機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-33「覇道を征く者」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藁を敷き、櫓を組み、少女の亡骸を中央に横たえる。

 

 運命に翻弄され、望まない殺戮を繰り返した少女は今、自らを縛り付けていた全ての拘束から解放され、穏やかな眠りについていた。

 

 ラキヤは作ってきた松明に火をつけて、櫓の方に掲げる。

 

 ステラをこのまま基地へ連れて行くことはできない。

 

 もしステラを連れて帰ったりしたら、遺体は研究所に引き取られ、データ取得の名目の元、解剖実験に回されることは明白だった。

 

 そんな事はさせない、絶対に。

 

 だから荼毘に伏して、この近くに埋葬してあげようと思ったのだ。

 

 櫓に火をつけようとして、ふと思い立ちラキヤは自分のサングラスを外すと、ステラの手にそっと握らせた。

 

 旅立つステラに何か手向けをあげたいところだったが、生憎とこれくらいしか思いつかなかった。本当はステラが好きだった海に関する物を何か持たせてあげたかったが、生憎、ここは海からも離れている為どうにもならない。ならば、せめて天国に行っても寂しくないように、と思ったのだ。

 

 今度こそ、櫓に火をかける。

 

 櫓を組むのに使った木は、近くに放置されていた炭焼き小屋にあった物を拝借してきた。

 

 元々、暖炉用にと乾燥させていたらしく、火をかけると勢いよく燃え上がり、炎はあっという間にステラの体を包み込んだ。

 

「・・・・・・さよなら、ステラ」

 

 ステラの為に送る、葬送の言葉。

 

 きっと、この少女は未来永劫、人々から恨まれ続けるだろう。

 

 ベルリンをはじめ、西ユーラシアでステラが行った大虐殺は、決して人々の中で風化する事は無いはずだ。たとえそれが、本人の意志でなかったとしても。

 

 だから許そう。

 

 せめて自分だけは、ステラを許してあげよう。

 

 ラキヤは心の中で、そう誓った。

 

 その時、

 

「・・・・・・ごめ・・・・・・なさい」

 

 ラキヤの背後から、嗚咽と共に声が発せられる。

 

 振り返るラキヤ。

 

 そこには地面に座り込み、瞳からは大粒の涙を流しているアリスの姿があった。

 

 アリスもまた、ステラを荼毘に伏すのを手伝ってくれたのだ。

 

「ボク・・・・・・ステラの事・・・守るって・・・助けるって・・・言ったのに・・・・・・それなのに、ボクは・・・・・・」

 

 約束は果たせなかった。

 

 守る事も、助ける事も出来なかったのだ。

 

 それどころか結果的にせよ、ステラの命を奪ってしまったのはアリスだった。

 

「ごめんなさい、ステラ・・・・・・ごめんなさい、先輩・・・・・・」

 

 とめどなく泣き続けるアリス。

 

 そんなアリスにラキヤは歩み寄り、目の前でかがみこむ。

 

 そして、

 

 そっと抱き締めた。

 

「・・・・・・・・・・・・先輩?」

 

 涙で濡れた顔で、ラキヤを見るアリス。

 

 目の前では、ラキヤの青い瞳がまっすぐにアリスを見つめ、笑いかけてきていた

 

「アリスは何も悪くないよ」

「でも、ボク・・・・・・」

 

 言い募ろうとするアリス。

 

 だが、ラキヤは少女の言葉を制する。

 

「アリスは、ただ僕を守ろうとしただけでしょ。だから、君は何も悪くないよ」

「先輩・・・・・・」

「悪いとすれば、僕だ。ステラを助ける事も、守ってあげる事も、止める事だってできたはずなのに・・・・・・」

 

 悔しそうに、言葉を歪ませるラキヤ。

 

 そんなラキヤの胸に顔を埋め、アリスは子供のように泣きじゃくった。

 

 やがて、炎が収束する。

 

 アリスとラキヤはステラの遺骨を丁寧に拾い集めて用意したケースに収めると、あらかじめ選んでおいた場所へ運び、そこに穴を掘って埋葬した。

 

 その場所は湖の畔である。海が好きだったステラの為に、水辺に近い場所を選んであげたのだ。

 

 埋葬を終え、十字に組んだ木を立てる。

 

