やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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仲直り(恋姫式)

 袁紹の使者である顔良達と華琳の会見が終わり、董卓討伐が決定した。大規模な遠征になる予定なので、すぐにでも準備に取り掛かりたいが、先に済まさなければならない事があった。それは季衣と俺の行きつけの料理屋の店員の少女の喧嘩の仲裁である。

 二人とも一応落ち着いていたから大丈夫だとは思うが、俺だけでは万が一の時に止められないので華琳に相談した。華琳は一度きちんと思いをぶつけ合った方が、わだかまりが無くて良いだろうと言う。その結果、街外れの原っぱで激しく戦う季衣達を、俺は華琳と春蘭姉妹と共に見守ることとなった。

 何その昔の熱血漫画みたいなノリ。河川敷で不良同士がタイマン張って、夕日をバックに互いを認め合っちゃうの? 今時そんなの……ん、そういや今は漫画すらまだ無い時代だった。じゃあ、これは彼女達にとって時代を先取りした仲直り方法になるのか。俺は歴史的な瞬間を目撃してしまうのだろう。

 アホな事を考えているうちに、季衣の鉄球攻撃が店員の少女に襲い掛かった。

 鎖の付いた鉄球が凄まじい速度で少女へ向かう。

 

「ボクが手紙出してからどれだけ経っていると思ってんの!」

「曹操様の所で働いているとしか書いてない手紙なんて、季衣から来て真に受ける訳ないでしょ!」

 

 店員の少女は手に持った巨大な円盤で鉄球を難なく弾き返す。そして季衣の元へ戻っていく鉄球を追うように、手に持った円盤を投げつける。

 

「せめてもうちょっと詳しく書きなさいよっ」

「手紙なんて書いたことないから、ムリッ!」

 

 季衣は凄まじい勢いで弾き返された鉄球を受け止めると同時に、その鉄球でお返しとばかりに円盤を弾き返した。

 

流琉(るる)の方こそ、なんでのん気に料理屋で働いてんの!」

「お金がそんなに無いんだから仕方ないでしょ!」

 

 俺ならちょっとでもカスッただけで死にそうな攻撃の応酬を、まるでテニスのラリーのように季衣達は続けている。

 正直俺はドン引き状態なのだが、華琳と春蘭姉妹は平然としている。それどころか、どこか微笑ましいものを見るかのような表情である。何を考えているのか全く理解出来ない。せめて一番常識を持っていると思う秋蘭に声を掛けてみることにする。

 

「なあ、これ危なくないか?」

「ん……そう見えるのか? 安心して良い。どちらもまだ余裕がある」

 

 俺の質問に秋蘭は不思議そうな顔をしたが、事も無げに恐ろしい事実を告げた。

 ば、馬鹿な。これでまだ余裕を残しているだと。にわかには信じがたいが、秋蘭が嘘を付くとも思えない。こんなテニヌみたいなバトルを繰り広げているのに、まだ上があると言うのか。

 まさか鉄球の打ち返し方が百八式まであったりするんだろうか。

 

「なんだ八幡はそんなことも分からんのか」

「やっぱ百八式まであんの?」

「何を言っているんだ?」

 

 ちょっと得意げな顔をした春蘭が話に割り込んできたので、自問自答していた内容をそのまま口に出してしまった。しかし流石にテニヌは通じなかった。

 ドッカン、ガッシャンと普通では考えられない音が鳴り続ける。だが、まだこれでも余裕があるということは─────────

 

「お互いに手加減してるのか?」

「そうなるな」

「子供がじゃれ合っているだけだ」

 

 俺の問いに秋蘭が頷き、春蘭は何でもないことのように言った。

 例えじゃれ合っているだけでも、俺からすれば怪獣同士のじゃれ合いだ。

 

「言葉だけでは納得出来ない……これが若さだな」

「秋蘭、俺達も十分若いだろ」

「たまにはこういうのも良いかもしれん。なあ」

「なんで目を輝かせて俺を見るんだ、春蘭。俺の場合、あのノリで来られたら死んじゃうからな」

 

 ちゃんと言っておかないと春蘭はやりかねない。なんだったら言ってもやりかねない。え、もしかして命の危機?

