機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-54「灼熱色のKISS」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 双翼が駆け抜ける度に、閃光が虚空を斬り裂いて行くのが見える。

 

 ぶつかり合う閃光は周囲を一瞬だけ照らし、また再び離れる。

 

 その光は、あるいは時代の先を照らす曙光であるのかもしれない。

 

 フェイトとデスティニー。

 

 宿命と運命。

 

 似て非なる名前を持つ2つの機体は、このコズミック・イラと言う戦乱に彩られた叙事詩において、その有終を司るが如く、携えた剣を掲げていた。

 

 フェイトを駆るのはシン・アスカ、そしてマユ・アスカ。オーブに生を受け、オーブによって両親を失い、そしてオーブによって救われ、オーブを守る為に生きると決意した兄妹達。

 

 デスティニーを駆るのは、ラキヤ・シュナイゼル、そしてアリス・リアノン。かつて同じ時を歩みながら、運命によって引き離された男女。そして自分達の強い意志によって、再び結ばれる事ができた2人。

 

 両者は、互いの存在と矜持を掛けて激突する。

 

 そこに大きな意義は、あるいは無いのかもしれない。そして、両者が戦う意味もまた、無いのかもしれない。

 

 それでも、4人の男女が操る2体の鉄騎は戦わねばならない。ただ、自分達が歩んできた運命をぶつけるが如く。

 

 故に、この戦いは「決戦」ではなく「決闘」と呼ぶべきかもしれなかった。

 

「行ッけェェェェェェ!!」

 

 シンの声と共に、全武装を展開するフェイト。

 

 両手のビームライフル、肩のバラエーナ、腰のレールガンから閃光が奔流の如く流れる。

 

 鮮やかな虹を連想させる、致死の閃光。

 

 その攻撃を、

 

 デスティニーは深紅の翼を広げ、全速力で回避する。

 

「先輩、下から行けそうです!!」

「判った!!」

 

 アリスの指摘に従い、機体を操るラキヤ。

 

 流星の如く降り注ぐ閃光に対し、デスティニーは残像を引きながら全てを回避してのける。

 

 その比類ない高機動性を前にして、フェイトの攻撃は掠める事すらできない。

 

 デスティニーは本来アリスの機体ではあるが、彼女は今、右腕を負傷した状態にある。その為、操縦桿はラキヤが握り、アリスは彼の膝の上に座って操縦のサポートを行っている。

 

 操縦を始めて数分、ラキヤは既に、どちらかと言えば気難しいデスティニーの操縦の勘を完璧に掴んでいた。

 

 そこにアリスのサポートも加わる為、デスティニーは事実上、スーパーエース級をも上回る戦闘力を発揮していた。

 

「これで!!」

 

 高速で接近しつつ、ラキヤはデスティニーのビームライフルを抜き放ち、フェイトに向けて撃ち放つ。

 

 放たれる閃光は、しかしフェイトを捉えるには至らない。その前にフェイトも武装を収納し、双翼を翻してその場から飛び退く。

 

「デスティニーからの攻撃、3回、今!! 来るよ!!」

「了解!!」

 

 マユの警告に従い、機体に回避行動を取らせるシン。

 

 同時にフェイトは、レールガンを展開して斉射した。

 

 閃光を引いて飛翔する弾丸は、しかしデスティニーの残像を抉るだけに留まる。

 

 遠距離における砲撃力はフェイトが勝るが、機動力と残像機能を利用した回避戦術が相手では、いささかの分の悪さは否めなかった。

 

「先輩、今です!!」

「判った!!」

 

 フェイトの攻撃を回避しきったのを確認し、ラキヤはアリスの指示と共に、長距離ビーム砲を展開して撃ち放つ。

 

 対してフェイトの方でも、攻撃態勢に入っているデスティニーの姿は確認している。

 

「回避、間に合わないよ!! お兄ちゃん、防御して!!」

「いや、それよりも、こうだ!!」

 

 シールドで防いだのでは押し切られて体勢を崩してしまう可能性もある。

 

 マユからの情報をもとに、そう判断したシンは瞬時に独自の戦術を組み立てる。

 

 ビームライフルを連結してロングライフルモードにすると、デスティニーに向けて発射した。

 

 同時に迸る閃光はほぼ中間地点で激突、対消滅を引き起こす

 

 行き場を失った閃光が、強烈な爆散を引き起こし、周囲に拡散して飛び散る。

 

 その閃光を突いて、

 

 フェイトとデスティニーは、互いに剣を抜き放ち、ほぼ同じタイミングで斬り掛かる。

 

 アロンダイトが横薙ぎに旋回し、フェイトに斬り込む。

 

 それを上昇してかわしたフェイトは、両手に持ったミストルティンを大上段から振り下ろす。

 

 交差するように振り下ろされた剣は、しかし、デスティニーはシールドで防いで弾き返した。

 

 大きく吹き飛ばされるフェイト。

 

「クッ!?」

「キャァッ!?」

 

 呻くシンと、悲鳴を上げるマユ。

 

 体勢を崩したフェイトに対して、デスティニーは右手のパルマ・フィオキーナを振り翳してフェイトに迫る。

 

 閃光を発するデスティニーの右腕。

 

 しかし、接触するよりも一瞬早く立て直したフェイトが、体勢を傾けるようにしてデスティニーの攻撃を回避する。

 

 すれ違う一瞬、

 

 デスティニーとフェイトは、互いに睨みあう形で通り過ぎる。

 

 振り返る両者。

 

 ライフルを抜き放つのも同時だった。

 

 閃光が走る。

 

 しかし、高速ですれ違う互いの機体を、捉えるには至らない。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 シン、アリス、マユ、ラキヤはほぼ同時に、呻き声を上げる。

 

 旋回しながら互いにライフルを浴びせるが、それらの攻撃は空を切るばかりであり、効果を上げる事は無い。

 

 埒が明かないと感じ、とっさに距離を置く。

 

 縦横に駆け巡り、砲火を交わし、剣を斬り結ぶフェイトとデスティニー。

 

 高速で行われる両者の戦闘は凄まじく、他の機体が入り込む余地が全くない。

 

「これで、どうだ!!」

 

