やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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第51話

 劉備達が偵察から帰ってきたところで、再び前回と同じ面子で軍議が開かれることになった。劉備達が持ち帰った情報を基に、自己紹介がメインだった前回とは違い、より具体的な作戦会議になるはずだったのだが……。

 

「りゅう、りゅうき、りゅ、あー劉備さんだったわね。汜水関はそのまま攻め落としておいて下さいまし」

「えっえええ!!? む、無理ですよ。私達の人数で攻め落とすなんて!」

「汜水関に董卓はいないのでしょう? わたくし前座の相手なんてしていられませんわ」

 

 袁紹のとんでもない言葉に悲鳴を上げる劉備の図。

 袁紹の言い分は下らない戯言なのだが、彼女の勢力が現在この場において最有力であるため事態を厄介にしている。ぶっちゃけ止める人間がいない。

 袁術と馬超は巻き込まれてはかなわないと我関せずの姿勢をとっている。公孫賛は取りなそうとしているが、勢力としては力不足のようで袁紹には鼻であしらわれているし、話術でどうにかするスキルも無さそうだ。

 俺はこちらに来てからずっと華琳達と仕事をしてきた。彼女達は良く言えば個性派、悪く言えばおかしな所を抱えている。春蘭と夏蘭は筋肉バカだし、荀彧は……言わずもがなである。それでも得意分野があり、それらに関しては驚異的な実力を持っている。そんな彼女達が華琳を中心に協力して堅固な組織を形作っている。

 俺はどこかで思い込んでいた。三国志に出てくる武将や君主と同じ名を持つ他の陣営の連中も、個性的だが優秀なんだろうと。まあ、そんな幻想は上条さんの右手なんてなくても簡単にブチ壊されたわけだ。

 今までの状況を見る限り、董卓討伐後にみんな仲良く清く正しい施政を行いましょう、なんて展開はまず期待できない。所謂乱世がこの後には待っているわけだ。そして、それを治められるのは華琳くらいしか俺には思いつかない。目の前のこいつらに任せられるか?

 さて、肝心の華琳はというと劉備に熱視線を向けていた。ええ、そういう趣味───────でしたね。そういえば。しかし今回に限ってはソッチの趣味で見ている訳ではないっぽい。この苦境を劉備がどう乗り越えるのか、お手並み拝見という期待の視線のようだ。

 今の劉備は三国志を知る俺と違って、まだ華琳が意識する根拠はないはずだが、何か惹かれるものでもあるのだろうか。まあ華琳期待の劉備の手腕が発揮されるのは、今回お預けになる。ここからは俺が介入するつもりだからだ。

 この前の華琳との話で、董卓討伐後に袁紹がこちらに牙を剥くのはほぼ確定であると結論が出ている。よって袁紹の兵力は削っておきたい。それと劉備達には恩を出来るだけ売っておきたい。三国志を知る俺からすると、将来価値が上がるのが分かっている相手だから今のうちにやっておけばお得である。この二つを同時に叶える一石二鳥の良い手がある。

 単純に言えば汜水関攻略は袁紹に主力として頑張ってもらう。もちろん袁紹自身の意思、でだ。

 やり方は簡単。袁紹は厄介な存在ではあるが、それと同時に分かりやすい奴なので対処法には自信がある。こういう自分大好きで自らを過大評価している奴に、ああしろ、こうしろと言っても反発される。だから逆にその過剰な自意識を刺激するのが有効である。

 俺は小さな、しかし袁紹に聞こえるように独り言を呟く。

 

「栄えある討伐軍の先陣は劉備のところか」

 

 劉備にしつこく汜水関の戦いを押し付けようとしていた袁紹が一瞬止まり、俺の独り言が聞こえていないかのようにすぐ再開させた。当然、聞こえているし気になっている反応だ。

 今までの言動と派手な金ぴか装備から見て、袁紹が目立ちたがり屋なのは確定的明らか。ほらほら、栄えあるとか先陣って言葉好きだろう? 

