IS 双極の兵器   作:黒魔道士ゲバラ

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二話  牢獄の革命家

 ――格差戦争、これは一方の呼び名であり、世界的にはあまり認知されていない。

より認知されている名称はジェンダーウォーである。直訳すると“性差戦争”。

彗星(すいせい)の如く現れたISの影響は凄まじく、世界各国はISコアの配布と開発の開始から多少の差はあるが、相次いで女性優遇政策を取り、ISパイロットの呼び込み(及び囲い込み)を開始した。

これによって、社会的な男女の差が無くなるどころか逆転した国家も存在する。

だが、これをよしとしない民族系統も少なく無い、宗教観念の強い国家、主にイスラームを国教とする中東諸国や発展途上国を中心に世界各地で暴動が発生した。

しかし、これによって始まった第一次ジェンダーウォーは皮肉にも、ISの圧倒的な力を見せつける機会になる。

たった一機のISによって、通常戦力で勝る所謂(いわゆる)男性側の陣営が一方的に蹂躙(じゅうりん)されるさまは、世界に新たな時代の到来を実感させるのに十分であった。

モスクワ郊外のリュプリノで起きた大規模テロをロシアの国家代表の操縦するISが鎮圧したのを最後に第一次ジェンダーウォーは事実上の終結となった。

閑話休題。

 

 

 第二次格差戦争、男性側の最後の砦となるシリア南東部の人民開放軍(自称)の基地は一時の間、騒然としていた。

〔これは……まるで違う兵器じゃないか!?〕

〔いける、これならいけるぞ!〕

参謀達は口々に驚きと期待の入り混じった言葉を放つ、彼らの反応は良好だ。

驚くのも無理は無い。ACの初期型の機体に出来る最高のパフォーマンスを示している。

それもそのはず、あのACに積んでいるのはハイエンドノーマル(今のACの進化形)用のそれと遜色(そんしょく)無い。

古代兵器だった物はACテスト場、要はただの空き地で秘密兵器に進化した姿を示している。

 〔小僧、やってくれるじゃないか。いつ脱走するか賭けてたのに、全部パーになっちまった〕

〔それ俺の前で言うなよ。――ともあれ、交渉成立で良いよな?〕

〔人集めに三週間、準備に二週間だったな。構わん、金と設備も貸してやる。〕

〔あぁ、あとアーカムを借りていって良いか?〕

〔もともと、ACプログラム作成に割り当てていた奴だ。借りていけ。あいつもお前と同じクチでな、英軍基地の情報を持ってきて従軍を頼んで来たんだ〕

〔へぇ、じゃあ借りてくぞ。〕

〔せいぜい頑張るんだな〕

 

 [どうだった? いや、もちろん大丈夫だったろうな]

[三週間に二週間、交渉成立だ]

[第一関門突破だな、これからどうする?]

[とりあえず、情報収集だな]

 先ずこの世界のの概要を把握しないと不味い。(ダニー)は休憩所のオンラインデータベースに目を付ける――。

 

 

 これまで得た情報をまとめると、この世界は国家解体戦争以前の世界に酷似していた。

軍事バランスを保ってきたのは大量の通常戦力(戦車、戦闘機、歩兵等)と人型兵器MT(マッスルトレーサー)であった。

世界各国はそれぞれにMTの開発を行い、MTの発展系であるACの開発が始まった頃、篠ノ之束(しののの たばね)博士の開発したパワードスーツ(IS)が世界を塗り替えた。

当時、宇宙での活動を主眼に置いた設計はかなり作り込まれた物だし、通常の兵器を凌駕(りょうが)するスペックであったが、絶望的な欠点が一つ、“女性にしか使えない”。この“宇宙服”として決定的なデメリットによって各国の関心はISから完全に離れた。

そんな時一つの事件が発生する、後に“白騎士事件”と呼ばれるこの事件の概要は、“突如”世界のミサイル基地のコンピュータが“同時に”暴走、一斉にミサイルを日本に発射、日本絶体絶命といった時に白の塗装をしたISが当空域に“突如”侵入、数千に登るミサイルを全て撃破、その上スクランブルしてきた艦隊を死者0で撃破、まんまと逃げおおせた。