 シンはミストルティンをアンビテクストラスフォームに連結して斬り掛かる。

 

 旋回して斬り掛かってくるフェイトの大剣。

 

 対して、

 

「クッ!?」

 

 ラキヤはデスティニーの肩からフラッシュエッジを抜き放ち、サーベルモードにして迎え撃つ。

 

 袈裟掛けに振るわれるミストルティンの攻撃。

 

 デスティニーは旋回する刃を沈み込むようにして回避する。同時に、両手の剣を斬り上げるように振るう。

 

 駆け抜ける、閃光の軌跡。

 

 対して、

 

「まだだ!!」

 

 双刃を、後退する事で回避するフェイト。

 

 同時にシンは、肩からフラッシュエッジを抜き放ち、ブーメランモードで投げつける。

 

 対抗するように、デスティニーも両手に持ったフラッシュエッジを、ブーメランモードで投げつけた。

 

 3つのブーメランが、複雑な軌道を描いて旋回しながら飛翔する中を。

 

 すれ違いながら、両者は大剣を掲げて斬り込んで行く。

 

「ウォォォォォォォォォォォォ!!」

「ハァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 互いの刃は、互いのシールドによって防ぎ、弾かれる。

 

 後退して離れる両者。

 

 そこへ、背後から戻ってくるブーメラン。

 

 フェイトとデスティニーは、ほぼ同時にその場から飛び去り回避、同時に戻ってきたブーメラン自らのブーメランを受け取る。

 

「そこだァッ!!」

 

 咆哮するシン。

 

 いち早く攻撃態勢を整えたフェイトは、フルバーストモードに移行、全砲門を開いて攻撃を行う。

 

 その攻撃をデスティニーは寸前で体勢を立て直して回避、同時に長射程ビーム砲を展開して砲撃を行う。

 

 一直線に迸る閃光。

 

 対してフェイトも、機体を翻して攻撃を回避する。

 

 互いの砲撃を回避した事で、フェイトとデスティニーは再び剣を構えて斬り込みをかける。

 

 交錯する剣戟。

 

 フェイトとデスティニーの戦闘は、尚も激しさを増していく。

 

 両者の戦いは白熱したまま徐々に、

 

 しかし確実に、戦場から遠ざかりはじめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先制の一撃を受けてしまったのは、やはり大きかった。

 

 レヴォリューションの鋭い攻撃を必死に回避しながら、キラは心の中で臍を噛む。

 

 吹き抜ける火線が、次々とフリーダムを掠めて行くのに対しキラはそれらを、紙一重で回避し、時折反撃の砲火を閃かせる。

 

 神業的な回避行動であるが、反撃の糸口が掴めないのも事実である。

 

「クッ!?」

 

 振動する機体を必死に操りながら、キラは口の中で呻き声を漏らす。

 

 OSがバランスを調整してはいるが、先の攻撃で足部のスラスターを失い、フリーダムの機動力は若干の低下を来している。更にバランス補正能力も悪くなっている。

 

 そこに来てレヴォリューションの猛攻が、次々とフリーダムを掠めて行く。

 

「4秒後に攻撃、回避を!!」

「クッ!?」

 

 エストのオペレートに従い、フリーダムを回避させるキラ。

 

 その翼の先を、レヴォリューションが放ったビームが掠めていく。

 

 その攻撃を見送りながら、キラは背中にどっと冷や汗が流れるのを感じた。

 

 今のは危なかった。下手をすると、コックピット付近を直撃していた可能性もある。

 

 キラもエストも、既に疲労困憊の状況である。いつ倒れてもおかしくは無いだろう。

 

 状況は加速度的に悪くなっていた。

 

 キラの超絶的な操縦センスと、阿吽の呼吸を心得たエストの的確なオペレートにより、かろうじて戦況は拮抗している状態である。

 

 しかしそれでも、徐々に劣勢に追い込まれているのは否めなかった。

 

 攻撃を回避すると同時に、フリーダムは両手に持ったライフルをレヴォリューションに向けようとする。

 

 だが、

 

「遅い!!」

 

 フリーダムが攻撃を開始する前に、ハイネはレヴォリューションのライフルを放ち、フリーダムの左手にあるライフルを吹き飛ばした。

 

「クッ まだ!!」

 

 それでも構わず、右手のライフルを放つフリーダム。

 

 対してレヴォリューションは、フリーダムの攻撃をシールドで防ぎながら接近、間合いに入ると同時にフラッシュエッジを抜き放ち、サーベルモードにして振るう。

 

 一閃された斬撃は、しかしフリーダムが一瞬早く退避した事で空振りに終わる。

 

「チッ しぶといな!!」

 

 回避行動をとるフリーダムを睨みながら、ハイネは舌打ち交じりに叫ぶ。

 

 ハイネにも、フリーダムの消耗が激しい事は判っている。恐らくザフト軍の主力が戻ってくるまでに、かなりの激戦を潜り抜けてきたのだろう。

 

 それでも尚、自分の攻撃がクリーンヒットしない事には、いら立ちを覚えずにはいられない。

 

 確かにフリーダムは消耗が激しい。

 

 戦闘時間の超過に加えて、これまでアドラー、ファルケ、そしてジャッジメントと強敵を相手に戦い続けてきたのである。キラも、そしてエストも、己の命すら削るように戦い続け、性能的には圧倒的なはずのレヴォリューションと拮抗している。

 

 だが、その状況すらも、薄氷を踏むような物でしかない。何らかのきっかけがあれば、あっという間に崩されてしまう拮抗だ。

 

 そして一度追い込まれると、後はもうフリーダムに逆転の目は無いだろう。

 

「これで、どうだ!!」

 

 残像を引きながら飛翔するレヴォリューション。

 

 フリーダムも迎え撃つようにバラエーナとレールガン、それに1基だけになったライフルを用いて砲撃を行うが、全ての攻撃はレヴォリューションの残像に惑わされ、空を切る。

 

 その間にも、ハイネはレヴォリューションを高速で突撃させる。

 

 距離を詰めたレヴォリューションは、肩に担ぐようにして構えたアロンダイトを振りかざした。

 

 対してフリーダムは、シールドを展開して、大剣の一撃を防ぎにかかる。

 