 あえて銘を刻むような事はしない。万が一、今回の騒動で恨みを持つ者にこの場所を知られたら、墓を荒らされてしまうかもしれないからだ。

 

「後でちゃんと、海が見える良い場所に移してあげる。だから、今はここで我慢してね、ステラ」

 

 そう言って笑いかけるラキヤ。

 

 そのラキヤに、アリスは意を決して話しかけた。

 

「ねえ、先輩・・・・・・」

 

 振り返るラキヤに、アリスは真剣な眼差しを向けて言った。

 

「ザフトに、戻ってきませんか?」

「ザフトに、僕が?」

 

 突然の申し出に、ラキヤは訝るようにして尋ね返す。

 

 それに対してアリスは、真剣な眼差しで頷いた。

 

「ボクも詳しい事は知らないんだけど、デュランダル議長は何か新しい政策をやろうとしているみたいなんです。多くの人達が幸せになるような、そんな政策を」

「デュランダル議長が・・・・・・そうなんだ」

 

 デュランダルの事は、無論、ラキヤも知っている。

 

 それは単に敵国の元首と言うだけでなく、善政と融和をモットーにし、なおかつ理想に溺れず現実を歩む事ができる得難い政治家としてである。

 

 正直、ロード・ジブリールなど、デュランダルに比べたら小者も良いところだった。

 

「議長なら、先輩が普通に生きていけるような世の中を作ってくれると思うんです。だから、帰ってきませんか?」

 

 アリスはすがるように、ラキヤを見る。

 

 勧めるような形を取っているが、実質、それは懇願に近い。

 

 アリスはラキヤに、戻ってきてほしいのだ。そうすれば、もう戦わなくて済むし、何より憧れの先輩とずっと一緒にいる事ができる。

 

 対してラキヤは、フッと微笑む。

 

「ありがとう、アリス」

 

 自分の為に、そうまで言ってくれる後輩の言葉は嬉しかった。

 

 本当にそれができたら、どんなに良かったか。

 

「けどごめん、やっぱり駄目だ」

「・・・・・・どうして?」

 

 アリスもその答えは、半ば予想していた。この程度の説得で、ラキヤを叛意させる事は出来ないだろうと。

 

 だから取り乱す事なく、ラキヤの言葉を待つ。

 

「今の僕は、地球軍の士官だ。元々は強制的に入隊させられたようなものだったけど、これだけいれば、見捨てる事ができない人も、捨てる事ができない柵も出てくるよ」

 

 立ち上がり、アリスをまっすぐに見る。

 

「だから僕は今、地球軍をやめるわけにはいかないんだ」

 

 そう言うとラキヤは、もう一度アリスを抱きしめた。

 

「ありがとう、アリス」

 

 そっと、少女の体を放し、歩き出すラキヤ。

 

 その向かう先には、寄り添うように佇む、ストームとデスティニーの姿がある。

 

 正直、アリスの誘いには、抗いがたい魅力があった。

 

 何事もなく、自分がザフトに戻る事ができ、アリスやルナマリア、メイリン達と共に歩めたら・・・・・・

 

 否、そこまで贅沢は言わない。せめて何もかも捨てて、ここからアリスを連れて逃げる事ができたら、それだけで、もう幸せかもしれない。

 

 だが、ラキヤにはそれができない。

 

 ストームのコックピットに乗り込み、システムを起動する。

 

 アリスには言っていないが、ラキヤにはもう1つ、心残りがあった。

 

「・・・・・・・・・・・・あいつだけは、許さない・・・・・・絶対に」

 

 静かに、囁くように、言葉を紡ぐ。

 

 その脳裏には、憎き仇敵、ベイル・ガーリアンの姿がある。

 

 ステラを利用するだけ利用し、多くの人々の命を奪い、この世に地獄を作り出したベイル。

 

 あの男との決着をつけない限り、ラキヤはここから逃げる事も、投げ出す事も出来ない。

 

 戦闘が終わった後、ベイルはいつの間にか逃走し、姿を消していた。

 

 だが、あの男がこのまま終わるはずがない。必ず、執念深く、ラキヤの前に姿を現すはずだ。

 

 その時こそ、全ての事への報いを受けさせてやる。ラキヤはそう心に誓い、ストームを飛び立たせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南海に砲火の轟音が轟き渡る。

 

 上空では無数のモビルスーツが乱舞し、蒼穹に白い航跡を描いている。

 

