機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-51「因果に応じ、報いは下る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色とりどりの砲火が戦場を交錯し、その中で閃光が時折煌めいている。

 

 事情を知らない者が見れば、幻想的と称するかもしれないその鮮やかな煌めきの中では、しかし、今この瞬間にも多くの命が失われていっているのだ。

 

 ザフト軍による、オーブ連合首長国所有の宇宙ステーション、アシハラ侵攻に端を発する攻防戦は、終わりが見えないまま、多くの未来ある若者達の命を飲み込んで膨張し続けていた。

 

 敵がどこにいて、味方がどこにいるのかすらわからないような乱戦模様。

 

 そのような中でラキヤ・シュナイゼルは、ついに宿敵、ベイル・ガーリアンを追い詰めつつあった。

 

「ウオォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 ストームの鋭い突撃と共に、振り下ろされるレーヴァテインの斬撃。

 

 その攻撃を、エグゼクターは後退する事で回避しようとする。

 

 しかし、かわしきれない。

 

 レーヴァテインの切っ先は、エグゼクターの前部装甲を僅かに掠めて行く。

 

《クッ こいつゥ!!》

 

 反撃の為にシュラークとスキュラを放つエグゼクター。

 

 ゲシュマイディッヒパンツァーによって誘導されたビームは、回避運動を取るストームを追尾して迫る。

 

 しかし次の瞬間、信じられない事が起こった。

 

 自身に迫るビームの一撃。

 

 それをあろう事か、ラキヤはレーヴァテインの刃で受けて弾いてしまったのだ。

 

《ば、馬鹿なァ!?》

 

 絶叫するベイル。

 

 まさに神業と称して良い光景に、ベイルは愕然とする。

 

 そこへ、6基のドラグーンから一斉攻撃を放つストーム。

 

 迸る6条の閃光。

 

 しかし、その全てがゲシュマイディッヒパンツァーを展開したエグゼクターを捉えるには至らず、バラバラの方向に弾かれてしまう。

 

 追い詰められつつあるとは言え、まだエグゼクターも戦える力を残している。

 

《おのれェ 屑の癖に、屑の癖に、屑の癖にィィィ!!》

 

 喚き散らすベイル。

 

 対してラキヤは、鋭くベイルを睨みつける。

 

 ステラの仇、西ユーラシアで散った多くの人々の仇。

 

 万感の思いと共に、レーヴァテインを振り上げるストーム。後退しようとするエグゼクターよりも早く動き斬り込んで行く。

 

 これを振り下ろせば、全てが終わる。この男との因縁も、全て。

 

「これで終わりだ、ベイル・ガーリアン!!」

 

 そう叫んだ瞬間、

 

 突如、予期し得なかった事が起こる。

 

 出し抜けに、凄まじい閃光が起こり、ラキヤの視界全てを白色に染め上げたのだ。

 

「なッ!?」

 

 思わず、呻き声を上げて目を閉じるラキヤ。

 

 まさにこの時、フェイトのクラウ・ソラスによって陽電子リフレクターの守りを失ったメサイアが、苦し紛れとも言うべきネオジェネシスの照射を行ったのだ。

 

 そこで、このアシハラ攻防戦における最大の悲劇が現出された。

 

 オリジナルには威力において一歩譲るとは言え、それでも、レクイエムが失われた現状の地球圏において、最も高い威力を誇る大量破壊兵器である。

 

 その一撃は凄まじく、射線上にいたオーブ軍や地球連合軍は勿論、味方であるはずのザフト軍をも巻き込んでしまったのだ。

 

 怨嗟の声が湧き上がり、次の瞬間には消えて行く。

 

 地獄だった。

 

 消滅したザフト兵士達も、よもや自分達の要塞から撃たれるとは思ってもみなかっただろう。

 

 しかし現実に彼等は、メサイアの砲撃によって、その尊い命を散らして行った。

 

 ラキヤも、突然の出来事に、思わず目を閉じてしまっている。

 

 ネオジェネシスの迸る閃光を至近距離で見てしまったため、視界を一時的に塞がれてしまったのだ。

 

 そして同時に、

 

 その事態は、ベイルにとっての幸運をもたらした。

 

《ギャーハハハハハハハハハハハハ!! イーヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!》

 

 耳障りな嘲笑を上げるベイル。

 

 動きを止めたストームに対し、腰の隠し腕を起動して斬り掛かる。

 

 隠し腕先端のビームソードを一閃。

 

 その一撃が、レーヴァテインを持ったストームの右腕を斬り飛ばした。

 

「ッ!?」

 

 息を呑むラキヤ。

 

 とっさに、機体を後退させようとする。

 

 しかし、

 

《バーカがァ!! 逃げられるわけ無いだろうがァ!!》

 

 嘲りの声とともに、スキュラを発射するベイル。

 

 その閃光が、ストームの左足を薙ぎ払う。

 

「グゥッ!?」

 

 機体が損傷しながらも、どうにか体勢を立て直そうとするラキヤ。

 

 だが、ベイルは一度掴んだ優位を、決して離そうとしない。

 

《残念だったなァ ラキヤ・シュナイゼル!! あとちょっとだったのになァ!!》

 

 言いながら、シュラークを発射し、未だにバランス回復をできないでいるストームの頭部を吹き飛ばすベイル。

 

 まるで嬲り者にするように、ストームを一寸刻みに破壊していく。

 

《まあ所詮、勝利の女神って奴は正しい方に微笑むのさッ 貴様のような卑しい人間は、初めから女神から見放されてるのだよ!!》

 

 言い放つと、鉤爪で半壊したストームを掴み、スキュラを照準する。

 

 既に抵抗する力も失ったストーム。

 

 それを見て、ベイルは、確定した勝利に対して下卑た笑いを向ける。

 

《あばよ。あの世でせいぜい、例の人形ちゃん共と仲良くやるんだなァ!!》

 

 そう吐き捨てる言って、ベイルはスキュラの引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 ジャスティスの出現は、ザフト軍主力の帰還を意味するかに思われた。これにより、一気に戦況はザフト軍優位に傾くと。

 

 しかし、実際には未だにその兆候は無い。

 

 実はザフト軍の主力部隊は、未だにデブリ帯の中から帰還しないでいる。大軍で進んでしまったために、反転するのに予想外の時間がかかっているのだ。

 

