やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

47 / 71
戦乱の兆し2

 肉まんをパクつきながら華琳の執務室へ歩く。あまり行儀が良いとは言えないが、顔良達を待たせているのでゆっくり食べてから向かうという訳にはいかない。

 えっ、先に華琳への取り次ぎを済ませれば良いって? それじゃあ折角の出来立て肉まんが冷えちゃうだろ。お前それ材料になった豚さんの前で言えんの? 冷えてて美味しくないなあって言えんのか。俺は言えない。だから食う。

 自分に言い訳をしている間に華琳の執務室に着いてしまった。まだ一つ残っているが、華琳の執務室の前で立ったまま肉まんを食べるのは流石に変か。自分でその姿を想像して、あまりのシュールさに止めておくことにした。

 俺はうるさくならない程度に執務室の扉をノックする。

 

「俺だ、ちょっと良いか?」

「入りなさい」

 

 中からすぐに返事があり、俺は扉を開けて部屋へ入った。

 華琳は忙しく竹簡(ちくかん)(紙の代わりにする為、竹を短冊形に削った物)に書かれた内容を読み、別の竹簡に何かを書いている。読んでいる竹簡と書いている竹簡、どちらも山積みである。

 

「今やっている作業がもう終わるから、少しそこで待ちなさい」

「忙しい時に悪い」

「良いわ。ほとんど報告の確認だけだから」

 

 華琳はそう言うと凄まじいスピードで竹簡の山を処理していく。それでもまだ余裕があるようで、俺との会話も続ける。

 

「手に持っているのは何かしら?」

「ああ、これは俺のちょっと遅い昼飯の残りだ」

「あら。昼食を摂る間もない私への差し入れかと思ったのだけれど、気が利かないわね」

 

 華琳が冗談めかして微笑む。

 俺も人のことは言えないが、ゆっくり食事をする時間もないとか働きすぎじゃね? ここで一番偉い華琳が一番働いているんだから頭が下がる。でもトップが働いていると他の人が休み辛いからほどほどにしてくれ。つーか俺が休み辛くなるから休んでくれ。

 

「食べるか?」

 

 俺は弁当箱もどきのフタを開けて中の肉まんを華琳へ見せる。

 ちらっと視線を寄越した華琳は肉まんを見て少し眉を上げた。

 

「見たことの無い物だわ」

「俺のいた所ではありふれた物だけどな。行きつけの店で再現してもらったんだよ」

「へえ……貴方の住んでいた所ね」

 

 華琳が興味深そうに肉まんを見つめている。華琳はかなりの美食家であり、時間があれば自分でも作る。当然その舌と腕は一流だ。こだわりがある分、初めて見る料理に興味を惹かれているのだろう。

 

「食べさせてちょうだい」

「ん、ほら」

 

 俺が箱ごと華琳の前に差し出すと、彼女は楽しそうに首を横に振った。

 

「貴方の手で、よ。ほら私、手が放せないの」

 

 華琳は筆と竹簡を見せてアピールしてくる。

 絶対からかいたいだけだ。しかし、ここでの経験上抵抗は何の意味も無いことを俺は知っている。何故なら華琳は俺の反応を見て楽しんでいるだけだから、あたふたして断ってもそれはそれで彼女にとって期待通りの反応なのだ。ドSだからな、華琳は。だから傷を浅くしたいならあえて前に進むのが正解である。

 そう、人間諦めが肝心だ。恭しく肉まんを華琳の口元へ運ぶ。

 

「これで良いか?」

「……どうして私に食べさせるというだけで、そんな鮮度の落ちた魚のような目になっているのよ」

「元からだ」

「酷くなっているわよ。食欲が無くなったらどうしてくれるの?」

 

 マジ理不尽。が、仕方が無い。今の俺はさぞ辛気臭い顔をしているだろうから。多分俺でも食欲無くなる。

 待てよ。じゃあ、もし太っても俺を見るだけでダイエット出来ちゃう。わー超便利、一家に一台欲しい。今ならなんと数十年分の衣食住を用意するだけで貰えるよ。

 大きく溜息を一度吐き出して気を取り直し、肉まんを華琳の口へゆっくり近づける。

 

「ほら」

「ん……これは美味しいわね」

 

 肉まんを一口食べた華琳の顔がほころぶ。華琳はもう一口、二口と小さな口で上品に食べる。

 一人で食事が上手く出来ない幼児相手ならともかく、華琳に食べさせるというのはなんだか変な気分だ。

 

「中に入った肉や野菜などの旨味と熱を白い皮が閉じ込めているのね」

 

