機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE―34「雷鳴の夜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛みと共に、シンは目を覚ました。

 

 低く唸るような駆動音が、壁越しに伝わってくるのが分かる。

 

 ここはアークエンジェルの医務室。先の戦いで負傷したシンは、ここに収容されていた。

 

 アークエンジェルは現在、欧州を離れて大西洋を縦断し、オーブへと帰還するところである。

 

 帰還、と言えば聞こえは良いが、実際の話「敗走」に近い。

 

 先の北海沿岸の戦いにおいて、イリュージョンは撃墜され、アークエンジェルも大破の損害を受けていた。

 

 どうにかザフト軍の哨戒線をすり抜ける事はできたものの、敗北したと言う事実は変わらなかった。

 

「アリス・・・・・・・・・・・・」

 

 掠れる声で、シンは自分を墜とした少女の名を呟いた。

 

 アーモリーワンから脱出する際に乗り合わせた、ザフトの戦艦ミネルバで出会った少女。

 

 一緒にいられた時間は短かったが、シンにとっては大切な友人の1人だ。それは数度にわたって剣を交え、撃墜された今でも変わっていない。

 

 シンとアリスは互いの陣営の都合と、何より自分達の信念を持ってぶつかり、そしてアリスは勝ち、シンは敗れた。それだけの話だ。

 

 とは言え、焦る気持ちもシンの中にはある。

 

 アリスの成長速度は、今やシンの実力すらも凌駕するほどになっている。

 

 対してシンは彼女に敗れて、自身の剣ともいうべきイリュージョンまで失ってしまった。整備に当たったリリアの話では、修復はまず不可能との事だった。

 

 オーブ本国に戻ればムラサメやライキリを使う事はできるだろうが、上位の機体ですら勝てなかったアリス相手に、量産機で勝てるとは思えなかった。

 

 傷を治して復帰したとしても、まともに対抗できる機体が無いのではどうしようもない

 

 これからどうするか、課題は山積の状態だった。

 

 扉が開いて、リリアとマユが入ってきたのは、その時だった。

 

「シン、起きてる?」

「お兄ちゃん」

 

 ベッドの脇に立った2人に、微笑みかけて挨拶する。

 

 リリアの手には、食事が乗ったトレイがある。考え事してすっかり忘れていたが、どうやら昼時であるらしい。

 

 更にシンは、マユの方に目を向けた時、顔を曇らせた。

 

 マユの左腕はギブスで固定され、吊られている。イリュージョンが撃墜された時、マユは左腕を骨折してしまったのだ。

 

 妹を守れなかった。その事がまた、シンを暗澹とさせる。

 

 シンに比べればマユの方がずっと軽傷なのだが、それでも、マユに怪我をさせてしまったと言う事実はシンの背筋を寒くしている。

 

 もしマユに何かあったら、死んだ両親に顔向けできないところだった。

 

「怪我の具合はどうだ、マユ?」

「うん、もう大丈夫だよ」

 

 そう言ってマユは、左手を掲げて笑って見せる。だがシンには、その笑いがいつもより少し引き攣っているのを見逃さなかった。

 

 兄に心配をかけまいとして、少し無理をしているのだ。

 

 そんなアスカ兄妹の様子を察したのだろう。リリアは務めて明るく声をかける。

 

「さ、ほらほら、2人とも辛気臭い顔してないで、ご飯でも食べて元気出しなよ。食べる物食べないと、体だって治んないわよ!!」

 

 そういうと、テーブルを引っ張り出してトレイを置く。

 

 長期の航海を想定して建造されたアークエンジェルは、食事の内容も充実している。厨房班は各クルーの好みに合わせられるよう、色々なメニューの考案を行って提供していた。

 

 その時だった。

 

「おーおー、美少女2人に囲まれて、羨ましいねー」

 

 横のベッドから声を掛けられ、一同は振り返る。

 

 そこでは、ネオ・ロアノークが身を起こしているところだ。

 

 ネオはシンと、リリア、マユを順繰りに見て苦笑交じりに言う。

 

「可愛い彼女に可愛い妹かよ。どんだけリア充してんだ、お前さんは?」

 

 なんだかここ数日で、ネオはすっかりアークエンジェルに馴染んできた感があった。

 

「か、彼女って、私は別に・・・・・・」

「もうッ からかわないでくださいムウさんッ じゃなかった、ネオさん!!」

 

