機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-35「一騎当千」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大小無数の艦船が群れを成し、北の果ての島を目指して航行していた。

 

 その数は軽く300隻以上を数え、現状、地球上で展開可能な洋上艦隊兵力の規模としては最大を誇っている。

 

 所属するモビルスーツの数も半端ではなく、増援分を含めると2000機に達するだろう。艦隊のみならず、軌道上からの降下揚陸作戦も計画されている。

 

 ザフト、並びに有志義勇軍からなる、対ロゴス同盟艦隊は、ジブラルタル出航後、隊列を組んで北上、ブリテン諸島の西を迂回する航路を取り、ロゴス幹部と地球連合軍が立て籠もるアイスランド、ヘブンズベース基地を目指していた。

 

 作戦名称は「オペレーション・ラグナロク」

 

 神々の黄昏の名を関した作戦名からも分かる通り、神を気取り、自分達の欲求を満たすために人々を操り、戦争を煽り続けてきた者達、ロゴスが牛耳る世界に幕を下すための作戦である。

 

 同盟艦隊は、量においてはヘブンズベースに集結している地球連合軍を、遥かに凌駕している。

 

 しかし先行偵察機からの報告によれば、地球連合軍はヘブンズベース基地の前面に多数の艦艇を配置し、同盟艦隊を迎え撃つ構えでいるらしい。

 

 既に再三にわたる降伏勧告はデュランダルの名で送られているが、ヘブンズベース基地からの正式な回答はまだ無かった。

 

「要求の回答期限まで、あと5時間を切りました」

 

 タリアは時計を確認しながら呟いた。

 

 ミネルバは今回の戦いにおいて、全軍の総旗艦の任を負い、ギルバート・デュランダル自らが座乗している。今もタリアの後ろには、デュランダルとイレーナ、そして彼の幕僚達が控えていた。

 

 落ち着かない事この上ないが、ミネルバは今や、数々の戦いを勝利に導いてきた「英雄」でもある。デュランダルがそんなミネルバを旗艦として選ぶのは、むしろ当然の事だった。

 

「やはり、無理かな?」

 

 デュランダルが唸るように言う。

 

 再三にわたる降伏勧告も、地球連合軍は無視を決め込んでいる。このままいけば、あと5時間で開戦となる。

 

「戦わないで済めば、それが一番いいのだがな」

 

 確かにその通りなのだが、現状ではそれも難しいと言わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 一方、迎え撃つヘブンズベースの側でも、着々と迎撃準備が進められていた。

 

 当然と言うべきか、彼等に降伏の意志は無い。デュランダルの降伏勧告など、鼻で笑うような代物でしかなかった。

 

 広い基地内で弾薬を運ぶ各種車輛が走り回り、格納庫ではパイロット達がモビルスーツやモビルアーマーに乗り込んでいく。

 

 数では劣っているかもしれないが、勝算は十分にある。既にその為の切り札も、この基地に運び込まれていた。

 

《全区画、Fクラス施設の地下退避を開始する。防衛体制オメガ発令》

《第7機動群、配置完了》

《ニーベルングへのパワー供給は、30分後に開始する》

 

 迎撃準備を進む基地内の様子を、観覧席とも言うべきガラス張りのスペースで眺めている者達がいる。

 

 彼等にとって出撃前の喧騒など、自分達には全く関わりない物である。今も、テーブルの上に置かれたカップに紅茶が注がれ、良い香りを優雅に漂わせていた。

 

 場違いとしか思えない仕立てのいいスーツを着、他人事のように出撃風景を眺めている男達は言うまでも無く、この基地に逃げ込んだロゴス幹部達である。

 

「通告して回答を待つ、か」

 

 その中で最も若い男、ブルーコスモス盟主ロード・ジブリールは、愛猫の背を滑らかに撫でながら口を開いた。

 

「デュランダルはさぞや今、気分の良い事でしょうよ」

 

