やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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袁紹2

 華琳の(もと)にいる天の御使いについて、色々尾ひれの付いた噂を聞いていたらしい袁紹が、見てみたいと言い出した時はハラハラした。だが華琳が気を利かせてくれたおかげで何とかなった。

 

「残念ですわ……それはさておき、ついにわたくしの番ですわね」

 

 袁紹は少し残念そうにしていたが、すぐに気を取り直して、むしろテンション爆上げで自己紹介を始めようとした。そこにすかさず横槍が入る。

 

「必要ないでしょ。貴方を知らない人間なんてここにはいないわ」

 

 華琳が至極当たり前の事のように言った。

 それは袁紹を立てる言葉だったが、華琳の意図は別だろう。ぶっちゃけ袁紹の名乗りなんて聞きたくないのが本音ではないか。今までの様子を見る限り、どうせ誇大妄想に取りつかれた感じの自己紹介になるだろうし、それを聞きたいなんて奇特な人間はいない。もちろん俺も嫌だし、同意見の人間が他にもいた。

 

「そうだな」

「私達が住む涼州のような僻地(・・)ですら、袁紹殿の名は知れ渡っているからな」

「自己紹介と言われても今更じゃのう」

「あ、私も袁紹さんについては聞いています」

 

 公孫賛、馬超、袁術の三人は悪意などおくびにも出さず話を合わせている。いや馬超は涼州を僻地扱いされた恨みが少し漏れちゃってるな。気持ちは分かる。俺も千葉を僻地なんて呼ばれたら絶対許さない奴リストに書き込む。

 その三人に追従するように声を上げた劉備については、完全に素なのだろう。あれが演技だったらどんだけタチの悪い腹黒女だってレベル。女性不信になるぞ。あっ、俺既に女性どころか人間不信気味だったわ。

 

「この日の為にずっと考えてた名乗りですのに」

 

 残念そうな袁紹。それで、名乗り以外についてもちゃんと考えいるんだろうな。今後の計画は大丈夫なのか。

 

「残念ですわ……しかし未開の地と思っていた所までわたくしの名が広まっているのは素晴らしいですわ」

 

 また袁紹が余計な事を言っている。うあ、馬超の表情が固い。早く、早く次の話に移って。

 

「では早速にっーーくき董卓討伐を始めましょう。まとめ役はこのわたくし、名門袁家の当主であるこのわたくしが行いますわ。よいですわね」

 

 いや良くねーよ。一番駄目なヤツだろ。文化祭とクリスマスイベントの悪夢が(よみがえ)る。無能がリーダーになったら上手くいくもんもいかん。しかも今回は文化祭なんて目じゃない、命の掛かった戦いなのだ。失敗しましたじゃ済まない。

 そんな俺の危惧とは裏腹に、怪しい雲行きになっていく。

 

「良いんじゃないか」

 

 興味無さそうに言った馬超だったが「好きにすれば、ぺッ」という心の声が聞こえた気がした。実は俺にも転生特典があったのか!? まあ、ありえない。単に馬超が分かりやすいだけだ。それより嫌な方向に流れが行っている。ここは華琳に止めてもらうしか─────

 

「それで問題ないから話を進めなさい」

 

 ちょっ、ま、華琳さんマズいですよ。

 ギョッとして華琳の方を向いてしまう。そのまま声を掛けそうになったが、隣の秋蘭に制止されてしまう。

 

(ここは大人しくしていろ)

(いや、しかしな)

(今は駄目だ)

 

 他に聞こえないように小声でのやり取りだったが、秋蘭の声には確固とした意志が込められていた。

 

「反対意見も無いようですし、わたくしが董卓討伐軍の長で決定ですわね。このわたくしが皆さんを率いて」

「軍の進路はやはり汜水関と虎牢関を通る形かしら」

 

 討伐軍のトップ就任を意気揚々と宣言し、さらに言葉を続けようとしたところを華琳が割り込んだ。そこに張勲が乗っかる。

 

「そうですね。この大所帯なので開けた所から進むしかないですからー。その経路しかありませんね」

 

 もしかして袁紹に話の主導権を与えないように、さっさと話を進めてしまおうとしているのか?