 海上に展開した艦船も盛んに砲火を交わし、炎の応酬を繰り返している。

 

 オーブ政府軍とセイラン軍の戦いは、いよいよ佳境に入ろうとしていた。

 

 この日、セイラン軍は持てる戦力の全てを投入し、政府軍が拠点を置くアカツキ島に最後の攻勢を行った。

 

 セイランには、もはや後が無かった。

 

 相次ぐ戦闘による敗北で、戦力の消耗を繰り返し、内戦開始当初は優勢だった戦況は、五分にまでよりを戻されてしまっている。

 

 そこに来て、スエズ派遣軍の大敗が大きく響いていた。

 

 出撃した艦隊の8割を喪失、機動兵器に至ってはほぼ全滅と言う大損害を食らい、派遣軍は這う這うの体で逃げ帰ってきたのだ。

 

 これによりセイラン軍は戦力の大半を無為に喪失し、戦線の構築すらままならない状態に陥っていた。

 

 既に国民の大半からも支持を失っている。

 

 そもそも、国民の大半が元々、潜在的にはアスハ寄りである。彼等からすればカガリは、名君と誉れ高いウズミ・ナラ・アスハの娘であり、彼女自身が前大戦の英雄でもある。翻ってセイランはと言えば、ほんの2年前までとは自分達とそう変わらない下級氏族であり、戦後の混乱を利用して成り上がった新参者に過ぎない。

 

 争いが表面化すれば、国民がどちらを支持するかは明白だった。

 

 このじり貧の状況を打破するためにセイランが選んだ最後の手段は、「攻勢」だった。

 

 とにかく勝てば良い。

 

 一戦して勝ち、政府軍を完膚無きまでに撃破する。

 

 そしてアカツキ島へ乗り込みカガリを逮捕し、降伏文書にサインさせる。それで全ては元通り。セイランの天下が再びやってくることになる。

 

 セイラン軍内部の、まだ良識のある軍人達は、現時点における攻勢には難色を示した。

 

 今は守りを固め戦力の温存に努めるべきである。政府軍はいずれ必ず攻勢を仕掛けてくる。その時、地の利を活かして撃退し、その後、改めて攻勢に出るべきだ、と。

 

 しかし、そうした消極論を展開した軍人をセイランは片っ端から罷免、降格の憂き目に合わせ、軍内部を出戦論で統一すると、全軍を上げてアカツキ島へ攻勢を開始した。

 

 主力軍のみならず予備戦力まで投入した、まさに後先を考えない最後の攻勢である。

 

 幸いな事に、今は政府軍の守護神と言うべきイリュージョンは不在だ。ならば、防衛線も簡単に突破できるはず。

 

 セイラン側はそのように考えていた。

 

 

 

 

 

 セイラン軍のムラサメが編隊を組んで飛来し、空爆を開始する。

 

 それに対して政府軍も、ムラサメやM1Sを繰り出し、必死に防空戦を展開する。

 

「進めェ!! 今こそ我らの勝利を確実な物とし、セイランの威光を天下に示すのだ!!」

 

 モビルスーツ隊隊長の激に従い、セイラン軍は政府軍の陣営へと突撃していく。

 

 だが、島に近付けばそれだけ政府軍の抵抗も激しくなる。

 

 アカツキ島の防御陣地に布陣したM1部隊が、向かってくるセイラン軍の機影に対して砲門を開き、濃密な火線で迎え撃つ構えを見せていた。

 

 空中で弾け飛ぶムラサメ。

 

 多くの機体が、対空砲の網に絡め取られ、島を目前にして炎を上げて墜落していく。

 

 だが、勿論、セイラン軍もただやられてばかりではない。

 

 中には巧みな操縦で対空砲火をすり抜けて接近し、居並ぶM1を次々と破壊していくムラサメもいる。

 

 海上では護衛艦やイージス艦が互いに砲門を開いて、激しい砲撃の応酬を繰り広げていた。

 

 政府軍とセイラン軍、互いに1歩も引かない。

 

 この戦いに負けた方が、この内戦を失う。それは、両軍の指揮官が認識を共有するところでもあった。

 

 政府軍の司令部には、戦況が次々と伝えられてくる。

 

