やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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あらすじ
汜水関を攻略した董卓討伐連合の次なる目標は虎牢関だった。虎牢関攻略が八幡達、華琳陣営の主導となる中、八幡は華琳から呂布の調略を頼まれてしまう。


呂布その1

 

 

 

  虎牢関、関とは名ばかりで実際には城塞や要塞といった方が正確な堅牢な城壁を誇る。今の俺と冬蘭は虎豹騎を率いて華琳達本隊の左翼にいる。俺達はその城壁を遠目で確認出来る距離で進軍を一時止めた。遠目なので正確には分からないが、俺がかつて通った総武高校の校舎より高く見える。

 

「デカいな」

「この辺りは昔からの要所ですから」

 

 隣にいた冬蘭が至極当然と答えた。

 要所なのだから防衛の備えは万全だろう。あの城壁が張り子の虎だったらなあ。そうだったら嬉しいんだが、ありえない話だな。

 

「なあ、外から呼びかけるだけで呂布が降伏してくれると思うか?」

「八幡さんの巧みな話術でなんとかなるでしょう」

「ええ……」

 

 本当に巧みな話術なんて持っていたら、俺の人生はもうちょっとマシなものになっていたと思うぞ。こんなこといいな。出来たらいいな。ド〇えもーん、無茶振りが酷くてどうにもならないよー。それに話術うんぬんより大きな問題がある。

 

「そもそも話を聞いてくれるのかってことだよ」

「相手は天下無双の呂布と堅固な虎牢関の組み合わせなので防衛に自信を持っていることでしょう。ですから、現状ではこちらと交渉する理由はないですね」

「話術無意味じゃねえか」

 

 俺のツッコミに冬蘭は「ふふっ、そうですね~」とのん気に微笑んでいる。何一つ面白いことなどないんだが、もしかして立ちはだかる障害は高ければ高いほど、大きければ大きいほど良いなんて言う特殊性癖の持ち主なの? ひくわー冬蘭さん、ひくわー。

 俺は大きな溜息を吐き出す。

 

「やっぱりまずは攻城戦からか。……出てきてくれねえかな」

「天の御使いの力でこう、ババッと城門を開けたり出来ないんですか?」

「開けゴマってか?」

 

 冗談めかして幼い頃に読んだおとぎ話の呪文を唱えてみせた。しかしおとぎ話とは違い、門が開いても中に存在するのは、財宝じゃなくて最強と名高い敵というところが悲しい現実だ。あのおとぎ話、アリババと四十人の盗賊を読んだ時、子供ながらにそんな美味い話があるかよと思ったのは俺が可愛げのないガキだったからだろうか。

 呪文を聞いた冬蘭が不思議そうな表情で首を傾げた。

 

「胡麻? あの小さい種の胡麻ですか?」

 

 開けゴマのゴマが何なのかなんて気にしたことも無かった。事実は分からないし、気の利いた返しも思いつかなかったので正直に知らないと言おうとした俺だったが、冬蘭はそれ以上深く聞いてこなかった。

 冬蘭はそれどころではない様子で前方を指差す。

 

「城門が開いて……ますよ」

「えっ、うそだろ」

 

 冬蘭の指す先で虎牢関の城門が開いており、遠すぎて豆粒みたいにしか見えない敵が出てきている。

 

「「え?」」

 

 嘘から出たまことに驚く俺とそれに驚く冬蘭の声が重なる。

 

「自分でやっておいて、なんで驚いているんですか!?」

「いや何もやってないから!?」

 

 俺にそんな便利な能力があると思ってんの? あるわけないから。

 状況が分からず、とりあえず出てきた敵を観察する。

 

「相手は何で出てきたんだ」

 

 わけがわからないよ。と、ある魔法少女アニメのマスコットのごとく困惑するしかない俺。それに比べて、魔女堕ちしたらマジでやべーやつになりそうな冬蘭は何か分かったようだ。

 

「あの旗印は……華雄軍です、ね」

「関羽に負けはしたけど生きてたんだな」

「こちらは春蘭姉様が対応するみたいです」

 

 虎牢関から出て来た敵軍と同数くらいに見える味方が本隊から突出した。あれが春蘭の部隊だろう。

 

「なんで春蘭のやつは先走ってんだ? 汜水関の時と違って出て来た敵は数が少ないし、本隊の弓矢の一斉射で終わるだろ」

「うわぁ。八幡さん、それは八幡過ぎて駄目です」

 

 何やってんだよ、と呆れる俺だったが、逆に冬蘭は俺にドン引きしていた。

 八幡過ぎるって何なの。うちの陣営では八幡が何かの隠語なの? 地味に傷つくし恥ずかしいから止めて欲しい。

 

「良く見てください、八幡さん。相手はこちらに比べ少数、さらに将の華雄さん自らが先陣を切ろうとしてます。これに付き合わず離れた所から弓矢でなぶり殺した場合、対抗出来る将がいなくて近付かれるのを恐れた、なんて言われるかもしれません」

 

 め、めんどくせえ。しかも冬蘭の話はまだ続いている。

 