 内心では動揺している俺をそっちのけで、早くも俺をからかうのに飽きたのか、華琳の意識は料理の分析に向いている。美食家としての血が騒ぐのだろう。自分でも作ってみようと思っているのかもしれない。

 マイペースだなと呆れる反面、今弄られるとおかしな反応をしてしまいそうだったので助かったとも言える。

 

「これは何という料理なの?」

「肉まんだ」

「これは良いわ。間違いなくすぐ国中に広がるでしょうね」

 

 そらそうだろ。元々中国から日本に伝わったものだしな。

 何気なく最後の一口を食べさせようとした時、俺の手が華琳の唇に一瞬触れた。柔らかく滑らかな感触に少しドキっとする。なにか言われるのだろうか。いや、勘違いしてはいけない。ラブコメ漫画の主人公とヒロインじゃあるまいし、甘酸っぱい青春の一コマみたいな展開なんて起こるわけないから。

 

「貴方のその知識。もしかしたらこの案件に最適かもしれないわね」

 

 華琳はちょうど処理途中だった竹簡を俺に差し出した。

 ほらな、現実はこんなもんだ。そんな簡単に桃色展開になるのは創作物の中か、頭の中がお花畑な奴らだけだ。子供の頃、こういうちょっとしたきっかけで恋の始まりを予感(錯覚)して、相手を見つめていたら「なんでコッチ見てんの。キモッ」と言われて学習済みだ。

 さて、クールダウンしたところで華琳から受け取った竹簡を確認する。

 

「……開発が遅れている村関連の対策についてか」

「主要な街は既に出来ることをやっているわ。それに比べ規模の小さな村は数が多くて、手が回りきっていないのが現状よ」

 

 都市部と田舎に格差が生まれるのは、ある程度仕様が無い。しかし、既にやれることを大体やっている都市部に比べ、手つかずの田舎の方が伸びしろがあるのも確かだ。

 華琳としては、自分が治めている地域周辺の治安が小康状態である今のうちに国力の底上げしておきたいことだろう。

 

「今の話の流れだと俺の知識にある肉まんみたいな物を、それぞれの村の特産品にして発展させろってことか?」

「他に良い案があるなら、そこに拘らなくても良いわよ」

 

 そうか。ならばMAXコーヒーだな。至高の飲み物であるMAXコーヒーで中華全土を席巻して……ハッ、そういやコーヒーが無いんじゃないか。練乳もどうやって作るんだ?

 ああああちくしょおおおおおお!!! 駄目だあああ!!!

 

「ど、どうしたの。そんなに難問だったかしら?」

 

 気付けば華琳が心配そうに話しかけてきていた。俺はいつの間にか頭をかき乱していた。

 

「悪い、向こうで俺が愛してやまなかった飲み物があってな。それなら良い特産物になると思ったが、材料が手に入りそうに無いことに気付いてしまったんだ。クソー、あれが再現できればなあ」

「そ、そう」

 

 痛恨の極みである。MAXコーヒーが駄目だなんて、もうだめだ……おしまいだぁ。

 他に何か、何か無いのか。そうだ千葉名産の落花生なら……いや落花生もこっちの市場で見たことが無い。大豆ならあったんだがなあ。待てよ、大豆があるならもう一つの千葉名産・醤油が作れるんじゃないか。小麦は普通にあるし、いけるかもしれない。それに探せば他にも良い物があるかもしれない。

 良いアイデアがやっと浮かんで意識が周囲に向くと、華琳が俺の顔を覗き込んでいた。

 

「(頭は)大丈夫?」

「ぇっ、ダイジョーブダイジョーブ。ある程度方向性は掴んだから、後で文章にまとめておく」

「……分かったわ。これで私の仕事は一段落ついたわ。それじゃあ貴方の方の用件を聞かせてちょうだい」

 

 MAXコーヒーと千葉への愛ゆえにおかしなテンションになっていた。危うく頭の可哀想な奴だと華琳に勘違いされるところだった。

 俺の用件は顔良が華琳との面会を求めている件についてだが、顔良は誰の使者って言っていたかな。えー……。

 

「えん、ほんしょ? の使者として顔良という人が華琳に会いたがって」

「袁本初~?」

 

 俺が用件を言い終わる前に、華琳は不機嫌そうな声を出した。それどころか舌打ちしそうな勢いである。

 

「あーそんなに嫌な奴なのか?」

「れ……袁紹は嫌な奴というより、関わるのがひたすらに面倒な人間なのよ」

「うへっ、じゃあ適当な理由を付けて使者の人には帰ってもらおう」

「良い案ね。出来ればそうしたいところだけれど、居留守なんて私の品格を疑われるから駄目よ」

 

