やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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あらすじ

 様々な手段を講じてついに呂布の動きを鈍らせることに成功した八幡達。作戦の目的である呂布の説得に八幡自ら動き出す……かに見えたが。


呂布その2

 呂布に絡みつくネバネバしたトリモチ。さらにトリモチが入っていた袋やそれを縛っていた縄までもが絡みつき、呂布の行動を阻害している。呂布もどうにかしようとしているが、縄や袋は取り除けてもトリモチ自体は完全にとることは出来ない。

 俺はすかさず次なる手を使う。

 

「そろそろ出番だぞ」

 

 俺が振り向き後ろで黙って待っていた関羽と張飛に声を掛けた。

 そう、こんなこともあろうかと劉備達に頼んで力を借りておいたのだ。無茶な願いだったが、劉備達には色々恩を売ってあるので何とかなった。

 三国志関係のゲームにおいて呂布の武力は大抵トップである。しかし関羽と張飛もそれに準ずる位置にいる。例えば呂布が百なら関羽と張飛は九十七と九十八みたいな感じだ。つまり何が言いたいかと言うと、力の差はほぼなくベストな状態ではない呂布相手なら時間稼ぎくらいなら問題なくこなせるのではないか。そんな計算である。実際関羽の戦うところは見たことがあって、凄まじい強さなのを知っているのも大きい。

 

「というわけで先生方、お願いいたします」

「せ、先生?」

「軍師のにいちゃん、何言ってるのか分からないのだ」

「まあまあ、手筈は事前に説明した通りで」

 

 時代劇の悪徳商人が用心棒に主人公を襲わせる時みたいなノリで言ってみたが、二人には全く通じなかった。それでも二人は首を傾げながらも呂布との戦闘に向かう。呂布相手でも臆するところはないようだ。流石の関羽と張飛である。

 呂布は体にまとわりつくトリモチをどうにかすることを諦めて前進を再開した。いくら拭っても綺麗にトリモチが取れず、表情が乏しい呂布でもウンザリしている様子が分かる。

 

「効いているのは分かるな。どうせなら戦う気を無くしてくれても良いんだぞ」

 

 もちろんそんな都合の良い展開にはならない。呂布は虎牢関へ引き返すことはなく、関羽と張飛が呂布の前に立ちはだかった。

 作戦が終盤に差し掛かっているので俺も前進し、トリモチを投げ終えた虎豹騎達と合流し、関羽達の声が聞こえるくらいの距離まで近づく。

 

 

◇◇◇

 

 

 関羽達は天下無双と名高い呂布を前に闘志を漲らせていた。二人はそれぞれ愛用の武器、関羽は青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)、張飛は蛇矛(だぼう)を構えて呂布に口上を告げる。

 

「我が名は関羽雲長、そちらは呂奉先殿とお見受けする。少々つきあっていただこう」

「鈴々もいるのだ!」

「……邪魔」

 

 関羽達が名乗るも呂布は興味無さそうに方天画戟を関羽へ振るう。

 関羽は青龍偃月刀でそれを受け止めた───────が、呂布が勢いよく武器を振ったせいでその身にへばり付いたトリモチの一部が飛び散り関羽の頬に付いてしまった。

 一瞬互いに動きが止まる。

 呂布の方が先に動きを再開し、方天画戟を握る手に力を込める。関羽は力負けして押し込まれそうになった。そこへ横から張飛が割って入る。張飛が蛇矛を呂布めがけて振り下ろす。しかし驚異的な反応速度で呂布は飛びのく。

 

「助かるっ! 鈴々、相手は想像以上だぞ」

「うん、一騎討ちでやってみたかったけど軍師のにいちゃんの言う通りにした方が良さそうなのだ」

 

 たった一瞬の攻防で関羽と張飛は、眼前の敵が格上だと認識した。そして事前に八幡から受けた指示の正しさを認めた。

 八幡の指示というのは単純なものだった。無理に勝負を決めに行こうとせず、時間を稼いで欲しい。ただそれだけだ。武人としての自負がある関羽達からすれば、あまり気持ちよく頷ける指示ではない。二人は内心可能であるなら呂布を倒すことも視野に入れていたが、それがあまりに楽観的な考えだったと今痛感した。

 関羽達は慎重に呂布を挟むよう移動する。呂布がどちらかを攻撃すれば、もう片方がその隙を突く。これならば呂布も不用意に仕掛けられず、時間を稼げるはずだ。

 呂布はそんな関羽達の思惑など歯牙にもかけず、躊躇いなく張飛の間合いに踏み込むと同時に方天画戟を振る。

 