 その為、機体の足が速く、なおかつ単独で動けるアスランが一足先に戻ってきたのだ。

 

 ちなみにハイネは自分の部隊の統制がある為、やはり単独で戻る事ができず、主力隊と行動を共にしている。

 

 配下の部隊を持たないアスランだけが、どうにか決戦の場に間に合った形であった。

 

 そんな中で、フリーダムとジャッジメントの対決は、ますます佳境へと突入しようとしていた。

 

 振るわれる超特大剣の一撃。

 

 その剣閃を真っ向から見据え、

 

 キラはフリーダムのビームライフルを手放すと、両腕を鋭く振るう。

 

「ダメです、キラ、防げない!!」

 

 叫ぶエスト。

 

 しかし、もう遅い。既に大剣は、逃れようのない場所にまで迫っている。

 

 両の掌を打ち合わせるように交差するフリーダム。

 

 瞬間、

 

 信じられない光景が、そこにあった。

 

 何とフリーダムは、その両掌に、ジャッジメントの大剣を挟み込んで受け止めていたのだ。

 

「ハァッ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げたのは(まことに珍しい事に)エストである。

 

 自分の彼氏が常識の埒外にある変人である事は知っていたが、流石にこれは、予想の斜め上を行きすぎている。

 

 まさか彼女も、普通に人間がやるにも神業級の真剣白刃取りを、モビルスーツの手でやるとは思わなかったのだ。

 

 だが、呆けているエストを余所に、キラは次の行動を取る。

 

 白刃取りは、あくまで一瞬でも剣閃を鈍らせる為に手段。どのみち、まともにぶつかれば押し切られるのは目に見えている。

 

 腰のレールガンを緊急展開、ほぼゼロの距離から斉射するフリーダム。

 

 発射から着弾までのタイムラグはゼロ。

 

 次の瞬間、ジャッジメントは爆炎を浴びて大きく吹き飛ばされた。

 

「グッ!?」

 

 コックピットの中で息を詰まらせるイレーナ。

 

 勿論、ジャッジメントの装甲はVPS装甲である為、実質的な被害は何もない。しかし彼女も、このような手段で自分の斬撃が防がれるとは思ってもいなかったのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・やりますね、さすがは人類最高のコーディネイター、と言うべきですか」

 

 体勢を立て直しながら、独り言のように呟くイレーナ。

 

 相手はキラ・ヒビキ。

 

 彼の遺伝子工学の権威、ユーレン・ヒビキ博士の息子にして、彼の研究における唯一の成功体であるスーパーコーディネイター。

 

 油断していて勝てるような相手ではない事くらい、初めから判っていた事である。

 

 だが、

 

 対艦刀デュランダルを再び持ち上げて構えるジャッジメント。同時に、4基のドラグーンも左右に従えて展開する。

 

 あくまで戦い続ける姿勢を崩さない。

 

 負けられないと言う思いならば、イレーナは誰よりも強く持っている。

 

 議長を守り、彼の目指す未来を守る。

 

 その為に障害となる全てを、この剣で斬り裂く。

 

 単純明快。

 

 それ故に強く、それ故に決して折れない。

 

「この身は、あのお方の剣・・・・・・」

 

 囁くように、イレーナの口から洩れ聞こえる声。

 

 同時に、

 

「全ては、未来の為に!!」

 

 ジャッジメントは駆けた。

 

 大剣を振り翳して迫る断罪者。

 

 対して蒼翼の熾天使は、浮遊させておいたビームライフルを拾い、真っ向から迎え撃つ。

 

「エスト、あれをやるよ!!」

 

 キラは決断する。

 

 この敵を相手に、まともに戦っていたのでは勝機は薄い。ならばこちらも、相応の切り札を切るしかないだろう。

 

「判りました」

 

 淡々と頷くエスト。

 

 疑うべきは何物も存在しない。キラは自分を信じてくれているし、自分もキラを信じている。

 

 ならば、全てを彼に任せて戦うまでだった。

 

「ファイヤコントロールオンライン、デュアルリンクシステム、ディスコネクト」

 

 コンソールを操作しながら、冷静な声で告げるエスト。

 

 同時にデュアルリンクシステムがオフラインになる。これでストライクフリーダムは、一時的に戦況予測が不可能となった。

 

 そこへ斬り込んでくるジャッジメント。

 

 対してキラは、フリーダムを上昇させて斬撃を回避する。

 

 大きく空振りをするジャッジメントの斬撃。

 

 しかし、4基のドラグーンは、そのままフリーダムを追ってくる。

 

 対抗するように、8枚の羽を射出するフリーダム。同時に、ビームサーベルを抜いてジャッジメントに斬り掛かっていく。

 

「ハァァァァァァ!!」

 

 接近と同時に繰り出されるフリーダムの斬撃。

 

 その攻撃を、イレーナはジャッジメントを後退させて回避。同時に、4基のドラグーンを引き寄せるように操る。

 

 ジャッジメントが正面からビームライフルを構え、4基のドラグーンはフリーダムの背後から反包囲する構えを取る。

 

「これで、詰みです!!」

 

 勝利への確信と共に、イレーナは叫ぶ。

 

 ジャッジメント本体とドラグーンで、フリーダムを挟撃する態勢である。これなら、いかに高機動のフリーダムと言えど、回避は困難を極めるはず。そしてバランスを崩したところで、一気にトドメを刺す。それが、イレーナの考えた必勝の布陣である。

 

 後は砲門を開くだけ。

 

 そう思った瞬間、

 

 突如、ドラグーンの1機が、予期せぬ方向から砲撃を浴びて吹き飛ばされた。

 

「なッ!?」

 

 驚くイレーナ。

 

 見れば、先に射出されていたフリーダムのドラグーンが、ジャッジメントのドラグーンに対して、逆に攻撃を仕掛けている所だった。

 

 更に1基のドラグーンが、砲撃を浴びて撃ち落される。

 

「クッ!?」

 

 まさかドラグーンでドラグーンを撃ち落とすとは思わなかった。

 

 しかし、まだドラグーンは2基ある。火力面では尚もジャッジメントが勝っているし、このような事がそうそう可能とも思えない。

 

 まだ、こちらが有利だ。焦るほどの事ではない。

 

 考えながらライフルを放ち、イレーナはフリーダムを牽制する。

 

