許さないのは、こっちだ。ステラを、何の罪も無い人達を、よくもこんな目に。絶対に許さないぞ!!」

 

 言い放つとと同時に、レーヴァテインを振りかざすストーム。

 

 対してカラミティも、3本の腕でもって迎え撃つ。

 

 だが、

 

「ハァァァァァァァ!!」

 

 一閃。

 

 それだけで、カラミティの隠し腕が斬り飛ばされる。

 

 更に一撃。

 

 それがカラミティの左足を切断した。

 

「クッ!?」

 

 距離を置こうとするベイル。

 

 だが、ストームはそれ以上のスピードで追いすがってくる。

 

 たまらず、ベイルは立ち尽くしたままデスティニーに翻弄されているデストロイへ叫んだ。

 

《ステラ・ルーシェ、何をしている!? 早くこいつらを叩き落とせ!!》

 

 対して、

 

「ステラ、もうこんな事はやめるんだ!!」

 

 ラキヤもまた、必死に叫ぶ。

 

 相反する2つの声。

 

 それらを聞きながら、ステラは己の中に生じた混乱に苛まれていた。

 

 片方は自分の中で、絶対的に従わなければいけない言葉。その言葉に従うように刻み込まれ、少女の心と体は、鎖で縛られたように拘束されている。

 

 だが、

 

 全く真逆の事を言うもう一方の言葉は、どこか優しく、包み込むような温かさをステラに与えている。何か、とても懐かしい物を思い出せそうな、そんな声。

 

 こっちの声を聞きたい。

 

 もっと聞きたい。

 

 だけど、最初の声に抗えない。

 

《ステラ・ルーシェ!!》

「ステラ!!」

 

 ベイルの声と、ラキヤの声がともに交錯するようにステラの耳に飛び込み、混乱を助長する。

 

 動きを止めたデストロイ。

 

「クッ この木偶の坊が!!」

 

 吐き捨てるベイル。

 

 そこへ、ストームが斬り込んで来た。

 

「これで最後だ、ベイル・ガーリアン!!」

《クッ!?》

 

 振りかざされる大剣。

 

 その時、

 

《ベイル!!》

 

 ラーナのレイダーが、ベイルを助けるべく向かってくる。

 

 その姿を見て、ベイルはほくそ笑んだ。

 

 レイダーがカラミティを救うべく、急速に接近してくる。

 

 次の瞬間、

 

 カラミティはレイダーを踏み台にする形で飛び越えその場を離脱し、迫りくるストームから距離を取った。

 

 当然、取り残される形となったレイダーは、突っ込んでくるストームの真ん前に躍り出る形となる。

 

《なッ!?》

 

 突然の事に、驚くラーナ。

 

 対してベイルは薄ら笑いを浮かべて、戦友の乗る機体が無様にバランスを崩している様子を見据える。

 

「悪いなァ ラーナ。俺の為に死んでくれ。なあに、心配はするな。お前の事は一生覚えておいてやるよ。何しろ、俺の為に命まで捨ててくれた女だからなァ」

《ベイル!?》

 

 次の瞬間、

 

 ストームのレーヴァテインが、レイダーの機体に食い込み、一気に切り下げる。

 

《ベイル!? ベイルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!》

 

 怨嗟の絶叫と共に、炎に包まれるレイダー。

 

 その中で、ラーナ・シルスの肉体は炎に溶け、消えて行った。

 

 レーヴァテインを振り切った状態で、ラキヤは離脱するカラミティを睨みつける。

 

「味方まで捨て石にするのか、ベイル・ガーリアン!!」

《ハッ 知らんな!! 俺は俺が生き残れればそれで良いのさ!!》

 

 言いながらベイルは、機体を飛ばしてデストロイの方へと向かう。

 

《さあ、やれ!! ステラ・ルーシェ!! ここら一帯を全て吹き飛ばすんだ!!》

「やめるんだ、ステラ!!」

 

 再び、相反する言葉が交錯する。

 

 ステラの中で、それらはストレスとなって積み重ねられていった。

 

 優しい声に従いたい。

 

 けど、命令は絶対に破れない。

 

 どうしたら良いのか?

 

 どうすれば良いのか?

 

 誰か・・・・・・

 

 誰か、教えて!!

