やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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諦めの終わり

 最初は比企谷八幡が使い物になるかどうかを少し試すだけのつもりだった。本気で春蘭と闘わせるつもりなど無かった。

 比企谷は絶望と恐怖に心を折られた敗残兵の様な目をしていた。これから私の歩む道は過酷なものになる。心の折れた人間では役に立たない。だから圧倒的な戦力差のある春蘭を前に、闘志や覚悟の様なものを少しでも見せればそれで良いと考えていた。

 しかし、思惑が外れた。比企谷は闘志や覚悟など見せるまでも無く話術で春蘭を容易く翻弄して見せた。それは子供騙しの手管だったが彼にとっては春蘭を騙すくらい児戯にも等しいということだろう。だがこれでは肝心の精神面を全く測れていない。

 

「こんな決着は認められないわ。貴方自身も言ったでしょ。これは根性試しみたいな物だと。今ので貴方の根性を試せたと思うの?」

「そうだ、華琳様の言う通りだ。お前はさっさとわたしに斬られればいいんだ」

 

 頭が痛くなる。予想外だったのは比企谷だけではなかったようだ。

 文官として勧誘しようとしている者相手に、春蘭が本気で斬りかかってどうするというの? 勝負の前に春蘭へ目配せして念を押したつもりだったが、彼女は何も察していなかったようだ。もしくは記憶の彼方へ消え去ったのか。

 

「春蘭」

「はい、華琳様っ! なんでしょうか?」

「斬っては駄目よ。比企谷も言っていたでしょう。これはあくまで【試し】なのよ。それも武人として雇うわけではないのだから、加減をしなさい。加減を」

 

 私が春蘭と話している間に、何か考え込んでいた比企谷の目の濁りは、先程より増した様に見えた。そして、ゆっくりとした動作で跪いてしまった。

 

「勘弁して下さい。許して下さいお願いします。勝負にならないです。本当に申し訳ありません」

 

 比企谷は地に額を擦りつけ許しを請う。その姿は憐れで無様なもので見ていられなかった。

 私の心に失望感が広がる。

 

「あなた、自分で根性試しみたいなものだと言っておいて、いくらなんでもそれは無いでしょう? 例え文官であっても、口先だけで自分の言動に責任も持てない者を重用する人間がいるかしら。多少口が回るというだけでは雇えないわよ」

 

 この勝負の主旨が覚悟を試すものだと理解し、自らの口でも言っておいてこの行動。これでは試す以前の問題である。自分から私の誘いを放棄しているようなものだ。

 

「所詮、口だけの男か。斬る価値も無い」

 

 春蘭も馬鹿にした様に言っている。言葉こそ無いものの秋蘭も呆れているのが分かる。こんな男にこれ以上時間を使ってやる程暇ではない。この場を立ち去ろうとしたが珍しい貨幣を貰っていた事を思い出した。

 

「お前の様な男を飼う気はないわ。貰った貨幣の代わりに少しだけど路銀を用意させるわ。ここから出て行きなさい」

 

 貰った物の対価は支払わないと筋が通らない。それとせめてもの情けである。用意する路銀位は少し多めにしておこうと考えながら歩き始めた。

 庭園を抜ける直前、背後から突然声を掛けられた。

 

「動くな」

 

 それは比企谷の声だった。背中に何かを突きつけられている。

 どうなっている気配などしなかったはずだ。とにかく慌ててもどうにもならない。

 私は努めて平静を装い、状況の把握に努める。

 

「夏侯惇と夏侯淵は5歩離れろ」

 

 比企谷の言葉に春蘭と秋蘭は従った。二人が離れた事を確認すると比企谷が春蘭に話しかけた。

 

「お前の急所は直ぐ分かる……で、降参するか?」

「貴様ぁ! 今すぐ華琳様から離れろ!!」

「姉者落ち着け、華琳様の命に関わるのだぞ!」

 

 春蘭の急所、それは私だった。身内贔屓ではなく春蘭を相手にまともに戦える相手など滅多にいない。その春蘭相手に最も有効な手は私を抑えることだ。春蘭よりは弱く人質にとってしまえば春蘭には手が出せなくなってしまう私は、正に春蘭の急所だった。それを短い時間で看破し的確に突いて来るとは恐ろしい男だ。しかし、安心もした。どうやら私を殺す気はないらしい。先程までの勝負の一環としてやっているのが比企谷の言葉で分かった。慌てている春蘭や秋蘭は気付いていない様だが……。

