やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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第3章 董卓討伐
戦乱の兆し


 虎豹騎の訓練を見終わった俺は、一人昼食を摂るべく行きつけの料理店にやってきた。店は俺が再開発を進めた区画内にあり、この店を含め周囲は真新しい建物が並んでいる。通りは人で賑わい、町は活気に満ちている。その光景に俺は再開発計画の成功を実感する。

 店の前に立つと食欲をそそる香りがしてきて食欲を掻き立てる。店内に入ればほとんど埋まっていた。

 すでに客の帰ったテーブルを忙しなく片付けている店員の一人が俺に気付いて近づいてきた。その頭に大きなリボンを付けた小柄な少女は、俺も知っている店員だった。というか彼女こそ店に本来存在しない持ち帰り用メニューを作ってくれる気の良い店員さんである。

 

「お兄さん、いらっしゃいませ。いつもので良いんですか?」

「ああ」

 

 今のみたいなやり取りで俺ももう常連だなあ、と感じる。これがコンビニだったら店員の間で変なあだ名とかつけられていただろう。うん、コンビニじゃなくて良かった。

 店員の少女は俺のお世辞にも愛想が良いとは言えない対応にも嫌な顔一つせず、むしろ笑顔で応えてくれる。

 

「それじゃあ、ちょっと待ってくださいね」

「おお、外で待ってるから」

 

 混んだ店内で突っ立っているのは居心地が悪いので、外で待つと告げて店から出る。しばらく待っていると先程の少女がやって来て、竹皮を編んだ弁当箱っぽい物を差し出した。

 

「お待たせしました。はい、これ」

「おう」

 

 弁当箱っぽい物を受け取り、フタを開けて中身を確かめる。もあっと湯気と料理の香りが広がる。中身は小さめの肉まんが六つ入っていた。

 

「美味そうだな」

「はい、今日も良い出来になってますよ」

「いつも悪いな。手間になるだろ」

「いえいえ、それより、あの……」

 

 少女が何か言い辛そうにしている。

 どうかしたのだろうか。ん? 

 

「悪い、代金がまだだったな」

「それは後でも良いんですが、ありがとうございます。それとですね……」

 

 俺から代金を受け取った少女はまだ何か言いた事があるようだ。というか少女の用件は別だったようだ。

 

「この料理を他のお客さまにも出して良いですか?」

「……? わざわざ俺に聞かなくても出せば良いだろ」

「そんな訳にはいきません。お兄さんが考えた料理じゃないですか」

 

 何を隠そう肉まんの生みの親は俺、比企谷八幡であったのだ。嘘です、ごめんなさい。単にみんなお馴染みのコンビニ肉まんが食べたくなって、この店員さんにポロっと漏らしたところ作ってくれただけだ。大雑把な説明だけで完全再現、いや本物より美味しく再現してしまった店員さんマジ神。

 そういえば嘘か真か分からないが、饅頭を考案したのはあの諸葛孔明って話がある。手柄を取ってしまったみたいで申し訳ない。俺は肉まんや饅頭の起源を主張しないから許してほしい。

 

「いや俺が創作した料理じゃないから気にすんな。俺の故郷では誰でも知っているやつだから」

「えっ、そうなんですか。じゃあお言葉に甘えてお店で出しますから、たまにはお店で食べていってくださいね」

「まあ、気が向いたらな」

 

 客が少なければ店で食べるのも悪くないんだがな。せめて店にカウンターがあれば一人でもあまり気兼ねしないのに、この店はテーブル席しかない。一人でテーブル席を占拠するのも、相席するのも気が進まないんだよ。

 

「あれ、兄ちゃん何やってんの?」

 

 急に声を掛けられ、そちらへ振り向くと季衣がこちらに歩いて来ていた。

 季衣は裏表の無い性格で、距離感とかも気にせずガンガン来るタイプだ。こっちがその対応に戸惑ってどもったりしたとしても、一切気にせず普通に自分が話したいことを話し続ける。最初ちょっと苦手だったが、気を使う必要がないので今では比較的会話の多い相手である。

 

「ん、おお季衣か。何って料理屋の前にいるんだからメシに決まっているだろ」

「そっか。ここ美味しいって評判だよね! ボクもちょっと食べていこうかな」

 

