IS 双極の兵器   作:黒魔道士ゲバラ

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 時間が掛かりましたが、どうにか投稿出来ました。
他の作者様方の世界観の完成度と投稿ペースが羨ましい……
なんで違和感無い世界観を維持したまま素早く執筆出来るのだろうか。

 ともあれ、第十二話です、どうぞ。



十二話  戦師と魔神

 月曜日がやって来た。

例え織斑 一夏が望まなくてもその日はやって来る。

彼はIS用ののカタパルトを前に立ち尽した。

 ……マズイ、どうすれば

と言うのも、彼が大見栄切って受けたクラス代表決定戦だが、

実の所ISの操縦経験が無いと言って差し支えない。

〚箒〛

〚なんだ〛

〚俺の記憶によれば、お前は俺にISを教えるって事だったよな〛

〚…………っ〛

〚逃避するなよっ!〛

一夏は箒にISに於ける戦闘の知識を教えてもらうはずだった。

〚あれから、結局剣道の稽古ばかりでISについては何一つ出来て無いじゃないか〛

箒は顔を背けたまま言う。

〚し、仕方が無かったろう。

 お前のISはまだ来ていない、機体特性が分からなければ教えようも無いではないか〛

確かに、射撃戦機で練習して、本番は近接戦機でした、なんて事になったら目も当てられない。

癖がつかないようにあえて何もしない策も一計ではあるが、

〚基本操作とかは、特性以前の問題だろう!〛

一夏の場合はそれでもISに触れる機会が多い方が良かっただろうに。

 

 〚準備は大丈夫?〛

〚えぇ、抜かりはありませんわ〛

対して反対側のピット内部、ブルーティアーズ(BT)を起動したセシリアとオペレーターを務める隆文が打ち合わせを行っていた。

〚ビットの確認するよ〛

BTのビットのイメージが前方の虚空に映される。

〚じゃあ、A…………D……B…………よし、問題無さそうだ〛

〚ビット操作、機動行動と同時にスターライトを使えるかどうかは別ですが〛

〚まぁ、それが使えれば大丈夫〛

隆文はBTの左腰に掛かるハンドガンを指す。

 彼女(セシリア)はアリーナへ飛翔して行った。

〚上手く使ってくれよ……〛

少し思案顔になるが直ぐに顔を上げた。

コアネットワークによって、BTをコールする。

(さて、織斑君の専用機はまだ未公開の代物だけど、製作を担当する機関から大体の機体構想が読み取れる)

『織斑 一夏の専用機製作担当を担う機関は……“KURAMOTI.IT”でしたわね』

(そう、“倉持技術研究所”だね。日本のIS開発の大手だ。

 代表的なISは打鉄(うちがね)、特性は――)

『――安定した性能に裏打ちされた使いやすさとある程度の堅牢性、

 訓練用の色が強い機体特性ですわ』

(装備は肩部アンロックユニットである物理シールドと両手持ちの物理ブレード、

 近接戦に傾倒しているね。恐らくは彼の機体もそれに近い物になるだろう)

『と、言う事は相手の防御・対衝性能には気を配る必要がありますわね』

(後は、相手の動きを見てからだ、頼んだよ)

 

 [――来ましたわね。

  貴方がクラス代表になり得る存在か、わたくしとブルーティアーズが試させて頂きます]

〚はっ、上等だ〛

余談ではあるが、IS間の通信にはどんなに近距離であってもコアネットワークが使われる。

更に、常に設定された言語に随時翻訳されるため、何語で話そうともしっかり相手に伝わる。

[わたくしは模擬戦の間、オペレーターの支援を受けますわ。

 競技規則に(のっと)れば問題ありませんが、よろしくて?]