「第22航空戦隊、発進」

「第5機甲大隊、損耗率32パーセント、一時後退します!!」

「タケミカヅチより入電、第3次攻撃隊、発進準備完了」

「第4戦隊、損傷大につき、一時後退します」

 

 司令官席に座るカガリの元へ、次々と報告がもたらされる。

 

 政府軍の兵士達は皆、よく戦ってくれている。皆これまでセイラン軍との戦いを支えてきた歴戦の兵士達だ。世界中のどの軍と比べても、遜色無い実力者達だとカガリは自負している。

 

 だが、セイランも今回は死にもの狂いになってきている。

 

 セイランにはもう後が無い。ここで敗れたら、完全に勝機を失う事になる。それだけにセイラン軍の兵士達も躍起になって攻撃を仕掛けてきていた。

 

「全軍に通達。無理せず、防戦に努めろ。敵を倒すのではなく、防衛線の維持に力を注げ。持ち堪えればこちらの勝ちだ!!」

「ハッ!!」

 

 カガリの命令は直ちに伝えられる。

 

 戦況は、一進一退の状況が続いている。このまま推移すれば、戦局がどう転ぶかわからない。

 

 カガリいざとなったら、自身が出撃する事も視野に入れている。既にこのアカツキ島では、カガリ専用機であり、オーブ軍の旗機でもある機体が完成していた。

 

 今すぐにでも出撃して、戦線に加わる事もできるだろう。

 

 だが、それは本当に最後の手段だ。今はまず、カガリは腰を据えて指揮に専念しなければならなかった。

 

 それに、他に手を打っていない訳じゃない。

 

 カガリの思惑が図に当たれば、もう間もなく戦局は政府軍優位に傾くはずだった。

 

 

 

 

 

 ムラサメを駆るセイラン軍モビルスーツ隊隊長は、もう間もなくアカツキ島の海岸線を望める場所にまで進出していた。

 

 背後には配下のムラサメ隊が付き従っているが、出撃時に比べると数は半分近くに減っている。

 

 ここに来るまでに、多くの部下達を失っていた。いずれも一級の技量を持った得難い人材達である。

 

 何事も無ければ、オーブと言う国を守る為に誇り高く戦う事を約束された勇士達だ。それが内戦と言うオーブ人同士の戦いで無為に失われている事には、悔しさを禁じ得ない。

 

「だから、言わんこっちゃないッ!!」

 

 吐き捨てるような呟きは、自軍の上層部に向けられたものである。

 

 彼自身、今回の出撃には反対だった。

 

 内戦開始当初に比べると、セイラン軍の戦力は6割近くにまで減少している。

 

 全盛期ですら、セイラン軍はアカツキ島を陥落させる事ができなかった。だと言うのに、激減した今の戦力で強硬に攻めたとしても、良い結果が出せるはずがないのだ。

 

 だが、それを直に進言した多くの軍人は罷免され、軍を去る者までいる始末である。

 

 彼があえて上層部への直言を避けたのは、自分まで軍を去る事になればモビルスーツ隊を指揮できる人間がいなくなるからである。

 

 だが、結局は前線の兵士が無駄に命を散らしていく事態になっている。

 

 戦を知らない文官が、素人判断で命令を下すからこのような事になる。シビリアン・コントロールが適用されるのは平時の話だ。戦時には戦時の、非常な体勢が必要になる。それがセイラン派の官僚には全く分かっていなかった。

 

 だが、もう間もなくだ。既に視界の中にアカツキ島が映っている。あそこまで行けば、セイラン軍の勝ちは見えたようなものだった。

 

「全軍・・・・・・」

 

 突撃、という命令を出そうとした瞬間、

 

 出し抜けに駆け抜けた閃光が、隊長のムラサメの左翼を貫く。

 

「何ィィィィィィ!?」

 

 錐揉みしながら、海面へと落下していくムラサメ。翼を失っては成す術もなく、体勢を立て直す間もなく、ムラサメは水柱を上げて海面下へと没した。

 

 隊長を失った事で、ムラサメ隊の統制が乱れ、進撃が停滞する。

 

 そこへ、1機の機影が斬り込んだ。

 

 胸部が青い装甲をした白い機体。

 

「こちらオーブ宇宙軍所属、キョウ・カリヤ一尉。これより、戦闘に加入します!!」

 

 キョウは言いながら、ストライクAを駆って前線へと飛翔する。機体の背中には、高機動型のイエーガーストライカーを装備しており、キョウはあらかじめ空中戦を想定した武装を装備してきたのだ。

