空は、灰色だった。
そう言えば、あの時も、
「いや、雨だったっけか」
呟いた青年は鉄の箱の中で溜息を吐いた。
『どうしたアンジェロ卿、戦闘を続行しろ』
「……了解」
『チッ、“ナンバーズ”上りが。さっさと戦え』
――――戦う? ただの虐殺だろうに。
In
『――敵機グラスゴーを確認、d2-3からp4-7へ移動中』
己のいる位置からは遠い。
〚――――――――――!〛
眼前の敵は一人、それもコイルガン一丁しかない。
「抵抗は無意味だ。投降してくれ」
解っている筈だ、KNFに勝てないのは確実な事くらい。
「早くしてくれ、このままでは――」
……遅かったか
後方から砲撃が聞こえた途端、
〚――――!?〛
男の上半身は桃色の霧と化していた。
『何を躊躇している。名誉ブリタニア人にすらなれん連中だ、価値は無い』
……こんなもん……こんなもん
「正気じゃねえ……!」
――――絶望した。
『全部隊、“区画整備”を続行せよ』
上層部に何事かあったのかも知れない、友軍機の数が減っていた。
それに、“辺境伯殿”のIFF※が無くなっている。
※敵味方識別装置
『ポイントf3-1に敵影を発見、ヴァレリー隊は直進せよ』
……また一機制圧か、どんな残酷な結果に――
『ホ、ホイエン卿・ヴァレリー卿、
「なに!?」
『g2-aにおいてグラウベ隊、ロスト』
……何かおかしい。相手に対KMF兵装なんてある筈が
『アボット卿、ロスト』
「G-1! 何が起きている!」
『再度コードを変更しろ! 通信が傍受、何だ貴様?-―――
…………指揮官、変わるぞ』
声色が変わった。
『こちら指揮官、IFFの機能を停止せよ。動くKMFは全て敵機と判断しろ――』
矢継ぎ早に指示が重ねられる、展開されている
『アンジェロ卿、周囲に味方機が居ないようだが』
「俺は“武勲候”、特務だ。隊は組んでいない」
『ではクリティカルアタッカーとして働いて貰う、データにある実験兵装は使えるか』
“実験兵装”、問われた青年は肩に掛かった片刃の大剣を左手に持つ。
「動作確認、十分使える」
『よし、g4-cに北西から侵入、背中を向けているサザーランドを一撃で落とせ。クイーンシー隊は陽動に来るグラスゴーへ制圧射撃、追う必要はない。状況を再開せよ――――』
「了解」
廃墟の山の中を縫う様に進み目的地に入る。
その間、敵も、味方さえも出ては来なかった
指示の通りサザーランドが二機、南東に射撃体勢を整えていた。
敵がKMFであれば躊躇はしない。
剣を持った左手を右側に、おおよそ居合に近い構えをとる。
「“イクシード”起動、攻撃開始」
――初撃で落とす、そのために対特殊兵器兵装“イクシード”は開発された。
二機が間合いに入った時点でトリガーを引く、剣先の峰に空いた穴からレーザーに近い光を持った推進光が発せられる。
爆発的な速度を得た大剣を水平に振り切る。
「――――ッラァアア!!」
大剣は二機のサザーランドの腰に当たる部分を一気に切り裂き、叩き切り、最早、粉砕した。
「敵二機、撃破完了だ」
『アンジェロ卿、グラスゴーが出てくるぞ、十時方向』
今さっき撃破した二機がアタッカーだったのだろう、少し先の通りの左側から片腕のグラスゴーが飛び込んできた。
「貰ったぁ!」
腕部を振り切っているため左肩は使えない。右肩のスラッシュハーケンを放つ、が、
〚――――ッ!!〛
グラスゴーは右腕を犠牲にした、己のハーケンはコアを捉える事は出来なかった。
「チッ……グラスゴーは腕無しになった」
『良くやった、アンジェロ卿。次は――』
順調、その一言に尽きる。
上空から見える人間のサイズは点の様なサイズではあったが、己の眼であれば然したる問題とはなり得ない。
VACを載せた車両でやってきたが、使う機会は無さそうだ。
自分の“本分”を用いた方が武勲をあげられると確信している。
顔に至るまで黒を纏っている男、ヴィクトル・グラズノフの本職は“パイロット”よりかは“軍師”がより近い。
彼の脳にはシンジュクゲットーの地形、IFFを停止した後の味方機全機の配置。
そこに地に利があるのであろうレジスタンスの王道戦法である“陽動と待ち伏せ”を加味した戦術を映し込んだ戦略図が構築されている。
敵は優秀、ここまでに出した手は己が同陣営であれば、全く同意見になる。
そう、全く。
故に、解りやすい。
……まるで隆文の言った事と同じか
“全く合理的で予想の可能な域を出ない”
後学として頭に入れる事も程々に最後の一手を告げる
[敵KMFは全て撃破したと考えられる]
陽動のグラスゴーも敵機信号も無し、まさか今から物量戦を開始する程の無謀さは無いであろう。これまでの駒の動かし方から解る。
……そんな相手がどうやってサザーランドを強奪したんだろうか
[敵はh5-4]
に、追い込んだ。
[――制圧せよ]
チェックメイト。
『こんにちはぁ』
妙に間の抜けた声が無線に入る。
[Mr.ロイドか、すまないな、実戦記録取得のチャンスを潰してしまった]
『全くそのとーりですよぉ』
勿体無かったなぁ、と、ロイドが残念がった。
[残念だが次を――]
『全軍に告ぐ』
間もなく勝利宣言が始まるようだ。
『――直ちに停戦せよ』
……?