 この段になってもなお、ジブリールは自分が追い込まれたなどとは考えていない。むしろ彼の目には、迫りくる対ロゴス同盟軍の大艦隊など、間抜けな獲物が群れを成してやってきているようにしか見えなかった。

 

 そんなジブリールに、老人の1人が話しかけた。

 

「だが、これで本当に守り切れるのか、ジブリール?」

「守る? ハッ!!」

 

 その質問に対し、ジブリールは強気に返事を返す。

 

「何をおっしゃっているのですか? 我々は攻めるのですよ、奴らを、今日ここから!!」

 

 これだけ多数の戦力を用意し、切り札を配置し、物資も倉庫に収まりきらないほど積み上げられている。正に鉄壁の布陣と言えるだろう。

 

 これだけの状況でありながら、なぜ、そんな弱気なのか?

 

 ジブリールは最早、かつての支配者たちに対する侮蔑を隠そうともしなかった。

 

「我々を討てば戦争は終わり、平和な世界になる? ハッ!! 確かに民衆はおろかです。そんな言葉にやすやすと騙されるほどに。だが、だからこそ我々が、何としても奴を討たねばならないのです!!」

 

 そんなジブリールの言葉に、同席していた地球軍の士官は同意するように頷く。どうやら、ジブリールの演説に感銘を受けたらしい。

 

「本当に取り返しのつかない事になる前に、この世界が奴と、コーディネイターどもの物になる前にです!!」

 

 ジブリールの言葉に、居並ぶお歴々も頷きを返す。

 

「確かにのう・・・・・・我らを討ったとて、ただ奴が取って代わるだけじゃわ」

「正義の味方や神のような人間など、いるはずもないと言う事を、我々は知っていますがね」

 

 平和の為、正義の為、民衆の為。

 

 そんな事を声高に叫ぶ人間こそが、実は最大のエゴイストなのだ。

 

 自分達の考えこそが最大の価値があると考えているロゴスメンバーにとって、それはもはや世界の根幹に基づく真理であるかのように思えていた。その考えに基づけば、デュランダルもまた、己の欲を満たす事のみを追求する簒奪者に過ぎない、と言う事になるらしい。

 

 彼等にしてみれば、自分達とは価値観を別にする人間がいるという事自体、想像の埒外であった。

 

「我らとて、これまで数々あった危機を乗り越えてきたのです。今度も乗り切れる。乗り切るのです!!」

 

 高らかに宣言して、立ち上がるジブリール。

 

「準備ができ次第始めますよ。議長殿が調子に乗っていられるのも、もうここまでだ。格好をつけてノコノコと前線まで出て来た事をたっぷりと後悔させてやりましょう。あの世でね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パイロット待機所に1人佇み、アリスは出撃の時を待っていた。

 

 このまま行けば、後数時間で開戦と言う運びになる。デュランダルが何度も降伏の呼びかけをしているらしいが、未だにヘブンズベースからの回答は無いようだ。

 

 開戦か、それとも降伏か。進撃する同盟艦隊としても、判断に迷うところである。

 

 もっとも、アリスは既に戦う準備は充分に整えている。実際に前線に立って戦うアリス達としては、相手の降伏を前提に話を進めるわけにはいかないのだ。

 

 ふと、先日、ジブラルタルでラキヤに会った時の事を思い出した。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 頬が、一気に赤くなる。

 

 ラキヤと結ばれた時の温もりは、今もアリスの中に残っていた。

 

 念願がかなって、ラキヤと恋人同士になれた事はうれしい。長年の夢が、やっと実を結んだのだ。

 

 だが、同時に複雑でもあった。

 

 ラキヤは地球軍に残る事を選んだ。それは即ち、近い将来、ラキヤと再び戦うかもしれない事を意味している。

 

 ラキヤの口振りからすれば、今回のヘブンズベース戦に出て来ることは無いと思う。だが、もし今後、戦場が宇宙に移るような事があれば、そこで対峙する事は充分に考えられた。

 

 もし、そんな事態になったら、果たして自分はラキヤと戦えるだろうか?