 顔を赤くして、抗議する少女2人。

 

 そんな光景も、何やら微笑ましかった。

 

 慌てる少女達の様子を笑って眺めながら、ネオは話題を変えた。

 

「しっかしお前等、この間は俺達と戦っておいて、今度はザフトが敵かよ?」

 

 その言葉には、幾分かの呆れが入っている。

 

 そんなにいっぺんに、いろんな陣営を敵に回すのは、純粋な軍人であるネオから見れば自殺行為に等しい。

 

「いったい、どうなってるんだ?」

「そうね」

 

 苦笑しながら答えたのは、折良く入ってきたマリューだった。

 

 マリューはネオを見つめた後、シンの方に向き直った。

 

「大丈夫なの、シン君?」

「あ、はい、もう」

「そう、良かったわ」

 

 そう言って微笑むと、マリューは椅子を引っぱり、シンに向かって腰掛けた。

 

 その様子を見て、ネオは何となく面白くない気分になる。何だか、見せつけられているようで嫌だった。

 

「アークエンジェルもだいぶひどい状態だけど、見つからないようにうまくルートを選べば、オーブまで無事にたどり着けるでしょう」

「はい・・・・・・」

 

 そんな様子を、マユやリリアは気まずげに眺めている。

 

 マリューとムウのかつての関係を知るだけに、どうしても落ち着かない気分になってしまっていた。

 

 そんな空気を紛らわすように、リリアはシンに向き直った。

 

「ほ、ほらシン、せっかく持ってきたんだから、食べて食べて!!」

「いや、ちょ、待てってッ せめて食べやすく切ってくれ!!」

「り、リリアさん、落ち着いて!!」

 

 いきなり、フォークにぶっ刺したハンバーグ丸ごと1個を、鼻先に押し付けられ慌てるシン。

 

 それを見て、マユも慌ててリリアを制止している。

 

 子供達が騒ぐ様子を眺めながら、ネオは複雑な気分になっていた。

 

 彼等が自分を見る目は、明らかにおかしい。まるで、ネオと言う人物の中に、誰か別の人物の影を見ているかのようだ。それに、時折出てくる「ムウ」という名前が、どうしても引っ掛かる。

 

 それに、

 

 ネオはマリューを見た。

 

 この女性が自分を見る目は、明らかに他の奴らと違っていた。懐かしむような、それでいて悲しいような、そんな瞳をしている。

 

 だからネオは、聞かずにはいられなかった。

 

「なあ・・・・・・」

 

 声をかけると、マリューは振り返る。

 

「ムウ・ラ・フラガってのは・・・・・・あんたの何なんだ?」

 

 その質問にはマリューのみならず、リリアやマユ、口の中にハンバーグを突っ込まれたシンも、一緒に振り返って動きを止める。

 

 一同の様子を見て、ネオの方が思わずたじろいてしまった。一瞬、何か拙い事でも聞いただろうか? と勘ぐってしまう。

 

 ややあって、口を開いたのはマリューだった。

 

「・・・・・・戦友よ、とても大切な」

 

 そう告げるマリューは、悲しげな眼を浮かべて顔を伏せる。

 

 それだけでネオは、彼女とそいつとの関係が分かったような気がした。

 

「でも、もういないわ」

 

 自分はそいつとは違う。

 

 自分がそいつだったら、たとえ地獄の底から這ってでも、彼女の元へ戻ってくるはず。

 

 だが、ネオの中で生じた胸の痛みは、確実に大きくなろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くを眺めれば、入港してくる艦艇の姿が見える。

 

 ここ数日で、既に見慣れてしまった風景だった。

 

 アリスは港を歩きながら、急激に人が増えた基地の様子を見て回っていた。

 

 先日行われたデュランダル議長の、ロゴスに対する宣戦布告以来、ジブラルタルには共に戦おうとする義勇軍の入港が相次いでいた。

 

 誰もが衝撃を受けた、あの宣戦布告。

 

 あれ以来、世界中では暴動の嵐が起こっている。

 

 自分達の私腹を肥やすために戦争を仕掛け、民衆を裏から操り続けてきたロゴスに、世界が反旗を翻したのだ。

 

 顔写真と情報を公開されたロゴス幹部の私邸には、暴徒とし化した民衆が押し寄せ、破壊と略奪の限りを尽くしているらしい。中には幾人か、私刑の末に命を落とした者もいるとか。