「面倒。のけ」

 

 最初から倒されないことに専念していたおかげで張飛は蛇矛(だぼう)で方天画戟をかろうじて受け止められた。それでも呂布が関係ないとばかりに方天画戟を振りぬけば、張飛の体はよろめいてしまう。

 

「ち、力負けっ!?」

 

 小柄ながらも劉備軍随一の力自慢である張飛は驚きをあらわにする。慌てて関羽が呂布を攻撃しようとした。

 呂布は方天画戟を振り切った状態で隙だらけに見えたが、刃とは逆にある柄の先端(石突き)を関羽へ突き出すことで素早く対応して見せた。

 関羽は呂布を攻撃しようと振り上げた青龍偃月刀の行き先を、呂布ではなく突き出してきた柄に変える。

 耳障りな金属同士の擦れる音が響き、呂布の攻撃は逸れた。───────が、またトリモチの一部が飛び散り関羽の髪にべちょりと付いてしまう。

 関羽と張飛はすぐさま間合いをとった。

 

「比企谷殿には借りがあるとはいえ、この相手ではいささか安請け合いだったかもしれんな」

「ご馳走一年分くらいじゃないと割に合わないのだ」

「それにあのトリモチ? とやらは何とかならんのか」

 

 想像を遥かに上回る呂布の実力、そのうえ呂布はトリモチ塗れなので闘っていると飛び散ってくる。呂布にとってトリモチが邪魔になっているのは確かなので、無かった方が良かったとは思わない。だが自分の髪や頬に飛び散ったネバネバに関羽はウンザリもしていた。

 それでも関羽と張飛は愚痴をこぼしつつも気を一層引き締めた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 関羽達と呂布の闘いが始まり、しばらく一進一退の状況が続く。関羽と張飛を同時に相手して互角なんて規格外の強さだ。こちらへ来てから戦術などについては華琳達に学ばされた俺だが、戦闘技術に関しては素人なのでその程度の感想しか思い浮かばない。剣や弓を少し触れた程度なので彼女達の闘いを見ても分かることは少ない。

 一時的に蚊帳の外状態だった俺のもとへ伝令の兵がやって来た。虎牢関から打って出た敵軍の制圧がほぼ完了したのと、張遼がこちらの軍門に下った(くだ)という内容だった。これによって作戦は最終段階へ移る。

 呂布を刺激しないようにゆっくり近付いて行く。近付くといっても軽く十メートル以上離れているが。

 いやだって怖いし。

 

「おーい」

「ん? ……君は」

「前に曹操の所で会ったな」

「邪魔するなら君も斬る」

「ま、まあ、ちょっと待ってくれ。話があるんだ」

 

 呂布の喋り方は抑揚の少なくおっとりした印象を受けそうになるが、中身はこの危険な世界に相応しいものだった。それでもなんとか落ち着かせようとする俺の言葉に、一応攻撃は止めてくれている。たったこれだけのやり取りで、緊張から精神がゴリゴリ削れた。今も俺と呂布の間に関羽達がいてくれるおかげでギリギリ平静を装えているだけだ。

 その関羽が呂布への警戒からこちらに振り向かず、それも呂布に聞かれないように小声で話しかけて来た。

 

「勧誘するのでしょう? 成功させてください。我々はもう限界に近いです」

「えっ……上手く抑えてただろ」

「恥ずかしながら攻撃を逸らすだけで精一杯です」

 

 一気にプレッシャーが増した。自分でも脈拍が早くなっているのが分かる。心臓が暴れているようで、表情を取り繕えているのか自信が無い。とはいえ、このまま黙っていても事態は好転しない。緊張を飲み下すように唾を飲み込む。意を決して呂布に対して本題を切り出す。

 

「一緒に来ないか?」

 

 意を決したつもりでも、ハッキリとした言葉は躊躇ってしまって使えなかった。結果、主語の無い良く分からないセリフになってしまった。この場合董卓を裏切れとか、こちらの軍門に下れといったセリフが定番なのだろう。しかしどうにも口にしづらい。ちょっと遊びに行く誘いすら妹以外にはしたことが無いのに、こんな重要なお誘い俺には荷が重いぞ。怖いしね。

 

「どこに行くの?」

 

 あ、はい。ごもっともな疑問ですね。なんのことだか分らなかったですよね。

 

「いや、その、こっち側に、な。付かないか?」

 