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 考えてみて、首を振る。

 

 たぶん無理だ。きっと戦えないと思う。

 

 ラキヤと戦うと言う事自体が、今のアリスにはとても考えられない事だった。

 

 では、果たして自分はどうすれば良いのか?

 

 仲間を守る為にラキヤと戦うのか? それとも、ラキヤの為に仲間を裏切るのか?

 

 その時、

 

「何してんの、アリス?」

「うきゃァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 突然、背後から声を掛けられ、奇声を上げるアリス。

 

 声をかけたルナマリアの方も、呆気に取られた様子でアリスを見ていた。

 

「る、ルナっ お、脅かさないでよッ」

「なに、そんなに驚いてんのよ、あんたは?」

 

 呆れ顔のルナマリアの背後には、新任のモビルスーツ隊隊長に就任したレイの姿もある。2人とも今回、それぞれ新しい機体での出撃となる。

 

 特にルナマリアは、これまでアリスが使っていたインパルスでの出撃と言う事になっていた。

 

「どう、インパルスの調子は?」

「うん、大丈夫。もうバッチリよ」

 

 クレタ戦での傷も癒え、インパルスの搭乗を命じられたから、ルナマリアは機体の癖を掴むべく、猛訓練を自らに課してきた。その真価が、今回の戦いで問われる事になる。

 

「だが、油断は禁物だ。俺達は地球に降りてからザクしか操縦していないのに、いきなり空戦用の機体を操縦する事になる。これまでとは全く勝手が違う事を忘れるな」

「もう、判ってるわよ。レイは心配し過ぎ」

 

 冷静に指摘するレイに、ルナマリアはそう言って唇を尖らせる。

 

 だが実際、飛行する事ができず、ミネルバ甲板での対空戦闘が主な任務だったザクと違い、空中戦になれば足元にも気を配らなければならないし、重力も計算に入れて飛行しなくてはならない。確かに、勝手が違うものだ。

 

「何にしても、このメンバーでは初の出撃になる。よろしく頼むぞ」

「勿論ッ」

「任せてよ」

 

 レイの言葉に、少女2人は強気に請け負う。

 

 ハイネとアスランはもういない。

 

 だが、彼らの後を継ぐ新星達は、立派に育っていた。

 

 

 

 

 

 進撃する反ロゴス同盟艦隊。

 

 その光景は水平線の彼方まで続き、一目で見渡す事はできない。

 

 上空には早期警戒の直掩モビルスーツが上がり、艦隊の空をカバーしている。

 

 はるか北に目を向ければ、同様に展開している地球連合軍艦隊の姿も見る事ができた。

 

 同盟艦隊の上空には、民間報道のヘリも多数飛んでいる。

 

 今や世界中が、このヘブンズベース沖に注目していると言っても過言ではなかった。

 

《こちらはヘブンズベース上空です! デュランダル議長が示した要求への回答期限まで、あと3時間と少しを残すところとなりましたが、未だに連合運側からは何のコメントもありません。このまま刻限を迎えるようなことになれば、自ら陣頭指揮を取るデュランダル議長を最高司令官にした、対ロゴス同盟軍によるヘブンズベースへの攻撃が開始されることになる訳ですが、ここは基地施設の他にも、軍事工場を有する連合軍の一大拠点です。開始されれば、その戦闘はどちらにとっても熾烈な物になる事が予想されます》

 

 リポーターが興奮した調子で報道している。

 

 対峙する対ロゴス同盟軍と地球連合軍。

 

 両軍合わせれば、艦艇500隻以上、機動兵器約4000機にも達する。正に、史上空前の激突だ。興奮するのも無理はない。

 

 あと3時間。

 

 地球軍は、どのような決断を下すのか。

 

 誰もがそう思い、時間が経過するのを待っていた。

 

 まさにその時、

 