〚あぁ、いいぜ〛

それを聞いてセシリアは通信をオープンチャンネルから専用のチャンネルに切り換える。

『見た感じはさっきの予想と一致しているね、

 君に勝てない訳が無い、代表候補生の実力を見せてくれ』

『――双方準備はいいな?』

千冬の声だ、

『では、クラス代表決定戦、第一試合を開始する』

 ブザーと同時にセシリアが“スターライトMk.Ⅱ”を構える、発射。

反応が一拍遅れた一夏にTE弾が襲いかかる。

〚おわぁっ!〛

咄嗟に出た手にTE弾が直撃、一夏は下方へ大きく吹き飛ばされた。

尚もセシリアは攻撃を仕掛ける。

〚くっ、俺が百式に引っ張られてる……!〛

[有澤さん、敵機の見立てはいかがですの?]

『やはりISに関しては素人だね、多少は避けれてるけど、機体の反射かなぁ。

 特にダメージコントロールがいただけない所だけど……まぁそのまま続けて』

白式は出鱈目な回避行動を行う。セシリアはライフルを放ちながらオープンチャンネルで挑発する。

[全く、だだの良い的ですわよ、貴方。装備の一つも出せませんの?]

〚ああ、くそっ。装備、装備は……これだけか!?〛

一夏が出したのは一振りの片刃剣、百式唯一の装備だ。

〚無いよりはマシか……!〛

剣を持ったならその歩みは前へ、一夏はBTに接近しようと飛翔する。

『近接戦はまだ温存したい、ビットを使って』

[了解ですわ!]

出し惜しみをせずに四機のビットを起動した。

『ブラフは必要無い、寄せない様にするんだ。

 まだ動かなくても良い、いや、動けないと思わせるのが良いかな』

ビットは一夏を囲む様に、セシリアから分断するように展開し、あらゆる位置から砲火を浴びせる。

多方向からの同時攻撃を捌き切れず、白式のシールドエネルギーが削られていく。

〚っ! ……だが、やることは一つ!〛

己の間合いまで進むのみ。

多少の被弾を諦めて、一夏は攻撃を掻い潜りBTに向かって進む。

〚一か八かぁっ!!〛

SEの弾幕を抜ける、

 ……えっ?

[あら? どうしましたの?]

と、スターライトの銃口が待っていた。

〚っっ!〛

咄嗟の回避で直撃は免れたが二者の距離は大きく離れた。

〚また詰め直しか……〛

白式のシールドエネルギーは残り少ない。

 

 第八の搬入口前にISACが鎮座していた。

本来、12~14m規模のそれは格納庫に置かれている物だが、今日の模擬戦に参加するために屋外で組み上げられ今も入念なチェックと手入れが為されている。

 ……隆文がいれば少しは楽なんだがなぁ、どこ行ったんだろうか

零冶はアッシュフォードの制服をそのまま(勿論ジャケットは脱いでいるが)に、己が搭乗する機体の整備を行っている。

 通常、NEXTの整備は並大抵の事では無く、それこそ幾重にも重ねられた隔壁を設けたガレージの内部でなければコジマ粒子の流出リスクから、起動はおろかパーツ一つ外す事も叶わない。但し、

 ……ISACだからな、メリットでありデメリットだが……

良くか悪くかこのISACはコジマ技術が使われていない。

故に、青空の下、防護服も無く整備が可能なのである。

 〈――ん?〉

“有澤 零冶”として所有する携帯が着信を告げている。

「こちら有澤」

『あ、レイジ君? 私、シャーリー』

[あぁ、シャーリー、何かあったのかな?]

アッシュフォードでの生活に慣れて、彼は生徒会の面々とはファーストネームで呼び合える程度の仲にはなっている。

『そっちにルル居ない?』

[ルルーシュ? ここにはいないが]

『うーん……どこいったのかなぁ、なんか圏外になっててさ』

[だからと言って、なぜ俺に……ルルーシュの予定は知らないのか?]