 

 彼らの事を哀れだとは、アリスは思わない。彼等はそれだけの事をしたのだ。いわば、この結果は当然の事である。

 

 だが、ブルーコスモス盟主ロード・ジブリールをはじめ、一部の幹部達は独自のルートで脱出し、捕まる事はなかった。

 

 そして今、彼等はこのジブラルタルの遥か北方、アイスランドにある地球連合軍ヘブンズベース基地に立て籠もっていた。どうやら戦力をかき集めて、籠城の構えを見せているらしい。

 

 ジブラルタルに入港してきているのは、そうした事情からロゴスを討つべく参集した者達である。

 

 世界各地の武装勢力が、ロゴス討伐の旗印を掲げている。中には宣戦布告の直後、国を挙げて連合からの脱退を宣言した例もあった。

 

 世界が変わろうとしている。

 

 全ては、議長が目指す世界に向けて動き出そうとしている。アリスにはそのように思えた。

 

 そこでふと、アリスは足を止めた。

 

 視線の先には、アリスの母艦であるミネルバが停泊しているのが見える。既にクレタ沖や北海沿岸で負った損傷は綺麗に修復され、新品と見まがわんほどの姿を見せている。

 

 その、次の戦いに向けて装いも新たにしているミネルバに、真新しい機体が搬入されようとしているのだ。

 

「あれは・・・・・・」

 

 見覚えがあった。確か先日、レクチャーを受けた時にデータを見せてもらった。

 

 基本となるシルエットは、アリスの新しい愛機であるデスティニーに似ているが、背部には突起の突き出したユニットを背負っている。何やら仏教マニアが思わず拝みたくなるようなデザインの機体だ。

 

 ZGMF-X666S「レジェンド」

 

 デスティニーと同時期にロールアウトした新型機動兵器で、量子インターフェイスの改良により、一般兵でも使用可能になったドラグーンを搭載した野心的な設計の機体である。

 

 レジェンドは元々、アスランが乗る機体として設計されたのだが、その彼が負傷して戦線離脱した為、急遽、レイが乗るように再調整されていた。

 

 ちなみに、これまでアリスが乗っていたインパルスは、横滑りでルナマリアが乗る事が決定していた。

 

 レイと言えば、ミネルバ内でも人事異動が行われていた。

 

 何しろ、ハイネ、アスランと隊長クラスが相次いで戦線離脱した為、モビルスーツ隊隊長の座が空席になってしまっている。

 

 そこで、ミネルバ隊の総指揮官には引き続きタリアが留任と言う形で残り、新たにレイが、モビルスーツ隊指揮官として抜擢されていた。

 

 当初はアリスを指揮官に、という声も無くはなかったのだが、何しろ残っているパイロット3人の中では最年少であるし、特性と言う意味ではアリスよりもレイの方が適任と判断されたのだ。

 

 その噂を聞いて、アリスはあからさまに胸を撫で下ろしたものである。

 

 隊長なんて柄じゃないし、何より、そんな堅っ苦しい肩書はこっちから願い下げである。レイが引き受けてくれたのは、本当に幸いだった。

 

 準備は整いつつある。もう間もなく、ジブラルタルに集った全軍は北上し、ヘブンズベースを目指す事になる。

 

 そこでロゴス幹部が降伏に応じるなら良し。だがあくまで戦うと言うなら、こちらも相応の覚悟と手段を持って応じるしかないだろう。

 

 その時、アリスの鼻先に冷たい物がポツリと落ちてきた。

 

「あれ・・・雨?」

 

 見上げる空には、厚い黒雲が覆っている。

 

 遠くの方では、遠雷も聞こえてきていた。

 

 

 

 

 

 宿舎で宛がわれた部屋に飛び込むと、そのままシャワールームへと直行する。

 

 降り出したと思ったら、あっという間に雷雨に変化した為、アリスは慌てて自分の部屋まで戻ってきたのだ。

 

 雨の勢いは凄まじく、急いで帰って来たのだが、アリスは全身ずぶ濡れと化していた。

 

「もうヤダ~ パンツまでグショグショになって気持ち悪いよ~」

 

 泣き言を言いながら、アリスは服を脱ぎ飛ばしていく。

 

 しかし、濡れて肌に張り付いた服は脱ぎにくい事この上ない。

 

 悪戦苦闘している内にも、体は冷えていく。

 