 ヘブンズベース前面に布陣していた地球軍艦隊が、一斉にミサイルを発射した。

 

「敵軍、ミサイル発射!!」

 

 バートの悲鳴のような報告を聞き、ミネルバブリッジに緊張が走った。

 

 誰もが「まさかッ」と思う中、突出している同盟軍前衛部隊に、ミサイルは雨あられと降り注いだ。

 

 これに対し同盟軍は、全くと言って良いほど、迎撃準備をしていなかった。モビルスーツのパイロットですら、機体ではなく待機所にいたくらいである。

 

 直撃を受け、前衛艦隊の一角が切り崩される。

 

 地球軍は初めから、要求期限まで3時間を切った時点で攻撃を開始する作戦だったのだ。

 

 確かに、要求期限は同盟軍側が一方的に設定したものであり、地球軍がそれを守る義理は無い。

 

 ここは、備えておかなかった同盟側が愚かだったと言うべきだが、それにしても、要求に対して何の回答も無く、刻限より3時間も早く戦闘が開始されるとは、誰も思っていなかった。

 

 飛来するミサイルを前に、次々と艦艇が炎に包まれていく。

 

「モビルスーツ、モビルアーマー群接近!!」

 

 モニターの中で、急速に接近してきたザムザザーやウィンダムが、無防備のままの同盟艦隊に襲い掛かっているのが見える。

 

 完全に、立ち上がりを制されてしまった。

 

「何と言う事だ、ジブリールめ!!」

 

 デュランダルも苦々しく、敵の首魁を罵る。

 

 そこへ、背後に控えていたイレーナが声をかけた。

 

「議長、こうなっては仕方ありません。こちらも応戦しましょう」

「ああ、その通りだ」

 

 デュランダルは頷くと、前に向き直った。

 

「我らも直ちに、戦闘を開始しろ」

 

 デュランダルの決断を受けて、各方面へ伝達がなされる。

 

 モビルスーツ隊が直ちに発艦し、軌道上では降下揚陸隊が大気圏突入準備に入る。

 

「コンディションレッド発令!! 総対戦用意!!」

 

 命令を下しながらも、タリアは焦りを隠せずにいた。

 

 先制攻撃を受けて、味方の戦線は崩れつつある。

 

 果たしてこの遅れを、取り戻す事ができるだろうか?

 

 

 

 

 

 その頃、ヘブンズベース基地でも変化が起こっていた。

 

 島に設置された巨大なハッチが開き、中から不吉な影がせり出してくる。

 

 それはカブトガニの甲羅のような装甲を頭部に負い、長い砲身を突きだした漆黒の機体。西ユーラシアにおける悪夢の象徴、デストロイである。

 

 地球連合軍は今回の戦いに先立ち、この恐るべき兵器の量産に成功していたのだ。

 

 しかも、ヘブンズベースに配備されたデストロイは1機ではない。

 

 同様のハッチが次々と開き、中から巨影が姿を現す。

 

 その数は5機。

 

 ただ1機で4つの都市を壊滅させたデストロイを、地球軍はこの基地に5機も配備したのだ。数的劣勢を補って余りあるだろう。

 

 攻撃位置に着くと同時に、アウフプラール・ドライツェーンを一斉発射する5機のデストロイ。

 

 その様はまさに、人口の太陽が北の海に現出したようなものだ。

 

 海面には火柱が上がり、爆炎が天を衝く。

 

 生き残っていた前衛艦隊は、その一撃によりほぼ壊滅状態に陥った。

 

「何と言う事だ・・・・・・」

 

 デュランダルが、苦々しくうめき声を発する。

 

 戦闘開始僅か十数分で、前衛艦隊は壊滅。被害は甚大となりつつあった。

 

 モニターでは、尚も猛威を振るうデストロイの姿が映し出されている。

 

《艦長、これは?》

 

 モニターに映ったレイが、状況を確認してくる。その背後には心配そうな顔をしているアリスとルナマリアの姿も見えた。

 