「虎は死して皮を留め、人は死して名を残すと言います。全ての場面で相手に付き合う必要はありませんが、勝ち方にも優劣があるのを覚えておいてください」

 

 ゲームのクリアリザルトのS判定とA判定みたいな違いか。言いたい事は分かるが。

 

「状況によるな。危険が少ないならそれで良いけど、俺が指揮している場合ちょっとでもヤバそうならより確実な手を使うぞ」

「それはっ」

「今回みたいに華雄の相手が出来る春蘭がいるなら良いが、俺と普通の部隊の組み合わせだった場合、正面からぶつからなければいけないなんて不公平だろ?」

「不公平、ですか?」

「どうせ華雄は力自慢の武将だろ? 俺みたいな貧弱な文官に正面から殴り合えって、それもうイジメだから。恥ずかしくないのひ弱な文官イジメて楽しいの?」

「うっ」

 

 熱のこもった俺の弁舌に冬蘭がたじろいだ。

 これ系の意見の違いについては、もう何度か話しているがしつこいくらいした方が良い。なにせコイツら基準だと要求されるハードルが高過ぎて普通に死ねる。考えを少しでもこちらに寄せておきたい。

 

「その理論だと文官の八幡さんが武将の私を言い負かして良い気になっているのもイジメですね。ひっど~い」

「お前は文官の仕事も出来るから当てはまらない」

 

 起死回生の反論を思いついたと冬蘭が俺の言葉を逆手にとってきた。しかし詭弁を扱わせたら俺の右に出る者はいないぞ。

 俺達が話をしている間に虎牢関の城門から更なる敵が出て来る。

 

「おいおい、敵はどういうつもりなんだよ? 籠城した方が有利だろ」

「策というより華雄の突撃に釣られたか、もしくは華雄を連れ戻すつもりじゃないですか」

 

 言っている冬蘭自身半信半疑な様子だったが、それ以外の可能性はあるだろうか。どうせ俺達は城壁に近づくのだから誘き寄せる為のエサではない。勝負を早くつけたいから打って出たとか。うーん、いくら考えてもしっくり来ない。

 

「いくら考えたところで想像の域は出ないな」

「そうですけど……あっ春蘭姉様が華雄の部隊を蹴散らしましたよ」

「早いな、おい」

「単純な力勝負なら春蘭姉様に勝てる者なんて、そうはいませんから」

 

 後でその滅多にいない化け物を相手にしなくてはいけない予定であるという絶望。呂布がすぐ話を聞いてくれたら良いんだが、少し話した事があるだけの相手なので全く見込みは無い。

 

「後から出て来た敵ですけど、呂布と張遼の旗がありますよ!」

 

 冬蘭が驚きとともに本命の登場に色めき立つ。俺はと言えば三国志では最強キャラでお馴染みの呂布を説得しなければならないという難題に気分が急降下中である。

 

「はあ、向こうから出て来てくれるなんて好都合だな」

「言っている内容と表情が合ってませんよ。凄く嫌そうな顔なんですが」

「そんなことねーよ。ハピハピハッピーだ」

 

 何言ってんだコイツ、と冬蘭が思ってそうだが珍しいことではないので放置する。

 呂布を説得する糸口が今のところ思いつかない。おいしい料理でみんなハピハピハッピーってならねえかな。呂布の頭が春蘭並だったらワンチャンあるんだが。いや春蘭並だったら話を切り出す前に俺の体が輪切りになりそうだから駄目だわ。

 

「一応色々用意はしてるんだが、アレで何とかなればなあ」

「もっと自信をこもった言葉が聞きたいんですけどね」

 

 注文の多い冬蘭である。俺はそのうち食べられるかもしれない。クリームや酢を塗らされたらいよいよ危ないから気を付けよう。

 

「もう良いです。私は先に周りを片付けてきます」

 

 冬蘭が右手を上げると部下が馬を引いてきた。冬蘭がその馬に騎乗し虎豹騎の半分を率いて前進する。

 その冬蘭に先行するのが春蘭だった。華雄を蹴散らした春蘭の部隊に本隊から秋蘭の部隊が加わり、そのまま呂布と張遼の軍を攻撃しに行く。彼女達の役割は張遼から軍を引き剥がし、春蘭が一騎討ちで屈服させることにある。

 呂布担当の俺達が虎豹騎だけでは寡兵過ぎるように見えるが、呂布は元々引き剥がすべき兵がいないのだ。普通将軍である呂布を守るように兵が周囲を固める、もしくはすぐ後ろについていくものだが、呂布はあまりにも強すぎて一緒に動けないらしい。黄巾党相手にも呂布は一人で数万の敵を討伐したというのだから、自分以外は全て足手まといなのだろう。馬すら必要無いとの判断なのか呂布は徒歩(かち)である。

 それでも呂布が壊滅させた後の弱った敵狙いの兵や戦場の混乱で意図せずこちらへ近づいてくる兵もいるかもしれない。それらへの対応を冬蘭が担当する。

 春蘭達の部隊と敵が近づく。正面から衝突するかに見えた両者だったが、春蘭達は寸前で右へ少し進路をズラした。おそらく呂布とまともに戦うのを避ける為だろう。敵の左翼を削りながら走り抜けてから反転し、背後や横っ腹を狙う姿勢を見せた。

