皆様、この度は本作「機動戦士ガンダムSEED Fate」をお読みいただき、誠にありがとうございます。
前作であるIllusionのあとがきでも書きましたが、本作は「私(ファルクラム)がこうあってほしいと思った、ガンダムSEED Destiny」というのを具体的に文章に起こした物が元になっています。
と言いますのも、原作の内容に対して、いろいろと納得がいかない点があったのは確かでしたので。そういう意味で、FateはIllusionよりも、オリジナル要素を大幅に強化した作品にしたと思っています。
では、多少の解説を兼ねまして書かせていただきます。
1、原作について。
まず、原作について思う事は、「機動戦士ガンダムSEED Destiny」(以下「種デス」)という物語は、ストーリーよりも先にキャラの行動があったのではないか、という事です。つまり、本筋となるストーリーがあって、その中でキャラが行動するのではなく、キャラの行動その物が、そのままストーリーを作っていったのではないか、という事です。
では、その上でキーパーソンとなるのは誰か、と言うと、個人的には「キラ、ラクス、デュランダル」よりも、むしろ「シン、カガリ、アスラン」だったのではないかと思っています。これらの3人が、とても素晴らしい活躍をして盛り上げてくれたから、では、言うまでもなく違います。むしろ逆で、私にとっては、かなり残念な活躍のし方だった為です。
まずアスランですが、実は私、未だにアスランが何の為にザフトに戻ったのか、よく判らないんですよね。当初彼は、オーブにいたのを、議長の口車に乗ってザフトに戻り、にも拘らず中盤はキラやカガリが戦場に現れた事で動揺をきたし、大して活躍もできないうちに乗機のセイバーは破壊され、シンには見下され、挙句撃墜されて出戻り(出戻りの、更に出戻り?)する羽目になりました。
思うにアスランは、最初から最後までオーブにいるか、それとも逆に、最初から最後までザフトにいるべきだったのではないか、と思っています。
私が書くに当たって後者を選んだ理由は、もしオーブにアスランがいたら、結局、シンの上官面して彼の活躍の場を奪ってしまうのではないか、と思った事が大きいです。それよりも彼には、あくまでザフト軍の新兵を導く立場に立って欲しかったので、最初から最後までザフトに居続ける形にしました。
カガリに関しては、どこの評価を見ても、本当に否定的な意見しか見た事が無いです。まあそれも、原作序盤から中盤にかけてのぐだぐだ感を見れば、無理が無い話だとは思いますが。後半は大分、立て直していましたけど。
私がカガリについて思う事は「なぜ、もっと、自分の権力を利用しなかったのか」という事です。原作のラクス陣営においてカガリは、最大の権力を持っています。何しろ、国家元首なのですから。その権力を利用して、もっと彼女本来の強気キャラを最初から出していくべきだったと思っています。その思いを繁栄させ、本作における彼女は「まだ駆け出しだが、政治的才能を開花させ始めた情熱的なキャラ」として仕上げました。
そして、原作における最大のキーパーソンは、やはりシンでしょう。
こう言っては何ですが、私は原作放映当初、シンというキャラは嫌いでした。カガリやアスランに対するアンチ的な発言が鼻に付いた事も勿論ありますが、最大の理由は、とにかく、徹頭徹尾最後まで「成長しなかった」事です。よくシンは「カミーユのオマージュ」という話を聞きますが、カミーユは色々な経験を経て人間的に成長していきました。しかし、シンにはそれが無い。あらゆる成長する要素はたくさんあったのに、全てスルーしていました。
当初彼は、オーブの決断によって両親が殺され、その為にオーブやカガリを憎んでいるキャラとして登場しました。この時点では、私はシンにものすごく期待をしていました。彼がこれから先、どのように成長していくのか楽しみでした。
しかし、主人公にそう言うキャラが許されるのは、せいぜい1クールくらいです。1クール目が終わる頃には自身の考えについて悩み、葛藤し、「これで良いのか?」と自問すべきなんです。しかし、シンにはそれが無かった。結局、苦悩の末に大西洋連邦との同盟を承諾せざるを得なかったカガリに対し、一方的に罵倒して別れてしまいました。