 こうやってフリーダムの動きを拘束しておけば、ドラグーンを操作するどころではないはず。その間に、こちらは残ったドラグーン2基で攻撃を仕掛ければ勝てるはず。

 

 そう思った瞬間、

 

 残っていた2基のドラグーンが、立て続けに砲撃を浴びて吹き飛ばされた。

 

「そんなッ!?」

 

 ドラグーン全滅。その事態に、イレーナは驚愕せずにはいられない。

 

 彼女が必勝と確信した戦術が、僅か一瞬で崩されてしまった。

 

 フリーダムはそのままサーベルを翳して、ジャッジメントへと向かってくる。

 

「ッ!? まだ!!」

 

 まだ負けた訳ではない。

 

 そう言ってイレーナは、ジャッジメントのビームライフルを構える。

 

 しかし次の瞬間、上方から降り注いだビームが、ビームライフルの銃身を撃ち抜いて弾き飛ばした。

 

「なッ!?」

 

 とっさに、銃身を失ったライフルをパージする。

 

 見ればいつの間に展開したのか、フリーダムのドラグーンがジャッジメントに対して攻撃を仕掛けている所だった。

 

「クッ!?」

 

 とっさに後退しつつ、デュランダルを構えようとするイレーナ。

 

 しかし、フリーダムのドラグーンは、その退路を塞ぐようにビームを放ってくる。

 

 これでは、いかに高機動を誇るジャッジメントと言えど、ほとんど身動きが取れないに等しい。

 

 そこへ、ビームサーベルを手に斬り掛かってくるフリーダム。

 

 その斬撃をジャッジメントは、辛うじてビームシールドで防ぐ。

 

「まだです!!」

 

 まだ、この程度でやられはしない。

 

 全ては、議長の未来を守る為。このような所で、倒れるわけにはいかない。

 

 しかし、イレーナが叫んだ瞬間、

 

 背後から包囲するように展開したドラグーンが、一斉攻撃を仕掛けてくる。

 

「ッ!?」

 

 その苛烈な砲撃を前に、イレーナは機体をとっさに退避させる。

 

 逃げるジャッジメント。

 

 それを追って、フリーダム本体がサーベルを構えて迫り、ドラグーンが付き従って砲撃を行う。

 

「こんな・・・・・・なぜ、こんな事に!?」

 

 呻くイレーナ。

 

 まるで、自分の動きの全てが読まれているような、的確な砲撃。

 

 否、違う。

 

 イレーナは自分の中に浮かんだ考えを、即座に否定した。

 

 動きを読まれているのではない。フリーダム本体とドラグーンが、それぞれ別の意志を受けて動いているような機動を見せているのだ。

 

 それぞれが独立した動きを見せ、相互に高い連携を見せながら、ジャッジメントを追い詰めている。

 

 その為、まるで2機のモビルスーツを相手にしているかのように感じられるのだ。

 

 イレーナのその予想。

 

 それは、実に正鵠を射た物だった。

 

 この時、キラがフリーダムを操る傍らで、ドラグーンのコントロールと砲撃は、エストが担当していたのだ。

 

 普段はめったに使わないが、当然の事ながら、フリーダムは後席のオペレーター席でも機体を操縦する事ができる。これは、戦闘で万が一パイロットが負傷した際の予備システムだが、キラとエストはこれを利用して、機体とドラグーンを別々に操る戦術を立案し、自分達の切り札にしていたのだ。

 

 エストの操るドラグーン8基が次々とジャッジメントに砲撃を仕掛け、ジャッジメントの動きを牽制、その機動力を封じ込めに掛かる。

 

 それに対してイレーナは未だに勝負を捨てず、尚もデュランダルを振り翳してフリーダムに斬り掛かろうとする。

 

 だが、ドラグーンの攻撃によって牽制され、その動きはひどく単調な物となってしまっていた。

 

 その瞬間を、エストは見逃さなかった。

 

「キラ、今です」

「判った!!」

 

 エストが作り出した勝利への道を、キラは一気に駆け抜ける。

 

 対抗するように、ジャッジメントも大剣を振り翳す。

 

「私は!! ・・・・・・私は、負けない!!」

 

 議長の為にッ その未来の為に!!

 

 振り下ろされるジャッジメントの大剣。

 

 斬り上げられるフリーダムの双剣。

 

 交錯する一瞬。

 

 次の瞬間、

 

 対艦刀デュランダルは、ほぼ中間地点で真っ二つに斬り飛ばされた。

 

「・・・・・・・・・・・・あ」

 

 小さく、声を上げるイレーナ。

 

 その目には、本来の長さの半分ほどになり、ビーム刃も消失したデュランダルの姿がある。

 

 全ての武装を失って、呆然と佇むジャッジメント。

 

 フリーダムの動きは、そこで止まらない。

 

 距離が開いたところで、バラエーナ、レールガン、ビームライフルを構え、その周囲には8基のドラグーンが取り巻いた。

 

「ファイヤコントロール、システム掌握!!」

「デュアルリンクシステム、再起動確認!!」

 

 再び操縦の全権はキラに渡り、エストはデュアルリンクシステムによりオペレートを再開する。

 

 フリーダムの全砲門が、ジャッジメントに向けられる。

 

 対してイレーナは、尚もビームシールドを翳して防御しようとする。たとえ武装の全てを失っても、抵抗は止めないと言う姿勢を貫いているのだ。

 

 しかしフリーダムがフルバースト射撃を敢行した瞬間、彼女の意志は無意味な物と化した。

 

 圧倒的な火力を叩き付けられては、多少防御力が戦ったとしても意味離さない。

 

 頭部、両腕、更に足も吹き飛ばされていくジャッジメント。

 

 それは同時に、イレーナの想いもまた、閃光の中で打ち砕かれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メサイアによるネオジェネシス発射は、後年、その真相において諸説の憶測が飛び交う事になる。

 

 デュランダル議長が発射を命じたとする説、軍上層部が要塞への攻撃波及に焦りを覚え、議長の許可を待たずに発射を強行したとする説、そしてエネルギー充填が完了し発射準備を終えていたところに、オペレーターの操作ミスが加わり発射に至ってしまったとする説。さまざまである。

 

 しかし、証言者の生き残りが少ない事から、そのどれもが説得力に欠けており、アシハラ攻防戦における大きな謎のひとつとされている。

 

