元があるとサクサク書けて良いんですが、その分文字量が膨大に……
構成は前後篇になります。それでは前篇をドウゾ。
八話 異郷の学園 1
日本、朝
国立IS学園、その名の通りISの技能育成を目的とした世界唯一の学園は少々特殊な立地である。
具体的には都市沿岸部の東端、この学園より東は数十年前からその勢力を拡大してきた"神聖ブリタニア帝国”の日本における大規模借用地、“トウキョウ租界”が広がる。
この立地の理由は“トウキョウ租界西部の学園地区との友好的な関係を築くため――(略”となっているが、生徒同士の交流はほぼ無い。
より正しい意味は“防衛基地”、ブリタニアはそれほどに強大な国家である。
IS学園の職員室は新学期初日な事もあってかなり慌ただしかったが、動かない影が二つある。
[――これで最後だ、ここにサインをしてくれ]
艶やかな黒髪にこれまた黒いスーツの
“V”と書いた時点で間違いに気付く。
[織斑教諭、この紙をもう一枚頂けますか。これは俺が処理します]
[構わない、書き損じは私が処理しよう]
織斑教諭が伸ばした手をヴィクトル(ここでは有澤)が遮る。
[いや、大丈夫です俺にやらせて下さい]
半ば奪い取るように取った書類を畳んでしまう。
今、ヴィクトルの名を知られる訳にはいかない、
“偶然”IS適正が発現した少年、有澤 零冶としてこの学園に来たのだから――。
IS学園一年一組、置き型コンソールも兼ねている机達の最前列に
皆、この学園に来て初めて顔を合わせる者同士、生徒らの会話は無く教室は沈黙に包まれている。
それぞれになんとも言えない心情の中、最も苦しいのは一夏だろうか。
彼の席は中央かつ最前列、故に背後の状況が分からない。
いや、まぁそんな事ではない。
……男一人は予想以上に厳しいな
これに尽きるだろう。
一夏は“他の生徒の視線に物理的作用があるのでは?”と思う程の視線に晒されていた。
教室の座席は右端最前列を残しその全てが埋まり、席に座る者の目線はただ一点に集められている。
(箒ぃ――)
一夏は同じく最前列、左端の幼なじみに目で訴えかけるが、
……そ、それが久しぶりに再会する幼なじみに対する態度かよっ!
彼女は一夏が自分へ視線を送っている事に気付いた途端、教室の左側、窓の向こうの雲に目線を変える。
そうこうしている内に緑の髪で眼鏡をした教師がやって来た。
〚皆さん入学おめでとうっ、一年一組副担任の
慣れた手つきで空間ディスプレイを展開、校章である盾を模したマークを背に“
しかし、返事は返って来ない。
それもその筈、生徒達の意識は先生……の正面にいる少年、織斑 一夏にその全てが向けられている。
……あれっ!? いつもなら反応あるのに……なにか間違えたかな
不安になり己の身を引きそうになるのをぐっと堪え、
……頑張れ私、これでも教師なんだ!
自分を奮い立たせ、出来るだけ友好的に話を進める。
〚きょ、今日からみんなはこのIS学園で多くの事を学びます。
ここは全寮制ですから、学園においても放課後においても皆さんと一緒です。
協力し合ってより良い三年間にしましょうね〛
今度は問いかけの形を取ったがそれでも返事が返って来る事は無い。
〚じゃ、じゃあ自己紹介からお願いしますね、では出席番号順で――〛
“あ”から始まり数人の生徒が自己紹介を終える。
そして中央最前列、一夏の番が回って来た。
真耶は“俺は置物です”とばかりに硬直している少年に声を掛ける。
〚次、織斑君〛
返事が無い、ただの置物のようだ。
……ってちがう違う!