 そんな疑問が頭に浮かんでいる間に次は劉備が手を挙げる。

 

「じゃあ汜水関の偵察はわたし達がやりましょうか? うちは兵数が少ないし、そういう役回りが今は良いかなって」

「ええ、そうしてちょうだい。では小休止の後、出発しましょう」

「とりあえずこれで話は終わりだな。解散しよう」

 

 劉備の申し出に華琳が答え、馬超が解散を告げた。

 流れるような連携で袁紹が喋る隙を与えず、軍議は終了した。下手にグズグズしていて袁紹に絡まれたら嫌なのか、皆さっさと天幕を出ていく。俺もその流れに乗る。

 ともかく袁紹をリーダーにしてしまった件について華琳と話さないといけない。このままではロクな事にならないはずなので、天幕を出てすぐ華琳に近寄る。

 

「華琳」

「言いたい事があるのは分かっているわ。でもここでは駄目よ」

 

 俺の呼びかけに一度足を止めた華琳だったが、また歩き出した。

 周囲に人がいる状態で袁紹をディスるような話題は流石に拙い。その程度の事すら失念するほど俺は焦っていたらしい。つーか華琳はそういう話題と話す前から分かったのか、凄いな。いや、そうでもないか。先ほどの不穏な自己紹介と軍議を目のあたりにして、慌てた様子の俺が話しかけて来れば、おのずと話題は予想出来るだろう。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 俺達の陣に戻るとすぐに華琳専用の天幕へ入った。華琳の指示で人払いがされ、春蘭と秋蘭が天幕の外を見張っている。そこまでする必要があるのか疑問だが徹底している。

 

「話は袁紹についてかしら?」

「そうだ。あんな奴を一番上に置いたらやばいことになるぞ」

 

 俺の経験上まず間違いなく大変なことになる。例えば文化祭の時……うっ、頭が。

 

「今はあの対応で良いわ」

「無能な味方は有能な敵より怖いもんだ。しかもそれが上の人間ならなおさらな」

「その通りね」

「分かってんなら……まさか無いとは思うが、袁紹があれで実は有能だったりするのか」

「もしそれを本気で聞いているのなら貴方の目はくも、いえ腐っているわ」

 

 言い直さなくて良いから。

 馬鹿をリーダーにするリスクが分かっていて、さらに袁紹が馬鹿なのも分かっているのにそれを止めない。そんな非合理的な選択を華琳がするなんて不自然過ぎる。何か理由があるのだろう。

 

「待てよ、今はあの対応で良い。今は?」

 

 俺の呟きに華琳が頷いた。

 

「あの時麗羽を強く否定した場合、短絡的な麗羽は董卓より先にこちらへ牙をむくわ」

「董卓討伐の為に集まったばかりでそれは」

「無いと言い切れるかしら。少なくとも貴方より麗羽と付き合いの長い私が断言してあげる。あの()に我慢や思慮なんてものを期待しては駄目よ」

 

 それはいくらなんでも無いんじゃないかという俺の予想を、華琳はバッサリ切り捨てた。マジでそこまでヤバい奴なのか?

 引き気味の俺に華琳はさらなる追い打ちをかける。

 

「現状でそれは私達にとって最悪の流れよ。麗羽に足りないのは本人のおつむだけで、他は全て持っているわ。名門袁家の資金力、治める領地の国力、親交のある有力者の数、どれをとっても私達を上回っているのよ」

「それで【今は】か」

「そう。数の面で互角とまでいかなくても勝負になる位まで差を詰めれば、質で勝っているからどうとでもなるわ」

 

 袁紹の奴はあんなにアホっぽいのに、陣営としてはそこまでの力があるとはな。有力者なのは知っていたが予想以上の勢力だ。

 

「あと董卓を倒してしまえば麗羽がこの国で一番の有力者になる。そうなればあの娘の性格上拡大戦略を始めるはず。つまり私達とも戦うことになるわ」

 

 そして華琳の性格上黙って従うわけもないし、大人しくやられるタマでもない。それに俺もあの袁紹の部下にはなりたくないし、かといって死にたくもない。戦いは不可避だ。

 

「この董卓討伐中にも麗羽との差を詰める必要があるわ」

「ああ」

 

 袁紹本人が来ているのだし俺達の方へ侵攻するにしても準備期間はある。董卓討伐直後にそのまま侵攻開始という訳ではないだろう。しかし悠長に構えていられる余裕は無さそうだ。

 まいったな。袁紹がリーダーになるのを止めなかった華琳の意図は理解した。それは良かったのだが、問題は俺が思っていたよりさらに深刻なものだった。




おまけ1

 麗羽は激怒した。必ず、自分より権力を持った董卓を除かなければならぬと決意した。麗羽には政治がわからぬ。麗羽は名家のボンボンである。実務は部下に任せて遊んで暮らしてきた。けれど自分より成功している者には、人一倍敏感であった。

おまけ2

八幡「はあ…馬での長時間運動はしんどいな」
??「それなら俺に任せろ!!」
八幡「なっ! この声は材木座!?」振り向き

黒塗りのGT-Rデーーーン

??「さあ乗れ!!」
八幡「く、車? それとアンタ誰?」
??「リアサイドについてるRのバッジは不敗神話のRだ!」
八幡「それフラグぅぅぅう!!!」




読んでいただきありがとうございます。ポプテピピックの4話好き。

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