やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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第39話

 俺の思わせぶりな言葉で視線が集まる。正直注目されるこの感覚は好きではないが、自分の意見を通すには都合が良い。

 

「張角と……えー名前は」

「私が張宝でこっちが妹の張梁よ」

 

 張角の妹達の名前が分からず、張宝の気分を害してしまったようだ。まあ、どうでも良いが。それより思わせぶりな振りをしといて話の流れが止まってしまったことに華琳達が少し呆れている方が気になる。

 いや直接名前聞いたことないし仕方ないだろ。三国志で【張】って名前に付く人物多すぎなんだよ。覚えられねえよ。

 咳払いを一つして気を取り直す。

 

「張角、張宝、張梁の三人には歌を歌ってもらう」

 

 俺の発言に華琳と両軍の軍師達以外は首を傾げている。そこで北郷も俺の意図に気付いたのか手を一つ叩く。

 

「あっ、そうか。四面楚歌か」

「正確にはちょっと違う。流石に今から兵達に張角達の歌を覚えさせるのは難しいと思う。だから当初の予定通り奇襲を掛け、最後の本隊が攻撃に転じる時に兵達を鼓舞するように歌ってもらう」

 

 北郷の言う通り、四面楚歌を完全模倣(まるパクリ)出来れば効果抜群なんだろう。しかし、いかんせん準備に時間が掛かる。今からうちの兵士全員に張角達の歌を覚えさせるのは現実的ではない。それにわざわざ黄巾党の陣を囲んで歌わなくても効果はある。

 別働部隊が火攻めによる夜襲を仕掛け、続いて本隊の攻撃、そこから敗走すると見せかけてからの一転攻勢と畳みかければ敵は、既に円滑な組織行動を行えない状態に陥っているだろう。そこにトドメの精神攻撃として奴らのアイドルがこちらを歌って応援する姿を見せつければ、敵の心をへし折るには十分だと思う。下の連中は大混乱だろうし、 姉妹達を利用しようとしている黄巾党の上の方の奴らですら、この怒涛のコンボにはショックが大きいはずだ。

 俺が黄巾党の奴らの立場だったら、立て続けにそんな目に遭ったら思考停止して呆然としている間に殺されちまいそうだ。

 

「相手は自分達の象徴である三姉妹が敵に回っている事実を突然突き付けられるわけですか」

 

 いやらしい策ですね、と冬蘭がとても良い笑顔を見せる。褒められ……褒められているんだよな。これ。

 気を取り直して張角達を見据える。

 

「これでお前達は自分達が賊の首謀者でも協力者でもなく、官軍の要請で動いている俺達を応援する者だと示せるわけだ」

「あの人達は、わ、わたし……わたし達の歌を好きだって言ってくれた人達なのに」

 

 消え入りそうな声で張角が嘆く。

 関係無い、賊は討つと俺の立場的に言うべきなのだろう。ただ現代の感覚が抜け切らない俺は、すぐにそう言えなかった。代わりにそれを言ったのは華琳だった。

 

「その貴方の歌を好きと言った者達が村を焼き、街を襲い、略奪を繰り返して無辜(むこ)の民を踏みにじった。もし貴方達が彼らを上手く(ぎょ)し、罪を犯させなければこうはならなかったはずよ」

「わたし達が……」

「そう、例え貴方達が言う通り暴動に巻き込まれただけだったとしても、彼らを集めたのは貴方達でしょう? そうする力はあるはずよ。そして、力ある者にはそれ相応の責があるわ」

 

 華琳の言葉は「だから証言の真偽に関わらず張角、お前達は罪人である」と責めているというより、まるで人の上に立つ者の心得を教示しているようだった。

 張角は華琳の言葉を消化しきれないのか黙って考えこんでしまっている。仕方が無いから三姉妹で唯一冷静そうな張梁に話を振る。

 

「とにかく俺の合図で歌えば良い。出来るな」

「それで私達の処遇について斟酌してもらえるのでしょうか?」

「協力に対しては何らかの形で報いる」

 

 今の段階で罪を免除するなどと言うとややこしいので、具体的な話は避ける。それでも張梁は断れる立場ではなく、それ以上の質問はせずに頷いた。

 後は反対意見が出ず、華琳の裁可が下りれば準備にかかれる。集まった主だったメンバーの顔を見回して反対者がいないことを確認し、最後に華琳へおうかがいを立てる。

 

「これで良いか?」

「ええ」

 

 短いやり取りであっさり裁可が下りる。

 まあ、最初から却下されることは考えていなかった。問題点があるならさっさと指摘しているだろうしな。とりあえずこれで準備に取り掛かれる。

 張角達を連れて来た楽進を手招きする。

 

「李典の手を少し借りたいから連れて来てくれ」

「はっ、直ちに」

 

 生真面目な体育会系っぽい楽進はうちにいないタイプでなんだか新鮮だ。李典を呼びに行く楽進の後ろ姿を見つつ、李典にやってもらう仕事について考える。

 李典には攻城兵器を改造して貰わなければいけない。こちらでは井闌車(せいらんしゃ)と呼ばれている移動式の(やぐら)のような物を張角達が歌うステージに改造する。と言っても大した事はしないし、時間が無いので出来ない。ちょっとした飾り付けで目立つようにするだけだ。

 

「部下のお尻に興味津々ですか?」

「ハア?」

 

 去っていく楽進を見送りつつ考え込んでいるところに、突然冬蘭から質問されて間の抜けた声を出してしまう。そして、遅れて質問の内容が頭に入って来て焦る。

 

「いやいや、ちが、違うからな。俺は今後の仕事について考え」

「へえー、部下のお尻が眺めながら考える仕事ってどんな仕事なんでしょうね」

 

 俺の言い訳へ冬蘭が被せ気味に皮肉って言う。ニヤニヤしている様子から本気ではないようだが、なんで今なんだよ。劉備さんちの子達もいるんですよ。

 北郷と劉備は微笑ましいものでも見るような目をしている。

 関羽はゴキブリを見つけた時の小町と同じ顔をしている。

 張飛は何も分かっていない表情だ。

 諸葛亮と鳳統は北郷と劉備の後ろに隠れている。

 なんだこれ。うちの連中にいたっては、総スルーで戦いの準備を開始しているし。

 

「戦う前から俺の精神削ってどうすんだよ」

(諸葛亮達が八幡さんに怯えているみたいなんで、印象を変えようかと)

 

 冬蘭が小声で答えた。

 

(ほら情けないすが、いえ親しみやすい姿を演出しようとしたんですよ)

(逆効果じゃねーか。怖い人からエロくて怖い人になっちまってんだろ、あれ)

 

 諸葛亮達の方を指差しながら小声で怒鳴るという器用な真似をするはめになる。真面目な話し合いが終わってすぐのこのタイミングですることかよ。頭が痛くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 




おまけ

雛里「ね、ねえ朱里ちゃん、比企谷さんがこっち指差してない?」
朱里「もしかして私達のこと……はわわ」

〇月×日午後3時ころ、曹操陣地内において、少女2名を指差し、何か話している男が目撃されました。男は十代後半から二十代前半位。



読んでいただきありがとうございました。重ねてアンケートにご協力いただいた方々、本当にありがとうございます。登場キャラの名前はこのままという結果になりました。

釣り野伏せにマクロス方式を追加、ただマクロスみたいに楽しく歌ってとはいきませんが。
あと井闌車に乗った張角が覚醒し「俺の歌をきけええ」と突っ込んで行くマクロス7スタイルも妄想しましたが、色々無理があるのでお蔵入りです。

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