 袁本初って袁紹のことだったのか。袁紹って言えば三国志序盤では、かなり有力な勢力だったはずだよな。それにしても華琳がここまでの反応をする相手となると、怖いもの見たさで興味を覚える。しかし好奇心は猫を殺すという格言もあるし、ボッチ危うきに近寄らずとも言うので極力接する機会は減らしたいものだ。

 だが、そんな俺の考えを知ってか知らずか、華琳は無情な現実を突きつける。

 

「あれと関わるのは面倒だけれど、放っておくと決まってもっと面倒な事を引き起すのよ」

 

 なにそれこわい。

 しみじみと語る華琳の言葉には、これまで色々経験してきたのであろう感慨がこもっていた。

 今日は厄日かもしれない。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 その後、結局華琳はすぐに顔良達と謁見した。彼女達が持ってきた話は、都で権力を握った董卓が圧政を敷いており、その討伐を共に行おうという提案だった。

 ちなみに華琳や荀彧が言うには、董卓が圧政を敷いている事実は確認出来ない、というかそんな事実は無いっぽい。二人は都で権勢を誇る董卓に袁紹が嫉妬したのではないかと予想していた。それが当たっていたら、袁紹は本当にどうしようも無い奴だな。

 しかし華琳はそんな袁紹の提案に乗った。俺と二人の時に話したように、袁紹は放っておくととんでもない事を仕出かしかねないのと、董卓の施政に問題が無いわけでもないのが理由とのこと。

 華琳の考えでは、董卓の場合討伐の連合軍を簡単に組まれてしまう程度の器なのが問題らしい。討伐軍が少数ならともかく、今回の討伐軍は有力なメンツが相当集まっている。その原因は董卓がこの国の施政者として認められていないせいだと、華琳は断じた。器の無い人間が分不相応な立場に立てば、国は乱れ民も苦しむことになるのだと。

 華琳の考えが意外に民主的で正直意外だった。多くの者に認められるかどうかなんて関係なく、自分を中心に有能な人間が指し示す方向に、大多数の人間は従っていれば良いという考え方かと思っていた。

 いや、俺が勝手に変な印象を持っていただけだな。華琳が普段から見せている、何でも自分で出来てしまう有能さと気位の高さから独裁的なイメージを漠然と抱いていたのかもしれない。

 元々華琳は誇りは大切にしていても、民に対して威張ったりするような人間ではない。季衣と初めて会った時も、ちょっとした行き違いから、

 

「国の軍隊は税金は持って行くくせに盗賊からは守ってくれない」

 

 そう言って怒る季衣に華琳は頭を下げた。華琳は自分の治める地域をきちんと守っていたにも関わらず、だ。

 季衣はすぐ華琳が他所の地域の管理者(この時は刺史)だと気づいて逆に謝ったのだが、華琳は季衣を責めることなく、むしろその怒りに理解を示した。それが華琳が抱く、上に立つ者の在り様だったり責任感なのだろう。

 もし華琳の治める陳留を中心に選挙を行ったら、華琳は圧倒的な得票率を誇るはずだ。

 その点、董卓は……まあ直接会ったことがないから良く分らんが、少なくとも有力な諸侯の支持は得られなかったようだ。

 しかし、これでまた大きな戦いに向かわなければならなくなった。気が重くなる話だ。やはり今日は厄日だったな。





嘘次回予告

華琳から村々の開発を任された八幡。彼は各村々にネギ、にんじん、大根など千葉がシェア上位を誇る野菜を広めていく。その際に新しく開墾した土地に千葉の地名を付けていった。いつしか国には千葉の名で溢れていく。
名の無い山があれば愛宕山、鹿野山、清澄山、富山、伊予ヶ岳 、鋸山 と名付けた。
川には利根川、長門川、花見川と名付けた。
そう、それは比企谷八幡という男が秘かに進める野望の布石であったのだ。

中華全土千葉化計画

八幡の暴走は止まらない。ついにはアノ禁断の領域に手を出してしまう。

ネズミーランド建設

それはあまりにも危険な所業であった。そして、その過ちはアノ者を呼び寄せることとなってしまう。

「ハハッ、例えどの時代、どんな場所だろうとボクのチョサク剣からは逃れられないよ」

そのあまりにも巨大な敵に、八幡はどう立ち向かっていくのだろうか!?

208年夏公開予定。



読んでいただきありがとうございます。誤字報告ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。