やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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袁紹

 文明や文化は長い年月を経て進歩してきた。多くの技術が開発され、多様な思想が生まれて世界はその姿を千変万化させてきた。例えば俺が生まれた現代から見て二千年位前なんて、同じところを見つける方が難しい。

 スマホもねえ、PCもねえ、自動車も全く走ってねえ。コンビニねえ、サイゼもねえ。何だか無性に東京へ行きたくなってきた。あ、人ごみ嫌いだからやっぱいいや。

 ともかく、ぱっと見では現代と俺がいるこの時代は違う所だらけだ。しかし現代でも人間自身が遠く離れた相手と交信する能力を身に着けた訳でもないし、自動車のように速く走れる訳でもない。それが出来る道具を生み出しただけで人間自身が革新的な進化をした事実はない。つまるところ、人間はどこまでいっても人間でしかない。

 そして人間の本質が変わらないのであれば、いつの時代、どの場所でも同じ様な事が起こるのは必然だった。例えば無能なリーダーによってちっとも作業が進まない文化祭やクリスマスイベントのようなことが、この世界でも起こりうる。

 都で暴政を敷いている董卓を討つ為、袁紹の呼びかけで有力者達が集まった董卓討伐軍、反董卓連合、呼び方はどうでもよいが、その集合場所に華琳達と共に俺はやって来た。そこで出会ってしまった。

 

「お~ほっほっほっほぉ!」

 

 凄まじく頭の悪そうな笑い声を上げる成金っぽい恰好の女性が目の前にいる。コレが袁紹だと聞いた時点で頭を抱えたくなった俺を誰が責められる。なんだったら責めてくれても良いが俺の代わりにこの討伐軍に参加してくれ、俺は帰るから。

 俺には分かる。会話や詳しい観察は必要ない。こいつは無能だ。それも周囲の足を盛大に引っ張るタイプの無能だ。賭けても良い。そういえば華琳が袁紹について【関わるのがひたすらに面倒な人間】と評していた。この一瞬の邂逅で華琳の言いたい事を理解出来てしまった。

 ここは討伐軍の合流地点、その中の袁紹の陣内にある天幕である。討伐軍の主要なメンバーが集まっている。これは各陣営との顔合わせが目的である。現在天幕の中には十数人集まっているが、十分な広さなので物理的な息苦しさは感じない。そう、物理的には。

 うちからの参加面子は俺、華琳、春蘭、秋蘭の四人だ。しかし半ば予想していたが、各陣営の参加者は女ばっかりだ。例外は顔見知りである劉備の所の北郷くらいか。コミュ力の高そうな北郷が「よっ」と手を上げて挨拶してきたのにどう答えれば良いか分からず、小さく頷くだけしか出来ない。なんかこういうの妙に恥ずかしいよな。

 無能、もとい袁紹は俺達のやり取りには興味が無いようで、華琳と話している。

 

「随分遅い到着ですわね。華琳さんが最後ですわよ、お~ほっほっほ」

 

 袁紹は馬鹿した様子で再び高笑いを上げている。

 ひぇっ、何てことを……華琳にそんな煽り、命がいらないのか。

 恐る恐る華琳の顔色を窺ってみると、意外なことに華琳は全く怒っている様子は無かった。

 

「そう、それで?」

 

 華琳は「それが何か?」と開き直った返しを気だるげにした。一番怒り狂いそうな春蘭も大人しくしている。

 どうなっているんだ。華琳達らしくない反応に調子が狂う。

 袁紹は袁紹で普通に話を進める気のようだ。

 

「では初めて会う方も多いですから最初の軍議は自己紹介からにしましょう。到着がビリの華琳さんは、これも最後でよろしくて? 問題無いですわね。お~ほっほっほ」

 

 煽りを忘れない三流ヒールの鑑だな。

 これは流石に華琳の我慢も限界だろう。そう思って身構えていたが、いつまで経っても場は静かなままだった。徹底したスルー。

 華琳らしからぬ様子に俺が困惑していると、それを察した秋蘭が他の者に聞こえないよう小声で教えてくれた。

 