 

「降参するか?」

「分かった。参った、降参する。だから華琳様を放せ!!」

 

 春蘭と秋蘭が武器を捨てる。

 人質になっている身としては腹立たしいが負けを認めるしかない。

 

「春蘭、貴方の負けね。ねえ、もう動いていいかしら?」

 

 私の言葉に比企谷は頷き模擬刀を下ろした。

 その瞬間、春蘭が比企谷に襲いかかろうとしたので一喝する。

 

「おやめなさい!! 春蘭、貴方は勝負が終わった後に不意打ちを仕掛けて恥の上塗りをするつもりなの?」

 

 元々、この勝負は命を賭けた一騎打ちなどではなく、比企谷の気概を確かめる為のものだ。そ

 れを比企谷が此方(こちら)の思惑を超え、此方が負けを認める事になったからと言って勝負がついた後に怒りに任せて斬り殺したとあってはそれこそ恥辱の極みだ。

 私の叱責に春蘭がシュンとなっている。こういう所は本当に可愛いと思う。春蘭を少し可愛がりたいけれど先に比企谷に言っておかなければならない事がある。

 

「まずは見事な手並みと褒めておくわ。武術の心得も無さそうなのに私達三人相手にここまで出来るなんて……貴方が暗殺者なら一流と言っていいわね。ただ……」

 

 

 そう、本当に見事としか言い様が無い。私が最も信頼する春蘭と秋蘭が傍にいる状態でたった1人の人間に出し抜かれて命を握られるなんて想像もしていなかった。とっさの機転とそれを行動に移す肝の太さは、ぜひ私の部下に欲しいと思わせるものがある。ただ能力の高さは認めても、その能力の使い方は私の望むものではない。だから注意しておかなくてはならない。

 

 

「うちには暗殺者は要らないわ。次からはやり方をもう少し考えなさい」

 

 暗殺によって得られる勝利など私は求めない。比企谷のやり方は認められない。変えさせる必要がある。これからの私の勝利や栄光が汚されるなどあってはならない。私が行くのは王道であり、覇道である。私と共に行くのであれば、それを理解させる必要がある。

 

「私は汚い勝ち方など求めない。私が求めるのは誇りある勝利よ。貴方も私の部下になるなら其処を理解しなさい。」

 

 私が【汚い勝ち方など求めない】と言った辺りから比企谷は俯いてしまった。素直に聞いているのだろうか、それとも何か思うことがあるのか。

 私は言葉を続ける。

 

「汚い勝ち方で生き残る位なら死んだ方がマシよ。もし貴方がそのまま私を刺し殺すつもりだったとしても私はその場を凌ぐ為に跪いたりはしない。誇りある死を選ぶわ」

 

 その時、黙って私の言葉を聞いていた比企谷の口から獣の唸るような声が漏れ出した。

 

「ふざけるなよ」

 

 顔を上げた比企谷を見て私達は後ずさってしまった。

 彼の目は出会った時と同じ死んだ魚の様だった。しかし今の彼の目は生気のない、何かを諦めた様な目ではなかった。元の目に強烈な怒りの様な物が混沌と混ざり合い形容しがたいものになっていた。

 その姿は私には天の御使いなどではなく、まるで生者を妬み地の底から這い出して来た亡者に見えた。

 

「お前、今死を選ぶって言ったか?」

 

 亡者の問いに私達は一言も発せなかった。背中に模擬刀を突き付けられていた時はほとんど感じなかった恐怖という感情が湧き上がる。今、比企谷が私に向けている牙は模擬刀より鋭く、私の根幹に関わる部分を深く抉ってしまうのではないか。

 

「お前は死を選ぶって言ったよな。お前はこんな所で死んでいいのか。お前を大切に思っているコイツらを放り出して、俺みたいな下らない奴にこんな所で意味も無く殺されて本当に良いって言うのか?」

 