 ぶつかり合う、ビームの刃と盾。

 

 一瞬、拮抗するフリーダムとレヴォリューション。

 

 しかし、勢いはレヴォリューションの方にある。

 

「おっらァァァァァァ!!」

 

 ハイネは押し切るようにしてアロンダイトを一閃、フリーダムを弾き飛ばす。

 

「クッ!?」

「ウゥッ!?」

 

 うめき声を漏らす、キラとエスト。

 

 バランスを崩したフリーダムは、そのまま錐揉みするようにして流されていく。

 

 その隙を、ハイネは逃さない。

 

「これで、トドメだ!!」

 

 一気に勝負を掛けるべく、長射程ビーム砲を構えるレヴォリューション。

 

 ロックオンと同時に、引き金に指を掛けたハイネ。

 

 迸る閃光は、しかし一瞬早くフリーダムが体勢を整えて飛びのいた為に、空を切るに留まる。

 

 すかさずフリーダムの8枚の蒼翼が一斉射出され、レヴォリューションへと向かう。

 

「何ィッ!?」

 

 その光景に、ハイネは目を見開く。

 

 完全に捉えたと思った攻撃が回避されたのだから、ハイネとしても舌を巻かざるを得ない。

 

 包囲して、一斉に攻撃を行うドラグーン。

 

 ハイネは慌てたように、回避行動に移る。

 

 「クッ!? 往生際が悪いぜ!!」

 

 ドラグーンの一射がレヴォリューションの右肩を掠めていくのを見て、ハイネが悪態を吐いた瞬間だった。

 

 フリーダムの機体が、レヴォリューションのすぐ目の前にまで迫っていた。

 

「何っ!?」

 

 息を飲むハイネ。

 

 ハイネが気を逸らした一瞬の隙に、キラは一気に距離を詰めて来たのだ。

 

 次の瞬間、フリーダムは手にした対装甲実体剣を振りかざし、レヴォリューションに突き込む。

 

 その動きに、レヴォリューションはとっさに対応できない。

 

 先のドラグーン攻撃によって破壊された装甲の隙間に、実体剣の切っ先は、深々と突き刺さる。

 

「クッ!?」

 

 呻き声を上げながらも、とっさに後退をかけるハイネ。

 

 目を走らせれば、レヴォリューションの右腕にエラー表示が出ている。今の一撃で内部機構が破壊され、右腕が動作不良に陥ったのだ。

 

「やってくれるじゃないか・・・・・・」

 

 ハイネは苦笑を閃かせながら、レヴォリューションの肩に突き刺さった実体剣を抜いて投げ捨てる。

 

 右腕が動かなくなったのでは、長大なアロンダイトを振るう事ができない。接近戦能力が大幅に減じる事は避けられない。

 

 しかし、それでも尚、ハイネは不敵に笑って見せる。

 

「面白くなってきたぜ」

 

 言い放つと、左のフラッシュエッジを抜き放ち、サーベルモードにして構える。

 

 その様子は、キラとエストにも見えている。

 

「キラ、ドラグーンのコントロールを、こちらにください」

 

 エストは焦燥の滲む声で、静かに告げる。

 

 今の攻撃でレヴォリューションが退いてくれれば良かったのだが、生憎、敵のパイロットは未だに戦意を捨てていないらしい。

 

 ならばこちらも、可能な限り全力で当たるしかないだろう。

 

「判った、お願い」

 

 キラがOSの操作を行うと、デュアルリンクシステムが一時的に解除され、代わりにエストは8基のドラグーンを掌握下に置く。この状況では、戦況予測よりも、手数の方が有効と判断したのだ。

 

 サーベル2本を構えるフリーダム。

 

 片腕を奪ったとは言え、レヴォリューションは尚も、フリーダムを上回る高い機動力を保持している。油断できる相手ではなかった。

 

「行くよ!!」

「はい」

 

 キラの言葉に頷くエスト。

 

 ドラグーンが一斉攻撃を開始し、その只中をフリーダムが駆けて行く。

 

 対抗するようにレヴォリューションも、残像を引きながらドラグーンの攻撃を回避、フリーダムへと斬り掛かっていく。

 

「ハァァァァァァ!!」

 

 フリーダムが振るうサーベルの軌跡を、レヴォリューションは高機動を発揮して回避。同時に、斬り上げるようにフラッシュエッジを振るう。

 

 その攻撃を、フリーダムは後退して回避。同時に、エストが操るドラグーンが、一斉に攻撃を仕掛ける。

 

「チィッ!?」

 

 舌打ちするハイネ。

 

 矢継ぎ早に襲い掛かってくるドラグーンの攻撃を前にして、攻撃を断念して一旦後退するレヴォリューション。

 

 そこへ、サーベルを構えて斬り掛かっていくフリーダム。

 

 対抗するように、レヴォリューションもまた、フラッシュエッジを振り翳す。

 

 両者の戦いは、互いの命を削り合うように、果てしなく続けられていた。

 

 

 

 

 

 ネオジェネシス破壊に成功した後、戦艦武蔵は一旦戦場を離れ、砲火の届かない場所に遊弋していた。

 

 他のオーブ艦隊は、尚もメサイアに対する艦砲射撃を継続している。

 

 陽電子リフレクターの守りを失い、ネオジェネシスも破壊されたメサイアの周囲には、砲撃の物と思われる閃光が瞬いているのが遠望できる。

 

 要塞と言えど、こうなると脆い物である。何しろ的としては恐ろしくデカイ為、全ての攻撃が「打てば当たる」状態である。既に航行能力も喪失しているらしく、動き出す気配はない。

 

 生き残っているいくつかの火器がオーブ艦隊に対して絶望的な抵抗を行っているが、それ等が制圧されるのも時間の問題であろう。

 

 そのような中にあって、武蔵はただ1隻、戦闘から離れた宙域に遊弋していた。

 

 周囲に砲火が飛ぶ事は無く、その巨体を、疲れた恐竜のように体を休めていた。

 

 ネオジェネシスを破壊した艦首の超大型回転衝角は、その役目を終えて停止している。

 