その後、彼はインド洋での虐殺をアスランに咎められますが、その時点では、まだ自分の行いが間違っているとは思いませんでした。その事については良いのですが、続くガルナハン戦の後、ゲリラ兵士が地球軍兵士を処刑するシーン。あそこで、シンは処刑シーンに気づいて、自分の行為が傍から見れば、いかに醜い物であったかを自覚するべきだったと思います。
三度目はクレタ戦の後からベルリン戦までの間。乗機を失い消沈しているアスランに対し、シンは完全に見下した態度を取りました。本来ならこの時点では、もう既にシンはもっと人間的に成長してなくてはいけなかった。消沈しているアスランを励まし、再起を促すように仕向ければ、もっと見られるシーンになったと思います。
そして独断でステラを返したシンに対し、お咎め無しの決定が下された時点で、シンの増長は決定的なものになってしまいました。
続くベルリン戦からエンジェルダウン作戦においては、私が原作の中で最もおかしいと思っている部分です。
シンが勝手にステラを地球軍に返した結果、彼女はデストロイに乗せられ、4都市壊滅、ザフト軍にも大きな被害を出し、多くの人が死んだり、生活を失ったりしました。にも拘らず「自分がステラを返した結果、何の罪もない民間人や味方のザフト軍に多くの犠牲者を出した事」は一切眼中に置かず、「ステラを殺したフリーダムが悪い」と喚き散らしました。ここら辺のシンの言動を、私は完全に白けた目で見ていたのを覚えています。
因みに「何も知らないくせに!!」とシンは作中で何度も口走っていますが、これ、私が嫌いなシンのセリフのワースト1です。そりゃ、敵はあんたの事なんぞ何も知らないし、あんたも自分の事はしゃべらないんだから知る訳が無い。じゃあ、逆に、あんたは敵の何を知っているんだ? てな感じです。シンは自分以外の人類全てにニュータイプ能力でも期待したんだろうか? と割と真剣に考えてしまいました。
そして最後、議長の真意に気付いたアスランが脱走を企てますが、ある意味、(少々強引でも)ここが立て直しの最終ポイントだったのでは、と思っています。あそこでシンは、アスラン達と共に(あるいは代わりに)議長の真意に気付いて脱走するか、あるいは最悪でもアスラン達を見逃すべきだったと思う。にも拘らず、結局、彼は流されるままにアスラン達を撃墜してしまった。あれで、ストーリーの破綻は決定的になったと思っています。
エンディングにおいてシンは、涙ながらにキラやアスランと和解します。声優を務めた鈴村健一氏は、あのシーンは嫌いだそうですが、私個人としては、あのストーリーで、あのエンディングは必然だったと思っています。
あれが無ければ、今後もし続編をやる場合、再びシンを悪役にして今度こそ完膚なきまでに叩き潰すか、逆にキラやラクスを徹底的に悪に貶めて、今度はそれをシンが打ちのめすか、あるいはラクス陣営をほぼ脇役の位置に添えて、新たな敵に対してシンを立ち向かわせる、というストーリーしか無いように思えるからです。結局のところ、あのエンディングを迎えるのは、早いか遅いかの差でしか無かったと思います。
私がシンを再評価したのは、種デスの放映が終わってから1年以上経ってからでした。それも、原作の彼の言動を再評価したのではなく、あくまで、その内に秘めている「可能性としてのキャラ」を評価したのです。
もし、このFateが原作放映から2年以内に書かれていたら、強烈なアンチ・シン物になっていたかもしれません。
長くなりましたが、シンについては以上です。
2、主人公について
嘘か本当かは知りませんが、福田監督は種デスを、ある種の群像劇にしたかった、と語っていました。そこで思いついたのは、「オーブ、連合、ザフトに、それぞれ1人ずつ主人公を置き活躍をさせる」という事です。
まず、オーブ陣営の主人公は、当初からシンにしようと思い、活躍のし方として、原作におけるキラの行動をシンに置き換える事にしました。これは「具体的な形でシンを主人公にする」という方針を徹底する為でもあります。キラファンの私としてはいささか不満ではありますが、原作におけるキラの存在が、ストーリー破壊を助長する一助となっていたのは否めなかったので。
その下準備の為に、Illusionの時点でシンをオーブ軍入りさせ、キラをMIAという形で遠ざけ、余剰ポジションにシンを添えました。
更にもう一つ、マユが生存していた事もあるので、「複座機を兄妹で操る」という描写を考えつきました。
連合側の主人公であるラキヤに関しては、主人公であると同時にキラの隠れ蓑としての効果も期待しました。