〚織斑君、織斑 一夏君!〛
〚――っ! おわぁ、はいっ!〛
急に呼ばれた訳でもないのに素っ頓狂な声を上げ、周りの空気が
一夏が正体不明の特殊生物から普通の男の子に格上げ()された瞬間である。
〚あっ、あの、いきなり声を掛けちゃってごめんなさい。
今、皆さんの自己紹介をしてて……〛
〚大丈夫ですっ! 要点は理解してますから〛
〚それで、織斑君の番なんだけど自己紹介してくれますか? 駄目、ですか?〛
最早教師から小動物と化している。
……今にも泣きそうな顔を浮かべられては
〚だっ、大丈夫! 大丈夫ですから、ね? ちゃんとしますから〛
一夏は“泣かれる”と言う最悪の事態の回避に成功する。
〚えー、えっと、織斑 一夏です――〛
織斑教諭と
「零冶、本当に良いのか? 君の家の事情が複雑なのは分かるが……」
「えぇ、
俺が織斑教諭、即ちIS学園に開示した情報は三項目。
IS適性が有る事、
有澤家の養子である事、
CFグループ、VFAに所属している事。
先ず、リンクスにはIS適性が有る事を篠ノ之 束が突き止めた、恐らくAMSの影響だろう。
ラスティが男性であるのにも関わらずIS適性Sであったため、もしやと思い彼女の所で俺と有澤 隆文の二人が検査を受けた所、確かにどちらにもIS適正があった、但し多少の制限も確認されたが。
ベルリオーズはこの検査の時期には既にいなかった、彼とは約束を交わしたがあくまでも仕事仲間だったし、VACが完成したから一人で傭兵家業も出来る。
今は守銭奴なミグラントと組んでVACを駆っているらしいから問題ないだろう。
それで、己のIS適正はE-、“IS”を操縦する事は不可能だ。
隆文はDだったが、これでも純正ISは操縦出来ない。
これが“多少の制限”、元よりISの操縦は望んでいないため、特に支障は無い。
では、何故俺がIS学園にいるのか。ここに篠ノ之博士のからくりがある。
通常、IS適正はSからC、それ未満はISに
DやEは勿論ISの操縦は出来ないが、ISの“技術”は使えると言う訳だ。
AMSと言うオーバーテクノロジーがあるから、この世界にあるACの
NEXTAC開発の問題は後一つ、出力だけなのだが、いかんせん、“コジマ粒子”が発見すらされていない。
あっても(環境的にも)使えないだろうが、10mを超えるNEXTACに本来の速度と
俺はその代用としてKMFの動力である“サクラダイト”の使用を考えていたが、そんな時に解ったIS適正の存在、即ち“
そんな訳で篠ノ之博士にAC(NEXTACのフレーム)にPICを搭載する開発依頼をしたのだが、一人でやらせたのが不味かった。
格好のおもちゃを手に入れたとばかりに篠ノ之博士が暴走に暴走を重ね依頼外の開発を行ってしまい、強化ACのつもりがISとACのハーフのような機体になってしまった。
おかげで完全なACだと言う事も出来ず、未成年だった俺と隆文には国の“保護”の建前の囲い込みに遭い、更に保護者である和輝さんが“良いんじゃないか?”なんてのたまったために仲良くIS学園に入学する事になってしまった。
……まぁ、アリーナでデータ取り放題だし、整備室でアセンブルし放題だし、俺はCFとVFAの影響力をフル活用して“特別処置”を勝ち取りサクラダイト研究の最大手、ブリタニアに行く足掛りを得た上、“有澤 零冶”と言う隠れ蓑を手に入れたから一概に悪いとは言えないのだが……
[ここだ、ここが一年一組。
お前がこれから一年間学ぶ所であり私が担任を務める学級だ。
この学級には私の弟もいる、その……なんだ、仲良くしてやってくれ]