 ネオジェネシスと回転衝角。PS装甲同士が激しくぶつかり合った結果、衝角の内部回転機構が歪み、回転不能に陥ったのだ。当然、大破、使用不能である。

 

 常に最前線にあって戦線を支え続けた武蔵の損害は大きい。回転衝角の他にも火器の大半は使用不能に陥り、損傷は船体にまで及んでいる。機関の一部も損傷し、航行能力も低下していた。

 

 その為、武蔵は一時戦場外に退避して応急修理に努めると同時に、戦線復帰に向けて準備を進めているのだ。

 

 甲板で行われている作業を、ユウキは艦橋の窓から見下ろしている。

 

 眼下には装甲基部を深く抉られて旋回不能に陥っている第2砲塔の姿もある。

 

 甲板装甲もあちこち裂け目ができて、内部区画がむき出しになっている。

 

 よくもまあ、こんなになるまで戦った物であると感心してしまう。沈んでいないのが不思議なくらいだった。

 

 そして、

 

 その第2砲塔の脇に突っ込む形で停止している機体に視線を向けた。

 

 既に、臨時編成して送り込んだ救助班から、ライアが救出された旨、報告を受けている。

 

 その報告を受けて内心ホッとしたユウキだが、まだ油断はできない。ライアは現在、意識不明の重体であり、艦内の医務室に収容されて緊急手術を受けている。軍医からの報告では、意識が回復するかどうかは微妙な所であるらしい。

 

 恋人の安否が気になるところではある。本音を言えば、ユウキも内心では忸怩たるものを感じないではいられない。

 

 今すぐに医務室に行きたい。行って、たとえ何もできずとも、ライアの手を握ってやりたい。

 

 しかし、ユウキはオーブの軍人であり、この武蔵の艦長でもある。課せられた責務をおろそかにする事はできなかった。

 

 とにかく今、ライアに関してユウキができる事と言えば、彼女の意識が無事に回復してくれる事を祈るのみだった。

 

 その時、

 

「艦長!!」

 

 通信担当に呼ぶ声を聞き、ユウキは思索するのをやめて振り返った。

 

「どうした?」

「本艦に接近するザフト軍機があります。数は1、回線を開くように求めています」

 

 その報告に、ユウキは訝った。

 

 今この段階で、ザフト軍機が、この武蔵に何の用があって通信を入れて来るのか、ユウキでもはかりかねているのだ。

 

 とは言え問答無用ではなく、通信を開くように言ってきている以上、何らかの交渉する意図があるのだと判断できた。

 

 既に戦局は最終段階に入っている。もしかしたら、損傷した機体が収用を求めているのかもしれない。だとしたら、たとえ敵とはいえ無碍にはできないだろう。

 

「通信回線開いて。僕が話す」

「ハッ」

 

 ユウキが艦長席に戻ると同時に、スピーカーからザフト軍のパイロットと思える人物の声が流れてきた。

 

《こちらは、ザフト軍特務隊所属、アスラン・ザラだ。オーブ軍戦艦武蔵、聞こえるか?》

「アスラン・ザラ?」

 

 旧知の青年の名を聞き、ユウキは驚きの声を上げた。

 

 彼がザフト軍のパイロットとして戦っている事は、シンやキラからの報告でも知っていたが、その彼がいったい何の用があって通信を入れてきたのだろうか?

 

 訝るユウキに対して、アスランは通信越しに更に驚くべき内容の事を言った。

 

《本機は現在、ラクス・クライン嬢を同行、そちらに引き渡す。着艦を許可してもらいたい》

「ラクスを?」

 

 なぜ、アスランがラクスを連れているのか?

 

 しかし、アスランの人となりは知っているつもりだ。彼が虚言を弄するとは思えない。

 

 ユウキが着艦を許可すると程無く、着艦したジャスティスから、アスランとラクスが下りて武蔵の艦橋へと上がってきた。

 

 アスランは武装を解除していたが拘束は受けていない。ラクスがアスランの身分を保証した為、ジャスティスを停止し、武装を解除するだけで済んだようだ。

 

 ラクスは出撃前にオーブ軍三佐の階級を送られていたが、その事がここに来て役に立った感がある。

 

「ラクス、いったい何があったんだ?」

 

 艦橋に入ってきたラクスに対して、ユウキは質問をぶつける。

 

 なぜ、彼女がジャスティスに乗り、アスランと一緒に現れたのか、色々と聞かないと納得がいかない事ばかりだった。

 

 しかし、そんなユウキを制するように、ラクスは真っ直ぐな眼差しを向けて言った。

 

「それよりもミナカミ艦長。すぐに、戦場にいる敵と味方全部隊に、わたくしの名前で通信を送ってください」

 

 急き込むようなラクスの言葉に、怪訝な面持ちを強めるユウキ。

 

 対してラクスは、構わずに続ける。

 

「これ以上の戦いは無意味です。両軍に、戦闘を停止するように呼びかけたいのです」

 

 

 

 

 

 フェイトとデスティニーは、戦場から遠く離れた場所で、尚も激しく激突を繰り返していた。

 

 既に、周囲には両軍の機影は見えない。

 

 迸る閃光の輝きも、遥か彼方で瞬いているのが見える。

 

 しかし、それでも尚、お互いはぶつかり合う事をやめない。

 

 まるで、それ自体が互いにとってのいつの存在意義であるかのように剣を交え、その身を削り合うフェイトとデスティニー。

 

 その果てが見えない闘争は、虚空を斬り裂いて駆け抜ける。

 

「ウオォォォォォォ!!」

 

 咆哮と同時にシンは、フェイトの両手に構えたミストルティンを翳してデスティニーに斬り掛かっていく。

 

 迎え撃つデスティニーは、ビームライフルでフェイトの動きを牽制する。

 

「こいつッ!!」

 

 ラキヤが叫ぶと同時に、放たれるライフルの閃光。

 

 しかしフェイトを操るシンは、それらを正確に把握して回避しながら接近。間合いに入ると同時に、斬り上げるようにミストルティンを振るう。

 

 対してデスティニーを操るラキヤは、アリスを膝の上に乗せたまま、フェイトの攻撃を読み切って機体を操り、自身に迫る大剣の斬撃をのけぞるように回避する。

 