「クシュンッ」

 

 アリスの口から、可愛らしいくしゃみが飛び出た。

 

 コーディネイターは病原体に対して高い耐性を誇るが、影響が根絶されたわけではない。万が一にも、作戦の要であるエースパイロットが風邪で戦線離脱などという事態になったりしたら、格好悪いどころの騒ぎではなかった。

 

 ようやく全ての服を脱ぎ、シャワールームに飛び込むと、熱いお湯を頭の上から被る。

 

 熱を失い青くなり始めていた肌は、シャワーを浴びる事によって赤みを取り戻していく。

 

「そう言えば・・・・・・」

 

 アリスはふと、ラキヤに思いをはせてみた。

 

 当然の事だが、ベルリン戦以来ラキヤとは会っていない。

 

 あのデュランダルの演説によって、ラキヤがどのように自らの進む道を決めるのか気になっていた。

 

「先輩は、どっちに着くんだろう?」

 

 ロゴスか、それとも義勇軍か。

 

 あのベルリンでの惨劇がロゴスの手によるものなら、ロゴスはステラの仇でもある、と取る事もできる。ならば、ラキヤが義勇軍側に回る可能性も無い訳ではないのだが。

 

 しかし、義勇軍に着くと言う事は、同時に地球軍を裏切る事をも意味している。それはラキヤの性格からして、ありえないように思えた。

 

 体が充分に温まると、アリスは脱衣所に戻った。

 

 髪を乾かし、用意しておいた新しい下着をつけると、その上から寝間着代わりのYシャツを羽織り、リビングへと戻った。

 

 その時、

 

「ッ!?」

 

 突如、背後に気配が浮かんだ。

 

 振り向くアリス。

 

 しかし次の瞬間、手首掴まれ、体を壁に押し付けられた。

 

「クッ!?」

 

 とっさに声を上げようとするが、その前にもう片方の手で口も塞がれてしまった。

 

 あっという間の早業である。アリスもそれなりに素手の戦闘訓練は受けているが、そのアリスがまったく抵抗できなかった。

 

 いったい、誰が!?

 

 そう思った時。

 

「シッ 騒がないで」

 

 相手が息を殺した声で語りかけてきた。

 

 ゆっくりと、アリスは目を開ける。

 

「僕だ、アリス」

 

 低く囁かれる声。

 

 そこには、

 

 ラキヤ・シュナイゼルの顔がアップで映し出されていた。

 

「先輩・・・・・・・・・・・・」

 

 アリスが落ち着くのを確認したラキヤは、そっと手を放した。

 

 見ればラキヤは、ザフト軍の緑服を着ている。そんな格好までして、地球軍の士官がここにいると言う事は、

 

「もしかして、スパイ活動、ですか?」

 

 探るように、アリスは尋ねる。

 

 この間、あんな事を言っていたラキヤが、今さらザフト軍に復帰するとは考えにくい。となると、残る有力な可能性はスパイ活動の為にザフト軍人の振りをして潜入した、というのが考えられる。

 

 色こそ違えど、ラキヤも元ザフト軍人だ。軍服を着ればまったく違和感が無い。潜入くらいならお手の物だろうが。

 

 対してラキヤは、笑って首を横に振る。

 

「だったら、わざわざアリスの部屋に尋ねてきたりはしないよ」

「・・・・・・それもそうですね」

 

 知り合いに堂々と顔を晒すなど、スパイとしては間抜けすぎる。むしろアリスや妹であるルナマリアやメイリンの事は、積極的に避けようとするだろう。

 

「いや、でも、その心理の裏を突いて来たってことも・・・・・・」

「そんな回りくどい事しないって」

 

 ラキヤは苦笑して肩を竦める。

 

 そもそもスパイのつもりなら、ザフト軍の軍服を着る必要はない。何しろ今、ジブラルタルには連合を見限った勢力が多数集まっており、そこには先日まで地球軍に所属していた者達も少なくないのだから。普通に連合の軍服を着てそれらに紛れ込んだ方が、潜入の手段としては容易だった。

 

 ラキヤはアリスにまっすぐ向き直る。

 

「君に、会いに来たんだ。この間の事もあったから、ちょっと心配でね」

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 一瞬、ラキヤが言った意味が分からず、アリスはキョトンとする。

 

 キミニアイニキタ?

 

 君に、会いに、来た?