……愛されている弟だな
[言われ無くてもそうなりますよ]
[そうか。では行こうか]
織斑教諭が邪魔にならないよう静かに扉を開く。
自己紹介だろうか、一人の男子生徒、つまりは織斑 一夏が起立している。
〚織斑 一夏です、よろしくお願いします〛
彼の周囲の生徒が“もっと何かないの?”と目を輝かせている。
一夏はそれらに気付き、少し考えた後、大きめに息を吸い、口を開いた――。
〚――――以上です!!〛
見事に周りが転ける。身構えた分コレじゃない感が強烈だ。
零冶は日本語が分からないが彼が相当な人物である事は本能的に理解した。
〚? あれ? だめでした?〛
見かねた千冬が一夏に拳骨を入れる。
一夏が痛みに屈み、
〚痛っつぅー、――!? げぇっ! 千冬ねえ!?〛
もう一発喰らう。
〚学校では織斑先生だ、織斑〛
真耶が助かったとでも言うように千冬に声を掛ける。
〚先生、もう手続きは終えられたのですか?〛
〚あぁ、
いえいえ、と真耶がその場を譲り、一夏は姉の姿をポカンと見つめる。
〚諸君! 私が一年一組担任の織斑 千冬だ。君達若干15歳を一年で
瞬間、多くの生徒が“きゃぁぁぁ!!”と興奮した叫びを上げる。
〚千冬様! 本物の千冬様よ!〛
〚私、お姉様に憧れてここに来たんです! 北九州から!〛
〚私、お姉様のためなら死ねます!〛
〚私お姉様となら#####だって出来ます!〛
コラそこ、そんな事言ってはいけません。
千冬は毎度の事のように呆れた顔をして、
〚毎年よくもこういった連中が集まるんだ? このクラス分け、何か意図を感じるぞ〛
こう言い放つが、
〚お姉様ぁ!! もっと叱って罵って!!〛
〚でも時には優しくして!!〛
〚そして、つけあがらないよう躾をしてっ!!〛
むしろ生徒は加速する。
〚千冬ねえが俺の担任……?〛
茫然と一夏が呟く。
〚で、挨拶さえまともに出来んのか、お前は〛
千冬は一夏を睨みつける。
〚い、いや千冬ねえ俺は――〛
弟は即座に頭を机に叩きつけられる。姉は続けて、
〚"織斑先生”だ〛
〚……はい、織斑先生〛
一連のやり取りを聞いて周りがざわめく。
〚え? 織斑君って“あの”織斑先生の弟なの?〛
〚それじゃあ、世界で
〚静かに!〛
千冬の一声でざわめきが消え去る。
〚諸君らにはISの操縦において、最低限必要な知識を今から半年で習得する。
その後の実習では、ISの基本的動作をおよそ半月で体に叩き込んで貰うからな。
いいな、良ければ返事をしろ。例え良く無くても返事をしろ〛
〚〚〚はい!!〛〛〛
素晴らしいカリスマ性、カオスであった教室を一瞬にして統制の取れた空間に変化させた。
カオスの元凶が彼女自身である事が玉にキズだが。
彼女の言はまだ続く。
〚あぁ、あと、入学早々ではあるが、“転入生”だ。特別処置のためにこのようなタイミングになっているが、そう気にする事も無い〛
え? とさざめきが広がる。今学校に入るのは、“転入”ではなく“入学”だろう。
流石に常軌を逸している、例え“気にする事は無い”と言われても15歳の少女達の好奇心は止められない。“誰誰?”やら“どんな人かな”やらの言葉が囁かれる。
〚転入生だが……〛
生徒は自づからの推測を信じ、多くが教室の右前方へ眼を向ける。
3秒。
〚あ、あれ? 来ない〛
扉は開かない。それもそのはず、
〚こっちだ〛
千冬の示す先、真耶の隣に“黒い服”の男が。教師の一人だと思ったが、
〚彼が、転入生の有澤 零冶だ〛
一瞬の間、
〚――え?〛
[あ、貴方っ!]