 ただ、発射が突然過ぎたため、その攻撃によって敵味方を問わず、前線にいる多くの兵士を巻き込んだのは事実である。そしてその事実は、巨大な波紋となって戦場全体に波及しようとしていた。

 

「・・・・・・・・・・・・これまでだな」

 

 低い声で呟いたのは、前線で指揮を続けていたイザークである。

 

 元々、ジェネシスの再建やラクス・クラインの偽物、デスティニープランの施行等で自軍に対する不信と己の中に迷いを抱えて戦っていたイザークであるが、味方の損害も顧みずにネオジェネシス発射に踏み切るメサイアを見て、彼の気持ちは固まったと言って良い。

 

 元来、イザークは武骨で不器用な男であるが、同時に一本の気質がまっすぐにとおった男でもある。

 

 事この段に至り、味方の兵士まで犠牲にして勝利を得ようとする上層部、ひいてはデュランダル議長には従う事はできなかった。

 

「ジュール隊各位に次ぐ」

 

 イザークは指揮下にある部隊全員に通信を入れた。

 

「俺はこれより、ザフト軍の指揮下を離れ、戦線を離脱する。味方を犠牲にするような上層部には従う事はできない」

 

 その言葉に、ジュール隊の中では戸惑いが生じていく。無理も無い。隊長自らが自軍を裏切ると宣言しているような物なのだから。

 

 イザークは更に続ける。

 

「尚、この決断は俺の独断であり、お前達が従う必要は一切無い。以後は、独自の判断で行動しろ!! 以上だ」

 

 一見すると、全てを丸投げにした無責任な行動にも見えるイザークの宣言だが、それは彼自身が部下達の身を気遣ったが故の行動でもある。

 

 理由はどうあれ、命令に違反して戦線離脱するのだから、戦闘が終わった後に処罰は免れないだろう。ならば、自分に付き合って彼等まで処分されるのは避けたかった。

 

 処分を受けるなら、自分1人で十分である。

 

 そんなイザークの宣言に、隊員達は戸惑いを見せていたが、やがて1人、また1人と返事が帰って来た。

 

《隊長、隊長の御判断に従います!!》

《自分も、隊長と共に行きます!!》

《隊長がそう決断したのなら、俺達もついて行きます!!》

 

 次々と、賛同の声が上げられる。

 

 その声を、イザークは呆然として聞いていた。

 

「お前達・・・・・・・・・・・・」

 

 イザークとしては、部下全員が自分を見限ったとしても、それは仕方ないと考えていた。自分が道理に合わない事をしている自覚はあるし、それを皆に強要する事も出来ない。

 

 だが彼は、彼自身が思っている以上に部下達から慕われていたらしい。戦線に残っている全員が、イザークの決断を支持すると言ってきた。

 

《良かったじゃないの》

 

 傍らのディアッカが、少しおどけた調子でイザークに声をかけた。

 

「ディアッカ、お前は・・・・・・」

《勿論、俺達も撤退するぜ。こうなったら、自分達の正義を信じる気にもなれないしな》

 

 議長に不審を感じていたのはディアッカも同じである。

 

 軍隊と言う物は、自分達の正義を信じるからこそ、武器を取って戦う事ができるのだ。だからこそ、この事態を受け入れる事はできなかった。

 

 やがて、ジュール隊とエルスマン隊は、戦線を維持しつつ徐々に後退していく。

 

 上層部に従う事はできないが、最前まで共に戦っていた味方を裏切って砲門を向ける事も出来ない。その為、戦線離脱と言うのは、彼等なりに導き出した唯一の「落とし処」であった。

 

 実のところ、イザークやディアッカと同様の決断をする部隊は、ザフト軍の中では少なくなかった。誰もが「議長が味方を撃った」と言う事に衝撃を受けていたのだ。

 

 味方部隊が閃光に巻き込まれる光景を見て、憤りを感じる者、戸惑いを感じる者、そして次は自分かもしれないと恐怖する者達は多数存在したと言う訳である。

 

 これにより、それまで強固に保っていたザフト軍の防衛線は、音を立てて崩れていく。

 

 尚も要塞を守る為に戦っているのは、もはや、真の意味でデュランダルを支持しようと思っている者達だけであると言って良い。

 

 そして、その光景は要塞直前で奮闘している、オーブ宇宙軍第1戦隊でも確認できた。

 

 ユウキは決断する。

 

 フェイトによる陽電子リフレクターの破壊、そしてネオジェネシス照射、更にはザフト軍の一部部隊の戦線離脱。

 

 これらにより、メサイアの防衛線は手薄となっている。

 

 今なら、要塞に対して総攻撃を仕掛ける事もできるはずである。

 

 ユウキは、立ち上がり命じる。

 

「機関全速、面舵いっぱい、進路、メサイアへ!!」

 

 その双眸には、尚も反撃の砲火を上げ続ける巨大要塞が映っている。

 

「本艦はこれより、艦首超大型回転衝角を使用した、ネオジェネシス破壊作戦を実行する!!」

 

 

 

 

 

 つかみ上げたストームに、ベイルはエグゼクターのスキュラを向ける。

 

《これで終わりだな、ラキヤ・シュナイゼル!! これで貴様の目障りな面を拝まなくて済むかと思えば、清々するよ!!》

「クッ!?」

 

 唇を噛むラキヤ。

 

 しかし、ストームは動作不良を起こしてしまい、ほとんど身動きが取れなくなっている。加えて、ドラグーンのコントロールシステムは頭部に搭載していた為、その頭部を失った事により、ドラグーンは全て無用の長物と化していた。

 

 まさに、万事休すである。

 

《そォら、これで終わりだ!! 派手に吹き飛べェ!!》

 

 エグゼクター胸部のスキュラが発光し、発射体勢に入る。

 

 もはやこれまでか。

 

 そう思って目を閉じた瞬間、

 

 飛来した閃光が、ストームを掴んでいる鉤爪を一撃で吹き飛ばした。

 

《何ィっ!?》

 

 驚愕の声を上げるベイル。

 

 同時に、自由を取り戻したストームが虚空に投げ出される。

 

 その視界の彼方から、深紅の翼を持つ、運命の堕天使が高速で飛来した。

 

「先輩を、放せぇ!!」

 

 アリスの絶叫と共に、アロンダイトを抜き様に一閃するデスティニー。

 