「先輩、ここは接近戦で!!」

「判った!!」

 

 デスティニーの操縦歴が長いアリスは、ラキヤの膝の上に座りながら的確なサポートを行う。

 

 接近しながら、アロンダイトを抜き放ち、フェイトへ斬り掛かるデスティニー。

 

 対して、

 

「敵の斬撃、3秒後ッ お兄ちゃん!!」

「判ってる!!」

 

 マユのオペレートに従い、機体に回避行動を取らせるシン。

 

 袈裟掛けに振るわれるアロンダイトの一撃は、フェイトの機体を掠める事無く空を切った。

 

 後退するフェイト。同時にライフル、レールガン、バラエーナを展開してフルバースト射撃を敢行する。

 

 その奔流のような一撃を、デスティニーは残像を引きながら回避、更にアロンダイトを翳して追撃の構えを取る。

 

 迎え撃つフェイト。ミストルティンを振り翳し、デスティニーに迫る。

 

 振るわれる互いの大剣。

 

 交錯する刃は、互いのシールドによって弾かれる。

 

 体勢を崩す両者。

 

 一瞬早く立て直したのは、

 

 フェイトだ。

 

「貰った!!」

 

 シンは両手のミストルティンを翼のように広げて構え、デスティニーへと斬り掛かる。

 

 振るわれる高速の斬撃。

 

 軌跡は縦横に走り、斬撃の重囲を築き上げる。

 

 シンの比類ない操縦技術が可能にした、必殺の攻撃である。

 

 しかし、

 

「先輩、かわして!!」

 

 既に何度もその攻撃パターンを見てきたアリスが、フェイトの予備動作からいち早く動きを察知して回避を支持する。

 

 寸前でデスティニーが後退した為、空を切るフェイトの斬撃。

 

「ッ!?」

「あッ!?」

 

 声を上げる、シンとマユ。

 

 攻撃直後の一瞬、フェイトは動きを止めた。

 

 その隙を、ラキヤは逃さない。

 

「貰った!!」

 

 接近、

 

 同時に一閃するアロンダイト。

 

 その一撃が、フェイトが左手に持ったミストルティンを根元から叩き折った。

 

「クッ!?」

 

 とっさに柄だけになった大剣をパージするフェイト。同時に、空いた左手で肩からブーメランを抜き放ち、デスティニーに向けて投げつける。

 

 旋回して飛翔するブーメラン。

 

 しかし、

 

「そんな物で!!」

 

 ラキヤはアロンダイトの刀身で、飛んできたブーメランを斬り飛ばす。

 

 そして、更に斬り込もうとした瞬間、

 

 フェイトから放たれた閃光によって、デスティニーは右足を薙ぎ払われた。

 

「あッ!?」

 

 一瞬の出来事だった。

 

 ラキヤの膝の上で、アリスが思わず声を上げる。

 

 シンはデスティニーがブーメランを切り払うのを見越し、バラエーナを緊急展開して発射したのだ。

 

 バランスを崩すデスティニー。

 

 そこへすかさず、シンは1本だけになったミストルティンを振り翳して斬り込んで行く。

 

「これでェ!!」

「クッ!?」

 

 振るわれる、フェイトの大剣。

 

 その一撃が先ほどのお返しとばかりに、デスティニーの手にあるアロンダイトを中途から叩き折る。

 

 更に、トドメを刺そうと剣を振り翳すフェイト。

 

 だが、

 

「まだだ!!」

 

 ラキヤの叫びと共に、デスティニーは左手を旋回させる。

 

 同時にパルマ・フィオキーナを起動させる。

 

「ッ!?」

 

 それを見たシンは、とっさにビームシールドを展開して防ごうとする。

 

 しかし、遅い。

 

 デスティニーの掌から迸る閃光がフェイトにぶつけられた瞬間、フェイトの左腕は肘から先が吹き飛ばされた。

 

「クッ!!」

 

 とっさに、腰のレールガンを緊急展開して放つシン。

 

 ゼロの距離から放たれた弾丸は、デスティニーの胴体に命中して、吹き飛ばした。

 

 実質的なダメージはVPS装甲に阻まれて皆無だが、それでも至近距離からの一撃により、コックピット内は相当な振動に見舞われる。

 

「キャァァァァァァ!?」

 

 ラキヤの膝の上で悲鳴を上げるアリス。

 

 吹き飛ばされたデスティニーは、大きく後退する事を余儀なくされる。

 

 その間に、シンは機体を立て直す事に成功した。

 

 と、

 

「・・・・・・・・・・・・あれ?」

 

 そこでふと、シンは気付いた。

 

 既に自分達が、戦場から大分離れた場所にまで来てしまっていた事を。

 

 どうやら、周りが見えなくなるくらい、激しい戦闘の応酬を繰り返していたらしい。周囲には自分達以外、敵も、そして味方も存在していない。

 

 遥か彼方に、両軍が吹き上げる砲火の閃光が走っているのが見えるのみである。

 

 ただ、

 

 いつの間にか眼下には、青々とした大地の姿が映し出されている。

 

「地球・・・・・・」

「こんな近くまで来てたんだ・・・・・・」

 

 後席のマユも、呆然とした呟きを漏らす。

 

 戦闘を続けるうちに、こんな場所まで流されてきていたらしい。もう、手を伸ばせば大気圏に届きそうな距離である。

 

 地球。オーブがある星であり、シン達にとっては生まれ育った故郷でもある。

 

 こうして眼下に間近で見ると、自分達はこれを守る為に今まで戦ってきたのだ、と言う実感がわいてくる。

 

 あと一息だ。

 

 もう間もなく、戦争は終わる。自分達が、終わらせる所まで来ている。

 

 決意も新たにして、シンは再びフェイトのミストルティンを構え直し正面を向く。

 

 それに合わせるようにラキヤもまた、デスティニーの両手にフラッシュエッジを抜いて構える。

 

「アリス、大丈夫?」

「はい、まだまだ大丈夫ですよ」

 

 膝の上にいるアリスは、そう言って微笑む。

 

 自分にとっては大切な恋人である少女。この娘を守る為なら、たとえ相手がどれだけ強大であろうと戦って見せる。

 