 

「勇猛な武将も揃っているし、名を轟かせることになりそうだなー」

 

 俺が更に独り言を続ける。それに袁紹が明らかにピクピクっと反応を見せた。袁紹は少しの間沈黙し、足りない頭で考えを巡らせているようだ。

 羞恥心や思考力のある人間なら、俺の独り言のような内容を聞いてもその場で手のひら返しなんてしない。他の奴も聞いているだろうに、あからさまにそんな事をしたら手柄欲しさに言葉を翻したと思われるからな。しかし、自分以外の奴が目立って、名声を上げるなんてお前に耐えられないだろう? 

 

「……まあ劉備さんが、どーーーしても無理とおっしゃるのでしたら、戦いそのものはわたくしの軍が受け持ちますわ」

 

 釣れたな。

 これでもかって位に袁紹は恩着せがましい。しかし劉備はそれを不快に思うより、ホッとしているようだ。だが甘いぞ劉備。華琳が心の底から面倒くさい相手だと評価した袁紹が、このまますんなりいくわけがない。

 

「では、劉備さんには汜水関から相手の兵を誘き出す役をやってもらいますわ」

「えっ」

「攻城戦なんて泥臭いこと、わたくしには似合いませんから」

「いや、でも」

「そ・れ・と、あくまで戦いの主役はこのわたくしです。あなたは誘き出すだけでしてよ」

 

 無理難題のレベルは下がったが、無茶な話であるのは変わらない。うちの軍も賊相手に砦や陣地から誘き出す、という手は使ったことがあるが、今度の相手はその辺の野盗やごろつきとは違うので簡単ではないはずだ。

 劉備は目に見えて困っているが、これ以上の手助けは俺にも厳しい。俺の方が袁紹に目を付けられる事になるのは避けたいし、下手をすれば華琳達に迷惑をかける可能性もある。後はそちらで何とかしてくれ。あの無敵軍師孔明もいるし何とかなるだろ。ちょっと小っちゃくなったうえ、女の子になってるけど。

 その諸葛亮孔明の様子を窺うつもりで劉備の後ろに控えている少女へ視線を移動させると、何故か目が合った。諸葛亮は小さなその身をビクリと震わせ一拍置いて、こちらへ小さく頷いた。どういう意味か正確には分からんが、とりあえず俺も頷いておいた。多分、もう大丈夫です。後はこちらで何とかしますってことだろう。

 目と目で通じ合っちゃったな。中学時代の俺ならすぐ告白している所だった。そして次の日からあだ名がロリヶ谷になってたはずだ。いや、その呼び方だとまるで俺がロリみたいじゃないか。じゃあセーフだな。事案的には、絵面的にはアウトかもしれんが。

 

「……桃香様、誘き出す算段ならあります」

「ホントッ!?」

「はい」

「問題無いようなので、後はそちらにお任せしますわ」

 

 困惑しきりの劉備を諸葛亮がフォローした。算段あるんだ!? さすが孔明。

 袁紹は自分の思惑通りに話が進むと分かると劉備達への興味を失ったようで、さっさと場を終わらせるつもりのようだ。側に控えていた顔良を呼び寄せた。

 

「斗詩さん、大事な所はもう決まったので、後の細かい事は詰めて置いてくださいまし」

「はっ、はあ……じゃあ後はこちらで」

 

 袁紹はその場を顔良に任せて立ち去ってしまった。まさにフリーダム。ただ顔良を含め袁術以外の全員が、袁紹の退場によって話がまとまり易くなったと喜んでいるのは内緒である。