「向こうからいきなり撃たれたわ。既に前衛艦隊は壊滅状態よ」

《そんな!?》

 

 アリスが口に手を当てて、困惑した声を発する。

 

 敵がこちらの要求を無視して、一方的に攻撃してくることなど、完全に予想外だった。

 

「あの大型機動兵器も出てきているわッ とにかく、発進準備を急いで!!」

 

 その間にも、デストロイは暴れつづけ、一斉発射するミサイルやビームにより、接近しようとする同盟軍艦隊やモビルスーツ隊を薙ぎ払っていく。

 

 とにかくあと少し。

 

 あと少しで降下揚陸隊がやってくる。そうすれば、海上と空中からヘブンズベース基地を挟撃する事も可能になり、戦況の逆転も可能なはずだった。

 

 

 

 

 

 上空から迫る、無数のザフト軍降下ポッド。その内部には4機ずつのモビルスーツが搭載されている。

 

 同盟軍が待ち望んでいる、降下揚陸部隊だ。

 

 彼等は、今まさに戦場と化しているヘブンズベース基地を取り囲むような形で、次々と上空から迫ってくる。

 

 これが成功すればヘブンズベース基地の背後から攻撃する事が可能となる為、同盟軍は息を吹き返し、一転して地球連合軍は窮地に立たされることになるだろう。

 

 だが、司令部に居並ぶ地球軍将校達に動揺の色は無い。

 

「直上に、ザフト軍降下ポッド現出!! ルート26から31に展開!!」

 

 オペレーターからの報告にも、冷静な頷きが返される。

 

 これまでの戦訓から、ザフト軍が降下部隊を投入してくるであろう事は先刻承知である。そして、それに対する備えも既に完了していた。

 

「ニーベルング発射用意、偽装シャッター解放!!」

 

 命令を受けて、動きが生じる。

 

 山に偽装されていたシャッターが開き、中から擂り鉢状のパラボラアンテナが姿を現す。

 

 地下から顔を出した直径10キロに及ぶ、巨大なアンテナ。

 

 対空掃射砲ニーベルング。

 

 地球連合軍が対ザフト軍降下部隊用に用意した切り札である。

 

「理想も良いッ 糾弾も良いッ だが、全ては勝たねば意味が無いのだ!!」

 

 発射準備を完了したニーベルングを貴賓室のモニターで眺めながら、ジブリールは歌い上げるように言う。

 

「古の昔から、全ては勝者の物と決まっているのですからね!!」

 

 そう、勝てば良いのだ。

 

 勝てば全ての悪徳は肯定され、あらゆる者が跪く事になる。死者がいくら正義を叫ぼうが、それが生きている人間に届く事は無いのだから。

 

「照射角、20から32。ニーベルング、発射準備完了!!」

 

 宇宙から降下してきたポッドが一斉に弾け、中からモビルスーツ隊が姿を現す。

 

 だが、それらは既に網に掛かった魚も同じだった。

 

「ニーベルング、発射ァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 天空に向けて放射状に放たれた閃光が、今まさに基地に取り付こうとしていた降下揚陸隊を飲み込み、根こそぎ吹き飛ばしていく。

 

 その光景を、同盟軍の将兵は呆然として見ていた。

 

 戦況を逆転する切り札として期待されていた降下揚陸隊。

 

 その切り札が、彼らの見ている前で無為に失われてしまったのだ。

 

「降下部隊、消滅!!」

「・・・・・・こんな・・・・・・こんなッ!?」

 

 アーサーが、上空を薙ぎ払った光を呆然と眺めながら、うわ言のように呟いている。

 

 もはや、戦線は崩壊寸前だった。

 

 同盟軍の指揮系統は混乱を来し、連合離脱組の中には、脱落者が出るのも時間の問題だろう。

 

 ここは一旦後退して、戦線を立て直すのが得策か。

 

 そう思った時モニターに、待機しているはずの元気な少女の顔が映り込んだ。

 