 明るく笑う許緒はお腹をさする。

 小柄な許緒だが実はフードファイター顔負けの大食いだ。それは人並外れた怪力が影響しているのかもしれない。許緒は戦闘になればデカい鉄球を振り回して敵を文字通り吹っ飛ばす。その怪力の源が桁外れの食事なのではないか。

 ちなみに彼女の攻撃によって賊が空へ旅立つ所を見た時、転生モノでありがちな【俺TUEEE】という幻想は完全に崩れた。いや、こっちに来た時点で俺自身強くなっていたわけじゃないから、最初から無双なんて出来ないだろうと思っていたよ。でもあれで完全に認識した。こっちの世界の強い連中とは、まともに戦ったらダメだと。

 どの位の差があるかと言うと「戦闘力たったの5か……ゴミめ」とか言われてしまうレベル。

 

「そうだ、おすすめの料理があるぞ。なあ……」

 

 ちょうど良いし、季衣にも肉まんを試すさせてみよう、そう思って店員の少女に話を振ろうとそちらへ視線を移す。すると少女はプルプル震えているではないか。それは何かを我慢しているようで、その口からは押し殺した声が漏れてきた。

 

「季衣……」

「あれ、流琉? いつまでも来ないから心配してたのに、こんなところで何してるの?」

「はあっ!? 季衣が手紙にちゃんと何処で働いているのか、書いてないからでしょ!!」

「書いたよ。 曹操様の所で働いているって!」

「いい加減なこと言わないでよ。季衣なんかが州牧さまに仕えているなんてあり得ないでしょ!」

 

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ! 俺が行きつけの料理店の店員と会話しているところに俺の同僚が話しかけてきたと思ったら、いつのまにか店員と同僚が盛大に口喧嘩を始めていた。何を言っているのか分からねえと思うが、俺も何が起こっているのか全く分からん。

 季衣が背に担いでいたデカい鉄球を手に持つ。

 えっ、ちょ、まさか……?

 

「嘘なんてついてないっ! この分からず屋!!!」

 

 季衣が鉄球を店員の少女に向かって振る。

 やべえ、大惨事だ。でも止める間もねえ。

 

「そっちこそホントのこと言いなよっ!」

 

 驚く事に季衣の放った鉄球を、少女は何処からともなく取り出した巨大な円盤で難なく弾く。

 嘘だろ、おい。誇張抜きでカスっただけでも人間をミンチにしそうな鉄球なんだが、焦る様子もなく防ぎやがった。

 

「本当だって!」

 

 季衣が怒鳴りながら再び鉄球を振りかぶる。が、そうはさせないと少女が先に鎖の付いた円盤を投げつけた。

 季衣は攻撃モーションを途中で止め、横にステップして避ける。

 円盤が地面に叩きつけられた時、俺の足元まで小さく揺れた気がしたんだが、マジかこれ。とりあえずちょっと距離取った方が良いな。

 少女が鎖を引いて円盤を手元に戻している。くいっと手首を返しただけでデカい円盤が手元に戻る光景は、まるで巨大なヨーヨーみたいだ。

 

「季衣にお役人さんの仕事なんて務まる訳ないでしょ!!!」

 

 少女が言葉と円盤による激しいツッコミを放ち、季衣が鉄球で受ける。

 少女よ。華琳の下で働いてるって言っても季衣は荒事専門だから、今も見せている怪力で大活躍だぞ。って、そんな場合じゃない。

 

「お、おい止めろって」

 

 グワアシャアアーンン!!! ドッゴゴオゴオオオ!!!!