 その決意も新たに、フェイトを見詰める。

 

 フェイトは片腕を失い、デスティニーも片足を失っている。

 

 それでも尚、お互いは一歩も引く事無く、最後の激突に入ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーダムのドラグーンがレヴォリューションの右腕を吹き飛ばす。

 

 かと思えば、レヴォリューションのフラッシュエッジが、フリーダムの上面装甲を掠め、斬り裂いて行く。

 

 既に互いの機体はボロボロである。

 

 それでも尚、互いに戦う事をやめようとしない。

 

「この、いい加減に!!」

 

 レヴォリューションに向けて飛翔する、フリーダムのドラグーン。

 

 ハイネは飛んでくるドラグーンに対し、長射程ビーム砲を展開し、次々と撃ち落としていく。

 

「クッ!?」

 

 その様子に、エストは呻き声を漏らす。

 

 既にエストは限界を迎えつつある。ドラグーンを操る事にも、無理が生じ始めているのだ。

 

 ハイネの正確な射撃を前に8基のドラグーンの内、5基が一気に撃墜された。

 

 レヴォリューションに向けて飛んでくる弾幕が薄くなり、フリーダムに向けて攻め手が開かれる。

 

「今度こそ、終わりだ!!」

 

 勝利を確信して、ハイネがそう叫ぶ。

 

 フリーダムは強敵だった。だが、それもこれで終わる。

 

 そう思った瞬間だった。

 

 ビームサーベルを両手に構え、フリーダムが一気に斬り込んで来た。

 

「しまった!?」

 

 その様を見て、呻くハイネ。

 

 その事態にレヴォリューションはとっさの反応が遅れる。

 

 彼はドラグーンの破壊を優先するあまり、フリーダム本体への警戒が、一瞬疎かになってしまっていたのだ。

 

 この時キラとエストは、正にそれを狙い、ドラグーンを囮にして最後の攻撃に出たのだ。

 

 接近するフリーダム。

 

 それに対して辛うじて体勢を立て直したレヴォリューションも、迎え撃つように左手のパルマ・フィオキーナを起動する。

 

 これが、最後の激突だ。

 

 交錯する一瞬。

 

 フリーダムの右腕が、パルマ・フィオキーナによって吹き飛ばされる。

 

「勝った!!」

 

 片腕を失ったフリーダムを見て、ハイネは声を上げる。

 

 今度こそ、終わりだ。

 

 そう思った次の瞬間、

 

 フリーダムが斬り上げたサーベルは、レヴォリューションの左腕を斬り飛ばした。

 

 フリーダムは、両手にサーベルを構えていたのだ。

 

 ハイネは不覚にも、その事に全く気付かなかったのである。

 

「がッ!?」

 

 衝撃で吹き飛ばされるレヴォリューション。

 

 勝利を確信した瞬間の、まさかの逆転劇であった。

 

「クッ これまで、かよ・・・・・・」

 

 悔しそうに呟くハイネ。しかし、両腕を喪失した為、完全に戦闘不能に陥ったことになる。これ以上、戦闘宙域に留まるのは危険だった。

 

 後退していくレヴォリューション。

 

 一方のフリーダムも、既に戦闘能力をほとんど残してはいなかった。

 

 ドラグーンは大半を喪失し、片腕、片足を失っている。残存戦闘力は、通常時の30パーセント以下、と言ったところだろう。

 

 そして、

 

 遺憾ながら、戦いはまだ終わってはいなかった。

 

 レヴォリューションとの死闘を制したフリーダムの目の前には、それぞれの手に武器を構えた多数のザフト軍機の姿がある。

 

 何やら、その全ての敵意がフリーダムに向けられている感があった。

 

 どうやら、ハイネのレヴォリューションを戦闘不能に陥れた事で、フリーダムに対する憎悪を募らせているようだ。

 

「エスト、まだ行ける? ・・・・・・・・・・・・エスト?」

 

 キラの呼びかけに対して、後席からは沈黙が返される。

 

 エストから返事が戻って来る事は無かった。

 

 たんに気を失っているだけなのか、それとも・・・・・・

 

 しかし、それを確認する術はキラには無い。その気力すら、今のキラには残っていなかった。

 

「・・・・・・待っててエスト・・・・・・すぐ、休ませてあげるから」

 

 そう言うとキラは、正面の敵部隊へ向き直る。

 

 正面から迫る、ザフトの大部隊。

 

 ここを突破しないと、味方艦隊が展開している宙域に辿りつく事ができない。

 

 眦を上げるキラ。

 

 次の瞬間、

 

 フリーダムは吹き付けるように飛来してくる閃光の中へ、迷わず飛び込んで行く。

 

 

 

 

 

 その5分後の事だった。

 

 宙域全体に、オープンチャンネルで通信が流されたのは。

 

 

 

 

 

 機体表面が赤く染まるほどの熱量に晒されながらも、両者ともに一歩も引かずに戦い続けている。

 

 大気の摩擦はただ動くだけでも機体が損傷してしまいそうだった。

 

 フェイトとデスティニーの激突も、最後の局面に入りつつある。

 

 2機はとうとう、戦っている内に大気圏の表層にまで辿りついてしまっていた。

 

 これ以上落下すれば、いかに強大な推進力を持つフェイトやデスティニーでも、脱出が不可能になり、そのまま重力の底へと落ちて行く事になるだろう。

 

 常人なら、近付く事もためらうような環境の中、

 

 それでも尚、両者は激しい激突を繰り返している。

 

 フェイトの剣が旋回してデスティニーに斬り掛かれば、デスティニーは双剣を構えてフェイトを迎え撃つ。

 

 フェイトの剣は、デスティニーの右腕を肩から斬り飛ばす。

 

 対抗するように振るわれたデスティニーの剣は、フェイトの左足を斬り飛ばした。

 

 デスティニーの長射程ビーム砲が火を噴き、フェイトの右肩を掠める。

 

 対して、フェイトのレールガンがデスティニーの装甲に着弾して吹き飛ばした。

 

 既に戦場では、ラクスの呼びかけに応じて両軍の部隊が次々と戦闘を停止している。

 