『またリヴァルが掛けチェスに連れてっちゃったの。

 二人とも生徒会メンバーとしての自覚が無さ過ぎだし、ルルは頭が良いのに使い方を間違えてるんだよ』

 ……俺からすれば至極真っ当だがな、彼のチェスに関する戦略眼の良さには一種の畏怖すら覚える、いつか化けるだろうな

零冶を余所にシャーリーが続ける。

『とにかく、ルルは居ないのね、有難う、じゃあね』

トウキョウ租界に電波が通らないエリアが存在する事に驚きだったが、彼は一先ず整備を進めなければならない。

零冶は整備の作業に戻った。

 

 〚うぉぉっ!!〛

不規則に(恐らく彼の中では)動きながら一夏が突っ込む。

 ……やはり突破力は高いですわね

[結果は同じ事ですがっ!]

先ほどと同様に弾幕を抜ける位置に対してサイティング、白式に予測射撃を行う。

[っ!?]

しかし、一夏はBTに接近しなかった、彼の目標は、

〚貰ったぁ!〛

滞空するビットの一つを切り裂いた。

その間に二者の距離はまた開いたが、四機のビットが三機になった。

一夏がオープンチャンネルで揺さぶりを掛ける。

〚分かったぞ、お前のビットは毎回お前が操作をしないと動作しない!

 その上その時、お前は操作をするために移動出来ない! そうだろ!〛

『――こう、解かっている上で聞いてると随分滑稽な話だね』

セシリアのプライベートチャンネルで隆文が言った。

[こちらの手の内を読み切れていないと宣言しているような物ですわ。

 どう動きましょうか]

『ビットの消耗は極力避けたい、彼がビットを狙いに加えた以上、機動攻撃に転換しよう』

 セシリアは手札を切った、先ほどとは異なり己の身を白式から離れるように飛ばす。

〚何を……!?〛

一夏は“無駄な”と続けられなかった。

彼の推測では、ビット操作を行いながら機体を動かすのは不可能だとしていたが、

〚動けるのかよ……!〛

最早一夏がセシリアに接近するのはほぼ不可能になった。

 ……だがビットの操作が鈍くなっている筈!

一夏はセシリアにプレッシャーを掛けるように強攻し、相手の移動に合わせて三つのビットを狙う。が、

『A…………C……A、B……E……』

隆文の指示に沿ってセシリアがビットの軌道イメージを浮かべ、敵機の位置を照準するとビットが軌道イメージに沿って対応する。

セシリアと隆文によるこの方法はビットの操作処理を格段に軽くした。

隆文が一夏がパターンを読み切る前に軌道を変える。

さらにセシリアはビットのミサイルで追い打ちを掛けた。

「うわ……これは相手したくないな」

観客席でラスティが呟いた。ビットの軌道変更のタイミングが絶妙なのである。

隆文の戦術眼にはラスティも敵わないだろう。

 遂にセシリアのミサイルが白式を捉えた。

対IS用の榴弾が半装甲目標である白式を強烈な爆風と弾殻の破片で襲う。

『ゲームセット――――ありゃ? 一夏君……それは(ずる)くないかな?』

〚!? これは……〛

一次移行(ファーストシフト)、今来るのは厄介な物ですわね]

〚良く分からないが、これで俺の機体は俺専用になった訳だ〛

百式に武装データが表示される、

雪片弐型(ゆきひらにがた)?〛

 ……確か、千冬ねえの……

〚俺は世界で最高の姉さんを持ったみたいだな〛

雪片弐型を起動すると実体剣の中央が上下に開き、レーザーブレードが現出する。

〚でも、もうそろそろ、守られるだけの生活は終わらせてないと、これからは俺が守る〛

[……最早わたくしは見えていない、と。そういう事ですわね。

 ――良いでしょう、いい加減貴方の眼を覚まさせて差し上げますわ、イレギュラー]

両者が動き始める。

『最後の札を切ろう、先ずはギリギリまで削るんだ』

[了解しましたわ]