 

 苦戦する政府軍を掩護すべく飛翔するキョウ。

 

 そこへ、生き残ったセイラン軍のムラサメ隊が次々と翼を翻し、イエーガーを目指して飛んでくる。

 

 突如現れ、一瞬で隊長機を屠ったイエーガーを強敵と見て、セイラン軍は先に葬ってしまおうと考えたのだ。

 

「来るかッ」

 

 それに対してキョウは向かってくるセイラン軍のムラサメ隊を見据えると、イエーガーを加速させる。同時にビームサーベルを抜いて構えた。

 

 すれ違う一瞬。

 

 次の瞬間、ムラサメ2機が翼を斬り落とされて落下していく。

 

 目にも止まらないサーベル裁きを前に、セイラン軍のパイロット達は、全く反応する事が出来なかった。

 

 更に3機のムラサメが人型に変形し、イエーガーに向けてライフルを放ってくる。接近戦は危険と判断し、遠距離から火力で仕留めようと考えているのだろう。

 

 だが、それも無駄な努力でしかなかった。

 

 キョウは巧みな機動でイエーガーを操り、全ての攻撃を難無く回避すると、2丁のビームライフルを構えて突撃する。

 

 両手を水平に伸ばし、対角線上のムラサメを正確に撃ち抜いていくイエーガー。

 

 すさまじい戦闘力だ。殆どのムラサメが、成す術もなく戦闘力を奪われていく。

 

 だが、その中で1機、イエーガーの隙を突く形で斬り掛かってくるムラサメがあった。

 

 イエーガーは今、彼に背を向けている。今なら討ち取る事もできる。

 

 そう思った瞬間、振り返ってイエーガーが右腕を一閃した。

 

 一撃。

 

 それだけでムラサメは、頭部を斬り飛ばされて落下していく。

 

 いつの間にかイエーガーの手には、対装甲実体剣が握られていた。ムラサメの頭部を斬り飛ばしたのはこれである。

 

 キョウは振り向きざまに剣を抜き放ち、背後から迫ってきていたムラサメを斬り捨てたのだ。

 

 上空に目を転じれば、次々と政府軍カラーのムラサメが降下してくる。

 

 政府軍が待ち望んだ増援部隊が到着したのだ。

 

 先のアシハラ沖会戦の結果、セイラン軍の宇宙戦力を壊滅させた政府軍は、制宙権を完全に手中にしていた。その為、アシハラからオーブ本国までの兵力移動が容易に可能になったのだ。

 

 オノゴロに潜入している情報部員から、セイラン軍出撃の兆候ありと言う報告を受けたカガリは、宇宙軍から戦力を抽出し、増援として呼び寄せたのである。

 

 降下を開始する宇宙軍ムラサメ隊の先頭には、ライア・ハーネット二尉が操るムラサメもいる。

 

 普段はオオツキガタを使っている彼女だが、あの機体は大気圏内では使えない為、予備機として確保しておいたムラサメで出撃したのだ。

 

「第1大隊は、私と一緒に防衛軍の援護を、第2大隊はカリヤ一尉に続いて敵艦隊の攻撃を担当ッ 一気に片を付けるわよ!!」

 

 ライアの命令を受けて、散開するムラサメ隊。

 

 更にその後方からは、母艦である戦艦武蔵も、続いて降下してくる。

 

 武蔵と、搭載モビルスーツの戦線投入。それが、カガリの仕掛けた策の全貌だった。

 

 この突然の宇宙軍介入に、セイラン軍の戦線は混乱を来した。

 

 ここまでの戦闘で、既に戦力の半数近くを喪失していたセイラン軍だったが、兎にも角にも、互角以上の戦いを展開する事には成功していたのだ。しかし文字通り、上空から降ってきた政府軍増援部隊の前に、戦線崩壊を起こし始めている。

 

 この宇宙軍の増援を受け、政府軍は反撃を開始した。

 

 それまで防戦一方だった戦線を押し返し、次々とセイラン軍を撃破していく。

 

 これに対するセイラン軍の反撃は、あまりにも無力だった。

 

 元々、立て続けの敗北で戦力がガタガタになっていた事に加えて、出撃前にベテラン軍人が大量罷免された事で、組織としての体制維持も、ほぼ不可能になっていたのだ。

 