 これ以上、両者が戦闘を続ける事には、あるいは意味など無いのかもしれない。

 

 だが、それでも尚、互いに剣を引く事は無い。

 

 シン、ラキヤ、アリス、マユ。

 

 4人の男女は、自分達の持てる全てを賭けて、最後の激突を行う。

 

「先輩、これで最後です!!」

「判った!!」

 

 アリスに後押しされ、ラキヤはデスティニーの左腕を振り翳す。

 

「お兄ちゃん、頑張って!!」

「任せろ!!」

 

 マユの言葉に力を得て、シンはフェイトのミストルティンを構える。

 

 運命の堕天使と、宿命の戦天使。

 

 互いの全てが込められた攻撃。

 

「「ウオォォォォォォォォォォォォ!!」」

 

 咆哮を上げるシンとラキヤ。

 

 風を巻くような勢いで振るわれるミストルティン。

 

 閃光を帯びて突き進む、パルマ・フィオキーナ。

 

 大剣と掌底が、閃光を放ってぶつかりあう。

 

 次の瞬間、

 

 フェイトの手にあるミストルティンが、ガラスのように破砕して砕け散った。

 

 勝った。

 

 ラキヤとアリスは、同時に勝利を確信した。

 

 次の瞬間、

 

 フェイトの右腕が動き、肩からフラッシュエッジを引き抜くと、サーベルモードにして一閃する。

 

「ッ!?」

 

 息を呑んだ瞬間、デスティニーの左腕は肘から先が斬り飛ばされてしまった。

 

 両腕を失ったデスティニー。

 

 全ての戦闘力を奪われ、運命の堕天使は堕ちていく。

 

 勝負を分けたのは、一瞬の判断力。

 

 激突の瞬間、相手の戦闘力を奪った事で、一瞬油断したラキヤとアリス。

 

 しかし、シンとマユは最後まで勝利への希望を捨てなかった。

 

 その両者の違いが、明暗を分けたのだった。

 

 衝撃により、デスティニーの機体は流され始める。

 

 地球の重力に引かれ、落下し始めたのだ。

 

「アリス・・・・・・ダメだ、そっちへ行くな!!」

 

 その事に気付いたシンは、必死になって叫ぶ。

 

 しかし、既に通信機にも不調が出始めたのか、オープン回線で呼びかけても、返事が返る事は無かった。

 

 その間にも、デスティニーの機体は重力に引かれて急速に落下していく。

 

「アリス!! アリスぅぅぅ!!」

「お兄ちゃん、もう駄目!! これ以上は!!」

 

 ふとすれば助けに行こうと機体を操る兄を、マユは必死になって制止する。

 

 既に限界高度を超えつつある。これ以上高度を下げれば、フェイトも重力に引かれて落下する事になりかねない。そして戦闘で損傷している状況で万が一、大気圏に落下した場合、いかにフェイトでも助かる可能性は限りなく低かった。

 

「アリス!! アリス!!」

 

 必死に呼びかけるシン。

 

 しかし、

 

 その声に答えが返る事は、ついに無かった。

 

 

 

 

 

 一方、その頃、

 

 落下するデスティニーのコックピットでは、

 

 ラキヤとアリスが、静かに最後の時を迎えようとしていた。

 

「・・・・・・・・・・・・負けちゃいました、ね」

「そうだね」

 

 サバサバしたアリスの物言いに、ラキヤもまた肩を竦めて返す。

 

 不思議な事に、負けた悔しさは2人には無い。

 

 ただ、自分達は全力を尽くして戦ったと言う、ある種の達成感があるだけだった。

 

 こうしている間にも落下は続けている。

 

 デスティニーは両腕を失い戦闘力は喪失したものの、OSやVPS装甲はまだ生きているので、計算上、大気圏降下には問題は無い。ただし、度重なる戦闘で大破しており、更に推力も低下を来している可能性がある。

 

 大気圏突入に成功する保証は無いし、仮に成功したとしても、減速して無事に軟着陸できると言う保証は無かった。

 

 いや、それどころか、途中で燃え尽きると言う可能性すらある。

 

 ラキヤは、膝の上のアリスをそっと抱き締める。

 

 もしかすると2人でいられるのも、これが最後かもしれなかった。

 

 ラキヤはそっと手を伸ばすと、アリスがしているヘルメットのロックを外す。

 

「先輩?」

 

 驚くアリスに対し、ラキヤもまた、自分のヘルメットを外して微笑んだ。

 

 コックピット内部の温度は、既に上昇しつつある。

 

 だが、それでも構わず、2人はヘルメットを外し、素顔で見詰め合う。

 

 これが最後だとしても、構わない。お互いが共にある事ができれば、2人にとってはそれで十分だった。

 

 落ちていくデスティニー。

 

 その灼熱に染まる中にあって、

 

 2人はどちらからともなく、口付けを交わし合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《わたくしはラクス・クラインです。戦場にいる全ての兵士の皆さん。どうか、わたくしの声が聞こえたなら、武器を置いてください。戦争はもう終わりました。皆さんが争う必要は、もう無いのです》

 

 その声は、戦場にいる生き残った全ての兵士達が、各々、それぞれの居場所で聞いていた。

 

 

 

 

 

 イザークとディアッカは、ジュール隊の旗艦ボルテールに集まって、互いに今後について話し合っている。

 

 そんな中で、ルインとアキナは、警戒の為に代替の機体を駆って再出撃しようとしていた。イザークの命令に従って戦場を離脱した2人だが、まだ戦闘は継続されている。敵の襲撃を受ける可能性はあるし、最悪、「味方」から襲撃を受ける可能性もあった。

 

 しかし、彼等が出撃すべく発進位置に着いた、正にその時、突如、発進中止命令が下された。

 

 

 

 

 

 レイは回収されたレジェンドのコックピットから救助されている。

 

 偶然、シンがレジェンドを運び込んだデブリの近くを通りかかった友軍によって発見され、救助されたのだ。

 

 ストレッチャーに運ばれていくレイ。

 

 その瞳は、茫洋として天井を見続けていた。

 

 

 

 

 

 ルナマリアは、医務室で治療を受けている。

 