これによってISの見方が激変、その後は第一次ジェンダーウォーへとつながる。

 ISに対する各国の変化は、

 イギリス:いわゆるIS先進国。ISの万能性は島国であるイギリスの国土に相性がよく、他国に先んじてIS開発に着手、時代の一歩先をゆく存在となった。

開発企業はオルコット財閥、対抗企業のBFFを抑えて英国軍需産業トップの企業となった、CEO夫婦の不運な事故死もあったが、まだまだ勢いは衰え知らずだ。政策も大転換されていて、超女性優位社会に変化を遂げている。

 ロシア:国土の広大さから、根本的にISとの相性が良くない。よってテクノクラートを中心とする通常兵器産業が覇権を握っている。

“何か強い兵器が発表されたらしいからちょっと作って見っかー”程度のスタンス。であるのにも関わらず、ロシア軍人達が猛反発、ロシアのIS技術は遅れ気味でIS操縦の国家代表は日本人だったりする。

 アメリカ:米国の黄金期はISの登場と共に砕け散る。これまで配備した軍備はISの登場でほぼ無用の長物と化してしまった。

“栄光をもう一度”と、イスラエルと共同でIS開発に着手。しかし、開発を国だけでやったもんだから民間企業は一層弱体化、かつての栄光を誇ったアメリカのGA、クーガー、MSAC、クレスト、中東のオーメルはもはや風前の灯状態である。

 フランス:フランスとしてはISにビジネスチャンスを見出した。新興企業のデュノア社がいち早くフランスにおける、IS開発権限を取得、万能機であると言うISの特徴を生かした傑作二世代機“ラファール・リヴァイブ”の開発に成功した。

一足遅れたミラージュ、ローゼンタールは経営不振に陥っている。

 ドイツ:ドイツのISに対する評価は正確かつ、ストイックである。ISを決戦兵器として位置づけて、民間企業と共に開発を進めている。

インテリオルは純AC系企業の中で唯一IS開発にスイッチ、着々と業績を上げている。ISの設計思想としてはドイツらしい“単機最強”を目指す。

また、ドイツ軍部に“黒ウサギ隊”を結成、IS専門部隊を作成し、通常戦力との分化を行う事で軍部の摩擦を無くし、理想的な軍事バランスを保っている。

 イタリア:不気味なまでに完全な沈黙を保っている。新技術に(さと)いトーラスがここまでノンアクションなのが、ISの異常性を示しているのであろうか。

 中華人民共和国:そもそも、技術面に関して後進的な事もあって、国内でワタワタとしている感じ、しかしIS開発を機に南シナ海周辺の掌握に乗り出す考えがある模様で、ISの設計思想も長距離航行、継続戦闘の可能な低燃費タイプとなっている。

南アジアのアルゼブラと関係を持とうとしているが……?。

 日本:ISの影響を最も受けたのは、日本で間違い無いだろう。ISの開発元が日本人な事も相まって白騎士事件及びISによる大規模な経済破綻の追求をされ。IS関係の国立学園、「IS学園」を国税で運営、各国のIS操縦者の国家代表候補生の受け入れを行っている。これを良いと見るか、悪いと見るかは別ではあるのだが……。

IS開発に関しては倉持技研(くらもちぎけん)が担当、キサラギや有澤(ありさわ)重工が外様(とざま)のような扱いとなっているため、二社共に中国市場に参入しようと画策している模様。

 特筆せねばならない事がもう一つ、この世界は国家解体戦争以前の世界に似ているが、ISの台頭の他にも変化がある。

 “神聖ブリタニア帝国”、“カナダ”が存在していたはずの地域にその国家が存在している。

異常なのはその影響力、およそ世界の三分の一がこの国家に強い影響を受けている。主要なのは※新大陸、東南アジアなど。

  ※南北アメリカ大陸とオセアニアの多く

日本も含まれており、更に中東やヨーロッパにまで展開しようとしているようだ。

 正に帝国が正しい形容詞、IS並みのバランスブレイカー。AC開発の歴史に進まない事も頷ける。

 

 

 「と、まぁこんな感じか」

「二時間で各国の意向の推論まで辿り着くか……」

「それでも多くは推論に過ぎない、大体はあってるだろうが……。

 ――問題は何処に行って誰を引き入れるかだ」

 データの中に気になる記事が一つ、大きなISの特集記事の横に小さく“露 反体制勢力のリーダー、ヴォルクタ収容所へ移送”とある。

「アーカム、この“ソコロフ”って人物について知っているか?」

「ソコロフ・レズノフはロシアの元軍人で今は革命家だ。最大のIS反動勢力を指揮していた。

 彼は絶対的なカリスマ性で行先(ゆくさき)のほとんどの勢力が彼の勢力傘下に加わった。

 彼らはリュプリノまで攻め込んだが、時期が早過ぎた。彼は士気をあげるまでは良かったが、部下達の狂信と暴走を抑え切れなかったんだ」

「そいつに必要だったのは組織力とリーダーシップと言った所か」

「彼の革命の手法は“同化”なんだ、全員を“仲間”にする。人数が少ない時は効果的だが、多いと統制が取れなくなる」

「少数精鋭だと強い訳だ」

データを閉じる――。

 