セシリアは移動を停止し機能の全てを射撃に割り振る。

幾重ものレーザーが白式の回避先を潰し、幾つかは掠りもするが、

〚見えるっ……!〛

最早一夏を止める程にはなり得ない。

飛来するミサイルを弾き、切り裂き、無力化する。

一夏の表情には一片の不安も見受けられない。

〚うおぉぉ!!〛

一夏は一直線に――――。

 

〚はぁぁ。完全に負けた……〛

ピットの中で一夏ががっくりとうなだれる。

千冬が言を発する。

〚確かに、最後はオルコットにやり込められたが、

 更に大きいのはバリア無効化攻撃を行ったからだろうな。

 武器の特性を考えないから、ああなる〛

〚バリア無効化?〛

〚相手のバリアをも切り裂き、操縦者本体を攻撃する、雪片の特殊能力だ。

 但し、これは己のシールドエネルギーを消費して攻撃を行う。

 意味は解ったな?〛

〚あぁ、だから白式のシールド残量が凄い勢いで……〛

真耶が解説を加える。

〚ISの試合は、つまるところシールドエネルギーの削りあいです。

 シールド無効化攻撃は、自分のシールドを犠牲に相手を攻撃する、所謂諸刃の剣ですね〛

〚要するに、お前の白式は欠陥機だ〛

〚なっ、欠陥……〛

〚言い方が悪かったな。ISは未だ未完成、お前の機体は他より攻撃に特化しているだけだ〛

〚はぁ〛

一夏の気が滅入ったのは言うまでも無い。

 

 「先ずは一勝、だね」

[作戦が百パーセント意味を為すとは驚きでしたが……]

セシリアは先の試合の映像を見ていた。

 一直線に来る白式、対するセシリアはライフルを使うには取り回しが悪く、ビットは指示する時間が無い。

雪片弐型が大きく振りかぶられたその時、一発の銃声が響いた、

それは、苦し紛れのスターライトからでも、振り切られたビットからでも無い。

セシリアの手の中、左手に握られた拳銃からだった。

その弾丸は内蔵された炸薬の力を伴い、白式の推進力を完全に失わせた。

相手が衝撃によって動けないなら後は簡単、レーザーの雨を降らせ、試合終了。

勝者は言うまでもない。

 「――まぁ、一夏君には悪いけど問題は次だね」

[えぇ……]

セシリアの表情が強張る。

あの妙な依頼は達成に至ったが、彼女を動かしたのは次の一戦、

有澤 零冶と言う名の、シリアで己を策に陥れたあの男。

 ……勝たせて頂きますわ、有澤 零冶

 

 一夏とセシリアの試合からおおよそ十五分後、セシリアが空中で相手が現れるのを待っている。

いや、正確には相手の機体の搭乗者を待っている。

先ほど一機の四脚型ISACがアリーナに運び込まれており、後はそのパイロットを待つのみだ。

[あれが、折木 零冶のIS……]

『世界初のIS技術を使用したAC、その一機目があの“イェシュリツァ(トカゲ)”だね』

〚あれちょっと大きすぎやしないか?〛

〚一夏、俺に言わせればISが小さ過ぎるんだけどな〛

観客席ではラスティを除く全員がISACの大きさに違和感を覚えるようだ。

十メートル級のそれはISと比較すれば異常な大きさだが、正確にはISが小さいと考える方が普通である。

両者の差は二から三倍はある。

 ――来た。アリーナの最早隔壁というべき作りの扉を開けて男が一人、機体に歩く。

顔は見えない。まるで特殊部隊の様なパイロットスーツとフルフェイスマスクが彼の肌を完全に覆っていた。

地上戦への移行や機体から降り、戦線を離脱する事を想定されているのか、

機能を追求しつつも一般市民に紛れ込めるようにデザインされており、

ボロ布でも長めのコートでも羽織れば簡単に紛れ込めるだろう。

 