 比企谷の声はだんだんと大きくなっていき、叫びに変わる。その代わりに目に宿っていた怒気などが薄れていった。まるで言葉と共に怒りを吐き出している様だった。

 

「お前にはそんな価値しか無いのか!お前へのこいつ等の思いもこいつ等自身も簡単に捨ててしまえる程の価値しかないのか!」

 

 全てを吐き出すような比企谷の叫びが終わる。その時、彼の目に残ったのは寂しそうに揺れる黒い瞳と充血した白だけだった。

 

「……怒鳴って悪かった。部屋にいる。俺が気に入らないなら言ってくれ。出て行くから」

 

 そう言って立ち去る彼を止める言葉をその時の私は持っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達3人は呆然と立っていた。しばらくすると視線を感じた。秋蘭がこちらを見ていた。

 

「華琳様、いかがなさいますか?」

 

 秋蘭の問いに私は直ぐには答えられなかった。分かっていることは二つ。

 一つ目は私と比企谷の考え方は相容れないという事。

 二つ目はそれでも比企谷を手放す気はないという事だ。私は欲しいものを手に入れる事に躊躇したりはしない。

 

「……比企谷を部下にするわ」

「かっ華琳様! あのような無礼者を部下にするのですか!?」

 

 私の答えに春蘭が慌てる。確かに無礼ではあった。本来であれば即、首を刎ねてもおかしくないほどに無礼な言動だろう。しかし……。

 

「それは大した問題じゃないわ。礼儀正しい無能な人間より、礼儀を知らないが有能な人間の方が私は好きよ」

「しかし、華琳様と比企谷の考え方は相容れぬ、矛盾したものではありませんか?」

 

 私の言葉に春蘭は押し黙ってしまったが、代わりに秋蘭が痛いところを突いて来た。そう私と比企谷の考え方は全くと言っていい程違う。私が彼の考え方に合わせるなど論外であるが彼もまた考えを変えたりしないだろう。

 

 矛盾した互いの考え方。

 どうすればいいのか。矛盾矛盾……そうだ。難しく考える必要などなかった。そもそも矛と盾が戦わなければいい。

 

「春蘭、秋蘭、しばらくしたら比企谷の所に行くわよ。あの男を私の仲間にするわ。絶対に」

 

 私の決意が固い事を悟ると二人は反論せず頷いた。

 

 

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 俺は曹操達を相手にやらかしてしまった後、部屋に戻って寝台に寝転がっていた。悶えていると言ってもいい。勢いで色々言ってしまったが後から冷静になると「やらかしてしまった」としか言えない。

 

「やらかしたー。ここまでやらかしたのは何時以来だ? 雪ノ下達相手に【本物が欲しい】って言ったとき以来か?」

 

 こんなの圧迫面接でトラウマ刺激されてブチ切れて試験官を怒鳴り散らした挙句、控え室で待ってると言って会場飛び出して来た様なもんだろ。あの時の怒りは俺にとって抑え難いものだったが、だからとあの場ですべき言動ではない。

 言った内容そのものは俺の正直な気持ちだが……は、恥ずかしすぎる。ない、ないわー。ただでさえボッチの俺は本音を誰かに言う事自体少ないのに、会って大して経っていない人間にアレだけブチ撒けてしまうとは。しかも下手したら彼女達とまた顔を合わせるかもしれないのだ。それに十中八九ここを出る事になるだろうが、もしも曹操が何かの間違いで俺を部下にしてしまったら俺は彼女達とこれから何度も顔を合わせる事になる。

 想像するだけで悶絶物だ。寝台の上で右へ左へ転がっていると

 

「……何をしているのかしら?」

 

 呆れたような声が部屋の入り口の方から聞こえて来た。曹操達がそこにいた。

 俺は驚きのあまり声も出せずに目を見開いていた。

 お前等うちの母ちゃんかよ。ノックもせずに入って来んじゃねえよ。

 ただでさえ顔を合わしたくない相手に見られたくない所を見られてしまったショックで放心してしまう。

 

「大事な話があって来たのだけど、大丈夫かしら?」

 

 曹操さん、全然大丈夫じゃありません。俺のライフはもうゼロよ!! とはいえ話は後にしてくれなんて言える筈も無く俺は寝台から立ち上がった。

 