 武蔵攻撃に失敗してミネルバに帰還した彼女だが、その際に負った傷の手当てをしている内に、ラクスの声がスピーカーから聞こえてきた。

 

 ルナマリアの横では、彼女を心配して交代要員にブリッジを任せてきたメイリンの姿もあった。

 

 

 

 

 

 そのミネルバの艦橋では、タリアが疲れ切ったように、その身をシートに深々と沈めている。

 

 そんなタリアの様子を、副長のアーサー以下クルー達は静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

 ハイネは、傷ついた機体から降りて来るなり、その場にゴロッと横になる。

 

 そのまま人目もはばからずに目を閉じると、やがて静かに寝息を立てはじめた。

 

 

 

 

 

 ミーアは、収容された艦のベンチに腰掛けながら、ぼんやりとスピーカーを眺める。

 

 全てを失った少女は、自分と同じ顔を持つ少女が停戦を告げる言葉を、聞くともなしに聞き入っていた。

 

 

 

 

 

 エターナルではバルトフェルドが、副官であるダコスタと顔を見合わせて笑っている。

 

 オーブ宇宙軍を率いて、臨時の指揮官として戦った元「砂漠の虎」は再び勝ち取った生を噛みしめるように、深く頷いていた。

 

 そのエターナルの格納庫では、ラクスが発する停戦の声を、ドムトルーパー隊の3人は疲れ切った表情で聞き入っていた。

 

 クライン派として戦い、ラクスの為に戦い続けてきた彼等もまた、これで自分達の役目を終えた事になる。

 

 

 

 

 

 ベッドに眠り、人工呼吸器に繋がれた少女を、ユウキは静かに見つめている。

 

 ライアの手術は成功し一命は取り留めたが、重傷である事に変わりは無い。

 

 彼女が元の生活を送れるようになるまで、自分が支えて行ってあげようと誓った。

 

 

 

 

 

 黄金の機体が、ゆっくりとアークエンジェルに着艦する。

 

 かつての自分を取り戻した鷹は、今、大切な者を守る任務を終えて戻ってきた。

 

 そんなアカツキのモニターに、愛する女性の顔が映り込む。

 

 やがて、ムウとマリューは、どちらからともなく微笑みあった。

 

 

 

 

 

 格納庫の壁に背を預け、キラは疲れ切った体を休めている。

 

 愛おしげな視線を向ける先には、自分の膝を枕代わりにして眠るエストの姿もある。

 

 その静かに呼吸を繰り返す頬を、キラは優しく撫でていた。

 

 

 

 

 

 ラクスが発した停戦命令により、両軍は水を引くように戦闘を停止していく。

 

 そんな中にあって、今回の戦いの象徴とも言うべき要塞、メサイアは激しい爆発を繰り返しながら焼け落ちていく。

 

 その巨大な岩塊は、一代の夢を追いかけた英傑、ギルバート・デュランダルの永遠の墓所として、デブリの中へとその身を埋めて行った。

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 ふらつくように飛翔する、1機のモビルスーツがある。

 

 機体の損傷が激しく、メインスラスターも機能を停止している為、殆ど這うような速度しか出せていない。

 

 それでも、その機体は仲間達の、そして愛する者の元へ戻る為に必死に飛び続けている。

 

 フェイトだ。

 

 デスティニーとの死闘を制したシンとマユは、既にボロボロとなった機体を操って、必死に戻ろうとしていた。

 

 生きなくてはならない。

 

 大気圏へと落ちて行ったデスティニー。

 

 彼女達に勝った自分達は、彼女達の分も生きる義務があるのだ。

 

 故にシンは飛ぶ。

 

 妹を背に負い、まるで泥を啜って地面を這うように。

 

「こちらシン、オーブ軍、聞こえるか?」

 

 殆ど機能しなくなった通信機に向かって、シンは呼びかけ続ける。誰かが声を拾ってくれれば、救助も期待できるだろう

 

 それは同時に、シン自身が自分を奮い立たせるためでもある。

 

 後席のマユは、疲労の為に気を失ってしまっている。今ここでシンまで諦めてしまったら、2人揃って助からなくなってしまう。

 

「こちらシンッ 誰でも良い、答えてくれ!!」

 

 一際、大きな声で呼びかけるシン。

 

 その時だった。

 

《・・・・・・・・・・・・ちら・・・・・・・・・・・・・ン・・・・・・・・・・・・して・・・・・・・・・・・・》

 

 途切れ途切れに、声が聞こえてくる。

 

 それに縋るように、シンはスピーカーに向けて怒鳴った。

 

「こちらオーブ軍、シン・アスカ二尉!! 誰か、聞こえたら応答してくれ!!」

 

 それはまさに、シン達にとって命綱に他ならない。

 

 細い細い、蜘蛛の糸のような細い命綱。

 

 それをシンは、必死に掴んで手繰り寄せる。

 

 やがて、距離が詰まるにつれて、声も明瞭に聞こえるようになってきた。

 

《こちら、リ・・・ア・・・・・・シン!! マユ・・・ゃん、きこ・・・ら応答し・・・・・・おね・・・い!!》

 

 必死に呼びかけるその声。

 

 それを聞いた瞬間、シンは思わず涙が溢れるのを止められなかった。

 

 その声は間違いなく、愛する少女の声だったからだ。

 

「リリア!!」

 

 迷う事無く、シンは必死に呼びかける。

 

「リリア、聞こえるか!? 俺だ!! シンだ!!」

 

 ややあって、返事が返ってくる。

 

《シン・・・・・・シ・・・の!? 無事・・・のよね!?》

 

 まだ距離が遠いため、正確に拾う事はできない。

 

 しかし、その声を、シンが聞き逃すはずが無かった。

 

 やがて、視界の彼方から、淡紅色の戦艦が近付いて来るのが見える。あの戦艦には、愛する少女が乗っている。

 

 その姿を見て、シンは涙が溢れて止まらなくなった。

 

 帰って来た。

 

 自分は今、愛するリリアの元へ帰って来る事ができたのだ。

 

 その事をシンは心の底から噛みしめ、

 

 フェイトはゆっくりと、仲間達の元へと戻っていった。

 

 

 

 

 

PHASE-54「灼熱色のKISS」      終わり

 

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