 

  ロシア北東部、ヴォルクタ

 

 

 一人の囚人が薄暗い洞穴(どうけつ)の端で業務(といってもとっくに鉱石の失われた鉱山を掘り続けるだけだが)をサボって屈んでいた。

その一人に気づいた監守が近づく。働いて無い所を見つかると、警棒で殴りつけられるのが、ここ(ヴォルクタ収容所)のルールだ。

周りの囚人達も彼を見るが、見て見ぬ振りをする。誰も関わりたくないのだ。

〈おい!〉

監守の問いかけに対して、

〈あぁ!? なんだよォ!?〉

〈チッ、こいつ……〉

男は目の焦点が合っていない。

〈用が無いならさっさと帰れこの¥¥¥野郎〉

囚人は一息に吐き捨てた。

監守は警棒を振りがざす。

〈この野郎ふざけやがッ――!?〉

 監守が警棒を振り切る事はなかった。洞穴の影に一人、囚人が隠れていたのだ。

囚人は素早く監守の背後に回り込み、右手で振り上げられている右腕を掴んで引き、左手を逆手にして監守の首を掴んだ。

看守の足を蹴り崩し、左手をそのまま左に振り切り監守の頭を洞穴の壁に叩きつけると、監守はそのまま動かなくなった。

〈ぬぅ、一撃で無力化か……流石だな〉

〈そうでもないさ、コツを掴めばっ、簡単さ〉

監守を転がす。

〈にしても、ここの戸籍管理は随分適当だな。精神疾患を持った囚人は別の棟だろ?〉

〈そんなものだ。ヴォルクタの監守は囚人の事を毛程にも考え無い事で有名だ〉

〈なにはともあれ、第一ステップクリアだ〉

〈“鍵を手に入れろ”、我が祖父の受け売りだ。さぁて、行くぞ同志ダニー!!〉

〈わかったうるせぇ〉

 ……“ソコロフ・レズノフ”、ここまで(うるさ)い奴だったとは……

二人で洞穴から出ると他の囚人達も行動を開始していた。移送からたった二日で囚人達を掌握、統率するとは、己が潜入するまでも無かったか、と思う。

〈行くぞ同志達よ!! 自由はまだ遠い! 誇りと! 希望を! 我々の手で! 取り戻すのだ!!〉

 

〈〈〈〈〈〈オオオォォォォォォォオオ!!〉〉〉〉〉〉

 

 〈同志よ、これを使え!〉

〈拳銃? どうやって手にいr――〉

〈監守にも同志がいる!〉

〈……そうかい〉

〈今、他の同志達が監守棟正面に向かっている、我々は裏に回って武器庫を確保するぞ。こっちだ!〉

鉄の扉を押している囚人達を横目に監守用の通路に入る。

 コンクリートで出来た床を音を立てないようにしながらソコロフを追いかける。

〈待て、隠れろ〉

物陰に隠れるようにソコロフへ囁く。

強化人間(プラス)の聴覚が反乱の中で足音を捉えた、二人だ。

〈不味い、今奴らを通してはいかん〉

〈OK、前の方のを頼む〉

一人目が通り過ぎた後、同時に飛び出す。

俺は相手が構えたアサルトライフルの銃身を右手で押す、一瞬遅れてトリガーが引かれた。

出した右手はそのまま、右足を軸に左回し蹴り、狙うのは下顎、確かな感触の後に嫌な音を立てて監守の首がありえない方を向く。

 あちら(ソコロフ)も仕事を終えたようだ、前の奴(監守)が仰向けに倒れる。

〈げぇっ、石で直接殴ったのかよ〉

〈同志よ、石は何にでも使える万能兵器なのだよ〉

倒れた男の鼻は無残にも潰れていた。

〈時間が惜しい、こっちだ、急ぐぞ〉

 