 その一撃が、エグゼクターのゲシュマイディッヒパンツァーを斬り飛ばす。

 

《グヘェッ!?》

 

 衝撃で息を吐き出しながら、とっさに機体を後退させようとするベイル。

 

 だが、アリスは逃すまいと肩からフラッシュエッジを抜き放ち、エグゼクターへ投げつける。

 

 旋回して飛翔するブーメラン。

 

 それを、機体を沈み込ませる事で回避したエグゼクター。

 

《ハッ そんな物で・・・何ィ!?》

 

 嘲弄しようとした瞬間、ベイルは絶叫する。

 

 一度は回避したと思っていたブーメランが、戻って来たかと思うとエグゼクターのスラスターを背後から斬り裂いたのだ。

 

《クソッ クソッ クソォ!!》

 

 圧倒的な戦闘力でエグゼクターを破壊していくデスティニー。

 

 苦し紛れに、シュラークを構えて放とうとする。

 

 しかし次の瞬間、立ちはだかった機体が光刃を一閃し、エグゼクターのシュラーク2本を一緒くたに切り飛ばした。

 

 ストームである。

 

「アリスは、やらせない!!」

 

 そのストームのコックピットハッチが、開いた状態になっている。

 

 頭部を失い、索敵能力が大幅に減じたストームだが、ラキヤはそれを原始的な方法で補完したのだ。すなわち、目視による照準である。

 

 比較対象の少ない宇宙空間では正確な距離感を図るのは難しいが、それでも大まかな方向は判る。それを利用し、残った最後の武装であるビームソードで斬り掛かったのだ。

 

 更に、返す刀でエグゼクターの首も斬り飛ばすストーム。

 

「お、おのれェェェェェェ!!」

 

 絶叫するベイル。

 

「死んでたまるかよォォォォォォ!!」

 

 ベイルはそのまま、生き残ったスラスターを吹かして戦線離脱をしにかかる。

 

 その向かう先には、陽電子リフレクターを失った要塞メサイアの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽電子リフレクターが消失した事で、オーブ軍はメサイアに対する艦砲射撃を再開している。

 

 更にザフト軍の防衛線が崩れた事により、当初から攻撃を行っていた第1戦隊の他にも、スサノオ、ツクヨミから成る第2戦隊(クサナギは先のダイダロス戦で損傷した為、未参加)も追いついてきて、艦砲射撃に参加していた。

 

 その為、要塞表面には閃光着弾の炎や、誘爆の爆発光が次々と瞬いていく。

 

 そんな中、ラキヤは損傷したストームを必死に操り、逃走したエグゼクターを追ってメサイアに辿りついていた。

 

 オーブ艦隊の艦砲射撃は、ラキヤの位置からすると反対側で行われているらしく、港口から要塞内へ入ると、そこには喧騒の気配がほとんどしなかった。

 

 その視界の先では、うち捨てられたように擱座しているエグゼクターの姿が見える。どうやら、ベイルが飛び込んだのはここで間違いないらしい。

 

「・・・・・・逃がさないぞ」

 

 ラキヤは低い声で呟きストームを着陸させると、拳銃を手に外に出る。

 

 ここでベイルを逃がせば、いつまた自分やアリスに危害を加えて来るかわからない。何としても、ここで討ち果たす必要があった。

 

 その時、後方から港に飛び込んでくる機体があるのに気付いた。

 

「デスティニー・・・・・・アリスか!!」

 

 アリスもまた、着陸しているストームの横に機体を降ろすと、無重力に身を任せながらコックピットから飛び降りてきた。

 

「先輩!!」

 

 降りてきたアリスの体を、ラキヤは優しく抱き留めて笑みを見せる。

 

「アリス、さっきは助かったよ」

「うん。先輩が戦ってるのが見えたから。間に合って良かった」

 

 そう言って、少し涙ぐむアリス。

 

 そんなアリスの体を、ラキヤは愛おしそうに抱きしめる。

 

 だが、和んでいる暇はない。こうしている間にも外ではオーブ軍が戦闘を続けているのだ。

 

「先輩、さっきの機体が、この間のあいつなんですね?」

「うん」

 

 あのコペルニクスでアリス達を襲撃した男、ベイル。

 

 ステラに大量虐殺を強要し、多くの人達の命を奪った憎むべき男。

 

 ここで討たなければならないと言う気持ちは、アリスも同じである。

 

 ラキヤとアリスは頷き合うと、要塞の奥を目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 殆どの者が戦闘に駆り出されているらしく、要塞内部には人影があまり見当たらなかった。

 

 時折行きかう人も、アリス達には気付かずに去っていく。

 

 そんな中で、アリスとラキヤは銃を構えて慎重に進んでいく。

 

「アリス、君はこの要塞に来た事は?」

「いいえ、ボクも初めてです」

 

 答えながら、アリスもどこかもの珍しそうに周囲を見回しながら進んでいく。

 

 移動可能な要塞をザフト軍が密かに建設中だと言う噂は聞いた事があったが、入るのはこれが初めてだった。

 

 隕石をくり抜いて建造された要塞は、意外にも内部はしっかりした区画構造が成されており、とても歩きやすい印象がある。

 

 遠くで響く振動が、徐々に大きくなっている。どうやら、オーブ軍の砲撃が激しくなり始めているようだ。

 

 ベイルはこの喧騒に紛れて逃げおおせる心算らしい。

 

 そうはさせるものか。

 

「アリス・・・・・・」

 

 急ごう。と、ラキヤが言いかけた時だった。

 

 突如、銃声が鳴り響いた。

 

 振り返るラキヤ。

 

 次の瞬間、

 

「あぐッ!?」

 

 隣を歩いていたアリスが、右腕を押さえて、その場にうずくまる。

 

 その腕からは、鮮やかな鮮血が宙に舞うのが見えた。

 

 そして、

 

「ヒャーハッハッハッハッハッハ!!」

 

 ひどく耳障りな笑い声が、背後から聞こえてきた。

 

 目を転じればそこには、拳銃を構えたベイルの姿がある。

 

 迂闊だった。

 

 ベイルはただ逃げていたのではない。ラキヤ達が追ってくるのを見越して待ち伏せ、一旦やり過ごした後、背後から襲撃したのだ。

 

「バカ共が、貴様等の姑息な考えなどお見通しだ!! 今度こそ貴様等は・・・・・・」

 