「あー大丈夫……です」

 

 色々とボロボロだがそれだけ何とか搾り出した。

 

「結論から言うわね。貴方を私の直属の部下にするわ」

「えっ?」

 

 そんな馬鹿な。曹操は短い付き合いだがプライドの塊みたいな人間だと俺は確信している。その曹操にあそこまで言って許されるどころか直属の部下にするなんて言われるとは思ってもいなかった。まあ、出て行けと言われても困るんだが。

 

「良いのか? 俺なんかを部下にして」

「問題ないわ。先程の言動については不問にするわ。限度はあるけど有能であるなら多少の無礼は許すわ。あと今後は今みたいな喋り方で良いわ。貴方の敬語、慣れていないのか何だか気持ち悪いわ」

 

 なんか分からんがこっちにとっては凄く都合の良い話になってきた。

 それと気持ち悪いって言われたが……。何だかって何だよ。理由になってねーよ。

 

「ただし、条件があるわ」

 

 曹操がこちらに近づきながら言った。

 そうですよねー。上手い話には裏がある。どんな条件が飛び出るのか。

 

「貴方は別に卑怯な手を使う事自体が好きな訳じゃないわよね」

「まあ、必要も無いのにわざわざやらないな」

「それなら私と共に学びなさい。軍師として必要な軍略、知略、政治を」

 

 曹操と一緒に学ぶ? どういう事だ? 俺が曹操のやり方に合わせるという事なら、こんな言い方はしないだろう。

 

「敵が常に正々堂々と立ち向かってくるとは限らないわ。汚い手を使って来る相手も多いでしょう。私は貴方と学ぶ事でそういった考え方に対しての理解が深まる。そうすれば対処もし易くなるわ。逆に貴方は私と学ぶ事で王道や正道といったものを全力で身に着けなさい。そこまでやって私と貴方が卑怯な手でしか勝てない、生き残れないといった状況に陥ったのなら……その時は貴方の判断に任せるわ」

 

 今、俺が自分の顔を鏡で見たらさぞ間抜けな顔をしているだろう。曹操の口から飛び出たのは想像すらしなかった内容だった。曹操が俺から学び、俺が曹操から学ぶ? 俺は夢でも見ているのか。しかも、どうにもならなくなったら俺に任せる? そんな馬鹿な話があるか。知り合ったばかりの人間にそんな事を言うのか。

 

 

「……任せるっていいのかよ。そんな事言って」

「私にとってはその時点で負けよ。だから貴方に決定を委ねても問題ないわ」

「そんな簡単に……」

「簡単ではないわ。私は勝利を掴む為なら例え自分の命を削ることすら厭わない。どれだけの犠牲を払ったとしても勝利を目指す。ただ誇りを捨てては生きて行けないというだけ。誇りを失えば私が私でなくなってしまう。それは死と同じ事よ」

 

 誰にも憚る事無くそう言い切った曹操の蒼く美しい目には覚悟があった。俺の様な諦めたふりをして生きている人間よりも彼女の方が【本物】に近いのかもしれない。彼女と共に学び、共に進めば俺は変われるのだろうか。

 

「それで聞きたい事はもう無いかしら?」

 

 俺は頷く。

 

「これからは私と共に歩むことにならわね。それじゃあ、貴方の真名(まな)を教えてくれるかしら?」

「はあ? マナって何だ?」

「「「真名を知らないの(か)!?」」」

 

 マナってゲームとかでたまに出て来る魔力的な物の事か? 三人が滅茶苦茶驚いている。この世界では常識なのか?