『シールドバリアーの完全展開が完了しました。

 両機は所定の位置で準備してください』

それを合図にして、両者が向かい合う。

片や滑る様な動きで、片や起動したブースタの音を伴って。

[先ずは礼を申し上げますわ、有澤 零冶。

 貴方のような“敵”の存在がわたくしをより強く作り変える素材になります。

 ――そして、わたくしはこの名に懸けて、貴方を倒します]

〈…………戦いに言葉は不要。――力で示せ〉

零冶は冷淡に声を放った。

誰もが息を潜める様にして、時を待つ。

『クラス代表決定戦、第二試合目を開始する』

 二機は同時に動いた、ヴィクトルが右に、セシリアが上に、その瞬間セシリアが居た場をテクノクラート製三連ロケットが通過した。

三発のロケットはアリーナの端まで飛び、

『っ!? シールドバリアー限界域を超過! 物理隔壁、起動しますっ!』

観客席の緊急用物理防壁が作動した。

 ……無茶苦茶な火力ですわね!?

BTがまともに被弾すればひとたまりも無いだろう。

対するセシリアの放ったレーザーはイェシュリツァのQBによる強烈な加速を捉えきれずに虚空を穿った。

『止まらないで、見れば分かるけど、あれを受ければたとえ絶対防御があっても安全を保障出来ない』

[分かりました!]

 〈有澤、そっちにいたか……〉

BTの挙動を少し確認して解った。ISACの挙動を初見とは考えられない程度に理解している。

『依頼を受けたからね、それも本人から直々に。

 ――遠慮はしないよ?』

〈元よりお前がそこまでぬるいとは思っていない〉

言い放つものの、厄介な事になった。情報の面では相手が一回りも二回りも上手になる。

ISはこちらのISACに比べ通常加速効率が高い上に標的が小さい。

ISACの射撃はそのほとんどをFCSに依存するために、ISの様に小さく小回りのきく目標がジグザグと動くだけで予測射撃がブレて命中率が多きく損なわれる。

左腕のマシンガンをばら撒き右腕のスナイパーライフルを撃つものの、標的の行動を制限しきれないが故に大きなダメージになっていないように見える。

『やはり、君は良くも悪くも“戦師”だね、零冶。

 挙動は合理的でも予想の域を脱することは無い』

 ……看破されているか

BTがミサイルを発射する。それをこちらがQBで回避したタイミング、即ちクイックリロードの瞬間を狙ってTE弾が撃ち込まれる。

そして何より、アリーナの()()がQBの連続起動を妨げ、イェシュリツァを不利にする。

 ……そう何度もくらえんな

TE弾は確実にイェシュリツァのAPを削っていく。

 セシリアは焦っていた。

[くっ、このっ……!]

『焦らないで、ダメージは入っているはずだから』

 ……まるで機動要塞ですわね!

速度こそISに劣るものの、QBの急加速がそれを補完する。

傲慢(ごうまん)で無くとも、ISの兵器中ではかなりの火力を誇るレーザーライフルが当たっても、まるでダメージが通っていない……様に見える。

『それが零冶の戦術なんだ。安定性能が高いから命中しても硬直が無い。

 ダメージが無いように見せる“錯覚”でしかない』

[そう言われましても……!]

イェシュリツァのマシンガンの火力がこちらの比ではない。弾幕のために使われている筈なのに、掠る程度でもシールドエネルギーが目に見えて削れる。

マシンガンでも脅威であるのにスナイパーライフルを被弾したら……。

時間は掛けられない、掛かれば掛かるほど勝率は下がる。

 残りAP、シールドエネルギー共に三十パーセントを切った所で、

両者はともに勝負を掛けた。

BTから四機のビットが放たれる。

イェシュリツァが左背の狙撃砲を展開する。

『! 相手に接近するんだ、今すぐ!』

[? 有澤さん、一体何を?]