 

 君に・・・・・・・・・・・・

 

「~~~~~~//////」

 

 意味が分かった瞬間、アリスの顔はほぼ0・5秒で真っ赤に染め上げられた。

 

「は、はうあッ!?」

「ちょ、ちょっと、アリス!?」

 

 茹ダコのようになって仰向けに倒れるアリスを、ラキヤはとっさに抱きとめて支える。

 

 その後ラキヤは少女をベッドに寝かせ、介抱するのに一苦労するのだった。

 

 

 

 

 

~だいたい5分後~

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

 ベッドの縁に腰掛けて尋ねてくるラキヤに、アリスは尚も赤い顔のまま、恥ずかしそうに頷きを返す。

 

「は、はい、すみません。ご迷惑をかけちゃって」

 

 恥ずかしくて、そのまま消えてしまいそうなアリスの様子に、ラキヤは優しく微笑みを返す。

 

 こう言う仕草が微笑ましく、とても可愛く思えてくる。

 

「変わってないね、アリスのそういうところ」

 

 少女の髪を優しく撫でてやりながら、ラキヤは懐かしむように呟いた。

 

「昔もよく、僕が話しかけたら、俯いて何も話してくれなかったよね」

「それは・・・・・・・・・・・・」

 

 アリスも昔の事を思い出し、今度は耳まで真っ赤になる。

 

 幼かったアリスにとって、ラキヤは初めてできた異性の友達であり、近所に住んでいる「憧れのお兄さん」でもあった。

 

 そんな風に子供のころから思っていた為、成長してラキヤを異性として意識するようになるころには、仲良くしたいと言う気持ちよりも恥ずかしさの方が強くて、何も話せなくなってしまったのだ。

 

 そのせいでルナマリアに「ヘタレアリス」などと言う不名誉極まるあだ名で呼ばれ、今もって弄られ続けているのだが。

 

「おかげで僕は一時期、アリスに嫌われたのかと思って、かなり真剣に悩んだんだけどね」

「そんな事無い!! だってボク、先輩の事・・・・・・」

 

 ガバッと身を起こすアリス。

 

 アリスがラキヤを嫌ったことなど、一度も無い。だが、自分のそんなあやふやな態度が、あらぬ誤解を招いたのは心外であった。

 

 言い募ろうとするアリス。

 

 だが次の瞬間、窓の外で雷鳴が轟いた。

 

「キャッ!?」

 

 突然、閃光が室内を照らし、鳴り響いた轟音に驚いたアリスが悲鳴を上げる。

 

 と、

 

 勢い余ったアリスは、自然と、ラキヤに抱き留められる形となった。

 

「大丈夫?」

 

 ラキヤの方も、驚いてアリスを抱きとめる。

 

 優しい温もり、懐かしい匂い。

 

 一度は失い悲しみに落ちた物が、アリスを包みこんでいた。

 

 そっと、ラキヤの背に手を回すアリス。

 

「アリス?」

 

 戸惑うラキヤ。

 

 その温もりを感じながら、

 

 アリスはずっと言いたかった事を口にした。

 

「先輩・・・・・・ボク、先輩の事好きです・・・・・・子供の頃から、ずっと」

「アリス・・・・・・・・・・・・」

 

 友達として好き。

 

 などと言う誤解をするほど、ラキヤも鈍くは無い。

 

 アリスが精いっぱいの勇気を出して言った言葉。

 

 それに対しラキヤは、

 

「僕も・・・・・・・・・・・・」

 

 静かに答える。

 

「僕も、アリスの事が好きだよ」

「先輩・・・・・・・・・・・・」

 

 アリスの表情が、歓喜に染まる。

 

 ずっと言いたかった事。ずっと心に秘めていた思い。

 

 それが今、最良の形で報われていた。

 

 2人は互いの顔を見つめ合い、

 

 そして、唇を重ねた。

 

「先輩・・・・・・・・・・・・」

「アリス・・・・・・・・・・・・」

 

 そのまま、アリスの華奢な体をベッドに押しつけるラキヤ。

 

「あ・・・・・・・・・・・・」

 

 アリスは、小さく声を上げた。

 

 潤んだ瞳で、ラキヤを見上げるアリス。

 

 薄いYシャツの下では、張りのある胸が艶めかしく上下している。

 