Illusionが終了した時点で「キラ生存フラグ」を隠しきれない事は分かっていたので、「どうせ隠せないなら、ミスリードを狙おう」と思い、あえて言動の似たキャラを2人用意しました。これで、キラはキョウなのか、ラキヤなのか、あるいはどちらも違うのか、という風に読者の方々に絞り込ませないようにする事に成功したのでは、と思っています。
また、当初、ラキヤをコーディネイターにするか、それともナチュラルにするかで悩んだのですが、シンもアリスもコーディネイターなので、1人くらいナチュラルの主人公がほしいと思い、ナチュラルにしました。
アリスについては、当初は男にしようか女にしようか悩んだのですが、シンが(当然)男、ラキヤもキラとの兼ね合いで男にしなくてはならなかったので、ザフト側の主人公は女にしようと思いました。その上で「敵であるラキヤと恋に落ちる」という、ロミジュリ的な展開も書いてみたかったので。
アリスに関しては、原作におけるシンの行動を、ほぼそのままなぞる形にしましたが、その上で上記の不満か所を自分なりに訂正しました。
3、アンチキャラについて
今回の言うところのアンチキャラは、当然の事ながら「ベイル・ガーリアン」です。
前作の「クライブ・ラオス」が「天敵」「こいつが出て来るとやばい」と言うのを読者の方々に印象付ける為に、「強敵かつクレバー、更に強か」と言うコンセプトでキャラを作ったのに対し、ベイルは「とにかく三下。味方が優勢の時は調子に乗って強気だが、ちょっとでも不利になると、適当に理由をつけていの一番に逃げる」と言う風にイメージして書きました。
おかげで私が望んだとおりの「活躍」を、最後の最後までしてくれました。
ここまでお付き合いいただきまして、本当に、ありがとうございます。
この話を終える事が出来ましたのは、偏に皆さまの温かい応援を頂いたが故であると認識しております。
2013年3月4日11時00分の時点で、いただいた感想数は246件、お気に入り登録件数は367件、ユニークアクセス数93892回。
正直、私自身が仰天しています。今までいろいろなジャンルで書いてきましたが、ここまでのご支持を頂いたのは初めての事でございます。
今後、何をどのような形で書くかは判りませんが、その際にはまた、応援くださると、それに勝る幸いはございません。
それでは、最後までご愛読いただき、本当にありがとうございました。
2013年3月4日
ファルクラム
FINAL PHASE「運命の女神」
シューシューと、ポットの奏でる音が小気味よく聞こえてくる。
その音を聞きながら、少女は棚の掃除をしていた。
棚の上に置いてある写真立てを、布巾で一つ一つ丁寧に拭いていく。
小さな写真の他に、大きな写真が2つ、並んで置かれている。
1枚目に映っているのは、軍服を着た4人の少年少女達。
真ん中に映った少女自身と、その横には似通った顔を持つ赤い髪をした2人の少女達。片方は髪を短く切り、もう片方はツインテールにしている。もう1人の長い金髪をした少年は、鋭い眼差しこちらにを向けている。
彼等は皆、少女にとってかけがえのない仲間達である。
もう片方の写真には、少女の姿は無い。
代わりに別の男女の姿がある。
何やら、怪しい仮面をかぶった長身の男性に、その男性の腕に抱きついた笑顔を浮かべた金髪の少女。意志が強そうな少年が中央に立ち、傍らにはどこか面倒くさそうな雰囲気を出している少年も見える。そして、彼等の横には、サングラスをした青年の姿もあった。
それらの掃除を終えると、少女はポットを手に取って、サイフォンにお湯を注ぎ始める。
半年くらい前から若い夫婦が始めたこの渚の喫茶店は、地元の人間以外は誰も知らない隠れた名所として、周辺地域ではちょっとしたブームになり始めていた。
少女は左手だけで器用にサイフォンにお湯を注いでいく。
程無く、香ばしい香りに室内が満たされ始めた。
左手一本で行う作業にも既に慣れてしまった。今はもう、大抵の事は夫の手を借りずともできるくらいである。
もっとも、ここまで来るのにかなりきついリハビリを乗り越えてきたのだが。夫が支えてくれなかったら、途中で挫折していたかもしれなかった。
「・・・・・・・・・・・・ん、こんな物かな?」
自分の淹れたコーヒーの香りを満足そうに楽しみながら、少女は満足そうに頷く。