 俺が全く分からないといった様子なのを見て夏侯淵が説明してくれた。

 

「真名とは心を許した者だけに呼ぶ事を許す特別な『真』実の『名』前の事だ。これは私達にとって非常に大事な物で仮に許可無く呼んでしまった場合、斬り殺されても文句は言えん」

 

 こわっ。えっ、それって曹操達が互いに呼んでいた名前の事か。あれってあだ名か何かだと思ってたぞ。まあ、俺が自分から他人のあだ名なんか呼ぶ事は無いから、誤って呼ぶ心配は無いだろう。それに俺の場合、苗字すらまともに呼ばれる事なんて無いしな。曹操は正しく呼んでいるが、正直まともに呼ばれるのが久しぶり過ぎて何か違和感すらある。

 

「俺には真名は無いな。あえて言うなら八幡だけど……」

 

 俺が八幡と呼ぶ事を許していたのは戸塚だけだ。そう言う意味では俺の名前は真名と同レベルと言っていいかもしれない。材なんとか? あいつに俺の名前を呼ぶのを許した覚えなんてねえよ。

 

「貴方、初対面で真名を名乗っていたの!?」

「正気か?」

「ふむ、我々に呼ばれても良かったのか?」

 

 俺の言葉に三人が驚いている。

 

「教えても呼ぶ奴なんていないし、嫌なら呼ぶなって言うから」

 

 言っても勝手に呼ぶ奴もいたけどな。

 

「私は呼んでもいいかしら?」

 

 呼びたいの? ……マジで? お、お、女の子に名前を呼んでも良いか聞かれた。信じられない事態である。これは絶対裏がある。

 

「えっ、後で『呼ぶわけ無いじゃん。冗談だしキモっ』て言わない?」

「言うわけ無いでしょ、そんな事。どれだけ無礼なのよ。そんな人間がいるわけないでしょ」

「……ぉぅ、そうだな」

 

 いるんだよなー。それが。

 俺の反応からそれを察した三人はドン引きしている。

 

「……私は貴方の名前を軽んじるような真似はしないわ」

 

 曹操が気を取り直して言う。

 

「でも良いのか? 俺なんかと真名を呼び合うなんて」

「これから命を預け合う事もあるんだから当然でしょ」

 

 確かにその通りだ。負ければ死ぬ事もあるだろう。その位、信頼関係が重要になるという事だ。

 

「分かった。これからは八幡と呼んでもらって良い」

「私の真名は華琳よ。これからはそう呼ぶように。二人も良いわね?」

 

 春蘭と秋蘭が頷く。正直春蘭が素直に頷くのは意外だった。絶対文句を言うと思っていた。

 俺が春蘭を見ていたら春蘭がその考えを察したのか説明する。

 

「お前が華琳様の役に立つと分かったんだ。反対する理由など無い」

 

 春蘭の行動原理は単純明快だった。

 

「それに私はお前の周囲にいた名を軽んじるような奴とは違う。もし、これからお前の名を汚すような輩がいたら私が斬ってやる」

 

 本当に気持ちが良い位に言い切った。男前過ぎる。そしてそれは春蘭だけではなかった。

 

「そうだな。もし姉者から逃げても私が弓矢で仕留めてやろう」

「いいえ、殺さず私の前に連れて来なさい。八幡への侮辱は私への侮辱よ。首を刎ねてあげるわ」

 

 冗談みたいな口調だがこいつ等ならやりかねん。いや、やるだろう。俺は蔑ろにされる事には慣れていた。だが誰かが俺を蔑ろにする事について怒ってくれるなんて今まであっただろうか。

 自然と笑いがこみ上げて来る。

 

「くっくっく、ははっ。じゃあ華琳達を侮辱する奴がいたら俺がそいつを嵌めてやる。華琳の希望だから汚くない罠でな」

 

 部屋が笑いに包まれる。

 

「ふふっ、汚くない罠とはどんな罠かしら」

「きっと敵が引っ掛かるとスカっとする罠ですよ。華琳さま!」

「姉者は敵が引っ掛かれば綺麗とか汚いとか関係なくスカっとすると思うぞ」

 

 かつて俺は変わることを逃げだと言った。だが手に入れたい物が変わらなければ手に入らないのであれば、俺は変わる事を選択しよう。例え、それが過去の俺を否定する事になったとしても。

 

 

 

 

 

 




本当はこれは5話と6話に分けて投稿しようと思っていたのですが、別々に上げた場合に5話の読み終わった時の感じが消化不良っぽくなりそうだったので何とか1つにまとめてみました。

今回の話で自分の表現力の低さに何度か絶望しました。イメージは出来ているのに文章に表せないもどかしさ。元のイメージの何割を読む人に伝えられているのか。上手くなりたいです。



読んでいただいた方々、ありがとうございます。

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