 Yシャツの裾はあられもなくめくれ上がり、ピンク色のパンツから延びるほっそりした白い太ももが、健康的で青々しい性を演出している。

 

 ベッドの上で重なり合う、ラキヤとアリスの影。

 

 遠くで雷鳴が轟き渡る。

 

 しかしもう、2人はそんなもの気にはしなかった。

 

 

 

 

 

 翌朝、

 

 昨夜の雷雨が嘘のように止み、晴れ渡った空が顔を覗かせている。

 

「・・・・・・ん・・・・・・んみゅ」

 

 子猫のような声を出しながら、アリスは目を覚ました。

 

 すると、

 

「おはよう、アリス」

 

 すぐ横で、ラキヤが微笑みながらアリスを見つめていた。

 

「せ、先輩ッ!?」

 

 ラキヤの顔を見た瞬間、昨夜の事を思い出して顔を真っ赤にするアリス。

 

 昨夜、このベッドでラキヤと・・・・・・

 

「~~~~~~//////」

 

 恥ずかしくて死にそうだった。

 

 余韻はばっちり、アリスの体の中に残っていた。

 

 思わずとっさに、毛布をかき上げて顔を覆い隠す。

 

 そんなアリスに対して、ラキヤはほほ笑むと、そっと毛布を払いのけ、優しく頭をなでてやる。

 

 不思議と、そうしてもらうだけでアリスは、自分が落ち着きを取り戻していくのが分かった。

 

 ラキヤが着替えをしている内に、アリスはコーヒーの準備をする。

 

 今のアリスは裸身にYシャツを引っかけただけという煽情的な格好をしている。他の人間なら、たとえ相手が同性でもこんな格好は見せたりしないアリスだが、不思議とラキヤなら良いと思うようになっていた。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 ラキヤにコーヒーを渡すと、アリスもその横に腰かけて、自分の分のコーヒーを飲む。

 

 暫く2人でコーヒーを飲んでいると、アリスの方から口を開いた。

 

「先輩も、今回の戦いに参加するんですか?」

 

 それはかねてから、アリスが気にかけていた事だった。ラキヤがロゴス側に着くのか、それとも義勇軍に着くのか。それだけはどうしても知りたかった。

 

 だが、

 

「いや、僕は参加しないよ」

 

 飲み干し方カップを置きながら、ラキヤは言った。

 

「僕は、これから宇宙に上がる事になった。だから、その前にどうしてもアリスに会っておきたくて来たんだ」

「それって・・・・・・」

 

 アリスは、気落ちして顔を伏せる。

 

 つまり、ラキヤはまだ地球連合軍に、ロゴス派に着くという事を意味していた。

 

 正直、アリスの目にも、ロゴスの劣勢は明らかだった。

 

 確かに、地球連合はまだ、莫大な戦力を有している。ヘブンズベースにも戦力を終結させ、反ロゴス同盟軍を迎え撃つ構えを見せているらしい。

 

 だが、今や世界情勢の殆どが「ロゴス狩り」に躍起になっている状態だ。そんな状況で、ロゴス派に居続ける意味は無いように思えるのだが。

 

「ごめん、アリス」

 

 ラキヤは、静かな口調で言う。

 

「僕にはまだ、やる事が残っている。今はまだ、地球軍を抜けるわけにはいかないんだ」

 

 けどね、とラキヤは続ける。

 

「全てが終わったら、必ず君の所へ戻ってくるよ」

 

 かつて一度、ラキヤは同じセリフをアリスに言っている。

 

 あれはボアズに赴任する前、宇宙港まで見送りに来たアリスに、ラキヤはそう言って旅立っていった。

 

 結局、約束を果たすまでにかなりの時間がかかってしまったが。

 

 それに対してアリスは、

 

「いいえ、先輩」

 

 首を振って答えた。

 

「今度はボクが、先輩に会いに行きます。たとえ先輩がどこにいたとしても、必ず見つけて会いに行きます」

 

 この約束を果たすまで、自分は決して負けない。

 

 アリスの目は、そう語っていた。

 

 対してラキヤは、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにほほ笑みを浮かべる。

 

「うん、待ってる」

 

 そう言って顔を近づけるラキヤ。

 

 アリスもまた目を閉じて、憧れの先輩から、最愛の恋人になった男性を迎え入れる。

 

 そして、2人はもう一度キスを交わした。

 

 

 

 

 

PHASE―34「雷鳴の夜」      終わり

 

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