IS 双極の兵器   作:黒魔道士ゲバラ

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 ダニー率いるチームが動き出します。ISを前にダニーの取った策とは……。


四話  オペレーション・マトリクス

 

  シリア、人民解放軍基地

 

 

 荒れた土地にぽつんと一つ、第二次ジェンダーウォーにおける、最大かつ最後の砦、アラブ人民開放軍基地が存在する。基地一つが“最大”とされる辺り、反発勢力(狭義での男性側)の劣勢が見て取れる。

 しかし、彼らが止まる事は許されない、例え破滅へひた走る事になろうとも、進み続けるしかないのだ、争い、抵抗し、戦う。

 それが彼らの出した“答え”なのだから――。

 

 第三作戦会議室は最高決定や特殊会議用の部屋で、収容人数が少ない。普通に座れば十人程度が限度だろう。

そのため、分隊及び部隊員全員で行う作戦会議には向いていない、今回はその例外だが。

 [ISを見てきたが、俺は随分とあれ(IS)を過小評価していた事が良く分かった。よって、今回の作戦に大きな修正をかける事にした]

「……それ以前に原案を聞いていないのだが?」

(ダニー)の他五人を代表して(ベルリオーズ)が指摘した。

[……! すまん。では状況の確認から始めよう]

 ダニーはここ(シリア)に来てからあんな調子が続いている。帰ってきてこれまでとの違いを実感しているのだろう、ISの異常性に。

 無理も無い、私達の存在していた世界にもネクストと言うイレギュラーな兵器があった(私はそのパイロットだった訳だが)。

しかし、あの技術、“コジマ粒子”のバックグラウンドによって成しえた物だ。

理論から設計思想、果てには技術に至るまでをこれまでの学問、工学技術の系譜のほぼ全てを無視して個人が作った、なんて経緯を聞けばとんだオモチャ程度と考えるだろう。

それで出てきたのがあの超兵器ならまさに“開いた口が塞がらない”となるだろう。

私や(ダニー)にとってはそれほど異常な物なのだ、ISは。

 [――と言う訳で、当初考えていた作戦は詰み。相手の指揮系統を潰すのまでは良いが、その程度ではISは倒れん、ACには無理がありすぎる]

[どの位無理があるんだ? ACの駆動は格段に良くなったんだろ?]

[ゴールディ、話は聞いただろう。ACの装甲はISと比べてもACの方が硬い。だが代わりに内部系の脆さも郡を抜いているのだ]

[ISの攻撃を下手に喰らえば一撃だったとしても駆動系にダメージが回ってお釈迦、ISの攻撃力はそれほどにあるんだよ]

「更に今のACは操作と駆動に多少のラグが生じている、高速戦闘と小回りの良さが強みのISには分が悪い。

 ACの操作システムに革命的な変化が起きるか、AC自体のサイズが落ちれば話が別だが――」

[改良するほど時間は残ってない。これが現状だ]

全員で問題を確認する。

[OK、理解したぜ。そういやぁベルリオーズ、さっき“今のAC”っていったが――]

[ゴールディ、悪いが時間が無い、話を進めるぞ]

ちらり、とダニーがこちらを見る。言葉を選べ、と、次から気をつけよう。

 [繰り返すようだが、こちらにはISに対抗する手段が無い、よっていかにISを出させないか、が重要になる。何か方法あるか?]

[囮を使うのはどうだ?]

[囮が足止めとして機能するか分からんな。先ず囮になりうるか怪しい]

ISの速度では囮を出しても直ぐに破壊し、舞い戻って来るのが予測出来る。

「操縦者への攻撃は?」

[悪くない手だがそれもアウト、ACと違ってパイロットは常にISを“携帯”している。返り討ちに遭うのがオチだ]

個人依存型兵器を攻略する王道、搭乗者への攻撃の不可、となれば。

「では、戦略的に固めるしかないな」

[その線で行こう。どうやってISを動けない状態にするかだ]

[敵が乱立、更に敵が非常に近い、なんて事になれば本陣を守らざるを得ないだろうな]

[この人数では“敵が乱立”には出来ん]

[敵が乱立、を見せかける程度は出来る]

アーカムが答えた。

[どんな方法で?]

[オペレーティングルームのコンピュータに仮想現実のプログラムをはめ込む]

[条件はどうなるんだ?]