《艦長、ボク達に行かせてください!!》

 

 開口一番、アリスは勢い込んで言った。

 

《このままじゃ、みんながやられちゃいます!!》

「待って、今は・・・・・・」

 

 退却する。

 

 そう言おうとしたタリアを、デュランダルは制した。

 

「頼む、アリス」

 

 デュランダルは、少女をまっすぐに見据えて言った。

 

 今まさに、戦線崩壊の危機にある同盟軍。

 

 それを救えるとしたら、それはアリス達しかいないように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリス・リアノン、デスティニー行きます!!」

 

 アリスのコールと共に、デスティニーはカタパルトから打ち出された。

 

 発進と同時にVPS装甲は赤、青、灰に染まり、背中には深紅の翼が展開する。

 

 飛び立つ、運命の堕天使。

 

 その後方からは、合体を終えたインパルスと、これが初陣となるレジェンドが続く。

 

 デストロイの猛威は、ますます激しさを増している。もはや、一刻の猶予も無かった。

 

「これ以上、やらせるもんかァァァァァァ!!」

 

 加速しながら、ビームライフルを放つデスティニー。

 

 接近しようとしたウィンダムは、次々とコックピットを撃ち抜かれて撃墜される。

 

 アリスは更に、デスティニーの肩からビームブーメランを抜き放つと、ウィンダムめがけて投げつけた。

 

 旋回して飛翔するブーメランは、近付いてきたウィンダムを真っ二つにしてしまう。

 

 目を転じればルナマリアのインパルスも、ビームライフルでウィンダムを撃墜しているのが見えた。

 

 だが、その背後からは別の機体がインパルスを狙っている。それに対して、ルナマリアは気付いている様子は無い。

 

「ッ!?」

 

 とっさに割って入り、ビームシールドで攻撃を受け止めるデスティニー。

 

 お返しに放ったライフルで、そのウィンダムおコックピットを破壊して撃ち落とす。

 

「気をつけて、ルナ。空にいるんだから、足元からも敵が来るんだよ!!」

《ご、ごめん!!》

 

 やはり、いきなりの実戦では勝手も違ったらしい。ルナマリアも恐縮した調子で返事を返してきた。

 

 デスティニーは尚も前へと突き進む。

 

 その目指す先には、デストロイの巨大な影が立ちふさがっていた。

 

 人型に変形したデストロイは、胸部のスーパースキュラを発射、接近を試みたグフを吹き飛ばす。

 

 更に分離したシュツルムファウストを飛ばし、空中にいるディンやバビを次々と撃ち落としていた。

 

 圧倒的な戦力差である。

 

 あの火力と防御力、そして全体から発散される威容は、並みの兵士では対抗する事すらできないだろう。

 

《とにかく、アレを何とかする必要がある。頼めるか、アリス?》

「任せて!!」

 

 レイに力強く請け負い、アリスは更に機体を加速させる。

 

 残像を引きながら飛ぶデスティニー。

 

 中央に立つデストロイが、デスティニーに向けて10本の指からビームを放ってくるが、それらは全て、掠めることすらできない。

 

 視界の中で、デストロイの巨体が急速に膨らんでいく。

 

「・・・・・・・・・・・・ステラ」

 

 かつて、あれと同じ機体に乗っていた少女の名を、アリスはそっと呟く。

 

 もしかしたら、今、あの機体に乗っているのもステラと同じエクステンデットなのかもしれない。だとしたら、彼らもまた、ロゴスと言う死の商人が生み出した悲劇の犠牲者と言える。

 

 望まぬ破壊を強要され、殺戮の道具にされたステラ。そのステラと、同様の存在があれに乗っているかもしれない。

 

 可哀そうだと思う。できれば、助けてあげたいとも。

 

 だが、それでも、

 

「今は・・・ごめん!!」

 

 アロンダイトを抜き放ち、一気に斬り上げる。

 

 一閃。

 