 〈ここdぬおっっ! ちぃっ軽機関銃、一人だ、15m先で伏射姿勢を取ってる〉

曲がり角の向こうに武器庫(目的地)があるようだ。

〈解決策は?〉

〈頼めるか?〉

〈わあったよ〉

助走をつけて飛び出す。空中でさっきの二人から奪ったアサルトライフルの照準を合わせる、AMSの高速反応と強化人間の肉体制御を持ってすれば移動しながらのエイムは容易(たやす)い。

機関銃士がこちらに気づくのと同時にトリガー、弾丸が相手の額に当たるのを確認した後、転がるようにして着地する。

〈ナイスキルだな〉

〈そりゃどーも、これが武器庫か……〉

潜水艦にあるような扉を開いて中を確認する、問題無し。

〈奥の扉を開けてくれ、監守棟正面通路につながっている〉

〈分かった〉

 入る時と同じように扉を開ける。

〈待ってたぜ、さあ早く武器をくれ〉

囚人達が扉の前で待っていた。何人かが鉄板でバリケードを作って支えている。

〈ほら、持ってけ〉

扉の前に立って武器を手渡す。囚人達はそれぞれに戦闘を開始した。

ここの囚人達は元軍人ばかりだ。恐らく戦力は拮抗(きっこう)するだろう。

〈同志達よ! 勝利の日は近い!! 迷わず進め! ウラー!!〉

ソコロフは自ら前線に立ち戦っている。

 ……あれでよく死なないな……

 

 

  監守棟、中央通路

 

 

 〈最後の関門だ押し潰せ!〉

〈ダニー、上だ! 隔壁(かくへき)を閉じさせるな!〉

〈分かった!〉

二階のコントロール室で隔壁を操作している。一階の隔壁を閉じられると二階の狭い通路での戦闘になる、こうなると反乱側の分が悪い。

右の階段に走る。

〈あぁっ! くそっ〉

流れ弾がアサルトライフルにヒット、使い物にならなくなる。さっさと捨てて階段を登った。

コントロールルームに入るが、一人残して他の監守が冷たくなっている。

〈っ、動くな〉

拳銃を構える、が、

〈待ってくれ、敵じゃない〉

看守姿の男が両手を挙げる。

ソコロフも追いついて、

〈撃つな! そいつは味方だ。紹介する、レッジだ、元プロ詐欺師でスパイを担当してる。レッジ、ダニーだ、大まかな作戦立案と脱出の足を確保してくれた〉

〈条件つきだがな、よろしく〉

〈レッジだ、よろしく〉

相手にどことない安心感を与える深い声、人種はよく解らない。

〈私は少し特殊な人種でね、医者によれば全ての人種の特徴を内包しているらしい〉

〈あんた詐欺師の適正あるよ〉

〈先を急ごう、時間が無い、我々は裏から叩こう――〉

 

 

  ヴォルクタ収容所、出口付近

 

 

 〈ヤバイ、装甲車だ!〉

〈バカな! そんなの情報に無かったぞ!〉

〈万事休すだな、どうするソコロフ?〉

〈むぅ、手詰まりだな……〉

装甲車は直線の大通りに隣接した車庫に隠していたらしい。

皆の手持ちに有効な物は無い、俺に至っては拳銃一丁のみだ。

〈任せろリーダー! 行くぞお前ら!!〉

〈〈〈〈〈ウラ――――!!〉〉〉〉〉

長身でガタイの良い囚人、クラフチェンコを先頭に他の囚人達が走り出す。

もちろん装甲車の砲塔は人の多い方に向き、囚人達が踏み出した途端に崩れ落ちる。更に鉄板を持った囚人が並んで道を作る。

〈すまんクラフチェンコ、同志達!! ダニー、レッジ、急ぐぞ!〉

三人は血の道を駆け抜ける――。

 

 

  ヴォルクタ収容所の反乱の日、未明

 

 

 ヴォルクタの長い貨物列車、一つの車両の扉が開く。

それを見計らったように三つの影が入ってゆく。

[おつかれさん。どうだった?]

〈見た通りだ、全くひどい〉

[あー、英語で頼めるか?]

[悪い。一人追加だ]

[折込済みだ、スーツは五着用意してある]

流石に囚人服(と言ってもボロの防寒着だが)で空港に行くのは不味い。

 ……どういう事だ? (ダニー)は皆を助ける気では無かったのか?

レズノフの疑念を余所に列車が低い音を立てて進み始める……。

 

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