 そこに来て始まった、政府軍の総攻撃である。

 

 セイラン軍の戦線は砂の城が崩れるように、呆気無く崩壊した。

 

 その間にキョウはイエーガーを駆って1人突出、戦線後方のセイラン艦隊に襲いかかった。

 

 セイラン艦隊の方でもイエーガーの接近に気づいて対空砲火を撃ち上げる。

 

 しかしキョウは、まるでそんな物存在しないかのように、吹き上げてくる火線を高速ですり抜け艦隊に接近すると、2丁のライフルを的確に照準し、次々とセイラン艦の砲塔や艦後部の推進器に当たる部分を狙い撃っていく。

 

 たちまちのうちに、戦闘、航行不能に陥る艦が続出する。

 

 モビルスーツの傘を失った艦隊がどれほど脆いか、という事を如実に表す光景であった。

 

 そこへ更に、追い打ちをかけるように接近する機影がある。政府軍の攻撃隊である。

 

 彼等はキョウに続いて戦線加入すると、次々とセイラン軍艦隊に攻撃を仕掛け、撃沈に追い込んでいく。

 

 戦線崩壊を起こしたセイラン軍に、もはや抵抗の術は無い。

 

 「第2次アカツキ島沖海戦」の呼称で呼ばれる事になるこの日の戦闘で、セイラン軍は保有する最後の機動戦力を消耗し尽くし壊滅、以後、積極的な軍事行動を取る事ができなくなった。

 

 これにより、オーブ内戦は事実上、政府軍側の勝利が確定的となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、判った、その通りに頼む。捕虜は丁重に扱うように。彼等も同じオーブの民だと言う事を忘れるな。決して粗略に扱うんじゃないぞ」

 

 電話の受話器を置くと、カガリは大きく息をついた。

 

 第2次アカツキ島沖海戦の事後処理が、ようやく終わったところである。

 

 事実上の決戦となった今回の戦いに勝利し、政府軍の勝利は確定的となった。これで後はオノゴロや行政府、軍本部など、主要な地域に軍を送って奪還すれば良いだけである。

 

 だが、それはもう暫く先になるだろう。

 

 今回の戦いで勝利したとは言え、序盤の戦闘で政府軍もそれなりの損害を出している。損傷修理や部隊の再編などには、少し時間がかかりそうだった。加えて、セイランの抵抗戦力も完全に消えた訳ではない。まだしばらくは残敵掃討が必要だと思った。

 

「だが、これで・・・・・・」

 

 カガリは感慨深く呟く。

 

 これでようやく、この馬鹿げた内戦も終わる。国を取り戻す事ができるのだ。

 

 ドアがノックされ、室内に見知った者達が入ってきたのは、その時だった。

 

 入ってきた3人を見て、カガリは顔をほころばせた。

 

「よく来てくれたな」

 

 3人は、武蔵艦長のユウキ・ミナカミ二佐、そして武蔵機動兵器部隊に所属するライア・ハーネット二尉とキョウ・カリヤ一尉だった。

 

 侍女のマーナに頼んでお茶を運んできてもらうと、カガリは早速、今回の戦いにおける功労者である3人を労った。

 

「今回は、本当によく来てくれた。お前達が来てくれたおかげで、ようやく、この戦いにもケリが付けられそうだよ」

「まあ、僕は何もしていないけどね。モビルスーツ隊を指揮したのはライアとキョウだし。僕はただ、みんなを運んできただけさ」

 

 そう言ってユウキは、カップを口に運ぶ。

 

 今回の戦いの勝利は、先のアシハラ沖会戦における勝利の影響が大きい。あの勝利によって政府軍は、宇宙軍の戦力を地上へ移動させる事ができるようになったのだから。

 

 もしアシハラ沖会戦で宇宙軍が敗れ、逆にセイラン軍が宇宙から増援を受けられるようになっていたら。いや、そこまで行かずとも、セイラン軍の宇宙戦力壊滅に失敗し、宇宙軍の戦力が動かせない状態にあったとしたら、増援を受けられない政府軍は、今回の戦いで敗北していたかもしれない。

 

 そう考えれば、今回の勝利もギリギリだったのが分かる。

 

「それで、カガリ。反抗はいつにするの?」

 

 ライアが尋ねた。

 