 ベイルは、台詞を最後まで言い切る事ができなかった。

 

 電光石火の速度で、ラキヤが動く。

 

 とっさに左手を伸ばしてアリスを自分の背に庇うと、右手に持った銃をベイルに向けて、2度引き金を引く。

 

 放たれた弾丸。

 

 1発はベイルの手から銃を弾き飛ばし、更にもう1発は左肩に食い込んだ。

 

「グアッ!?」

 

 のけぞるベイル。そのまま、仰向けに倒れながら、背後の壁へと頭をぶつける。

 

 それに構わず、ラキヤは急いでアリスに振り返った。

 

「アリス、大丈夫!?」

 

 屈みこんで、アリスを覗き込む。

 

 右腕を撃たれたアリスは、上腕部分を貫通されており、そこからひどい出血を起こしていた。急所は外れているが、それでも放置できない負傷である事には変わりはない。

 

 だが、アリスは苦しそうに顔を上げると、それでも無理やり笑って見せる。

 

「ぼ、ボクは大丈夫・・・・・・それよりも先輩・・・・・・」

 

 その様子に、ラキヤはホッとする。どうやら、すぐにどうにかなる傷でもないらしい。

 

 それよりも、促すようなアリスの視線を受けて、ラキヤは静かに頷く。

 

「アリス、ちょっとだけ待ってて。すぐ、終わらせるから」

 

 そう言うと、ラキヤはアリスから離れると、拳銃を手にベイルへと近づいた。

 

 睨みつけるラキヤの眼光。

 

「ひ、ヒィィィィィィ!?」

 

 対してベイルは、這うようにしてその場から逃げようとするが、ラキヤは容赦なく銃口を向けて引き金を引き、ベイルの足を撃ち抜いた。

 

「ヒギィ!?」

「今さら逃げようなんて、ずいぶんと虫の良い話ですね」

 

 耳障りな悲鳴を上げるベイルを見下し、冷めた声で告げるラキヤ。

 

 それに対しベイルは振り返ると、怯えきった瞳でラキヤを見詰める。

 

「お、おい、よ、よせよ・・・そ、そんな事したって、意味ないだろ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「だ、だいたいだな、ステラって言ったか? あのお人形が死んだのは、俺のせいじゃねえだろ。命じたのは盟主だし、トドメさしたのは、そこの女だろ。俺はやれって言われた事をやっただけだ。恨まれる筋合いなんてねえよ!!」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 喚き続けるベイルに対し、ラキヤは銃口を向けたまま無言でいる。

 

 そんなラキヤに言いようのない恐怖を感じたのか、ベイルは更に言い続ける。

 

「そ、そうだ、ラキヤ・シュナイゼル、お前、俺と組まないか? お前と俺が組めば、正に無敵だろ。どんな奴にだって負けないだろうぜ!! な、そうしよう、それで2人で荒稼ぎしようぜ!!」

 

 まくし立てるベイル。

 

 次の瞬間だった。

 

 銃声が3つ、立て続けにラキヤの手元で鳴り響く。

 

 同時にベイルの腹部に、3つ、穴が開いた。

 

「ガハッ!?」

 

 大量に血を吐き出すベイル。

 

 その目は、信じられない物を見るようにラキヤを見ている。

 

 煙を上げている銃を構え、ラキヤは冷ややかな瞳をベイルに向けている。これ以上、その耳障りな声を一言でも聞きたくなかった。

 

「ば・・・・・・馬鹿・・・・・・な・・・・・・」

 

 そのまま力尽きて、壁に崩れるベイル。

 

 それを見届けてから、ラキヤは目を閉じて、かつて妹のように可愛がっていた少女に思いを馳せた。

 

 ステラ、敵は討ったよ。

 

 心の中で、そう告げると、アリスの方に向き直った。

 

「先輩・・・・・・」

 

 負傷した右腕を押さえながら、アリスも目に涙を浮かべてラキヤを見ている。

 

 心を通わせる事ができた時間は短かったが、彼女もまた、ステラには思い入れのある人物の1人である。その仇が討てたのだから、嬉しくないはずが無かった。

 

 そんなアリスに歩み寄ると、ラキヤは寄り添うように肩を貸す。

 

「その傷、どこかで治療した方が良いね。取りあえず、医務室を探そう」

「すみません、お願いします」

 

 とにかく治療を、それができないのなら、せめて止血だけでもするべきだった。

 

 寄り添うようにして去っていくラキヤとアリス。

 

 その背中が廊下の陰に見えなくなるころで、

 

 壁を背に倒れていた筈のベイルは、ゆっくりと目を開いた。

 

「クッ・・・・・・グッ!?」

 

 激痛に顔を歪めながらも、どうにか身を起こそうとするベイル。腹に3つも穴を開けられて、尚もベイルは生きていたのだ。

 

 全身に走る激痛。

 

 飛びそうになる意識が、その痛みのせいで逆に消える事ができずに引き戻される。

 

 ベイルの中で、加害者への憎悪を呼び起こす。

 

「お、のれ・・・・・・ラキヤ・・・シュナイゼル・・・・・・絶対に、ゆ、許さんぞ・・・・・・」

 

 この借りは必ず返す。

 

 奴も、奴の女も、必ず八つ裂きにしてくれる。

 

 そう思った時だった。

 

「おい、誰か倒れてるぞ!!」

 

 叫ぶ声とともに、複数の足音が近付いて来るのが分かった。

 

 ベイルは、首をそちらに向けて、そして思わず目を見開いた。

 

 近付いて来るのは、赤や緑のスーツを着た、ザフトの兵士達だったのだ。

 

 彼等は倒れているベイルを見ると、驚いた顔で取り囲んだ。

 

「おい、こいつ、地球軍の兵士だぞ!!」

「チッ もうこんな所まで入り込んでやがったのか!!」

 

 複数の視線が、憎悪を込めてベイルを見下ろしている。

 

 多くのザフト軍兵士にとって、地球軍は血のバレンタインをはじめ、先の大戦では多くの犠牲を生み出し、更に今大戦でも先のレクイエムの攻撃などで多大な犠牲を生み出した憎むべき敵である。

 

 彼等にとっては、地球軍の人間と言うだけで、生きている価値すらない存在なのだ。

 