 

 その時、

 

《死にたいのか、ステラ・ルーシェ!? サッサと言うとおりにしろ、この木偶人形が!!》

「ッ!?」

 

 「死」。それが、ステラのブロックワードである。

 

 そのベイルの一言が、決め手となった。

 

「嫌ァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 絶叫するステラ。

 

 狂乱するように首を振り、殆ど本能的に機体を操作する。

 

「死ぬのは嫌っ 死ぬのは、ダメェ!!」

 

 胸部のスーパースキュラが発光し、発射体勢に入るデストロイ。

 

 それを見て、ベイルは哄笑を上げた。

 

《そうだッ それで良いんだ!! やれェェェェェェ!!》

 

 更に胸部を発光させるデストロイ。

 

「ステラッ ダメだ、ステラ!!」

 

 叫ぶラキヤの声も、もはやステラには届かない。

 

 発射体勢に入るデストロイ。

 

 その射線上にはストームがいる。

 

「しまっ・・・・・・」

 

 状況を悟るラキヤ。しかし、もう回避は間に合わない。

 

 次の瞬間、

 

「ダメェェェェェェェェェェェェ!!」

 

 赤い閃光が、突き抜けた。

 

 デストロイに肉薄すると同時に、右腕を突きだすデスティニー。その掌には、小さな砲門が備えられている。

 

 パルマ・フィオキーナと呼ばれる零距離攻撃兵装である。ビームサーベルよりも更に短い射程であり、超至近距離、あるいは密着状態での攻撃を可能とした、まさに究極の接近戦兵器である。

 

 デストロイの胸部へ密着。同時に、パルマ・フィオキーナを発射するデスティニー。

 

 砲口こそ小さいが、そこには想像を絶する威力が設定されている。

 

 かわしようもなく、解き放たれたエネルギーがデストロイに致命的な損傷を負わせる。

 

 胸部のブロックは吹き飛ばされて完全破壊。

 

 のみならず、スーパースキュラ用にチャージされていたエネルギーもフィードバックし、デストロイの上半身を文字通り吹き飛ばす。

 

 崩壊は、思っている以上に速かった。

 

 崩れていく巨体。

 

 内部に深刻なダメージを受けた事で、構造を保てなくなったのだ。

 

 ベルリン、アムステルダムを含めて、4つの都市を灰燼に帰したデストロイは、今、轟音を上げて大地へと倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 ステラ

 

 

 

 ステラ

 

 

 

 ステラ!!

 

 

 

 誰かが、必死になって自分を呼んでいる。

 

 その優しい声に答え、ステラはゆっくりと目を開けた。

 

 するとそこには、サングラスをかけた懐かしい顔がステラを覗き込んでいた。

 

「・・・・・・・・・・・・ラキヤ?」

 

 そう、この人はラキヤだ。

 

 いつもステラに優しくしてくれた、ステラにとって大好きな人の1人。

 

 戦闘が終わった後、ラキヤはすぐにデストロイの撃墜現場に急行し、コックピットブロックを見つけて、中からステラの体を引っ張り出したのだ。

 

 戦闘中はベイルの施した再調整のせいで、記憶を無くしていたステラだが、今ははっきりとラキヤの事を認識する事ができていた。

 

「ステラ・・・・・・」

 

 ラキヤは少女の体を抱きしめて、そっと呼びかける。

 

 ステラの体は、既に消耗しつくしていた。

 

 無理もない。クレタ戦での傷も殆ど癒えないうちに、無理な再調整されて戦闘をこなし、最後はあの爆発に巻き込まれたのだから。

 

 少女の命の火が消えかかっているのは、もはや明らかだった。

 

「ステラ、みんなの所に帰ろう。みんな、君の事待ってるよ。スティングも、アウルも、隊長も・・・・・・アリスも」

 

 消え行く少女を励ますように、ラキヤは声をかけ続ける。

 

 だが、そうしている内にも、ステラの瞼は徐々に落ちていく。

 

「ステラ!! 寝ちゃだめだ、ステラ!!」

 

 必死に呼びかけるラキヤ。

 

 それにこたえるように、ステラは僅かに唇を動かす。

 

「・・・ラキヤ・・・・・・アリス・・・・・・ネオ・・・・・・アウル・・・・・・スティング・・・・・・」

 

 聞き取れないほど、か細い声で少女は囁く。

 

「ステラ・・・・・・みんな、の事・・・・・・好、き・・・・・・」

 

 そう言った瞬間、

 

 ステラの手が、ゆっくりと落ちる。

 

 そして少女は、二度と目を開ける事はなかった。

 

 

 

 

 

PHASE-32「散る花の儚き詩」      終わり

 

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