[基地のコンピュータが停止する事、その間に大型コンピュータを基地の物に接続、再起動したときオペレーティングルームには仮想現実(マトリクス)が見えてる]

「あとは停止させる方法と、どうやって本部から出ないようにさせるか、だな」

この作戦は諸刃の剣だな、一人でも本部から出ると確実に気づかれる。

 [成功したとして、ISを抑えるのはどうにかなった、ここからどう勝ちに行く?]

[乱戦に乗じる感じで私が指令を誘導すれば良いんじゃないか?]

[それでも勝ちには変わりないか]

[方向性は決まりだな、具体的な方法に移ろう――]

 

 [後は敵の内部に入ろう。アーカム、使えそうな人物は?]

[非正規のルートで基地に入る人間が一人、恐らくSS(シークレットサービス)だ。後、実戦闘員を本国で募集している]

[ソコロフ、実戦闘員として潜入、現地の戦闘員の信用を勝ち取ってくれ]

[分かった、すぐに行こう]

ソコロフは机の高性能小型通信機を取って部屋を後にする。

[SSは私の担当だな?]

[レッジ、頼んだ]

 

 

 シリア中心部にある喫茶店、カウンターでスーツ姿の男性がモーニングコーヒーを飲んでいる。予定の時刻まで後15分程、英軍実験部隊の幹部と合流する。

 彼が一杯のコーヒーを飲み終える頃、彼の携帯がなった。

[はい、もしもし]

『ジャック君、私だ』

彼の名はジャックでは無い、電話の向こうの人間もわかっている。

これは緊急事態が発生した時に行われるやり取り。彼は店を出ながら話を続ける。

 [何かあったんですか?]

少し緊張した声になっている。初任務で、初めて最上部の上司と話す事になったのだ、それも緊急事態で。

『君の内情(正体)が割れそうになっている。この連絡の後、シリアから出国するんだ。こちらとの通信も絶つんだ。一ヶ月どこかに潜伏してくれ。――大丈夫だ、そちらの件には別の者を回している』

[分かりました]

 通話を終了し、迅速に行動を開始する。行き先は空港だ。

 例の喫茶店には彼と全く同じ格好の男が紅茶を飲んでいた。

[ウィリアム・クラークさんですね?]

[……はい、そうです]

レッジ、もといウィリアムは紅茶を飲むたび苦虫を噛み潰す様な顔をしていたが、ほぼ警戒されること無く英国の関係者とのコンタクトに成功した。

 

 

 英軍基地から十数キロ、山を一つ超えた先、その荒地の地下にアーカムとゴールディがいた。

[おっ、おい! これ大丈夫なのか!?]

[大丈夫だ! 毎分六回転なら人間は気づきもしないだろう]

重機を用いた工作のプロ(ゴールディ)が言うなら大丈夫だろう。彼らの前には回転する大型ドリルがある。

[これで基地の基礎を削れば上で擬似地震が発生する。それでいいんだよな]

[あぁ、その間に仕掛けを起動する!]

[大声出すな、聞こえてる]

 ……こんなんでいけんのか?

ゴールディの不安をよそに計画は着々と進んでいる。

 

 

  シリア、人民解放軍基地、ACハンガー

 

 

 「――おつかれさん、感想は?」

ACS(アクチュエータ複雑系)のありがたみが良く分かった」

このACにはACSが無いため、駆動の精密性にかけている。

AMSに比べれば難易度の低い技術の筈、ACがそこまで発展しないのもまた、

 「ISの“おかげ”、か……」

「流石にコア機構(パーツをそれぞれのカテゴリに分け専門性を高める機構)も無いのは厳しいな。

 コアドMTよりアセンブリに自由度がないとは。……どうした?」

「いや、なんでも。――それより仕事は?」

「終わった」

「…………まぁ、そうだよな」

 ベルリオーズがいくら合理主義者だとしてもこれだけが“仕事”では不満にもなるだろう。

「あー、あれだ。まだやることがあるから」

「それはいつ頃だ?」

「二週間後くらい」

「…………」

 ……そんな目で見るなベルリオーズ。

「この仕事が終わって、落ち着いたらまともなのを作るよ。ファーストパイロットはお前に譲るからそんな顔すんな」

 ……その為にもここを乗り切らんとな……。

 

 

  二週間くらい後

 

 

 作戦当日、英軍実験部隊基地は完成。出撃を待つばかりだ。

これから始まる“戦闘”は、勝っても負けても一つの時代が終わる。次に始まるのは、女性の時代の到来か、それとも混迷の歴史の始まりか。どちらにせよ大きな変化に変わりないだろう。

 [よし、お前ら準備は良いか?]