 デストロイの右腕は、それだけで斬り飛ばされて地面に落ちて行く。

 

 残る左腕でデスティニーを捉えようとするデストロイ。

 

 だが、その前にデスティニーは大きく旋回して、デストロイの頭部に左掌を押しつけ、パルマ・フィオキーナを発動。デストロイの頭部を丸ごと吹き飛ばしてしまった。

 

 デストロイは確かに恐ろしい機体だ、陽電子リフレクターの鉄壁の防御に、戦艦をも凌駕する圧倒的な火力。距離を置いての戦闘では、脅威以外の何物でもない。

 

 しかし、その巨体故に、一旦懐に飛び込んでしまえば死角も多く、小回りのきくモビルスーツ相手に手も足も出せなくなってしまうのだ。

 

 接近戦こそが有効。アリスはその事を、皮肉にもベルリンの戦いで学んでいた。

 

 目を転じればレイの駆るレジェンドが、苦戦の末に1機撃墜しているのが見えた。やはり新型機でも、攻略法が分かっていなければ苦戦は免れないようだ。

 

「・・・・・・あ、そうだ!!」

 

 レイが苦戦する様子を見ていたアリスは、ある事を思いつき、頭部を失ったデストロイからいったん離れると、インパルスへ通信を入れた。

 

「ルナ、ソードに換装して!!」

《えッ!?》

 

 突然の通信に、ルナマリアからは戸惑いの声が返されるが、アリスは構わずアロンダイトを翳しながら言う。

 

「エクスカリバーを、レイにも渡すの!!」

 

 全開加速から、斬り下げる大剣の一撃。

 

 デスティニーの攻撃は、それだけでデストロイの巨体を頭頂から真っ二つに斬り裂いた。

 

 その間にルナマリアはインパルスの装備をソードシルエットに換装、エクスカリバーの1本をレジェンドへ投げ渡した。

 

 他方面に目を転じれば、当初は押される一方だった同盟軍が反撃に転じているのが見える。

 

 空中ではウィンダムが次々と撃墜され、海中では、地球軍の水中用モビルスーツ、フォヴィドゥンヴォーテクスが、ゾノ、グーン、アッシュを相手に死闘を繰り広げていた。

 

 一部の同盟軍部隊は、島への上陸にも成功している。

 

 皆、アリス達の活躍に触発されているのだ。こうなると、数に勝る同盟軍が完全に優位に立っていた。

 

 モビルアーマー形態のデストロイが、アウフプラール・ドライツェーンを放とうとするが、その前にエクスカリバーを装備したレジェンドとインパルスが斬り込む。

 

 レイがデストロイの砲身を斬り飛ばして発射を阻止すると、飛びこんだルナマリアがエクスカリバーを一閃、デストロイの装甲を斬り下げると、駄目押しとばかりに、装甲の裂け目からビームライフルを浴びせる。

 

 内部から破壊され、爆発、炎上するデストロイ。

 

《やるじゃないか、ルナマリア!!》

「忘れてた? わたしも『赤』なのよ!!」

 

 珍しく、惜しみない賞賛を送ってくるレイに対して、ルナマリアも得意げに返事を返す。

 

 そこへ、アリスから通信が入った。

 

《あ、ごめんルナ。ボク、ちょっと忘れてたかも》

「アーリース!! あんた帰ったらお仕置きよ!!」

 

 そんな軽口を言っている内にも、戦況は進んでいく。

 

 デスティニーは先に頭部を吹き飛ばしたデストロイへ、アロンダイトを振り翳して斬り込んでいく。

 

 デストロイの方でも接近するデスティニーの気付き、使用可能な全砲門を開いて迎撃を試みてくる。

 

 しかしデスティニーは、残像を残しながら急速に接近する。

 

「たァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 大剣の切っ先を突き込むデスティニー。

 

 その圧倒的な機動力を前に、デストロイは成す術がなかった。

 

 

 

 

 

「デストロイ1号機、撃墜!!」

 

 ヘブンズベースの司令部では、今や全員が顔面蒼白となって戦況を見守っていた。

 

 戦局逆転の切り札として投入したデストロイが、こうもあっさりと屠られて行くことなど、誰が想像し得ただろうか?