 そういえば高校時代の文化祭でえらい目にあった時、雪ノ下姉が言っていたな。集団を団結させる存在は敵であると。今まさに俺達は袁紹という敵を得てだん……ん? そもそも董卓という敵を倒す為に集まっているのにイマイチ団結出来てない時点で駄目じゃねえか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 その時の諸葛亮孔明こと朱里はハラハラしながら劉備を見ていた。袁紹の言う劉備陣営単独での汜水関攻略は、兵力的に不可能である。しかし、そんな弱小陣営である自分達が袁紹の要求を正面から否定するのは後が怖い。

 

「栄えある討伐軍の先陣は劉備のところか」

 

 男性の呟きが聞こえてきた。ご主人様の声ではない、この場にたった二人しかいない男性のうちの一人。ご主人様と対をなすもう一人の御使いである比企谷さんのものだった。

 その呟きは小さな声だったのに不思議と良く通った。一瞬天幕内の喧騒が息を止めた。そして場の流れが変わった。

 桃香様に無理矢理先陣を押し付けようとしていた袁紹さんの勢いが急に止まった。そこへさらに比企谷さんの声が続く。

 

「勇猛な武将も揃っているし、名を轟かせることになりそうだなー」

 

 今度こそ完全に袁紹さんは止まり、

 

「……まあ劉備さんが、どーーーしても無理とおっしゃるのでしたら、戦いそのものはわたくしの軍が受け持ちますわ」

 

 方針を大きく転換させた。

 

「では、劉備さんには汜水関から相手の兵を誘き出す役をやってもらいますわ」

「えっ」

「攻城戦なんて泥臭いこと、わたくしには似合いませんから」

「いや、でも」

「そ・れ・と、あくまで戦いの主役はこのわたくしです。あなたは誘き出すだけでしてよ」

 

 袁紹さんの言い分は相変わらず我儘放題だが、要求の難度は大分下がった。比企谷さんの呟きによって出来たこの流れ。これは彼に助け舟を出されたのだろうか。

 比企谷さんの方を見ると、ばっちり目が合ってしまった。こっちを見てた!? 比企谷さんは無表情でもう何かを言うつもりも無いようで、口を真一文字に閉じている。これは……お膳立てはしてやった。これ以上は手は出さない。後はお手並み拝見といこうか。そんな彼の意思表示なのではないか。

 私が恐る恐る頷いて見せると、彼も頷き返してきた。やはりそういう事だったのですね。あの厳しい状況を一言、二言呟くだけで打開してしまった比企谷さんの驚異的な手腕。ここから先くらいは私の策で対応しなければ、彼の所属する曹操さんの大陣営に取り込まれてしまう恐れがある。いや、あの陣営の影響力は既に私達の陣営に浸透し始めている。

 ただ幸いな事に汜水関から敵を誘き出す目途はたっている。偵察で分かった相手武将華雄は、非常に直情径行な武将なのだ。誘き出す自信はある。

 

「……桃香様、誘き出す算段ならあります」

「ホントッ!?」

「はい」

「問題無いようなので、後はそちらにお任せしますわ」

 

 私の言葉を聞き、無邪気に喜ぶ桃香様。その場を立ち去る袁紹さん。残った人達で具体的な作戦を詰めていく作業が進んでいく。しかし、この中に話の流れを誘導した比企谷さんの恐るべき手腕を理解している人間が何人いるだろう。策略というものは本来多くの下準備によって成立する。それなのに、あんな何気ない呟きでこの討伐軍の作戦要点を変更出来てしまう能力が、どれほど驚異なのか分かっていれば平気な顔でいられるわけがない。




おまけ

朱里視点

比企谷さんがした袁紹さんの誘導…
これは…これは最善の一手ではない
最強の一手でもない…
私がどう打ってくるか試している一手だ!
私の力量を計っている…!
遥かな高みから


当時は(陣営が)小さく(曹操さん陣営の)協力が必要でした。たった一度(嘘)の借りであり二度と同じことはしません


読んでいただきありがとうございます。
本当は日曜日に上げたかったんですがモンハ…ごほっごほっ色々あって遅くなりました。ごめんね。




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