やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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戦いの合間

 厳しい状況だ。今、私達の状況を一言で表すなら四面楚歌である。敵に囲まれ逃げ場も無い。

 

 時は少し遡る。

 

 私と季衣は大規模な暴動が起き、華琳様の(めい)により先遣隊として現場へと向かった。最初から兵数の少ない先遣隊だけで討伐出来ない事は分かっていた。

 

 その為、先遣隊の主目的は暴動に参加している者達の正確な数であったり、進行方向などを見極めるなどの情報収集と足止めだった。それらは成功したと言えばしたのだが、今の状況は当初の予定とは大きく異なっていた。

 

 今の私達は暴徒の進行先にあった村で篭城している。しかも、篭城とは名ばかりで村には城壁などという立派なものはなく、即席で作った防御柵が村を囲んでいるだけだ。当初の予定では足止めは、機動力のある小部隊での攻撃と離脱の繰り返しで行う予定だった。

 

 村で篭城戦を行うつもりは無かったのに、こうなってしまったのには理由がある。暴徒の統制が思ったより出来ており、進行速度が予想を上回っていたのだ。そのせいで村の住民を逃がす時間が無く、本隊への伝令を出した後、即席の柵などを用意して村で迎え撃つ流れとなった。

 

 そんな中で数少ない幸運は、村に義勇軍が存在して腕の立つ者も何人かいた事だ。特に楽進、李典、于禁の三人の存在には助けられた。彼女達とその仲間の協力のもと暴徒達の攻撃を二度防ぐと、敵は村を囲みつつ一旦休憩している様である。

 

 その彼女達と季衣が通りの向こうから手を振りながら駆け寄ってきた。

 

 

「秋蘭さま、壊れた柵の補修が終わりましたっ!」

 

 

 この厳しい状況にも元気を失わない季衣、彼女の存在も篭城戦となった理由の一つである。

 

 実は村を見捨てて一時撤退するという選択肢も私の頭にはあった。しかし、その場合季衣は絶対に反発する。もし私に従ったとしても純粋な彼女は、今の様に屈託の無い姿を見せなくなっていただろう。それに私達だけで勝つ見込みは無いが、時間稼ぎをして華琳様の本隊を待つ事くらいは出来ると踏んだからこその篭城である。

 

 後は本隊の到着が何時になるか、である。

 

 

「楽進、義勇兵達の状態はどうだ?」

 

「はい、負傷者の手当ては済みました。動ける者も半分は休憩させています」

 

「そうか……正直に言ってくれ、義勇軍は後何戦やれる?」

 

 

 私の質問に楽進は少し考え込む。義勇()とは言っても、その実は素人に近い。余り期待は出来ない。楽進達のような手練れの方が珍しいのだ。

 

 

「二戦、いえ三戦まではなんとか……」

 

「うむ、上出来だ。それなら姉者達も間に合うだろう」

 

 

 予想したより良い答えに、少し気が軽くなる。この規模の村の義勇軍としては中々のものである。

 

 

「いやあ、運がええのか、悪いのか。急いで鍛えとった甲斐があったな」

 

「ホントだよー。私達がいなくても大丈夫なようにって猛特訓したからねー」

 

 

 李典と于禁が頷き合っている。何の話か分からない私へ楽進が説明する。

 

 

「私達三人に仕官の誘いがありまして、近々村を離れる事となったのです。その為に我々が抜けても大丈夫なよう鍛え直していたのです」

 

「確かに貴公らの腕なら仕官の話が来てもおかしくない。うちに欲しい位だ」

 

 

 この戦いが終わったら勧誘しようかと思っていたのだが、先に彼女達を見出した者がいたようだ。私が残念がっていると、楽進は少しばつが悪そうな表情をしてた。

 

 

「その……私達を勧誘してくださっているのは曹操様です」

 

「えええっ!? それじゃあ、これからも一緒なんだ。先に言ってくれたら良かったのに」

 

 

 楽進が言い難そうに告げると季衣は驚きの声を上げた。私も季衣ほどではないが内心驚いていた。それと同時に嬉しくもある。楽進達の力は共に戦って分かっている。彼女達が華琳様の元に仕官するなら頼もしい。

 

 

「いえ、誘われはしましたが、返事を待ってもらっている状態で正式に決まった話では無いので」

 

「ところで華琳様と何処で知り合ったのだ? こちらの村へ視察に来たりはしていないと思うのだが」

 

「少し前に村の者達が作ったカゴを売りに街へ赴きまして、その時に」

 

「ああ、八幡が抱えていたカゴはその時の物か。私も使っているが、しっかりした作りで気に入っている」

 

 

 名前こそ聞いていなかったが、八幡の目を付けた有望な人材に声を掛けたと華琳様も言っていた。それが楽進達だったのだ。

 

 

「えっ、あのカゴを夏侯淵様が!?」

 

 

 意外な所で話が繋がり、楽進は目を見開いた。私は頷いてみせる。

 

 

「ちょうど使っていたカゴが壊れていたから八幡……いや、比企谷に譲ってもらったのだ」

 

「曹操様が連れていて、しかも夏侯淵様とも親しげ……もしかして、あの人結構偉い人だったりするの?」

 

「ああ、うちで最古参の軍師だな。最古参と言ってもまだ軍師は二人しかいないが」

 

「「……」」

 

 

 恐る恐るといった感じで聞いてきた于禁へ、私が答えると于禁は楽進と顔を見合わせた。そして、こそこそと小さな声で内緒話を始めた。

 

 

(あ、危なかったねー。あの時の爆発で下手したら真桜ちゃんの首が飛んでたかもしれないよ)

 

(そうだな。今度あの人と会ったら改めて真桜に謝らせておこう)

 

(それが良いのー)

 

 

 いくら小声とはいえ距離が近いので大体の内容は聞こえていた。そういえば、あの時の八幡は少し疲れた顔をしていた。カゴを抱えて視察で歩き回ったせいかと思ったが、それだけでは無かったようだ。本人は否定するだろうが、八幡はよくよく面倒事に縁がある。あの時に詳しい話を聞いておけば良かったな。

 

 于禁達の内緒話は聞こえない振りをしつつ、面白そうな話なので後で八幡に聞いてみようと考えていると。

 

 

「ほ、報告っー!!!! 敵がまた近付いて来ています」

 

 

 大声を上げながら兵が走り込んで来た。息の荒いその兵はさらに報告を続ける。

 

 

「敵は全軍を挙げてこちらの防御柵へ寄せて来ています。一気に勝負を付ける気かと」

 

 

 季衣や楽進達を見回す。先程まで軽口を叩いていたとは思えないくらい全員表情は既に引き締まっている。

 

 

「聞こえていたな。敵に柵を越えさせる訳にはいかん。この村の中は敵に侵入されて守れるようには出来ていない」

 

「「はっ!!!」」

 

 

 この村は敵の侵攻を考慮して形作られた要塞などとは訳が違う。中に入られてしまえば為す術なく陥落する。なにより、村の中には戦えない者達もいるのだ。それが分かっているから、季衣達の答える声も気迫が篭る。

 

 

 

 さて姉者、それに八幡も出来るだけ早く来てくれよ。

 

 

 

 

 

 

 




読んでくれてありがとうございます。


この辺りは一話にまとめるつもりでしたが、短く切って投稿する事にしました。その分投稿間隔も短くなるはず。

長文はしんどいです(今更)

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