『ああ』『問題ない』『おう』『大丈夫だ』『始めよう』

小型無線機から五人の声がダニーの耳に入った。

[俺らが生きるか死ぬかの大仕事、“オペレーション・マトリクス”を開始する。皆、始めてくれ]

『『『『『了解』』』』』

 

 

  シリア、英軍基地、司令部

 

 

 通常開かれる筈の無い戦闘観測用の画面がオペレーター達の置き型コンソールに表示されている。

[ねえねえ、今日の作戦、どうなると思う?]

[作戦って言うかISを出撃させるだけでしょ]

[まぁまぁ、通常戦力も展開されてる訳だしさぁ]

[結局、ISの生中継で男の震え顔が映るだけよ]

[あぁ、心臓に悪そう]

[[[あはははっ]]]

 数時間後に戦闘作戦が始まるとは思えない緊張感の無さだ。

これらの行為は禁じられている筈だが、指揮官も少し注意する程度に収まっている。

 

 ……全く軍用基地の司令部とは思えませんわね

わたくし(セシリア)は彼女らを横目に見ながら出動命令を待っていた。

このまま行けば難なく第二次ジェンダーウォーは終結を迎えそうである。

念のため、と軍本部から監視役としてクラーク、という男がやって来またが徒労に終わりそうだ。しかし、

[クラークさん、このアクセサリ、どうですか?]

[あぁ、なかなかいいんじゃないかな]

あの男(クラーク)にとっては違うかもしれないが。

 彼はいまどきよくいる媚びたり、敵意をむき出しにしてくる男ではなく、まさに紳士的(ジェントルマン)な性格で、“私の事をありのままに見てくれる”と隊員達の人気を集めている。

 この実験部隊はイギリスの女性優遇政策の産物で、恐らく世界初の“女性のみ”(勿論クラークは除く)で中央が構成されている部隊である。

故にその多くが新兵(ルーキー)ではあるが、ISがあればそう大きな問題ではない。

そして、この部隊が勝利の戦績を上げた時、恐らく男女の地位は完全に逆転する。

 ……ついにオルコットの名が歴史に刻まれる日が来たのですわねっ

かく言うわたくしも周りの空気に流されて気分を高揚させていた。

 今日の作戦内容の確認を基地の者と行っていた、伝令役の女性が司令部に帰った時、事は起きる。

[でさぁ、――ん? 地震?]

一人が気付いた時には、揺れは立っていられない強さにまでなった。

 暫くして、

[収まっ、た?]

[あーびっくりした]

[基地システム、再起動してます]

データ破損の対策として、緊急停止した基地のコンピュータが再起動する。

[……システム、再起動しまし――]

司令部内にけたたましいアラートが鳴り響く。

[敵襲!?]

[各員、第一種戦闘配置!]

『A-3よりHQ(本部)、敵襲だ!! 敵は大型兵器で急速接近中! あれは……!? 不味い! AC――』

[A-3との通信、途絶しました!]

[何? 今、ACって?]

誰かが答える前に司令部の鋼鉄のドア、と言うより隔壁が大きな音を立て始めた。

[こんどは何?]

『こちら基地の防衛より本部、我々はこれより反体制側に加入する。覚悟しておけ、ここが貴様らの墓場になるぞ』

 司令部の人間全員の背に冷たいものが走る。

[きっ、基地戦闘員、反乱を開始しました!!]

もはやここ(司令部)に先ほどの安寧は消え去った。

 [HQよりE-3、状況を!]

『E-3よりHQ、ACだ!! ACが来ている! くそっ、なんでだ!?通常兵器では歯が立たない! 救援を! 早く救援を――』

[E-3、通信途絶しました!]

[司令官! わたくしに出撃許可を! ISならACを殲滅出来ますわ!]

[駄目よ、今隔壁を開ければ司令部の内部に被害が回る、反乱側の思うつぼよ、許可できない」

[しかし――]

『B-2よりHQ、現状ではもう持ちそうにない、どうにかしてくれ! おい! 何やってんだ! 早く――』

 新兵(ルーキー)達はこの戦場で初めて“死”を意識した。

ISに対する絶対の信頼、完璧な兵器であるという前提が崩れ去った今、彼女らを支える物は何も無い。

 だが、

[AからF部隊、ポイントUを中心にして全部隊で合流しろ! 物量で潰すんだ、一斉射撃で回避先をなくすようにしろ。俺達はまだ負けていない!]

