慶「お前ら、やってしまえーっ!」
慶の怒号のような吠え声が辺り一帯に響き渡った。
その合図で山賊達は一斉に克義達に跳びかかっていった。いくら体制を整えていても
克義達は山賊達の勢いに圧倒され、瞬く間に劣勢となり、周辺は血で染まった。
克義「くっ……皆-っ!」
自身に咬みつく山賊達を振りほどき、仲間の加勢に向かおうとする。
しかしそれを妨害する慶が、克義に跳びかかった。
慶「はっは……克義さんよぉ、俺を忘れちゃ困るぜ?」
いくら過去は熟練だったとしても、老いた克義には慶の攻撃をかわすことで精一杯である。
克義に焦りの表情が浮かび始めると、更に慶の動きは活発になった。
慶「まだまだ動いてくれよ!動けなくなってから殺してやる!」
克義の動きが次第に鈍くなると、慶は克義の首に咬みつき力任せに捻じ伏せた。
牙を食い込ませ力が増すごとに克義の呼吸は浅くなっていく。
それでも克義の瞳は依然として強く、慶をにらみつけたままである。
最後まで屈服しようとしない克義に、慶は苛立った。
慶「ぬがぁーっこの爺!」
地面にたたきつけようと、慶が死にかけの克義を持ち上げた瞬間だった。
「だめよ孝義……いかないでーっ!」
誰かの声が響いた。菊である。その声に誰もが攻撃、防御を緩めた。
瞬時に皆の目には閃光が映り、その閃光は慶に刺さった。
孝義「父さんを離せ!」
山賊達に咬みつかれ拘束されていた菊や4兄妹だったが、この時孝義が山賊達の間を駆け抜け
慶に突進したのである。
衝撃に思わず牙を離す慶。疲労と傷で受け身もとれず地に落ちる克義。
態勢を整え、自身の邪魔をした孝義を慶が睨みつける。その瞬間、慶の怒りが爆発した。
慶「おのれ……クソガキ、俺の邪魔をしやがって……!」
慶の怒りの矛先はそのまままっすぐ孝義に向かい、怒りは力となって牙に込められていた。
孝義の無謀である勇気は彼に躊躇うことをさせず、そのまま慶に跳びかかった。
克義「やめろ慶……やめろーーっ!」
慶「うるせえ、てめぇも俺の兄弟を殺しただろが、こいつと同じ時期に!」
克義の涙の制止も効かず、慶の牙は孝義を捕らえた。
そして一瞬だった。孝義の柔肌はいともたやすく慶に咬み裂かれ、悲鳴と共に血が噴出した。
菊「孝義、孝義ぃーーーっ!」
菊の泣き叫ぶ声が響く。遺された3兄弟はただ茫然と立ち尽くしていた。
慶「けっ馬鹿野郎め、無謀な勇気なんてすぐ死ぬに決まってる。」
吐き捨てるように慶が呟いた言葉を、白菊はただ一匹聞いていた。
信義と小絹が茫然としている中で彼女は唯一混乱していた。
白菊(お父さん、お父さんがつくった正義って、どういうことなの?)
正しい筈だった父が本当は間違えっていたと。正義で成り立っていると教えられた世界は
本当ではないのかと。疑問が頭の中を彷徨い続けていた。
白菊が周囲を見渡した時、克義の群れの仲間はもう戦闘不能になっていた。
克義は遂に慶に首を咬まれ、山賊達に足を拘束され動けなくなっていった。
どうすることもできず、白菊はただ、他のニ匹と母と共に父を見ることしかできなかった。