 

「三人とも、もう終わるわよ」

 

 華琳の呼びかけに俺達は意識を季衣達へ戻す。

 

「お腹空いたぁ。そろそろ、ハア、ハア、降参しろぉぉぉおぉ!!!」

「季衣の方こそ、はあ、はあ、はあ、謝りなさい。そしたらご飯作ってあげる!!!」

 

 先程までテニヌ界の住人と化していた季衣と少女も、俺達が話している間に体力の限界が来たようだ。二人共呼吸が荒くなり、動きも最初より鈍い。

 互いに手加減しているらしいと聞いていたが、それでも体力は減るようだ。あんなデカい武器を振り回しているのだから疲れて当然である。いや、あんな物を振り回せる時点で異常なのだが、最近俺の中の常識が完全におかしくなっているな。

 さて、数十回程休みなくラリーを続けていた二人は、体力だけでなく(わだかま)りもちゃんと吐き出せたのだろうか。

 

「もう……しつこ、い、ハア、ハア」

「そっちこそ、くっ」

 

 季衣達の体力が尽きる。

 季衣は鉄球を振りかぶろうとしたものの、よろけて尻もちをついた。

 店員の少女の方は片膝を地について顔を歪めていた。

 華琳が二人に歩み寄る。間を取り持つつもりだろう。これで上手く仲直り出来れば良いんだが。

 

「二人共、もう気が済んだかしら。お互い悪気があった訳ではないのは分かっているのでしょう?」

 

 華琳の声に反応して二人が顔を華琳の方へと向ける。

 華琳の肩越しに見る限りだが、二人共怒りが継続しているようには見えない。しかし、ここまで暴れた分自分から折れにくいのか沈黙が続く。

 あんまり俺のキャラじゃないんだが、俺も少しフォローするか。超人的な力があるといっても、こんな小さな子達がギスギスしているのは見たくないしな。

 

「季衣、お前はそっちの子を手紙でこっちに呼び寄せたんだよな?」

「……うん」

 

 季衣達が料理屋の前で争っていた時、確かそう言っていた。今も季衣は頷いている。

 

「どうして呼んだんだ?」

「うん、流琉(るる)なら華琳様も雇ってくれると思ったから、一緒に頑張れたらって」

 

 季衣のたどたどしい、しかし本音の言葉に少女の表情が緩んだ気がした。

 まあ、こんだけ強ければ間違いなく華琳も雇いたがるだろう。

 

「そっちの子も季衣の知り合いって事は結構遠い所から来たんだろ」

「はい」

「わざわざ喧嘩しにきた訳じゃないだろ」

 

 少女はコクンと小さく頷き、季衣へと顔を向ける。

 

「……ごめんね。嘘つき呼ばわりなんてして」

「いいよ。ボクの手紙の書き方が下手だったんだよ」

「あの、お兄さんも、ご迷惑をおかけしました」

「ありがと兄ちゃん」

 

 仲直りしたのは良いが、少女が俺の方にまで頭を下げてきた。小さな子にガチ謝りされるのは気まずくて視線をズラしてしまう。

 

「ん……俺を兄と呼んで良いのは最愛の妹、小町だけだ」

 

 つい照れ隠しで持ちネタのシスコンアピールをしてしまった。いや持ちネタじゃねーし、マジだから。

 季衣は最初きょとんとしていたが、すぐいつもの笑顔になった。

 

「じゃあ今度からハッチーって呼ぶね」

「止めろ。それじゃあまるで、みなしごハッチみたいじゃねえか」

 

 俺以外全員が【?】な表情を浮かべている。

 通じなくて当然か。なんだったら元の世界でも平塚先生くらいにしか通じなかったかも、世代的なアレで。それに今の俺はある意味本当にみなしご状態なのでシャレにならない。

 

「まあ、それはそれとして」

「あっスベッたのを流そうとしてる!」

 

 季衣が何やら言っているが、そんな事実は無い。

 

「うちの軍でも一、二を争う力自慢の季衣と互角な人材がここにいるわけだが」

 

 言葉を一度切って華琳に目配せする。

 華琳は話を逸らそうとする俺に対して呆れた顔をしたが、溜息を一つ吐いた後すぐに真面目な表情に戻した。

 

「貴方、名前は?」

「は、はい、典韋です」

「私はこの地を治める曹孟徳。貴方、私に仕える気は無いかしら」

「え、あっ、私なんかで良ければ。季衣も信頼しているようですし、私の真名をお預けします。私の真名は流琉(るる)です」

「では貴方も私を華琳と呼びなさい」

「はい!」

 

 季衣と典韋の喧嘩も収まったし、頼りになる戦力も増えて、めでたしめでたしといったところか。董卓討伐の遠征を前にして良いタイミングだ。

 その後、典韋に俺や春蘭姉妹も名乗ったのだが、「お兄さん」呼びは固定のようだ。さっきは兄と呼んで良いのは小町だけと言ったが、典韋の場合兄と妹というのとはニュアンスが違うので特別に許す。他意はない。




おまけ

華琳「八幡、貴方子供には優しいのね」
八幡「にはって言うな。誤解をまねくだろ」
華琳「ふーん、そう?」
八幡「傷ついたわ、もう今日は働かない」
八幡「働きたくないでござる!!! 絶対に働きなくないでござる!!!」


読んでいただきありがとうございます。

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