 鉄球と円盤のぶつかり合う音で俺の制止なんて聞こえるはずもなく、戦闘は続いている。

 無理だってこんなの。口でどうにか出来ないなら手がない。二人の間に割って入るなんてただの自殺行為だし。なんであんなにデカい鉄球を風切り音を立てるくらい振り回せるんだ。物理法則を無視しているだろ。

 俺が二人から離れて春蘭と秋蘭でも呼ぶしかない。そう思案しているとそこに一人の女性がスタスタ近づいていく。

 

「やばっ、おい」

「店の前で暴れてんじゃねえ! 店に入れないだろっ!!!」

 

 女性は飛び交う鉄球と円盤を大剣で叩き落とした。虚を突かれた季衣達の動きが一瞬止まった。

 すっげ……おっと呆けている場合じゃない。急いで季衣達へ駆け寄る。

 

「二人ともそこまでだ。季衣、事情は聴くからとりあえず止めろ」

「あっ、兄ちゃん。でも」

「こんな所で暴れて華琳の評判を下げるつもりか?」

「そんなつもりじゃ……」

「季衣は町の平和を守るのも仕事だろ。自分が暴れてどうすんだ」

「うっ」

 

 季衣に反論する隙を与えずまくし立てる。厳しい言葉に季衣はシュンとする。

 なんかイジメているみたいで嫌なんだが、ここでキッチリ止めておかなければ季衣自身、後で華琳に責められかねない。ここは心を鬼にして止めなくては。

 そこへ季衣達を止めた女性に声を掛けられた。

 

「ちょっと良いかい」

 

 頼むから好戦的な人じゃありませんよーに。やっとこの場が収まりそうなんだよ。

 

「……何かな」

「あんた、もしかして曹孟徳殿の部下?」

「そうだけど」

「よっしゃ、ついてるー。斗詩ー」

 

 女性がいきなりガッツポーズをして誰かを呼ぶ。近くにいた大人しそうな黒髪の女性が駆け寄ってきた。

 

「斗詩も聞いていたよな。あたいの言った通り先にメシ屋に来て良かっただろ。一石二鳥ってやつだ」

「うん聞いてたよ。あの」

 

 黒髪の女性は俺に向き直り姿勢を正し、軽くお辞儀をした。

 

「私は顔良と申します。主である袁本初よりの使者として参りました。お目通りを願いたく」

「ああ、本人に聞いてみる。……二人はこの店へ食事に?」

「ええ恥ずかしながら町に着いたばかりで」

「それなら俺が曹操に話を通しに行くから、その間この店でゆっくりしていると良い」

「ありがとうございます」

 

 顔良は小さく頭を下げ礼を言った。

 ちょっとした所作だけで育ちが良いのが分かる。こっちは問題ないな。さて、次は季衣達か。

 気落ちした様子の季衣の肩へ手を置く。

 

「事情はちゃんと聞くから、ここは俺についてこい。ほらコレやるから元気出せ」

「うん……分かった」

 

 俺は肉まんを一つ季衣に渡した。

 季衣達の喧嘩は俺なら十回位死にそうな激しさだったが、殺意や憎悪は感じられなかった。どちらかと言えば友達同士のそれだった。一度間をとってやれば案外すぐ仲直りするかもしれない。

 店員の子の方にも声を掛ける。

 

「仕事抜けっぱなしで大丈夫か?」

「あっ! でも……」

 

 俺の指摘に店員の子は顔色を変えて店の方を見る。しかし季衣も気になるのかソワソワしながら視線を行き来させている。

 

「ちゃんと後でまた来るから、な。落ち着けって」

「あっ、はい……あの、ご迷惑を……すみませんでした」

「俺は何も迷惑なんて掛けられてねえーよ。気にすんな」

 

 ぶつけ合っていた武器はエグかったが、それ以外は子供同士の喧嘩みたいな言い合いで可愛いもんだった。どこぞの小学生のイジメなんかと違って陰湿な感じは一切なく、気分を害したりはしなかった。

 とりあえず肉まんを食いながら華琳の所に向かおうか。

 

 顔良達がとんでもない厄介事を持って来ている事を、この時の俺はこれっぽっちも想像していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ

冬蘭「俺TUEEEがしたいと?」
八幡「あっ、そういうのいいんで(断り」
冬蘭「力が欲しいならあげます」虎豹騎ドーン

于禁「ウジ虫のくせに俺TUEEEがしたいだと?」
于禁「良いだろう。一人前の転生主人公に鍛え上げてやるなの」
于禁「返事の前と後には、さーをつけろなの」
于禁「背筋を伸ばせ! じじいの〇ンポでももうちょっと元気なの!」
八幡「我々の業界でもブラックです」


読んでいただきありがとうございます。
感想と誤字報告もありがとうございます。助かっています。

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