これまでに受けたダメージは、連射による半面制圧攻撃と化したマシンガンのみ。

それは近接戦闘をコンセプトに作られた物であるから、少しの距離で命中率、威力が大きく損なわれるために、ここまで生き残っていた物を、有澤は今、敢えて接近の選択を取った。

『とにかくあれ(狙撃砲)はまずいんだ、恐らく――』

――FCSを切って来る。

言う前におよそ90mmに達する※APFSDS弾が音速を大きく上回る速度を伴ってBTの左脚の直ぐ脇を通過した。

  ※装弾筒付翼安定徹甲弾(そうだんとうつきよくあんていてっこうだん)、詳しくはwikiへ

考える間も無く、BTは全速力で飛んだ。

〈上手く装甲だけに当たれば……まぁ無傷で帰れるだろうな〉

 ……マズイ、この男は明らかに危険ですわっ!

 FCSは予測射撃をするために使われる。

予測射撃は弾丸の発射と着弾に時間の差が生じるから必要である。

では、その時間の差が無ければ?

これでは、ISの回避力がどうのと言った問題ではない。

[撃つ時間が無ければ、撃てない筈!]

半ば相手に突っ込む様に飛びながらビットによる十字砲火を掛けた。

 ――零冶(またはヴィクトル)は戦師である。

戦術師とも戦略師とも表現が出来るが、ある一瞬の内で最良の回避と攻撃を行う戦士とは根本的に差異がある。

彼はより大局的に見た勝利への道を描く。それは、

――――ただ、撃つ。

零冶はパイパーセンサーで見える四個のビット、更に今将に放たれようとするTEの弾丸を全て無視する。

右腕の狙撃銃と左背の狙撃砲をAMSのみを利用し照準を合わせ、引き金を引かせる――。

 

二発の徹甲弾と四発のTE弾、似て非なる二種の弾丸は全て命中した。

『試合終了。勝者、有澤 零冶』

BTはそのバランスを失うように、ゆっくりと高度を落とす。

左脚の先は例の狙撃砲により消え去っていた。

零冶が降りたイェシュリツァの装甲は至る所が熔けた様な弾痕を残している。

二人は特に話し合った訳でも無く、ほぼ偶然に直ぐ向き合う形で地面に降り、相対する。

 [わたくしの……負け、ですわね]

[…………君の答えは、見せてもらった。

 君が望むならば、俺は君の敵として、乗り越える壁として立ち続けよう]

二人の試合はここに決した。

 数語の会話も束の間、零冶に着信が入った。

〈こちらヴィクトル〉

『ジェレミア・ゴットバルトだ。

 ロシア語と言う事は、貴公はヴィクトル・グラズノフで合っているな?』

英語で話さねばなるまい。踵を返してアリーナから出る。

[あぁ、私だ]

『緊急の依頼をしたい。貴公がその気なら話を続けるが、受けるか?』

[……場所は?]

『――シンジュクゲットーだ、目的は――』

 ――同エリアの壊滅。

 

 

 目の前で小女が血を流して倒れた、彼はそれをただ見る事しか出来ない無力な存在()()()・。

既に退路は断たれている。向けられる銃口に対し丸腰の己。

死が、音を立てて迫る中、一人(わら)っていた。

[なぁ、ブリタニアを憎むブリタニア人は、どう生きれば良い?]

その時、魔神が生まれた――――。

 




 セシリアと零冶の試合中、アリーナのシールドエネルギーが枯渇してIS学園が一時停電、非常電源装置が作動したそうな……。

 ってのを考えたんですが、シールドエネルギーの供給に電気エネルギーを使うのか定かでないので後書き(≒楽屋話)で書かせて頂きました。
 そう言えば、シールドエネルギーって明確な説明がまだ為されていませんよね、
もしシールドエネルギーが例のコジマ的な設定だったら……夢が膨らみますね。


 次回、「シンジュクゲットー壊滅戦」お楽しみにっ!
一夏〚あれ? 俺の試合は?〛
ラスティ〚恐らく、お前の不戦勝だろうな〛
一夏〚そ、そうか(実際の所、零冶と戦ったら生き残れる気がしない……)〛
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