 自分で言っていて全然ダメなのが分かる。いまだかつてこんなに酷い勧誘があっただろうか。いやない。普通であれば既に失敗確定だと思うが、何故か呂布は真剣に考え込んでいる。速攻で断られるよりは良い。しかし返事を待つこの時間がたまらなくキツい。

 呂布が口を開く。

 

「なんで?」

 

 呂布相手に質問を質問で返すなあーと言う蛮勇を俺は持ち合わせていない。平穏を愛する俺は波風を立てることを好まないので、当然呂布の質問に嫌な顔一つせずに答える。ビビッてるわけじゃないんだからね。

 

「戦いの勝敗はもう決まったも同然だからこれ以上やる必要ないんじゃないかなーって」

 

 視線を逸らしつつ言った俺の言葉に、呂布は理解出来ないといった顔をする。

 

「この二人では(れん)には勝てない」

 

 まあ、関羽も自分で限界が近いと言っていたし、それが事実なんだろう。ただそれでも勝負は俺達が勝つ。

 それにしても呂布は軽々しく一人称に真名を使うのは止めて欲しい。これは張飛にも言えるが、相手を良く知らなければ普通の名前と勘違いしてしまう。許可無く呼んではいけない真名をそんな風に使うなんて思わないぞ。

 心の中で愚痴り、口は別の言葉を伝える。

 

「関羽達だけなら、な」

 

 関羽の体がピクッと動いた気がする。というか後ろ姿しか見えないのだが明らかに不機嫌そうな雰囲気を感じる。ついさっき「攻撃を逸らすだけで精一杯」と自分で言ったばかりだが、改めて人に言われると武人のプライドが刺激されるようだ。頼むから抑えてくれ。そっちにまで気を遣う余裕は無いぞ。

 

「君や変な物を投げて来た騎兵がいても大して変わらない」

「俺を数に入れるな。大して変わらないどころか、全く変わらない自信がある」

 

 俺の自虐には誰も反応を示さなかった。このピリピリした緊張感を少し和らげたい俺の意図は無駄に終わった。こんな下らない戯言でも華琳達なら拾ってくれるだろうに。

 

「伝令が来て張遼がこちらへ下ったと」

 

 同僚の将がこちらに付いたと聞いても呂布の表情に変化は見られない。しかし少し思案しているようにも感じる。その証拠に呂布は俺の話を遮らず続きを待っている。

 

「それに軍自体もほとんど制圧している。もう一人でどうにかなる状況じゃない」

「それでも恋は負けない」

 

 呂布は強がるでもなく単なる事実を言っている様子だ。俺は絶望的な状況を突き付けたはずだが、呂布にとっては大した脅威ではないのだろうか。例えそうだとしても、まだ言葉は尽きていない。

 

「何人兵士がいてもアンタを倒すことは出来ないかもしれない。でもな、アンタも俺達に勝てないぞ」

 

 この()なら本当に倒せないかもしれない。それは認めよう。だが俺の目的は倒すことじゃない。こちらに引き入れることが俺の今回の仕事だ。その為に勝利を諦めさせたうえ、董卓に仕える理由を華琳に仕える理由に上書きしなくてはいけない。

 

「アンタが強いのはもう十二分に分かった。だからもうまともに闘わない。さっきまでみたいに離れた所から物を投げつけるだけで、アンタが近づいたらすぐに逃げる──────で、また物を投げる。その繰り返しを延々と続けるぞ」

「うっとうしい」

「しかも、今ここにいる兵以外にも万単位で兵がいる。交代でやれば本当にずっと続けられる。飯を食う隙も寝る時間も与えないぞ」

 

 流石の呂布でもこれを切り抜けるのは難しいだろう。これが横山三国志なら呂布の戦闘力と赤兎馬の機動力で包囲をぶち抜き、追撃を振り切れるかもしれない。しかし、幸いなことに目の前の呂布は赤兎馬に乗っていない。

 

「厳しい状況なのは分かっただろう? なあ、こんな状況でも董卓に義理立てする程の理由が何かあるか?」 

「ん、ご飯」

「一宿一飯の恩とかそんなヤツなのか? 良く分からん」

「家族、多いからご飯いっぱいいる」

 

 大家族か、それなら仕方な……なくねーよ。無双ゲーから飛び出してきたようなこの超人が、家族を養う為に董卓に仕えている? アホか、普通に報酬貰っていれば軍団規模で養えるわ。なんなら俺一人くらい混ざっても問題ないだろ。

 あ、この前会った時の「うち、来る?」ってお誘いはそういう意味? お、お、俺はもしかして、かつてあれほど夢見ていた誰かに養ってもらうチャンスを逃してしまった、のかaおあうjkそそふkソウkそう。