クラークは諦めていない。最後まで生きる事を手放してない。

恐慌状態の司令部を懸命にまとめ、活路を見出そうとしている。

 隔壁の音が打撃から銃撃、爆発に変化する。

[あ……あぁ]

[もうダメ、おしまいだわ……]

この隔壁が破壊された時、彼女らの命が(つい)える。圧倒的な絶望感に苛まれていく。

 不意にクラークの携帯が鳴った。

[はい、クラーク、――本当ですか? はい、了解しました]

彼は素早く指揮官のもとへ、他の隊員に聞こえない様に話す、

SS(シークレットサービス)です]

[え?――]

[脱出の準備が整いました、先ず貴女を含めた三人に脱出していただきます]

 普通に考えれば明らかにおかしい、脱出するのに三人は少ない、更に現場を統率する者を先に脱出させるなどあり得ない。

しかし、

[は、はいっ]

新兵(ルーキー)にそんな事を考える余裕は無かった。

 [みんな聞いてっ!! 脱出の準備が整ったわ! アネット、テレーザ、先ず私達が脱出するわ。――大丈夫よ、みんな助かるわ!]

わぁっ、っと隊員が喜びの声を上げる。彼女らの頭から前線の人間の事は既に抜けていた。

[セシリア]

[はいっ]

[脱出まであの子達(部隊員)を守って頂戴、貴女なら出来るわ]

[もちろんですわっ!]

 

 クラークと司令官三人が狭い非常用脱出路へ消えたほんの数分後、遂に隔壁が破壊された。

基地戦闘員がなだれ込んでくる。

セシリアは展開したISの主兵装、スターライトを構える。

[下がりなさいっ! わたくし達は――]

[ご無事でしたか!?]

[――え?]

[え? あの地震の後、本部と連絡が取れなくなったから何かあったのかと……]

[て、敵襲は!?]

[? 何のことです――]

困惑とする彼らの表情に、演技は無い。それを見たセシリアは最悪の状況を予測する。

[そこをどきなさいっ!!]

ISを解除、戦闘員達をかき分けて、司令部を出た後、全速力で走りだす。

 ……さっきの事が全て工作だったとして、変化したのは指揮官がいない事。と、言うことは、相手の目的は指揮官の誘拐。これはかなり不味いですわっ!

このまま、指揮官らが連れ去られれば、状況は最悪だ。

彼女らが交渉材料になるのは間違いない、更に英国におけるISの信用は地に落ちる。

IS企業のオルコット財閥にとって死活問題だ。

 

 セシリアが基地の駐車場に着いた時、黒塗りの装甲車が発進する所だった。

そして、

[貴方はっ!]

彼女はドアを開けている男に見覚えがあった、間違い無い、ワトフォードでISを観察していた男だ。

腰の拳銃を構える、

[動かないでっ、投降しなさい!]

彼はドアに手を掛けこちらを見る、そして

[出来るのか? 君に。殺人が、自分の手で人を殺せるのか?]

彼女の手は震えていた。

 二人は見合ったまま、数瞬とも数時間とも感じる数秒が過ぎる。

[――残念、時間切れだ]

[まっ、待ちなさいっ!!]

 男はドアを閉め、装甲車が発進する。

その間、セシリアの手は震えたままであった。

 

 

 [――クラークさん、これは一体?]

さすがに指揮官の女性も事の異常性に気付いたようだ。

「“クラーク”、説明してやれ」

[あー、君達はもう気付いていると思うが、私達はSSなどでは無い、人民解放軍の者だ]

[――え?]

彼女らにとってかなり衝撃的な事実であろう。

[君達には交渉材料になってもらおう]

三人の顔から生気が無くなって行く。

 ダニーの携帯が鳴る。一人基地に残ったベルリオーズからだ。

「俺だ、成功したよ、それで――え? なんだと!?」

ダニーの驚き様に四人が振り向く、

「人民解放軍基地が……壊滅?」

 

 八人を乗せた装甲車から、音が消え去った――。

 




 人民解放軍に一体何が?ここはかなり強引に展開してしまった……。
補足すると、基地を狙う者が英軍だけとは限らないと言う事、更にISに抗う者が居る様にACを忌み嫌う者もまたいると言う事です。

 ダニーにセシリアとの因縁が生まれました。これがどんな結果になるかはお楽しみです。

 仕掛けが思いつくまで、少し掛かりました、の割には伏線が少ないので「?、よくわからん」となってしまったかも……。
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