『エリア11総督、第三皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアが命じる。
全軍、直ちに停戦せよ。この先あらゆる戦闘行為を禁ずる。
負傷者は国籍に問わず救助せよ。これ以上の戦闘は許可しない』
意味が分からない。
[将軍、アスプリウス将軍、何があった]
応答は無い、それどころかG-1に繋がらない。
[G-1だ、急いで行ってくれ]
最悪のパターンが発生したのかもしれない。
NEXTによる戦略的作戦の常套手段を思い浮かべる。
……頭を潰しに来たか
何か革新的な方法の有るらしい。
あらゆる包囲、障害をも“すりぬけて”目標を達成する方法が。
にわかには信じがたいが、そんな“ありえない”事はラスティに嫌と言う程見せられた。
ヴィクトルの予測は既に確信へと至っている。
G-1ベース、艦橋内にいるのはたった二人。
[や、止めろ! そうであっても実の兄だぞ!?]
[……綺麗事で、世界を変えられはしない]
半ば相手の額に押しつけるように当てた銃の引き金を、
[…………?]
艦橋の窓が、ぱきり、と、音をたてた。
それも束の間、再度銃を向け直す。
[――――!?]
その瞬間、窓が爆発する。
爆風の内から“黒い”なにかが飛び込んできた。
それはヒトであった。
床を転がるように着地、その動きが止まる時に“それ”はサブマシンガンを“一人”の男に向けた。
既にこと切れている皇子を一瞥し、
〈裏切り、だったか。蓋を開ければ造作もない〉
呟き、言を重ねる。
[銃を破棄せよ、今、刑を執行しても構わんぞ]
爆風によって壁の影に叩きつけられる様にして立っている男に言った。
だが、男は“フン”と嗤っただけでこちらに歩いてきた。
[その“刑”、俺が執行してやろう…………“死ね”]
……ルルーシュ?
影から出て来たのはヴィクトルの記憶に
[“ランペルージ”、なぜ貴様がここにいる]
[!? だ、誰だ!?]
[話は後だ]
聴きたい事が多すぎる、何よりこのレベルの人間の
[ここより北に有る貨物に厚い布が掛かったトラックに向かえ、中の壮年に“
彼も一先ず生存を選択したらしい、小さくうなずいた後、ヘルメットを着けて出て行った。
[アスプリウス将軍……バトレー将軍聞こえるか]
『! あ、ああ。私は一体何を』
[非常事態だ、皇子が暗殺“されていた”、急ぎ艦橋に来てくれ]
『何だと!? 直ぐ行く、待っていろ――』
一日の終わり(始まりの者いるのでろうが)に差し掛かったトウキョウ租界を一台の戦車運搬車もどきが走る。
[それで? 俺の事を知っていた様だがお前は一体誰なんだ?]
言ったのはルルーシュ、
[誰で在ろうと君には関係ないと思うが? ルルーシュ・ランペルージ]
答えたのは顔を覆ったヴィクトル。
[結局の所、我々VFAはブリタニアの歴史の内、恐らく最大の
お互いがお互いの致命な範囲を握りあっている、
――一方は皇子の殺害者として、もう一方はその者の逃亡を扶助した者として。
[こうなった以上、我々は協力関係を結んだ方が、より建設的ではないか?]
[………………]
尚もヴィクトルが続ける。
[こちらは物資と、これでもブリタニア軍事分野の総合サプライヤーだ、情報も提供出来る]
[それで何を求める?]
[一先ずは市場だな、物資は有料だ。安全なルートを含めて現実的な価格で提供しよう]
後は、
[君の能力、これが無ければ、即刻あの場で突き出していたろうな。
ブリタニア、及びレジスタンス側に対する隠密と作戦立案に関するアドバイザーとして働いて貰おうか]
相互に利用し合う関係、それをヴィクトルは提示した。
[共犯者か……こう為らざるを得ないな。その契約、同意しよう]
この二人は、どちらが食い、どちらが食われるのか、我々はまだ知らない――。
IS学園
〚織斑君、クラス代表決定おめでとー!〛
クラッカーの音の音が食堂に響く。
〚…………何で俺がクラス代表なんだよ?〛
不機嫌そうに言う一夏の言も
〚それは――〛
セシリアが口を開くが、
[俺達はクラス代表になる事を辞退したからだ]
食堂に入って来た男にセリフを奪われた。
[やぁ、う゛いくとる。どうしていたんだ?]