〚〚〚えぇぇぇええ!!〛〛〛
一人、別の意味ではあったが、皆騒然とする。
〚お、男!?〛
〚しかも、織斑君と違うタイプ!!〛
〚あれ? でもうちの制服じゃないよ?〛
〚こうなるとは予想していたがな……ええい! 静かにしろ!〛
再度千冬が生徒を黙らせる。
〚零冶はトウキョウ租界の私立アッシュフォード学園に入学する事になっていたが、彼にISの適正が発現した。
そのため、急遽このIS学園に籍を置いて貰う事になった〛
元々、有澤 零冶はアッシュフォードに入るつもりだった。
養父である和輝の“高校に行く程度の歳なんだから学校に通いなさい”との提案を呑んでブリタニアで有澤重工と繋がりのある
企業の力を使った荒業でアッシュフォード行きは守ったが、おかげで籍だけIS学園に置き、アッシュフォードで学び、IS学園の寮で生活を行う“特別処置”が完成した。
〚基本的にはアッシュフォードの生徒なんだが、学籍はこの一年一組だ。
ここの授業も時には受ける事になる〛[零冶、皆に自己紹介を。あいさつ程度で構わない]
[分かりました]
零冶は一歩前に出る。
その一歩の間、零冶の脳がフル回転する。
……さて、ここで第一印象が決まる。この学園に入ってしまった以上、最大限に利用する事を考えよう。使える利権はアリーナ、整備室、後は実弾射撃場、どれも一人の作業になるため無闇に友好関係を広げるとそれぞれ利用可能な時間が減る事になりかねない。そこらへんは隆文とラスティに任せるから、俺が採るべき選択は
〈皆さん、始めましt――〉
「私は
千冬の一撃、
……プランA、ロシア語で話して言語の壁を作る作戦、失敗だ
零冶は千冬への抵抗は諦めた。
「分かりましたよ……有澤 零冶です。接する機会は少ないですが、宜しくお願いします]
〚聞いて解るように零冶は日本語が話せない。仲良くするように〛
せめて、と彼は暗めにあいさつをしたが効果があるかは分からない。
実際の所、効果は薄かったようで、コンソールに翻訳ソフトをインストールする生徒が見受けられる。
零冶はこれからトウキョウ租界のアッシュフォードへ行く。
あちらでもあいさつをしなければならない。
[では、織斑教諭、俺はこれで]
教室を去ろうとするが、
[まぁ待て、今日くらいここの授業を受けてもいいだろう?]
千冬が引き留める。
[いや、アッシュフォードにも用があるので――]
[いい、だろう?]
……これが“無言の圧力”か
「はぁ、分っかりましたよ」
開いている席、つまりは右前の端席に腰を下ろす。
〚皆さんも知っている通り――〛
本格的な授業の前置き、ISやこの学園についての概論を山田教諭が説明してゆく。表示される画像から推測するに重要な事ではないと
……教科書に書いてある訳でも無い、気にしなくて良いか
机の横に置いた鞄からノートパソコンを取り出し起動、メールでの報告を確認し指示を出してゆく。
例え学生になったからと言ってこれまでの仕事が止まる事は無い。
今受信している依頼の多くは、CFグループの各企業にBFFとローゼンタール、目的は殆どが新製品のテスト依頼。
武装もVAC、ACサイズになるとテストをするのに膨大な手続きな必要な上に出来て砂漠のど真ん中、経費の掛かりに対して手に入るデータが割に合わない。
その点、IS学園のアリーナはいつでもテスト出来て計器類が充実しているからより多くのデータが集める事が出来る。
現在進行形で進んでいるVACの開発において、IS学園は非常に魅力的な施設だ。
さて、今日早速始めようか。
テスト内容の確認を始め、アリーナ使用の算段を立てていく。
[――あ、あ、貴方っ!]
黒服の男子生徒に向かって長い金髪にロールの掛かった女子生徒が凄い見幕で詰め寄る。
廊下で“あの子よ! 男性ISパイロット!”、“やっぱりここに来たんだ”など、遠巻きに様子を窺う声や教室内の“あなた話しかけて見たら?”、“私行って見ようかな”と言ったやはり様子見な態度の会話が繰り広げられる中でダイレクトに話しかけるのは少々異質だが、そこを気にする余裕が彼女、セシリアには無かった。
[? 何かな? Ms,オルコット]
[“何かな?”じゃあありませんわっ!! わたくし、あの“英国の悪夢”を忘れたつもりはありませんのよ!!]
“英国の悪夢”、シリアの戦闘の事である。イギリスにとっては負けた筈のそれを居心地の悪い勝利にすり替えたのだ、確かに“悪夢”の表現に間違いは無い。
零冶は思い出し笑いにも似た微笑と共に返す。
[何の事だか解らないな。それにあの事件に
つまり、悪夢は全て夢だった、と。存在していなかった事にする気だ。
[わたくしは確かに貴方をあそこで見ましたわ!]
[人違いじゃないかな?]