 

 既に投入した5機のデストロイの内、4機までが撃墜されている。

 

「馬鹿な、連中め、何をやっているのか!?」

 

 貴賓席で観戦気取りだったロゴス幹部が、色を失って狼狽している。

 

 彼等が見ているモニターの中では、最後のデストロイが、デスティニー、レジェンド、インパルスの3機に斬り刻まれているところだった。

 

 彼等は重武装火力主義に傾倒するあまり、モビルスーツの最大の利点である機動力を軽視しすぎてしまったのだ。

 

 やがて、最後のデストロイが轟音を上げて大地に倒れ伏すと、地球連合軍の士気は完全に崩壊した。

 

 勝手に戦線離脱し、逃走する部隊が続出する。

 

 上陸を果たしたザフト軍による、基地施設への攻撃も始まっていた。

 

 最早、勝敗は明らかだった。

 

「ジブリール、これはどういう事だ!?」

 

 ロゴス幹部達は一斉に、この責任を取るべき男へと視線を向ける。

 

 しかし、彼らが視線を向けた先には、ジブリールの姿はすでになかった。

 

 この時ジブリールは、地下に待機させていた潜水艦に、1人で乗り込もうとしているところだった。

 

「いったい、どういう事なのだ、これは!?」

 

 不甲斐ない味方部隊に毒づくジブリール。彼の中では、こんな筈じゃなかったという思いばかりが渦巻いている。

 

 置いて来たロゴス幹部達の事は気にしない。

 

 頭の良い自分はこうして、万が一の逃走手段も用意していた為に逃げる事が出来る。間抜けな連中がグズグズしているだけの話だ。

 

「デュランダルめ!!」

 

 毒の籠った声で吐き捨てるジブリール。

 

 まだだ、まだ負けたわけではない!!

 

 

 

 

 

 ヘブンズベース攻防戦は、対ロゴス同盟軍の圧倒的勝利に終わった。

 

 デストロイ5機を撃墜され、基地が陥落した事により駐留艦隊、ならびにモビルスーツ隊は次々と戦闘を停止し、降伏していった。

 

 当初の圧倒的な劣勢から、まさかの逆転勝利に、同盟軍の将兵は誰もが湧き返った。

 

 これも全て、アリス、レイ、ルナマリアのおかげである。

 

 3人が敵の象徴であるデストロイを殲滅し、崩れかかった味方の士気を立て直す事が出来たからこその勝利だった。

 

 その戦闘の様子を、遥か天空の彼方から見守る者がいる。

 

 岩礁群に偽装して潜伏している戦艦エターナルでも、ヘブンズベース戦での状況は伝えられていた。

 

「戦闘終了したようです」

 

 オペレーターからの報告に、バルトフェルドは鋭い視線を投げる。

 

 ラクスもまた、重苦しい表情を向けた。彼女の傍らには、相変わらずメイド服を着たエストが、無表情のまま報告を待っている。

 

「連合軍が、降伏したようです」

 

 大方の予想通りと言うべき報告に、ブリッジの中には重い空気が流れる。

 

 早すぎる。

 

 いかに大軍に攻められたとは言え、地球軍が総力を上げて守るヘブンズベース基地が、僅か半日にも満たない戦闘で陥落するなど、誰が予想しえただろう?

 

「急がねばなりません」

「ラクス?」

 

 呟くラクスに、エストは怪訝な顔を向ける。

 

 そんなエストの肩軽くを叩きながら、ラクスは一同を見回す。

 

「ヘブンズベースが陥ちたのなら、次はオーブです」

 

 その涼やかな瞳には、明らかな憂慮の色が滲んでいた。

 

 

 

 

 

PHASE-35「一騎当千」      終わり

 

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