 対する敵も部隊の大半が向きを変え、春蘭達に対応しようとした。例外はただ一人、呂布がこちらの本隊を目指して一騎駆けをしてきている。

 

「どこの真・三〇無双だよ」

 

 大勢の敵を蹴散らすのが爽快なゲームだよなあ。ただし蹴散らされる側を自分がやるのは勘弁して欲しい。

 こんなこともあろうかと俺は準備をしておいた策の一つを使う事にした。李典に長槍を即席で改造してもらって出来た、柄の長い刺又を持たせた数十人の虎豹騎達が呂布へと向かう。包囲して全方向から刺又を突き出し動きを止めるのが狙いだ。

 なぜ柄が長いのか?

 近づいたら殺されるだろ。数を減らされなければ交代で戦い続ける事が出来る。最初からこの一手で決めるつもりはない。これは呂布を消耗させる一手である。

 呂布はこの前会った時とほぼ同じ格好だった。唯一違うのは槍と薙刀を組み合わせたような武器を持っているところだけである。あれは方天画戟(ほうてんがげき)というらしい。

 呂布は自分を包囲していく虎豹騎達を見ても焦ったり、闘志を燃やすような様子を見せない。表情一つ変えず足も止めない。

 虎豹騎達が包囲の輪を縮めて襲い掛かる。

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

「うげっ!?」

「ぐえええ」

「あいたたたたた」

 

 呂布が無言で体をねじりながら方天画戟を振り切ると三百六十度近寄っていた全ての虎豹騎の動きが止まった。

 呂布に対して突き出された刺又全てが半ばから折れるか斬られていた。手にした刺又がただの棒と化した虎豹騎は、迷わずそれを呂布へ向けて投げ出して距離をとった。いくら呂布でも騎兵の足には追い付けないので人的被害は怪我だけで済んだのは幸いだ。

 

「こんなこともあろうかと他にも策は用意してある」

 

 第一の策は考えていたより簡単に破られてしまったが、破られるのは想定内である。俺の用意した策はまだまだある。

 第二の策は投網だ。人間相手に投網なんて馬鹿らしい。そう思うかもしれないが四方八方から複数の網を投げつけられれば避けきれないし、絡まれば動きも鈍るはずだ。これも李典に一晩で作ってもらった。

 虎豹騎が今度は投網を持ち呂布へ挑む。先程より距離をとった包囲からの投網。呂布からは何重もの網によって全てが覆われたかのように見えただろう。

 

「これは上手く……は?」

 

 完全に投網が呂布を捕らえたかに見えたその時、信じられない光景がそこにはあった。

 呂布は体や方天画戟に絡まった網を引き千切っている。簡単に、とはいかないまでも手で引き千切るなんて、もう人間じゃないじゃん。

 虎豹騎たちはすぐに包囲を解いてこちらへ戻った。精鋭の彼らでもこちらへ向ける目に不安の影が見える。ここで俺まで狼狽えてしまえば士気は著しく落ちる。

 一度深く息を吸って吐く。この程度想定内だと落ち着きを装う。

 

「こ、こんにゃ、こんなこともあろうかと次の手を準備したある」

 

 虎豹騎達は精鋭の集まり、大事な所で噛んでしまった上司の恥ずかしい失敗も顔色一つ変えずにスルーしてくれる。

 一メートルほどの縄と粗雑な作りの袋が組み合わされた物を虎豹騎に持たせる。第三の策はトリモチを応用した道具である。袋の中にはニカワや米が原料のネバネバした何かが入っている。これも李典に一晩で作ってもらった。

 虎豹騎達はその縄の端を持ち頭上でグルグル回し、遠心力を利用して呂布に向かって投擲した。

 呂布は回避しながら体に当たりそうな物を方天画戟で切り払っている。しかし切り払ったことで袋の中身のネバネバが飛び散ってしまい、呂布の身にも少なからず付いた。その強い粘着性の影響で切り払った袋や縄の残骸が呂布に絡みつき、ついに動きを鈍らせることに成功した。




おまけ

八幡「ちょっと作って欲しい物があるんだけど、刺又っていうやつで────」
李典「まあ、単純な構造やし任せときっ!」

八幡「もう一つ用意して欲しい物があってな。投網を────」
李典「ちょい待ちい、投網なんて一から作る時間ないで」
八幡「漁師とかが使っているのを改造すれば良いんじゃないか」
李典「人間相手を想定してないから、大分手直しせんと」

八幡「実は今思いついたんだけど、トリモチって────」
李典「ファー(白目」
八幡「こう、こう、こういうヤツだから頼んだぞ」
李典「流石に時間的に無理や。」
八幡「無理というのは、嘘吐きの言葉だ。途中で止めてしまうから無理になるんだぞ」
李典「ヒェッ」


読んでいただきありがとうございます。

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