 セイラン軍の戦力を壊滅させた今、後はオノゴロに乗り込むだけである。当然、彼女達もその戦いに参加するつもりでいた。

 

「もう少し待ってくれ。今回の戦いで、こちらもかなりの損害を負ってしまったからな。それに、もうすぐ欧州からアークエンジェルが帰ってくる。可能なら、あの艦にも戦力として加わってほしいしな」

 

 アークエンジェル。

 

 それは、ここにいる全員に縁の深い艦である。

 

 カガリやユウキも先の大戦の折には、一時期あの艦に乗り込んでいたことがある。ライアはと言えば、当時はザフトの軍人であり、何度もアークエンジェルと砲火を交えていた。

 

 それぞれに、思い出深い艦だった。

 

 カガリは次いで、キョウに目をやった。

 

「心配か?」

 

 声を掛けられ、キョウはカップを持つ手を止めるが、すぐに微笑を浮かべる。

 

「まあね。けど、きっと大丈夫だよ。向こうには、シン達もいるし」

 

 それは、あの艦の事を誰よりも知りつくしているキョウだから言える言葉である。そこには深い信頼と、ある種の誇りのような物が見て取れた。

 

「残念だが、あいつは今、乗っていないらしい。ちょうどすれ違いになってしまったな」

「仕方ないね。僕は今までずっと、隠れてなくちゃいけない立場だったんだから」

 

 苦笑するキョウ。

 

 そのキョウを見つめ、ユウキとライアは肩を竦める。

 

 表情には「他人事ながら、面倒な話だ」と言う言葉が浮かんでいた。

 

 執務机の上にあるインターホンが鳴ったのは、その時だった。

 

 カガリは「すまん」と言うと立ち上がって机の方へ行き、インターホンの通話ボタンを押す。

 

「私だ、どうした?」

《カガリ、すぐにテレビをつけろ》

 

 相手はレドニル・キサカだった。先の大戦においてはカガリの護衛役や、戦艦クサナギの艦長を務めて活躍したキサカは、この内戦においてはカガリの幕僚として控え、作戦立案や部隊運用の補佐を行っていた。

 

《デュランダル議長が、全世界に向けて演説を行っているぞ》

「何だと?」

 

 カガリが目配せすると、ライアがリモコンを操作して壁のテレビをつけた。

 

 程なくキサカが言った通り、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、居並ぶ記者団を前に何やら演説をしている姿が画面に映し出された。

 

《確かに我々の軍は連合のやり方に異を唱え、その同盟国であるユーラシアから分離、独立を果たそうとする人々を人道的な立場からも支援してきました。こんな得る物の無い、ただ戦うばかりの日々に終わりを告げ、自分達の平和な暮らしを取り戻したいと・・・・・・戦場など行かず、ただ愛する者達と共にありたいと・・・・・・そう願う人達を支援してきました》

 

 画面が切り替わり、無残な遺体を運び出す光景や、瓦礫に蹲る子供、廃墟を前に呆然とする女性など、悲惨な光景が映し出される。

 

 つい先日、地球軍が西ユーラシアで大量虐殺を行ったというニュースはオーブ政府軍も掴んでいる。どうやら映像は、その時の光景であるらしい。

 

《なのに、和平を望む我々の手を跳ねのけ、我々と手を取り合い、憎しみで撃ち合う世界よりも、対話による平和への道を選ぼうとしたユーラシア西側の人々を、連合は『裏切り』として、有無を言わさず焼き払ったのです。子供まで!! なぜですか!? なぜこんな事をするのです!? 平和など許さぬと、戦わねばならぬと、誰が、なぜ言うのです!? なぜ、我々は手を取り合ってはいけないのですか!?》

 

 そこでデュランダルは、耐えかねたように崩れ落ちる。代わって、議長を支えるように、少女が飛び出してきて彼を支えた。

 

 その姿を見て、カガリは苦く顔を顰める。

 

 その少女は、カガリに、否、この場にいる全員にとって良く慣れ親しんだ少女である。だが、その少女が偽りの偶像である事も判っていた。

 

《わたくしはラクス・クラインです》

 

 本物の少女と、まったく変わらない、涼やかな声でラクス、ミーア・キャンベルは語り始めた。

 

《このたびの戦争は確かに、わたくし共コーディネイターの一部の者達が起こしました、大きな惨劇から始まりました》

 