だが、零冶の顔には全く逆の表情が浮かんでいる、“残念だったな”と。
[ともあれ、こうあったのも何かの縁だ。
零冶が“話し合いは終わった”とまでに畳み込む。
[……必ず貴方の素性を明らかにして差し上げますわ]
これ以上は言い返せない。相当癪に障ったようにセシリアはこの場を引く。
……多少の交渉術がありますわね、まぁ
〚――では、ここまでの内容で質問のある人はいますか?〛
織斑 一夏は侮っていた。このような難解な物を“基本”とする姉に驚愕した。一夏にはISが解らぬ。一夏は一般人よりISに関わらないようにして生きてきた。けれども(ry
……ま、不味いっ! なんだこの言語群は! 開発者日本人だったよね!?
〚織斑君、何かありますか?〛
一夏の状態を見て、真耶が声を掛ける。
〚うおぅっ!? えぇっとぉ……〛
〚質問があるならなんでも聞いて下さいね〛
流石は教師、生徒の理解度をよく確認している。
〚じゃあ、せ、先生……〛
〚はい、織斑君〛
〚殆ど全部、分かりません〛
えぇっ全部ですか!?、と、真耶が驚き、
〚い、今の所までで、分からない人はどれ位いますか……?〛
しん……と教室が静まり帰る。
端で見ていた千冬がやってくる。
〚織斑、入学前に配布された参考書を読んだか?〛
一夏は少し考えて、
〚あぁ、あの分厚いのですか?〛
〚そうだ、“必読”と書いてあった筈だが?〛
読めば解ると言う所か。
〚いや、間違えて捨てましtうわぁ!〛
千冬がキレの良い振りで出席簿を一夏に当てる。平で当てていたが相当痛いだろう。
元の位置に戻りながら、
〚後で再発行してやるから一週間で覚えろ。いいな〛
一夏は参考書の厚さを思い起こして声を出す、
〚い、いや一週間であの量は無理が――〛
〚やれと言っている〛
振り向き様に言った千冬の眼は恐ろしいまでに光って見えた。
〚うぅ……は、はい。やります〛
一年三組。
ここもまたISの授業が行われており、
〚何か質問のある人はいますか?〛
有澤 隆文が手を挙げた。
……やはり専門機関なだけあって情報は細かいし、実機のデータも多少入っている。この学園に来たのは正解だったかも知れない。教わる事が出来るなら、最大限活用して知識を自分の物にしないと
隆文は知識、ひいては己の見聞を広げるのに積極的だ。
“自分に出来る事は全力で実行する”を体現している。
一企業の社長、そしてその最高戦力であるNEXTのパイロットをその身を持って経験しているだけある、彼には企業を背負っていくのに相応しい覚悟と決意がその身に宿っていた。
“全ては家のために、企業のために”と言った所か。
〚はい、質問して宜しいでしょうか〛
こんな時の彼はスイッチが入っている、NEXTパイロットにして有澤重工第43代代表取締役、“有澤 隆文”としてのスイッチが。
〚そう畏まらなくても良いですよ。それで、どんな質問ですか?〛
〚はい、第七十四頁の量子変換についてなのですが――〛
三十秒。
〚――であるとの構造から考えて――〛
二分。
〚――よって、このような機構における機体の負荷から考えた実現性をお聞きしたいのですが〛
〚……えっと、有澤君?〛
〚はい?〛
〚聞いた限りそれは
〚あっ〛
いや、こいつは企業を背負う伝々よりかは趣味と言うか、オタッキーな情熱の持ち主なんだろう……。
初対面の人物に話すのは多少の緊張が伴う。更に相手が別の人種であれば尚更だ。
一夏は意を決して零冶に声を掛ける。
〚なぁ、ちょっと良いかな?〛
〈?〉
……おっと、そうだったっ
[ご、ごきげんいかかですか?]
[はぁ、ご親切にどうも]
[はじめまして?]