「こいつ、まだ生きてるぞ・・・・・・・・・・・・」

 

 低く告げられた言葉。

 

 同時に、全員が顔を見合わせて頷き、暗い視線を再び倒れているベイルに向けた。

 

「お・・・おい、よせ・・・・・・やめろ・・・・・・」

 

 兵士達のその様子に、言いようのない恐怖に、震える声を出すベイル。

 

 しかし、ある意味、それが引き金となった。

 

 一気に殺到したザフト兵士達は、手にした銃で、拳で、足で、倒れているベイル1人を殴り、蹴りつけていく。

 

「なッ やめッ やめろッ やめろォ!! このッ モルモット共がァ!! 俺を誰だと思っているゥ!?」

 

 叫ぶベイルに、容赦のない暴力が振るわれる。

 

 誰もが、自分達がナチュラルに抱いている憎悪に酔いながら、内にこもった感情の全てをベイル1人に叩き付けるように私刑(リンチ)を振るう。

 

「やめろォォォ!! やめてくれェェェ!!」

「うるせぇんだよ!!」

 

 泣き叫ぶベイルの顎が、容赦なく蹴り砕かれた。

 

 私刑は更に数分間に渡って続けられ、ベイルの声も、やがて骨を砕き肉が避ける音へと代わって、聞こえなくなっていった。

 

 やがて、暴力的な欲求を満足させたザフト兵士達は、ようやく動きを止める。その時には既に、ベイルの顔面は原形をとどめない程に変形し尽くし、体中の骨がへし折られていた。

 

 それは最早、人間ではない。辛うじて人間の形をしただけの、ただのモノだった。

 

 驚くべき事に、そこまでされても尚、ベイルは生きていた。もっとも、体は最早痛みも感じない程に破壊しつくされ、目は白目となって何も映さず、4本の手足は全て、ありえない方向に曲がり、中には関節の数が増えている物まである。全身から血を吹き出し、口はただ空気を吸って吐くだけの穴と化していたが。

 

 しかし、ある意味で、ここで死んでおいた方がベイルには幸せだったかもしれない。

 

 なぜなら、ザフト兵士達は尚も満たされない復讐心の生贄に、ベイルを捧げようとしていたのだ。

 

「おい、そこのエアロックを開けろ!! こいつを外に放り出すぞ!!」

 

 言われて、兵士の1人がエアロックの開閉操作をする傍らで、他の兵士達は、もはやぼろ屑と化したベイルの体を持ち上げる。

 

「い・・・・・やだ・・・・・・たく、ない・・・・・・死に・・・・・・くない・・・・・・すけて・・・・・・たす・・・・・・て・・・・・・・」

 

 もはや、途切れ途切れに発せられる言葉は、誰の耳にも聞こえる事は無い。

 

 やがて、ベイルの体は生ゴミでも投げるように、エアロックの中へと放り込まれる。

 

 そして外壁が解放された瞬間、ベイルの体は真空の中へと放り出されて消えていった。

 

 

 

 

 

 全砲門を展開し、フルバースト射撃を敢行するトゥルース。

 

 奔流のような閃光は、あらゆる物を捉え吹き飛ばすのに十分な火力を秘めている。

 

 虹を思わせる7色の砲撃。

 

 しかし、それをジャスティスは、まるで何でもないかのように、高速機動を描いて回避しながら接近してくる。

 

「クッ!!」

 

 その様子を見て、更に砲撃の手を強めるラクス。

 

 流星のように流れる砲撃は、しかしジャスティスを捉える事はない。

 

《甘いぞ、ラクス!!》

 

 全ての攻撃を回避し、アスランは自身の間合いに斬り込んで行く。

 

 振るわれるビームサーベル。

 

「ッ!?」

 

 それより一瞬早く、ラクスはトゥルースを上昇させて斬撃から逃れる。

 

 同時にトゥルースは、両手のライフルを連結させロングライフルモードにすると、ジャスティスめがけて発射する。

 

 自身に向かってくる閃光を、機体を後退させて回避するアスラン。

 

 同時に、牽制するようにビームライフルを放つジャスティス。

 

 ラクスはその攻撃をかわすと、再びライフルを分離してジャスティスに撃ち放つ。

 

 両者の間で、しばらくの間、激しい砲火の応酬が交わされた。

 

《判っているのか、ラクス!!》

 

 サーベルで切りかかりながら、アスランは叩きつけるように言う。

 

 対してトゥルースは上昇して斬撃を回避、同時にレールガンを展開して発射する。

 

「アスラン!?」

《世界はもう、今すぐにでも変わらないといけないんだぞ!!》

 

 レールガンの攻撃を回避するジャスティス。そのままトゥルースを追って斬りかかる。

 

 対抗するようにして、ティルフィングを抜き放ち迎え撃つトゥルース。

 

 互いの刃が、虚空で交錯する。

 

《だが、君達は、その変わろうとする世界すら、否定しようというのか!?》

 

 いったん離れる両者。

 

 同時にラクスは、腹部のカリドゥスを発射して応戦する。

 

「わたくしは何も、議長のなさる全てを否定しようという気はありません!!」

 

 トゥルースの放つ閃光を、アスランは機体を旋回させて回避する。

 

「しかし、議長の在り方が正しいとは思えず、受け入れようとしない人達もいます。議長はそのような形の存在を許そうとはしていません!!」

 

 この戦争が始まる前まで、デュランダルは善政を敷く理想の政治家として、国内外から高い評価を得ていた。暗殺未遂が起こる前までは、ラクス達もプラントへの移住を考えていたくらいである。

 

 しかし、今回のデスティニープランの導入宣言、そしてそれを拒否したオーブに対する武力侵攻。これはすなわち、「逆らえば容赦はしない」という暴君のスタンスに他ならない。それ故に、ラクスは議長の方針には従えないのだ。

 

「そのようなやり方が正しいとは、わたくしには到底思えないのです!!」

《それは危険な考えだ、ラクス!!》

 

 アスランの叫びとともに、シールドに装備したブーメランを抜き放ち、投げつけるジャスティス。

 

 対してラクスは、高速で機動しながら回避、同時にティルフィングを翳して切りこんでいく。

 

《君はそうやって、他人がやろうとしている事を頭ごなしに間違っていると断じ、深く知りもせずに否定する。それでは、いつまで経っても人は変われないじゃないか!!》

 