 ブレイク・ザ・ワールド。

 

 あのユニウスセブン落下による未曽有の大災害が、この戦争の引き金になった事は誰もが知っている事である。あの場に居合わせながら、悲劇を防げなかったという意味では、この戦争が勃発した責任の何割かはカガリにもある。

 

 そうしている内にも、画面の中で「ラクス」は語り続ける。

 

《それを止め得なかった事、それによって生まれてしまった数多の悲劇を、わたくしどもは忘れません。被災された方々の悲しみ、苦しみは今なお、深く果てない事でしょう。それがまた、新たなる戦いへの引き金を引いてしまったのも、仕方の無い事だったのかもしれません。ですが、このままではいけません。こんな撃ち合うばかりの世界に安らぎは無いのです。果てしなく続く、憎しみの連鎖の苦しさを、わたくし達はもう、充分に知ったはずではありませんか!!》

 

 切々と訴える「ラクス」の様子を、カガリは苦々しく眺める。

 

 ラクスの顔と名前と声を利用して、巧みに世論を誘導しようとするデュランダルの手法は見事であると認めざるを得ないが、友達をこのような形で利用されて、腹が立たないわけがなかった。

 

《どうか目を覆う涙を拭ったら、前を見てください! その悲しみを叫んだら、今度は相手の言葉を聞いてください! そうしてわたくし達は、優しさと光溢れる世界へ帰ろうではありませんか!! それがわたくし達の全ての人の、真の願いでもあるはずです!!》

 

 「ラクス」がそこまで述べると、今度は再び顔を上げたデュランダルが代わって口を開く。

 

《なのに、どうあっても、それを邪魔しようとする者がいるのです。古の昔から自分達の利益の為に戦え! 戦え! と。戦わない者は臆病だ! 従わない者は裏切り者だ! そう叫んで、常に我等に武器を持たせ、敵を作り上げて、撃て、と指し示してきた者達。平和な世界にだけはするまいとする者達。このユーラシア西側で起きた惨劇も、彼等の仕業である事は明らかです》

「議長は、何をしようとしているんだ?」

「て言うか、何か話がオカルトじみてきてるんだけど?」

 

 デュランダルの演説を聞きながら、ユウキとライアがそろって首をかしげた。

 

 デュランダルの言うように、世界を裏から牛耳り、歴史に介入し、あらゆる事象を操作する組織が存在している。と言うのは、確かに旧世紀からある、世界で最も有名な都市伝説の一つである。

 

 しかし、それは都市伝説にありがちなあやふやなものであり、誰もその存在を証明した事は無く、空想の産物にすぎないと思われていた。

 

《間違った危険な存在と、コーディネイターを忌み嫌う組織、あのブルーコスモスですら、彼等の作り上げたものにすぎない事を、皆さんはご存知でしょうか? その背後にいる彼等、そうして常に敵を創り上げ、常に世界に戦争をもたらそうとする軍事産業複合体、死の商人『ロゴス』。彼等こそが、平和を望む私達全ての、真の敵なのです!!》

 

 議長が告げると同時に、画面にいくつもの顔写真が次々と映し出された。

 

 身形の良い男達の写真は、いずれもロゴスを構成する幹部達の写真である。

 

 それを見て、カガリは息を飲んだ。

 

「これは・・・・・・大変な事になるぞ・・・・・・」

「カガリ?」

 

 怪訝な顔で尋ねるキョウに答えず、カガリは茫然と画面を見つめ続ける。

 

「この中には、オーブと繋がりが深い者達もいる。いや、オーブだけじゃない。彼等のグローバルカンパニーと繋がりの無い国なんか、この世界にあるものか」

 

 言わば、今映し出されている物は、現状の世界の仕組みその物と言っていいだろう。その仕組みに対し、デュランダルは敢然と非難の言葉をぶつけているのだ。

 

 キョウ、ユウキ、ライアがそれぞれ、固唾をのんで見守る中、デュランダルはまっすぐに前を向いて言い放つ。

 

《私が心から願う物は、もう二度と戦争の起きない平和な世界です。よって、それを阻害せんとする者達、ロゴスを滅ぼす為に戦うと、ここに宣言します!!》

 

 それは事実上、世界への宣戦布告だった。

 

 

 

 

 

PHASE-33「覇道を征く者」      終わり

 

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