料理は夫が担当してくれているが、少女が淹れるコーヒーも、この喫茶店の売りの一つである。
時計を見る。
開店時間には、まだ少し間があった。
1日に来る客の数は、まだそれほど多いと言う訳ではないが、夫婦2人がつつましく生活していくのに不足は無かった。
ポットの火を切ると、玄関から出て外へと向かう。
準備ができた事を、伝えに行くためだ。
『海が好きだった少女、ここに眠る。彼女の無垢な魂が、この大海原に包まれて
墓碑銘にそう刻まれた墓に手を合わせると、青年はゆっくりと目を開ける。
この下には、かつて青年が死なせてしまった少女が、永遠に眠っている。
「ここなら、いつでも海が見えるよね」
そう言って、笑いかける。
墓碑銘に書いてある通り、とても海が好きだった為、この場所を選んで埋葬してあげたのである。
少女は死んでしまった。
しかし、少女の魂は、今も青年の心の中にあり続けている。
否、少女だけではない。あの戦いで死んでいった全ての仲間達の事を、自分達は決して忘れはしない。それが、生きている人間が死んだ人間にできる、唯一の事であると思った。
その時、
「先輩」
背後から声を掛けられ、振り返る。
そこには、妻である少女が、エプロンを着た姿で立っていた。どうやら、準備が終わったので呼びに来たらしい。
立ち上がって、青年は笑いかけた。
「もう『先輩』じゃないでしょ」
真っ直ぐに、妻を見詰めて、青年は言う。
「アリス」
その指摘に、妻は顔を赤くして「あっ」と声を上げた。
この夫婦、夫の名はラキヤ、妻はアリスと言う。
あの戦いの後、大気圏に落下したデスティニーだったが、2人はどうにか生き残る事ができた。
フェイトとの戦闘で大破したデスティニーだが、まるで燃え尽きる命を全て振り絞るようにして2人を守り抜いたのだ。
だが、完全に無傷ではなかった。
元々右腕を怪我していたアリスは、戦闘の衝撃と大気圏突入のショックで傷口が開き、病院に収容された時には既に、手の施しようがなくなっていた。
今、吹き抜ける海風にあおられて、アリスの右袖は軽く靡いている。
中身は無い。アリスは右腕を切断してしまったのだ。
もう、パイロットとしての復帰は絶望的である。
だがアリスも、ラキヤも、その事を嘆いてはいなかった。
何はともあれ2人は生き残る事ができた。そして生き残る事ができたのなら、2人はまた、生きて行く事ができるのだから。
2人は結婚した。
そしてアリスのリハビリが終わった後、大気圏落下後に流れ着いたこの町に、小さな喫茶店を開いたのだ。
その際、かつてベルリン戦の後にステラを埋葬した場所へ赴き、彼女の遺骨を回収して、改めてこの場所に埋め直したのである。
いつまでも、彼女と共にある為に。
ところで、
結婚するに当たって、ラキヤはアリスにあるルールを言い渡した。
それは、「今後はお互いを名前で呼ぶ」と言う物だった。
ラキヤは今までもアリスの事を名前で呼んでいたので問題は無いが、アリスの方はずっと「先輩」と呼んでいた。だが、結婚したのだから、そこのところは改めてほしかったのだ。
「あの・・・・・・・・・・・・」
アリスは恥ずかしそうに俯くと、オズオズと上目づかいでラキヤを見ながら言う。
「その・・・・・・やっぱり、やらなきゃダメですか?」
「うん、ダメ」
妻に対して、容赦無く追い込むラキヤ。そこの所を妥協する気は無いらしい。
一部の隙もないラキヤの口調に、アリスは数度、パクパクと口を開閉させた後、顔を真っ赤に染めてしまう。
苦笑するラキヤ。
名前を呼ぶだけの事が、そんなに恥ずかしいのか、と思ってしまう。
やがて、意を決したように、アリスは顔を上げる。もっともその顔は、情けないくらいに赤くなっているが。
「・・・・・・・・・・・・ら・・・・・・ら・・・・・・ら・・・ラキ、ヤ?」
何だか、それだけ言うだけですさまじい疲労感に包まれるアリス。
微笑むラキヤ。
「はい、よく出来ました」
そう言って、妻の頭を撫でてあげる。
まあ、今はこれくらいで許してあげよう。こうして恥ずかしがるアリスも可愛いし。
そう考えると、ラキヤはアリスの肩を抱いて歩き出す。
アリスも、ラキヤに対してはにかむように頬笑みを返す。
アリスとラキヤが揃って見つめる先の波打ち際では、
役目を終えた鉄騎が緩やかに朽ちながら、静かに2人を見守っていた。
FINAL PHASE「運命の女神」 終わり
機動戦士ガンダムSEED FATE END