 何事も始める前から、あれはダメ、それはダメ、などと言っていては、人は永久に変化をする機会を得られず、ズルズルと現状を維持したまま腐っていくしかない。その為にも、今こそ変化が必要なのだ、とアスランは主張する。

 

 向かってくるトゥルースに対してアスランは、シールドに装備したグラップルスティンガーを射出、ワイヤー付きの鉤爪は、ティルフィングの刀身に絡みついて奪い取ってしまった。

 

「あっ!?」

 

 一瞬、手元から武器を失ったラクス。

 

 その隙を、アスランは見逃さない。

 

 距離を詰めるジャスティス。その手にあるビームサーベルが一閃し、トゥルースの左足を斬り飛ばした。

 

「くっ!?」

 

 ラクスはとっさに機体を上昇させて距離を取り、フルバーストに移行しようとする。

 

 しかし、その前にジャスティスがビームライフルを発射し、トゥルースのライフルを1基、吹き飛ばしてしまう。

 

《世界は変わらなかった!!》

 

 リフターを飛ばすジャスティス。

 

 対して、損傷を負ったトゥルースは、どうにかバランスを取り戻して回避する。

 

《あれだけ悲惨な戦争を経験しても、世界は何も変わらなかった!!》

 

 前線では多くの兵士達が死に、後方ではもっと多くの人々が犠牲になった先の戦争。

 

 それだけの悲劇を乗り越えてようやく平和を手にしたというのに、世界は再び戦火に見舞われてしまった。まるで、あの悲劇など何も無かったと言わんばかりに。

 

 これでは、あの戦争で、平和を願い、家族や仲間の無事を祈りながら散っていった多くの兵士達の死は無駄と言う事になってしまう。

 

《だからもう、世界は変わらなくちゃいけないッ》

 

 ビームサーベルをアンビテクストラスフォームに連結して斬りこんでいくジャスティス。

 

 対抗するように、トゥルースもビームサーベルを抜いて構える。

 

《正しいとか間違っているとかじゃなく、まずは変わる。その上で、間違っているなら少しずつ修正していく。そうやって、世界を変えていくべきなんだ!!》

 

 斬り結ぼうとする両者。

 

 しかし次の瞬間、トゥルースを背後から衝撃が襲った。

 

「あぐッ!?」

 

 一瞬、息を詰まらせるラクス。

 

 見れば、いつの間にか背後に回り込んでいたリフターが背後から砲撃を行い、トゥルースの右翼を吹き飛ばしたのだ。

 

 動きを止めるトゥルース。

 

 その隙を逃さず、斬り込むジャスティス。

 

《なのに、それすら否定されたんじゃ、世界に変わる機会は、永久にやってこないじゃないか!!》

 

 振るわれるサーベルが、トゥルースの右肩を斬り飛ばす。

 

「クッ!?」

 

 とっさに、機体を後退させようとするラクス。

 

 しかし、アスランはそれを許さない。

 

 右足のグリフォン・ビームブレードを展開。強烈な蹴り上げによって、トゥルースの左腕を斬り捨てる。

 

 トドメとばかりに、トゥルースの首をサーベルで斬り飛ばすジャスティス。

 

 勝敗は決した。

 

 トゥルースは全動力が停止し、VPS装甲も落ちて鉄灰色に変色する。

 

 そんな中で、

 

「アスラン・・・・・・」

 

 ラクスは、静かに語りかける。

 

「それでは、間違いを押しつけられた世界はどうなりますか?」

《・・・・・・・・・・・・》

 

 対してアスランは、油断なくサーベルを構えたまま、ラクスの声に聞き入っている。

 

「わたくし達は、『間違いは間違いだった』と認識し、またやり直せば良いかもしれない。しかし、その間違いを押しつけられる形で死んでしまう、多くの人達はどうなりますか?」

《ッ!?》

 

 ラクスの言葉に、ハッとするアスラン。

 

 確かに、上に立つ人間が道を間違うという事は、すなわち、その下で暮らす多くの人達に犠牲を強いる事になる。

 

 彼等にとっては、それが間違いだった、では済まされないのだ。

 

 アスランは自分の目線が上過ぎて、その事に今の今まで気づいていなかった。

 

「確かに、アスランのおっしゃる通り、世界はすぐにでも変わらなくてはならないのかもしれません。しかし、だからこそ変革には、道を誤らないように慎重な姿勢が必要なのです。しかし、議長はそれを強引に成そうとしている。わたくしには、それが許せないのです」

《ラクス、君は・・・・・・・・・・・・》

 

 茫然と呟くアスラン。

 

 自分も、議長も、あるいは話を事を急ごうとするあまり、目線ばかり空を見上げ、足元の地面を見ないでいたのかもしれない。そんな思いに捉われてしまう。

 

 ジェネシスの復活に、電撃的なオーブ侵攻と、アスラン自身、この戦いには納得できないでいる事も多々ある。

 

 特にオーブ。

 

 愛するカガリがいるあの国を滅ぼそうとする議長のやり方には、アスランも少なからず反発を覚えていたところである。

 

 議長の目指す世界と、ラクスが言った考え。

 

 そのどちらが正しいのか、アスランには分からなくなり始めていた。

 

 半壊したトゥルースと、その傍らで、何もせずに佇むジャスティス。

 

 周囲の喧騒の中で、そこだけがまるで切り取られたように静寂に包まれて存在している。

 

 ラクスはそれ以上、何も言おうとはしない。ただ、アスランが決断するのをじっと待ち続けている。

 

 どれくらい、そうしていただろうか?

 

《・・・・・・・・・・・・さっきも言ったが》

 

 やがて、アスランはポツリと呟いた。

 

《今の俺は、ザフトの軍人だ。仲間を裏切るような事はできない》

「存じております」

 

 ラクスは柔らかく答える。

 

 今のアスランの立場は、ラクスとて理解している。だからこそ、自分の考えを押しつけて強要するような真似はできなかった。

 

《その上で、俺にできる事をしようと思う》

「・・・・・・どうなさるおつもりですか?」

 

 尋ねるラクスに対し、アスランは毅然とした態度で言った。

 

《君を議長の元へ連れて行く。彼と直接話して、自分の考えをぶつけてみてくれないか?》

 

 

 

 

 

PHASE-51「因果に応じ、報いは下る」      終わり

 

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