[お、おう……]
[…………]
[…………]
[[…………]]
埒が開かない、零冶はパソコンの翻訳ソフトを開いた。
拾った音を随時翻訳する優れ物だ。
〈これを使ってくれ〉
〚ごめん、助かる〛
なんだかんだいって零冶はこういった物を準備している辺り、優しい奴なんだろうか。
〈気にするな。――それで? 何か用があるのでは?〉
〚あぁいや、大した用では無いんだ。男子同士、仲良くしていこうと思って〛
〈もちろんだ、宜しく、織斑君〉
〚一夏で良いって。俺も零冶って呼んで良いかな?〛
〈構わないよ〉
握手を交わす。
彼ら二人に近づく者が一人、
〚ちょっとよろしくて?〛
セシリアだ。彼女は一夏に向けて言を発しているようだ。
〚へぁ?〛
声を掛けられた一夏はどうも変な声で言葉を返す。
〚まぁっ! なんですの!? その間の抜けたお返事は! わたくしに話掛けられるのだけでも、光栄な事なんですからそれ相応な態度があるのでは無くって?〛
〚悪いな。でも君の事誰だか分からないし〛
……一夏君は凄いな、物怖じしていないのか
〚なっ!? このわたくしを、入試主席にして代表候補生であるセシリア・オルコットを知らないですって!?〛
更に彼女は専用機持ち。
未だに試作の域を脱せないティアーズモデルだが、そのパイロットとしてのプライドも働くのであろう。
なおも続けようとするセシリアを、一夏が止める。
〚ちょっと待ってくれ、質問いいかな?〛
〚? まぁ、下々の者の要求に対して答えるのも“高貴なる者の債務”、なんですの?〛
一夏がセシリアを真っ直ぐと見る。
〚
ドグシャア! と話に聞き耳を立てていた生徒が机ごと前に倒れた。
折木に至っては仕事を始めている。
〚あ、あ……あ〛
〚? “あ”?〛
一夏の中に“代表候補生”=“あ”と言う奇妙な方程式が組み上げられているが、勿論そんな訳は無い。
〚あ、貴方信じられませんわ!? 日本の男性はこれ程に知識に乏しいのかしら? こんな事、常識ですわよ、常識!〛
これだからイレブンなどと言われても平気な顔を……、とぶつくさ続いており、それを聞いた周囲が決り悪い顔する。
零冶の仕事の手が止まった。
〚それで、代表候補生って何?〛
意にも介さず一夏が続ける。
セシリアの眼が“待ってました”とばかりに光る。
〚国家代表IS操縦者の候補として選出される“エリート”の事ですわ。単語から想像すれば理解出来るでしょう?〛
〚そう言われればそうだな〛
[――そして、“国家代表”なんて仰々しい名で正当化された囲い込みに引っ掛かった首輪付きって事実も理解しているよな?]
これまで沈黙を守っていた零冶が口を挟む。
[なッ……!]
[“エリート”なんて言われて舞い上がったのか? 実際、真にエリートと呼ばれる人種は自尊をする間もなく前線に叩き込まれるのが大抵だ。まぁ、そんな“エリート”様に今出会えているのならば、相当に幸運なんだろう]
[……馬鹿にしていますの……?]
[いや、事実を口にしたまでだが?]
……あれ? 俺は何処に?
一夏は展開に乗り遅れている。というかネイティブな発音に加え、早口で話されると最早事後報告のようになった翻訳機のログでしか話しの内容がわからない。
[まぁでも? わたくしが入試主席でかつ唯一教官を倒した事に変わりはありませんし]
[ほぅ、教官を倒すか]
[えぇ、そうですわ! エリートがどうであれ、わたくしがこの学年で最も優秀である事は揺るぎませんわ]
零冶は純粋に驚いたようだ。
[素晴らしいな、よもや“ブリュンヒルデ”を打ち倒す
[そうですわ! 分かったならこれまでの非礼を……?]
[どうした? 織斑教諭を倒したのだろう、俺でも慣れない機体では互角がやっと――]
[お、お待ちなさい! わたくしは織斑先生とは戦っていませんわ……]
[なんだ、教官違いか……先程の感動を返してくれ]
裏を返すと、彼は織斑先生と戦った事になるが……。
[そんなっ、ブリュンヒルデですのよ! そう勝てる物では――]
チャイムが鳴る。
[くっ、話の続きはまた改めて。宜しいですわね?]
[君も、“
――既得権益に
〚貴方もですよ! 織斑 一夏!〛
〚は、はぁ……〛
零冶は面倒な者を相手にしたらしい。
前話で各兵器紹介の紹介をした手前、早速新兵器の登場です。(話の中だけですが
名をつけるならば、“ISAC”でしょうか。
NEXTACからコジマ成分と速度と溢れるフロムを引いた感じだと思って下さい。