 いや待て落ち着こう。ああいう風に良く知りもしない男をガンガン誘って集めているのなら、それそれでドン引きだぞ。

 

「い、一応聞いとくけど、家族って何人くらいだ?」

「……百、くらい?」

 

 ま、マジか。百人ってガチビッチじゃねーか。人は見かけによらないとは言うが、コミュ障っぽいこの娘がそんな私生活を送っているとは予想外でショックが大きい。だが風紀的にはちょっと心配な面があるが、それに目を瞑れば百人分の食費で呂布が雇えるのは破格の安さだ。華琳なら十倍払っても雇いたがるはずだ。これで交渉は楽になった。しかしこれを朗報と言えるのだろうか。

 複雑な気分で頭をかく。

 

「あー、うちなら百人分なんてケチなこと言わないぞ」

「百人じゃない」

「実はもっと多かったとか?」

「人は恋とねねだけ」

「ほ、他は?」

「いろいろ」

 

 もう訳が分からん。頭が痛くなりそうだ。

 

「色々ってのは何なんだ?」

「いろいろはいろいろ。犬や猫や馬や熊やパンダとか」

「お、おう」

 

 動物かよ。なんか混じっていたらおかしい動物がいたような気がするんだが、この際気にしない。それより呂布のビッチ疑惑が晴れたのが大きい。【ねね】というのも響きから多分女だろう。これで懸念材料は無くなったし、勧誘もしやすくなった。

 

「それだと住む場所も広い方が良いだろ? 金や食料はもちろん十二分に用意するが、土地も相当広いものを提供出来るぞ」

 

 なにせ大都会千葉、大事なことなので二回言うが大都会である千葉と違ってこっちはとにかく土地に余裕がある。それに俺は街の再開発の責任者だった流れで土地の管理まで任せられている為、融通はかなり効く。なんだったら張三姉妹アイドル化計画で街外れに作った舞台や事務所の近くにも空き地はある。あの辺りも誠に遺憾ながら俺の管轄だ。いつの間にか仕事が増えているのは何でだろうな。涙が出ちゃう。だって社畜も人間だもの。

 

「どうだ。良い話だろ?」

「……分かった」

 

 呂布が少し考えただけであっさり頷いたので逆に心配になる。

 

「簡単に決めてしまって良かったのか?」

「恋が勝てないならもう出来ることは無い。(しあ)もいないなら、もう手はない」

 

 死守とか玉砕といった選択は元々呂布の頭に無いようだ。まあ能力に対して報酬が安いし、軽い主従関係だったのだろう。

 それにしても【しあ】って誰だよ。これも真名だよな。ホント不便な風習だな。というか呂布が平気で真名ばっかり使っているのが問題なんだよ。

 

「まあ、とにかくこれからよろしく」

「ん……名前」

「俺のか? 俺は比企谷」

「恋は恋」

 

 なんか哲学的。

 

「それって真名だよな? 知り合ったばかりで──「恋で良い」あっ、はい」

 

 距離感を考えて真名ではない名の方を使おうと提案しようとしたが、恋の一言であっさり手の平を返す。どういうヤツなのかまだ良く分かっていないから嫌とは言い辛い。もしこちらの意見を通そうとして機嫌を損ねて前言撤回されても困る。

 真名の風習的に相手から教えてもらったら、こちらも言うべきなんだよな。少なくとも友好関係を結んでいくつもりなら。

 

「じゃ、じゃあ俺もひゃ、は、八幡で良いぞ」

 

 噛みました。




おまけ

呂布勧誘成功後、劉備軍に帰った関羽達(愛紗&鈴々)を見た二人の軍師。

朱里「はわわ、信じて送り出した愛紗さんが」
雛里「あわわ、白くてネバネバした何かを顔や髪に付けて帰ってきました」
朱里「あ、愛紗さん、だ、大丈夫ですか?」
愛紗「危ういところはあったが、なんとかなった」
朱里「な、なんとかなってないんじゃ……いえ愛紗さんがそう言うなら」視線逸らし
雛里「そ、そのネバネバしたのはどうしんたんでしゅ、ですか?」頬赤らめ
朱里(雛里ちゃんそれ聞いちゃう!?)
愛紗「これは呂布に付いていたのが、な」
雛里「えっ呂布さんにですか?」
愛紗「ああ、比企谷殿の策でな」
雛里「ええ……(困惑」
朱里「なにそれ怖い」


読んでいただきありがとうございました。
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