そういえば、ヴィクトルはセシリアとの試合の後、直ぐにどこかに出かけていた。
要は次の一夏との試合をすっぽかしたのだ。
[急ぎの仕事が入ってな。すまなかった]
ヴィクトルは素直に頭を下げた。
[いやいや、むしろありがたかったような……]
〚何にせよ、わたくしも彼も辞退したからですわ〛
セシリアが説明を再開する。
〚わたくしは先の試合でわたくしが“井の中の川’s”であった事を痛感しましたわ。
わたくしの様なものでは代表として力足らずだと思いましたの〛
〚はぁ、それでか(蛙は突っ込まないでおこう)〛
〚それ、“川’s”じゃなくて“買わず”だろ? 学が足りんな〛
口を出したのは少し遅めの夕食を摂っているラスティ。
仲良く喧嘩を始めたのは放っといてヴィクトルは一夏の方へ向かう。
[それで、せしりあのほうわわかったけど、おまえはどういうりゆうなんですか?]
[俺は元から代表にはなれないんだよ]
一夏が思案顔になる。
[俺はISACにしか乗れない。あれは純正のISじゃないから異端なんだよ
それに、これでもCF,indの人間なんだ。勝手な事は出来ない]
〚随分人気者だな、一夏〛
〚“人気”ね、どうだか。っつうかなんでそんな機嫌悪いんだよ〛
箒は嫌みの様な小言を言うとそっぽを向いてしまった。
パシャッ、と、シャッターを切られた。
〚はいはーい、新聞部でーす! 今日の試合の出場者みんなで一緒に写真、良いかな?〛
〚あら、良いんですの?〛
セシリアが素早く反応、“映る”事に敏感、と言うのだろうか。
〚勿論。注目の専用機持ちだからね、じゃあ立って立って〛
[ヴィクトル君も映ってくれないかな?]
立ち順は左からヴィクトル・セシリア・一夏。“紅一点”の配置である。
[はーい、寄って寄って、もっとリラックスして。じゃあ撮るよー]
パシャッ、とシャッターが切られた、のだが、
〚な、なぜ全員入ってきてますのー!!〛
〚まぁ、まぁ〛
〚セシリアだけ抜け駆けはないでしょー〛
と、セシリアのISにコールが入る。着信相手を見て、セシリアの眼が変わる。
〚わたくしはこれで失礼させて頂きますわ〛
食堂を出た彼女は寮とは反対方向の道に歩を進める。
(なんですの?)
『試合の結果は見せて貰った。……まぁ
通話の相手は例の“依頼主”だった。
『判定勝ちでも無いからどう見ても君の勝ちと見れる。
契約通り報酬を支払おう』
(そんな物、必要ありませんわ)
『そうか? まぁそれでも良いが』
(それよりも、わたくしの出した条件、“忘れた”とは言わせませんわ)
セシリアの出した条件は“成功報酬としてあなたの組織の情報を開示”する事。
こちらへダイレクトな通信を容易に行う組織の正体を知るため。
『少し、話をしないか』
(何をバカな――)
『本国には、親しい友人がいるそうじゃないか。いや、半分ライバルか? オルコット』
何故、今そんな話をするかは察しがつく。
(……彼女に何をしましたの?)
『“オルコット”と“ウォルコット”か、似て非なる間柄だよなぁ』
例えその真偽が解らなかったとしても、“人質”の存在は確実に精神を圧迫する。
(何がお望みですの?)
『心にしまい込め、“仕事”を受け続けるんだ』
この事を口外しない、仕事は引き受ける。他の道を断たれてしまった。
(分かりましたわ)
『よし、良いだろう。我々は――――
――――ビ-ハイヴ』
補足 サブマシンガンは“UZI”のつもりで書いています
少なめですが、きりが良かったので。
シンジュクゲットー壊滅戦+αでした。
レジスタンス(ルルーシュ)の巧妙な策に四苦八苦する参謀らを見かねたヴィクトルが
将軍に代わって指揮を執る、そんな構図です。
新登場人物、アンジェロ卿からシンジュクの戦闘を描いてみました。
“イクシード”については綺麗なマスブレードでしょうかね、
名前とデザインは某スタイリッシュアクションをパク……参考にさせて頂きました。
IS学園の方も順調に時間が進んでます。
同一時間軸を何度も繰り返さないように、あえて話を断片的に作ってある節があります。
説明足らずな感じがしないでもないですかね。
では、世に平穏のあらんことを