(ここで下手に反応すると余計面倒な事になる)

 

 諦観まじりの秋蘭の言葉は、恐らく経験則からくるものなのだろう。

 めんどくせえ奴だな。しかもこの場では袁紹が一番偉いときた。マジでめんどくせえ。

 

「……私からで良いか?」

 

 赤毛の少女が遠慮がちに聞いた。

 それに対して袁紹は少し考え、平然と失礼な発言をした。

 

「そうですわね。最初は当たり障りの無い地味な方からが良いでしょう」

 

 袁紹の煽りは華琳限定ではないんだな。全方位? 天然?

 まあ確かに赤毛の少女は地味だが。なんというか普通なのだ。顔は普通に整っており、背格好も普通、物腰も尊大でも謙虚過ぎることもなく普通。ここにいるという事は、それなりにハイスペックなはずなのだが、他の者と比べるとなんだか印象が薄い。

 ポテトチップスに例えると、うすしお味である。わあい、うすしお。八幡うすしお大好き。

 閑話休題。

 さて、あっか……赤毛の少女の自己紹介が始まる。

 

「私は幽州の公孫賛だ。顔見知りもいるが、これからよろしく頼む」

 

 普通だな。顔見知りのくだりで劉備の方を見ていたので、普通に知り合いなのだろう。

 

「やはり地味ですわね。次の方はもう少し場を温めて欲しいですわ」

 

 袁紹の煽りもなんだか地味である。そして次の人に無茶ブリをかましている。次の人、ご愁傷様。

 その不幸な犠牲者は俺も知っている奴、立っている位置的に公孫賛から一番近い劉備であった。

 

「ふぇ? 私? あ、あの平原からきた劉備です。こちらは天の御使いであるご、北郷様、こちらが軍師の諸葛亮です」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 劉備は今、ご主人さまって言いそうになっていたな。まだその呼び方させているのか、北郷の奴良い趣味してるな。うらやましくなんて、ないんだからね。

 嫉妬に狂いそうな俺と違い、袁紹は劉備達に興味が無さそうな表情だ。ん、やっぱり羨ましいんじゃないか。

 

「そちらが噂の天の御使い……パッとしませんわね。はい次の方」

 

 積極的に煽った華琳への対応とは違い、熱量を感じない袁紹の塩対応。

 ホントどうしようもない奴だな。俺から見ればイケメンリア充の北郷も、袁紹にとっては平凡に見えるのか。まあ本人が恥ずかしげもなく悪趣味な金ピカの鎧を着ているのだから、彼女の美的センスではパンチが足りないのだろう。

 俺の自己紹介の時にはどんな酷評が待っていることか。いっそ存在感を消して自己紹介せずにスルーされるのを狙おうか。華琳も袁紹を下手に刺激したくないだろうから、今回に限り見逃してくれるかもしれない。

 自己紹介は次の人へ移る。劉備達の隣にいたポニーテールの女性が口を開く。

 

「涼州の馬騰の名代として参じた馬超だ。馬騰は西方に不穏な動きがあるので涼州を離れられない。その為今回は娘の私が代わりを務める」

「隣人が蛮族なんて僻地の方は大変ですわね」

 

 このポニーテールの女が馬超なのか。快活そうな雰囲気で分かりやすい武将タイプだろう。

 それと気づいたのだが、袁紹の悪態は素なんだな。特に悪意が無くても出るっぽい。だから問題ないという話ではないが。

 馬超は先ほどより低い声で一言二言応えている。気分を害したのだろうが、それをあからさまには出来ない位に袁紹の権勢は強いということか。怖い怖い。

 そんな袁紹を無視して金髪のチビッ子が名乗りを上げる。

 

「わらわは袁術、江南を治めておる。まあ改めて名乗るまでもなく、わらわの事は知っておろう? ほほほ!」

 

 最初子供だから空気が読めないだけかと思ったが、袁術といえば袁紹と同じ袁家だったはず。それがあって気後れしないのかもしれない。しかし、こんな小さな子まで参加するのか。いやでも諸葛亮も良い勝負だな。チラっと諸葛亮と見比べ、大差ないと納得する。変な意味じゃないから通報はしないで、お兄さんとの約束だよ。

 

「ほれ次は七乃の番じゃ」

 

 袁術が自分の後ろに控えている副官っぽい女性に振り返る。

 

「はいー、私は美羽様の軍師兼武将兼側仕え兼愛人の張勲です」

「ん? 今何かおかしなのが混ざっておらなんだか?」

「いえいえ、気のせいですよー。それでこっちが客将の孫策さん」

 

 明らかに気のせいではないが、誰も突っ込まない。紹介されたのは孫策、また有名どころだな。褐色の肌がエ、健康的な美人である。その孫策も無言のままだった。

 袁家以外の空気が重い。この天幕に集まってからそれほど長い時間は経っていないが、ここの人間関係は微妙そうだ。ごめん表現が控えめ過ぎたわ。こいつら絶対仲悪い。

 そんな空気を感じていないような袁紹が華琳へ笑顔を向ける。

 

「先ほどは華琳さんが最後と言いましたが、寛大な、か、ん、だ、い、な、わたくしが最後に回って差し上げますわ。ですから次は華琳さんどうぞ」

 

 凄まじく恩着せがましい物言いだが、単に自分がトリを務めたいだけな気がする。なんというか非常に分かりやすい性格のようだ。

 

「私は曹操、右から我が軍の夏侯惇と夏侯淵、それから軍師の比企谷よ」

 

 事務的に告げる華琳の紹介に先んじて、袁紹から見て秋蘭の影にさりげなく隠れるよう少し動いておいた。全身を隠すことは出来ないが、向こうからは肩や腕位しか見えないはず。

 頼む袁紹、俺に無関心でいてくれ。

 

「あら華琳さんの所にも天の御使いがいると聞いていたのですが、連れてきていませんの? 噂では怪しげな道具で人の魂を抜き取り、その呪われた目は見つめられると寿命が縮み、口からは炎を吐いて黄巾党の本陣を焼き尽くしたそうね。どんな姿をしているのか見てみたかったですわ」

 

 袁紹は軍師として紹介された俺が、そのモンスターだとは思いもよらないのだろう。そんな化け物がいたら俺も見てみたい。というか、その話が本当なら会うと寿命縮んじゃうんじゃね? 大丈夫?

 劉備や北郷が微妙な顔でこちらを見ている。こっち見んな、バレたらどうする。華琳もお願い、余計な事は言わないで何でもしますから。

 

「そんな面白い生き物は飼っていないわね」

 

 セーフ。馬鹿らしいといった感じに切って捨てた華琳マジかっこいい。

 何とか一山越えた感がある。しかしこれは董卓討伐の為の集まりであるのに、その本題はまだ何一つ出ていない。それなのにこの疲労。先行きの不安をひしひしと感じる。




読んでいただきありがとうございます。




おまけ

袁術「ゴクゴク、甘~い。やはり蜂蜜水は美味なのじゃ。誰かお代わりを持ってまいれ」
八幡「結構な甘党のようだな。そんな君に良い物がある」
袁術「なんじゃ宦官の孫のところの下男か」
八幡「まあまあ、これをとりあえず飲んでみなって」
袁術「ん? なんじゃこれ…あっま~い!!のじゃ!!!」
八幡「どうだ俺特製代用MAXコーヒーの味は?」
袁術「うまいのじゃ。もっと欲しいのじゃ」

説明しよう。八幡特製代用コーヒーとは煎った大麦、牛乳、蜂蜜、砂糖から作ったパチモンMAXコーヒーである。

八幡「くくっ、袁家の一角もちょろいもんだな」
華琳「貴方またこんな小さな子を……」
八幡「え、いやこれは陣営の為を思って」
華琳「最近世間の目は厳しいのよ」
袁術「うーん世の中、世知辛い…のじゃ!」

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